湖に刻まれた記憶 失われた叡智を求めて-生成AIと綴る物語-

Kai

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- 5 - 湖の庭園と

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――――研究所 早朝


朝六時。
空はまだ夜の名残を残している。


深い群青と藤色が空の上層に広がり、まるで夜と朝が静かに境界線を探り始める。



空が紫から朝焼けに染まりだすの時間帯。



東の地平線のあたりが、ほのかに赤みを帯びはじめていた。
最初はごくかすかな朱。



それが徐々に橙へと変わり、まるで誰かが空の下から火を灯しはじめたかのように、光がじんわりと広がってゆく。



雲はまだ灰色を含んだままだが、その縁だけが金色に縁どられ、
まるで糸で刺繍をほどこしたかのようにきらめいている。



空の変化に合わせて、地上もゆっくりと目を覚ます。



うっすらと霧が立ちこめており、その霧越しに差しこむ朝焼けの光が、やわらかな橙色のヴェールのように一面を染め


遠くの木立のシルエットがくっきりと浮かび上がり、枝の間から差しこむ陽の筋が、細くまっすぐに伸びている。



風はまだ冷たく、空気には夜の静けさが少しだけ残っている。


けれどその中に、確かに"始まり"の気配があった。



そんな中、神殿を思わせるような王宮とも研究所とも少し違う空気が漂う宿舎棟の廊下に、足音が一つ響く。



サイラスは、薄い外套を羽織ったまま王子の部屋のドアを開けた。


すでにノックは済んでいた。



返事がなくとも、いつも朝早い王子が今日に限って反応がない。



「……王子?」



眉間にしわを寄せ戸惑いながらも冷静に、室内に一歩踏み入れる。



王子は机にもたれかかるようにして座っていた。


前髪が頬にかかっていて表情は見えない。




手元には、昨夜から開かれたままの書類がある。


窓から差し込む光が王子の頬に淡く光を落としていた。




「殿下、どうしましたか?大丈夫ですか?


体調が悪いようであれば、すぐにジョッシュ局長に連絡を入れますが…」




ネイトは、応えなかった。


ただ、指先で何かをなぞるように、虚空に向けてゆっくりと描いていた。



それはあの遺物の欠片に似ていたが、明らかに歪で、意味を成さなかった。




「……私は、あれを……あの"花"を、見た。確かに」




静かな声だったが、どこか焦点がずれている。




「光がなかった。


ただ、咲いていて……咲ききって、ああ、そこに誰かが、いた。


いや、あれは……"誰か"だったのか?」




「殿下、声が聞こえていますか?」




サイラスの声には、王子の日常とはあまりに違う姿に焦りが混じっていた。



彼は、即座に通信魔道具で局長へと連絡を走らせた。














「王子の状態はどうだ?」



局長は小さくをため息を吐きながら、通話に応答した。



「ええ。少し落ち着いて私を認識されました。


ただ言語にも影響が出ています。


昨日頂いた魔道具にも明らかに何かしら別の反応が出ています。


至急、こちらに対応できる者を派遣いただけますか?」




サイラスの声は、静かだが有無を言わせぬ圧がある。




「そいつは由々しき事態だな。


……よし、テオに行かせる。


保護施設にも経過観察と対応ができる状態を早急に作るように準備しておく」





「レンも一緒に移動させてもいいですか?」



「ああ、あいつも居たほうがいいだろう。

もしかしたら同じように症状が出ているかも知れないから確認の連絡を入れる。」




局長の声に珍しく翳りが混じる。



「"見る"だけじゃなく、"繋がってる"可能性が出てきた。


……となると、状況がちょっと変わってくるな。」













レンはすでに支度を終えて廊下に立っていた。


フード付きのジャケットを羽織り、左手には書類と投影機の入った箱と、右手には空になったコーヒーカップ。


局長からの連絡で無事に動けることを確認され、至急ネイトの部屋の方へ移動するように求められた。


ネイトの状態的に早急に保護施設内の隔離場所に移動し、外部からの魔力干渉を断つことを最優先として予定の組み換えを行うように告げられた。




「……朝早いな、お前も」




部屋のドアが開いて出てきたネイトに、皮肉めいた声を投げる。




「あなたほどではありません」


王子は顔色こそ悪いが、背筋はまっすぐに伸びていた。


あまりの顔色の悪さにレンが口を開く。




「顔色が悪いが大丈夫か?」


「ええ。いえ、大丈夫だと言えればよかったのですが、あまり。


夢見が……。


いえ、あれは夢じゃありませんでした。



きっと、レン。あなたも――あれを…。」





王子の視線を受け、レンは言葉を返さず、代わりに視線だけを送った。


二人のあいだに、かすかな共振があった。


言葉にならない何かが、確かに共有されていた。




そこへサイラスが追いつく。





「局長が、奥の第一研究区画を開けると言っています。


殿下、レン。


2人は一緒の作業室と宿泊施設を使って、夢の影響を確認するそうです」




「悪夢にここまで生活を支配されると嫌なものだな。」





レンは皮肉をこぼしたが、向かってくるテオに手をあげそのまま歩み始めた。












馬車の車輪が道を刻むたび、わずかに軋む音が響く。



外はすっかり朝日が昇り、薄靄は地を離れ始めている。


馬車の内部。



黒と銀の内装は王宮仕様のままで、座り心地も申し分ない。


けれど、その空気はどこか微妙に緊張していた。




「うわぁ、ほんとに"奥域"ってこんな感じなんですね……! 


ここ、局長の権限じゃないと通れないって聞いてましたけど、こんなところまで立ち入れるなんて一生に一度あるかどうかですよ」



浮かれた口調のイーサンは、窓の外を見ながら声を弾ませた。


淡い色の髪を軽く揺らしながら、隣の王子へと笑顔を向ける。



「ご一緒させていただき、感謝します、殿下。

僕、こういう機会一生ないかと思ってましたよ」



「ふふ、歓迎しますよ、イーサン。


……彼の代わりにいきなりこちらへの移動を言われてあなたも困ったでしょう?


サイラスも準備に取られてしまいましたし。」




王子は微笑を浮かべたまま、穏やかに返す。

その声にはとげはなかったが、どこか"配慮されたもの"への冷静さが滲む。


イーサンは一瞬だけ口を閉ざしたが、すぐに笑顔を貼り直す。




「ええ、あっちは姉姫さまの旦那様の縁戚筋のお仕事ですから。

 光栄な役割です、ほんとに」


「……まあ、派閥の押し付け合いの調整って言い換えたほうが正確だな」




レンがぼそりとつぶやいた。


背もたれに腕を組み、足を組み、ついでに視線まで組まずに窓のほうに逃がしている。




「研究所が絡むと、みんな遠回しな言葉を使いたがる。


 王宮も貴族連中もな。……面倒な話だよ」


「レン、またそうやって若者をいじめて……」




向かいの席で、テオが苦笑混じりに言った。


王子の横に座っているテオは、礼儀を崩さない姿勢のまま、どこか余裕ある眼差しで場を見ている。




「ま、でもイーサン、悪い気はすんな。

お前が浮かれてる分だけ、俺たちはちょっと助かってるんだから」



「え……助かってるって、何がです?」


「雰囲気だよ」





レンが短く言う。




「この空気に気づいてないなら、それはお前の勝ちだ。
 
 ……そのまま何も気づかずにいろ」



イーサンはしばし固まったが、やがて「はい」とだけ返した。


その表情には戸惑いが混じっていたが、それでも彼の目には、まだ"少年"のような純粋な好奇心が残っていた。


王子が、ふと横を見て、レンに目を向ける。



視線が交差する。



レンは軽く眉を動かし、「……なんだよ」とだけ口を動かした。



王子はただ、静かに目を細めた。


その目に浮かんだのは、やや笑みに近い陰だった。



「あなたって、優しいですね。

……そうやって、言葉を選ばずに手加減してくれる」


「俺のどこが"手加減"なんだか」



レンは肩をすくめて、また窓の外へと目をやった。


そうして、馬車はもうひとつの検問を抜ける。



そこから先は、研究所からも入れる人間が限定された遮断された立ち入り制限のある特別区域だ。














研究所奥立ち入り制限区域の入口を越え、少しすると研究所とも違う美しい白い宮殿のような建物についた。



厳重な結界の中にある「立ち入り制限区域」。



白い防壁を越え、中枢へ続く廊下は無音で、魔力を吸うような冷気が足元を這っていた。


日常あまり見かけない建材と石と静寂でできたような空間に、外界のざわめきは一切届かない。



テオが局長室の扉を開き、先導するように中へ入った。

王子とレンが中へと歩を進める。


二人とも、まだ夢の中を歩いているようだった。



だが、次に"見る"のは──あれが


夢ではなく、現実かもしれない可能性に頭痛を感じながら。






――――――――――








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