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第零章
第一話 バイトのお誘い
しおりを挟む拝啓大人の皆様、ただいま僕は高校ニ年の夏休みの真っ最中でございます。夏と言えば海。燦々と照らす太陽を美しい黒髪で反射する彼女と水を掛け合う。そこには溢れんばかりの笑顔で戯れる二人の男女が、などという青春イベントの真反対とも言える暗く狭い部屋でむさ苦しい男友達と二人で汗をかきながら映画を観ている僕ですが、皆様はこんな日々でも戻りたいと思うものなのでしょうか。少なくとも今の僕は戻りたくなるとは思えません。不満を持つ自分に嘘がつけないのです。嗚呼、どこかに麗しの美女が落ちていないものでしょうか。
「なぁ!なぁってば!」
おっと失礼、悪友が何か騒いでいます。
「え?」
「だから!この映画はどうだった?ってさっきから言ってるでしょうが」
「ごめん、考え事してた」
「で感想は?」
「そうだなぁ、僕は嫌いかな」
「ん?面白くなかったの?俺はめっちゃ感動したんだけどなぁ」
「違う違う面白かったんだ」
「じゃあなんで嫌いなんだよ」
「面白かったからこそなんだよ。名作ってのは余韻が凄いだろ?あの後味ってのは喪失感があって寂しくさせられる。それが辛いんだ。だから僕は名作が嫌いだよ」
「なーにカッコつけてんだよ!でも主人公が最後に人生はどうなるか分からないから面白いって気付いたのが良かったよな」
「うん」
「じゃあ、威厳ある答真さんのお褒めの言葉も頂けましたし俺はそろそろ帰るとするか」
「送ってこうか?」
「いいっていいって暑いし、それよりせっかくの夏休みなんだしお前も彼女つくるなりバイトするなりしろよな、じゃ、またな」
「分かった分かった、暗くなるから気を付けろよ」
油断した。最後に痛いところを突かれてしまった。しかし、悪友兼親友と呼べる彼の助言を無下にはできない。使う機会は来ないと思うが心の箪笥に仕舞っておこう。
「答真、ご飯だよ」
「流石姉さん、ちょうどお腹が空いたところさ」
腹を空かしては戦はできぬ。戦う予定はないが、備えあれば憂いなし。満たしておいて損な腹もなしという訳だ。
「いざ、関ヶ原という名の食卓へ」
「え?」
「ついて参れ!」
「はいはい、我が将軍様」
この匂いは、もしや。
「今日はカレー?」
「正解!」
「いいね、こんな暑い日にはカレーが似合うよ」
「じゃあ準備手伝ってね」
「オーキードーキー!」
僕らは二人で暮らしている。というのも両親は既に離婚していて僕らは母親について来たのだが、母さんは海外出張も難なくこなす現役のキャリアウーマンとやらで殆ど家に帰らない。どうやらそれが離婚の原因の一つでもあるらしいが。そんなこんなで実質的に二人暮らしになっている。
「よーし、それじゃお手を拝借、頂きま
す!」
「頂きます」
それでもこの生活も悪くないとは思う。
「どう?美味しい?失敗してない?」
「うん、特に福神漬けが美味しい」
「福神漬けがかよ!」
この頃福神漬けの良さが分かるようになった。もっと子供の頃は絶対に食べない派閥に所属していた僕も晴れて福神漬け同好会の仲間入りである。僕も少しは大人に近づいているという証拠だろう。
「そういえばさ、あんたバイトする気ない?」
「ドユコト?」
「いやさ、わたちゃんが私にバイトしないかって誘ってきたんだよね」
「明日香さんが?」
「うん」
急な誘いだが一応聞いてみよう。
「何のバイト?」
「細かいことは分かんないけど、なんかわたちゃんが所属してる研究所の博士のお手伝いだって言ってたけど」
「なにその胡散臭いバイト」
怪しすぎる。こんなオレオレ詐欺のテンプレート並みに怪しいのはいかがなものか。
「まぁ私もそう思ったけど、わたちゃんだし」
確かに明日香さんが詐欺紛いのものに騙されてるとは思えないし、姉さんを騙そうとしてるとも思えない。
「姉さんが行けばいいじゃん」
「私は大学と自分のバイトで忙しいからさ、それに家でごろごろしてるよりはいいと思わない?お小遣いも手に入るぞー?」
ごもっとも。この夏休みという青春黄金期に何もしないのはもったいない。それに先程仕舞っておいた助言を使う時が熟成もとい腐敗を進めることなくやってきた。しかし、十七年もの間純潔を守り抜いた賢者が急にチャラ男にジョブチェンジするのも難しい。青春黄金期をメッキで終わらせない為にもここはバイトの案を採用するとしよう。
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