雷霆のサン・ベネット ~強すぎるクーデレ妻は魔王討伐の英雄でした~

成瀬リヅ

文字の大きさ
99 / 119
スザクの龍神王

92.母性

しおりを挟む
「さぁ、どっちを選ぶっ!?!?」

 美女二人に問われた俺は、とりあえず正解を選ぶ。
 誰が何と言おうと、さすがにここの正解を間違えるほどバカではない………。


「ナツキさんに決まってるでしょ!?ていうか、何ですかこの状況!会って早々にケンカするのやめてくださいよっ!!」


 だが二人は俺の正論など聞いてはいない。
 ただ俺に選ばれたナツキさんがドヤ顔で腕を組み、紫髪の龍族女は肩をすくめて"やれやれ"という仕草をしている。

 ただ紫髪の女に関しては、遊びでナツキさんをからかっただけなのだろう。
 実際俺に選ばれる事なんて、考えてはいないはずだ。


「はぁ………。何か若いアンタ達夫婦を見てると、昔の幼かった自分を思いだして胸がキュウってなるわね。怖いものなんて無かった、あの頃を」


 案の定、彼女の表情は一転していた。
 その表情は優しく、まさに”母性”という言葉がピッタリの温かさだった。

 そう、あくまでも彼女の使命は”俺を治療する事”だ。
 それ以外は、ただのヒマ潰しでしかない。


「じゃあ、アタシはそろそろ出ていきましょうかね。ヒマ潰しにしては楽しかったわよ。なにせアタシは龍神王の娘だからね、兄弟ですらアタシには気を遣って接してくる。街の人だって、みんな土下座してアタシに顔すら見せてくれないのよ?」


 そして彼女は、少し苦笑いのままナツキさんへと視線を移した。


「だから久しぶりに楽しかったわよ。アタシに臆する事なく言い返してくれる人間なんて、この世にアナタを含めて二人しかいないもの。娘が出来たみたいで、ちょっと楽しかったわよ」


 するとそれを聞いたナツキさんは、少し複雑な表情へと変わっていた。
 まぁ先程まで思いっきり口喧嘩をしていた相手から、いきなり母性を向けられて困惑しない方がおかしな話だ。


「きゅ………急に何なんだ。感謝される覚えは無いぞ………」
「そういう所も可愛いわね。旦那さん、大事にしてあげなさいよ?」


 そう言い残した紫髪の妖女は、とうとうその場に立ち上がり、そして俺達の部屋から出て行こうとする。
 それにしても、高低差の激しい女性だったな。
 傷は癒えたけど、なんだか気疲れしてしまったような気分だ。

 ………だが何故か彼女は再び足を止め、そしてこちらへと向き直る。
 どうやら、まだ要件が残っていたようだ。


「あっ、そういえば伝え忘れてたわね。龍神王からの伝言よ。
はぐれ龍の討伐隊は3日後に準備が完了するから、それまではゆっくり過ごしてくれ”
 だって。だから、3日後に向けてアナタ達も準備をしておきなさい?言っておくけど、今回の逸れ龍は過去最強よ」


 そう言う彼女の目は、なぜかとても悲しそうに見える。
 今回の逸れ龍とは深い関係があったのだろうか?
 色々と考察は出来る。

 だがそれよりも先に、俺はここまで治療と有益な情報を与えてくれた彼女に対して、感謝の気持ちが湧き上がっていた。
 だから穿天様の伝言を伝え終えて部屋を出ようとする彼女に対して、俺から最後の質問をする。


「あ、あの!治療から伝言まで、色々とありがとうございました!お名前だけでも聞かせてくれますか?」


 そんな俺の質問に対して、彼女は驚きと喜び、そして誇りを持って答えてくれる。


「あら、嬉しいわね。アタシの名前は【ロンジェン】。偉大なる龍神王・穿天の最初の娘にして、龍牙三闘士およびしょく部隊隊長リィベイの………母親よ」


 その瞬間、ロンジェンの目元がリィベイとそっくりな事に気付いた。
 なるほど、確かに言われてみれば魔力の感じも似ている所がある。


「そうでしたか。息子さんに短気な所を治すように言っておいてください」
「ふふ………まったく、誰に似たんだか」


 彼女はそう呟いていた。
 そしてナツキさんの方を無言で数秒見つめた後、とうとうロンジェンは着物を揺らしながら部屋を後にするのだった。

 彼女の残した香りはとても刺激的で、だけどなぜか安心感もある、そんな不思議な香りだった。

────

 逸れ龍の討伐まで残り三日。
 俺たち夫婦は、当日までこのシージェンで時間を潰す事になった。

 連日シージェンの料理に舌鼓を打ち、体が鈍らないように外で動き、あとはイチャイチャする。
 ナツキさんは30回甘えると、1回ぐらいのペースで少し甘やかしてくれる。
 まさに中毒になるにはピッタリのデレ頻度だ。

 それに加え、相変わらずシージェンの料理は美味しかった!
 毎日違う料理を食べていたのに、まだまだ食べ尽くせないメニューの数々。
 そして香辛料の偉大さを、改めて感じるような毎日だった。

 この期間に関しては、俺も料理を作る事はない。
 ただ美味しそうにシージェン料理を頬張るナツキさんを眺めながら、料理の味を研究するだけの時間だった。
 幸せとは、こういう時間のことを言うのだろう。


 明日から始まる逸れ龍の討伐戦が、最後の戦いにも繋がる重要なキッカケになるとも知らずに………。



────
次回、新章
【逸れ龍と天地の神子】編スタート。

しばらく更新が空きます。感想などいただけると嬉しいです。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

役立たずとパーティーからもこの世からも追放された無気力回復師、棚ぼたで手に入れたユニークスキル【銀化】で地味にこつこつ無双する!!

佐藤うわ。
ファンタジー
 超ほのぼの追放・ユニークスキルものです。基本は異世界ファンタジーギャグラブコメ、たまに緩い戦闘がある感じです。(ほのぼのですが最初に裏切ったPTメンバー三人は和解したりしません。時間はかかりますがちゃんと確実に倒します。遅ざまぁ)  最初から生贄にされる為にPTにスカウトされ、案の定この世から追放されてしまう主人公、しかし彼は知らずにドラゴンから大いなる力を託されます……途中から沢山の国々が出て来て異世界ファンタジー大河みたいになります。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...