雷霆のサン・ベネット ~強すぎるクーデレ妻は魔王討伐の英雄でした~

成瀬リヅ

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逸れ龍と天地の神子

94.龍宮ノ遣

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「うぉぉお、すっげぇぇええ!!もう雲の上ですよナツキさんっ!!」



 シージェンの山並みから、逸れ龍討伐に向けて出発した飛行戦艦・龍宮ノ遣りゅうぐうのつかい
 既に船は雲の上を抜け、ゴウンゴウンと豪快な音を立てながら安定的な空の旅を提供している。

 とはいえ船上には、決して旅行気分で浮かれている者などいない。
 なにせこれから向かう先は、凶暴な逸れ龍の棲家なのだ。
 いつ死んでもおかしくない状況で、浮かれられる方がおかしい。

 ………俺を除いては。


「コレどうやって飛んでるの!?やっぱ龍神術ハンパねぇっっ!!」
「やめてくれサン、それ以上騒がないでくれ。連れ添っている私が恥ずかしい………」


 俺は船の端から身を乗り出し、まるで少年のようにハシャいでいた。
 それを少し後ろから見ているナツキさんは、呆れながら少し顔を赤くしているようだ。

 それと同様に、周りの冒険者達も”何だコイツ”と言わんばかりの視線で俺を見つめているが、まぁ正直知ったこっちゃない。

 ………ていうか普通は、俺みたいにテンション上がるのが普通でしょ!?
 だってこんな全長200mを優に超えるような、クソデカい戦艦が空を飛んでいるんだよ!?

 しかも船の近くでは、見た事のないような巨大な飛行魔獣も飛んでいる。
 もはやずっと眺めていられるぐらいに、流れる世界の景色は美しかった。

 まったく、ここに乗ってる男共にはロマンが無いな!
 寂しいヤツらばかりだ。

 でももしかすると、単純に乗り慣れているヤツばっかりなのかもしれない。
 だとしても俺は、デカい船にいつまでもワクワクできる少年心を忘れない男でありたい。

 ………なんて、どうでもいい事をぼんやりと考えていた時だった。


「あ、あの!船に興味持ってもらえて嬉しいですっ!僕もこの船、大好きなんです!!」


 空を眺めている俺の背後から、突然若い男の声が響いていた。
 誰だ?と思って振り向くと、そこにいたのは………。


「………いや誰だ?」


 うん、やっぱり誰か分からなかった。
 とりあえず俺と同じぐらいの身長の少年が立っている。

 頭には龍宮ノ遣の運行に関わる乗組員しか被れないネイビー色のキャップを被っており、髪は黒の短髪。
 服も乗組員専用のネイビーの作業服をキチッと着ており、なんとも真面目そうな少年だった。


「あっ、いきなりゴメンなさい。僕はこの龍宮ノ遣の若手船員、チャン・ダオタオです!ダオタオって呼んでください!まだこの船では下っ端ですけど、よろしくお願いします」


 そう言ってダオタオは、俺に向かって深く頭を下げていた。
 やはり見た目通り、真面目な性格のようだ。

 とりあえず話しかけてきてくれたんだ、適当に話してみよう。


「こちらこそよろしくねダオタオ。俺はサン・ベネット、元冒険者だ。そして君の後ろにいる美人が、俺の妻・ナツキさん。世界で最強の剣士だよ」
「世界で最強………?」


 するとダオタオは後ろに立っていたナツキさんを見て、ゆっくりと首を傾げていた。
 まぁ確かに、普通に立っているだけのナツキさんを見れば、ただの背が高いスタイル抜群クソ美人お姉さんでしかないもんな。
 魔力感知眼でも持ってない限り、最初は疑ってしまうのも分かる。

 だけどナツキさんが強い事なんて、いずれ戦いが始まれば分かる事だ。
 あえて深く説明するのはやめておこう。


「ところでダオタオ、君は何でこの船に乗ってるんだ?それこそ逸れ龍の討伐なんて、冒険者だと最低でもBランク以上、船の乗組員だと経験豊富な中堅以降の人しか乗れないはずじゃあ?」
「あぁ、それはですね………」


 するとダオタオは、一旦ナツキさんからは視線を外し、そして俺の目を見て熱く語り始める。
 そんな彼の瞳を一言で表すなら、まさに"キラキラ"。
 未来への希望に満ち溢れた、キラキラとした瞳だったのだ。


「僕はこのスザク大陸で産まれて、スザク大陸で育ちました。その間ずっと、親父が乗っている龍宮ノ遣に乗るのが夢だったんです!!そして今や親父はこの龍宮ノ遣の艦長。僕はそのコネを使って、無理やり潜り込んだんです」
「自分でコネって言っちゃった。正直すぎて逆に怖いよダオタオ?」


 だが何の悪気もない彼の言葉は、いやらしさも感じない。
 きっとそれは、真っ黒でゴツゴツとした彼の手が目に入ったからだろう。

 俺と同い年ぐらいに見えるが、どこまで努力をすればあんな手になるのだろうか?
 俺だって何万回と刀を振るってきたが、あそこまでの手にはなっていない。

 ただのコネだけではない。
 そこには確かな努力が見え隠れしていた。


「それにしてもダオタオ、こんな所でゆっくりしてていいのか?若手なんだから、サボってたら怒られるだろ」
「いえいえ、決してサボってる訳ではないですよサンさん!ちゃんと龍神術の焔が正常に稼働しているか、目視で確認して回ってる最中なんですからっ」


 そう言ってダオタオは、敬礼のポーズを俺に見せていた。
 いや、別に俺に敬礼されても困るんだけどな………。
 一応は乗組員として働いてますってアピールのつもりなのだろうか。


「そ、そうか。それはすまなかった。それで?異常はなさそうか?俺もこの船に乗るのは数年ぶりだけど、相変わらずバカデカいからな。それなりに異常は起こるだろ?」
「いえいえ、この龍宮ノ遣はスザクの技術の全てを詰め込んだ、常に最新鋭の戦艦です!異常なんてあっても公表しません!!」
「君はスザクの闇をサラっと言うね」


 相変わらず彼に悪気はない。
 悪い意味で純粋とでも言っておこう。

 ………だがそんな彼の言葉を抜きにしても、龍宮ノ遣は本当に素晴らしい船だと思う。
 そこに疑いようはない。

 誰もが目を引かれる大きな鉄羽に、この世界で一番大きいのでは?と思わされるような巨大大砲。
 そして航行においても、たった500人程度の乗組員で運行できるほどに完成されすぎたシステムと利便性。
 スザク大陸を除く他大陸からすれば、こんなに恐ろしい兵器はないだろう。

 だが幸い龍神王様は、この龍宮ノ遣を軍事的に利用した事はない。
 あくまでも自国の恥、つまりは”逸れ龍の討伐"にのみ使用を許可している。

 はたしてこの船が、逸れ龍の討伐以外に使われる日は来るのだろうか?
 それは誰にも分からない、未来の事だ。


【パァァアアンッッ!!】


 だがそんな事を考えていると、突如船上に大きな音が響き渡る。
 雑談をしていた船上の冒険者や乗組員達が、ハッと息を呑むような大きな音だ。


「貴様ら、楽しい楽しい空の旅はここまでだ。逸れ龍の生息危険空域に入った。各自、戦 闘 準 備」


 どうやら音の正体は、リィベイが強く手を叩いた時の音だったようだ。
 彼は赤黒い着物を揺らしながら、艦内からゆっくりと姿を表している。

 だが既に彼の表情は、正殿で俺と戦っていた時よりも遥かに鬼気迫る表情に変わっていた。
 あぁそうか。いよいよここからは、いつ逸れ龍に襲われても不思議ではない空域のようだ。

 そして一気に緊張感が高まる甲板の上において、リィベイは淡々と続ける。


「さぁ、ここからは生き残った者が勝者の時間だ。死体は拾わんぞ、好きに踊れ」


 そう言って彼は、背中から禍々しい羽を”バサァッ”と広げているのだった。

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