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第2話:潤い始めたルーティン
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ショッピングモールのナンパ事件以来、佳子の世界は一変した。
今までは「汚れが目立たないか」「動きやすいか」だけで選んでいた服を、クローゼットの奥から引っ張り出し、入念にアイロンをかけるようになった。化粧下地を少し高いものに変え、ヘアオイルで髪の艶を整える。
「お母さん、最近なんか雰囲気変わった?」
朝食の席で、高校生の友博が不意に尋ねた。
「えっ、そう? 別に普通よ」
佳子は平静を装いながら、内心で激しく動揺した。夫の謙介は、新聞から目を離すことすらなく「ふーん」と気のない返事をするだけだ。その無関心が、今の佳子にはむしろ心地よく、同時に少しだけ寂しかった。
そんなある日の放課後、友博が友人を連れて家にやってきた。
「お邪魔します!」
元気な声とともにリビングに入ってきたのは、サッカー部のチームメイトだという。佳子は「いらっしゃい」と笑顔で迎え、麦茶と作り置きのクッキーを出した。
「わあ、すげえ! 友博、お前の母さん、めちゃくちゃ綺麗じゃん」
一人の少年が、無邪気に声を上げた。
「おい、やめろよ恥ずかしい」
友博が照れ隠しに友人の背中を叩く。しかし、その友人は引かなかった。
「マジだって。明るくて、なんか可愛らしいっていうか……。俺の母ちゃん、いつもジャージで怒鳴ってばっかだからさ。羨ましいわ」
「もう、冗談はやめてよ。おばさんをおだてても何も出ないわよ」
佳子は冗談めかして返したが、頬が熱くなるのを止められなかった。16歳の少年から発せられた「可愛い」という言葉。それは、大人の男性からのナンパとはまた違う、純粋で残酷なほどストレートな賛辞だった。
彼らが友博の部屋へ消えたあと、佳子はキッチンで一人、洗い物をしながら自分の顔をキッチンの窓に映した。
(私……可愛らしい、の?)
45歳。更年期という言葉が現実味を帯び、女としての終わりを意識し始めていたはずなのに。外からの刺激が、眠っていた彼女の「女」の部分を、強烈に揺さぶっていた。
不倫なんて、これっぽっちも考えていない。家族を愛しているし、今の生活を壊すつもりなんてさらさらない。ただ、ほんの少しだけでいい。誰かの目に、特別な一人として映っていたい。
佳子は夜、謙介が寝静まったあと、一人でファッション誌をめくるのが習慣になった。かつては飛ばしていた「大人のデートコーデ」や「色っぽメイク」の特集を、穴が開くほど見つめる。
心の中の火種は、本人が気づかないうちに、静かに、しかし確実に大きくなっていた。
今までは「汚れが目立たないか」「動きやすいか」だけで選んでいた服を、クローゼットの奥から引っ張り出し、入念にアイロンをかけるようになった。化粧下地を少し高いものに変え、ヘアオイルで髪の艶を整える。
「お母さん、最近なんか雰囲気変わった?」
朝食の席で、高校生の友博が不意に尋ねた。
「えっ、そう? 別に普通よ」
佳子は平静を装いながら、内心で激しく動揺した。夫の謙介は、新聞から目を離すことすらなく「ふーん」と気のない返事をするだけだ。その無関心が、今の佳子にはむしろ心地よく、同時に少しだけ寂しかった。
そんなある日の放課後、友博が友人を連れて家にやってきた。
「お邪魔します!」
元気な声とともにリビングに入ってきたのは、サッカー部のチームメイトだという。佳子は「いらっしゃい」と笑顔で迎え、麦茶と作り置きのクッキーを出した。
「わあ、すげえ! 友博、お前の母さん、めちゃくちゃ綺麗じゃん」
一人の少年が、無邪気に声を上げた。
「おい、やめろよ恥ずかしい」
友博が照れ隠しに友人の背中を叩く。しかし、その友人は引かなかった。
「マジだって。明るくて、なんか可愛らしいっていうか……。俺の母ちゃん、いつもジャージで怒鳴ってばっかだからさ。羨ましいわ」
「もう、冗談はやめてよ。おばさんをおだてても何も出ないわよ」
佳子は冗談めかして返したが、頬が熱くなるのを止められなかった。16歳の少年から発せられた「可愛い」という言葉。それは、大人の男性からのナンパとはまた違う、純粋で残酷なほどストレートな賛辞だった。
彼らが友博の部屋へ消えたあと、佳子はキッチンで一人、洗い物をしながら自分の顔をキッチンの窓に映した。
(私……可愛らしい、の?)
45歳。更年期という言葉が現実味を帯び、女としての終わりを意識し始めていたはずなのに。外からの刺激が、眠っていた彼女の「女」の部分を、強烈に揺さぶっていた。
不倫なんて、これっぽっちも考えていない。家族を愛しているし、今の生活を壊すつもりなんてさらさらない。ただ、ほんの少しだけでいい。誰かの目に、特別な一人として映っていたい。
佳子は夜、謙介が寝静まったあと、一人でファッション誌をめくるのが習慣になった。かつては飛ばしていた「大人のデートコーデ」や「色っぽメイク」の特集を、穴が開くほど見つめる。
心の中の火種は、本人が気づかないうちに、静かに、しかし確実に大きくなっていた。
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