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第2話:審判の夜
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不倫の事実に気づいてから2週間。徹は、地獄のような日々を過ごしていた。 仕事中も、ふとした瞬間に美香が別の男と肌を重ねる光景が脳裏をよぎり、激しい吐き気に襲われる。調査会社から届いた封筒には、ホテルから腕を組んで出てくる二人の姿が鮮明に写っていた。相手は美香より12歳も若い、34歳の男だった。
5月の金曜日の夜。 大輔はサークルの合宿で不在、真司は塾で帰りが遅い。家の中には、徹と、鼻歌まじりに明日の外出の準備をする美香の二人きりだった。
「明日、また友達とランチなの?」 徹の問いに、美香は鏡越しに口紅を引きながら、事も無げに答えた。 「ええ。久しぶりに横浜まで足を伸ばそうかって話してるの。遅くなるかもしれないから、夕飯は適当に食べてね」
その、あまりに滑らかで、あまりに無慈悲な嘘。 徹の中で、何かが音を立てて千切れた。
「……横浜の、どのホテルで食べるんだ?」
美香の手が止まった。鏡の中の彼女の瞳が、泳ぐ。 「え? 何言ってるの、徹さん。ホテルなんて……」 「とぼけるなよ、美香。これを見ても同じことが言えるのか?」
徹はダイニングテーブルに、調査会社から突きつけられた写真をぶちまけた。 美香の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。彼女は震える手で写真を一枚手に取り、それを信じられないものを見るような目で見つめた。
「どうして……どうしてこんなこと……」 「それは俺のセリフだ! 20年だぞ、美香。大輔や真司がどんな気持ちでこの家にいると思ってるんだ。お前が浮ついた遊びに興じている間、俺がどんな思いでこの家族を守ってきたか、一度でも考えたことがあるのか!」
徹の声が、静まり返ったリビングに怒号となって響いた。美香はしばらく呆然としていたが、やがて顔を覆って泣き崩れた。 「ごめんなさい……寂しかったの。あなたが仕事ばかりで、私はただの家政婦みたいに感じて……」
「寂しい? だったらなぜ、俺に話さなかった。なぜ別の男の腕の中に逃げたんだ。それは理由じゃない。ただの甘えだ。お前が選んだのは、家族じゃなく、一瞬の快楽だろう」
徹の言葉は、氷のように冷たく、鋭かった。 泣き叫ぶ妻を見下ろしながら、徹が感じたのは、勝利感でも怒りの解消でもなかった。ただ、目の前にいる女が、かつて愛した女性とは別の「何か」に見えるという、底知れない空虚さだけだった。
その時、玄関のドアが開く音がした。真司が帰ってきたのだ。 「……何、これ」 廊下に立ち尽くす16歳の息子の足元には、散らばった写真が何枚か滑り落ちていた。真司の顔が、嫌悪と蔑みで歪んでいく。
「真司、これは……」 美香が這いずるように息子に手を伸ばそうとしたが、真司はそれを冷たく振り払った。 「触んなよ。汚らわしい」
その一言が、美香の胸に徹の言葉以上の深手を負わせた。彼女はその場に崩れ、ただ声を殺して震えることしかできなかった。
【幕間:美香の独白】
「あの瞬間、私の人生の歯車が狂った音がしたわ。徹さんの怒りに満ちた目も、真司の氷のような冷たい言葉も、すべてが私を責め立てる刃に見えた。でもね、心のどこかで『バレて良かった』と思っている自分もいたの。だって、もう嘘をつき続けるのは限界だったから。でも、その代償がこれほどまでに重いなんて、その時の私はまだ、本当の意味で理解していなかったのよ」
5月の金曜日の夜。 大輔はサークルの合宿で不在、真司は塾で帰りが遅い。家の中には、徹と、鼻歌まじりに明日の外出の準備をする美香の二人きりだった。
「明日、また友達とランチなの?」 徹の問いに、美香は鏡越しに口紅を引きながら、事も無げに答えた。 「ええ。久しぶりに横浜まで足を伸ばそうかって話してるの。遅くなるかもしれないから、夕飯は適当に食べてね」
その、あまりに滑らかで、あまりに無慈悲な嘘。 徹の中で、何かが音を立てて千切れた。
「……横浜の、どのホテルで食べるんだ?」
美香の手が止まった。鏡の中の彼女の瞳が、泳ぐ。 「え? 何言ってるの、徹さん。ホテルなんて……」 「とぼけるなよ、美香。これを見ても同じことが言えるのか?」
徹はダイニングテーブルに、調査会社から突きつけられた写真をぶちまけた。 美香の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。彼女は震える手で写真を一枚手に取り、それを信じられないものを見るような目で見つめた。
「どうして……どうしてこんなこと……」 「それは俺のセリフだ! 20年だぞ、美香。大輔や真司がどんな気持ちでこの家にいると思ってるんだ。お前が浮ついた遊びに興じている間、俺がどんな思いでこの家族を守ってきたか、一度でも考えたことがあるのか!」
徹の声が、静まり返ったリビングに怒号となって響いた。美香はしばらく呆然としていたが、やがて顔を覆って泣き崩れた。 「ごめんなさい……寂しかったの。あなたが仕事ばかりで、私はただの家政婦みたいに感じて……」
「寂しい? だったらなぜ、俺に話さなかった。なぜ別の男の腕の中に逃げたんだ。それは理由じゃない。ただの甘えだ。お前が選んだのは、家族じゃなく、一瞬の快楽だろう」
徹の言葉は、氷のように冷たく、鋭かった。 泣き叫ぶ妻を見下ろしながら、徹が感じたのは、勝利感でも怒りの解消でもなかった。ただ、目の前にいる女が、かつて愛した女性とは別の「何か」に見えるという、底知れない空虚さだけだった。
その時、玄関のドアが開く音がした。真司が帰ってきたのだ。 「……何、これ」 廊下に立ち尽くす16歳の息子の足元には、散らばった写真が何枚か滑り落ちていた。真司の顔が、嫌悪と蔑みで歪んでいく。
「真司、これは……」 美香が這いずるように息子に手を伸ばそうとしたが、真司はそれを冷たく振り払った。 「触んなよ。汚らわしい」
その一言が、美香の胸に徹の言葉以上の深手を負わせた。彼女はその場に崩れ、ただ声を殺して震えることしかできなかった。
【幕間:美香の独白】
「あの瞬間、私の人生の歯車が狂った音がしたわ。徹さんの怒りに満ちた目も、真司の氷のような冷たい言葉も、すべてが私を責め立てる刃に見えた。でもね、心のどこかで『バレて良かった』と思っている自分もいたの。だって、もう嘘をつき続けるのは限界だったから。でも、その代償がこれほどまでに重いなんて、その時の私はまだ、本当の意味で理解していなかったのよ」
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