『1994年の消えない痣(あざ)』ルーズソックスを脱げなかった私へ

MisakiNonagase

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第5章:1995年1月〜3月(高1・冬〜春)「誕生日の孤独と、忍び寄る影」

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この頃、敦子の手帳には「稼ぎ」だけでなく、自分を脅かす存在への苛立ちや恐怖が、殴り書きの文字で混ざり始めるようになります。

1月1日: 元日。親戚の前で「良い子」を演じる。お年玉をもらったけど、昨日の1回転分にもならない。

1月5日: 仕事始め。冬のルーズソックスは暖かいけど、公衆電話を待つ足元は冷える。

1月10日: ベルに「081(お払い)」のメッセージ。ストーカー化した「中島」という男。着信を見るだけで吐き気がする。

1月17日: 阪神大震災。テレビに映る壊れた街。私はホテルで男といた。世界がどうなっても、私の「商売」は止まらない。それが怖かった。

1月20日: 紺のハイソックスのまま会ってほしいという客。指定が細かいほど金になるけど、自分がモノ扱いされている実感が強まる。

1月25日: 学校のロッカーに、身に覚えのない手紙が入っていた。「お前のやってること知ってるぞ」。足が震えた。

1月28日: 怖くて3日間営業を休む。でも、減っていく残高を見る方がもっと怖くて、結局渋谷へ。

2月2日: 逃げるように場所を変えて営業。今日は新宿。

2月5日: 客と金でもめた。終わった後に「2万しか出せない」と言われ、ホテルの部屋で怒鳴り合い。結局、無理やり追い出された。悔しくて涙も出ない。

2月10日: 警察の巡回が厳しくなった気がする。制服姿で立っているのが、綱渡りをしているみたい。

2月14日: バレンタイン。本命チョコなんて一生作らない。男はチョコより、ルーズソックスを履いた私の脚が欲しいんでしょ。

2月18日: 久しぶりにブルセラへ。店長が「最近顔色が悪いぞ」と言う。余計なお世話。

2月22日: ベルが鳴り止まない。14106(愛してる)、14106、14106。愛の安売りバーゲンセール。

2月25日: 期末試験勉強。ホテルで客が寝ている隣で、数学の公式を暗記する。歪な日常。

2月28日: 16歳の誕生日。自分へのプレゼントは、誰にも言えない額の定期預金と、新しいポケベルの機種。

3月3日: 中島(ストーカー)が家の近くにいた気がする。気のせい? 誰にも相談できない。自業自得だと言われるのがわかっているから。

3月7日: 卒業式の予行演習。先輩たちが泣いている。私は一滴も涙が出ない。感情が枯れてしまったみたい。

3月12日: 久しぶりの「太客」に会う。この人だけは安心できる。でも、優しくされると、逆に自分が惨めになる。

3月15日: 16歳になって、少し「商品価値」が下がった気がする。15歳という響きの方が高く売れた。

3月20日: 地下鉄サリン事件。街がパニック。でも、私はベルの鳴る方へ行く。死ぬことより、稼げなくなることの方がリアルな恐怖だった。

3月22日: 春休み開始。ルーズソックスの予備を5足買った。

3月25日: 1日5回転。過去最高記録。15万稼いだ。でも、夜中にシャワーを浴びながら、自分の体を包丁で削ぎ落としたい衝動に駆られた。

3月27日: 鏡の中の自分。16歳のはずなのに、25歳くらいに見える。

3月29日: 客に「お前、冷めてるな」と言われた。そうさせたのは、あんたたち大人でしょ。

3月30日: 手帳の隅に小さく書いた。「いつまで、これを続けるんだろう」。

3月31日: 通帳記帳。200万の大台。これが私の命の値段。

(その他5日分:場所や金額、ポケベル番号の羅列……)
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