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CASE 5:ノーブル・ケージ(名門の温室)
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偏差値という物差しすら存在しない。幼稚園から高校まで、外界と遮断された「純粋培養」の15年間。
裕香が通う学校は、財界の重鎮や高級官僚の令嬢たちが、代々その血筋と品位を守るために通う真の「お嬢様学校」だった。中学や高校からの編入生は一人もおらず、そこにあるのは血統と資産による強固な階級社会。男性への免疫など、育つはずもない環境だった。
多くの同級生たちが中堅大学で満足する中、裕香には人知れず野心があった。自らの意志で猛勉強を始め、高校3年生の冬、ついに実力で名門私立大学の合格を勝ち取った。温室から一歩踏み出し、自力で掴んだ「自由」の切符。その全能感が、彼女の警戒心を無にしていた。
合格直後、裕香は期待に胸を膨らませ、その大学の「合格者コミュニティ」に登録した。そこで出会ったのが、同じ大学への内部進学を決めていた男子高校生、大輔だった。
「へえ、あのお嬢様学校から一般入試で? 根性あるんだね。僕の周りにはいないタイプだな」
系列校育ち特有の余裕と、洗練されたファッション。女子校の箱庭で生きてきた裕香にとって、大輔の放つ奔放なオーラは、これまで見たことのないほど眩しく見えた。
合格後の2月。大輔とのデートは、裕香にとって驚きの連続だった。門限を気にする彼女を「もう大学生になるんだからさ」と笑い飛ばし、都会の喧騒へと連れ出す彼。大輔に惹かれるほど、裕香は「お嬢様」という殻を脱ぎ捨てたいという欲求に駆られた。
3月の春休み。大輔の誘いで、彼の自宅にある広大な敷地内の「離れ」へと招かれた。
初めての日。裕香の心には強い躊躇と恐怖があったが、それ以上に「彼に嫌われたくない、子供だと思われたくない」という一心で、彼を受け入れた。しかし、大輔にとって彼女の「うぶさ」は、愛情の対象ではなく、格好の「おもちゃ」に過ぎなかった。大輔は高校時代から遊び慣れた、その界隈では有名なプレイヤーだった。
「そんなに固まらないでよ。もっと僕を楽しませて?」
離れの部屋という、誰にも邪魔されない密室で、裕香の奉仕は次第にエスカレートしていった。大輔は裕香の純真さを利用し、彼女の自尊心を削るような要求を「愛の証明」として求めた。
悲劇はさらに深まった。ある夜、離れの部屋にいたのは大輔だけではなかった。彼の悪友たちが集まっており、裕香は大輔に言われるがまま、彼らの間を「まわされる」という地獄を味わう。
拒絶すれば、この唯一の「外の世界との繋がり」が消えてしまう。その恐怖が、彼女の足をすくませた。
さらに追い打ちをかけたのは、現実の「外の世界」の洗礼だった。大輔には、公立高校に通う派手な交際相手のギャルがいたのだ。裕香の存在を知った彼女は、大輔の仲間と共に裕香を呼び出し、「名門校の泥棒猫」と罵詈雑言の嵐。
それだけでは飽き足らず、実力行使に出た。
彼女たちは裕香が言い訳できないよう、顔や足などの目立つ場所を巧妙に避け、服に隠れるお腹や背中を何度も殴りつけた。お嬢様として守られてきた柔らかい肌に、どす黒い痣が刻まれていく。肉体的な痛み以上に、自分が信じていた「自由」の代償がこれほどまでに醜悪で暴力的なものであるという事実に、裕香の精神は崩壊した。
3月31日。春の光が差し込む中、裕香は一人、自室で震えていた。あんなに憧れ、猛勉強して手に入れたはずの名門大学。けれど、入学式の案内を見るだけで、あの「離れ」での吐き気のするような記憶と、服の下に隠した痣の痛みがフラッシュバックする。
結局、裕香はその大学へ籍は置いたものの、一度も門をくぐることはなかった。
「どうしても体調が優れなくて……」
心配する両親に、彼女はそれ以上の理由を口にすることはできなかった。財界に名の知れた父に、母に、自分が「離れ」で何をさせられ、見知らぬ女に殴られたなど、死んでも言えるはずがない。
自力で掴んだはずの自由が、あまりにも残酷な形で彼女を壊した。
一生消えない傷跡を抱えたまま、彼女の時計は、あの春休みで止まったままになった。
裕香が通う学校は、財界の重鎮や高級官僚の令嬢たちが、代々その血筋と品位を守るために通う真の「お嬢様学校」だった。中学や高校からの編入生は一人もおらず、そこにあるのは血統と資産による強固な階級社会。男性への免疫など、育つはずもない環境だった。
多くの同級生たちが中堅大学で満足する中、裕香には人知れず野心があった。自らの意志で猛勉強を始め、高校3年生の冬、ついに実力で名門私立大学の合格を勝ち取った。温室から一歩踏み出し、自力で掴んだ「自由」の切符。その全能感が、彼女の警戒心を無にしていた。
合格直後、裕香は期待に胸を膨らませ、その大学の「合格者コミュニティ」に登録した。そこで出会ったのが、同じ大学への内部進学を決めていた男子高校生、大輔だった。
「へえ、あのお嬢様学校から一般入試で? 根性あるんだね。僕の周りにはいないタイプだな」
系列校育ち特有の余裕と、洗練されたファッション。女子校の箱庭で生きてきた裕香にとって、大輔の放つ奔放なオーラは、これまで見たことのないほど眩しく見えた。
合格後の2月。大輔とのデートは、裕香にとって驚きの連続だった。門限を気にする彼女を「もう大学生になるんだからさ」と笑い飛ばし、都会の喧騒へと連れ出す彼。大輔に惹かれるほど、裕香は「お嬢様」という殻を脱ぎ捨てたいという欲求に駆られた。
3月の春休み。大輔の誘いで、彼の自宅にある広大な敷地内の「離れ」へと招かれた。
初めての日。裕香の心には強い躊躇と恐怖があったが、それ以上に「彼に嫌われたくない、子供だと思われたくない」という一心で、彼を受け入れた。しかし、大輔にとって彼女の「うぶさ」は、愛情の対象ではなく、格好の「おもちゃ」に過ぎなかった。大輔は高校時代から遊び慣れた、その界隈では有名なプレイヤーだった。
「そんなに固まらないでよ。もっと僕を楽しませて?」
離れの部屋という、誰にも邪魔されない密室で、裕香の奉仕は次第にエスカレートしていった。大輔は裕香の純真さを利用し、彼女の自尊心を削るような要求を「愛の証明」として求めた。
悲劇はさらに深まった。ある夜、離れの部屋にいたのは大輔だけではなかった。彼の悪友たちが集まっており、裕香は大輔に言われるがまま、彼らの間を「まわされる」という地獄を味わう。
拒絶すれば、この唯一の「外の世界との繋がり」が消えてしまう。その恐怖が、彼女の足をすくませた。
さらに追い打ちをかけたのは、現実の「外の世界」の洗礼だった。大輔には、公立高校に通う派手な交際相手のギャルがいたのだ。裕香の存在を知った彼女は、大輔の仲間と共に裕香を呼び出し、「名門校の泥棒猫」と罵詈雑言の嵐。
それだけでは飽き足らず、実力行使に出た。
彼女たちは裕香が言い訳できないよう、顔や足などの目立つ場所を巧妙に避け、服に隠れるお腹や背中を何度も殴りつけた。お嬢様として守られてきた柔らかい肌に、どす黒い痣が刻まれていく。肉体的な痛み以上に、自分が信じていた「自由」の代償がこれほどまでに醜悪で暴力的なものであるという事実に、裕香の精神は崩壊した。
3月31日。春の光が差し込む中、裕香は一人、自室で震えていた。あんなに憧れ、猛勉強して手に入れたはずの名門大学。けれど、入学式の案内を見るだけで、あの「離れ」での吐き気のするような記憶と、服の下に隠した痣の痛みがフラッシュバックする。
結局、裕香はその大学へ籍は置いたものの、一度も門をくぐることはなかった。
「どうしても体調が優れなくて……」
心配する両親に、彼女はそれ以上の理由を口にすることはできなかった。財界に名の知れた父に、母に、自分が「離れ」で何をさせられ、見知らぬ女に殴られたなど、死んでも言えるはずがない。
自力で掴んだはずの自由が、あまりにも残酷な形で彼女を壊した。
一生消えない傷跡を抱えたまま、彼女の時計は、あの春休みで止まったままになった。
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