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CASE 4:ロジカル・フォール(合理性の罠)
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偏差値68。その数字は、沙織にとって「感情に流されない知性」の証明だった。都内屈指の進学校である女子校で、彼女は常に物事を論理的に解釈しようと努めてきた。その凛とした佇まいと冷静な判断力は周囲の生徒からも厚い信頼を寄せられ、同性の下級生から「憧れの先輩」として告白されたこともある。そんな「持てる者」としての余裕が、彼女の自意識をさらに強固なものにしていた。
恋愛についても、「若いうちに経済的・精神的に成熟した人間と交流を持つことは、将来のキャリア形成における有効な投資である」という、どこか冷めた、しかしひどく幼い理論武装を抱えていた。
12月、指定校推薦で最難関私立大学への合格が決まると、彼女はその「理論」を深めるべく、以前からSNSでフォローし、鋭い市場分析に惹かれていた若手投資家、聖夜(せいや)の投稿に熱心に目を通すようになった。沙織は自分から会いたいなどとは露ほども思わず、ただ、彼の知見に触れたいという純粋な学習欲からダイレクトメッセージを送った。
『合格が決まり、春から大学生になります。聖夜さんの論理的な思考に以前から感銘を受けていました。もしよろしければ、メッセージ等で投資の基礎についてご教授いただけないでしょうか』
数日後、届いた返信は沙織の選民意識を激しく揺さぶった。
『合格おめでとう。文章から君の聡明さが伝わってくるよ。文字だけでは伝えきれない本質的なロジックがある。僕が直接、君を指導してあげよう。君なら、僕の時間を割く価値がある』
1月の冷え込んだ夜、沙織は両親に「大学の入学前セミナーや、高度な投資・会計の勉強会に通う」と説明した。知的な追求を喜ぶ両親は、娘の言葉を疑うことなく、夜遅くまでの外出を許可した。
聖夜との「指導」は、常に彼の生活感のない高級タワーマンションの一室で行われた。初めての夜、聖夜が沙織の体に触れたとき、彼女は想像を絶する恐怖と不快感に襲われた。しかし、彼は優しく微笑みながら囁いた。
「沙織さんは賢いからわかるよね。愛なんていう曖昧な言葉に頼るより、お互いの欲求を合理的に処理する方が、よほど誠実な関係だよ。君の学習能力の高さ、期待してるから」
沙織はそれを「生物学的な初期反応に過ぎない」と脳内で強引に処理し、「そうですね、私もそう思います」と、自らの知性を盾にして心が発する悲鳴を封じ込めた。同性の下級生から向けられる純粋な敬愛を「非論理的な感情」と切り捨ててきた彼女にとって、ここで「怖気づく自分」を認めることは、これまで築き上げた全能感の崩壊を意味していた。
2月、3月と月日が流れるにつれ、聖夜による「直接指導」は、単なる「無償の奉仕」へと変質していった。
聖夜は、沙織が学校で培ってきた「勤勉さ」を、性の奉仕へと転向させるように仕向けた。
「次は、この資料にあるようなテクニックを試してみようか。君なら、一般の女よりずっと早くマスターできるはずだ」
沙織は、大学受験で培った集中力を、聖夜を満足させるための「研究」に注ぎ込んだ。制服姿で彼の要求に応えることも、「社会学的・文化的な倒錯の実験であり、自分を客観視する訓練だ」と自分に言い聞かせた。
しかし、3月31日。その「理論」は、あまりにも無残な形で崩壊する。聖夜から突然送られたのは、一方的なブロックと、SNS上の短い投稿だった。
『女子高生(JK)という限定的な希少価値を、いかに低コストで最大効率よく運用するか。今期のマーケットリサーチは終了。これからは市場価値の落ちる大学生には興味ない』
沙織が「直接指導」だと思っていたものは、聖夜にとっては、女子校育ちの潔癖な少女を効率よく調教するための、安っぽいマニュアルに過ぎなかった。自分が誇りにしていた偏差値も、慕ってくれた同性の後輩たちの信頼も、すべては「扱いやすい、学習能力の高い玩具」としてのスペックに書き換えられていた。
3月31日の夜。部屋に置かれたままの、難解な経済学の参考書。そのページは、1月のまま止まっていた。沙織が「合理的な選択」だと思って積み上げてきたものは、ただの、救いようのない「知的な自惚れ」だった。
明日から大学生。けれど、かつて自信に満ち溢れていた彼女の瞳には、もう、自分の知性を信じる力は残っていなかった。
恋愛についても、「若いうちに経済的・精神的に成熟した人間と交流を持つことは、将来のキャリア形成における有効な投資である」という、どこか冷めた、しかしひどく幼い理論武装を抱えていた。
12月、指定校推薦で最難関私立大学への合格が決まると、彼女はその「理論」を深めるべく、以前からSNSでフォローし、鋭い市場分析に惹かれていた若手投資家、聖夜(せいや)の投稿に熱心に目を通すようになった。沙織は自分から会いたいなどとは露ほども思わず、ただ、彼の知見に触れたいという純粋な学習欲からダイレクトメッセージを送った。
『合格が決まり、春から大学生になります。聖夜さんの論理的な思考に以前から感銘を受けていました。もしよろしければ、メッセージ等で投資の基礎についてご教授いただけないでしょうか』
数日後、届いた返信は沙織の選民意識を激しく揺さぶった。
『合格おめでとう。文章から君の聡明さが伝わってくるよ。文字だけでは伝えきれない本質的なロジックがある。僕が直接、君を指導してあげよう。君なら、僕の時間を割く価値がある』
1月の冷え込んだ夜、沙織は両親に「大学の入学前セミナーや、高度な投資・会計の勉強会に通う」と説明した。知的な追求を喜ぶ両親は、娘の言葉を疑うことなく、夜遅くまでの外出を許可した。
聖夜との「指導」は、常に彼の生活感のない高級タワーマンションの一室で行われた。初めての夜、聖夜が沙織の体に触れたとき、彼女は想像を絶する恐怖と不快感に襲われた。しかし、彼は優しく微笑みながら囁いた。
「沙織さんは賢いからわかるよね。愛なんていう曖昧な言葉に頼るより、お互いの欲求を合理的に処理する方が、よほど誠実な関係だよ。君の学習能力の高さ、期待してるから」
沙織はそれを「生物学的な初期反応に過ぎない」と脳内で強引に処理し、「そうですね、私もそう思います」と、自らの知性を盾にして心が発する悲鳴を封じ込めた。同性の下級生から向けられる純粋な敬愛を「非論理的な感情」と切り捨ててきた彼女にとって、ここで「怖気づく自分」を認めることは、これまで築き上げた全能感の崩壊を意味していた。
2月、3月と月日が流れるにつれ、聖夜による「直接指導」は、単なる「無償の奉仕」へと変質していった。
聖夜は、沙織が学校で培ってきた「勤勉さ」を、性の奉仕へと転向させるように仕向けた。
「次は、この資料にあるようなテクニックを試してみようか。君なら、一般の女よりずっと早くマスターできるはずだ」
沙織は、大学受験で培った集中力を、聖夜を満足させるための「研究」に注ぎ込んだ。制服姿で彼の要求に応えることも、「社会学的・文化的な倒錯の実験であり、自分を客観視する訓練だ」と自分に言い聞かせた。
しかし、3月31日。その「理論」は、あまりにも無残な形で崩壊する。聖夜から突然送られたのは、一方的なブロックと、SNS上の短い投稿だった。
『女子高生(JK)という限定的な希少価値を、いかに低コストで最大効率よく運用するか。今期のマーケットリサーチは終了。これからは市場価値の落ちる大学生には興味ない』
沙織が「直接指導」だと思っていたものは、聖夜にとっては、女子校育ちの潔癖な少女を効率よく調教するための、安っぽいマニュアルに過ぎなかった。自分が誇りにしていた偏差値も、慕ってくれた同性の後輩たちの信頼も、すべては「扱いやすい、学習能力の高い玩具」としてのスペックに書き換えられていた。
3月31日の夜。部屋に置かれたままの、難解な経済学の参考書。そのページは、1月のまま止まっていた。沙織が「合理的な選択」だと思って積み上げてきたものは、ただの、救いようのない「知的な自惚れ」だった。
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