檻(女子校)の外は底なし沼。 JK解放感と背伸びの性

MisakiNonagase

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CASE 3:シュガー・コート(裏垢の誘惑)

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偏差値65。その数字は、珠理奈にとって「真面目に努力すれば守れる、自分への最低限の礼儀」だった。人気のある私立女子中高一貫校に通う彼女は、学校では熱心にノートを取り、放課後は図書室に残るような模範的な生徒だった。けれど、そのリュックには密かな「逃げ場」がある。揺れる韓国アイドルの缶バッジ。それが、彼女を窮屈な優等生の世界から、煌びやかなエンターテインメントへと繋いでいる唯一の印だった。

​もう一つの逃げ場は、親にも学校の友人にも内緒にしている裏アカウントのインスタグラムだった。アイコンも投稿も愛犬のトイプードル「メイ」。名前も「メイ」として、身分が特定されないよう細心の注意を払っていた。そこでは憧れのアイドルの投稿を追い、時には気まぐれに、小さなライブハウスを中心に活動する地下アイドルのハルトもフォローしていた。ハルトは一般人から見れば十分に輝いて見えたが、その実、地下アイドル界隈では万年二流の、鳴かず飛ばずの存在だった。

​12月、指定校推薦で第一志望の大学への合格が決まった際、珠理奈は抑えきれない解放感をその裏垢に投稿した。

「🌸メイもお祝い! 指定校推薦で合格したよ。春から大学生!」

数え切れないほどの「おめでとう」の中に、一つ、特別な通知が紛れていた。ハルトからのコメントだった。

『メイちゃん、合格おめでとう! 頑張り屋さんなのは投稿から伝わってたよ。本当にお疲れ様』

​画面を見つめたまま、珠理奈の心臓は跳ね上がった。ライブに一度も足を運んだことすらない、ただのフォロワーの一人に過ぎない自分を、彼は認知していた。その後、彼から届いたダイレクトメッセージは、珠理奈をさらなる夢想の世界へと引きずり込んだ。

『合格祝いで、二人だけでお祝いしない? 頑張ったご褒美をあげたいな』

​初めて会ったハルトは、画面越しに見ていたステージの上よりもずっと穏やかで、甘く、優しい言葉を絶やさなかった。

「メイちゃん……あ、珠理奈ちゃんって言うんだ。女子校のお姫様って感じ。でも、これからはもう大学生。大人の世界を知る権利があるよ」

その囁きに、珠理奈は舞い上がった。自分は選ばれたのだ。付き合おうと言われたとき、彼女に拒絶する選択肢などなかった。

​ハルトの愛の形は、珠理奈が夢見ていたそのものだった。彼は常に優しく、一度も声を荒らげることはない。しかしその優しさの裏側で、ハルトは珠理奈の「早く大人になりたい」という背伸びと、合格後の「解放感」を巧みに利用していた。彼は決して直接的な要求を口にせず、ただ、マンションの一室で困ったように微笑んで見せるだけだった。

​「珠理奈ちゃんは賢いし、もうすぐ大学生だもんね。俺が今、何を望んでるか……言わなくても伝わっちゃうかな。君が自ら進んで応えてくれる姿、すごく綺麗で、誇らしいよ」

​その「誇らしい」という言葉が、珠理奈の自尊心を激しく揺さぶった。彼に「物分かりの良い、自立した女性」だと思われたい。その強烈な自己暗示が、彼女を自ら奉仕の沼へと突き動かした。ハルトの計算された優しさに包まれながら、彼女は自分の意志だと思い込まされたまま、完璧に「都合のいい女」の役割を完遂していった。

​しかし、本当の卒業である3月31日を前に、現実は泥のように露呈した。​ハルトの家へ向かったある日、珠理奈はマンションの入り口で、自分と同じように「背伸び」をした雰囲気の女子高生と、さらに派手な大学生が、ハルトを巡って険悪な空気で立ち尽くしている場面に遭遇してしまう。混乱する珠理奈が後に知ったのは、ハルトが複数のファンや、多額の資金を貢いでくれる年上の女性たちと遊びまくっているという、二流アイドル特有の無節操な実態だった。

​動揺する珠理奈を前にしても、ハルトは最後まで「優しく」突き放した。

「珠理奈ちゃん、もう卒業だね。大学生になったら、もっと相応しい人が現れるよ。俺は、今の『女子高生』の君が、一番好きだったんだ」

​その瞬間、珠理奈は気づいた。自分が彼に捧げた「自発的な献身」も、勉強を頑張って手に入れた「指定校推薦」というステータスも、彼にとっては単なる『女子高生(JK)』というブランドの消費期限を楽しむためのスパイスに過ぎなかったのだ。

3月31日。籍の上では高校生最後の日。リュックの隅で、傷ついた韓国アイドルのバッジが光を失っていた。

裏垢の「メイ」として受け取った祝福は、二流アイドルの空腹を満たすための「招待状」でしかなかった。珠理奈が「大人の女性」への階段だと思って自ら進んで登っていたのは、甘い砂糖で塗り固められた、底なしの沼だった。

​明日から大学生。けれど、彼女が手にしたのは輝かしい未来ではなく、誰にも言えない、甘く残酷な「性の失敗」の記憶だけだった。
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