アウトバウンド計画

MisakiNonagase

文字の大きさ
1 / 12

はじめに

しおりを挟む
東京・某私立大学の学生寮の一室。深夜にもかかわらず、電気は煌々と灯り、机の上には缶ビールとスナック菓子が散らばっていた。教育学部の紀平大智(20)、法学部の伊藤颯太(21)、工学部の渡辺陽向(20)。学内でも「知のトリオ」と囁かれる三人は、平均以上の頭脳を持ち、それぞれの専門分野で鋭い洞察を見せていた。

話題は、海外で活躍する日本人プロスポーツ選手の破格の年俸に移っていた。
「すげーなぁ。才能ってやつは、国境も簡単に越えるんだな」陽向が感心したように呟く。
「そりゃあ、市場の大きさが違うからな」颯太が法律家的に分析する。「需要と供給の原則だ」

すると颯太が、ふと別の話題を振った。
「ところでさ、スポーツ選手だけじゃないらしいぜ。AV女優も、ある種の『出稼ぎ』みたいな感じで海外進出してるって話だ。日本のAV女優ってブランド、海外ではかなり高い評価らしいんだよ」
陽向が眉をひそめる。「え? でもあれって…現地で撮影とか?」
「いや、そうじゃない。別に現地で脱がなくてもいいんだって。いわゆる『個人契約』で、ファンミーティングとか、高級パーティーの接待とか、そういうのに呼ばれるらしい。だけど…」颯太の声が少し沈んだ。「ネットでちょっと深掘りしてみたら、行方不明になったり、ひどい目に遭って帰ってきたりって話も、ちらほらあるみたいだ。信頼できる仲介者がいないから、危ない橋を渡っちゃう人がいるんだろうな」

その時、黙って話を聞いていた大智が、ゆっくりとビールの缶を置いた。彼の目は、教育者を志す者らしい、一種の熱を帯びていた。
「…俺たちが、その『信頼できる仲介者』にならないか?」

一瞬、部屋が静まり返った。陽向と颯太が大智を見つめる。
「何言ってんだ、大智。そりゃあ…」
「人身売買じゃない」大智の声は低く、しかし確かだった。「しっかりしたプランを立てて、彼女たち自身の意思で、安全に、かつ正当な対価を得られる形で海外に送り出す。今、躊躇している女優たちに、安心できる環境を提供する『システム』を、俺たちで構築するんだ」

荒唐無稽な提案に聞こえた。しかし、三人の頭脳は既に回転を始めていた。颯太は法的リスクとビジネスモデルを、陽向は情報収集と接触のための技術的プランを、大智は「対象者」の心理と支援の枠組みを、それぞれ瞬時に考えていた。

「面白い」颯太が口元を緩めた。「でも、絶対に法の網にかかっちゃダメだ。グレーでもダメ。真っ白で行く」
「接触方法が最大の難関だな」陽向が腕組みをした。「ターゲットをどう設定する?」
大智が答えた。「狙い目は…もう『脱ぐ』こと自体には抵抗がなく、でもこの業界でもう稼げる見込みが薄くて半ば諦めている、低賃金の企画単体女優だ。所属事務所とは契約が切れかかっている、あるいは事実上つながりが一本線だけの奴。あるいは引退したばかりの人、風俗に堕ちた人、借金を抱えている人…ホストに貢いでしまった人も含めて」
颯太が続けた。「その層は、表立ったSNSはやってないだろう。接触は極めて難しい。だからこそ、綿密な方法が必要だ」

その夜、学生寮の小さな部屋で、一つの「事業計画」が、冗談半分、本気半分で練り上げられていった。実施期間は大学卒業まで。斡旋目標は100人。売上目標は2~3億円。ただし、あくまで彼女たちの収入からの成功報酬制。自分たちの本名や身元、会合場所は絶対に明かさない。業界の闇に足を踏み入れれば、彼ら自身が狙われるリスクもある。

三人は知っていた。これは危険な賭けだ。しかし、彼らの胸には、学問的な好奇心と、どこか世の中を変えてみたいという青年の傲慢さ、そして「救える命があるなら」という偽善にも等しい善意が、入り混じっていた。

こうして、三つの頭脳による、静かで危険な挑戦が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

処理中です...