アウトバウンド計画

MisakiNonagase

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第4章:システムの進化

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ミドリの事件は、痛烈な教訓となった。彼らは「オペレーション・フェニックス」の選定基準とサポート体制を根本から見直した。

1.心理評価の強化: 単なる経歴調査だけでなく、複数回の面談を通じて、対象者の情緒的安定性、リスク認識、協調性を評価する。大智が中心となり、簡単な心理テスト(表面上は「適性確認」)を導入した。

2.段階的アプローチ: 最初から海外渡航は行わず、まず国内で行われる外国人観光客向けの小さなイベント(茶道体験のアシスタントなど、健全なもの)から参加してもらい、適性を見極める。

3.サポートネットワークの構築: 陽向が、海外在住の日本人留学生や、信頼できる現地コーディネーターとのネットワークを少しずつ構築し、単一のガイドに依存しない体制を作り始めた。

4.緊急時マニュアルの整備: 颯太が、あらゆる想定されるトラブル(契約違反、病気、犯罪被害など)に対する法的・実務的マニュアルを作成した。

より慎重になった選定プロセスは、接触成功率を一時的に下げたが、その分、成功したケースの質と持続性は飛躍的に向上した。5人目、6人目と送り出した女性たちは、ミドリのようなトラブルを起こさず、むしろ初めて「正当に評価された」経験に感激し、リピーターとなっていった。

中でも「ユイ」(仮称)という、引退後も小さな事務所に籍だけ置いていた26歳の女性は、ヨーロッパの某都市で行われた日本アニメのキャラクターイベントで、声優のアシスタントとして働いた。彼女の物静かで品のある振る舞いが現地の関係者に高く評価され、その後、定期的なイベントへの出演が決まった。ユイは収入の安定だけでなく、「女優」ではなく「日本文化の紹介者」として接されることに、大きな喜びを見出していた。
「紀平さん、伊藤さん、渡辺さん…ありがとうございます。また、こんな機会をください」

ユイからの感謝の言葉は、三人にとって、ミドリの事件による心の傷を癒す、何よりの報酬となった。事業は黒字に転じ始め、わずかながら三人の口座にも手数料が入るようになった。しかし、彼らはその金を事業の運転資金に充て、自分たちの懐を潤すことはしなかった。あくまでこれは「実験」であり、「システム構築」のための資金だと、自分に言い聞かせていた。



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