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第3章:闇の匂い
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「オペレーション・フェニックス」は順調に思えた。三人はそれぞれの学業と並行して、この「事業」に没頭した。陽向は接触可能なターゲットのリストを少しずつ増やし、颯太は各国の法律の差異に対応するため契約書をアップデートし続け、大智は「候補者」との心理的な折衝を担当した。
三人目に接触した「ミドリ」(仮称)は、状況がより深刻だった。28歳。引退後、ホストクラブの常連となり、多額の借金を抱え、風俗店で働きながら返済に追われていた。彼女は最初のメールに対し、飢えたような勢いで返信してきた。
「いくらくれる? すぐにでも行きたい。どこでもいい」
大智は警戒した。絶望は判断力を鈍らせる。彼は慎重に、条件とリスクを何度も説明した。しかしミドリは、「早く金をくれ」という一点しか見ていなかった。
「大丈夫、大丈夫だから。契約書も何でもサインする。早くして」
颯太が警告した。「これは危ないな。契約は理解していない。現地でトラブルを起こす可能性が高い」
「でも、放っておけば、もっと危ない業者の餌食になるかもしれない」大智は葛藤した。
結局、条件をさらに厳格にし(前渡し金なし、行動制限条項の強化)、小さなイベントを紹介することにした。しかし、これが彼らの初めての大きな挫折となった。
渡航先のホテルで、ミドリは契約で禁じられていた「個人客との私的接触」を行い、高額な現金を受け取っていた。同行ガイドが制止しようとすると、逆に激しく反抗した。
「あんたたちの取り分が少ないからよ! 自分で稼いじゃいけないわけ?」
事態は急速に悪化した。イベント主催者から苦情が入り、ミドリは報酬の半分を没収されるという罰則を受けた。帰国後、彼女は逆上して三人を脅迫めいたメールで責め立てた。
「あんたたちのせいで損したじゃない! 弁償しろ! そうじゃないと、あんたたちが学生でやってること、ばらしちゃうからね!」
三人は初めて、冷や汗をかいた。颯太が冷静に対応した。「契約書の違反条項に基づき、我々は一切の責任を負いません。また、あなたの脅迫的な言動は記録しています。これ以上の連絡はご遠慮ください」
メールはぱったり止んだが、三人は身の危険を感じた。彼らが学生であること、そしてこの「事業」の存在が、少しばかり知られてしまった可能性があった。
「油断は禁物だ」陽向がパソコンを閉じながら言った。「俺たちが接触しているのは、そもそも追い詰められた人たちだ。その絶望が、こっちに向くこともある」
大智は無力感を覚えた。教育の力で人を変えられると思っていたが、そんなに甘くはなかった。彼はミドリに、本当に助けの手を差し伸べられたのだろうか? それとも、単に「よりマシな業者」として利用されただけなのだろうか?
三人目に接触した「ミドリ」(仮称)は、状況がより深刻だった。28歳。引退後、ホストクラブの常連となり、多額の借金を抱え、風俗店で働きながら返済に追われていた。彼女は最初のメールに対し、飢えたような勢いで返信してきた。
「いくらくれる? すぐにでも行きたい。どこでもいい」
大智は警戒した。絶望は判断力を鈍らせる。彼は慎重に、条件とリスクを何度も説明した。しかしミドリは、「早く金をくれ」という一点しか見ていなかった。
「大丈夫、大丈夫だから。契約書も何でもサインする。早くして」
颯太が警告した。「これは危ないな。契約は理解していない。現地でトラブルを起こす可能性が高い」
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結局、条件をさらに厳格にし(前渡し金なし、行動制限条項の強化)、小さなイベントを紹介することにした。しかし、これが彼らの初めての大きな挫折となった。
渡航先のホテルで、ミドリは契約で禁じられていた「個人客との私的接触」を行い、高額な現金を受け取っていた。同行ガイドが制止しようとすると、逆に激しく反抗した。
「あんたたちの取り分が少ないからよ! 自分で稼いじゃいけないわけ?」
事態は急速に悪化した。イベント主催者から苦情が入り、ミドリは報酬の半分を没収されるという罰則を受けた。帰国後、彼女は逆上して三人を脅迫めいたメールで責め立てた。
「あんたたちのせいで損したじゃない! 弁償しろ! そうじゃないと、あんたたちが学生でやってること、ばらしちゃうからね!」
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