母の黒いブーツ 〜熟女AV女優・彩子 その淫らな誇り〜

MisakiNonagase

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第16章:夜の共犯者

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​20時を過ぎ、スナックのネオン看板に灯がともった。​僕はカウンターの隅に座り、客を装って母の働く姿を眺めていた。母は「ママ」として、地元の常連客たちに笑顔で酒を作っている。

北関東の夜にふさわしい、派手すぎないブラウスを纏い、世実話に花を咲かせるその姿は、どこからどう見ても真っ当な商売人だった。​けれど、僕は知っている。

彼女が時折、カウンターの下に置いた「仕事用」のスマートフォンを、盗み見るようにチェックしていることを。

​「ママ、最近なんだか綺麗になったんじゃない? 都会の空気でも吸ってきたのかい」

​酔った客の一人が、冗談めかして母に声をかける。
母は「あら、お上手ねえ」とコロコロ笑いながら、少しだけ得意げに髪をかき上げた。その仕草は、無意識のうちに「中村彩子」としての自信が漏れ出しているかのようだった。

​その時、カウンターの下でスマホが短く、激しく震えた。母は客の注文を聞くふりをして、手際よく画面をスワイプした。

​【オフィス・エクラ:緊急】明日、別モデルの急病により撮影会の枠に空きが出ました。運営としては中止にしたくないため、彩子さんで代替をお願いできませんか? すでに予約サイトでは『特別枠』として告知済みです。

​撮影会サイトのシステムは非情だ。予め組まれた「コマ(枠)」に穴が開くことを事務所は極端に嫌う。代替として白羽の矢が立った母は、それを「自分が穴埋めに使われている」とは微塵も思わず、むしろ「代わりが効かない存在として、自分が必要とされている」と、歪んだ誇らしさで胸を躍らせていた。

​母は客との会話を続けながら、ブラウスの下で指先を動かし、即座に承諾の返信を送った。明日、この店をパートのおばさんに任せ、再び「中村彩子」へと変身するための手配を、実の息子の目の前で行っているのだ。

​「京介、あんまりお酒進んでないじゃない。どうしたの、体調でも悪いの?」 

​母が、心配そうな母親の顔で僕を覗き込んできた。
さっきまで、画面の向こう側のマネージャーと、ドタキャンされた枠の「埋め合わせ」についてやり取りしていたかもしれないその瞳が、今はただ、実直に僕の身を案じている。

​「……いや、大丈夫。エアコンの型番、さっきスマホにメモしておいたから」

​僕は、自分の声が不自然に上擦るのを抑えるので精一杯だった。

母の無頓着さは、もはや罪に近い。この場所で、自分を愛する息子や、自分を慕う常連客に見守られながら、彼女は自分という「聖域」を切り売りする快感に酔いしれている。

​客がカラオケで古い演歌を歌い始め、店内が喧騒に包まれる。母は手拍子を送りながら、ふと、僕と視線を合わせた。

その瞬間に見せた彼女の微笑みは、僕を慈しむ「麻紀」のものなのか、それとも、空いた『コマ』を自分が埋めるという全能感に満ちた「彩子」の顔なのか。

​僕は、手元のグラスに残った氷を、奥歯で激しく噛み砕いた。母の浅はかなプライドと、僕の知っている残酷な真実。

このスナックのカウンターを挟んで、僕たちの親子という関係は、すでに修復不可能なほどに歪みきっていた。

​「お母さん、明日は少し急な用事ができちゃって、朝早くから出るから。京介、ゆっくり寝てていいからね」

​母の言葉は、急遽舞い込んだ「追加の仕事」への高揚で、わずかに弾んでいた。
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