幼なじみのダブルス。挫折した彼と私で挑む

MisakiNonagase

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第3章:絶望の淵と、未玖の愛の告白

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2025年1月。地元に戻った石井翔太は、通信制高校へ編入した。
かつてコートを縦横無尽に駆け回った180cmの体躯は、今は自室のベッドの上で丸まっている。右足のギプスは外れたが、重い後遺症と心の傷で、歩くことさえ億劫になっていた。
​「翔太、おでん持ってきたよ。大根、柔らかく煮たから」
​早川未玖は、毎日欠かさず生け垣を越えてやってきた。
彼女は今、18歳。東慶大学理工学部という超難関を目指し、自身の受験勉強も佳境に入っている。それなのに、彼女は自分の参考書を広げる場所を、あえて翔太の部屋の座卓に選んだ。
​「……ミク、自分の勉強しろよ。俺にかまってる暇なんてないだろ」
「してるよ。翔太の隣だと、集中できるんだもん」
​嘘だ。翔太の部屋はカーテンが閉め切られ、空気は淀んでいる。
それでも未玖は笑って、世間話をし、数学の難問を解く鉛筆の音を響かせた。
​3月のある雨の日。
窓の外で桜の蕾が震える午後のことだった。
「もう……バドミントンも、学校も、人生も、どうでもいいよ」
​翔太の口から、澱(おり)のような言葉が漏れた。
その瞬間、未玖の手が止まった。彼女はゆっくりと立ち上がり、翔太のベッドの縁に腰を下ろすと、その冷え切った大きな手を両手でぎゅっと握りしめた。
​「……私、翔太のことがずっと好きだった」
​唐突な告白に、翔太の肩が震えた。
「幼稚園の砂場で転んだ時も、中学の大会で優勝した時も。ずっと、ずっと見てた。だから……」
​未玖の声が震え、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちて翔太の甲を濡らす。
「今の、死んだような顔をしてるあなたを見てるのが、何よりも辛いの! 立ち上がって、翔太。お願いだから、私と一緒に未来を作ろう」
​「未来……? 俺に何ができるってんだ。ラケットも握れない、勉強もできない、ただのドロップアウトだぞ」
​「わからないなら、一緒に探せばいい! まずは目標を決めよう」
未玖は涙を拭い、力強い眼差しで翔太を見据えた。
「私、東慶大学に行く。翔太も……同じ大学に行かない?」
​翔太は目を見開いた。
「東慶大学? 冗談だろ。偏差値40もない俺が、日本トップクラスのあそこになんて……」
​「できるよ」
未玖の言葉には、一点の曇りもなかった。
「あなたには、誰にも負けない集中力がある。一度決めたら、泥にまみれてもやり抜く根性がある。私はそれを、コートの上で何度も見てきた。勉強だって、やり方は同じ。私が全部、横で教えてあげるから」
​翔太は、未玖の握る手の熱さを感じていた。
絶望という深い闇の底で、彼女の言葉だけが唯一の光に見えた。
​「……ミクの目標が、俺の目標か」
「うん。二人の目標は、いつも一緒。そうでしょ?」
​2025年、春。
挫折した天才少年と、彼を信じ抜く少女。
無謀とも言える「東慶大学合格」という名の、二人の新しいダブルスが始まった。
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