幼なじみのダブルス。挫折した彼と私で挑む

MisakiNonagase

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第2章:清風高校への旅立ちと、コートでの悲劇

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2024年4月。石井翔太は、新幹線で2時間の距離にあるバドミントンの名門、私立清風高校へと進学した。
地元を離れる日、駅のホームで早川未玖は泣かなかった。
​「1番になったら、焼き肉おごってよね」
​そんな軽口を叩きながら、彼女は翔太のリュックに、手作りのお守りと「東慶大学」の赤本から切り抜いた英単語リストを押し込んだ。
「バドミントンだけじゃ、バカになっちゃうから。毎日5個、必ず覚えて報告すること」
​それが二人の、遠距離での新しい「日課」になった。
​清風高校での生活は過酷だった。朝5時のロードワークから始まり、夜21時までの猛練習。
だが、翔太の才能はそこでも際立っていた。180cmの長身から繰り出される時速400km近いスマッシュ。1年生ながら、彼は夏のインターハイ予選の団体戦メンバーに抜擢されたのだ。
​「ミク、メンバーに入った。予選、見に来れるか?」
ビデオ通話越しに、未玖は自分のこと以上に喜んだ。
「当たり前でしょ! 夜行バスのチケット、もう取っちゃうから」
​予選当日。会場の熱気は最高潮に達していた。
コートサイドで見守る未玖の視線の先で、翔太は獣のように躍動していた。
第1ゲームを先取し、第2ゲームもマッチポイント。相手の放った鋭いヘアピンに対し、翔太は迷わずネット際へダイブした。
​鮮やかな着地――。
はずだった。
​「グシャッ」
​鈍い音が、静まり返った館内に響く。
翔太の右足首が、あり得ない方向に折れ曲がっていた。
「……っ、あ、ああああ!」
​絶叫と共に、翔太はコートに崩れ落ちた。
救急車のサイレン、泣き叫ぶ未玖の声。意識が遠のく中で、翔太が最後に見たのは、スコアボードが「20-20」で止まったままの光景だった。
​手術の結果は、右足首の複雑骨折。
全治6ヶ月。だが、医師の言葉はそれ以上に残酷だった。
「……競技レベルへの完全復帰は、難しいかもしれません」
​3ヶ月後。松葉杖をついて部活に戻った翔太を待っていたのは、かつての賞賛ではなかった。
「お前のせいで、今年のインターハイは台無しだ」
「推薦組のくせに、一瞬で壊れて。コスパ悪いよな」
​上級生たちの冷ややかな視線。かつてのダブルスペアは、すでに新しい相方と練習に励んでいる。
コートの隅でシャトルを拾うことさえ許されない空気。
翔太の心は、身体の傷よりも深く、修復不可能なほどに引き裂かれていった。
​12月の冷たい雨の日。
翔太は誰にも告げず、退学届を提出した。
手元に残ったのは、使い古したラケットと、未玖がくれたボロボロの英単語リストだけだった。
​「……ただいま」
​17歳の冬。夢を失い、杖をついて帰ってきた翔太を、生け垣越しに見つめる未玖の瞳には、こらえきれない涙が溜まっていた。
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