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第6章:通学編 —— 紺色の制服と、朝の5番ホーム(中1・春)
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1. 初登校の朝
2026年4月。
昨日までのランドセルが嘘のように、遥人の肩には新しい革のスクールバッグが重くのしかかっていた。
まだ生地の硬い詰襟の制服。鏡の前で何度もネクタイ(結び切りタイプだが)を直したせいで、予定よりも5分遅れて家を出た。
「遥人、忘れ物ないわね? お弁当持った?」
「わかってるよ、母さん。……行ってきます!」
駅までの道。桜の花びらが舞う中、遥人は早歩きで駅の5番ホームを目指した。
そこには、自分とは違う、けれどどこか見覚えのある紺色のブレザーを着た少女が立っていた。
「あ、遥人くん!」
朱里だった。
制服姿の彼女は、昨日のディズニーランドでの私服よりも、ずっと大人びて見えた。校章のバッジが朝日に反射して、眩しく光っている。
「似合ってるね、その制服」
「遥人くんこそ。……なんか、急に中学生って感じがする」
二人は並んで、各駅停車の車両に乗り込んだ。
車内は通勤客で混み合っていたが、二人はドアの横の小さなスペースに身を寄せ合った。
2. 「バカップル」への覚悟
「ねえ、見て。あそこの中学生、手を繋いでるよ」
近くに座っていた高校生たちが、クスクスと笑いながらこちらを見ている。
かつての塾帰りなら、遥人は真っ赤になって手を離していただろう。けれど、今の彼は違った。
(俺たちは、あの地獄のような受験を一緒に乗り越えたんだ)
遥人は、朱里の手を離すどころか、さらに力を込めて握り直した。
「……朱里、大丈夫?」
「うん。約束したもんね。朝から『バカップル』って思われても、覚悟できてるって」
朱里は少し頬を染めながらも、遥人の肩にそっと寄り添った。
電車が揺れるたび、二人の制服の袖が擦れ合う。
学校は別々だ。遥人は2つ先の駅で降り、朱里はさらにその先まで行く。
この15分間だけが、二人の「共有できる朝」だった。
3. 別々の教室、同じ空
「じゃあ、俺、ここで降りるから」
遥人の降りる駅に着いた。
「うん。……頑張ってね、初日のオリエンテーション」
「朱里も。放課後、またメールするよ」
電車のドアが閉まり、朱里を乗せた車両が遠ざかっていく。
遥人はホームに立ち、彼女が見えなくなるまで見送った。
学校に着くと、そこには全く新しい世界が広がっていた。
自己紹介、部活の勧誘、分厚い教科書の配布。
かつての塾の仲間も何人かいたが、皆それぞれの新しい生活に必死だった。
昼休み、遥人は中庭のベンチで、母が作ってくれたお弁当を広げた。
ふと空を見上げると、抜けるような青空が広がっている。
(今頃、朱里もどこかでお弁当食べてるのかな……)
スマホを持たない二人の間には、授業中の数時間は「沈黙」が流れる。
けれど、その沈黙さえも、今は心地よかった。
同じ空の下で、同じように新しい環境に挑んでいる。その事実が、遥人を強くした。
4. 放課後の寄り道約束
午後3時。
帰りのホームルームが終わると同時に、遥人は足早に駅へ向かった。
駅のベンチに座り、バッグからメモ帳を取り出す。
中学に入ってからの新しい約束。
「月曜日の放課後は、駅前の喫茶店で1時間だけ一緒に勉強する」
やがて、反対方向の電車から、朱里が降りてきた。
「お疲れ様、遥人くん!」
「お疲れ。どうだった、初日?」
「もう、英語の先生が厳しくて大変! でも、数学は塾でやったことの復習だったから、ちょっと安心したかな」
二人は駅前の、少し古びた喫茶店に入った。
ホットケーキを一皿注文し、半分こにする。
「これ、塾の時に約束してた『制服デート』だね」
朱里が嬉しそうにフォークを動かす。
「うん。でも、勉強もちゃんとやらないと。……中学生になったら、浮気しないって約束しただろ?」
「わかってるよ。遥人くんが他の子に取られないように、私も可愛くいる努力、サボらないから」
ホットケーキの甘い湯気の中に、二人の笑い声が溶けていく。
小学生だった二人は、もういない。
けれど、あの冬に誓い合った純粋な気持ちは、この紺色の制服の下で、さらに熱く燃え続けていた。
2026年4月。
昨日までのランドセルが嘘のように、遥人の肩には新しい革のスクールバッグが重くのしかかっていた。
まだ生地の硬い詰襟の制服。鏡の前で何度もネクタイ(結び切りタイプだが)を直したせいで、予定よりも5分遅れて家を出た。
「遥人、忘れ物ないわね? お弁当持った?」
「わかってるよ、母さん。……行ってきます!」
駅までの道。桜の花びらが舞う中、遥人は早歩きで駅の5番ホームを目指した。
そこには、自分とは違う、けれどどこか見覚えのある紺色のブレザーを着た少女が立っていた。
「あ、遥人くん!」
朱里だった。
制服姿の彼女は、昨日のディズニーランドでの私服よりも、ずっと大人びて見えた。校章のバッジが朝日に反射して、眩しく光っている。
「似合ってるね、その制服」
「遥人くんこそ。……なんか、急に中学生って感じがする」
二人は並んで、各駅停車の車両に乗り込んだ。
車内は通勤客で混み合っていたが、二人はドアの横の小さなスペースに身を寄せ合った。
2. 「バカップル」への覚悟
「ねえ、見て。あそこの中学生、手を繋いでるよ」
近くに座っていた高校生たちが、クスクスと笑いながらこちらを見ている。
かつての塾帰りなら、遥人は真っ赤になって手を離していただろう。けれど、今の彼は違った。
(俺たちは、あの地獄のような受験を一緒に乗り越えたんだ)
遥人は、朱里の手を離すどころか、さらに力を込めて握り直した。
「……朱里、大丈夫?」
「うん。約束したもんね。朝から『バカップル』って思われても、覚悟できてるって」
朱里は少し頬を染めながらも、遥人の肩にそっと寄り添った。
電車が揺れるたび、二人の制服の袖が擦れ合う。
学校は別々だ。遥人は2つ先の駅で降り、朱里はさらにその先まで行く。
この15分間だけが、二人の「共有できる朝」だった。
3. 別々の教室、同じ空
「じゃあ、俺、ここで降りるから」
遥人の降りる駅に着いた。
「うん。……頑張ってね、初日のオリエンテーション」
「朱里も。放課後、またメールするよ」
電車のドアが閉まり、朱里を乗せた車両が遠ざかっていく。
遥人はホームに立ち、彼女が見えなくなるまで見送った。
学校に着くと、そこには全く新しい世界が広がっていた。
自己紹介、部活の勧誘、分厚い教科書の配布。
かつての塾の仲間も何人かいたが、皆それぞれの新しい生活に必死だった。
昼休み、遥人は中庭のベンチで、母が作ってくれたお弁当を広げた。
ふと空を見上げると、抜けるような青空が広がっている。
(今頃、朱里もどこかでお弁当食べてるのかな……)
スマホを持たない二人の間には、授業中の数時間は「沈黙」が流れる。
けれど、その沈黙さえも、今は心地よかった。
同じ空の下で、同じように新しい環境に挑んでいる。その事実が、遥人を強くした。
4. 放課後の寄り道約束
午後3時。
帰りのホームルームが終わると同時に、遥人は足早に駅へ向かった。
駅のベンチに座り、バッグからメモ帳を取り出す。
中学に入ってからの新しい約束。
「月曜日の放課後は、駅前の喫茶店で1時間だけ一緒に勉強する」
やがて、反対方向の電車から、朱里が降りてきた。
「お疲れ様、遥人くん!」
「お疲れ。どうだった、初日?」
「もう、英語の先生が厳しくて大変! でも、数学は塾でやったことの復習だったから、ちょっと安心したかな」
二人は駅前の、少し古びた喫茶店に入った。
ホットケーキを一皿注文し、半分こにする。
「これ、塾の時に約束してた『制服デート』だね」
朱里が嬉しそうにフォークを動かす。
「うん。でも、勉強もちゃんとやらないと。……中学生になったら、浮気しないって約束しただろ?」
「わかってるよ。遥人くんが他の子に取られないように、私も可愛くいる努力、サボらないから」
ホットケーキの甘い湯気の中に、二人の笑い声が溶けていく。
小学生だった二人は、もういない。
けれど、あの冬に誓い合った純粋な気持ちは、この紺色の制服の下で、さらに熱く燃え続けていた。
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