窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase

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第34章:誇りの在り処

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​ 千葉の物流センターに赴任して一週間。
 隼人が打ち出した「動線の完全自動化とリアルタイム管理」という改革案は、現場のベテランたちの猛反発に遭っていた。
​「おい、エリートさんよ。理屈じゃ荷物は動かねえんだ。そんなチャラい機械に頼って、事故が起きたら誰が責任取るんだあ?」
​ リーダー格のベテラン作業員・岩田が、隼人の前に立ちはだかった。
 隼人は作業着の下のネクタイを少し緩めたが、その鋭い眼光は一切怯まない。
​「責任はすべて私が取る。だが、今の非効率な積み下ろしで、君たちの腰や膝が悲鳴を上げているのも事実だ。この改革は、君たちの体と時間を守るためのものでもある」
「けっ、綺麗事言ってんじゃねえよ!」
​ 一触即発の空気。
 隼人が論理でねじ伏せようと口を開きかけた時、智之がその間に割って入った。
​「岩田さん! ……これ、皆さんへの差し入れです。それと……このメモ、見ていただけませんか?」
​ 智之が差し出したのは、冷えた飲み物と、ボロボロになった一冊のノートだった。そこには、智之がこの一週間、現場の全スタッフの動きを観察して書き留めた「最も荷物が滞留する時間帯」と「誰がどの作業で苦労しているか」という詳細な記録があった。
​「岩田さんがいつも、若手のフォークリフトが危なくないように、あえて見えにくい位置でフォローに回っていることも、僕は見ていました。隼人さんのシステムは、そういう岩田さんの『熟練の技』を、もっと楽に、全員で共有するためのものなんです」
​ 岩田が不機嫌そうにノートをひったくり、ページをめくる。
 そこには、地下一階のメール室で何千通もの郵便物を仕分け続けてきた智之だからこそ気づける、現場の「痛み」がびっしりと書き込まれていた。
​「……お前、メール室の山﨑っつったか。こんなもん、いつ書いてたんだ」
「皆さんが休憩している間です。……隼人さんは、数字しか見ていないように見えるかもしれません。でも、この案を練るために、彼は三日間一睡もせず、皆さんの安全データを洗い直していたんです」
​ 智之の必死の訴えに、現場の空気がわずかに変わる。
 岩田は鼻を鳴らし、隼人と智之を交互に見た後、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
​「……一回だけだ。一回だけ、その『システム』ってのを試してやる。……ただし、山﨑。お前も現場で泥にまみれる覚悟があるならな」
​「はい!」
 智之が明るい声で返事をした。
 その隣で、隼人が驚いたような、そして誇らしげな表情で智之を見つめていた。
​「……智之。俺の右腕は、思った以上に優秀だったようだな」
​ 二十二階のエースの知略と、地下一階の誠実さ。
 二つの才能が重なり合った瞬間、物流センターという名の「戦場」に、初めて変化の兆しが見えた。
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