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第5章:甘い毒、乾いた日常
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大輝との密会から数日後。加代子は、リビングのソファでテレビのニュースをぼんやりと眺める夫・謙介の背中を、キッチンのカウンター越しに冷めた目で見つめていた。
謙介は50代後半になり、体型も以前より緩み、家ではいつも着古したスウェット姿だ。会話といえば「飯は?」「風呂、入るぞ」といった、事務的な報告事項のみ。彼にとって加代子は、空気のようにそこにいて当然の、名前のない「妻」という役割でしかなかった。
(この人は、私が今日、どんな顔をして、誰に抱かれてきたかなんて想像もしないんだろうな……)
かつては、この無関心が死ぬほど寂しかった。けれど今は違う。謙介の無関心こそが、彼女の自由を保障する最高の隠れ蓑だった。加代子は鼻歌まじりに皿を洗い、スマホの通知が光るたびに、謙介に背を向けて画面を覗き込んだ。
メッセージの主は、和文だった。
「加代子さん、明日の午後、少しだけお会いできませんか? あなたのその『色気』に、直接触れてみたくなりました」
「色気」という直接的な言葉に、加代子の胸が高鳴る。和文は29歳。大輝よりも4歳上で、言葉の端々に大人の男としての余裕と、計算された強引さが滲んでいた。大輝が直情的な「熱」なら、和文は思考を麻痺させる「毒」のようだった。
翌日、加代子は謙介に「友達とランチに行ってくる」とだけ告げ、家を出た。
鏡の前で念入りにメイクを施し、鎖骨が綺麗に見えるブラウスを選んだ。並以下の容姿だという自覚は変わらない。それでも、今の自分には大輝に何度も「名器」と絶賛された身体があり、SNSで1,000人以上の視線を浴びているという事実があった。それが、彼女の立ち振る舞いに、かつてない不遜な艶を与えていた。
待ち合わせ場所は、都心のホテルのラウンジだった。
約束の時間の5分前、加代子が周囲を見渡していると、一人の男が迷いのない足取りで近づいてきた。
「武田加代子さんですね? 写真よりもずっと……惹きつけられる雰囲気をお持ちだ」
和文は、仕立てのいいスーツを着こなし、知的な眼鏡の奥で加代子を品定めするように見つめた。その視線は、大輝のような純粋な憧れではなく、もっと獲物を狙うハンターのような、冷徹で性急な熱を帯びていた。
和文は加代子の手を取り、指先に軽く唇を寄せた。
「SNSのアンチなんて放っておけばいい。本物の女の価値は、こうして直接会った男にしか分からないものですから」
その言葉に、加代子の脳内は一瞬で真っ白になった。
自分の正体を見透かされたような感覚と、強烈な征服欲に晒される快感。
和文との時間は、大輝との「優越感に浸るデート」とは全く別の、もっと危険で、もっと深い深淵へと彼女を誘おうとしていた。
ラウンジでの短い会話のあと、和文は加代子の耳元で囁いた。
「このあと、もっと静かな場所で、あなたのその……並外れた『才能』を、僕に教えてくれませんか?」
加代子は抗わなかった。抗う理由がなかった。
19時には、また謙介の待つあの灰色の日常に帰るのだ。それまでの数時間、自分を「絶品」として扱ってくれる男たちの間で、彼女はただ、際限なく増長していく全能感に身を委ねることにした。
謙介は50代後半になり、体型も以前より緩み、家ではいつも着古したスウェット姿だ。会話といえば「飯は?」「風呂、入るぞ」といった、事務的な報告事項のみ。彼にとって加代子は、空気のようにそこにいて当然の、名前のない「妻」という役割でしかなかった。
(この人は、私が今日、どんな顔をして、誰に抱かれてきたかなんて想像もしないんだろうな……)
かつては、この無関心が死ぬほど寂しかった。けれど今は違う。謙介の無関心こそが、彼女の自由を保障する最高の隠れ蓑だった。加代子は鼻歌まじりに皿を洗い、スマホの通知が光るたびに、謙介に背を向けて画面を覗き込んだ。
メッセージの主は、和文だった。
「加代子さん、明日の午後、少しだけお会いできませんか? あなたのその『色気』に、直接触れてみたくなりました」
「色気」という直接的な言葉に、加代子の胸が高鳴る。和文は29歳。大輝よりも4歳上で、言葉の端々に大人の男としての余裕と、計算された強引さが滲んでいた。大輝が直情的な「熱」なら、和文は思考を麻痺させる「毒」のようだった。
翌日、加代子は謙介に「友達とランチに行ってくる」とだけ告げ、家を出た。
鏡の前で念入りにメイクを施し、鎖骨が綺麗に見えるブラウスを選んだ。並以下の容姿だという自覚は変わらない。それでも、今の自分には大輝に何度も「名器」と絶賛された身体があり、SNSで1,000人以上の視線を浴びているという事実があった。それが、彼女の立ち振る舞いに、かつてない不遜な艶を与えていた。
待ち合わせ場所は、都心のホテルのラウンジだった。
約束の時間の5分前、加代子が周囲を見渡していると、一人の男が迷いのない足取りで近づいてきた。
「武田加代子さんですね? 写真よりもずっと……惹きつけられる雰囲気をお持ちだ」
和文は、仕立てのいいスーツを着こなし、知的な眼鏡の奥で加代子を品定めするように見つめた。その視線は、大輝のような純粋な憧れではなく、もっと獲物を狙うハンターのような、冷徹で性急な熱を帯びていた。
和文は加代子の手を取り、指先に軽く唇を寄せた。
「SNSのアンチなんて放っておけばいい。本物の女の価値は、こうして直接会った男にしか分からないものですから」
その言葉に、加代子の脳内は一瞬で真っ白になった。
自分の正体を見透かされたような感覚と、強烈な征服欲に晒される快感。
和文との時間は、大輝との「優越感に浸るデート」とは全く別の、もっと危険で、もっと深い深淵へと彼女を誘おうとしていた。
ラウンジでの短い会話のあと、和文は加代子の耳元で囁いた。
「このあと、もっと静かな場所で、あなたのその……並外れた『才能』を、僕に教えてくれませんか?」
加代子は抗わなかった。抗う理由がなかった。
19時には、また謙介の待つあの灰色の日常に帰るのだ。それまでの数時間、自分を「絶品」として扱ってくれる男たちの間で、彼女はただ、際限なく増長していく全能感に身を委ねることにした。
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