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第7章:鍵のかかった楽園、冷めた熱量
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Instagramの通知が鳴り止まない日常に、加代子は自ら一つの区切りをつけた。アカウントに「鍵」をかけ、完全承認制にしたのだ。
無差別な称賛も、鋭利なアンチコメントも、今の彼女にはもう必要なかった。選ばれた者だけが覗ける、密やかな楽園。その主としての優越感が、加代子の自尊心をさらに高く、硬く組み上げていった。
加代子が知らない事実がある。
25歳の大輝にも、29歳の和文にも、それぞれ同年代の「彼女」がいるということだ。特に和文は、数年越しの交際を経て、周囲からも結婚を急かされる段階にいた。
だが、もし加代子がそれを知ったとしても、眉一つ動かさなかっただろう。彼女にとって、彼らの背景にある女の存在など、日常のノイズに過ぎない。自分こそが彼らの理性を狂わせ、本能を揺さぶる「唯一無二の存在」であるという絶対的な確信があったからだ。
その確信を裏付けるように、男たちの夜は変質していた。
大輝は、若く瑞々しいはずの彼女を抱きながら、拭い去れない「物足りなさ」に苛まれていた。肌の弾力も、声のトーンも、確かに彼女の方が若いはずなのに、何かが決定的に足りない。加代子と肌を合わせたときに感じる、あの吸い付くような、魂まで絡め取られるような濃密な感覚。一度それを知ってしまった身体は、並の快楽では満足できなくなっていた。
それは和文も同じだった。
結婚を約束した婚約者との、穏やかで事務的な営み。以前ならそれで十分だったはずが、今では加代子のあの「名器」の感触が、脳裏に焼き付いて離れない。和文は婚約者の上で、必死に「気持ちいいふり」を演じていた。
「……今日も、良かったよ」
そう優しく囁きながら、彼の指先が求めているのは婚約者の滑らかな肌ではなく、55歳の加代子が持つ、あの熟れた熱だった。
一方、加代子の日常は、かつてないほどに凪いでいた。
19時。いつものように夕食を作り、リビングで無言の夫・謙介と向かい合う。謙介が箸を運ぶ音を聞きながら、加代子はそっと自分のスマホを確認した。
鍵をかけたはずのInstagramには、承認を待つリクエストが溜まっている。そして大輝と和文から、交互に届く執着に満ちたメッセージ。
(みんな、私に飢えてる……)
夫との冷え切った食卓。その沈黙さえも、今の加代子には「選ばれた女」としての余裕を楽しむためのスパイスでしかなかった。
加代子は穏やかな笑みを浮かべ、謙介に尋ねた。
「今日の煮物、お味はどう?」
「……ああ、悪くない」
謙介のそっけない返事。その向こう側で、二人の若者が自分を求めて悶えている。加代子は、自分の内側に眠る「名器」という魔物が、静かに、そして力強く脈打つのを感じていた。
無差別な称賛も、鋭利なアンチコメントも、今の彼女にはもう必要なかった。選ばれた者だけが覗ける、密やかな楽園。その主としての優越感が、加代子の自尊心をさらに高く、硬く組み上げていった。
加代子が知らない事実がある。
25歳の大輝にも、29歳の和文にも、それぞれ同年代の「彼女」がいるということだ。特に和文は、数年越しの交際を経て、周囲からも結婚を急かされる段階にいた。
だが、もし加代子がそれを知ったとしても、眉一つ動かさなかっただろう。彼女にとって、彼らの背景にある女の存在など、日常のノイズに過ぎない。自分こそが彼らの理性を狂わせ、本能を揺さぶる「唯一無二の存在」であるという絶対的な確信があったからだ。
その確信を裏付けるように、男たちの夜は変質していた。
大輝は、若く瑞々しいはずの彼女を抱きながら、拭い去れない「物足りなさ」に苛まれていた。肌の弾力も、声のトーンも、確かに彼女の方が若いはずなのに、何かが決定的に足りない。加代子と肌を合わせたときに感じる、あの吸い付くような、魂まで絡め取られるような濃密な感覚。一度それを知ってしまった身体は、並の快楽では満足できなくなっていた。
それは和文も同じだった。
結婚を約束した婚約者との、穏やかで事務的な営み。以前ならそれで十分だったはずが、今では加代子のあの「名器」の感触が、脳裏に焼き付いて離れない。和文は婚約者の上で、必死に「気持ちいいふり」を演じていた。
「……今日も、良かったよ」
そう優しく囁きながら、彼の指先が求めているのは婚約者の滑らかな肌ではなく、55歳の加代子が持つ、あの熟れた熱だった。
一方、加代子の日常は、かつてないほどに凪いでいた。
19時。いつものように夕食を作り、リビングで無言の夫・謙介と向かい合う。謙介が箸を運ぶ音を聞きながら、加代子はそっと自分のスマホを確認した。
鍵をかけたはずのInstagramには、承認を待つリクエストが溜まっている。そして大輝と和文から、交互に届く執着に満ちたメッセージ。
(みんな、私に飢えてる……)
夫との冷え切った食卓。その沈黙さえも、今の加代子には「選ばれた女」としての余裕を楽しむためのスパイスでしかなかった。
加代子は穏やかな笑みを浮かべ、謙介に尋ねた。
「今日の煮物、お味はどう?」
「……ああ、悪くない」
謙介のそっけない返事。その向こう側で、二人の若者が自分を求めて悶えている。加代子は、自分の内側に眠る「名器」という魔物が、静かに、そして力強く脈打つのを感じていた。
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