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第9章:反転する主導権
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大輝のマンションを出て駅へ向かう道すがら、スマホの画面にショートメールの通知が浮かんだ。送り主は、凛音(26歳)。 LINEをブロックされていることにも気づいていないのか、その文面は以前と変わらず、加代子を格下に見る傲慢さに満ちていた。
『加代子、LINEしたんだけど。なんで見ないの? 壊れてんの?』 『ま、いいや。久しぶりに会おうぜ。明日、いつものところで待ってるから』
「会おうぜ」という、一方的な命令。かつての加代子なら、このぶっきらぼうな一言に「求められている」という錯覚を抱き、家事を投げ出してでも駆けつけていただろう。だが、今の彼女は違う。今の加代子の脳内にあるのは、25歳の大輝が自分の名に溺れ、29歳の和文が自分の色気に理性を失った瞬間の記憶だ。
(……いいわよ、凛音くん。今のあなたに、私がどう見えるか試してあげる)
翌日、待ち合わせ場所に現れた凛音は、挨拶もそこそこに、当然のような顔でラブホテルの方向を指差した。「とりあえず、行こうぜ」 あまりにもストレートで、加代子の都合を一切無視した誘い。加代子は穏やかに、しかし遮らせない強さで微笑んだ。 「……今日は、まずカフェに行かない? ゆっくりお話ししたい気分なの」
「は? 喋ることなんてねえだろ。……あー、わかったよ。しょうがねえなあ、付き合ってやるよ」 凛音は苛立ちを隠さず、首筋を掻きながら近くの喫茶店へと歩き出した。自分の方が「付き合ってやっている」という優位性を保とうとする、その必死な態度が今の加代子にはひどく滑稽に見えた。
店に入り、向かい合って座る。加代子は凛音の視線を真っ向から受け止めながら、ゆったりと足を組み替えた。凛音は、加代子のまわりに漂う、以前にはなかった圧倒的な「余裕」に気圧され、落ち着かなげにスマホをいじり始めた。
その時、加代子の手元のスマホが震えた。画面に浮かび上がったのは、和文からのLINEだ。 『加代子、明後日、少し贅沢な隠れ家を予約しました。あなたの「価値」にふさわしい場所です。楽しみにしていてください』
「価値」にふさわしい場所。その知的な誘い文句に、加代子の口角がわずかに上がる。彼女は凛音を目の前にしたまま、風格すら漂わせる優雅な手つきで、和文へ手短に、しかし思わせぶりな返信を打ち込んだ。
その様子を、凛音はどこか居心地悪そうに、しかし無頓着な口調で冷やかした。 「おい、珍しいな。誰だよ、そんな熱心に打って。何見てるんだよ。まさかSNSか?」 凛音は、加代子がInstagramで「鍵のかかった楽園」の主となり、多くの男たちを跪かせていることなど微塵も想像していない。ただ、自分の所有物であったはずの女が見せる、知らない「顔」に、本能的な苛立ちを覚えているようだった。
「……別に。少し、お仕事の連絡よ」 加代子はスマホを裏返してテーブルに置くと、真っ直ぐに凛音の目を見つめた。 「それで、凛音くん。あなたは今日、私とどんなお話をしてくれるのかしら?」
凛音は、加代子の瞳に宿る圧倒的な「選別者の光」に、言葉を失った。 かつて自分に縋り付いていた「並以下の女」は、もうどこにもいない。凛音という古い物差しを使って、加代子は自分の「女としての格」がどれほど高まったかを、静かに、そして冷徹に見定めていた。
『加代子、LINEしたんだけど。なんで見ないの? 壊れてんの?』 『ま、いいや。久しぶりに会おうぜ。明日、いつものところで待ってるから』
「会おうぜ」という、一方的な命令。かつての加代子なら、このぶっきらぼうな一言に「求められている」という錯覚を抱き、家事を投げ出してでも駆けつけていただろう。だが、今の彼女は違う。今の加代子の脳内にあるのは、25歳の大輝が自分の名に溺れ、29歳の和文が自分の色気に理性を失った瞬間の記憶だ。
(……いいわよ、凛音くん。今のあなたに、私がどう見えるか試してあげる)
翌日、待ち合わせ場所に現れた凛音は、挨拶もそこそこに、当然のような顔でラブホテルの方向を指差した。「とりあえず、行こうぜ」 あまりにもストレートで、加代子の都合を一切無視した誘い。加代子は穏やかに、しかし遮らせない強さで微笑んだ。 「……今日は、まずカフェに行かない? ゆっくりお話ししたい気分なの」
「は? 喋ることなんてねえだろ。……あー、わかったよ。しょうがねえなあ、付き合ってやるよ」 凛音は苛立ちを隠さず、首筋を掻きながら近くの喫茶店へと歩き出した。自分の方が「付き合ってやっている」という優位性を保とうとする、その必死な態度が今の加代子にはひどく滑稽に見えた。
店に入り、向かい合って座る。加代子は凛音の視線を真っ向から受け止めながら、ゆったりと足を組み替えた。凛音は、加代子のまわりに漂う、以前にはなかった圧倒的な「余裕」に気圧され、落ち着かなげにスマホをいじり始めた。
その時、加代子の手元のスマホが震えた。画面に浮かび上がったのは、和文からのLINEだ。 『加代子、明後日、少し贅沢な隠れ家を予約しました。あなたの「価値」にふさわしい場所です。楽しみにしていてください』
「価値」にふさわしい場所。その知的な誘い文句に、加代子の口角がわずかに上がる。彼女は凛音を目の前にしたまま、風格すら漂わせる優雅な手つきで、和文へ手短に、しかし思わせぶりな返信を打ち込んだ。
その様子を、凛音はどこか居心地悪そうに、しかし無頓着な口調で冷やかした。 「おい、珍しいな。誰だよ、そんな熱心に打って。何見てるんだよ。まさかSNSか?」 凛音は、加代子がInstagramで「鍵のかかった楽園」の主となり、多くの男たちを跪かせていることなど微塵も想像していない。ただ、自分の所有物であったはずの女が見せる、知らない「顔」に、本能的な苛立ちを覚えているようだった。
「……別に。少し、お仕事の連絡よ」 加代子はスマホを裏返してテーブルに置くと、真っ直ぐに凛音の目を見つめた。 「それで、凛音くん。あなたは今日、私とどんなお話をしてくれるのかしら?」
凛音は、加代子の瞳に宿る圧倒的な「選別者の光」に、言葉を失った。 かつて自分に縋り付いていた「並以下の女」は、もうどこにもいない。凛音という古い物差しを使って、加代子は自分の「女としての格」がどれほど高まったかを、静かに、そして冷徹に見定めていた。
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