36 / 37
第36章:名器の終焉、泥濘に沈む(最終章・後編)
しおりを挟む
どれほどの時間が経っただろうか。 狭く汚れたアパートの一室には、重苦しい血の匂いと、絶望が沈殿していた。
康助は、もはやピクリとも動かなくなった加代子の体から、ゆっくりと離れた。 加代子は畳の上に大の字に投げ出され、焦点の合わない瞳で天井の一点を見つめている。彼女の「名器」と呼ばれた場所からは、止めどなく赤い液体が溢れ出していた。物理的な限界を超えた酷使により、彼女の肉体はついに内側から崩壊したのだ。
「……終わったよ、父さん」
康助は冷めた瞳で、震えながら加代子を見つめる謙介に言い放った。
「母さんは、もう誰の名前も呼べない。誰を愛することも、誰を拒むこともできない。……ただの、使い古された肉の袋だ」
謙介は、震える手で加代子の頬に触れた。 肌はまだ温かいが、そこに「心」は存在しなかった。加代子は、息子にすべてを捧げ、すべてを奪われ、文字通り使い潰された。かつての「聖母」としての面影も、「美魔女」としての艶も、泥濘のような絶望の中に溶けて消えた。
「加代子……加代子……。すまない……っ、俺が……俺が……!」
謙介の慟哭が響く中、康助は一度も振り返ることなく部屋を後にした。 彼にとって、この「実験」は終わったのだ。母という神聖な偶像を破壊し、ただの肉塊へと堕とす。その目的を果たした彼の背中に、もはや家族への執着は微塵もなかった。
数日後。 そのアパートからは、一人の女が運び出された。 命こそ取り留めたものの、彼女は生涯、言葉を発することはなく、排泄の感覚すら失ったまま、療養所のベッドでただ天井を見つめ続けるだけの日々を送ることになった。
時折、彼女の指先が、何かを求めるように微かに動くことがある。 だが、それがかつての夫を求めているのか、自分を辱めた男たちを求めているのか、それとも自分を破滅させた愛しい息子の面影を追っているのかを知る者は、誰もいない。
「名器」と呼ばれたその呪いと共に、武田加代子の人生は、誰にも知られることなく、無惨に、そして完全に、散っていった。
康助は、もはやピクリとも動かなくなった加代子の体から、ゆっくりと離れた。 加代子は畳の上に大の字に投げ出され、焦点の合わない瞳で天井の一点を見つめている。彼女の「名器」と呼ばれた場所からは、止めどなく赤い液体が溢れ出していた。物理的な限界を超えた酷使により、彼女の肉体はついに内側から崩壊したのだ。
「……終わったよ、父さん」
康助は冷めた瞳で、震えながら加代子を見つめる謙介に言い放った。
「母さんは、もう誰の名前も呼べない。誰を愛することも、誰を拒むこともできない。……ただの、使い古された肉の袋だ」
謙介は、震える手で加代子の頬に触れた。 肌はまだ温かいが、そこに「心」は存在しなかった。加代子は、息子にすべてを捧げ、すべてを奪われ、文字通り使い潰された。かつての「聖母」としての面影も、「美魔女」としての艶も、泥濘のような絶望の中に溶けて消えた。
「加代子……加代子……。すまない……っ、俺が……俺が……!」
謙介の慟哭が響く中、康助は一度も振り返ることなく部屋を後にした。 彼にとって、この「実験」は終わったのだ。母という神聖な偶像を破壊し、ただの肉塊へと堕とす。その目的を果たした彼の背中に、もはや家族への執着は微塵もなかった。
数日後。 そのアパートからは、一人の女が運び出された。 命こそ取り留めたものの、彼女は生涯、言葉を発することはなく、排泄の感覚すら失ったまま、療養所のベッドでただ天井を見つめ続けるだけの日々を送ることになった。
時折、彼女の指先が、何かを求めるように微かに動くことがある。 だが、それがかつての夫を求めているのか、自分を辱めた男たちを求めているのか、それとも自分を破滅させた愛しい息子の面影を追っているのかを知る者は、誰もいない。
「名器」と呼ばれたその呪いと共に、武田加代子の人生は、誰にも知られることなく、無惨に、そして完全に、散っていった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。
その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。
全15話を予定
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる