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プロローグ:名器という名の受難曲
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鏡の中にいるのは、どこにでもいる「幸せな母親」だった。 四十代後半を迎え、肌の張りは少しずつ失われ、身体のラインもかつての鋭さはなくなった。けれど、私はそれでいいと思っていた。武田加代子という女の役割は、愛する夫・謙介を支え、自慢の息子・康助を立派に育てること。その平穏こそが、私のすべてだった。
けれど、私の中には、自分でも気づかない「魔物」が眠っていた。
かつて、ある男に言われた言葉が、今も耳の奥にこびりついて離れない。 「君のそれは、宝珠だ。男を狂わせ、破滅させ、最後には自分をも焼き尽くす……そんな呪いのような名器だよ」
当時は、ただの傲慢な戯言だと笑い飛ばした。私のような平凡な女に、そんな魔性があるはずがないと。 でも、康助が思春期を迎え、その瞳に「母親」への敬愛ではない、剥き出しの「雄」の光が宿り始めたとき、私は恐怖した。私の身体が、知らず知らずのうちに、我が子の中に眠る獣を呼び覚ましてしまっていることに。
名器。 世の男たちが憧れ、追い求めるその言葉は、私にとってはただの「地獄への片道切符」でしかなかった。 一度その扉が開かれれば、私はもう「お母さん」には戻れない。 夫を欺き、息子に蹂躙され、自分を「ただの器」として切り売りしていく未来が、すぐそこまで迫っている。
(ああ、お父さん、康助……助けて。私を、私から救って)
そう願いながらも、私の身体の最深部は、皮肉なほど熱く、潤い、誰かに暴かれるのを待つように疼き始めている。 これから始まるのは、一人の女が「母」という聖域を剥がされ、欲望という名の激流に飲み込まれ、最後には文字通り使い潰されて消えていく、無惨な崩壊の記録。
私は、武田加代子。 自らの肉体に宿った呪いに、魂を食い尽くされるのを待つだけの、哀れな贄。
けれど、私の中には、自分でも気づかない「魔物」が眠っていた。
かつて、ある男に言われた言葉が、今も耳の奥にこびりついて離れない。 「君のそれは、宝珠だ。男を狂わせ、破滅させ、最後には自分をも焼き尽くす……そんな呪いのような名器だよ」
当時は、ただの傲慢な戯言だと笑い飛ばした。私のような平凡な女に、そんな魔性があるはずがないと。 でも、康助が思春期を迎え、その瞳に「母親」への敬愛ではない、剥き出しの「雄」の光が宿り始めたとき、私は恐怖した。私の身体が、知らず知らずのうちに、我が子の中に眠る獣を呼び覚ましてしまっていることに。
名器。 世の男たちが憧れ、追い求めるその言葉は、私にとってはただの「地獄への片道切符」でしかなかった。 一度その扉が開かれれば、私はもう「お母さん」には戻れない。 夫を欺き、息子に蹂躙され、自分を「ただの器」として切り売りしていく未来が、すぐそこまで迫っている。
(ああ、お父さん、康助……助けて。私を、私から救って)
そう願いながらも、私の身体の最深部は、皮肉なほど熱く、潤い、誰かに暴かれるのを待つように疼き始めている。 これから始まるのは、一人の女が「母」という聖域を剥がされ、欲望という名の激流に飲み込まれ、最後には文字通り使い潰されて消えていく、無惨な崩壊の記録。
私は、武田加代子。 自らの肉体に宿った呪いに、魂を食い尽くされるのを待つだけの、哀れな贄。
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