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第一部 異世界らしい冒険

47. 異世界198日目 いろいろとお勉強

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 今日は罠の講習がないので錬金について体験させてもらうことになっている。錬金は鉱石から必要な物質を抽出したり、それらから合金やものを作ったりする魔法である。地球では融点の違いで抽出しているものなんだが、こっちでは魔法で抽出するようだ。

 錬金術と言っても物質を変えて目的の物質が得られる訳ではない。もしかして魔法で物質を変えられるのかもしれないけど、それは分からないし、本にもそういう記述は見つけられなかった。


 カサス商会に行ってから、ジェンは調合の部門へ、自分は受付の女性に案内されて錬金の部署のリーダーであるカルクさんと言う人と会う。錬金は鉱石を使うため、町から離れた鉱山近くで行っているらしい。このため車で30分ほど走ったところに移動する。
 鉱山近くに塀に囲まれた工場のような施設が作られており、採掘と併せて金属の抽出をしているらしい。抽出を行っている作業場に入ると、20人くらいの人が黙々と作業を行っていた。

 ここでは鉱石から必要な物質を抽出しているが、主に抽出するのは鉄らしい。他の金属についてはそれぞれの鉱山で行っているようで、貴重な鉱物についてはもっとセキュリティーの高いところで熟練者がやっているようだ。
 魔法を使うせいか連続しての作業は厳しいらしく、一日のノルマが決められているので最低限そのノルマをこなせばあとは自由となる。まあ抽出以外の作業もあるので実際はそこまで自由というわけではないようだけどね。


 チームリーダーと言われる人から簡単にやり方について教えてもらう。最初に取りかかるのは鉄からとなる。基本となる鉄のサンプルに結合するように鉱石から同じものを取り出す。サンプルを鑑定してみると純度100%の鉄となっている。これってたしか地球でもかなり貴重なものじゃなかった?
 鉱石を見ると鉄やアルミなどいろいろなものが混じっているようだ。なんでサンプルがいるのかよく分からない。そのまま鉄だけ分離すればいいような気もするんだが・・・。

 お手本としてやって見せてくれたんだが、サンプルを左手にもち、鉱石に右手を当てて魔力を流し込んでいる。すると鉱石から鉄が取り出されてサンプルの周りに堆積していく。
 原子とかが解明されていないため鉄というのがどういうものか分かっていないのかもしれない。このためサンプルと同じものを鉱石から抽出というイメージで魔法を行っているのだろう。


 とりあえず同じようにやってみることにした。鉄を鉱石から取り出すようイメージしてそれをサンプルに結合させていくと、思ったよりもうまくいった。ただ思いのほか精神的に疲れてしまう。結構魔力を使ってしまうようだ。

 うまくいったことを確認したのか、頑張って経験を積んでくれといって席に戻っていった。他にも鉱石をいくつか置いていったんだが、見てみると、含まれているのは銅、金、銀、ニッケル、モリブデンなどだった。

 このあとは鉄と炭などを規定量混ぜて材料を作り、武器などを作る材料となる。それを鍛えて武器の強度を上げていくのが鍛冶となるんだが、錬金でも鋳造なら作れるみたいだ。もちろん鋳造だとそれなりのレベルにしかならないんだけどね。


 そういえば刀の原料となる鉄は地球の現在の技術でも簡単には作れないというのを前にテレビで見たことがあったなあ。今のところ昔ながらの工法でないとだめとか言っていたような気もする。魔法でもできないのかね。まあ強度向上とかの魔法があるからそこまで強度はなくてもいいのかもしれないけどね。

 試しに他の金属についても抽出してみると、問題なくできてしまった。これって元素が分かっていたら結構簡単にできるんじゃないのか?ちょっとまずいかもしれない。取り出したのは少しだけだったので気付かれないと思う。
 あとステンレスとかの合金って言うのはこっちの世界ではあるのだろうか?向こうの本の知識と錬金の技術を使えば結構簡単に作れそうな気もする。


 とりあえず一日頑張って鉄の抽出をやっていたんだが、10kgのインゴットを二つが限界だった。ちなみにノルマは10kgなので十分な成果ではある。初日でこれだけやったので驚いていたしね。スキルを見てみるとちゃんと錬金のスキルが付いていた。帰りは大型のバスで町まで送ってくれた。


 ちなみにこちらで製品の生産をするのは基本的に魔法を使うみたいで、紙や袋なんかも油や液体から作り出しているようだ。作り方は金属の抽出と同じような感じで作っているようなんだが、最初の製品をどうやって作り出したのかはよく分からない。
 ものによっては魔道具を使って作っているものもあるようだが、少量生産であれば錬金術師がそのまま生産しているようだ。
 魔法で作るので水質汚染や大気汚染とかがなくていいんだろうけど効率的と言っていいのか、非効率と言っていいのか・・・。



 夕方にジェンと合流すると、調合は材料のバランスとか、魔力の調整とかが結構難しくて大変なようだ。こっちは知識だけだとうまくいかないようだ。そうは言っても初日から一応調合ができるようになったようなので、やはり給料を払わないといけないのではないかという話になっているみたい。そういえば自分も同じようなことを言われたなあ。


 翌日からも毎日ではないが、ジェンは調合、自分は罠と錬金の勉強をしていく。カサス商会も自分たちが思った以上に成果を出しているため、バイト代を出してくれたのでありがたかった。付与魔法と違って科学知識が意外に使えたのが大きかったね。

 せっかく鉱山に行ったので採掘についてもやらせてもらった。採掘は露天掘りで行われており、魔法で目的の鉱石を探すらしい。手にサンプルを持って同じものが多く含まれるエリアを探索するらしい。探索については索敵の感じに近いが、それを土魔法で行う感じだ。

 土魔法と言ってもどうすればいいのか簡単にはイメージできない。いろいろと聞いてみると、どうも超音波のような振動を発すればいいようだ。土に若干の振動を与える要領で魔法を飛ばすと、索敵で魔獣を見つけるように地中に目的の鉱物の位置がわかってきた。元素をイメージしてやってみるとそれでもうまくいった。
 発見したエリアに土魔法を使い少し鉱石を取り出してみると、それなりに純度の高いものがとれた。思ったよりも簡単だなと思っていたんだが、普通は探索ができるまでかなり時間がかかるらしい。
 ここで直接目的の金属を取り出すこともできるらしいが、効率を考えるといったん鉱石を回収してからの方がいいみたいだ。



 他には鍛冶や調合、商売についての本もいろいろと読んでいる。とりあえず知識だけは仕入れておかないと、技術は身につかないからね。
 ただ鍛冶についてはカサス商会でもやっていないので、ほんとに習うのなら鍛冶屋にお願いしてやらせてもらうしかないかもしれない。あとは我流でやるかだけど、そもそも設備がないからなあ。


~ジェンSide~
 付与魔法に引き続き調合のスキルを勉強している。イチと一緒に行動するなら同じものだけを取得するよりも、手分けして取得した方が効率いいはずだからね。


 調合はいろいろな薬草を決められた比率で混ぜ合わせていくのだけど、混ぜ合わせるときに魔力の供給を常に安定して注ぎ込んでいかないと効果が低下してしまうと言うかなり難しい作業となる。常に一定であればいいのだけど、目的の薬によって注ぎ込む量が変わるので覚えるだけでも大変。

 ある程度基本的な調合比率は勉強していたので、魔力の調整を行うことに注力できたのはまだよかった。おかげで初日から簡単なものであれば作れるようになったので教えてくれていたチームリーダーのサルファニーさんは驚いていた。

 薬を入れる瓶は熱湯消毒しているみたい。浄化の魔法ではだめなのか聞いたところ、浄化だけだと薬の劣化が早いらしい。どうやら普通の浄化魔法だと殺菌まではできないようだ。もしかして自分たちは浄化魔法と言いながら治癒魔法とかも併用して浄化しているのかしら?


 調合の時に治癒魔法を意識して魔力を注ぎ込んでいたら高い品質のものができてしまった。鑑定してみると「初級治療薬(良)」とでている。
 薬の種類について聞いてみると、原料によって初級、中級、高級、特級とランクは決まっているのだけど、作る人によって品質は異なるらしい。通常販売されているのは並か高グレードで低グレードのものは販売していないようだ。実際には捨てるのももったいないため、寄付されているらしい。

 私の言動が気になったのか、サルファニーさんが私の作った薬を鑑定して驚いていた。

「良グレード・・・。」

 サルファニーさんは他の部屋に移動してから説明してくれた。どうやら良グレードを作れるのはかなりの熟練者になるようだ。習い始めてすぐにこのレベルのものが作れるというのは普通あり得ないらしい。
 しばらく考えた後、「もしかして治癒魔法を使えるの?」と聞いてきたので肯定すると納得していた。どうやら治癒魔法を使える場合、作る薬の効果が高くなることがあるらしい。良グレードより高い品質のものは効果の差が大きく、価格が1.5倍以上で取引されるようだ。とりあえず品質をチェックする担当者には話をしてくれるようだ。

 翌日からは初級治療薬だけでなく、他の薬についてもいろいろと挑戦させてくれるようになった。サルファニーさんも前以上に時間をとって熱心に教えてくれるのでちょっと驚いている。調合だけでなく、薬草の効果の説明をしてくれるので、非常にわかりやすかった。
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