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第二部 異世界での訓練

225. 異世界1574日目 タイガ国

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 ライガの町が見えてきたが、町がかなり海にせり出した感じに見える。海の中まで建物が建っているようだ。半島がせり出して湾のようになっているので波が穏やかなのかな?
 船室で入国の手続きを済ませた後、デッキで町を眺めながら着岸を待つ。やはり海の上まで建物が建てられていて、荷物を満載した小舟が海や運河に多く出ており、水上マーケットのような賑わいだ。こっちの船に向かって商品を掲げてアピールしているみたい。

 着岸すると、すぐに係員がやってきて出口まで誘導してくれた。どうやら上のクラスの部屋から順番に下船できるようだ。船を下りてからすぐに町中へと向かう。ちょっと距離があるが、途中に市場のようなところもあるので折角なので歩いて行くことにした。

 町の雰囲気はジャルガの町とそれほど変わった感じではない。お米なども売っているが、すでにタイカンで大量に買ってきているので特にはいらないかな。この日はこの町の宿に泊まったが、翌朝にはすぐに出発する。
 車に乗って北上していくが、特に寄ろうと思っているところはないので宿泊は拠点を使う。王都のヒョウマには寄っていくが、少し買い物をしてからすぐに出発だ。ジェンはお酒をいくつか仕入れていたけどね。どれだけ買うつもりだろう?結局13日間で一気に国境の町ハルマに到着し、すぐに国境を越えてハクセン国のハルマに入った。


~クリストフ王爵Side~
 今日は父から王宮に呼ばれたので顔を出す。また何かの行事に引っ張り出されるのだろうか?最近は事業の方も忙しいので、できるだけやっかいごとは押さえてもらうようにはしてもらっているのだが毎回毎回断るわけにもいかないのが悩ましいところだ。


 そういえばサビオニアの内戦が終わり、新しい国家ができあがったようだ。国名は変わらないが、貴族国家から民主国家へと変更となったらしく、王族や多くの貴族は処刑されたらしい。ただすべての貴族が処刑されたわけではなく、いろいろと調査されてそのまま領主として赴任した貴族もいるようだ。
 ジュンイチ達はその政変の時にサビオニアに行っていたみたいだったが、無事に国を出ることができたと連絡があったときはほっとした。政変のあとはなかなか国を出ることもできなくなっていたらしいので無事に出国できて良かったとみんなで話していたところだ。
 その後、サビオニアは精力的に外交に励んでおり、ヤーマンにも何度か使節がやってきていろいろと取り決めを行っているようだ。もしかしたらなにか新しい情報でも入ったのかもしれないな。


 父の執務室に入ると、サビオニアに関する報告書を見せてくれた。前にも資料の一部を見せてもらったんだが、そのときの処刑リストの中にチカ家があがっていた。残念ながらチカ家は存続させる領主としての評価を受けることができなかったようだ。
 4人にそのことを話したが、家がなくなったことについては特に大きな思い入れはなかったみたいだった。実の母親はすでになくなっていたし、姉妹のほとんどはすでに他家へ嫁いでいたからな。当主の兄とは折り合いが悪かったのが一番の要因だろう。
 貴族は国に申告されている一族全員が処刑になったようだが、4人はすでに貴族籍から抜けているので問題はないようだ。しかし、もし生き残ったとしても、貴族籍を失って生きていけるものはごくわずかだろうな。

「今回のサビオニアからの資料の一部だ。機密に絡むところもあるから、必要な箇所のみの抜粋となるがな。
 今回のことはあくまで正当な政変であったこと、処罰を行ったことについても正当なことだったことを報告してきた。今後の外交を進める上で、国際的に正式な国として承認をもらうためだろう。
 詳細までは話せないが、ヤーマン国としては承認する方向で動いている。貴族主権の国には脅威があるかもしれんが、国益として考えた場合、新しい国の方がよっぽど良いからな。すでにいくつかの商会はサビオニアとの交渉を開始しているみたいだ。」

「カサス商会がすでにサビオニアとの取引を始める段階まできていると聞いています。私の商会にもその取引に伴う話が持ちかけられています。商会の経営者としては願ってもない申し出ですので話は進めていますが、よくそのような伝があったと驚いていますよ。」

「その手がかりがここにあるかもしれなんな。今回の資料は国の建国のために尽力した功労者について記載されたものだ。功労者のところの名前を見てみろ。」

 そう言われて名前を見ていくとその中の名前に目がとまる。今回の革命に貢献のあった人間が褒章を受けているんだが、革命の功労者の上位の黄玉章のところに見たことのある名前があったのだ。

「こ、この二人は・・・。」

「使節に話を聞いたところ、この二人はヤーマン国のものという話だった。褒章理由は知らなかったようだが、今回の政変に多大な貢献をしたと言うことで授与が決まったらしい。すでに国を出ているために授与はできていないようだが、いずれ正式に褒章を行いたいと言われている。」

「珍しい名前が二人もいると言うことは間違いないんでしょうね。またいらぬお節介をして巻き込まれたんですかね?もしかしたら革命の重要人物に伝があり、それをカサス商会が利用したと言うことは考えられますね。」

「おそらくそんなところだろうな。まあカサス商会と二人の関係を見ると積極的な後押しをしたわけではないだろうが、少しでも伝があるだけでも大きく違うだろうからな。
 しかし、大国3つの国から褒章を受けた人間なんて過去にもほとんど聞いたことがないぞ。本人達は自覚していないことだと思うがな。ほんとにたいした二人だよ。そのうちすべての大国からもらうんじゃないのか?
 あと、新しい連絡通路の話は聞いているか?」

「ええ、サビオニアの革命が起きた後、すぐにタイカン国との連絡通路が発表されましたが、そのあとタイカン国とモクニク国間の連絡通路も発表されましたよね。その拠点となる町への投資が急ピッチで進められていると聞きました。」

「こちらで調査したところ、カサス商会は早い段階からそれらの町への出店および投資を行っているみたいだ。どこまで話を知っていたのかは分からないが、何かしらの情報を得ていたのだろう。」

「あの二人はもしかしたらこの連絡通路の発見にも関わっているのかもしれませんね。それだったら褒章のことも理解できます。」

「話すことは以上だ。たまに連絡を取っているようなのでこのことを伝えたくてな。」

「ありがとうございます。二人はこの後ハクセンとアルモニアに行くつもりと言っていましたのでこの話はそちらで聞くことになるかもしれませんね。二人の人脈を考えると、この話を知っていておかしくありませんので。」

「そういうことならそうかもしれないな。たしかルイドルフ爵と伝があったな。」

「ええ。結婚式の時は本当に驚きましたよ。ジョニーファン様と二人の魔法披露をみた人たちは度肝を抜かれていましたからね。みなさん無礼講で楽しんでいたので、参加した人以外は言ってもだれも信じないことだと思いますよ。」

「私も参加したかったものだ・・・。」

 久しぶりに二人の名前を聞いてちょっと懐かしく感じる。あの二人を見送ってからもう1年以上も経つんだな。時々連絡はもらっているので、元気にしているんだろう。
 本人達もこの褒章のことは知らないだろうが、このあとあっちの国で聞くかもしれないな。ただ本人達は「なんでだろう?」と普通に受け流しそうだな。
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