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第二部 異世界での訓練

240. 異世界1854日目 貴族の息子

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 2月には主要道路が本格的に開通してきたこともあり、3月頭に出発することにした。なんだかんだ言いながら6ヶ月くらい滞在してしまったなあ。
 もっと早くに出発することも出来たんだが、自分の実力が上がってきているのが分かると、もう少し、もう少しと引き延ばしていたこともある。重量軽減魔法を使えばかなり勝率も上がってきたし、優階位の魔獣の討伐にも結構貢献できるようになってきたからね。

 その成長の要因の一つに加護があるんだが、なぜかイミザ神の加護が付いていたのには驚いた。今までは加護をもらうときは神様からの声が聞こえていたのに、今回はいきなり付いていたし、加護が付く理由が分からないからね。まあこれのおかげでさらに成長速度が早かったのだろう。深く考えてもしょうがないからね。

 今回の訓練では残念ながらスキルのレベルはほとんど上がらなかった。やっぱり4から5にあがる壁が大きすぎるね。まあレベルはあくまで結果なのでレベルだけ上がってもしょうがないんだけど、レベルが上がるとクラスが付くからその分有利になるんだよなあ。結局上がったのはそれぞれ杖と鎚のスキルだけだ。
 他の武器もがんばればレベルを上げることは出来たかもしれないけど、いろいろ手を出してメインの武器の技量が上がらなかったら意味がない。ゲームとかだったら時間をかけて全部あげていった方がいいと思うけど、現実だとそういうわけにはいかないよね。
 まあすべての能力が上限まで上がるなんてどう考えても無理だろう。ゲームみたいに魔獣を倒してレベルをあげて得られたポイントを割り振って能力が上がるとかじゃないからね。

 他にも威圧のレベルが上がったが、突撃や回避については上がらなかった。結構がんばったんだけどね。実際にはレベルの高い動きはしているけど、あくまで魔法による補助でそう見えているだけで、実力が上がったわけではないと言うことだろうね。
 ただ魔獣狩りの事を考えると、索敵や隠密のレベルは上がったのはうれしい。一緒に討伐に行ったときに自分たちの索敵能力がかなり高いことが分かったんだよね。
 他に演奏や舞踊などのレベルが上がったおかげでクラスに芸術家が付いた。あとは学識に関するスキルがちょっとずつ上がった感じだ。



 出発の日程が決まった後、騎士隊の人たちやラクマニアさん達が送別会をしてくれたんだが、騎士隊の人たちも全体の送別会の後で仲良くなった人たちで個別にあって結構な回数となってしまった。
 こっそりとだが、ハックツベルト家からも招待を受けたからね。さすがに屋敷というのは怖かったこともあり、個室のあるレストランと言うことになったけどね。まあ貴族なのでいろいろと裏の顔もあるだろうけど、自分たちには特に悪意はないようなのでまだよかった。特にラザニアさんはかなり親しく話すようになったんだよね。

 ただ困ったのはラクマニアさんとハックツベルトさんの二人から紹介状を渡されたことだ。ラクマニアさんには以前紹介状を使わなかったことがばれて今度は間違いなく泊まっていくように念押しされたんだよね。そしてそれをどこかで聞いたらしいハックツベルトさんも同じように紹介状を出してきたんだよなあ。

「ジェン、どうする?この二人の紹介状なんか出したら相手はひっくり返るぞ。」

「でも、これだけ言われているんだから出さないわけにもいかないでしょうね。」

「とりあえず途中通っていくハルアとタブロムでは使うしかないだろうけど、一泊というわけにはいかないだろうね。」

「そうでしょうね。本当だったら5泊とか10泊とかだろうけど、せめて3泊くらいはしないとまずいわね。」

「まあ前に来たときは特に観光もしなかったのでそのくらいだったら町を散策していけばいいか。」

 最後の日は借りた家を引き払ってラクマニアさんの屋敷でお世話になり、朝早くに見送られて出発する。

「「お世話になりました~~~!!」」



 まだ辺りには雪が残っているが、道路はすでに除雪が終わっている。初階位や並階位くらいの魔獣はときどき出てくるので退治しながら走って行く。前よりも若干時間がかかったが、8日でハルマの町に到着した。

 さっそく言われていた宿にやって来たのだが、やはり立派なところだった。まああの二人が紹介するところだからこの町一番のところだろうな。もちろん貴族専用なので、入口で身分証明証の確認をしてもらってから中に入る。

「いらっしゃいませ。当宿の宿泊は初めてでしょうか?もし紹介者がいるようでしたら紹介状か紹介者の名前をいただけますか?」

「ここに泊まるのは初めてです。紹介状は持っていますので確認をお願いします。」

「はい、ありがとうございます。お二人の紹介状があるのですね。紹介状は1名でかまいませんよ。」

「そうなんですか?二人には両方出すように言われたので一応確認をお願いします。」

「わかりました。名前を確認させていただきますね。えっと、紹介者はルイドルフ爵・・・とハックツベルト・・爵・・・、えっ?えっ?」

 紹介状とこっちを交互に見ながら半分固まっている。

「し、失礼しました。申し訳ありませんが、確認させていただいてよろしいでしょうか?このお二方の紹介状で間違いないでしょうか?」

「ええ、ルイドルフ・ラクマニア爵とハックツベルト・ピルファイア爵で間違いありません。すみません、とても紹介してもらえるようには見えないと思いますが、間違いなくあの二人からの紹介状ですので確認してください。」

 受付の女性はすぐに奥に引っ込んでいった。まあそうなるよなあ・・・。

 しばらく待っているとかなり慌てた様子で年配の男性をつれてきた。きっとここのオーナーとかなんだろう。

「お、お待たせしました。今回は当ホテルを選んでいただいてありがとうございます。すぐに部屋の準備をいたしますのでこちらでお待ちください。」

 そう言って立派な部屋に通されて席を勧められる。おいしいお茶と茶菓子をいただいてから部屋に案内されるが、予想通りという感じの部屋だった。

「身分は一応貴族相当ですがちゃんとした爵位のない平民ですので、そこまで改まる必要はありませんよ。あの二人とはいろいろあって知り合っただけで、別に縁故関係があるとかそういうわけでもありませんので。ただ紹介状を出していただいた手前、無視するわけにもいきませんので今回はよろしくお願いします。」

「いえいえ。わざわざ宿泊くださってありがとうございます。」


 エレベーターも専用のものがあり、部屋数もかなり多い。お風呂も二つあるし、寝室が5つって何に使うんだよ。リビングのようなところの壁は一面ガラス張りで眺めがかなりいい。最高級の部屋だろうな。部屋には専属の係が付いているらしく、24時間いつでも呼び出しが出来るみたいだ。

 まあ折角なのでこの部屋を堪能するしかないだろうな。3泊の予定だったが、結局押し切られて5泊することになってしまったので毎日違う寝室で寝るのもありだな。



 町に着いたのがすでに4時だった上、手続きに結構時間もかかってしまったこともあってこの日は部屋で夕食をとることにした。メニューから適当に選んで注文すると部屋に隣接する調理場ですぐに作って持ってきてくれるようだ。せっかくなのでお酒も注文して夜景を眺めながらゆっくりと食事を楽しむ。
 食事の後はお風呂を楽しんでから眠りに就いたんだが、シチュエーションが違うこともあって久しぶりに夜更かししてしまった。



 翌朝は部屋で遅めの朝食をとってから町に出てみる。交通の要になっていることもあり、いろいろなものが売られていて見るだけでも結構楽しい。お昼は目に付いたお店で食べてから役場やカサス商会にも顔を出す。

 夕方に宿に戻って専用のエレベーターに向かっていると、エレベーターの前でなにやら言い争いをしている人たちがいた。こんな高級なところで言い争いというのも珍しいよなあ。
 横を通り過ぎようとすると、言い争っていた同年代くらいの男性がこっちを見て声をかけてきた。いかにも貴族といった感じなんだけど、服を着崩していてちょっと見た目はあまり良くない。どこかのぼんぼんが粋がっているという感じだな。

「あんたたちがあの部屋の宿泊者なのか?すまないが、しばらくの間でいいから部屋を貸してもらえないかな?お礼にここの宿泊費はただにしてやってもいいから頼むよ。」

 声をかけてきた男性の他に同い年くらいの男性が一人と女性が二人居るんだが、何なんだろうか?どうしようかと思っているとすぐに先ほどこの男性を止めていた人が声をかけてきた。

「申し訳ありません。こちらの手違いですのでお気になさらなくて結構です。あとできちんと謝罪に行かせますので、申し訳ありませんが部屋に入っていていただけないでしょうか。お願いします。」

 なにやら悲愴な顔で言ってきたので素直にエレベーターに乗って部屋へと向かう。エレベーターが閉まるまでなにやら言っていたが気にしなくていいや。


 部屋でしばらく寛いでいると、呼び鈴が鳴ったので出てみる。そこにいたのは初日に会ったオーナーと、先ほどの男性の二人だった。

「申し訳ありません。うちの息子がとんでもないことをしてしまいました。すみませんが、謝罪の機会をいただけないでしょうか?」

「申し訳ありません。」

 二人して土下座をするような勢いで謝ってきた。ジェンと二人で苦笑いだ。

「あの、どういうことでしょうか?」

「うちの息子が状況も分からず部屋を開けるように迫ったと聞きました。本当に申し訳ありません。ルイドルフ爵とハックツベルト爵の顔に泥を塗るようなことをしてしまいました。なにとぞお許しください。」

 ああ、そういうことだったのね。どら息子が最高級の部屋を使おうと思ったら先客がいたので部屋の変更を依頼してきたと言うことか?でもあの部屋に泊まるという人物がどういうことなのか分からなかったのかなあ?自分たちの格好を見て甘く見たんだろうか?

「ジェン、どうする?」

「うーん、気分的に良くなかったのは確かだし、ラクマニアさん達の事を考えると何もしないというわけにもいかないかも。」

 たしかにこのまま済ませるとなると紹介状を書いてもらった二人がなめられたと言うことになってあまりよくはない。とは言っても別に直接被害を受けたというわけでもないからなあ。ジェンと少し話をして対応を考える。

「よし、それじゃあ、明日からしばらくの間、時間を空けてくれますか?息子さんの方です。明日朝食の後に呼びますのでお願いしますね。」

「わ、分かりました。マニア、大丈夫だろうな。」

「は、はい。」



 翌朝、朝食を終えたところで息子のマニアさんを呼んでもらう。

「おはようございます。昨日は誠に申し訳ありませんでした。」

「それでは今日から数日間この町の案内をお願いします。マニアさんがいつも行っている場所でかまいませんが、もちろんあまりに危険なところはやめてください。
 あと、案内中はあまりにかしこまった態度はしないでくださいね。普通に友人を案内している体でかまいませんので言葉遣いも普通にしてください。」

「そ、そんなことでいいのですか?」

「ええ、普段行けないようなところとか、穴場のお店とか案内してくれると助かります。あと、言葉遣い。」

「わかり・・・わかった。」

 そう言って町の案内をお願いした。やはり遊びまくっているせいか、知り合いも多いみたいであちこちから声をかけられている。素行は悪いが人付き合いはそれなりにいいみたいだ。まあ羽振りが良かったせいでつきあいがいいだけかもしれないけどね。

 貴族専用のお店だけでなく、服を着替えてから平民用のお店にも連れて行かれる。かなり怪しいお店もあったが、貴重な薬草なども取り扱っていて驚いた。まあ大半が偽物だったので鑑定がなければとても買えないお店だったけどね。
 食事も結構おいしい店が多くて、変わった素材を扱っているところもあった。ジェンが喜んだのはかなり希少なお酒を売っているところだ。会員制のお店なので普通は入れないが、マニアさんの紹介で入ることが出来たのだ。

 思ったよりも楽しい時間を過ごすことが出来て、ある意味よかったかもしれない。ジェンも今までと違う観光が出来て楽しかったみたいだしね。ただいろいろと言い寄られているのは面倒だったみたい。マニアさんがすぐに止めてくれていたけどね。

 出発する朝にはホテルの従業員が大勢見送ってくれたのでかなり気が引けてしまった。やっぱりあの二人の紹介状の威力はすごすぎるな。もう一回は泊まらないといけないので、ある意味気が重い。



~総支配人Side~
 今日はとんでもない人物がやってきた。ルイドルフ家とハックツベルト家の当主直々の紹介状を持ったお客様だ。受付もその紹介状を見て驚いたみたいで、かなり慌てて部屋に飛び込んできた。
 この国で今最も実力があるという2人の紹介状を持つ人間ってどういうことだ?そもそも両名とつながりを持つ人物は王族くらいしかないと思うのだが、もしかして王族なのか?ただ王族ならば事前に連絡があるはずだし、そもそも受付に紹介状を持ってくるなんて事はないはずだ。

 大急ぎでフロントに行って驚いた。いたのは20歳にもならない男女の冒険者だったからだ。一瞬この二人かと聞いてしまうくらいだった。
 すぐに部屋に案内してから話をするが、話す内容を聞いても間違いなく二人の知り合いだと言うことが分かる。念のため確認をとったところ、間違いないことが分かり、すぐに最上級の部屋に案内した。

 紹介状にはできる限りよくしてくれ、費用はこちらに回せばよいとだけで、ただ過剰な接待は控えるように書かれていた。難しい注文だがやるしかないだろう。従業員にもくれぐれも、くれぐれも粗相の無いように伝える。


 部屋はかなり満足してくれたようでほっとした。宿泊は3泊と言われたが、さすがにそれは短すぎるので何とか5泊してもらうことなった。さすがに3泊だと不満があったと思われてしまうからな。
 夕食は部屋で食べていただいたが、満足してくれたようでほっとする。食事の後で料理人が呼ばれたのでかなり緊張したようだが、「とてもおいしかった。」とお礼を言われたらしく、かなりほっとしていた。

 このまま5泊やり過ごせば十分評価されるだろうと思っていたのだが、息子がやらかしてくれた。その話を聞いたときは血の気が引いてしまった。
 どうやら友人達を最上級の部屋に案内しようとしたらしく、運が悪いことにエレベーターの入口で鉢合わせてしまったらしい。あの部屋を使う人物の意味を考えれば分かりそうなものなのに、おそらく二人の姿を見て侮ってしまったのだろう。なんとか他の従業員が引き留めて部屋に行ってもらったようだが、このままで済ませられるはずがない。

 すぐに息子のところに行き、どのような人物かを説明すると一瞬で青ざめた。友人達も関わりたくないようで、すぐに出て行ってしまった。それはそうだ。あの2人を怒らせたら自分たちの首はすぐに飛んでしまうだろう。いくら私が下位爵であっても息子は不敬罪に問われてしまうし、私もただではすまないだろう。
 せめて罪を軽くしてもらえないかという思いで息子をつれて二人に謝りに行ったが、今後は注意するように言われただけですんだ。このときはほんとにこれで済ませてくれるのか心配だった。

 息子に町の案内を頼んでいたので町の中で何か息子をおとしめるような罰を与えるのかと思ったが、普通に町を案内しただけだったらしい。あまりすすめられないようなところまで連れて行ったようだが、かなり満足していたようだ。
 しばらくしてからルイドルフ家とハックツベルト家から手紙を受け取り、いろいろと楽しませてもらえたということが書かれていてやっと安心できた。


 この事件の後から息子は前に比べて大分変わったように感じる。それまでつきあいのあった友人達とも距離を置くようになった。まあ私から見ると本当に友人なのかは怪しかったがな。これでいい方向に進んでくれるとありがたいものだ。


~マニアSide~
 友人達と遊んでいたんだが、今日は眺めのいいところでパーティーでもしようという話になった。折角なら最上級の部屋を見せてやるぜと案内したんだが、あいにく使用中と言われてしまう。
 今は外に出ているというので部屋を見せるだけでもと思ったんだが、だめだの一点張りで要領を得ない。そのうちにここを使っているという二人が戻ってきたようなんだが、若い冒険者風の二人だった。
 このときは友人の手前もあって、あまり深く考えなかった。この部屋を使うという意味を考えれば分かるはずなのに・・・。


 近くにいた従業員達に他の部屋に連れて行かれたところで父が大慌てでやって来た。そこで聞かされた言葉は衝撃しかなかった。あの方達の紹介状を持ってきたって・・・。それを聞いた友人達は早々に出て行った。まあこれ以上関わりたくないだろう。

 もう俺の人生は終わったかもしれないと思ったが、とにかく父と一緒に謝りに行くしかなかった。ここで行かなければこの宿は、いや家は終わりだろう。部屋に到着してすぐに必死に謝った。なかったことには出来ないが、なんとか恩情をかけてもらえないだろうか?

 謝罪は受け入れてくれたが、翌日から町を案内するように言われてしまった。町の中で俺をおとしめるようなことをさせられるのだろうか?でもそれですむならまだいいだろう。

 それでも覚悟を決めるしかないと思っていたが、普通に町を案内するだけだった。敬語もやめるように言われ、いつも行っているお店に連れて行くように言われた。
 最初は遠慮してまじめなところに連れて行ったが、「ほんとにいつもこんなところに来ているの?」と言われてしまい、途中から本当にいつも行っているお店に連れて行った。友人達には身分や関係を明かさないようにと言われていたので、友人を案内しているとしか伝えなかった。ひやひやすることは結構あったが、かなり楽しんでいるようだった。
 あのときの3人は関わりたくないのか、家に引きこもっているらしい。へたに騒がれなくて良かった。

 案内も3日目になるとかなり親しく話すことが出来るようになり、いろいろな話をした。その話の中でいろいろと考えさせられることも多かった。この国はもう変わり始めているから貴族という特権にあぐらをかいていると足下をすくわれるという話はかなり衝撃だった。
 あの二人と関係のある彼らが言うのであればそれは間違いないことなのだろう。たしかにサビオニアの話は衝撃だったが、どこか遠い国の話と思って聞いていた。


 あの出会いから数年後、俺は父から業務の一部を任せてもらうようになった。二人に出会ってから考えを改めて今まで見下していた人間にも目を向けるようにした。すると、かなり有能な人間が見えてきたのだ。今までのことがありなかなか信頼は得られなかったが、仕事を与え、成果が出てくると徐々に信頼を得ていった。
 一応教養だけはちゃんと付けなければ小遣いも渡さないと言われていたので不真面目ながらもある程度勉強していて良かったと改めて思った。
 生活態度が変わり、俺と付き合ってもあまりうまみがないと思った友人は離れていったが、そんなことはもうどうでも良かった。その代わりに今までつきあいのなかった友人も増えていった。

 国の方針が徐々に変わっていき、平民の活躍する場が増えていくにつれて昔の友人達の一部は落ちぶれていった。昔ながらの考えに凝り固まり、有能な人材が逃げていったせいだろう。もしあのとき気がつかなければ俺も同じことになっていたかもしれない。

 ハックツベルト家のラザニア爵がやって来たときに、あの二人の話を聞きたいと言われて話すことになった。正直にそのときあったことを話したところ、ラザニア爵は笑いながら聞き入っていた。どうやらあの二人と親交があったらしい。

 あのときにあの二人に出会っていなかったら今の俺はなかっただろう。父の権威にあぐらをかいたままだったかもしれない。しかしそのままだったらおそらく今の地位はなかっただろう。気がつかせてくれたあの二人には感謝しかない。


~~あとがき~~
 原案は1回目のハクセン訪問の頃に書いていたものなのですが、なかなか織り込むところがなくここまで来てしまいました。だめ貴族の息子ということで書いていたのですが、最終的には当初考えていたものとまったく違う終わり方になってしまいました。どうもいろいろと書き換えていくと、登場人物がどんどんいい人になってしまう・・・。
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