【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ

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第二部 異世界での訓練

236. 異世界1721日目 貴族との関わり

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 騎士隊での訓練を中心に日々を過ごしているが、他にもラクマニアさんの家を訪問したり、騎士の人たちと交友を持ったり、パーティーに参加したりといろいろと忙しい。


 ある日ラクマニアさんから今後の教育方針について意見を聞きたいと言われ、なぜか城に連れて行かれる。どうやら他に一緒に意見交換を行ってもらいたい人がいるらしい。あくまで非公式の打ち合わせなので気にしなくていいと言われるが、自分たちでいいのか?聞いたところ、話をするのは自分たちのこともある程度知っている人という話だが・・・。

 部屋に入って驚いたのはそこに座っている人だった。確かに面識はあるし、自分たちのことは知っているとは思うんだけど・・・。

 そこにいたのはラクマニアさんの政敵と言われるハックツベルト爵だった。

 他にいるのはハルトニアさん、ルイアニアさんで、もう一人ハックツベルト爵の隣に男性が座っている。座っている位置を考えるとハックツベルト爵の関係者かな?

「久しぶりだな。いろいろと話は聞いているが、まずは礼を言わせてもらおう。あの事件がきっかけでいろいろと助かることになった。非公式ではあるが、ラクマニアともこういう話が出来るようになったのは以前からは信じられんことだからな。」

 そういえば最近は結構良好な関係を持っていると言っていたな。

「ただいきなり馴れ合う訳にもいかないし、仲良くする気もないのでな。ときどき非公式ながらこのような会合を持っているのだよ。」

「いえ、特に自分たちは何をしたわけではありませんので・・・。もしそうお考えだったとしても、それはハックツベルト爵自身が柔軟に対応されただけのことだと思います。」

「ふふふ。まあそう言うことにしておいた方がいいだろうな。」


「こっちに座っているのは息子のラザニアだ。ラクマニアと同じく、今後のこともあるのでこのような会合にも参加させている。」

「ラザニア・ハックツベルトです。父に多大な影響を与えたと聞いています。おかげでいろいろと助かりました。ありがとうございます。」

 そう言って普通に頭を下げてきたのにちょっと驚く。平民に対してこんなに簡単に頭を下げるんだ。なんかこの人少し変わっているような気がするなあ。他の人もちょっと驚いているからね。



「さて、時間もないので本題に入ることにしよう。」

 お互いの紹介が終わったところでラクマニアさんからの発言があり、今回の会合の趣旨が説明された。どうやら今後の平民の教育方針についていろいろと検討しているらしく、自分たちに意見を出してほしいと言うことだった。
 平民の登用は進んではいるものの、未だに貴族という特権に固執して平民への教育に反対する人たちも一定数いるようだ。まあ教育が進めばそれだけ自分たちの立場が危うくなってくるだろうからね。
 近々そのことについて話し合いが行われるようだが、事前に出来るだけ多くの意見をまとめておきたいらしい。

「ヤーマンで実施された組織の指導方法や教育について助言を行ったという話は聞いているからな。いろいろと意見を聞いてみたいと思っていたところだ。」

 やはり秘密にしてもらってはいるけど、ある程度はばれているのは仕方がないか。

「自分たちは少し考え方を言っただけで、実際に行ったのはその担当者達ですよ。」

「その考え方が重要なんだがな。もちろんそのまま使えるか分からないが、使えると思う考えを言ってもらえるとありがたい。」


 簡単に状況を聞くと、今すすめようとしているのは言ってみれば奨学金のようだ。平民の生活は裕福とは言えないため、どうやって学費をまかなうかと言うことだった。基礎的な初等教育についてはすすめているが問題はそこから先の教育についてのようだ。
 やはり国からの援助だとまだ反対意見も多く、採用には至らない可能性が高いみたいで、いろいろと意見は出ているようだが、まずはそれらの意見の先入観なしで考えを聞かせてほしいと言うことだった。

 そこでまずは自分たちの知っていることをジェンと話しながら説明をしていくことにした。

「まず基本となるのはお金を無利子で貸し付けて、働き出してから返済していくというものや特に優秀な人は完全に免除にするというところだな。」

「そうね。その基金は国から出すか、出資者を募るという形のどちらかしかないわね。」

「就職先の一つとして出資者が奨学金を受けた人たちを優先的に採用できるとかにすればどうかな?優秀な人材が実際に育ってくれば出資者に名乗り出てくるところも増えそうだ。最初だけは話の付いている人たちからの出資をお願いしなければならないだろうけどね。」

「ただそれだと、・・・

・・・

・・・教育をする人に貴族の就職先の一つとして考えるのはどうだろうか?」

「問題はその教師となる人の人格や考え方が重要ね。変に偏った人が教師となると大変だわ。」

 ジェンと二人で討論しながら話していると思ったよりも白熱してしまい気がつくとかなり時間が経っていたみたい。

「あ、すみません。勝手なことばかり思いつくまま話していました。」

 自分たちが話しているのを静かに聞いていたようだが、さすがに時間をかけすぎたか?

「い、いや、かまわない。というよりよくここまでいろいろと考えが出てくるものだな?」

「たしかにそうだな。他の国でも一部導入しているのは聞いたことがあるが、ここまでいろいろな話は聞いたことがない。これは二人が考えたのか?」

「いろいろと過去の文献を読んだりして、ジェンとこういう感じだといいよねという話をした内容ですね。元になるような話を見たり聞いたりはしたことがあるのでそれをさらに改良した感じです。もちろん実践したわけではないのでうまくいくかは分かりませんが、参考になればと思います。」

「いや、正直十分すぎる内容だ。我々もいろいろと考えてはいたのだが、かなり具体的な話も出ているし、実際に導入した場合の弊害についての考察も十分だ。いろいろと問題もあるだろうが、かなり参考になる。」

 ある程度話し終わった後、個々の内容について意見交換する。思ったよりも時間がかかってしまったが、いろいろと参考になったみたいで良かったよ。



 このあとも定期的に教育の指針についての資料を見せられて意見を求められる。かなり自分たちの意見が採用されていて、その導入方法について具体的に改善されていくのを読むのはある意味楽しかった。
 今回の参考意見については事前に招集した平民からの意見と言うことで提案書をあげたみたい。それは自分たちも了承済みのことで、名前については伏せてもらっている。ただ貴族の関係者にはかなり衝撃な事だったらしい。


~ハルトニアSide~
 以前父と弟がヤーマンで平民の結婚式に参加したと聞いたときにはなんの冗談かと思ったものだ。参加したのは以前ジョニーファン様の紹介と言うことで父と交流を持っていた冒険者だった。結婚式から戻ってきたあと、参加したものから話を聞いて正直驚いた。あの父にもそんな一面があったと思ったものだ。

 その二人が旅の途中で父の屋敷にやって来ているというので会ってみることにした。突然の訪問だったこともあり、受付の不手際で危うく追い返すようなことになりかけて、大変だったと聞いた。


 最初の印象は「本当にこの二人が?」としか思えなかった。まだ成人して数年という感じだったからだ。しかしその最初の印象は話してみると、すべて覆されてしまった。父が気に入るのも納得できるほどいろいろなことを知っていたからだ。
 父と対等に話すことの出来る知識量。これは魔法に関してだけでなく、政治や経済に及んでいた。しかもかなり具体的な例を示されるので納得してしまう。本人達は机上の空論と言っているが、そこまで考察されていていれば反論できないような内容が多かった。

 教育体制についてもかなりのアイデアを持っていた。いくつかは我々も考えていたことではあるが、さらにそれを推し進め、実際の現状にあわせて調整したものや、将来の体制まで考えていたことには驚いた。
 同年代で同じくライバルであったラザニアのやつも参加していたがその表情を見る限り同じだろう。普段はあまり話しかけてこないくせに打ち合わせの後にいろいろと聞いてきたのは驚きだ。残念ながら二人のことは父の許可がいるのであまり話せなかったが、そのあと父にも相談に行ったようだ。
 ただ気になったのはあの会議の時の奴の態度だ。奴の今までの言動や行動を考えるといくら爵位相当を持っているとは言え格下の人間に頭を下げたというのが気になる。まあ最近は前に比べてかなり話しやすくなったのは間違いないのだがな。


 しかしあの二人について何が一番驚いたかというと、その悪意のなさだ。誰でも信じるお人好しというわけではなく、合理的な考えを元に最善と思うことをやってくるのだ。しかもその対価を求めるわけでもないからたちが悪い。そこまでやられてしまっては何かのお返しをしなくてはという気分にさせられるのだ。

 二人の妻も彼らの事を気に入ったみたいで、ジェニファー夫人とよくお茶会をしているみたいだ。しかも屋敷に招くだけでなく、二人の家にも訪問したと言っていたからな。おかげで妻の二人の仲も前よりも良くなっているようだ。
 騎士隊でもうまくやっているという話を聞いているからやはり人を引きつける魅力があるのだろうな。まあそういう私もその一人のようだがな。
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