上 下
259 / 313
第二部 異世界での訓練

235. 異世界1684日目 騎士団の訓練

しおりを挟む
 今日から騎士隊で訓練となるが、他の騎士達への紹介があるので朝一で来るように言われている。騎士隊の訓練場の受付に行くと、すぐにカレニアさんのところに案内してくれた。
 カレニアさんと少し話をした後、訓練場へと向かう。新しい人が来る日は出来るだけ朝一に顔を出すようになっているみたいでかなり多くの人がやって来ていた。

「集合!!」

 カレニアさんが声をかけると、カレニアさんの前に全員が整列した。全部で40人くらいか?第二騎士隊全体で60人くらいと言っていたので8割くらいのメンバーがいると言うことかな。

「今日から体験入隊となる二人を紹介する。イチとジェンだ。二人ともヤーマンの出身だが、ハクセン語も十分に堪能なので会話に支障はないはずだ。来年の春頃までと期間は短いがよろしく頼む。二人とも自己紹介と何か一言を頼む。」

「イチと言います。冒険者として活動していますが、体験入隊させてもらうことになりました。短い間ですが、少しでも技量を上げていきたいと思いますのでよろしくお願いします。」

「ジェンです。同じく冒険者として活動しています。主に短剣を使いますが、杖の取り扱いについても学んでいきたいと思っていますのでよろしくお願いします。」

「目の色を変えているものが多いが、二人はすでに結婚しているからな。余計なちょっかいは出さないように。」

 カレニアさんの説明に落胆している人がそれなりにいると言うことは独身者が多いのだろうか?騎士の中には女性もいるのでジェンも少しは安心かもしれないな。


 紹介の後、まずは指南役の人たちと対戦し、自分たちの技量を確認してもらう。指南役は全部で5人で、それぞれ得意分野が異なるが、最初は全員が相手するようだ。今回の情報を基に今後の指導内容を決めるので、明日には大まかな指導方法ができあがると説明される。
 一通り終わった後は他の騎士の人たちから対戦を求められる。やはり技量的には自分たちの上の人ばかりなので正直へこんでしまうが、全くついて行けないレベルではないのでまだいいのかな。ジェンは自分以上に対戦を求められているが、適当なところで女性陣から助けが入ったようだ。

 お昼は食堂で食べるみたいだが、自分は他の騎士達に誘われて行くことになった。ジェンは女性陣に誘われていたのでまあいいかな。いつも一緒にいる必要はないしね。
 食事をしながら聞かれたのは「どうやってあんな美人の奥さんと知り合ったんだ。」とか「うらやましすぎる。」とか「夜の生活はどうなんだ?」とかジェンに関することばかりだった。ジェンの方は大丈夫だっただろうか?
 この日は訓練の後に歓迎会をしてくれるというので参加する。まあ歓迎会と言っても単なる飲み会という感じだったけどね。当直などもあるので参加するのは20人ほどだったが、いろいろと話も出来て楽しかった。なんとかなじめそうで良かったよ。


 翌日からは指南役の人たちから渡された内容に沿って訓練する。最初の1週間は朝から夕方までやったせいもあり、筋肉痛でかなりつらかった。まあ治癒魔法で治していたんだけどね。治癒魔法は前の状態に戻して回復するわけではなく、自己治癒能力を上げて治すので、筋力アップなどにもちゃんと効果は出るので大丈夫だ。

 訓練は対人だけではなく、魔獣に対する訓練も行われた。ここでは訓練のための魔獣が飼われており、実際に対戦して技量を確認することもある。治癒をしながら何度も戦わせているため、普通の魔獣よりも賢く、強力になっているのが怖いところだ。
 地球だったら愛護協会とかから文句が来そうだけど、こっちでは本当に命がかかっているからそんなことを言う人はいないみたい。

 最初はちょっと心配していたんだが、特にいじめのようなこともなく、うまくなじめたので良かったよ。確かにかなり強めにしごかれている人もいるが、まだ許容レベルと言ったところか?正直なところどうなのかまではさすがに分からないけどね。


~カレニアSide~
 かなり急な話だが、体験入隊の話を受けた。もともと入隊希望者だけでなく、体験入隊を希望する人は多いが、通常はある程度まとめて選抜するはずだ。こんなに急にしかも少人数で入隊試験をやることになるとはなにかしらの政治力が働いたのだろう。ヤーマン国の貴族と言うことだったからな。

 推薦者はルイアニア爵なので、父のラクマニア爵の意向が働いたのかもしれない。ルイアニア爵がそのつもりがなくてもラクマニア爵が後ろにいると思うとすり寄ろうとする人間も多いだろう。今この国であの方に反抗する人間もほとんどいないからな。
 唯一対抗できるのはハックツベルト爵くらいだろうか?ただ最近はお互いの政策にかなり歩み寄りを見せているから昔ほど敵対しているわけではないという話もある。まあ平民の登用について積極的になってくれているおかげでほぼ平民の私も最近になって副隊長になれたのだがな。そうでなければいくら平民の多い第二騎士隊でも分隊長がいいところだっただろう。

 ラクマニア爵の意向が働いたとしてもきっちりと判断をしなければ他の騎士達からの反感は免れない。ただ技量の足りないものは訓練に参加できないと言うことにはなっているが、少し劣るくらいだと断りにくいのが問題だ。騎士隊に在籍したと箔を付けたがる貴族がいるからな。
 そう思っていたところ、ルイアニア爵直々にやってこられて驚いた。しかも参加予定の二人は優遇されることが嫌いなので、技量がなければそのように判断してかまわないと言ってきた。そう言ってくれたのは助かるが、ルイアニア爵がここまで気を遣っていってくるというのが驚きだ。

 ただ名前の変更と変装の魔道具を着ける許可を求めてきたのが不思議だ。もちろん変装の魔道具と言っても完全に他人になれるほどではないが、それでもわざわざ着けると言うことはなにか理由があるのだろう。まあ変な詮索をするのはやめておいた方がいいな。


 入隊試験日を連絡するとちゃんと時間通りやって来たが、二人を見てちょっと驚いた。どう考えても成人したばかりという感じだったからだ。本当に大丈夫なのか?
 ただ、ヤーマン国出身と言っていたがハクセン語を普通に話しているのは正直驚いた。いくつかの国の言葉は話せると言っているが、ここまで流暢に話せるとは思っていなかったからな。

 良階位の冒険者とは聞いていたが、ぎりぎりの良階位というわけではなさそうだ。魔獣を相手にすることが多いのか、対人の方はあまり慣れていない印象を受ける。それ以前にどうも攻撃に移るタイミングが妙なんだが・・・もしかして魔法を使うのか?それだったら納得できるな。まあ、技量的には十分ここでも鍛えていけそうなレベルとみていいだろう。

 二人の戦い方について確認したところ、やはり魔法を使った戦闘を主眼に置いていたようだ。そして今回の試験で魔法の使用について聞いてみると、試験の意味をちゃんと把握していた。たしかに私に勝つことが目的ではないからな。
 そう考えていると、勝手に予備隊に行くような話をし出して驚いてしまう。全く相手にならなかったので、技量がまったく足りていないと思ったらしい。これでも副隊長を任せられているくらいの実力はあるので、私と同じレベルは求めていないぞ。十分に伸びしろもあるし、参加することが出来ると説明するとかなり喜んでいた。


 翌日から早速訓練に参加してきたが、思ったよりも他の人たちとうまくやっているようだ。ジェニファー殿にちょっかいをかけているものもいるようだが、全くなびく様子はないな。まああの二人の様子を見たらあきらめざるを得ないだろう。

 しかし思った以上に上達速度が速いのには驚きだ。取り組む姿勢もあると思うが、指南役も驚くくらいだからな。
 春になるまでの短期間ということだが、思った以上に実力が伸びるかもしれない。他の奴らも二人の成長にかなり刺激されているのでいい傾向だ。まあ嫉妬している奴らもいるようだが、それは仕方がないだろう。
しおりを挟む

処理中です...