【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ

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第二部 異世界での訓練

234. 異世界1680日目 騎士団の入隊試験

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 今回はルイアニアさんに同行しているのですぐにラクマニアさんの屋敷に入ることができた。護衛のハルトさんたちも任務を終えてこのあとは町に戻るようだ。最初の頃に比べてだいぶ打ち解けたと思うんだけど、なんか距離も感じるようになったのは気のせいだろうか?


 到着の連絡が事前に入っていたのか、この日は兄のハルトニアさんの家族もやって来ていた。その中で一緒に食事をするというのもなかなか大変だったよ。まあ見知った顔ばかりだったからまだ良かったけどね。食事の後は子供達に誘われてしばらく遊ぶことになったんだが、子供達の元気さに結構圧倒されてしまった。さすがに人数が増えると大変だ。
 子供達から解放された後、ラクマニアさんに呼ばれて話をする。

「この後はどうするのか予定があるのか?」

「ええ、アルモニアに行こうと思っているのですが、季節的に厳しそうなのでどうしようかと悩んでいるところです。」

「たしかに今からだと途中で雪が降り始めるので、アルモニアでの移動はかなり厳しいことになるだろうな。もちろん移動できないことはないが、移動に時間もかかるし危険も大きくなるだろう。」

「それで雪が溶けるまではこの町に滞在して訓練しようかと思い始めています。かなりレベルの高い道場も多いみたいですので、もしよろしければどこか紹介していただけないでしょうか?」

「そういうことなら、城の騎士隊に研修という形で参加してみたらどうだ?ヤーマンで爵位相当の地位があるならこちらの国の手続きだけで済ませることができるぞ。」

 ラクマニアさんはしばらく考えた後、驚くような提案をしてきたけど、ほんとに出来るのかな?ハクセンの騎士隊ってかなりレベルの高いところだったはずだ。そんなところに研修に行けるのならかなりうれしいけど・・・。

「本当ですか?それが可能なのであれば是非お願いしたいところですが・・・。」

「わかった。それでは明日にでも申請しておくことにしよう。ただ入隊試験はあるはずなのでそこで実力がなければあきらめてもらうしかないぞ。」

「ありがとうございます。試験を受けられるだけでも十分です。
 それと今後の滞在のことなのですが、できればどこかアパートでも借りようかと思っているんです。」

「わざわざ借りなくてもここから通っても大丈夫だぞ。孫達も喜ぶからな。」

「いえ、そこまでお世話になるわけにもいきません。それにどこに行くにしてもラクマニア様の屋敷から通っていると分かってしまったら他の人たちが気を遣いそうですので・・・。いえ、ここから通わさせてもらうとしたらとてもありがたいことではあるのですが・・・。」

「うむ・・・確かにそれは考えられるな。二人に変に接触してこようとする奴らも出てくるかもしれん。前も町中では変装していたと言っていたな。わかった。アパートを借りるにも保証人はいると思うので、ルイに書いてもらうことにしよう。
 たまには我が家にも遊びに来てくれるのだろうな。いろいろと魔法のことについて話したいこともあるし、相談したいこともある。妻も子供達も楽しみにしているからな。」

「ありがとうございます。都合が良い日を言っていただければそれに併せて伺うようにします。」



 ラクマニアさんからの推薦状だと効果がありすぎるのでルイアニアさんに紹介状を書いてもらって不動産屋に行ってみたんだが、すぐに店長がやって来た。ルイアニアも中位爵だし、ラクマニアさんの息子と言うことを考えたら効果は大きいよな。店長には挨拶だけにしてもらって係の人に案内してもらう。
 貴族エリアの賃貸物件は屋敷のようなところになってしまうので平民エリアで探してもらうしかない。貴族の関係者の場合は通常は伝を頼って誰かの屋敷に泊まったりすることが多いようだからね。平民エリアでも貴族エリアからあまり遠いと面倒なのでできるだけ近くで良さそうな物件を案内してもらった。
 そこまで選択肢はなかったのであっさりと一軒家を借りることにしたんだが、値段がえらく安い気がするのは紹介状があったせいだろうか?前にサクラで借りていた時と値段は変わらないのに一軒家の4LDKだもんなあ。ここまで広いところは必要なかったんだけど、このくらいならまだ許容範囲だろう。
 部屋の中は前の時と同じように拠点の家具を配置するだけだったのですぐに終わった。鍛冶場も庭に出したのでここでも鍛冶作業は十分に出来るな。両隣の家には一応挨拶をしておいたが、やはりこういうところに住んでいるせいか金持ちが多いようだ。



 ラクマニアさんと話をしてから二日経ったところで騎士隊への入隊試験のことを聞く。やはりハクセンの騎士隊は他国に比べてレベルが高いため、もともと体験希望者はかなり多いみたい。入隊試験を受けるだけでも順番待ちなのに、今回はかなり無理言って手続きをしてもらったらしい。申し訳ないな。
 ただ、あくまで今回は入隊試験を受ける権利であり、相応の実力がなければ体験とは言え、入隊することは出来ないということだ。まあそれはそうだろうな。かなり敷居が高いので、がんばるように言われる。

 訓練の時もそうだが、試験の時も多くの人と会うので、今後のことを考えて変装しておくように言われる。試験に合格したら顔が変わったとかだとまずいからね。変装の魔道具のことは騎士隊の上の方達には話してくれているようだ。
 変装と言っても違和感がないように髪の色と肌の色を変えて、顔の雰囲気も気持ち変わった程度だけどね。それでもぱっと見の印象は違うので、別人と言い張れば行けるくらいにはなったと思う。町中ではマントにフードという出で立ちだからいいけど、さすがに訓練中にそれは無理だからなあ。
 この日の夜は簡単なパーティーのようなことをしてくれたんだが、子供達は「ここから出て行くの?」とかなり悲しそうな顔をされたので、すぐに遊びに来る約束をする。



 翌日王宮のそばにある騎士隊の訓練場を訪問すると、話はちゃんと通っていたみたいですぐに中に案内される。部屋で少し待っていると、大柄の男性が一人入ってきた。

「初めまして。ハクセン王宮第二騎士隊副隊長のカレニアだ。」

「初めまして。今回入隊試験をお願いさせていただきましたジュンイチと言います。」
「初めまして。ジェニファーと言います。」

「話はルイアニア爵から聞いている。ヤーマンの爵位を持っているという話だが、体験入隊としても爵位はここでは関係ないと思ってくれ。それが納得できないのであればこの話はなかったことにしてほしい。」

「いえ、それは大丈夫です。」

「わかった。それと、入隊試験の許可が出たと言っても誰でも入隊できるわけではないということは承知してほしい。最低限の技量がなければ訓練について行けないからな。訓練はあくまでさらなる技量アップのために行うもので、一から鍛えることを目的にしているわけではないのだ。
 もし技量が足りないと判断した場合はいくらルイアニア爵の推薦とは言え断らせてもらう。まあその場合は予備隊の方に行ってもらうことになると思うがな。」

「「わかりました。」」

 さっそく試験と言って訓練場に移動して模擬戦を行うことになった。相手は副隊長自ら行ってくれるようだ。さすがに副隊長と言うだけあって全く刃が立たない。いくら打ち込んでも軽く躱されるし、受け流されてしまう。ここで血が上ってはだめだと冷静になることを心がけながらひたすら打ち込んで隙を探すが全くだめだ。
 時間切れとなってからジェンと交代するが、ジェンも同じように簡単にあしらわれている。端から見ていてもやはり力量の差がありありとわかるな。対戦したらそれをもっと強く感じるけどね。
 折角推薦してもらったけど、いくら副隊長とはいえ全く対抗できなかったから入隊は無理そうだなあ。まあだめな場合は予備隊に行けるようなのでそっちでがんばるしかないだろう。ラクマニアさんとルイアニアさんには後で謝っておくしかない。

「おまえ達の腕は分かった。結構いい線まで行っているが、技量の方はまだまだだな。普段は魔法を使うことが多いのか?」

 さすがにすぐに分かったみたいだなあ。

「ええ、魔獣の狩りの時には魔法を攻撃の起点として使っています。」

「今回特に魔法を制限していなかったと思うがなぜ使わなかったんだ?」

「今回の入隊の目的は剣の腕を上げることですし、今回の試験も剣の腕を見るのが目的だと思います。たとえ魔法を使っていい勝負が出来たとしてもそれは趣旨が違ってきます。まあ魔法を使ってもあっさりと躱されそうですけどね。」

「なるほど。わかった。そちらのお嬢さんも同じ意見なのかな?」

「ええ。魔法ありきで戦うにしても、基本的な技量が必要ですし、それを習いたいと思ってきたのですから純粋な剣の技量だけで評価をしてもらわないと意味がありません。」

 やっぱりジェンも同じ意見だったか。特に相談はしなかったけど、今回の試験の目的を考えたら魔法を使う意味はないからね。

「今回は残念ながら入隊は無理そうですが、せっかくなので予備隊の方でがんばってみたいと思います。わざわざ時間をとっていただいて申し訳ありませんでした。」

 騎士隊の体験くらいなら何とかなるかと思っていたんだけど、甘く考えすぎていたなあ。まあ予備隊でも普通は入れないところみたいだし、そっちでがんばるしかないかな。

「おいおい、勝手に話を進めるな。だれが予備隊でがんばれと言った。」

「え?だめな場合は予備隊で鍛えてもらえると言っていたので・・・。もしかしてそれにも技量が足りないのですか?」

「いやいやいや。そういう意味じゃない。まだ未熟なところはあるが、基礎はきちんとしているし、十分伸びしろはある。学ぼうとする姿勢も立派なので、私の判断では訓練に参加していいと思っているんだぞ。」

「ええ?ほんとですか?」

「こんなところで嘘を言ってもしょうがないだろ。まあまだ合格というわけではないがな。」

「「ありがとうございます!!」」


 このあとカレニアさんは最後の許可を取りに行くというので、待っている間はジェンと模擬戦をする。さっきのカレニアさんの事でちょっと熱が入りすぎてしまったみたいで、かなり本気でやり合ってしまったよ。気がつくと騎士と思われる人がこっちを見ていて、ちょっと焦ってしまった。どうやら試験の時間が終わったので他の人も入ってきているようだった。

「おまえ達は騎士候補なのか?」

 その中の一人が声をかけてきた。

「まだ正式に決まっていませんが、体験希望です。今副隊長のカレニア様に技量を確認してもらったところです。一応合格とは言われましたが、どうなるかはまだ分かりません。」

「一応合格と言われたんなら大丈夫じゃないか?見たところ、かなり技量があるように思えるしな。しかしおまえもそうだが、そっちのお嬢さんも若いのにかなり強そうだな。」

 少し話をしているとカレニアさんが戻ってきた。他にいた騎士達は「まずい!」という顔をして慌てて訓練に戻っていった。


 手続きは無事に終わって無事に許可が出たみたいで、明日から来ていいことになった。このあと詳細については事務の方で確認するように言われたので、お礼を言ってからそちらへ向かう。

 騎士隊は当直や休みのメンバーを除き、基本的に朝1時から5時まで入れ替わりで訓練を行っているようだ。もちろん戦うだけが仕事ではないので一日中訓練を行っているわけではないが、訓練場には指南役が数名常駐しているのでいつでも指導してもらうことが出来るらしい。その日の終わりには自由に対戦も行うらしく、そのときは多くのメンバーが参加するようだ。
 訓練に参加する時間は自由だが、出来るだけ前日までに滞在する時間を連絡しておいた方がいいようだ。今回は研修ということなので他に用事がなければずっといてもいいと言われてしまった。
 他にもやらないといけない用事もあるので朝のうちに他の用事を済ませて昼食の後から参加するのがいいかもしれないな。
 ちなみに体験の費用は必要らしいが、推薦者が肩代わりすることが多いみたいで、今回もルイアニアさんが持ってくれているようだ。

 いったん新しく借りた家に戻った後、変装を解いてからラクマニアさんの屋敷に報告に行く。無事に試験に合格したことを喜んでもらえた。結局この日も夕食をごちそうしてもらうことになり、家に戻ると結構遅くなってしまった。
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