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番外編 後日談
7. 優階位の冒険者
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昨日約束していたので朝一で港に行って魚を仕入れた後、少し遅めの朝食をとる。試験は2時からなのでゆっくりしても大丈夫だ。
そうは言っても、優階位の人が来てくれるのに遅れてもまずいと思い、結局少し早めに行くことにした。
役場の受付に行って確認すると、まもなく試験を行ってくれる二人が来るので訓練場に移動しておくように言われる。ちなみに受付の女性はマルリーラというらしく、最近になって受付業務を担当することになったみたい。
「今回、運良く試験を受けてくださるのは優階位パーティー・タルバンのユータさんとカナさんです。ご存じかもしれませんがお二人はあのアムダの英雄とも親交があったんですよ。」
タルバンのユータとカナだって!?それってどう考えてもあの二人だよな?ジェンを見ると同じように驚いている。
それにアムダの英雄って・・・アムダの討伐のことを考えると自分たちのことか?そういえば今の情勢の確認をすることを優先してあの戦いのことについてはまだ調べていなかったな。
知り合いに会ったときのいいわけは考えているけど、まさかいきなり会うことになるとは思わなかった。もう少しいろいろと資料を読んでおかないとまずいかもしれないなあ。
この町を出発する前に他の資料もいろいろと読んでいた方が良さそうだな。
二人についての説明を聞いていると、「あ、もう来られましたね。」と言われ、そっちを見ると、年配の男女ふたりが目に入る。
年はとっているが、面影があるので間違いなくあの二人だろう。二人とも優階位まで上がっていたのか。こちらを見て少し驚いたような顔をしているけど、もしかして気がついたかな?
「今回試験担当を引き受けていただいてありがとうございます。こちらのお二人が試験対象の方です。」
「「初めまして。よろしくお願いします。」」
「ああ、初めまして。もう引退していてもおかしくない歳になっていますが、いまだに冒険者にしがみついてやっているユータです。こちらはパートナーのカナです。
ジュンイチさんとジェニファーさんと言われるのですね。アムダの英雄から名前をとられたのでしょうか?残念ながらお二人の写し絵などは残っていませんが、自分たちの記憶にある姿によく似ていますよ。」
やっぱり、アムダの英雄って自分たちのことみたいだな。しばらく受付の人から説明があった後、訓練場へと向かう。
訓練場は以前とあまり変わっておらず、それなりの広さがあった。他の冒険者の姿もあるが、ユータ達の姿を見てちょっと緊張しているようだ。「後で声をかけてみてもいいだろうか?」とか聞こえてくるので、二人はかなり有名なのかもしれないな。
「それじゃあさっそく試験を行いましょう。」
今回の試験はあくまで武器を使った戦闘能力の確認だけだ。魔法はよほどでなければ使い方を忘れたり、威力が極端に落ちたりするわけではないため、こちらの確認はない。自分はユータが、ジェンはカナが相手することになった。
「いきます!!」
ユータに攻撃を仕掛けるが、なかなか攻撃が当たらない。盾で防がれるし、避けられてしまう。目は姿をちゃんと追えているんだが、やはり身体の方がうまく動かない感じだ。動かないと言うよりは先に動きすぎてうまく狙ったところに当たらないといった方がいい。
ユータからの攻撃も躱したり防いだりしようとするが、やはり動きの方が先回りしすぎてうまくいかないことがある。
レベルが高い人が相手だとやっぱりこのちょっとした差が大きいな。まあジェンとの模擬戦の時から感じていたんだが、やはり慣れない相手だと余計にはっきり認識できるな。
しばらく打ち合った後、装備を少し変更してやってみるが、根本的に身体の動きがずれているのでやはりユータにはかなわなかった。ずれが治ればなんとか互角くらいにはなるのかな?
「それじゃあ、このくらいにしましょうか。」
しばらく打ち合った後、ユータから終わりを告げられたが、最後まで決定打を与えることは出来なかった。うーん、良階位の維持は厳しいかな?
ジェンも試験が終わったみたいでこっちにやって来た。ユータとカナの二人は試験結果の話をするために別の部屋に行くようだ。
「どうだった?」
「やっぱり思ったようには攻撃できなかったわね。さすがに優階位にあがっただけあってかなり実力が上がっていたわ。」
「やっぱりそうか。まあ自分たちでやっていたときも違和感はなくならなかったからなあ。この辺は少しずつ治していくしかないよな。」
「でも良階位としてのレベルは十分だったと思うわ。もともと魔法の方の実力は認められていたしね。ある意味魔法の試験があったら手加減しないといけないくらいだったわね。」
しばらくするとマルリーラさんがユータとカナと一緒に戻ってきた。
「おめでとうございます。ユータさんとカナさんからお聞きした実力から、良階位のままで登録することとなりました。」
「「ありがとうございます。」」
「このあと手続きがありますので受付の方に来られてください。」
「分かりました。」
「ジュンイチさん、ジェニファーさん、お二人とも魔法も使えると言うことを差し引いても十分に良階位の実力はあります。久しぶりに剣を使ったせいなのか分かりませんが、身体の動きに不自然さがありますので今後も鍛錬を続けていってください。」
ユータ達にお礼を言ってから受付へと向かう。手続きをしてもらい、晴れて冒険者の階位が良階位となった。
「やっぱり良階位となっているとうれしいもんだね。」
「せっかく良階位まで上がっていたからね。」
二人で話しながら役場を出ようとすると、入口付近にいた男性から声をかけられる。
「すみませんが、少しお時間よろしいでしょうか?魔道具ですこし変装していますが、先ほど会ったユータです。」
魔道具を解除したのか、顔立ちがユータの顔に戻った。
「え・・・と、それは大丈夫ですが、お二人の方こそよろしいのでしょうか?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。」
「折角なので一緒に食事でもどうですか?ちょうどお昼になるところですし・・・」
「ありがとうございます。それじゃあご一緒しましょう。」
この町にも慣れているのか、行きつけにしているお店があるというので二人についていく。案内してくれたお店はちょっと高級なところで、個室をとってくれた。うーん、やっぱり気がつかれたのかなあ?
一通りの料理を注文して給仕の人がいなくなったところでユータが話しかけてきた。
「率直に聞きます。お二人はアムダの英雄のジュンイチとジェニファーではないですか?見た目や装備や戦闘スタイルがあまりにそっくりなのです。他にも理由がありますが、本人としか思えないのです。
なにか秘密にしなければならなかった事情があるのかもしれませんが、絶対に秘密にしますので話してもらえないでしょうか?」
ジェンの方を見るとうなずいてくれた。
「ユータ、カナ、久しぶりと言っていいのかな?言われている通りです。
まだあのときに渡したバッグを使われているんですね。もう必要が無いくらいになっているでしょう?まさか二人が優階位までなっているとは思わなかったですよ。
証明するものと言っても身分証明証くらいしかないけど、一応見てみますか?」
自分たちの身分証明証をみて驚いている。
「あ、あと二人だったらこれも証明になるかな?」
二人にもらった刺繍をしたタオルを出した。
「や、やっぱり・・・。いったいどうして今まで・・・いったい何があったのですか?」
「あまり詳しいことは自分たちも分からないと言った方がいいかもしれません。あの戦いの後、気がついたら違う場所に転移したんですよ。
後でわかったのですが、この近くの島に転移したようです。ただ、状況もわからないし、移動手段も考えて、しばらくその島で生活した後、やっとこの町にたどり着いたという感じです。
身分証明証でおかしな事は気がついていたのですが、この町に来て時間を超えてやって来たと確信しました。おそらく空間転移だけでなく、時間転移まで起きてしまったのでは無いかと思います。」
「ま、まさかそんなことが・・・。」
ジェンともいろいろと考えて、時間を超えてこの時代にやって来たとするのが一番いいだろうと言うことになった。隠れる理由もないし、町の発展などについてあまりに知識がなさ過ぎてもおかしいからね。
「町の様子は変わっているし、冒険者登録も期限切れになっているし、結構大変でしたよ。」
「そうだったんですね。何か身体に変化はなかったんですか?」
「日常生活では問題ないレベルだったんですが、戦闘になると、どうも実際の動きと感覚がずれてしまっているようなのです。これは時間転移の弊害なのかもしれません。
感覚のずれもあり、このままではまずいと転移した島で少し鍛錬しましたが、残念ながらベストの状態までは戻ってません。」
「それで戦闘に違和感があったんですね。」
「今はやっとこの町に来て状況を確認しているところなのです。身分証明証の年齢や他にいろいろと調べた中で、やっと状況が分かってきたところです。
ただ、まさかここでお二人と再会するとは思っていませんでしたよ。」
「アムダの爆発の時に転移しただけでなく、時間まで飛び越えてしまったと・・・。それで身分証明証の年齢は上がっているのに見た目が当時から変わってないと言うことなんですね。」
とりあえずは納得してくれたみたいだ。
このあと、二人からアムダとの戦闘の後のことをいろいろと聞いた。
古代兵器アムダの討伐に参加した人たち全員が英雄としてたたえられたが、その中でも冒険者だった自分たち二人はアムダの英雄として語り継がれることになったらしい。今ではアムダの英雄とは自分たち二人のことを指すようだ。
そして自分たちのことは冒険譚として本が出版され、演劇の舞台にもなっているようだ。ただ内容は本によってかなり異なっているので、一度読んでみたらと言われてしまった。
容姿については写真などの記録が残っていないのでかなり想像が入っており、特に有名な演劇俳優のイメージが強くなっているみたい。まあありがちだな。
ユータが持っていた本の挿絵を見せてもらったけど、自分はかなり美化されているようだ。本物を見たらがっかりされそうだな。ユータは持っている本がまだ一番事実に近いと思って買ったものらしい。
彼らが自分たちと親交があったということは冒険者仲間では知られていたため、未だに自分たちのことを聞かれることが多いようだ。どうやら冒険譚の中に二人が登場することも結構多いらしく、なぜか一緒に冒険したりする話もよく出てくるらしい。
二人には子供が出来なかったみたいで、今もいろいろな国を回っているようだ。他の国でも自分たちと親交のあった人たちと交友関係がもてたらしく、お礼を言われてしまった。
結局お昼からお店に入ったんだが、話が終わったの時にはもう暗くなっていた。まあおかげでいろいろこの20年のことが聞けて良かったけどね。
~ユータSide~
カナと一緒に冒険者になってから少しずつ階位をあげていった。なかなか実力も上がらなくて苦しんだ時期もあったが、ジュンイチやジェニファーの助言に従い、地道に鍛えていった。
二人が古代兵器の戦いで亡くなったと聞いたときはかなり悲しんだ。その後二人を知る人に会ったときには思い出話に花が咲いたものだ。
いろいろと幸運に恵まれたこともあって最終的に優階位にまで上がることが出来た。あの二人と親交があったことも影響したように思う。二人の冒険譚にも自分たちが登場するからな。
彼らが生きていたらおそらく特階位まで上がっていたんだろうな。あれだけの功績があれば間違いないだろう。
カナとは残念ながら子供は出来なかったが、その分自由にいろいろな国を回ることが出来た。そろそろ引退も考えないといけない年齢になっているんだが、無理をしなければまだまだいけると思い、いまだに冒険者としてがんばっている。
良階位の時にサクラで購入した拠点は持っているが、そこに住んでいるのは一年の内どのくらいだろうか?もったいないという気持ちがあるが、十分な資金はあるので保持したままだ。
今回も帝国に行こうとルイサレムに滞在していると、良階位の再取得の試験をしてくれないかという依頼があった。船の出航まで時間があったので、受けることにしたが、再試験を受けるというふたりの名前を聞いて少し昔のことを思い出した。アムダの英雄のふたりの名前だったからだ。
以前はかなり珍しい名前だったが、この話が伝わった後、ジュンイチとジェニファーという名前は多くなり、今ではかなり普通の名前となった。
翌朝、役場に行くと記憶にあるふたりがそこにいた。え?ジュンイチとジェニファー?本人ではないかと思ってしまったが、どう考えても当時のままの姿というのはおかしい。あれから20年以上経っているのだ。
訓練場に移動してから試験を行ったが、思った以上の実力だった。復帰したと言っていたので感覚が鈍っているのか動きがぎこちないが、本調子になれば自分たちよりも実力が上かもしれない。しかしこの動き・・・記憶にあるジュンイチそのままだな。
動きにぎこちなさがあるが、魔法も使えると言うことを抜きにしても良階位の実力は十分にあると判断を出した。ジェニファーの方も同じ感じだったみたいだ。
試験の結果を伝えた後、カナと話をしたが、やはりジェニファー本人のように感じたらしい。二人でそう思うと言うことはやはり・・・。それともあの二人の子供なのだろうか?だとしたら今まで表舞台に出てこなかった理由は何なんだろう?なにか理由でもあったのだろうか?
あと、身につけている装備が全く同じだったからな。汎用の装備なら分かるが、特注の装備で同じ物はないはずだ。よく二人の姿をまねている人間はいるが装備をあそこまで忠実に再現している人はいない。
二人が登録を終えて出てきたところで声をかけて食事に誘った。あのふたりのことを考えると素直に聞いた方がいいと思い、問いかけてみるとあっさりと認めてくれた。身分証明証を見せてもらい、さらに出してきたのはじぶん達が結婚祝いに送ったタオルだった。
このあとアムダの英雄の話や昔話で盛り上がり、他の国で会った人たちとの話をしていると、もう夜が更けていた。
最後に二人のことについて聞いたところ、自分たちで過去に行った国を実際に見ていきたいのでこのことは秘密にしてくれと頼まれた。話すつもりはないが、またどこかで会いたいものだ。
アムダの英雄として有名になった後、二人の名をかたる人が多くなった。名前については変更させることは出来なかったが、アースというパーティー名は登録できなくなっているはずだ。
受付で身分証明証を出したときに気づかれなかったのだろうか?受付が新人みたいだったから、もしかしたら知らなかったのかもしれないな。まあある意味気がつかれなくてよかったのかもしれない。もし知られていたら大変なことになってしまったかもしれないからな。
書類が通ってしまったのであれば意識して調べない限り分からないだろう。何かの時のために自分たちの紹介状を書いておいたので少しは役に立つだろうか?
そうは言っても、優階位の人が来てくれるのに遅れてもまずいと思い、結局少し早めに行くことにした。
役場の受付に行って確認すると、まもなく試験を行ってくれる二人が来るので訓練場に移動しておくように言われる。ちなみに受付の女性はマルリーラというらしく、最近になって受付業務を担当することになったみたい。
「今回、運良く試験を受けてくださるのは優階位パーティー・タルバンのユータさんとカナさんです。ご存じかもしれませんがお二人はあのアムダの英雄とも親交があったんですよ。」
タルバンのユータとカナだって!?それってどう考えてもあの二人だよな?ジェンを見ると同じように驚いている。
それにアムダの英雄って・・・アムダの討伐のことを考えると自分たちのことか?そういえば今の情勢の確認をすることを優先してあの戦いのことについてはまだ調べていなかったな。
知り合いに会ったときのいいわけは考えているけど、まさかいきなり会うことになるとは思わなかった。もう少しいろいろと資料を読んでおかないとまずいかもしれないなあ。
この町を出発する前に他の資料もいろいろと読んでいた方が良さそうだな。
二人についての説明を聞いていると、「あ、もう来られましたね。」と言われ、そっちを見ると、年配の男女ふたりが目に入る。
年はとっているが、面影があるので間違いなくあの二人だろう。二人とも優階位まで上がっていたのか。こちらを見て少し驚いたような顔をしているけど、もしかして気がついたかな?
「今回試験担当を引き受けていただいてありがとうございます。こちらのお二人が試験対象の方です。」
「「初めまして。よろしくお願いします。」」
「ああ、初めまして。もう引退していてもおかしくない歳になっていますが、いまだに冒険者にしがみついてやっているユータです。こちらはパートナーのカナです。
ジュンイチさんとジェニファーさんと言われるのですね。アムダの英雄から名前をとられたのでしょうか?残念ながらお二人の写し絵などは残っていませんが、自分たちの記憶にある姿によく似ていますよ。」
やっぱり、アムダの英雄って自分たちのことみたいだな。しばらく受付の人から説明があった後、訓練場へと向かう。
訓練場は以前とあまり変わっておらず、それなりの広さがあった。他の冒険者の姿もあるが、ユータ達の姿を見てちょっと緊張しているようだ。「後で声をかけてみてもいいだろうか?」とか聞こえてくるので、二人はかなり有名なのかもしれないな。
「それじゃあさっそく試験を行いましょう。」
今回の試験はあくまで武器を使った戦闘能力の確認だけだ。魔法はよほどでなければ使い方を忘れたり、威力が極端に落ちたりするわけではないため、こちらの確認はない。自分はユータが、ジェンはカナが相手することになった。
「いきます!!」
ユータに攻撃を仕掛けるが、なかなか攻撃が当たらない。盾で防がれるし、避けられてしまう。目は姿をちゃんと追えているんだが、やはり身体の方がうまく動かない感じだ。動かないと言うよりは先に動きすぎてうまく狙ったところに当たらないといった方がいい。
ユータからの攻撃も躱したり防いだりしようとするが、やはり動きの方が先回りしすぎてうまくいかないことがある。
レベルが高い人が相手だとやっぱりこのちょっとした差が大きいな。まあジェンとの模擬戦の時から感じていたんだが、やはり慣れない相手だと余計にはっきり認識できるな。
しばらく打ち合った後、装備を少し変更してやってみるが、根本的に身体の動きがずれているのでやはりユータにはかなわなかった。ずれが治ればなんとか互角くらいにはなるのかな?
「それじゃあ、このくらいにしましょうか。」
しばらく打ち合った後、ユータから終わりを告げられたが、最後まで決定打を与えることは出来なかった。うーん、良階位の維持は厳しいかな?
ジェンも試験が終わったみたいでこっちにやって来た。ユータとカナの二人は試験結果の話をするために別の部屋に行くようだ。
「どうだった?」
「やっぱり思ったようには攻撃できなかったわね。さすがに優階位にあがっただけあってかなり実力が上がっていたわ。」
「やっぱりそうか。まあ自分たちでやっていたときも違和感はなくならなかったからなあ。この辺は少しずつ治していくしかないよな。」
「でも良階位としてのレベルは十分だったと思うわ。もともと魔法の方の実力は認められていたしね。ある意味魔法の試験があったら手加減しないといけないくらいだったわね。」
しばらくするとマルリーラさんがユータとカナと一緒に戻ってきた。
「おめでとうございます。ユータさんとカナさんからお聞きした実力から、良階位のままで登録することとなりました。」
「「ありがとうございます。」」
「このあと手続きがありますので受付の方に来られてください。」
「分かりました。」
「ジュンイチさん、ジェニファーさん、お二人とも魔法も使えると言うことを差し引いても十分に良階位の実力はあります。久しぶりに剣を使ったせいなのか分かりませんが、身体の動きに不自然さがありますので今後も鍛錬を続けていってください。」
ユータ達にお礼を言ってから受付へと向かう。手続きをしてもらい、晴れて冒険者の階位が良階位となった。
「やっぱり良階位となっているとうれしいもんだね。」
「せっかく良階位まで上がっていたからね。」
二人で話しながら役場を出ようとすると、入口付近にいた男性から声をかけられる。
「すみませんが、少しお時間よろしいでしょうか?魔道具ですこし変装していますが、先ほど会ったユータです。」
魔道具を解除したのか、顔立ちがユータの顔に戻った。
「え・・・と、それは大丈夫ですが、お二人の方こそよろしいのでしょうか?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。」
「折角なので一緒に食事でもどうですか?ちょうどお昼になるところですし・・・」
「ありがとうございます。それじゃあご一緒しましょう。」
この町にも慣れているのか、行きつけにしているお店があるというので二人についていく。案内してくれたお店はちょっと高級なところで、個室をとってくれた。うーん、やっぱり気がつかれたのかなあ?
一通りの料理を注文して給仕の人がいなくなったところでユータが話しかけてきた。
「率直に聞きます。お二人はアムダの英雄のジュンイチとジェニファーではないですか?見た目や装備や戦闘スタイルがあまりにそっくりなのです。他にも理由がありますが、本人としか思えないのです。
なにか秘密にしなければならなかった事情があるのかもしれませんが、絶対に秘密にしますので話してもらえないでしょうか?」
ジェンの方を見るとうなずいてくれた。
「ユータ、カナ、久しぶりと言っていいのかな?言われている通りです。
まだあのときに渡したバッグを使われているんですね。もう必要が無いくらいになっているでしょう?まさか二人が優階位までなっているとは思わなかったですよ。
証明するものと言っても身分証明証くらいしかないけど、一応見てみますか?」
自分たちの身分証明証をみて驚いている。
「あ、あと二人だったらこれも証明になるかな?」
二人にもらった刺繍をしたタオルを出した。
「や、やっぱり・・・。いったいどうして今まで・・・いったい何があったのですか?」
「あまり詳しいことは自分たちも分からないと言った方がいいかもしれません。あの戦いの後、気がついたら違う場所に転移したんですよ。
後でわかったのですが、この近くの島に転移したようです。ただ、状況もわからないし、移動手段も考えて、しばらくその島で生活した後、やっとこの町にたどり着いたという感じです。
身分証明証でおかしな事は気がついていたのですが、この町に来て時間を超えてやって来たと確信しました。おそらく空間転移だけでなく、時間転移まで起きてしまったのでは無いかと思います。」
「ま、まさかそんなことが・・・。」
ジェンともいろいろと考えて、時間を超えてこの時代にやって来たとするのが一番いいだろうと言うことになった。隠れる理由もないし、町の発展などについてあまりに知識がなさ過ぎてもおかしいからね。
「町の様子は変わっているし、冒険者登録も期限切れになっているし、結構大変でしたよ。」
「そうだったんですね。何か身体に変化はなかったんですか?」
「日常生活では問題ないレベルだったんですが、戦闘になると、どうも実際の動きと感覚がずれてしまっているようなのです。これは時間転移の弊害なのかもしれません。
感覚のずれもあり、このままではまずいと転移した島で少し鍛錬しましたが、残念ながらベストの状態までは戻ってません。」
「それで戦闘に違和感があったんですね。」
「今はやっとこの町に来て状況を確認しているところなのです。身分証明証の年齢や他にいろいろと調べた中で、やっと状況が分かってきたところです。
ただ、まさかここでお二人と再会するとは思っていませんでしたよ。」
「アムダの爆発の時に転移しただけでなく、時間まで飛び越えてしまったと・・・。それで身分証明証の年齢は上がっているのに見た目が当時から変わってないと言うことなんですね。」
とりあえずは納得してくれたみたいだ。
このあと、二人からアムダとの戦闘の後のことをいろいろと聞いた。
古代兵器アムダの討伐に参加した人たち全員が英雄としてたたえられたが、その中でも冒険者だった自分たち二人はアムダの英雄として語り継がれることになったらしい。今ではアムダの英雄とは自分たち二人のことを指すようだ。
そして自分たちのことは冒険譚として本が出版され、演劇の舞台にもなっているようだ。ただ内容は本によってかなり異なっているので、一度読んでみたらと言われてしまった。
容姿については写真などの記録が残っていないのでかなり想像が入っており、特に有名な演劇俳優のイメージが強くなっているみたい。まあありがちだな。
ユータが持っていた本の挿絵を見せてもらったけど、自分はかなり美化されているようだ。本物を見たらがっかりされそうだな。ユータは持っている本がまだ一番事実に近いと思って買ったものらしい。
彼らが自分たちと親交があったということは冒険者仲間では知られていたため、未だに自分たちのことを聞かれることが多いようだ。どうやら冒険譚の中に二人が登場することも結構多いらしく、なぜか一緒に冒険したりする話もよく出てくるらしい。
二人には子供が出来なかったみたいで、今もいろいろな国を回っているようだ。他の国でも自分たちと親交のあった人たちと交友関係がもてたらしく、お礼を言われてしまった。
結局お昼からお店に入ったんだが、話が終わったの時にはもう暗くなっていた。まあおかげでいろいろこの20年のことが聞けて良かったけどね。
~ユータSide~
カナと一緒に冒険者になってから少しずつ階位をあげていった。なかなか実力も上がらなくて苦しんだ時期もあったが、ジュンイチやジェニファーの助言に従い、地道に鍛えていった。
二人が古代兵器の戦いで亡くなったと聞いたときはかなり悲しんだ。その後二人を知る人に会ったときには思い出話に花が咲いたものだ。
いろいろと幸運に恵まれたこともあって最終的に優階位にまで上がることが出来た。あの二人と親交があったことも影響したように思う。二人の冒険譚にも自分たちが登場するからな。
彼らが生きていたらおそらく特階位まで上がっていたんだろうな。あれだけの功績があれば間違いないだろう。
カナとは残念ながら子供は出来なかったが、その分自由にいろいろな国を回ることが出来た。そろそろ引退も考えないといけない年齢になっているんだが、無理をしなければまだまだいけると思い、いまだに冒険者としてがんばっている。
良階位の時にサクラで購入した拠点は持っているが、そこに住んでいるのは一年の内どのくらいだろうか?もったいないという気持ちがあるが、十分な資金はあるので保持したままだ。
今回も帝国に行こうとルイサレムに滞在していると、良階位の再取得の試験をしてくれないかという依頼があった。船の出航まで時間があったので、受けることにしたが、再試験を受けるというふたりの名前を聞いて少し昔のことを思い出した。アムダの英雄のふたりの名前だったからだ。
以前はかなり珍しい名前だったが、この話が伝わった後、ジュンイチとジェニファーという名前は多くなり、今ではかなり普通の名前となった。
翌朝、役場に行くと記憶にあるふたりがそこにいた。え?ジュンイチとジェニファー?本人ではないかと思ってしまったが、どう考えても当時のままの姿というのはおかしい。あれから20年以上経っているのだ。
訓練場に移動してから試験を行ったが、思った以上の実力だった。復帰したと言っていたので感覚が鈍っているのか動きがぎこちないが、本調子になれば自分たちよりも実力が上かもしれない。しかしこの動き・・・記憶にあるジュンイチそのままだな。
動きにぎこちなさがあるが、魔法も使えると言うことを抜きにしても良階位の実力は十分にあると判断を出した。ジェニファーの方も同じ感じだったみたいだ。
試験の結果を伝えた後、カナと話をしたが、やはりジェニファー本人のように感じたらしい。二人でそう思うと言うことはやはり・・・。それともあの二人の子供なのだろうか?だとしたら今まで表舞台に出てこなかった理由は何なんだろう?なにか理由でもあったのだろうか?
あと、身につけている装備が全く同じだったからな。汎用の装備なら分かるが、特注の装備で同じ物はないはずだ。よく二人の姿をまねている人間はいるが装備をあそこまで忠実に再現している人はいない。
二人が登録を終えて出てきたところで声をかけて食事に誘った。あのふたりのことを考えると素直に聞いた方がいいと思い、問いかけてみるとあっさりと認めてくれた。身分証明証を見せてもらい、さらに出してきたのはじぶん達が結婚祝いに送ったタオルだった。
このあとアムダの英雄の話や昔話で盛り上がり、他の国で会った人たちとの話をしていると、もう夜が更けていた。
最後に二人のことについて聞いたところ、自分たちで過去に行った国を実際に見ていきたいのでこのことは秘密にしてくれと頼まれた。話すつもりはないが、またどこかで会いたいものだ。
アムダの英雄として有名になった後、二人の名をかたる人が多くなった。名前については変更させることは出来なかったが、アースというパーティー名は登録できなくなっているはずだ。
受付で身分証明証を出したときに気づかれなかったのだろうか?受付が新人みたいだったから、もしかしたら知らなかったのかもしれないな。まあある意味気がつかれなくてよかったのかもしれない。もし知られていたら大変なことになってしまったかもしれないからな。
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