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2. 異世界1日目 異世界へやってきた
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2. 異世界1日目 異世界へやってきた
~~~~~
「・・・ひずみが大きくなる周期に入ったようです。ひずみの発生場所の特定を急いでください。」
「3520で次元のひずみ発生!転移先は3514です。資料をすぐに回します。」
・・・
・・・
・・・
「7152でひずみ発生!今回は2カ所で起きています。転移先は・・・両方ともに2512です。」
「それぞれの転移先の特定を急げ!」
・・・
・・・
・・・
「新たな次元のひずみが発生しています。・・・」
~~~~~
春のクラスマッチが終わり、まもなく期末考査が始まる。遅くまで勉強しているせいか、ここ最近は昼休みは眠くて休んでいることが多い。
「え?なに、これ?」
先ほどまでの騒ぎがなくなって、突然耳が聞こえなくなったように感じたと思ったら周りの景色が見えなくなった。
目が見えなくなったと言うわけではなく、真っ白の霧の中にいるような感じだ。地面はあるのかどうかもよく分からないけど、浮遊感があるわけでもない。ただ地面にたっている感じでもない変な感じ。
夢?夕べも結構遅くまで起きていたので寝てしまったのかな?夢にしては・・・ほっぺをつねると痛いような気もする。でも前に夢の中でほっぺをつねって痛かったと認識したが夢だったこともあるので夢かどうかも分からない。
これって最近ネット小説で読んでいる異世界召喚とかのイメージだよね。勇者召喚?勇者になって魔王を倒せとかやめてよね。奴隷にされて死ぬまで戦わされたりしたらいやだぞ。
しかし、この状態だと何もできないな。このあと神様とかが現れたりするのかな?どうすればいいんだ?そう思っていると突然周りの景色が変わった。
大きな召喚が行われたというようなところではなくてどこかの受付カウンターのようなところだ。カウンターの奥では机に座って仕事をしている人達が見える。カウンターのこちら側に人の姿はないけど、ソファーやテーブルがいくつか並んでいる。なんか銀行とかのイメージだな。
「ひっ!!」
カウンターの奥をみて息が止まりそうになった。なんだこれ・・・。いろんな人種というか、人間?という様な人(?)もいる。動物というか、虫というか、ほんとにいろいろな見た目の人たちがいる。
何なんだここ?なんか声を上げると襲われてしまいそうな感じがして必死に声を抑える。
どうする?とりあえずカウンターがあるからそっちに声をかけてみる?
何か仕事をしていると言うことは知性があるって言うことでいいんだよな?
周りを見回していると、少し離れたところに女性が現れた。何もないところに突然姿が現れた感じだ。
金髪で白人っぽい顔をしているけど、肌の色はちょっと自分に近い感じだ。日本人ではなさそうだけど、自分と同じ人間みたい。彼女も周りをみて困惑しているように見える。
「はじめまして、大岡純一郎様。私は異次元課のササミと申します。」
彼女に声をかけてみようと思っていると、後ろから声が聞こえてきた。驚いて振り返るとスーツのような服を着た男性が立っていた。30歳くらいで黒髪の短髪だが白人のような顔立ちをしている。
「・・・私は異次元課のスイサイと申します。」
彼女の方からも声が聞こえてきたので見てみると、そっちにも長い黒髪の女性と思われる人が声をかけていた。後ろ姿なのでよく分からないけどこっちの人と同じような感じかな?
最初の挨拶はちゃんと聞き取れたんだけど、そのあとはなにやらよく分からない言葉をしゃべっている。英語っぽいけど・・・理解できないよ。
「あの~~、よろしいですか?」
自分に声をかけてきた人のことを思い出して再び振り返ると、「とりあえず、こちらの席にどうぞ」と近くにあるボックス席をすすめられたので言われたとおり席に着く。彼女も少し離れた席に誘導されていた。
最近ネット小説で異世界ものの話を読んでいたせいか、思ったよりも驚きは少ない。ここで慌ててもしょうがないしね。問題は自分が死んでしまったのか、もとの世界に戻れるか、異世界の場合はどのようなところなのか、能力はどうなのかとかだな。
よくあるのは能力などうまく選ばないと大変なことになってしまうということだ。まあその選択権があるかも重要だけどね。あまり無茶言って何ももらえなくなっても困る。さらに変な召喚で奴隷のように使い潰されても困るもんなあ。
とりあえず召喚されたら周りの状況を見て対応を考えた方はいいんだけど、ここが召還先なのか?いろいろなパターンの勇者召喚ものを読んで来た今こそ、その知識を役立てるときだ。
「大岡純一郎様。突然のことで驚いているかと思いますが、まずは状況を説明します。
改めて自己紹介をしますと、私は異次元課に所属しているササミと申しまして、別の世界から別の世界に渡ってしまった人たちを案内する役割を担っています。申し訳ありませんが、あまり動揺しないように少し感情をコントロールさせてもらっています。」
なるほど。それで思ったよりも落ち着いているのか。あまりにも突飛なことが起きたのに冷静だったからなあ。
「まず、現在の状況ですが、あなたは今、別の世界の入口にやってきています。別の世界というのはパラレルワールドというか、あなた方のいる世界とは異なる進化を遂げた世界となります。
別の世界に行くことは確定しており、現在はその移動の途中と言うことですので一定時間が経過した後はその別の世界へと移されます。残念ながらここからもとの世界に戻ることはできません。
またここで何かしようとしても意味はありません。私たちに触れることはできませんし、何かあれば先ほどの何もない世界に戻されてそのあと予定の世界に移動することになります。できるだけ時間内に聞けるだけの情報を得た方がいいと思います。」
「やっぱりもとの世界に戻れないの?」
「最初に言っておきますが、あなたは死んだわけではありませんので生まれ変わるわけではありません。そしてここから戻れないというだけで、最終的にはもとの世界には戻れます。ただ一度あちらの世界に行ってもらわないと、というか、行かざるを得ないのが大前提なのです。
そのあとこちらで送還の手続きが終了しましたらもとの世界へと戻ることができますが、それまでの一定期間をあちらの世界で過ごしてもらわなければならないのです。」
「戻れるのか・・・。ちなみにその期間はどのくらいなんですか?」
「あなた方の世界の時間で言うとおおよそ10日間となります。10日経過しましたらもとの世界へ強制送還されます。」
「10日間って、その間もとの世界では行方不明になってしまうってこと?」
「いえいえ、戻るのはもといた場所、もといた時間となります。持ち物も体の健康状態もそのときの状態まで戻りますので、もとの世界では何もなかったようになります。」
「けがとか死んでしまった場合はどうなるの?死んでしまったらそこで強制送還とか?」
「生きてさえいれば、怪我をしていたり、たとえ瀕死状態でも、すべてが治って戻されますので、とにかく死なないようにしてください。」
「でも全く知らない土地で、普通の高校生が10日間も生き抜くのは大変だと思うんだけど・・・。」
とりあえず最低限の能力などもらわないといけないからな。
「まず、向こうの世界では16歳で成人扱いとなりますので17歳になるあなたは大人として扱われます。ただし、今回あなたの行く世界はもとの世界と大きく異なりますので生活に必要な能力や最低限の物資などはお渡しします。ですので、よほど無茶なことをしなければ大丈夫だと思います。」
「大きく異なる世界って?」
「今から行く世界はあなた方で言う魔法の世界のようなところです。文明レベルはあなたの世界とそこまで変わらない感じだと思いますが、科学の進歩ではなく魔法の進歩が主となっていますので根本的な世界の理論は異なります。ですが10日間の滞在であればそこまで違和感を覚えないのではないかと思いますよ。」
「魔法ってことはたとえばモンスターとかまでいるの?あと、戦争とかの争いは?」
「魔獣と言われるモンスターはいますが、町中にいればまず襲われることはないと思います。町の外には魔獣がいる場合もありますので注意が必要ですが、町の付近にはそれほど強い魔獣がいるわけではありません。
戦争についても今は大きな戦争は起きていませんし、このあと移動する国では戦争は行っていません。細かなことはあとでガイド本を渡しますのでそこで確認してください。」
「生活に必要な能力や物資っていうのは?」
「とりあえず話せないとどうしようもありませんので、今から行く国の言葉と文章は分かるように現地のヤーマン語とその世界の共通語であるライハンドリア公用語はわかるようにしておきます。あとは必要なお金と現地の衣類や雑貨、現地での身分証明などです。
10日間とはいえ、あなたの体の時間とあなたの世界の時間にずれが出ては困りますので、あなたの体の成長は向こうに行っている間、停止します。また向こうの世界で遺伝子を残されても困りますので、子孫を作る能力は止めさせていただきます。
魔法の世界と言っていましたが、これらの特殊な能力スキルを与えることはできません。期間が短いですが、頑張れば習得できるかもしれません。詳細はお渡しするガイド本や現地で確認してください。」
「能力がついたらそれがもとの世界でも発揮されるの?」
「魔法についてはほぼ無理だと思いますが、筋力などの身体能力や向こうの世界に関わる記憶以外の知識については維持されます。例えばあなたは目が悪いようですので目を良くする治癒魔法で目を良くすることもできるかもしれません。元の世界の戻るのは、あくまで戻るのは怪我など生命活動にマイナスになる因子が戻ると考えてください。
また勉強した記憶などは残りますが、もとの世界に戻るとあちらの世界に関する記憶はほぼ消去されます。どこまで残るのかは正直私にも分かりかねます。大体が夢ということで片付けられているようです。」
記憶はなくなるってことはせっかくの異世界旅行もその場限りでの楽しみと言うことになるのか。まあ少しは残るかもしれないので死にかけたらトラウマとかになってしまいそうだなあ。
「もらえるお金や装備って?」
「金額は10日間生活するには十分の金額となります。ちなみに現地の金額単位はドール。普通は1日千ドールあれば宿に泊まって食事をしても十分な金額となります。今回お渡しする金額は全部で5万ドールとなりますので十分に異世界を楽しむことができると思います。
装備についてはさすがにその学生服というわけにもいきませんので、現地の服と短剣などの簡単な装備、リュックに着替えや薬関係などをお渡しします。」
とりあえず生きていく最低限の物資という感じかな。
「他になにか特別なスキルはもらえないの?」
「申し訳ありません。この能力は私が授けるわけはありませんし、先に言いましたもの以外はお渡しすることができません。もし文句を言われても時間が来たら強制的に移動しますので・・・。」
「なんか何度もあったような感じだけど過去にも同じような人はいたの?さっきいた彼女とか?」
「はい、あなたの世界からと限定されなければそれなりの人数がここにやってこられます。今回行く予定の世界へも他の世界から転移されていますし、あなたの世界にも同じように他の世界から転移された人がいます。今回は同じ世界から同じ世界に同時に2人も移動するのでかなり珍しい例となりますね。」
結構頻繁に起きていることなのか?まあパラレルワールドの数が半端なく多かったら年間1名としてもすごい数にはなるな。それに地球だけではなく宇宙全体と考えたらしゃれにならないだろうな。担当部署とかがあるのかねえ?
「ちなみに10日間とはいえ、他の世界の知識はかなり有用な場合があり、時の権力者に捕まっていろいろと知識を搾り取られることがありますのであまりおおっぴらにしない方がよいかもしれません。
あなたの世界でもあるときにそれまでとは違う突飛的なものが世の中に出たりすることがあったと思いますが、それは別の世界の方が関係しているかもしれませんよ。
もちろんあなたと見た目の異なる知的生命体の場合もありますが、一般的にはそのような人の存在は詳細には知られてないでしょう?どういうことかは考えたらわかると思います。」
「こわ・・・・。あ、今から行く世界の人の姿は同じ?」
「今から行くところはあなたとほぼ同じ姿となりますので大丈夫です。よかったですね。だた美的感覚などは地域によって異なるのでなんともいえません。」
よかった。いきなり宇宙人みたいな人ばかりの世界に飛ばされたらしゃれにならないしね。
「ちなみに転移した人はちゃんともとの世界に戻っているの?」
「飛ばされた先の状況にもよりますが、やはり現地でなくなる方もいらっしゃいます。統計学的には20%程度がもとの世界に戻れていません。ある程度行き先はこちらで調整することができますので、できるだけ安全なエリアに誘導しています。人間だけでなく動物なども転移されますのでそれぞれに安全と思われるエリアとなります。理解する知能がない場合はこのような説明は行いませんけどね。
人もいない世界や人が生きていけない環境の世界、知的生命体の見た目が全く異なる世界と言うこともありますので、その場合はやはり危険なエリアに転移することもあります。とても生きていけない環境に行く場合の説明はかなり気が重いです。
どういう原理か分かっていないのですが、ある程度近い生命体や環境に送られることの方が多いですけどね。
また環境的には問題なくても無理をしてなくなる方もいらっしゃいます。ちなみに亡くなられた場合は、もとの世界では行方不明者という形で処理されることになります。死体を送るわけにもいきませんので・・・。」
まあ、見た目が全く異なる世界では10日間でも生き抜くのはつらいだろうし、俺つえーとかやって玉砕するパターンとかもありそうだしね。今回はまだラッキーなのか?
「今回の手続きの処理が終わりましたら10日後にもとの世界へ転送されます。リュックに入っているガイド本の表紙にあなたの世界の基準で残り時間が表示されますので参考にしてください。」
異世界ものの小説など読んでいたからまだ話が分かりやすかったけど、いきなりこの話があっても頭が追いつかなくて転移される人もいそうだな。10日で戻れるのなら観光気分で楽しめばいいか。記憶はなくなるみたいだけど。
「あ、そういえば一緒にやってきていた女性は一緒の場所に転移されるんですか?」
「聞いている話しでは、同じ国ではありますが、転移されるのは別の町のようです。転移先はある程度調整できるのですが、限度がありますので・・・。会うことはできるかもしれませんが、それはお任せします。ほんとは教えるのはいけないことなんですが、転移候補の場所と彼女の名前は・・・。」
他にも時間ぎりぎりまで聞ける内容を聞いておいた。ここでの時間はカウントに入らないようだし、情報はできるだけあった方がいい。
そしてついに転移の時間になった。
一瞬まぶしさを感じて目を閉じたんだけど、目を開けるとまた違う景色が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは緑の葉の茂った木々だった。木々が多いのでまさか森の中かと思ったけど、森にしては木々の間隔も広いし、一定おきになっているのも不自然だった。よく見てみると木々の間に建物が見えるので公園みたいなところなのかもしれない。
地面は芝生のようなものが植わっていて、その上に転移されたようだ。森の中に転送されていきなり何かに襲われると言うことはなさそうでほっとする。
気温はちょっと寒いと感じるくらいで、そもそも基本的な気候が違うかもしれないし、季節が違うのかもしれないけど、日本の感覚で言うと春か秋くらいだろうか。広葉樹っぽい葉の状態からすると春なのかな?世界が違うと言っても全く異世界という雰囲気ではないのでちょっとほっとする。
呼吸も違和感がないし、ちょっとしゃべった感じでもおかしなところはなさそうだ。空気の組成はあまり変わらないと考えていいのかもしれない。
木々の間を抜けると石畳の遊歩道のようなものがあって、人の姿を発見する。どうやら散歩している感じなのでとりあえず見える範囲では平和そうだ。治安とかが悪ければこんなにのんびりはしていないだろう。それに公園のようなところがあると言うことは文明としてもある程度成熟していると考えていいかもしれない。
歩いている人は少ないけど、見た範囲では顔の作りは白人に近い感覚かな?ただ髪の色は黒髪、金髪、白髪だけでなく、赤や緑などもいる。髪を染めている可能性もあるけど、地球とあまり変わらない印象だ。
ファンタジーの定番ようなエルフやドワーフ、獣人などは見当たらない。この町にいないのか、この世界にいないのかは分からない。ただササミさんは“ほぼ同じ姿”と言っていたから若干違う姿の人もいるのかもしれない。
せっかくの異世界といっても分からないことだらけだからまずは慎重に行動しないといけないだろう。よく分からなくて動き回ってトラブルに巻き込まれるとかしたくないし。
まあ小説とかだとそれでいろいろなイベントに遭遇したりするんだけど、実際にこんなことが起きたらまずは現状確認を優先すると思うんだけどね。まあ小説的にはいろいろとトラブルに起きる方がおもしろいんだろうけど・・・。木の陰になっている芝生の上に座って荷物などの確認をしてみることにした。
着ている服は学生服からこっちでは普通と思われる服になっている。シャツは木綿か何かで作られものみたいなので着心地にあまり違和感はない。装備を兼ねているのか、厚手のシャツも上に着ている。下着も現地の物になっているんだけど、これにはゴムのようなものも使われている。腰には何かの革のベルトに革の鞘に入った短剣が下がっているんだけど、銃刀法違反とかはないよね?
厚手の布で作られたようなリュックの中には自分が普段持ち歩いているコンタクトと洗浄液と保管用ケースと眼鏡ケース(入れ物はプラスチックではなく木やビニールみたいなものになっている)の他に携帯食らしき食べ物、水筒が入っている。細かいところは宿とかに入って部屋で見た方がいいだろう。
使っている眼鏡がこの世界で一般的なのか分からないのでコンタクトに変えておくことにした。2週間用が10枚あるので十分だろう。
他には巾着袋に入っているお金のようなものがある。赤い500円硬貨くらいの大きさで何も描かれていない。5万ドールと言っていたので、感覚的にこれが1枚1000ドールで50枚はいっているのかな?
お金の価値もよく分からないけど、一日1000ドールあれば生活できるようなことを言っていたので1000ドールで1万円くらいな感じだろうか?そう考えると5万ドールって50万円だからかなりの大金だよな。さすがにこんな外で確認するのは怖いのであとでみてみよう。
あとは身分証明証と思われるプラスチックのようなカードが一枚。名前とかが書かれているので何かの時にはこれを見せればいいのかな?文字はライハンドリア公用語みたいでちゃんと読めることにほっとする。
名前:ジュンイチ
生年月日:998年10月30日
年齢:17歳
職業:なし
賞罰:なし
資格:なし
クラス:なし
婚姻:なし
名前はジュンイチだけになっているのは、こっちでは名字が一般じゃないせいか?名前もジュンイチだけになっているけどね。誕生日はもとの世界の日付なんだけど、17歳と表記されている。年はこっちの世界の表示なんだろうけど、年が1歳上と言うことは数え年とかなのか、日付が違うのだろう。あと、職業とかはすべてなしになっている。しかし、これだけのことがこのカードに登録されるちうことなんだなあ。
そしてこの手帳が事前に聞いていたガイド本なのだろう。手帳のような形になっているけど、手帳を開くとタブレットのような画面になっていた。画面はタッチパネルのようになっていてページがめくれるようになっている。これってこっちでは普通のアイテムなのか?
最初のページには残りの滞在時間が記載されていて、頭から年、日、時間、分、秒かな?となっていてカウントダウンしている。
ガイド本の最初に書かれている説明の通りとすると、この内容は自分しか読むことができないらしく、他の人には普通の手帳のように見えるみたい。やはりこちらの世界のものではないのだろう。
地図の項を見るといくつかの手法で書かれた世界地図のようなものと国名が記載されていた。世界地図の形状から考えると平たい大地があるのではなく、地球と同じような天体と考えて良さそうだ。現地でも球体であることは認識されていると書かれている。
ただ天動説や地動説とかは場合によっては異端者扱いされる可能性もあるのではっきりとわかるまではこの話題はしない方がいいだろう。
天体の名前はライハンドリアとなっており、大陸はおおざっぱなイメージで言うと、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸という感じだ。
自分がいるのはそのうちのユーラシア大陸にあたるホクサイ大陸のヤーマンという国だ。地球で言う中国辺りのイメージかな?現在いるのはこの国の中央付近にある首都のサクラではなく、南西にあるアーマトという町のようだ。
各大陸に大小複数の国が存在しており、統治機構は国王を中心とした君主制や支配者層の議会制、市民を含めた民主制など国によっていろいろあるみたいで、君主制の国の方が多い感じかな。戦争に対する備えもあると思うけど、魔獣に対抗するためにどこの国もそれなりの兵力を有しているようだ。
ヤーマン国は国王がいるけど、国王が治めている地域を含めて5つの州に分かれていて、国王が絶対権力を持っているわけではなく、5つの領主のリーダーという立ち位置みたい。それぞれの領地でさらに細分化されてそれぞれ行政官が管理をしているようだ。
支配者層との身分差はそれほど大きくないらしいのでまだ大丈夫かもしれない。正直貴族とかいたらどのような態度をとればいいのか分からないよ。不敬罪とかで死刑になったらしゃれにならない。
各国の情報は簡単な概略しか書いていないのでこれ以上はわからないけど、10日間だったらそこまで意識することはないだろう。
食べ物について見てみると、米やパンや麺類などいろいろとあり、各国の代表的なメニューについても書かれているので食事については大丈夫かな。異世界もの小説で食べ物が美味しくないというのは定番だけど、ここまでいろいろあるならそれはなさそう。このあたりについては食事の時に実際に確認できるだろう。
あとは魔道具と言われる自分の世界の電化製品みたいな魔法で動く機器があるようだ。乗り物に関しても馬車とかではなく、魔法の乗り物が出回っているようだ。確かにササミさんに説明されたように文明のレベルはもとの世界とあまり差がないような気もする。
魔法について読んでみると、この世界には魔素と言われるものがあり、この魔素を使うことで魔法が使えるらしい。折角だから簡単な魔法でもいいので使ってみたいな。火や水などの属性に寄って使う魔法が変わってくるようだ。
この世界のモンスターである魔獣と言われる生き物は魔素が集まって生まれてくるものらしい。なんかゲームのポップアップみたいだな。一度形になった魔獣は同族と子供を作ることもできるようなので、最初の生まれ方は違うけど動物と同じような感じだな。魔素が濃ければ濃いほど強い魔獣が生まれるようだ。
その魔獣を倒すと得られる魔素の固まった魔獣石がお金に使っている硬貨である。・・・って、お金って作っていなくて魔獣が落としたものを使っているの?
この魔獣石を持っているものが魔獣と言われる生き物で、魔獣ではない普通の動物もいるらしい。ただ大体が魔獣の餌になってしまうようだけど・・・。
能力についての記載を見たけど、ゲームのようなレベルやステータスという概念はない。レベルを上げて身体能力を上げると言うことはできないので、普通に訓練とか勉強で能力を高めていくしかないようだ。
武器や魔法などの扱いに慣れたり、知識を得たりするとスキルを取得することができ、さらに複数のスキルを伸ばしていくことでそのスキルにあったクラスといわれる職業が与えられる。クラスがもらえるとそのクラスにあった身体能力に補正がかかるみたいだ。身体能力の上昇は自分で普通に鍛える他はこのクラスの取得になるみたい。
他のところもある程度流し読みしてみたけど、思ったよりも生きていくのには問題なさそうだな。とりあえずお金もあるから稼ぐ必要もなさそうだし、10日間の異世界旅行を楽しもう。
ある程度この世界の情報を確認できたので、実際に見て回ることにする。あと出来れば現地の人と話しもしてみたいんだよなあ。父からも情報の大切さは懇々と語られているからねえ。
公園と思われる場所をでるとすぐに建物が連なった通りになった。道路は石を加工されたような感じでアスファルトやコンクリートではなさそうだけど、滑りにくくなっているのでかなり歩きやすい。石を敷き詰めている感じだけどでこぼこもないしね。
車(?)も走っているんだけど、かなり昔の映画に出てくるような形で角張っている。馬車から進化したばかりという感じだ。トラックやバスと思われるような車も走っているけど、やっぱりまだ洗練されていない感じ。一番の違いは魔法で動いているのか、エンジンのような音はない。
道路は歩道が車道の両脇に分かれているのではなく、車道と歩道のレーンが隣り合っている感じだ。車道と歩道で地面の色が違うのでわかりやすい。車は大きな道しか走ってはいけないみたいで、そのほかは人が歩くためだけの道路のようだ。車が少ないせいもあり、町の中の車は一方通行が基本みたいなので車道は1台の車の幅しかなかった。
自分が歩いていても特に注目を集めているわけではないので、この格好や自分の見た目はそんなに変わっているようには思われていないのだろう。
先ほど公園で見かけたように白人っぽい人が多いが、自分と同じような黄色人種っぽい人もいる。ただ黒人の姿は見かけなかったのは地域的なものなのか?どのような人が美形というのかよくわからないけど、自分の感覚からして美形率が高いというわけではない。
このあたりは住居エリアなのか洗濯物が干してあったりする建物がほとんどだ。建物は2~5階建てで、石造りが基本らしい。一軒家という感じの建物はなく、集合住宅ばかりだ。
しばらく歩くと店がちらほらと見えてきた。武器などを売っている店が普通にあるのがファンタジーっぽいな。3階建ての石造りの建物が基本なのか、道路に沿って同じような高さの建物が連なっている。建物の1階が商店になっているところが多く、2階以上は住居のようだ。
店には看板が掲げられているけど、もちろん日本語ではない。文字は読むことが出来るけど、自動翻訳というわけではなく、別の文字で書かれていることが理解できるという具合だ。要は英語で書かれている看板を見ている感じ。
看板にはヤーマン語と思われる文字だけでなく、ライハンドリア公用語と思われる文字が併記されているものもある。おそらく書かれている方が少ないのがライハンドリア公用語なんだろう。
看板を読んでみるとちゃんとその言葉を発音できてるっぽい。会話が出来るかどうかについては実際に話してみないと分からないな。
宿屋の看板もあったので、とりあえずいくつか見た中で見た目よさそうな感じの”宿り木”というところに入ってみる。
最近の宿泊はネット予約ばかりだけど、父が若い頃はよく宿に飛び込みで行ったらしい。飛び込みの場合は部屋が開いていれば食事なしならなんとかしてくれたものだと話していた。
建物に入ると少し広めのロビーになっていて、正面に受付はあるけど、人はいない。まあ昼間だしね。観葉植物なども置いており、落ち着いた雰囲気のところだ。ここだけ見たら異世界とは思えないだろう。カウンターに置いてあった呼び鈴を押すと残念ながらケモミミとかではなく、普通の男性が出てきた。
「いらっしゃい、お泊まりですか?」
話しかけられた言葉を聞いてすぐに理解できた。これがヤーマン語なんだろう。
「すみません、今日泊まりたいのですが、部屋は開いていますか?」
「はい、大丈夫ですよ。シングルの部屋でいいですか?」
「はい、それでお願いします。」
「一泊550ドールですが、朝夕の2食つけると600ドールとなります。メニューにもよりますが、朝夕で80ドールくらいはしますので少しはお得です。
ただこの場合の食事のメニューは決まったものになります。基本的におかずにはスープとサラダ、メインが1皿となりますが、ボリューム的には十分だと思いますよ。自由に頼みたい場合は食堂で直接注文していただければ対応できます。ただ、この場合の割引はありません。」
建物の状態も悪くなさそうだし、掃除も行き届いている感じ。宿の人の対応も悪くないようなのでとりあえずはここに決めてから散策するか?
「それでは2食付きでお願いします。」
治安についてもよくわかっていないのに、ぎりぎりになって宿がないというのはまずいからな。日本の田舎とか安全なところだったら何とでもなるけど、不安があるならまずは宿を取るのが最優先とよく言われたからなあ。
「それではこちらに名前の記入をお願いします。あと身分証明証の確認をさせていただきますので提示をお願いします。」
渡されたのはマジックのようなものだった。ボールペンや鉛筆とかはこの世界にはあるのかねえ?宿帳に名前を記載してから身分証明証を渡す。文字は普通に書けるし、日本語でもないことは認識できるのでやはり言語補正で翻訳しているわけではなさそうだ。ヤーマン語と認識するとその言葉がそのまま出てくる感じなので大丈夫そうだ。
こっちの文字はローマ字のようなもので、子音と母音を組み合わせた表記で英語と同じく左から右に横書きされるのが普通みたい。わざわざヤーマン語となっているので国によって言葉や文字は変わってくると思う。漢字のようなものもあるのかな?
「はい、大丈夫です。ただ職業がないようですので、宿によっては保証金を取られる場合があると思いますが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、職業ですね。ずっと田舎の方にいて、この町に来るときに一度やめてしまったので、この町に来てから改めて職に就こうかと思っていたんです。」
「ああ、そうだったんですね。この町だったらいい職が見つかると思いますよ。」
ガイド本にも簡単には書いていたけど、とりあえず職がなくても大丈夫みたいだ。
「支払いは先払いとなりますが、現金でしょうか?カードでしょうか?」
カードもあるのか?まあ10日間だったら特に気にしなくてもいいだろう。
「現金でお願いします。」
そういって1000ドール硬貨(?)を渡すとおつりに赤黒い少し小さめの硬貨を4枚もらう。
ガイド本の説明にあったように硬貨は10単位で上の硬貨に切り替わっているようなので、この赤黒い硬貨が100ドール硬貨なんだろう。やっぱり数字とか書いていないから硬貨は直接見てみないと比較できないなあ。
国が違っても使っている硬貨は同じみたいだからその点は便利だけどね。宿が食事付きで600ドールということはやっぱり1000ドール=1万円というイメージでいいかもしれない。まあ他のものを買ってみないとわからないけど、ざっくりでもお金の感覚をつかんでおかないといけないのでとりあえずはそう考えておこう。考えやすいしね。
基準を考えるときは前にコ○コーラの値段を基準にすればいいとか聞いたことがあるなあ。水だと国によって違うからだけど、こっちでは何を基準にすればいいのだろう。とりあえず食事とかをしていけばなんとなくわかってくると思う。
「部屋には入れるのは5時以降となりますので、そのときに部屋の鍵を渡します。その時間からシャワーを使うことができますので自由に使ってください。時間は8時までですが、他の方もいますので15分以内に済ませるようにお願いします。
あと夕食は6時から提供が可能となりますが、7時までに注文をしてください。それまでに注文されない場合はキャンセルとなりますが、食事代の返却はできませんのでご了承ください。
明日の朝は1時半までに鍵の返却をお願いします。もし連泊する場合は1時までに連絡をしてください。予約が入っていなければ大丈夫ですが、できるだけ早めに言ってもらった方がよいです。連泊の場合は部屋に荷物を置いていってもらってかまいません。よろしくお願いします。」
時計はもとの世界と同じような感じで、版には数字で1から12までの文字が書かれている。数字はアラビア数字のようなものだ。
短針と長針があるので原理としては差がなさそうだが、ガイド本によると平均的な朝日の時間が0時で固定されており、1日が12時間らしいので慣れるまでわかりにくいかもしれない。とりあえず朝の6時くらいが0時で国によって基準の0時が違うようだけど、今はそのあたりは気にしないでいいだろう。あとは時間軸が同じかどうかだな。1日が24時間前後だったらいいけど、大分ずれていたら大変だよなあ・・・。
ロビーに置いている時計を見ると4時くらいなのでこっちの時間で後1時間くらいか。まあ時間的に夕方くらいだろうから太陽が沈む前に戻ってくればだいたいちょうどいいだろう。
まずは近くにあった鍛冶屋をのぞいていてみる。剣や杖や槍や弓、鎧のようなものから盾や兜と博物館とかでしか見ないようなものが所狭しと並んでいる。
店にはレジカウンターのようなところがあり、ここで精算をするのだろう。店員はいるんだけど、特にこちらに話しかけている雰囲気はないのでゆっくり見ることができて助かる。
値段は1000ドールのものから置いているけど、高いものはきりがなさそうだ。魔獣狩りをするのなら何か買わないといけないだろうね。店の人にざっくりで値段を聞いてみると、初心者レベルで一通りそろえるなら2万ドール、最低でも1万ドールくらいは必要だと言われる。やっぱり高いねえ。
続いていったのはスーパーのような商店だ。店の形態はもとの世界とあまり変わらなくて、商品をかごに入れていき、精算する感じになっている。もちろんバーコードのようなものはなく、値段が貼り付けられている形だ。
野菜や加工品も売られているが、肉については取り扱いが別なのかここでは売られていない。野菜や果物は見たようなものもあるし、見たこともないようなものもある。
加工食品の種類も多く、入れ物も紙やビニール袋やガラス瓶やプラスチック(?)のような入れ物に入っている。容器は地球と大きな差はなさそうだな。
香辛料などの調味料も結構豊富で、塩や砂糖や胡椒みたいなものからマヨネーズやトマトケチャップみたいなものもある。さらに味噌や醤油みたいなものまであった。
相場はまだ分からないけど、宿の値段を考えるとどの調味料もとんでもなく高いというわけではなさそうだ。特に飛び抜けて高い香辛料とかもないしね。
保存食はいろいろな種類の缶詰や瓶詰め、パスタなどの麺類などもある。量は少ないけど米みたいなものも売られているし、いろいろな粉ものも売られている。これだけ食材が発展していると言うことは食事についてはやはり問題ないと言うことだろう。まあこれだと食事に関しては知識チートできないと言うことなんだけどね。
すぐ近くに肉屋もあったので少しのぞいてみると、奥の方でなにやら解体作業も行っていた。魔獣(?)の名前と買い取り価格も書かれているので、肉はここで買い取りするのだろうか?肉の種類はいっぱい書かれているけど、商品自体はほとんど並んでいない。買うときは肉の名前を言って出してもらう感じのようだ。
続いて寄ったのは魔道具を扱っている商店なんだけど、普通でいう電化製品の店みたいな感じだ。エアコンや冷蔵庫など普通の電化製品と同じような機能のものが売られている。
車関係もここで取り扱っているみたいでいくつかの車が展示されていた。ある意味電気自動車のような感じなのか?車は注文生産のようで、注文後の納期などが書かれている。全体的に値段はやはり高めでなので普及率は低いかもしれない。1台100万ドール以上なんだもんなあ。
テレビはなかったけど、電話のようなものは売られていた。小型のものもあるけど、使用方法を見ると電話と言うよりは無線機に近い感じかもしれない。
まあ便利さをもとめて自動でできる物を開発すればどれも似通ってくるものだろう。ただこの世界では魔法があるのでモーターなどもなくてかなり作りは簡単な感じがする。もちろん魔法を付与するための術式がいるんだろうけどね。
しかし魔法の世界と言っても摩擦や重力とか自然現象はあるので、魔法があるから科学は進歩しないというのも違和感があるんだよなあ。
普通になぜ?と思うことがあれば証明しようとする人も出てきそうだし、火とかも普通に使っているし、みそやチーズがあるので発酵などの化学変化なども普通に起きていると思うから科学的な発展はあってもいいと思うんだけどね。
まあ、科学知識がなくても使えるし、経験だけでもうまくいくんだけどねえ。まだ科学的な研究が遅れているだけなのかもしれない。
猫型ロボットの魔法の話の映画でも「科学って迷信を信じているの?」ってくだりは違和感があったんだよなあ。
宿屋に戻るとすでに食事の提供は始まっているみたいで1階にある食堂はかなり賑わっていた。特に酔っ払いが暴れるという感じではないけど、地元の大衆食堂といった感じで結構騒がしい。人数を考えると宿泊客以外の人も来ているようなのでおいしいことを期待しよう。
「予約しておいたジュンイチです。」
受付に名前を言って身分証明証を出すと食事券と鍵を渡してくれた。
「部屋は2階の205号室です。食事券は食堂のカウンターに出せば食事を受け取れます。夕食と朝食の2枚分ですが、券の再発行はありませんのでなくさないようにしてください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
受付の横にある階段を上って2階の205号室へ。エレベーターはないみたいだけど、そもそもエレベーターはあるんだろうか?まあ3階建てくらいだったらまだ大丈夫かな?荷物が多くなれば大変そうだけどね。
部屋は四畳半くらいの広さのところにベッドと小さな机とイスが置かれている。床は板張りなんだけど、ドアの横に靴を置く場所があり、スリッパのような室内用の履物に履き替えるようになっている。よかった、部屋の中で靴のままというのはどうも慣れないからなあ。
部屋は綺麗に掃除されており、ベッドのシーツもちゃんと洗濯されているみたいで綺麗だ。トイレとシャワーは共用なので部屋にはないけど、地球のホテルと大きな差はなさそう。
ベッドは木で作った台に布団のようなものが置いている形で、残念ながらスプリングマットのような物はなかった。それでもクッションのようなマットは布団の下に敷かれているのでまだいいだろう。
部屋の荷物が盗まれると言うことはないとは思うけど、注意はしておいたほうがいいだろう。お金とか無くなったらしゃれにならないしね。
部屋に荷物を置いたあと、食堂に行ってから夕食券を出す。4~6人用のテーブルと10人以上がかけられる大きなテーブルが用意されていて、小さなテーブルはすでにいっぱいになっていた。適当に座るように言われたので大テーブルの空いている席に座ることにした。
ちなみに飲み物は別料金のようで、水ももちろん有料だ。アルコールは頼めるようだけど、こんな異世界で前後不覚になってしまうような勇気もないので素直に水を注文する。
アルコール関係はワインやビール、ウイスキーと色々と置いている。お酒のリストに説明があるので何のお酒なのかはある程度わかるけど、そもそもそんなに詳しくない。
ちなみにアルコール関係は全く飲めないというわけではない。うちの家の方針として一人暮らしをするまでにはお酒の味と許容量はある程度把握しておかないといけないと言われて高校生になってからちょっとずつお酒を飲まされていたからね。
定番としては近くの人に話を聞くというのがあるけど、大丈夫かな?父は旅行先のお店とかでよく現地の人に話しかけたりしていたらしいけどね。料理が運ばれてきたところでとりあえず隣に座っている20代後半と思われる男性客2人組に声をかけてみる。
「こんにちは。いきなりすみません。この町に来たばかりなのですが、少し話を聞かせてもらってもいいですか?」
ちょっと不審な顔をされたが、まあ当たり前か。
「もちろんただというわけにもいきませんので、ビールか何かおごりますよ。」
「お、おう、すまんなあ。分かる範囲でいいなら何でも聞いてくれ。」
ちなみにビールは1杯50ドール、ジュース関係は30ドール、水は10ドールとなっている。水は地域によって違うと思うけど、ここでは結構安いような気がする。ちなみにおつりでもらった10ドール硬貨は真っ黒だった。
水を飲んでおなかを壊すというのは良く聞くけど、最悪薬もあるので何とかなると信じたい。ミネラルウォーターとかは売っていなかったので、これでダメだったらジュースとかを頼むしかないけど、それでも大丈夫かどうかは分からないんだよなあ。
変なことを聞いて不信感をもたれても困るので最近ナンホウ大陸からこちらの国に来たんだけど、いろいろあってこの町まで来てやっと落ち着いたので情報を仕入れているところだと説明する。まあ簡単な情報はガイド本には書いてあったけど、それが正しいかどうかも確認しておかないといけないしね。
聞いていたとおり、この国はかなり平和で、最近の戦争はキクライ大陸(南アメリカのあたり)くらいしか聞かないようだ。そこは小国が乱立しているため、昔から戦争が絶えない地域らしい。
戦争はないと言ってもやはり犯罪はどこでもあるらしいけど、この地域を治めている管理官がかなり治安に気を遣っているらしく、取り締まりも厳しいため犯罪率は低いようだ。
「もちろんそうはいっても危険なエリアはあるからな。そこにはよっぽどのことがない限り近づかない方がいいぞ。あと、治安がいいと言うこともあってその分取り締まりや刑罰には厳しいぞ。変なことをすればすぐに逮捕されてしまうから、気をつけろよ。」
「わかりました。ちなみにお二人は何をなされているんですか?」
「俺たちは冒険者をやっているんだよ。魔獣を狩ったり、護衛をしたりとかだな。小さな頃から腕っ節には自信があってな、こいつも魔法がそこそこ出来たこともあって二人で冒険者になることにしたんだ。他の国とかにも行ってみたかったこともあるんだが、結局ほとんどこの町から動いていないけどな。わはははは。」
「実は今更ながらなんですが、自分も冒険者になろうかと思っているんですよ。大変ですか?」
「そうだな。今俺たちは下から3番目の上階位なんだが、なかなかこれ以上の階位には上がれなくてな。収入のいい護衛の仕事はあまりないから、魔獣狩りでその素材や肉を売って日銭を稼いでいる感じだ。正直なところ、普通に職業に就いた方が安定した生活はできると思うぞ。
知っての通り、魔獣は場所によって強いのもいるし、弱いのもいる。一番弱い魔獣だったら子供でも倒せるくらいだが、何があるか分からないからこの国では基本的には子供だけでの狩りは禁止されている。少なくとも剣とか魔法が使えなければやめておいた方がいいな。
治安に力を入れていることもあって、他の町よりも多くの講習会が役場の職業訓練所で行われているから一度受けてみるのもいいかもしれないぞ。値段も安いからな。」
「特技とかは特にないからなかなか仕事が難しいんですよねえ・・・。でもやっぱり冒険者というのは厳しいですかね。」
「まあな。冒険者と言っても最初の頃は他の仕事をやったりもしたからなあ。冒険者だけで生活できるというのは最低でも上階位くらいはいるな。
昔の遺跡とかで古代の魔道具とか見つけて大金を手にする話しも聞くが、よほど運がいいやつだけだからな。ただ、まあそれが冒険者の一番の醍醐味だ。
しかし、なにが一番大変かって、やっぱり怪我をしたときだな。怪我をして狩りに行けなければ収入はないだろ。治癒魔法を使える人間がパーティーにいればいいんだが、中級以上の治癒魔法を使える冒険者はそうそういねえからな。おかげで薬代がかかってしまう。もちろん武器や防具も手入れしたり新調したりしなければならないから稼いでもなかなかお金が貯まらないな。」
「まあ飲み代に消えているという話もあるがな。」
「ちがいない。」
「そうなんですね。」
他にもいろいろと話を聞くが、お酒が回ってきているのか、変な質問にも疑問を持たずに答えてくれたので助かった。
あと、今認識されているスキルのことを聞けたのはよかった。スキルは鑑定で見ることができると思っていたんだけど、そもそも鑑定そのものがかなり貴重みたい。アイテムの鑑定をできる人はいるけど、人の鑑定をできる人は過去にいたらしいと言うレベルのようだ。このためどうしたら鑑定のスキルが得られるのか取得方法はわかっていないらしい。
いまは古代文明の魔道具を使って鑑定しているみたいだけど、数がかなり少ないため大きな町でしか出来ない上、それなりにお金を払わないといけないらしい。
能力をアップするクラスを得るにはスキルが必要なのは分かっているのでスキルの確認をするんだけど、どうやらスキルのレベルはわからないっぽい。このため必要なスキルを得てもクラスが得られないこともあって、スキルを持っていてもある程度熟練が必要だと考えられているようだ。
それとスキルについてもガイド本に書かれていたスキルのうち、知識スキルといわれるスキルについては分かってないような感じだった。
話をしながら食べた夕食は何かの肉のステーキ(豚肉っぽい)とコーンスープにキャベツみたいなものとニンジンみたいなものとトマトみたいなもののサラダにロールパンだった。味はちょっと大味な気もするが、普通に香辛料もきいていておいしかった。食事に関しては問題なさそうだな。ご飯もあるみたいだしね。
ここでは箸はないのか、使うのはナイフ、フォーク、スプーンだ。使い方のマナーはよくわからないが、まあこういう店のせいか特にマナーなど気にせずに食べている感じ。
「他に何か聞きたいことがあればいつでも声をかけてくれ。普段はこの宿に泊まっているから、クラーエルのクーラストとアマニエルと受付で言えばわかるからな。」
「夜にもいないときは狩りに出ている可能性が高いな。宿は長期契約しているからなにかあれば役場よりも宿に伝言してもらった方がいいかもしれないな。」
二人はまだ飲むらしいので、最後にもう一杯ずつビールをおごってから部屋に戻ることにした。
共用のシャワーを浴びてさっぱりしてから部屋に戻る。お風呂が設置されている宿もあるらしいけど、やはりそれは高いみたい。とはいえ、シャワーもお湯が出るので全く問題ないし、家でも普段はシャワーだけのことが多かったからあまり気にならない。石けんとかシャンプーとかはサービスではなかったけど、感覚的に妥当と思える値段で売っていたので購入した。
トイレもちゃんと水洗だし、ほんとに知識チートはできない環境だよなあ。ウォシュレットはなかったけど、これは作ることができれば普及するのかねえ?あれを初めて使った人はかなりの衝撃だから時間をかければ普及はしていきそうだ。
荷物を改めて確認すると、昼にチェックしたもの以外に、着替えの下着や服や靴下が2セット入っていた。歯ブラシと歯磨き粉はさっき買ったんだけど、もとの世界とあまり差がない。日常生活に必要なものはこれで十分かな?
昼に気になったお金についてガイド本をもう少し読んでみる。魔法のところに書かれて、魔力を魔獣石に注入することで魔獣石の分解、合成ができるようだ。基準となる単位が一番小さな魔獣石の魔素力を1として決めているようで、この数値で初めて魔獣石として形になるのでこれ以下の魔素を持つ魔獣石はないようだ。この魔素1の魔獣石が1ドール硬貨という単位となっている。
10進法で桁が上がるたびに形状や色が変わってくるために10進法が基本となっているようだ。このため他のことについても10進法が基準となっているのかもしれない。
1ドール硬貨を10個合成すると10ドール硬貨に、10ドール硬貨を10個合成すると100ドール硬貨になるが、99ドールでも10ドール硬貨のままで、見た目の区別はできない。つまり1~9ドールは1ドール、10~99ドールは10ドール、100~999ドールは100ドールとなる。
一般的に流通しているのは1000ドールまでで、大口の取引ではもう少し高額のお金も使用するけど、それでも10万ドールまでらしい。ただ合成できる最高が100万ドールみたいなので無限に合成できるわけではないようだ。
ただすべてが硬貨になるので正直かさばるのが面倒だ。札に慣れているとしょうが無いのかもしれないね。財布も硬貨がベースなので巾着のようなものなんだろう。巾着の中がいくつかに分かれているので仕分けられるようにはなっているんだけど慣れないな。保管方法を考えないといけない。
魔獣を倒すと魔獣石が手に入り、同じ魔獣だとある程度魔素の量は同じなんだけど、正確には若干の差があるみたい。この魔素量の確認には魔道具を使うらしい。ただしこれも鑑定と同じく、古代文明の遺物の魔道具でしかできないみたいで一般的に流通するほどではない。
冒険者が魔獣を討伐して魔獣石を手に入れた場合は、持ち運びのために一つに合成してから必要に応じて分解したり、上の単位の硬貨になった直後にその硬貨を使ったりしているようだ。ある程度のレベルの冒険者になると銀行に預けるので、流通しているお金はきりのいい数値からずれていても数ドールくらいのようだ。
ちなみに銀行からもらう1000ドール以上の魔獣石は合成・分解はできないようになっている。取引の際に合成を使われて貨幣が減ってしまっていることがあったためと言われていて、解除するには特別な魔法が必要らしく、もちろん解除方法は公開されていない。
普通に考えるとどんどんお金が増えていってインフレになってしまうと思うけど、魔獣石は電池のように魔素の供給源として消費もされるため、その心配は無いようだ。こちらの電化製品に当たる魔道具は普通魔獣石で動くようになっているので硬貨以外にも普通の生活でも使用されているからね。まあそのあたりは国とかが調整もしているだろうし。
このため硬貨として流通しているものは硬貨として、魔道具に使う魔獣石は魔獣石として使い分けているようだ。魔道具に使う場合はそれぞれで魔獣石の大きさが決まっているので、消費量を考えると10ドールよりも99ドールの方が使いやすいだろうからね。
時間の経過についてはガイド本の時間と比較したところ一日の長さは変わらないようだった。こちらの1時間は日本時間でちょうど2時間となっていたからね。倍にすると1日の長さは24時間となるので単純に1時間あたりの時間が2倍になっていると判断すればいいようだ。
分については1時間を120等分なので1分はもとの世界と同じ1分だけど、1時70分とかちょっと変な感じになる。あと1分も120秒なので1秒は0.5秒だな。まあその辺りはあまり気にしなくても良さそうだ。
もとの世界で12という数字は月の満ち欠けが関係しているという話を聞いたことがある。こっちも同じようなものなのかもしれないな。まあ時間の単位は違うけど、一日の長さも同じなのでまだ生活しやすそうだ。これで1日が短いとか長いとかだと生活リズムが狂いまくりだったからね。
最初にお金は全部で5万ドールあったけど、宿の支払いとかで1000ドールほど使っているので残りは49,000ドールくらいだ。この宿に泊まり続けたとすると、残り8泊とお昼代でだいたい1万ドールあれば十分だろう。
もし魔獣狩りをしようと考えると最低限の装備がいるので、昼に聞いた話だと2万ドールほどはかかる。あとは訓練などにもお金はかかるだろうからそれにもお金を使うとしても、1~2万ドールほどは余る感じかな?まあ途中でなくなってしまっても困るので、贅沢に使うとしたら最後の夜かな?
折角異世界に来たんだから魔獣と戦うのを経験してみたいというのが本音なんだよね。もとの世界に戻るのは他力本願しかないので、割り切って10日間の異世界旅行を楽しむことにしよう。明日は冒険者のことを少し聞いてみようかな。
~~備考~~
以下の内容はガイド本に書かれているため本人は理解しているということになります。本編中に入れると話しが長くなってしまうために備考として記載しました。読まなくても話の進行には問題ありません。
●身分証明証
生まれたときに神様から一人一人に送られるもので、カードはその人の体の一部のような認識。このため念じることで体に取り込むこともできるし、取り出すこともできるようになっている。もしカードを顕在化した状態で盗まれたとしても一定距離離れると消えて体に戻ってくるようになっている。
本人がなくなった場合、自動でカードが顕在化するため、死亡したときにはすぐに分かる。カードは神様に奉納することで消滅するが、そのまま残している人も多い。
生年月日および年齢は誕生したときに記載され、名前は洗礼を受けたところで記入される。そのほかは取得時に記載される。
人を殺した場合には殺した相手の名前などが記録されるため、殺人を行った場合の証明となってしまう。たとえその場では生きていたとしても致命傷を与えたところでその情報は記録される。
このほかにも神との契約で機能が追加されることもあり、冒険者の討伐記録、銀行の口座情報なども記載されるようになった。
●魔獣石
魔獣石の種類と硬貨としての価値は以下の通り。
1ドール=黒色で直径約10mm、厚さ約1.0mm
10ドール=黒色で直径約18mm、厚さ約1.8mm
100ドール=赤黒色直径約20mm、厚さ約2.0mm
1,000ドール=赤色で直径約24mm、厚さ約2.4mm
10,000ドール=黄色で直径約28mm、厚さ約2.8mm
100,000ドール=白色で直径約32mm、厚さ約3.2mm
1,000,000ドール=金色で直径約40mm、厚さ約4.0mm
合成は100万ドールまで無制限に合成できるが、分解は魔素を等分するため、1ドール以下になる場合は分解できない。
●時間
1日=12時間=120×12の1,440分=120×120×12の172,800秒
1時間=地球時間の2時間、1分=地球時間の1分、1秒=地球時間の0.5秒
おおよその夜明け時間が0時となり、国によって0時の時間が設定されている。
全世界でおおよそ1000年前に設定された暦が利用されている。
1年=12ヶ月=365日
1、3、5、7、9、11、12月が30日、2、4、6、8、10月が31日で4年に一回12月が31日になる。100年に1回調整が行われる。
週は10日単位で10の日が休日で31日がある月はその日も休み。それぞれ1の日、2の日・・・10の日と曜日のように呼ぶ。31日のみ1の日とは言わず31日と言う。
~~~~~
「・・・ひずみが大きくなる周期に入ったようです。ひずみの発生場所の特定を急いでください。」
「3520で次元のひずみ発生!転移先は3514です。資料をすぐに回します。」
・・・
・・・
・・・
「7152でひずみ発生!今回は2カ所で起きています。転移先は・・・両方ともに2512です。」
「それぞれの転移先の特定を急げ!」
・・・
・・・
・・・
「新たな次元のひずみが発生しています。・・・」
~~~~~
春のクラスマッチが終わり、まもなく期末考査が始まる。遅くまで勉強しているせいか、ここ最近は昼休みは眠くて休んでいることが多い。
「え?なに、これ?」
先ほどまでの騒ぎがなくなって、突然耳が聞こえなくなったように感じたと思ったら周りの景色が見えなくなった。
目が見えなくなったと言うわけではなく、真っ白の霧の中にいるような感じだ。地面はあるのかどうかもよく分からないけど、浮遊感があるわけでもない。ただ地面にたっている感じでもない変な感じ。
夢?夕べも結構遅くまで起きていたので寝てしまったのかな?夢にしては・・・ほっぺをつねると痛いような気もする。でも前に夢の中でほっぺをつねって痛かったと認識したが夢だったこともあるので夢かどうかも分からない。
これって最近ネット小説で読んでいる異世界召喚とかのイメージだよね。勇者召喚?勇者になって魔王を倒せとかやめてよね。奴隷にされて死ぬまで戦わされたりしたらいやだぞ。
しかし、この状態だと何もできないな。このあと神様とかが現れたりするのかな?どうすればいいんだ?そう思っていると突然周りの景色が変わった。
大きな召喚が行われたというようなところではなくてどこかの受付カウンターのようなところだ。カウンターの奥では机に座って仕事をしている人達が見える。カウンターのこちら側に人の姿はないけど、ソファーやテーブルがいくつか並んでいる。なんか銀行とかのイメージだな。
「ひっ!!」
カウンターの奥をみて息が止まりそうになった。なんだこれ・・・。いろんな人種というか、人間?という様な人(?)もいる。動物というか、虫というか、ほんとにいろいろな見た目の人たちがいる。
何なんだここ?なんか声を上げると襲われてしまいそうな感じがして必死に声を抑える。
どうする?とりあえずカウンターがあるからそっちに声をかけてみる?
何か仕事をしていると言うことは知性があるって言うことでいいんだよな?
周りを見回していると、少し離れたところに女性が現れた。何もないところに突然姿が現れた感じだ。
金髪で白人っぽい顔をしているけど、肌の色はちょっと自分に近い感じだ。日本人ではなさそうだけど、自分と同じ人間みたい。彼女も周りをみて困惑しているように見える。
「はじめまして、大岡純一郎様。私は異次元課のササミと申します。」
彼女に声をかけてみようと思っていると、後ろから声が聞こえてきた。驚いて振り返るとスーツのような服を着た男性が立っていた。30歳くらいで黒髪の短髪だが白人のような顔立ちをしている。
「・・・私は異次元課のスイサイと申します。」
彼女の方からも声が聞こえてきたので見てみると、そっちにも長い黒髪の女性と思われる人が声をかけていた。後ろ姿なのでよく分からないけどこっちの人と同じような感じかな?
最初の挨拶はちゃんと聞き取れたんだけど、そのあとはなにやらよく分からない言葉をしゃべっている。英語っぽいけど・・・理解できないよ。
「あの~~、よろしいですか?」
自分に声をかけてきた人のことを思い出して再び振り返ると、「とりあえず、こちらの席にどうぞ」と近くにあるボックス席をすすめられたので言われたとおり席に着く。彼女も少し離れた席に誘導されていた。
最近ネット小説で異世界ものの話を読んでいたせいか、思ったよりも驚きは少ない。ここで慌ててもしょうがないしね。問題は自分が死んでしまったのか、もとの世界に戻れるか、異世界の場合はどのようなところなのか、能力はどうなのかとかだな。
よくあるのは能力などうまく選ばないと大変なことになってしまうということだ。まあその選択権があるかも重要だけどね。あまり無茶言って何ももらえなくなっても困る。さらに変な召喚で奴隷のように使い潰されても困るもんなあ。
とりあえず召喚されたら周りの状況を見て対応を考えた方はいいんだけど、ここが召還先なのか?いろいろなパターンの勇者召喚ものを読んで来た今こそ、その知識を役立てるときだ。
「大岡純一郎様。突然のことで驚いているかと思いますが、まずは状況を説明します。
改めて自己紹介をしますと、私は異次元課に所属しているササミと申しまして、別の世界から別の世界に渡ってしまった人たちを案内する役割を担っています。申し訳ありませんが、あまり動揺しないように少し感情をコントロールさせてもらっています。」
なるほど。それで思ったよりも落ち着いているのか。あまりにも突飛なことが起きたのに冷静だったからなあ。
「まず、現在の状況ですが、あなたは今、別の世界の入口にやってきています。別の世界というのはパラレルワールドというか、あなた方のいる世界とは異なる進化を遂げた世界となります。
別の世界に行くことは確定しており、現在はその移動の途中と言うことですので一定時間が経過した後はその別の世界へと移されます。残念ながらここからもとの世界に戻ることはできません。
またここで何かしようとしても意味はありません。私たちに触れることはできませんし、何かあれば先ほどの何もない世界に戻されてそのあと予定の世界に移動することになります。できるだけ時間内に聞けるだけの情報を得た方がいいと思います。」
「やっぱりもとの世界に戻れないの?」
「最初に言っておきますが、あなたは死んだわけではありませんので生まれ変わるわけではありません。そしてここから戻れないというだけで、最終的にはもとの世界には戻れます。ただ一度あちらの世界に行ってもらわないと、というか、行かざるを得ないのが大前提なのです。
そのあとこちらで送還の手続きが終了しましたらもとの世界へと戻ることができますが、それまでの一定期間をあちらの世界で過ごしてもらわなければならないのです。」
「戻れるのか・・・。ちなみにその期間はどのくらいなんですか?」
「あなた方の世界の時間で言うとおおよそ10日間となります。10日経過しましたらもとの世界へ強制送還されます。」
「10日間って、その間もとの世界では行方不明になってしまうってこと?」
「いえいえ、戻るのはもといた場所、もといた時間となります。持ち物も体の健康状態もそのときの状態まで戻りますので、もとの世界では何もなかったようになります。」
「けがとか死んでしまった場合はどうなるの?死んでしまったらそこで強制送還とか?」
「生きてさえいれば、怪我をしていたり、たとえ瀕死状態でも、すべてが治って戻されますので、とにかく死なないようにしてください。」
「でも全く知らない土地で、普通の高校生が10日間も生き抜くのは大変だと思うんだけど・・・。」
とりあえず最低限の能力などもらわないといけないからな。
「まず、向こうの世界では16歳で成人扱いとなりますので17歳になるあなたは大人として扱われます。ただし、今回あなたの行く世界はもとの世界と大きく異なりますので生活に必要な能力や最低限の物資などはお渡しします。ですので、よほど無茶なことをしなければ大丈夫だと思います。」
「大きく異なる世界って?」
「今から行く世界はあなた方で言う魔法の世界のようなところです。文明レベルはあなたの世界とそこまで変わらない感じだと思いますが、科学の進歩ではなく魔法の進歩が主となっていますので根本的な世界の理論は異なります。ですが10日間の滞在であればそこまで違和感を覚えないのではないかと思いますよ。」
「魔法ってことはたとえばモンスターとかまでいるの?あと、戦争とかの争いは?」
「魔獣と言われるモンスターはいますが、町中にいればまず襲われることはないと思います。町の外には魔獣がいる場合もありますので注意が必要ですが、町の付近にはそれほど強い魔獣がいるわけではありません。
戦争についても今は大きな戦争は起きていませんし、このあと移動する国では戦争は行っていません。細かなことはあとでガイド本を渡しますのでそこで確認してください。」
「生活に必要な能力や物資っていうのは?」
「とりあえず話せないとどうしようもありませんので、今から行く国の言葉と文章は分かるように現地のヤーマン語とその世界の共通語であるライハンドリア公用語はわかるようにしておきます。あとは必要なお金と現地の衣類や雑貨、現地での身分証明などです。
10日間とはいえ、あなたの体の時間とあなたの世界の時間にずれが出ては困りますので、あなたの体の成長は向こうに行っている間、停止します。また向こうの世界で遺伝子を残されても困りますので、子孫を作る能力は止めさせていただきます。
魔法の世界と言っていましたが、これらの特殊な能力スキルを与えることはできません。期間が短いですが、頑張れば習得できるかもしれません。詳細はお渡しするガイド本や現地で確認してください。」
「能力がついたらそれがもとの世界でも発揮されるの?」
「魔法についてはほぼ無理だと思いますが、筋力などの身体能力や向こうの世界に関わる記憶以外の知識については維持されます。例えばあなたは目が悪いようですので目を良くする治癒魔法で目を良くすることもできるかもしれません。元の世界の戻るのは、あくまで戻るのは怪我など生命活動にマイナスになる因子が戻ると考えてください。
また勉強した記憶などは残りますが、もとの世界に戻るとあちらの世界に関する記憶はほぼ消去されます。どこまで残るのかは正直私にも分かりかねます。大体が夢ということで片付けられているようです。」
記憶はなくなるってことはせっかくの異世界旅行もその場限りでの楽しみと言うことになるのか。まあ少しは残るかもしれないので死にかけたらトラウマとかになってしまいそうだなあ。
「もらえるお金や装備って?」
「金額は10日間生活するには十分の金額となります。ちなみに現地の金額単位はドール。普通は1日千ドールあれば宿に泊まって食事をしても十分な金額となります。今回お渡しする金額は全部で5万ドールとなりますので十分に異世界を楽しむことができると思います。
装備についてはさすがにその学生服というわけにもいきませんので、現地の服と短剣などの簡単な装備、リュックに着替えや薬関係などをお渡しします。」
とりあえず生きていく最低限の物資という感じかな。
「他になにか特別なスキルはもらえないの?」
「申し訳ありません。この能力は私が授けるわけはありませんし、先に言いましたもの以外はお渡しすることができません。もし文句を言われても時間が来たら強制的に移動しますので・・・。」
「なんか何度もあったような感じだけど過去にも同じような人はいたの?さっきいた彼女とか?」
「はい、あなたの世界からと限定されなければそれなりの人数がここにやってこられます。今回行く予定の世界へも他の世界から転移されていますし、あなたの世界にも同じように他の世界から転移された人がいます。今回は同じ世界から同じ世界に同時に2人も移動するのでかなり珍しい例となりますね。」
結構頻繁に起きていることなのか?まあパラレルワールドの数が半端なく多かったら年間1名としてもすごい数にはなるな。それに地球だけではなく宇宙全体と考えたらしゃれにならないだろうな。担当部署とかがあるのかねえ?
「ちなみに10日間とはいえ、他の世界の知識はかなり有用な場合があり、時の権力者に捕まっていろいろと知識を搾り取られることがありますのであまりおおっぴらにしない方がよいかもしれません。
あなたの世界でもあるときにそれまでとは違う突飛的なものが世の中に出たりすることがあったと思いますが、それは別の世界の方が関係しているかもしれませんよ。
もちろんあなたと見た目の異なる知的生命体の場合もありますが、一般的にはそのような人の存在は詳細には知られてないでしょう?どういうことかは考えたらわかると思います。」
「こわ・・・・。あ、今から行く世界の人の姿は同じ?」
「今から行くところはあなたとほぼ同じ姿となりますので大丈夫です。よかったですね。だた美的感覚などは地域によって異なるのでなんともいえません。」
よかった。いきなり宇宙人みたいな人ばかりの世界に飛ばされたらしゃれにならないしね。
「ちなみに転移した人はちゃんともとの世界に戻っているの?」
「飛ばされた先の状況にもよりますが、やはり現地でなくなる方もいらっしゃいます。統計学的には20%程度がもとの世界に戻れていません。ある程度行き先はこちらで調整することができますので、できるだけ安全なエリアに誘導しています。人間だけでなく動物なども転移されますのでそれぞれに安全と思われるエリアとなります。理解する知能がない場合はこのような説明は行いませんけどね。
人もいない世界や人が生きていけない環境の世界、知的生命体の見た目が全く異なる世界と言うこともありますので、その場合はやはり危険なエリアに転移することもあります。とても生きていけない環境に行く場合の説明はかなり気が重いです。
どういう原理か分かっていないのですが、ある程度近い生命体や環境に送られることの方が多いですけどね。
また環境的には問題なくても無理をしてなくなる方もいらっしゃいます。ちなみに亡くなられた場合は、もとの世界では行方不明者という形で処理されることになります。死体を送るわけにもいきませんので・・・。」
まあ、見た目が全く異なる世界では10日間でも生き抜くのはつらいだろうし、俺つえーとかやって玉砕するパターンとかもありそうだしね。今回はまだラッキーなのか?
「今回の手続きの処理が終わりましたら10日後にもとの世界へ転送されます。リュックに入っているガイド本の表紙にあなたの世界の基準で残り時間が表示されますので参考にしてください。」
異世界ものの小説など読んでいたからまだ話が分かりやすかったけど、いきなりこの話があっても頭が追いつかなくて転移される人もいそうだな。10日で戻れるのなら観光気分で楽しめばいいか。記憶はなくなるみたいだけど。
「あ、そういえば一緒にやってきていた女性は一緒の場所に転移されるんですか?」
「聞いている話しでは、同じ国ではありますが、転移されるのは別の町のようです。転移先はある程度調整できるのですが、限度がありますので・・・。会うことはできるかもしれませんが、それはお任せします。ほんとは教えるのはいけないことなんですが、転移候補の場所と彼女の名前は・・・。」
他にも時間ぎりぎりまで聞ける内容を聞いておいた。ここでの時間はカウントに入らないようだし、情報はできるだけあった方がいい。
そしてついに転移の時間になった。
一瞬まぶしさを感じて目を閉じたんだけど、目を開けるとまた違う景色が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは緑の葉の茂った木々だった。木々が多いのでまさか森の中かと思ったけど、森にしては木々の間隔も広いし、一定おきになっているのも不自然だった。よく見てみると木々の間に建物が見えるので公園みたいなところなのかもしれない。
地面は芝生のようなものが植わっていて、その上に転移されたようだ。森の中に転送されていきなり何かに襲われると言うことはなさそうでほっとする。
気温はちょっと寒いと感じるくらいで、そもそも基本的な気候が違うかもしれないし、季節が違うのかもしれないけど、日本の感覚で言うと春か秋くらいだろうか。広葉樹っぽい葉の状態からすると春なのかな?世界が違うと言っても全く異世界という雰囲気ではないのでちょっとほっとする。
呼吸も違和感がないし、ちょっとしゃべった感じでもおかしなところはなさそうだ。空気の組成はあまり変わらないと考えていいのかもしれない。
木々の間を抜けると石畳の遊歩道のようなものがあって、人の姿を発見する。どうやら散歩している感じなのでとりあえず見える範囲では平和そうだ。治安とかが悪ければこんなにのんびりはしていないだろう。それに公園のようなところがあると言うことは文明としてもある程度成熟していると考えていいかもしれない。
歩いている人は少ないけど、見た範囲では顔の作りは白人に近い感覚かな?ただ髪の色は黒髪、金髪、白髪だけでなく、赤や緑などもいる。髪を染めている可能性もあるけど、地球とあまり変わらない印象だ。
ファンタジーの定番ようなエルフやドワーフ、獣人などは見当たらない。この町にいないのか、この世界にいないのかは分からない。ただササミさんは“ほぼ同じ姿”と言っていたから若干違う姿の人もいるのかもしれない。
せっかくの異世界といっても分からないことだらけだからまずは慎重に行動しないといけないだろう。よく分からなくて動き回ってトラブルに巻き込まれるとかしたくないし。
まあ小説とかだとそれでいろいろなイベントに遭遇したりするんだけど、実際にこんなことが起きたらまずは現状確認を優先すると思うんだけどね。まあ小説的にはいろいろとトラブルに起きる方がおもしろいんだろうけど・・・。木の陰になっている芝生の上に座って荷物などの確認をしてみることにした。
着ている服は学生服からこっちでは普通と思われる服になっている。シャツは木綿か何かで作られものみたいなので着心地にあまり違和感はない。装備を兼ねているのか、厚手のシャツも上に着ている。下着も現地の物になっているんだけど、これにはゴムのようなものも使われている。腰には何かの革のベルトに革の鞘に入った短剣が下がっているんだけど、銃刀法違反とかはないよね?
厚手の布で作られたようなリュックの中には自分が普段持ち歩いているコンタクトと洗浄液と保管用ケースと眼鏡ケース(入れ物はプラスチックではなく木やビニールみたいなものになっている)の他に携帯食らしき食べ物、水筒が入っている。細かいところは宿とかに入って部屋で見た方がいいだろう。
使っている眼鏡がこの世界で一般的なのか分からないのでコンタクトに変えておくことにした。2週間用が10枚あるので十分だろう。
他には巾着袋に入っているお金のようなものがある。赤い500円硬貨くらいの大きさで何も描かれていない。5万ドールと言っていたので、感覚的にこれが1枚1000ドールで50枚はいっているのかな?
お金の価値もよく分からないけど、一日1000ドールあれば生活できるようなことを言っていたので1000ドールで1万円くらいな感じだろうか?そう考えると5万ドールって50万円だからかなりの大金だよな。さすがにこんな外で確認するのは怖いのであとでみてみよう。
あとは身分証明証と思われるプラスチックのようなカードが一枚。名前とかが書かれているので何かの時にはこれを見せればいいのかな?文字はライハンドリア公用語みたいでちゃんと読めることにほっとする。
名前:ジュンイチ
生年月日:998年10月30日
年齢:17歳
職業:なし
賞罰:なし
資格:なし
クラス:なし
婚姻:なし
名前はジュンイチだけになっているのは、こっちでは名字が一般じゃないせいか?名前もジュンイチだけになっているけどね。誕生日はもとの世界の日付なんだけど、17歳と表記されている。年はこっちの世界の表示なんだろうけど、年が1歳上と言うことは数え年とかなのか、日付が違うのだろう。あと、職業とかはすべてなしになっている。しかし、これだけのことがこのカードに登録されるちうことなんだなあ。
そしてこの手帳が事前に聞いていたガイド本なのだろう。手帳のような形になっているけど、手帳を開くとタブレットのような画面になっていた。画面はタッチパネルのようになっていてページがめくれるようになっている。これってこっちでは普通のアイテムなのか?
最初のページには残りの滞在時間が記載されていて、頭から年、日、時間、分、秒かな?となっていてカウントダウンしている。
ガイド本の最初に書かれている説明の通りとすると、この内容は自分しか読むことができないらしく、他の人には普通の手帳のように見えるみたい。やはりこちらの世界のものではないのだろう。
地図の項を見るといくつかの手法で書かれた世界地図のようなものと国名が記載されていた。世界地図の形状から考えると平たい大地があるのではなく、地球と同じような天体と考えて良さそうだ。現地でも球体であることは認識されていると書かれている。
ただ天動説や地動説とかは場合によっては異端者扱いされる可能性もあるのではっきりとわかるまではこの話題はしない方がいいだろう。
天体の名前はライハンドリアとなっており、大陸はおおざっぱなイメージで言うと、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸という感じだ。
自分がいるのはそのうちのユーラシア大陸にあたるホクサイ大陸のヤーマンという国だ。地球で言う中国辺りのイメージかな?現在いるのはこの国の中央付近にある首都のサクラではなく、南西にあるアーマトという町のようだ。
各大陸に大小複数の国が存在しており、統治機構は国王を中心とした君主制や支配者層の議会制、市民を含めた民主制など国によっていろいろあるみたいで、君主制の国の方が多い感じかな。戦争に対する備えもあると思うけど、魔獣に対抗するためにどこの国もそれなりの兵力を有しているようだ。
ヤーマン国は国王がいるけど、国王が治めている地域を含めて5つの州に分かれていて、国王が絶対権力を持っているわけではなく、5つの領主のリーダーという立ち位置みたい。それぞれの領地でさらに細分化されてそれぞれ行政官が管理をしているようだ。
支配者層との身分差はそれほど大きくないらしいのでまだ大丈夫かもしれない。正直貴族とかいたらどのような態度をとればいいのか分からないよ。不敬罪とかで死刑になったらしゃれにならない。
各国の情報は簡単な概略しか書いていないのでこれ以上はわからないけど、10日間だったらそこまで意識することはないだろう。
食べ物について見てみると、米やパンや麺類などいろいろとあり、各国の代表的なメニューについても書かれているので食事については大丈夫かな。異世界もの小説で食べ物が美味しくないというのは定番だけど、ここまでいろいろあるならそれはなさそう。このあたりについては食事の時に実際に確認できるだろう。
あとは魔道具と言われる自分の世界の電化製品みたいな魔法で動く機器があるようだ。乗り物に関しても馬車とかではなく、魔法の乗り物が出回っているようだ。確かにササミさんに説明されたように文明のレベルはもとの世界とあまり差がないような気もする。
魔法について読んでみると、この世界には魔素と言われるものがあり、この魔素を使うことで魔法が使えるらしい。折角だから簡単な魔法でもいいので使ってみたいな。火や水などの属性に寄って使う魔法が変わってくるようだ。
この世界のモンスターである魔獣と言われる生き物は魔素が集まって生まれてくるものらしい。なんかゲームのポップアップみたいだな。一度形になった魔獣は同族と子供を作ることもできるようなので、最初の生まれ方は違うけど動物と同じような感じだな。魔素が濃ければ濃いほど強い魔獣が生まれるようだ。
その魔獣を倒すと得られる魔素の固まった魔獣石がお金に使っている硬貨である。・・・って、お金って作っていなくて魔獣が落としたものを使っているの?
この魔獣石を持っているものが魔獣と言われる生き物で、魔獣ではない普通の動物もいるらしい。ただ大体が魔獣の餌になってしまうようだけど・・・。
能力についての記載を見たけど、ゲームのようなレベルやステータスという概念はない。レベルを上げて身体能力を上げると言うことはできないので、普通に訓練とか勉強で能力を高めていくしかないようだ。
武器や魔法などの扱いに慣れたり、知識を得たりするとスキルを取得することができ、さらに複数のスキルを伸ばしていくことでそのスキルにあったクラスといわれる職業が与えられる。クラスがもらえるとそのクラスにあった身体能力に補正がかかるみたいだ。身体能力の上昇は自分で普通に鍛える他はこのクラスの取得になるみたい。
他のところもある程度流し読みしてみたけど、思ったよりも生きていくのには問題なさそうだな。とりあえずお金もあるから稼ぐ必要もなさそうだし、10日間の異世界旅行を楽しもう。
ある程度この世界の情報を確認できたので、実際に見て回ることにする。あと出来れば現地の人と話しもしてみたいんだよなあ。父からも情報の大切さは懇々と語られているからねえ。
公園と思われる場所をでるとすぐに建物が連なった通りになった。道路は石を加工されたような感じでアスファルトやコンクリートではなさそうだけど、滑りにくくなっているのでかなり歩きやすい。石を敷き詰めている感じだけどでこぼこもないしね。
車(?)も走っているんだけど、かなり昔の映画に出てくるような形で角張っている。馬車から進化したばかりという感じだ。トラックやバスと思われるような車も走っているけど、やっぱりまだ洗練されていない感じ。一番の違いは魔法で動いているのか、エンジンのような音はない。
道路は歩道が車道の両脇に分かれているのではなく、車道と歩道のレーンが隣り合っている感じだ。車道と歩道で地面の色が違うのでわかりやすい。車は大きな道しか走ってはいけないみたいで、そのほかは人が歩くためだけの道路のようだ。車が少ないせいもあり、町の中の車は一方通行が基本みたいなので車道は1台の車の幅しかなかった。
自分が歩いていても特に注目を集めているわけではないので、この格好や自分の見た目はそんなに変わっているようには思われていないのだろう。
先ほど公園で見かけたように白人っぽい人が多いが、自分と同じような黄色人種っぽい人もいる。ただ黒人の姿は見かけなかったのは地域的なものなのか?どのような人が美形というのかよくわからないけど、自分の感覚からして美形率が高いというわけではない。
このあたりは住居エリアなのか洗濯物が干してあったりする建物がほとんどだ。建物は2~5階建てで、石造りが基本らしい。一軒家という感じの建物はなく、集合住宅ばかりだ。
しばらく歩くと店がちらほらと見えてきた。武器などを売っている店が普通にあるのがファンタジーっぽいな。3階建ての石造りの建物が基本なのか、道路に沿って同じような高さの建物が連なっている。建物の1階が商店になっているところが多く、2階以上は住居のようだ。
店には看板が掲げられているけど、もちろん日本語ではない。文字は読むことが出来るけど、自動翻訳というわけではなく、別の文字で書かれていることが理解できるという具合だ。要は英語で書かれている看板を見ている感じ。
看板にはヤーマン語と思われる文字だけでなく、ライハンドリア公用語と思われる文字が併記されているものもある。おそらく書かれている方が少ないのがライハンドリア公用語なんだろう。
看板を読んでみるとちゃんとその言葉を発音できてるっぽい。会話が出来るかどうかについては実際に話してみないと分からないな。
宿屋の看板もあったので、とりあえずいくつか見た中で見た目よさそうな感じの”宿り木”というところに入ってみる。
最近の宿泊はネット予約ばかりだけど、父が若い頃はよく宿に飛び込みで行ったらしい。飛び込みの場合は部屋が開いていれば食事なしならなんとかしてくれたものだと話していた。
建物に入ると少し広めのロビーになっていて、正面に受付はあるけど、人はいない。まあ昼間だしね。観葉植物なども置いており、落ち着いた雰囲気のところだ。ここだけ見たら異世界とは思えないだろう。カウンターに置いてあった呼び鈴を押すと残念ながらケモミミとかではなく、普通の男性が出てきた。
「いらっしゃい、お泊まりですか?」
話しかけられた言葉を聞いてすぐに理解できた。これがヤーマン語なんだろう。
「すみません、今日泊まりたいのですが、部屋は開いていますか?」
「はい、大丈夫ですよ。シングルの部屋でいいですか?」
「はい、それでお願いします。」
「一泊550ドールですが、朝夕の2食つけると600ドールとなります。メニューにもよりますが、朝夕で80ドールくらいはしますので少しはお得です。
ただこの場合の食事のメニューは決まったものになります。基本的におかずにはスープとサラダ、メインが1皿となりますが、ボリューム的には十分だと思いますよ。自由に頼みたい場合は食堂で直接注文していただければ対応できます。ただ、この場合の割引はありません。」
建物の状態も悪くなさそうだし、掃除も行き届いている感じ。宿の人の対応も悪くないようなのでとりあえずはここに決めてから散策するか?
「それでは2食付きでお願いします。」
治安についてもよくわかっていないのに、ぎりぎりになって宿がないというのはまずいからな。日本の田舎とか安全なところだったら何とでもなるけど、不安があるならまずは宿を取るのが最優先とよく言われたからなあ。
「それではこちらに名前の記入をお願いします。あと身分証明証の確認をさせていただきますので提示をお願いします。」
渡されたのはマジックのようなものだった。ボールペンや鉛筆とかはこの世界にはあるのかねえ?宿帳に名前を記載してから身分証明証を渡す。文字は普通に書けるし、日本語でもないことは認識できるのでやはり言語補正で翻訳しているわけではなさそうだ。ヤーマン語と認識するとその言葉がそのまま出てくる感じなので大丈夫そうだ。
こっちの文字はローマ字のようなもので、子音と母音を組み合わせた表記で英語と同じく左から右に横書きされるのが普通みたい。わざわざヤーマン語となっているので国によって言葉や文字は変わってくると思う。漢字のようなものもあるのかな?
「はい、大丈夫です。ただ職業がないようですので、宿によっては保証金を取られる場合があると思いますが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、職業ですね。ずっと田舎の方にいて、この町に来るときに一度やめてしまったので、この町に来てから改めて職に就こうかと思っていたんです。」
「ああ、そうだったんですね。この町だったらいい職が見つかると思いますよ。」
ガイド本にも簡単には書いていたけど、とりあえず職がなくても大丈夫みたいだ。
「支払いは先払いとなりますが、現金でしょうか?カードでしょうか?」
カードもあるのか?まあ10日間だったら特に気にしなくてもいいだろう。
「現金でお願いします。」
そういって1000ドール硬貨(?)を渡すとおつりに赤黒い少し小さめの硬貨を4枚もらう。
ガイド本の説明にあったように硬貨は10単位で上の硬貨に切り替わっているようなので、この赤黒い硬貨が100ドール硬貨なんだろう。やっぱり数字とか書いていないから硬貨は直接見てみないと比較できないなあ。
国が違っても使っている硬貨は同じみたいだからその点は便利だけどね。宿が食事付きで600ドールということはやっぱり1000ドール=1万円というイメージでいいかもしれない。まあ他のものを買ってみないとわからないけど、ざっくりでもお金の感覚をつかんでおかないといけないのでとりあえずはそう考えておこう。考えやすいしね。
基準を考えるときは前にコ○コーラの値段を基準にすればいいとか聞いたことがあるなあ。水だと国によって違うからだけど、こっちでは何を基準にすればいいのだろう。とりあえず食事とかをしていけばなんとなくわかってくると思う。
「部屋には入れるのは5時以降となりますので、そのときに部屋の鍵を渡します。その時間からシャワーを使うことができますので自由に使ってください。時間は8時までですが、他の方もいますので15分以内に済ませるようにお願いします。
あと夕食は6時から提供が可能となりますが、7時までに注文をしてください。それまでに注文されない場合はキャンセルとなりますが、食事代の返却はできませんのでご了承ください。
明日の朝は1時半までに鍵の返却をお願いします。もし連泊する場合は1時までに連絡をしてください。予約が入っていなければ大丈夫ですが、できるだけ早めに言ってもらった方がよいです。連泊の場合は部屋に荷物を置いていってもらってかまいません。よろしくお願いします。」
時計はもとの世界と同じような感じで、版には数字で1から12までの文字が書かれている。数字はアラビア数字のようなものだ。
短針と長針があるので原理としては差がなさそうだが、ガイド本によると平均的な朝日の時間が0時で固定されており、1日が12時間らしいので慣れるまでわかりにくいかもしれない。とりあえず朝の6時くらいが0時で国によって基準の0時が違うようだけど、今はそのあたりは気にしないでいいだろう。あとは時間軸が同じかどうかだな。1日が24時間前後だったらいいけど、大分ずれていたら大変だよなあ・・・。
ロビーに置いている時計を見ると4時くらいなのでこっちの時間で後1時間くらいか。まあ時間的に夕方くらいだろうから太陽が沈む前に戻ってくればだいたいちょうどいいだろう。
まずは近くにあった鍛冶屋をのぞいていてみる。剣や杖や槍や弓、鎧のようなものから盾や兜と博物館とかでしか見ないようなものが所狭しと並んでいる。
店にはレジカウンターのようなところがあり、ここで精算をするのだろう。店員はいるんだけど、特にこちらに話しかけている雰囲気はないのでゆっくり見ることができて助かる。
値段は1000ドールのものから置いているけど、高いものはきりがなさそうだ。魔獣狩りをするのなら何か買わないといけないだろうね。店の人にざっくりで値段を聞いてみると、初心者レベルで一通りそろえるなら2万ドール、最低でも1万ドールくらいは必要だと言われる。やっぱり高いねえ。
続いていったのはスーパーのような商店だ。店の形態はもとの世界とあまり変わらなくて、商品をかごに入れていき、精算する感じになっている。もちろんバーコードのようなものはなく、値段が貼り付けられている形だ。
野菜や加工品も売られているが、肉については取り扱いが別なのかここでは売られていない。野菜や果物は見たようなものもあるし、見たこともないようなものもある。
加工食品の種類も多く、入れ物も紙やビニール袋やガラス瓶やプラスチック(?)のような入れ物に入っている。容器は地球と大きな差はなさそうだな。
香辛料などの調味料も結構豊富で、塩や砂糖や胡椒みたいなものからマヨネーズやトマトケチャップみたいなものもある。さらに味噌や醤油みたいなものまであった。
相場はまだ分からないけど、宿の値段を考えるとどの調味料もとんでもなく高いというわけではなさそうだ。特に飛び抜けて高い香辛料とかもないしね。
保存食はいろいろな種類の缶詰や瓶詰め、パスタなどの麺類などもある。量は少ないけど米みたいなものも売られているし、いろいろな粉ものも売られている。これだけ食材が発展していると言うことは食事についてはやはり問題ないと言うことだろう。まあこれだと食事に関しては知識チートできないと言うことなんだけどね。
すぐ近くに肉屋もあったので少しのぞいてみると、奥の方でなにやら解体作業も行っていた。魔獣(?)の名前と買い取り価格も書かれているので、肉はここで買い取りするのだろうか?肉の種類はいっぱい書かれているけど、商品自体はほとんど並んでいない。買うときは肉の名前を言って出してもらう感じのようだ。
続いて寄ったのは魔道具を扱っている商店なんだけど、普通でいう電化製品の店みたいな感じだ。エアコンや冷蔵庫など普通の電化製品と同じような機能のものが売られている。
車関係もここで取り扱っているみたいでいくつかの車が展示されていた。ある意味電気自動車のような感じなのか?車は注文生産のようで、注文後の納期などが書かれている。全体的に値段はやはり高めでなので普及率は低いかもしれない。1台100万ドール以上なんだもんなあ。
テレビはなかったけど、電話のようなものは売られていた。小型のものもあるけど、使用方法を見ると電話と言うよりは無線機に近い感じかもしれない。
まあ便利さをもとめて自動でできる物を開発すればどれも似通ってくるものだろう。ただこの世界では魔法があるのでモーターなどもなくてかなり作りは簡単な感じがする。もちろん魔法を付与するための術式がいるんだろうけどね。
しかし魔法の世界と言っても摩擦や重力とか自然現象はあるので、魔法があるから科学は進歩しないというのも違和感があるんだよなあ。
普通になぜ?と思うことがあれば証明しようとする人も出てきそうだし、火とかも普通に使っているし、みそやチーズがあるので発酵などの化学変化なども普通に起きていると思うから科学的な発展はあってもいいと思うんだけどね。
まあ、科学知識がなくても使えるし、経験だけでもうまくいくんだけどねえ。まだ科学的な研究が遅れているだけなのかもしれない。
猫型ロボットの魔法の話の映画でも「科学って迷信を信じているの?」ってくだりは違和感があったんだよなあ。
宿屋に戻るとすでに食事の提供は始まっているみたいで1階にある食堂はかなり賑わっていた。特に酔っ払いが暴れるという感じではないけど、地元の大衆食堂といった感じで結構騒がしい。人数を考えると宿泊客以外の人も来ているようなのでおいしいことを期待しよう。
「予約しておいたジュンイチです。」
受付に名前を言って身分証明証を出すと食事券と鍵を渡してくれた。
「部屋は2階の205号室です。食事券は食堂のカウンターに出せば食事を受け取れます。夕食と朝食の2枚分ですが、券の再発行はありませんのでなくさないようにしてください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
受付の横にある階段を上って2階の205号室へ。エレベーターはないみたいだけど、そもそもエレベーターはあるんだろうか?まあ3階建てくらいだったらまだ大丈夫かな?荷物が多くなれば大変そうだけどね。
部屋は四畳半くらいの広さのところにベッドと小さな机とイスが置かれている。床は板張りなんだけど、ドアの横に靴を置く場所があり、スリッパのような室内用の履物に履き替えるようになっている。よかった、部屋の中で靴のままというのはどうも慣れないからなあ。
部屋は綺麗に掃除されており、ベッドのシーツもちゃんと洗濯されているみたいで綺麗だ。トイレとシャワーは共用なので部屋にはないけど、地球のホテルと大きな差はなさそう。
ベッドは木で作った台に布団のようなものが置いている形で、残念ながらスプリングマットのような物はなかった。それでもクッションのようなマットは布団の下に敷かれているのでまだいいだろう。
部屋の荷物が盗まれると言うことはないとは思うけど、注意はしておいたほうがいいだろう。お金とか無くなったらしゃれにならないしね。
部屋に荷物を置いたあと、食堂に行ってから夕食券を出す。4~6人用のテーブルと10人以上がかけられる大きなテーブルが用意されていて、小さなテーブルはすでにいっぱいになっていた。適当に座るように言われたので大テーブルの空いている席に座ることにした。
ちなみに飲み物は別料金のようで、水ももちろん有料だ。アルコールは頼めるようだけど、こんな異世界で前後不覚になってしまうような勇気もないので素直に水を注文する。
アルコール関係はワインやビール、ウイスキーと色々と置いている。お酒のリストに説明があるので何のお酒なのかはある程度わかるけど、そもそもそんなに詳しくない。
ちなみにアルコール関係は全く飲めないというわけではない。うちの家の方針として一人暮らしをするまでにはお酒の味と許容量はある程度把握しておかないといけないと言われて高校生になってからちょっとずつお酒を飲まされていたからね。
定番としては近くの人に話を聞くというのがあるけど、大丈夫かな?父は旅行先のお店とかでよく現地の人に話しかけたりしていたらしいけどね。料理が運ばれてきたところでとりあえず隣に座っている20代後半と思われる男性客2人組に声をかけてみる。
「こんにちは。いきなりすみません。この町に来たばかりなのですが、少し話を聞かせてもらってもいいですか?」
ちょっと不審な顔をされたが、まあ当たり前か。
「もちろんただというわけにもいきませんので、ビールか何かおごりますよ。」
「お、おう、すまんなあ。分かる範囲でいいなら何でも聞いてくれ。」
ちなみにビールは1杯50ドール、ジュース関係は30ドール、水は10ドールとなっている。水は地域によって違うと思うけど、ここでは結構安いような気がする。ちなみにおつりでもらった10ドール硬貨は真っ黒だった。
水を飲んでおなかを壊すというのは良く聞くけど、最悪薬もあるので何とかなると信じたい。ミネラルウォーターとかは売っていなかったので、これでダメだったらジュースとかを頼むしかないけど、それでも大丈夫かどうかは分からないんだよなあ。
変なことを聞いて不信感をもたれても困るので最近ナンホウ大陸からこちらの国に来たんだけど、いろいろあってこの町まで来てやっと落ち着いたので情報を仕入れているところだと説明する。まあ簡単な情報はガイド本には書いてあったけど、それが正しいかどうかも確認しておかないといけないしね。
聞いていたとおり、この国はかなり平和で、最近の戦争はキクライ大陸(南アメリカのあたり)くらいしか聞かないようだ。そこは小国が乱立しているため、昔から戦争が絶えない地域らしい。
戦争はないと言ってもやはり犯罪はどこでもあるらしいけど、この地域を治めている管理官がかなり治安に気を遣っているらしく、取り締まりも厳しいため犯罪率は低いようだ。
「もちろんそうはいっても危険なエリアはあるからな。そこにはよっぽどのことがない限り近づかない方がいいぞ。あと、治安がいいと言うこともあってその分取り締まりや刑罰には厳しいぞ。変なことをすればすぐに逮捕されてしまうから、気をつけろよ。」
「わかりました。ちなみにお二人は何をなされているんですか?」
「俺たちは冒険者をやっているんだよ。魔獣を狩ったり、護衛をしたりとかだな。小さな頃から腕っ節には自信があってな、こいつも魔法がそこそこ出来たこともあって二人で冒険者になることにしたんだ。他の国とかにも行ってみたかったこともあるんだが、結局ほとんどこの町から動いていないけどな。わはははは。」
「実は今更ながらなんですが、自分も冒険者になろうかと思っているんですよ。大変ですか?」
「そうだな。今俺たちは下から3番目の上階位なんだが、なかなかこれ以上の階位には上がれなくてな。収入のいい護衛の仕事はあまりないから、魔獣狩りでその素材や肉を売って日銭を稼いでいる感じだ。正直なところ、普通に職業に就いた方が安定した生活はできると思うぞ。
知っての通り、魔獣は場所によって強いのもいるし、弱いのもいる。一番弱い魔獣だったら子供でも倒せるくらいだが、何があるか分からないからこの国では基本的には子供だけでの狩りは禁止されている。少なくとも剣とか魔法が使えなければやめておいた方がいいな。
治安に力を入れていることもあって、他の町よりも多くの講習会が役場の職業訓練所で行われているから一度受けてみるのもいいかもしれないぞ。値段も安いからな。」
「特技とかは特にないからなかなか仕事が難しいんですよねえ・・・。でもやっぱり冒険者というのは厳しいですかね。」
「まあな。冒険者と言っても最初の頃は他の仕事をやったりもしたからなあ。冒険者だけで生活できるというのは最低でも上階位くらいはいるな。
昔の遺跡とかで古代の魔道具とか見つけて大金を手にする話しも聞くが、よほど運がいいやつだけだからな。ただ、まあそれが冒険者の一番の醍醐味だ。
しかし、なにが一番大変かって、やっぱり怪我をしたときだな。怪我をして狩りに行けなければ収入はないだろ。治癒魔法を使える人間がパーティーにいればいいんだが、中級以上の治癒魔法を使える冒険者はそうそういねえからな。おかげで薬代がかかってしまう。もちろん武器や防具も手入れしたり新調したりしなければならないから稼いでもなかなかお金が貯まらないな。」
「まあ飲み代に消えているという話もあるがな。」
「ちがいない。」
「そうなんですね。」
他にもいろいろと話を聞くが、お酒が回ってきているのか、変な質問にも疑問を持たずに答えてくれたので助かった。
あと、今認識されているスキルのことを聞けたのはよかった。スキルは鑑定で見ることができると思っていたんだけど、そもそも鑑定そのものがかなり貴重みたい。アイテムの鑑定をできる人はいるけど、人の鑑定をできる人は過去にいたらしいと言うレベルのようだ。このためどうしたら鑑定のスキルが得られるのか取得方法はわかっていないらしい。
いまは古代文明の魔道具を使って鑑定しているみたいだけど、数がかなり少ないため大きな町でしか出来ない上、それなりにお金を払わないといけないらしい。
能力をアップするクラスを得るにはスキルが必要なのは分かっているのでスキルの確認をするんだけど、どうやらスキルのレベルはわからないっぽい。このため必要なスキルを得てもクラスが得られないこともあって、スキルを持っていてもある程度熟練が必要だと考えられているようだ。
それとスキルについてもガイド本に書かれていたスキルのうち、知識スキルといわれるスキルについては分かってないような感じだった。
話をしながら食べた夕食は何かの肉のステーキ(豚肉っぽい)とコーンスープにキャベツみたいなものとニンジンみたいなものとトマトみたいなもののサラダにロールパンだった。味はちょっと大味な気もするが、普通に香辛料もきいていておいしかった。食事に関しては問題なさそうだな。ご飯もあるみたいだしね。
ここでは箸はないのか、使うのはナイフ、フォーク、スプーンだ。使い方のマナーはよくわからないが、まあこういう店のせいか特にマナーなど気にせずに食べている感じ。
「他に何か聞きたいことがあればいつでも声をかけてくれ。普段はこの宿に泊まっているから、クラーエルのクーラストとアマニエルと受付で言えばわかるからな。」
「夜にもいないときは狩りに出ている可能性が高いな。宿は長期契約しているからなにかあれば役場よりも宿に伝言してもらった方がいいかもしれないな。」
二人はまだ飲むらしいので、最後にもう一杯ずつビールをおごってから部屋に戻ることにした。
共用のシャワーを浴びてさっぱりしてから部屋に戻る。お風呂が設置されている宿もあるらしいけど、やはりそれは高いみたい。とはいえ、シャワーもお湯が出るので全く問題ないし、家でも普段はシャワーだけのことが多かったからあまり気にならない。石けんとかシャンプーとかはサービスではなかったけど、感覚的に妥当と思える値段で売っていたので購入した。
トイレもちゃんと水洗だし、ほんとに知識チートはできない環境だよなあ。ウォシュレットはなかったけど、これは作ることができれば普及するのかねえ?あれを初めて使った人はかなりの衝撃だから時間をかければ普及はしていきそうだ。
荷物を改めて確認すると、昼にチェックしたもの以外に、着替えの下着や服や靴下が2セット入っていた。歯ブラシと歯磨き粉はさっき買ったんだけど、もとの世界とあまり差がない。日常生活に必要なものはこれで十分かな?
昼に気になったお金についてガイド本をもう少し読んでみる。魔法のところに書かれて、魔力を魔獣石に注入することで魔獣石の分解、合成ができるようだ。基準となる単位が一番小さな魔獣石の魔素力を1として決めているようで、この数値で初めて魔獣石として形になるのでこれ以下の魔素を持つ魔獣石はないようだ。この魔素1の魔獣石が1ドール硬貨という単位となっている。
10進法で桁が上がるたびに形状や色が変わってくるために10進法が基本となっているようだ。このため他のことについても10進法が基準となっているのかもしれない。
1ドール硬貨を10個合成すると10ドール硬貨に、10ドール硬貨を10個合成すると100ドール硬貨になるが、99ドールでも10ドール硬貨のままで、見た目の区別はできない。つまり1~9ドールは1ドール、10~99ドールは10ドール、100~999ドールは100ドールとなる。
一般的に流通しているのは1000ドールまでで、大口の取引ではもう少し高額のお金も使用するけど、それでも10万ドールまでらしい。ただ合成できる最高が100万ドールみたいなので無限に合成できるわけではないようだ。
ただすべてが硬貨になるので正直かさばるのが面倒だ。札に慣れているとしょうが無いのかもしれないね。財布も硬貨がベースなので巾着のようなものなんだろう。巾着の中がいくつかに分かれているので仕分けられるようにはなっているんだけど慣れないな。保管方法を考えないといけない。
魔獣を倒すと魔獣石が手に入り、同じ魔獣だとある程度魔素の量は同じなんだけど、正確には若干の差があるみたい。この魔素量の確認には魔道具を使うらしい。ただしこれも鑑定と同じく、古代文明の遺物の魔道具でしかできないみたいで一般的に流通するほどではない。
冒険者が魔獣を討伐して魔獣石を手に入れた場合は、持ち運びのために一つに合成してから必要に応じて分解したり、上の単位の硬貨になった直後にその硬貨を使ったりしているようだ。ある程度のレベルの冒険者になると銀行に預けるので、流通しているお金はきりのいい数値からずれていても数ドールくらいのようだ。
ちなみに銀行からもらう1000ドール以上の魔獣石は合成・分解はできないようになっている。取引の際に合成を使われて貨幣が減ってしまっていることがあったためと言われていて、解除するには特別な魔法が必要らしく、もちろん解除方法は公開されていない。
普通に考えるとどんどんお金が増えていってインフレになってしまうと思うけど、魔獣石は電池のように魔素の供給源として消費もされるため、その心配は無いようだ。こちらの電化製品に当たる魔道具は普通魔獣石で動くようになっているので硬貨以外にも普通の生活でも使用されているからね。まあそのあたりは国とかが調整もしているだろうし。
このため硬貨として流通しているものは硬貨として、魔道具に使う魔獣石は魔獣石として使い分けているようだ。魔道具に使う場合はそれぞれで魔獣石の大きさが決まっているので、消費量を考えると10ドールよりも99ドールの方が使いやすいだろうからね。
時間の経過についてはガイド本の時間と比較したところ一日の長さは変わらないようだった。こちらの1時間は日本時間でちょうど2時間となっていたからね。倍にすると1日の長さは24時間となるので単純に1時間あたりの時間が2倍になっていると判断すればいいようだ。
分については1時間を120等分なので1分はもとの世界と同じ1分だけど、1時70分とかちょっと変な感じになる。あと1分も120秒なので1秒は0.5秒だな。まあその辺りはあまり気にしなくても良さそうだ。
もとの世界で12という数字は月の満ち欠けが関係しているという話を聞いたことがある。こっちも同じようなものなのかもしれないな。まあ時間の単位は違うけど、一日の長さも同じなのでまだ生活しやすそうだ。これで1日が短いとか長いとかだと生活リズムが狂いまくりだったからね。
最初にお金は全部で5万ドールあったけど、宿の支払いとかで1000ドールほど使っているので残りは49,000ドールくらいだ。この宿に泊まり続けたとすると、残り8泊とお昼代でだいたい1万ドールあれば十分だろう。
もし魔獣狩りをしようと考えると最低限の装備がいるので、昼に聞いた話だと2万ドールほどはかかる。あとは訓練などにもお金はかかるだろうからそれにもお金を使うとしても、1~2万ドールほどは余る感じかな?まあ途中でなくなってしまっても困るので、贅沢に使うとしたら最後の夜かな?
折角異世界に来たんだから魔獣と戦うのを経験してみたいというのが本音なんだよね。もとの世界に戻るのは他力本願しかないので、割り切って10日間の異世界旅行を楽しむことにしよう。明日は冒険者のことを少し聞いてみようかな。
~~備考~~
以下の内容はガイド本に書かれているため本人は理解しているということになります。本編中に入れると話しが長くなってしまうために備考として記載しました。読まなくても話の進行には問題ありません。
●身分証明証
生まれたときに神様から一人一人に送られるもので、カードはその人の体の一部のような認識。このため念じることで体に取り込むこともできるし、取り出すこともできるようになっている。もしカードを顕在化した状態で盗まれたとしても一定距離離れると消えて体に戻ってくるようになっている。
本人がなくなった場合、自動でカードが顕在化するため、死亡したときにはすぐに分かる。カードは神様に奉納することで消滅するが、そのまま残している人も多い。
生年月日および年齢は誕生したときに記載され、名前は洗礼を受けたところで記入される。そのほかは取得時に記載される。
人を殺した場合には殺した相手の名前などが記録されるため、殺人を行った場合の証明となってしまう。たとえその場では生きていたとしても致命傷を与えたところでその情報は記録される。
このほかにも神との契約で機能が追加されることもあり、冒険者の討伐記録、銀行の口座情報なども記載されるようになった。
●魔獣石
魔獣石の種類と硬貨としての価値は以下の通り。
1ドール=黒色で直径約10mm、厚さ約1.0mm
10ドール=黒色で直径約18mm、厚さ約1.8mm
100ドール=赤黒色直径約20mm、厚さ約2.0mm
1,000ドール=赤色で直径約24mm、厚さ約2.4mm
10,000ドール=黄色で直径約28mm、厚さ約2.8mm
100,000ドール=白色で直径約32mm、厚さ約3.2mm
1,000,000ドール=金色で直径約40mm、厚さ約4.0mm
合成は100万ドールまで無制限に合成できるが、分解は魔素を等分するため、1ドール以下になる場合は分解できない。
●時間
1日=12時間=120×12の1,440分=120×120×12の172,800秒
1時間=地球時間の2時間、1分=地球時間の1分、1秒=地球時間の0.5秒
おおよその夜明け時間が0時となり、国によって0時の時間が設定されている。
全世界でおおよそ1000年前に設定された暦が利用されている。
1年=12ヶ月=365日
1、3、5、7、9、11、12月が30日、2、4、6、8、10月が31日で4年に一回12月が31日になる。100年に1回調整が行われる。
週は10日単位で10の日が休日で31日がある月はその日も休み。それぞれ1の日、2の日・・・10の日と曜日のように呼ぶ。31日のみ1の日とは言わず31日と言う。
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幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
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「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
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異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
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キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
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手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
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※本作は他サイトでも掲載しています
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ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
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