【改訂版アップ】10日間の異世界旅行～帰れなくなった二人の異世界冒険譚～

再編集版

8. 現世界-1 1日目 思い出してから・・・

8. 現世界-1　1日目　思い出してから・・・
　昼休みにお弁当を食べた後、待ち合わせた場所に移動する。もともと昼休みにいつも一緒に行動しているやつがいるわけではないのでこっそり移動するのは問題ない。
　昼休みにはここにはあまり人はやってこないはずだ。先にやってきていた彼女は自分を見つけるといきなり抱きついてきた。目には涙を浮かべている。

「久しぶり、って言っていいのかな？」

「・・・やっと思い出したのに、そんな一言ですませないでよ。」

「ごめん。」

　しばらくして落ち着いたところで少し現状について話をした。ただとても昼休みで終わるような内容ではないので簡単に済ませるしかない。

「とりあえず、授業も始まるから話はまた放課後と言うことでいいか？」

「授業なんてと言いたいけど、仕方ないわ。私の住んでいるところがこの近くだからそこで待ち合わせましょう。場所はここだから少し遅れてやってきてね。」

「わかった。」

　地図の書かれた紙を受け取って別れる。



　午後の学校の授業も半分上の空で過ごすことになった。放課後になり、少し教室で時間を潰した後、地図に書かれた場所へ向かう。
　10階建てくらいのマンションのようだが、入口はオートロックになっている。一応周りに注意してから言われた部屋番号に連絡するとメインのドアの脇にある小さめのドアの鍵が開いたのでそちらへと進む。

　中に入るとホテルのフロントのようになっており、学生証の提示を求めらた。学生証を確認するとカードキーを渡される。カードキー？
　奥にあるドアに案内されたので中に入るとエレベーターがあった。先ほどもらったカードキーをパネルに当てると扉が開いたんだが、いくらセキュリティーの高いマンションでもここまで厳しいか？

　エレベーターに乗るとボタンは上と下しかない。とりあえず上でいいのか？エレベーターを降りるとそこにドアがあった。インターホンをならそうとするとおもむろにドアが開いた。

「イチ！おかえり！！」

　顔を出したのはジェンだった。

「いや、おかえりって・・・。まあいいよ。ただいま、ジェン。」

　中に入るとかなり広いリビングになっており、ジェンの他にも女性が二人控えていた。格好からすると家族ではなく、いわゆるメイドさんなのだろうか？そういえばお嬢様とか言っていたなあ。

「彼女たちは？」

「彼女たちは私が小さな頃からお世話になっている人たちよ。もちろん仕えてくれているんだけど、もう家族みたいな感じではあるわね。」

　少し話をした後、二人には隣の部屋の移ってもらう。最初はなかなか聞いてくれなかったが、なんとか従ってくれるようだ。


　ジェンはこの世界に戻ってきたとき、もちろん記憶はなくなっていたんだけど、自分と同じようになにか違和感があったらしい。ただそれが何か分からない・・・。なにかヒントになるものはないかと記憶をたどるが、全く思い出せなかったようだ。
　その中で前まであまりしゃべることのできなかった日本語を流暢にしゃべられるようになっていたことから日本に何かのヒントがあるのではないかと考えたようだ。日本語というのは時々見ていたアニメを字幕なしで理解できることで分かったようだ。
　そしてその日本語のなまりをもとに地域を絞ったようだ。いくつかその地域でしか使わない単語があったので絞りやすかったらしい。
　父を説き伏せてから日本への留学する準備を進めてもらったが、行き先の学校は感覚で決めたらしい。どうやらうちの高校の建物ががちょっと他とは違った感じだったので何となく記憶に残っていたのかもしれない。

　アメリカの授業の関係や手続きや準備に時間がかかったこともあり、日本の2学期からの留学となったようだ。この高校に来てなにか思い出すかと思っていたが、特に心に引っかかるものはなかったようだ。そして昨日のダンスの時に自分と手が触れたときにすべてを思い出したようだ。


　これからのことなどいろいろと話しをするが、確認しないといけないことややらなければならないことがいっぱいあるので一つ一つクリアしていかなければならない。さすがに今日は時間も無いのでいったんお開きにすることになった。

「それじゃあ、とりあえず詳細はメールしておくよ。」

「分かったわ。それじゃあまた明日ね。」

　そう言って軽いキスをしてきた。


　マンションを出てから駅に向かい、電車に乗って帰宅の途につく。あれは今から3ヶ月ほど前のことだ。ほんとは10日間の異世界旅行のはずだったのに、すべてはあの管理人達のせいでこんなことになってしまった。
　まさか10日間ではなくあんなに向こうの世界にいることになるとは思わなかった。おかげで死にそうになったこともあったが、結果的には良かったのかもしれないなあ。まあ生きていたからこその感想だろうけどね。