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47. 異世界398日目 王族の人たちと冒険者の人たち
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47. 異世界398日目 王族の人たちと冒険者の人たち
今日もクリスさん達と夕食の約束をしているので宿に戻って着替えをしてから待ち合わせの店へと向かう。
店に着くとすでにクリスさん達も到着していて部屋に案内されるとみんな揃っていた。最近スレインさん達もかなりおめかしするようになっていて、かなり眩しい。今までも美人の部類だったのに、化粧までするとトップレベルだよ。
みんな揃ったところで食事となり、最近の出来事など色々な話をする。自分たちがいなくても普通に話すようになってきているので、そろそろ自分たちが一緒じゃない方がいいんじゃないかと聞いても、せっかくだからと食事などに誘われるので断るわけにもいかない。
食事も終わってそろそろお開きとなるところでクリスさんから提案があった。
「すまんが、明後日は一日予定を空けることはできるか?」
「えっと・・・大丈夫だよね?」
「うん、自主訓練くらいだから、空けることはできるわ。」
「大丈夫だと思います。」
「それじゃあ、明後日の朝に迎えに行くから私服でいいので準備しておいてくれ。」
「わかりました。」
みんなと分かれてから宿に戻る。もうすぐ他の国に行くのでのんびりした生活もあと少しだな。正直収入はあるのでこの生活を続けていくこともできるんだけど、それはそれでもったいないからね。
それから二日後の今日はクリスさんに言われて予定を空けている。どこに行くのかと思って宿で待っているとえらく大きな車でやってきた。なんかかなり豪華なんだけど殿下専用車か何かなのか?宿の人もかなり驚いていたんだけど、かなり緊張した顔になっていた。やっぱり王族仕様なのかな?
出発してから郊外に行くのかと思ったんだけど、町の中心に向かっている。
「どういうこと?」
ジェンもこっちに何かあったかな?と首を傾げている。
「いきなりですまんが、今日は私の両親に会ってくれ。」
えっと、王子の両親って・・・国王陛下?王妃殿下?!
「むりむり、それは無理だよ!!」
なんとか断ろうと思ったんだけど、クリスさんは聞いてくれない。
「そもそもこんな格好だからダメだよね?あと、国王陛下に対する所作なんか知らないから、不敬罪とかで処罰されるとかなってもいやだよ。」
「今日はプライベートなので問題ないよ。普通にしていればいいから。」
「普通って・・・。」
スレインさん達も苦笑いしている。彼女たちはすでに何度か会っているようだ。逃げ出されるかと思ったので直前までどこに行くのか秘密にしていたのか?
「クリスさん、逃げると思ってあえて言わなかったんですよね?確信犯ですよね?ねえ?そうですよね?」
クリスさんには目をそらされたが、口元が笑っている。くっそ~~~!
結局断りきれずに王宮へと連れてこられてしまった。「どうするんだ?」と、悩んでいる自分を後目にえらく立派な廊下を進んで豪華な部屋に到着した。
収納バッグなどの装備品はすべて預けてから部屋の中へ。立派なテーブルの椅子に座るように促される。ここまできたら覚悟を決めるしかない。少ししてドアが開くと前に遠目に見た国王陛下と王妃殿下が入ってきた。すぐに立ち上がって礼をする。
「そんなにかしこまらなくていいよ。私が父のクマライアス・ヤーマンだ。こっちは第二王妃のアルフィナだ。」
「アルフィナ・ヤーマン、クリストフの母よ。よろしくね。」
「初めまして、アースという冒険者パーティーのジュンイチと言います。今日はお招きいただきありがとうございます。」
「同じくジェニファーと言います。」
「今日はプライベートで、息子の友人との食事と言うことだから、気にしなくていい。」
両親とはいえ、国王陛下と王妃殿下がやってきてかしこまるなと言う方が無理だよ。みんなが座ったところで自分たちも席に着く。マジでどうすればいいのかわからないよ。
「クリスがいろいろと世話になったらしいし、クリスのやっている事業にもいろいろと助言をしてもらっていると聞いている。」
「いえ、簡単な助言くらいなのでそこまでのことではありません。」
クリスさんが行っている事業は食堂の経営と食品の取り扱いだ。国内だけだけどいくつかの町に店舗を出していて、そこそこの売り上げを出しているらしい。また他の町にも出店している関係もあって、食品の運送関係もやっているのでそちらの売り上げもあるようだ。
一度店に招待されて行ってみたんだけど、結構美味しかったので知名度だけでなく、ちゃんと実力で売り上げを上げているような印象だった。
何か助言できないかと言われたので他の店の味について聞いてみたところ、やはり店によって味の差が出てきているようだ。これはシェフのレベルによるので仕方がないところだろう。なかなか任せられる人材ができないため、店を拡張しようとしてもできない状態になっていた。
料理人の修行などについての話をしたところ、料理について技術は盗めという昔ながらのやり方となっていた。
そこでいろいろと問題や反発は出るかもしれないけど、料理技術の指導、料理の手順や味のマニュアル化、数値化したらどうかと説明した。ただ、その話をしたところで問題が出た。識字率のことである。
最近は無償の学校も増えてきていて、文字や簡単な算術が出来る子供も増えてきているらしいんだけど、まだ浸透率は低いようだ。子供の労働力に頼っているところも多いみたいだしね。この国の識字率は高い方みたいなんだが、それでも4割くらいしかないらしく、年齢が上がると識字率も下がっていくようだ。
日本の感覚で考えると識字率は高いのが普通と思っていたし、結構教養ある人としか接してなかったので気がつかなかった。
とりあえず絵によるレシピと、重さを計らなくても分かるように計量スプーンや計量カップについて勧めてみた。スプーンで何杯という形にすれば手間もかかりにくいだろう。こうすればある程度のレベルまではできるようになるはずだ。材料や季節によって調整はしなければならないとは思うけど、こればかりは個人の力量だろう。
料理技術の指導や基本的な部分をマニュアル化するだけでも基本的なことが出来る時間も短くなるだろうし、その分他のことに時間を費やせるから育成期間も短くなると話をした。
あとはこの世界になかったピーラーやスライサーである。最初の頃は特に気にしていなかったんだけど、この世界にはまだ開発されていなかった。これを使うことで下準備の時間はかなり短縮されるはずだ。
これらの道具の使い勝手がいいようであれば商品化してはどうかとカサス商会を紹介してみたところ、かなり好評ですぐに商品化されることになったみたい。これらの商品も特許のようなものをとることができたので、これもアイデア料としてまたもらうこととなった。
カサス商会からもクリスさんの店という新たな関係構築についてお礼を言われ、また新人教育のマニュアル化などについても話をしてみたところかなり感謝された。父がマニュアルを最初に作る人は大変だけど、長い目で見ると絶対に効率的だと言っていたからな。
「まあ、それ以上に一番ありがたかったのは今まで女性にあまり興味を持たなかったクリスに妻の候補をあげてくれたことだな。
ほんとに心配していたんだぞクリス。しかもこんな綺麗なお嬢さんを4人もいっぺんに娶ろうとは隅に置けんな。」
「「「「「・・・・」」」」」
黙り込んだ5人は真っ赤になってしまっている。国王にも何度か会っているようなのですでに公認の仲なんだろう。
「そういえは、新人教育のマニュアルという話を聞いたんだが、王宮で働くものにも同じようなものを作ってみようと考えている。そのアイデアを使わせてもらってもかまわないだろうか?」
「それは特に自分の許可は必要ないと思います。自分はあくまで教育手段の一つとして話しただけです。どのように作るかの工夫は必要かと思いますが、使えるものになるかどうかについては作り手の技量次第だと思います。」
「いいのか?なにか見返りを求めないのか?今までになかったアイデアだと思うのだが・・・。」
「問題ありません。見返りをもらうほどのことはしていませんので・・・。」
「父上、ジュンイチについては話したとおりでしょう。」
「たしかにな。」
「???」
「あまりに見返りもなく知識を披露してくると言うのでな。今回の件についても何を見返りに求めてくるのかと話していたんだ。しかし、本当にいいのか?なにか希望があれば聞ける範囲で聞くぞ。」
「・・・えっと、それなら可能かどうか分かりませんが、希望と言うことであれば一つあります。
このあとアルモニアに行こうと思っているんですが、そこにいる高名な魔法使いとの面談の紹介状を書いていただくことはできるでしょうか?」
「まあ、紹介状を書くくらいなら大丈夫だろう。ただかなり偏屈と聞いているから、希望するようなことを話せるかは保証できないぞ。そのくらいでいいのか?」
「特に今はそのくらいしか思いつきません。ジェンはなにかある?」
「できれば王国の宝物とか見せてもらいたいわね。」
「わかった。紹介状はおって準備しよう。宝物については見せられる範囲内で良ければ許可しよう。」
「「ありがとうございます。」」
「それでは食事の後に案内することにしよう。」
思ったよりも緊張せずに食事は楽しめた。ただ、クリスさんに呼び掛けた時、二人が一瞬固まって笑っていたのはなんだったんだろう?周りの護衛の人達も怪訝な顔をしていた。
食事の後で倉庫の管理をしているという人に案内してもらう。よかった、国王直々に案内されたらしゃれにならないところだった。食事の後はまた仕事に戻っていったのでそんな余裕もないんだろうな。わざわざ自分たちのために時間を割いてくれただけでもすごいことだ。
ただ、「これからもクリスと仲良くしてやってくれ。」と国王陛下に言われてしまったけど、いいのかなあ。
宝物庫の中には宝石や魔法に関する装備関係などいろいろと並んでいた。さすがに宝物と言われるだけあって宝石などはかなりすごいものが付いているし、装飾もすごい。
古代遺跡から発見された魔道具も展示されている。中には道しるべの玉もあったんだけど、並なので登録数が少ないのかもしれない。触らない状態では鑑定レベルが低いので詳細が分からないのが悲しいところだ。
本も保管されていたんだけど、この辺りの本は一部しか閲覧を許可されていないと言われる。でも本を見ることができるのでおそらくガイド本に取り込みができているはずだ。
もしかしてジェンはこれを狙っていたのか?と、ジェンの方を見るとちょっと口元が緩んでいる。ばれたらやばいな。まあこの世界の人にはガイド本は使えないと思うけどね。
一通りの宝物を見せてもらってから挨拶をしてお城を後にする。スレインさん達はこのあとも用事があるみたいなので自分たちだけが先に城を出ることとなった。車で宿まで送り届けてもらったけど、降りたときの周りの目が痛かった。
宿に戻ってからガイド本を見てみると、本の取り込みができていた。いろいろとまずそうなことまで書かれているので時間があるときに読んでみよう。
~国王陛下side~
今日はクリスの婚約者候補の女性達とクリスの友人という二人との昼食会だった。最初に話を聞いたときは何事かと思ってしまった。今まで女性にほとんど興味を持たなかったのに急に付き合いたい女性がいると聞き、驚いたものだ。しかも四人とは。アルフィナも驚いていたしな。
実際に彼女たちに会って話を聞くととてもよい女性たちだった。クリスの肩書きではなく、クリス本人を見ている感じで好感が持てた。素性を調べると元貴族だったようだが、すでにヤーマン国民となっていることだし、おそらく問題はないだろう。
冒険者だったアルフィナもかなり気に入ってもう娘同然に扱っているからな。他の妃達からも特に反対は出ていないし、孫達は冒険の話を聞いてかなり喜んでいたからな。
そのきっかけとなったのが今日会った二人ということだが、いろいろ調べたが詳細な素性がわからなかった。
一年ほど前にナンホウ大陸から入国し、ヤーマン国民として申請されている。そしてそのあとアーマトとオカニウムで冒険者として登録したとなっている。身分証明証にもおかしなところもない。
そのあとは地道に訓練をして今は上階位まで上がっており、実績も生活態度もよいようだ。特別依頼もいくつかこなしており、長年達成できていなかった依頼も達成したと聞いている。
そのほかいろいろな商会とも良好な関係を築いており、特に最近躍進しているカサス商会では相談役として雇われているらしい。ただしあまり表沙汰にはしていないようだが、なにか事情があるのだろうか?
たしかにクリスの商売にも助言をしてもらったようだが、そのアイデアは斬新でかなり効率的なものが多かった。新人教育を兼ねたマニュアルについてはかなり効率的で、確認したあとで王宮での教育に導入する方向で進めていた。いろいろと反対意見もあったが、簡単なものを作成して使ってみたところ、特に新人には喜ばれた。
正直素性が不明なため不安はあったがクリスの勧めもあり、会ってみることにしたのだが、確かにクリスの言うこともわかる気がした。
教育のためのマニュアルの話をした際にも特に褒美を求めないのには驚いた。結局求めたのは紹介状と宝物庫の見学だけだった。
クリスのことを「クリスさん」と呼んだのには驚いた。クリスも気にしていなかったし、人前ではクリストフ殿下と呼んでいるようなのでそのあたりはちゃんとわきまえているようだ。そういう友人がいてもいいものだろう。
クリスにも小さな頃からの友人はいるが、残念ながらクリスには親友という感じの友人はできなかったからな。年齢は少し離れているようだが、いい関係になってくれるとありがたい。
あの年齢にしては知識量がちょっと高すぎることがやはり不思議だ。伝承にある知識人というのは大げさか?過去に今までとは違う知識を持った人がいたという話もあるが、数日で煙のように消えてしまったとある。
今のところ特に害もなく、クリスとも良好な関係を築いているし、我が国への恩恵も大きそうなので温かく見守っていくほうがいいだろう。
~~スレインSide 王子と冒険者の出会い~~
大分暖かくなってきたところで少し南の方の町から魔獣の討伐依頼が出た。どうも冬の間に繁殖が進んだのか、数がかなり多いと言うことと、町の近くでも目撃例が出たということでの緊急依頼だった。通常であれば兵士の訓練を兼ねた討伐となるのだが、準備が間に合わなかったため、先発隊としての対応のようだ。
魔獣のレベルは上階位~良階位ということだが、優階位の魔獣もいるような情報が入っていた。その後に調査が入ったところ、優階位の魔獣も数頭確認されたようだ。
このため討伐には優階位と良階位のパーティーが対応することになり、私たちにも声がかかったようだ。私たちでは優階位の魔獣の討伐は厳しいが、優階位下位のようなのでなんとか対応できると言ったところだ。まあ、実際はあくまで優階位パーティーのサポートだ。
参加するのは私たちのパーティーの他に3グループだ。優階位パーティーのひとつは「剣の翼」だった。剣の翼は私たちが憧れるパーティーの一つで、男性2名、女性2名の夫婦2組のパーティーだ。
もう一つの優階位パーティーは「王家の剣」という第二王子のクリストフ殿下と騎士達のパーティーだ。クリストフ殿下が冒険者として活動するということから選抜された騎士が中心となっている。クリストフ殿下は良階位だが、他の騎士達が優階位のためパーティーは優階位となっている。
王子ということで最初はかなり色眼鏡で見られていたが、活動内容や実績から今ではかなり信頼を得ている。まあ私達は今まで絡むことがなかったから正直わからないがな。
良階位のパーティーは「獣の咆哮」という男性3人のパーティーで、最初の頃よく私たちに絡んできていた人たちだ。最近はお互いに距離をとっているが、それほど関係はよくない。まあ戦闘の際に脚の引っ張り合いをするほど愚かではないがな。
現地に集合してから打ち合わせた結果、2方面から討伐をしていくこととなり、私達は王家の剣と行動することとなった。彼らはクリストフ殿下の他に男性2名と女性2名の合計5名のパーティーだ。
魔獣は良階位が中心となっているが、特に問題なく討伐が進む。ただこのレベルになると索敵にかからない魔獣もいるのが怖いところだ。魔獣が多いこともあり、解体はできないが、王家の剣のメンバーが大きな収納バッグを持っているので全部ではないが、回収していってもらうこととなった。
途中でいやな気配を感じて直感的に防御するとそれが襲いかかってきた。なんとか直撃を耐えるが、そのあとの攻撃がかなり厳しい。アルドが前面に出て攻撃を耐えてもらうが、攻撃が届かない。魔法もガードされるのでなかなかダメージが通らないのだ。
途中でこちらの状況に気がついた王家の剣のメンバーが加勢にやってきたが、魔山猫という優階位の魔獣で1匹だけではなく3匹もいるようだ。
ここで私たちはクリストフ殿下の護衛を頼まれる。殿下の技量は自分たちと互角くらいなので、優階位相手では分が悪い。事前にもしもの場合は殿下と行動を共にしてくれと言われていたが、まさか本当にそういう状況になるとは・・・。
優階位の魔獣の動向を見ながら王家の剣と入れ替わり、私たちは森の浅瀬の方に移動する。途中で他の魔獣も現れるが、殿下も一緒になって討伐していく。護衛対象なんだが、殿下はアルドとともに前面に立ってくれるのでかなりやりやすかった。
ある程度距離をとったところで待っていると、王家の剣のメンバーも戻ってきた。なんとか討伐できたようだが、怪我をしているのでいったん拠点に戻ることになった。
思ったよりも優階位の魔獣が多いと言うことで、殿下はしばらく私たちのパーティーと一緒に行動することとなった。最初はどうなるかと思ったんだが、私たちも戦いやすかった。
このあと3日ほど引き続き魔獣の討伐を行ったが、連携もうまくいくようになり、殿下との会話も増えていった。殿下も私たちとともに行動することが増えて、寝るときはもちろん別々だが、それ以外の時間は一緒にいることが多くなった。女性は苦手という話を聞いていたのだけど違ったのだろうか?
戦闘中はクリスでいいと言われたが、さすがにそれだけは譲れなかったので殿下とだけ呼ぶことにした。戦闘中は名前はできるだけ短くしていないと危ないからな。
7日ほどで村の行動エリアの魔獣をあらかた退治できたのでひとまず大丈夫だろうという判断がでた。優階位の魔獣はかなりの数がいたらしいが、数が把握できなかったのは索敵に引っかからない種類が多かったためのようだ。本格的な討伐はこのあとの討伐隊に任せよう。
今回獣の咆哮のメンバーは結構深い怪我を負ったようだが、サクラに戻って治療すれば復帰できそうだったのでほっとする。
サクラに戻ってしばらくは休養をとろうとくつろいでいたんだが、急にクリストフ殿下がやってきて「絶対に幸せにするから私と結婚してくれ!!」と私たち全員に求婚してきたときには驚いた。なぜか勢いでやってきたらしく、冷静になったところでいったん帰ってもらった。
なにか変なものでも食べたのだろうかと思っていたんだが、翌日にはまたやってきて再度求婚してきた。どうも一緒に戦っている間に気に入られたようだ。
特に異性として意識していたわけではないのでお断りしているんだが、定期的にプロポーズにやってくる。
立場を利用して強引に迫ってくるわけでも、裏から手を回すわけでもなく、真摯に対応してくれているので悪い気分ではない。そうはいっても周りからの圧力がありそうなものなんだが、そこは殿下が気にかけてくれているようだ。
4人と結婚しても十分養う財力はあるみたいだが、結婚してもそのままパーティーとして冒険者は続けてもいいと言っている。ただ、依頼があるときは毎回ではないが彼も一緒に同行したいと言っている。
でも、どう付き合えばいいのかわからない。誰も今まで男の人と付き合ったことはないし、知っているのは貴族としての付き合いだけだ。どうすればいいのだろう。ジュンイチだったら何か助言してくれただろうか。
~~クリストフSide 王子と冒険者の出会い~~
私はクリストフ・ヤーマンというヤーマン国の第二王子だ。王族と言っても今は形骸化された身分になっており、一昔前のような絶対的な権限があるわけではない。そうはいっても他国との交渉や国の方針決定などやらねばならないことは多く、私も外交を中心に手伝いをしている。
王族とはいえ生活に関するお金は国の税金から支給されるため、変なことをすれば譲位させられることもあるようだ。まあ譲位させられた王は過去に1人だけだがな。王族の直轄地からの収入はある程度あるが、一昔前に比べるとかなり少なくなってしまっている。
王位に興味がないこともあり、兄弟がいることや最近は甥もできたため王族から抜けることを考えている。王族を抜けても昔みたいに爵位や領地が与えられるわけではないので、立場は一応平民となってしまう。まあ、王族に戻ることのできる一代限りの王爵という爵位がもらえるので、海外でも上位爵という扱いを受けることができるのは助かる。
小さな頃から鍛錬をしており、16歳からは冒険者として活動している。まだ王族であるため一緒に行動してくれているのは実力のある騎士達なのでパーティーとしては優階位だが、私の実力は良階位相当だ。
その他にも冒険者だけでなく収入も必要と言うことで興味のあった食堂の経営に乗り出してそこそこうまくいっている。収益も出ており、十分独立できるレベルまでになった。
すでに21歳となっているのに結婚どころか彼女もいない私のことを両親はかなり心配しているが、興味を持てる女性に会えないのだから仕方がない。女性に興味がないわけではないんだが、最近は変な噂が出ているのも知っている。
小さな頃から王族として最近は資産家としていろいろな女性が近寄ってくるが、私ではなく、立場やお金を目当てに来ているのがいやでなかなか付き合えないでいる。
完全に割り切ってしまえばいいのかもしれないが、できればちゃんとして恋愛がしたいと思ってこの年になってしまった。両親の恋愛結婚が羨ましいのかもしれない。
今回、冒険者の特別依頼があり、魔獣の討伐に行くこととなった。思った以上に優階位の魔獣が多かったため、複数パーティーでの討伐依頼だ。
討伐の途中で優階位の魔獣が複数出てきたため、事前に取り決めたとおり私は蠍の尾のメンバーと一緒に行動することとなった。何かの時にはどちらかの良階位のパーティーに入れてほしいと確認を取った際、獣の咆哮からは連携が崩れるため出来れば断りたいと言われたのだが、蠍の尾の方からは受け入れても問題ないと言われたのでこっちのパーティーになった経緯がある。彼女たちは男性嫌いという話を聞いていたので断られると思っていたので意外だった。
いつものパーティーでは護衛されている感じだったんだが、このパーティーだと自分もパーティーの一員ということが実感できた。もともと正式な前衛がアルドさんだけだったので前衛としてちょうどすっぽりとはまった感じだと思っている。
他のメンバーにもことわり、今回の依頼の間は彼女たちと一緒に行動させてもらうようにした。もちろん図々しいお願いだと言うことは承知しているが、彼女たちも受け入れてくれたのでうれしかった。
サクラに戻ってから4人のことをいろいろと調べてもらった。南方の国の出身らしいが、調べているとどうも聞いている内容と違っていることが分かった。しかもどうやら貴族の出身らしい。なぜ偽っているのかは不明だが・・・。
あと4人と仲のいいジュンイチという男の存在を聞いた。パーティーは異なるが、一緒にいる女性とともに家に泊まったりもしているらしい。その男が彼氏なのか?
その報告を聞いたあとの記憶は曖昧だ。落ち着くと、目の前には茫然とした4人の姿があった。一緒に着いてきた護衛から、私が4人に求婚したことを聞かされた。
自分でも「なにやっているんだ?」と思ったんだが、これは本当に素直な気持ちなんだろうと思い直し、改めて求婚したが、「もう一度落ち着いてから考えてください。」と言われこの日は帰ることにした。
彼女たちにプロポーズをしているため、もちろん周りに知られることとなったが、気にしてはいられない。ただ、私は本気で彼女たちと付き合いたいので周りの人間には手出ししないことを強く言っておいた。それでも何かしら動こうとする奴らがいたので罰を与えることとなってしまった。
しばらくたったころ、役場で彼女たちを見つけて話をしていると、ジュンイチという男が現れて彼女たちが一緒に出て行った。
ジュンイチって噂になっている男のことか?気になって家に訪問してみると、彼が家にやってきていた。頭に血が上っていたようだが、向こうから挨拶されて少し冷静になれた。いつもはあまり感情の起伏がないと言われているんだが、どうも彼女たちのことが絡むと冷静でいられない自分がいるようだ。
二人で話せないかと言われて別の部屋で話すこととなった。彼と話をしてみると完全に自分の誤解だったことがわかった。彼の言っていることは嘘のようには思えない。おそらく真実だろう。彼女たちのこともいろいろと教えてくれた。
しばらくして彼女たちと付き合うこととなった。ジュンイチが何か言ってくれたのかと思って彼を訪ねてお礼を言った。このときにクリスと呼んでくれと言うと「クリスさん」と言われて驚いてしまった。ちゃんと敬意は払ってくれていることはわかるのだが、王室に対する敬意とは異なるものだった。
ジュンイチは王子という立場を意識しなくていいのがありがたい。気の置けない友人という付き合いはしたことがなかったが、これがそうなのだろうか?兄や弟の幼馴染みみたいなものか。
その後ジュンイチ達に付き添ってもらい、一緒にデートしたり、食事をとったりした。両親にも彼女たちを紹介し、前向きに検討していくこととなった。まだ分からないけど、来年くらいには結婚できるかなあ・・・と夢を見ている。
両親にジュンイチを紹介した時は面白かった。私のことを「クリスさん」と呼んだときの両親の驚いた顔は忘れられない。あとで何か言われるかもしれないと思ったが「いい友人に出会えたな。」と褒めてもらえた。
しかし、ジュンイチにはジェニファーさんのことをもう少し考えてもらいたい。あれだけ好意を寄せてもらっているのになぜ気がつかないんだろう?自分なんかが付き合えるレベルではないと言っているがどう考えても自己評価が低すぎる。まあこっちが焦ってもしょうが無いので温かく見守ろうというのはスレイン達と同じ意見だ。
今日もクリスさん達と夕食の約束をしているので宿に戻って着替えをしてから待ち合わせの店へと向かう。
店に着くとすでにクリスさん達も到着していて部屋に案内されるとみんな揃っていた。最近スレインさん達もかなりおめかしするようになっていて、かなり眩しい。今までも美人の部類だったのに、化粧までするとトップレベルだよ。
みんな揃ったところで食事となり、最近の出来事など色々な話をする。自分たちがいなくても普通に話すようになってきているので、そろそろ自分たちが一緒じゃない方がいいんじゃないかと聞いても、せっかくだからと食事などに誘われるので断るわけにもいかない。
食事も終わってそろそろお開きとなるところでクリスさんから提案があった。
「すまんが、明後日は一日予定を空けることはできるか?」
「えっと・・・大丈夫だよね?」
「うん、自主訓練くらいだから、空けることはできるわ。」
「大丈夫だと思います。」
「それじゃあ、明後日の朝に迎えに行くから私服でいいので準備しておいてくれ。」
「わかりました。」
みんなと分かれてから宿に戻る。もうすぐ他の国に行くのでのんびりした生活もあと少しだな。正直収入はあるのでこの生活を続けていくこともできるんだけど、それはそれでもったいないからね。
それから二日後の今日はクリスさんに言われて予定を空けている。どこに行くのかと思って宿で待っているとえらく大きな車でやってきた。なんかかなり豪華なんだけど殿下専用車か何かなのか?宿の人もかなり驚いていたんだけど、かなり緊張した顔になっていた。やっぱり王族仕様なのかな?
出発してから郊外に行くのかと思ったんだけど、町の中心に向かっている。
「どういうこと?」
ジェンもこっちに何かあったかな?と首を傾げている。
「いきなりですまんが、今日は私の両親に会ってくれ。」
えっと、王子の両親って・・・国王陛下?王妃殿下?!
「むりむり、それは無理だよ!!」
なんとか断ろうと思ったんだけど、クリスさんは聞いてくれない。
「そもそもこんな格好だからダメだよね?あと、国王陛下に対する所作なんか知らないから、不敬罪とかで処罰されるとかなってもいやだよ。」
「今日はプライベートなので問題ないよ。普通にしていればいいから。」
「普通って・・・。」
スレインさん達も苦笑いしている。彼女たちはすでに何度か会っているようだ。逃げ出されるかと思ったので直前までどこに行くのか秘密にしていたのか?
「クリスさん、逃げると思ってあえて言わなかったんですよね?確信犯ですよね?ねえ?そうですよね?」
クリスさんには目をそらされたが、口元が笑っている。くっそ~~~!
結局断りきれずに王宮へと連れてこられてしまった。「どうするんだ?」と、悩んでいる自分を後目にえらく立派な廊下を進んで豪華な部屋に到着した。
収納バッグなどの装備品はすべて預けてから部屋の中へ。立派なテーブルの椅子に座るように促される。ここまできたら覚悟を決めるしかない。少ししてドアが開くと前に遠目に見た国王陛下と王妃殿下が入ってきた。すぐに立ち上がって礼をする。
「そんなにかしこまらなくていいよ。私が父のクマライアス・ヤーマンだ。こっちは第二王妃のアルフィナだ。」
「アルフィナ・ヤーマン、クリストフの母よ。よろしくね。」
「初めまして、アースという冒険者パーティーのジュンイチと言います。今日はお招きいただきありがとうございます。」
「同じくジェニファーと言います。」
「今日はプライベートで、息子の友人との食事と言うことだから、気にしなくていい。」
両親とはいえ、国王陛下と王妃殿下がやってきてかしこまるなと言う方が無理だよ。みんなが座ったところで自分たちも席に着く。マジでどうすればいいのかわからないよ。
「クリスがいろいろと世話になったらしいし、クリスのやっている事業にもいろいろと助言をしてもらっていると聞いている。」
「いえ、簡単な助言くらいなのでそこまでのことではありません。」
クリスさんが行っている事業は食堂の経営と食品の取り扱いだ。国内だけだけどいくつかの町に店舗を出していて、そこそこの売り上げを出しているらしい。また他の町にも出店している関係もあって、食品の運送関係もやっているのでそちらの売り上げもあるようだ。
一度店に招待されて行ってみたんだけど、結構美味しかったので知名度だけでなく、ちゃんと実力で売り上げを上げているような印象だった。
何か助言できないかと言われたので他の店の味について聞いてみたところ、やはり店によって味の差が出てきているようだ。これはシェフのレベルによるので仕方がないところだろう。なかなか任せられる人材ができないため、店を拡張しようとしてもできない状態になっていた。
料理人の修行などについての話をしたところ、料理について技術は盗めという昔ながらのやり方となっていた。
そこでいろいろと問題や反発は出るかもしれないけど、料理技術の指導、料理の手順や味のマニュアル化、数値化したらどうかと説明した。ただ、その話をしたところで問題が出た。識字率のことである。
最近は無償の学校も増えてきていて、文字や簡単な算術が出来る子供も増えてきているらしいんだけど、まだ浸透率は低いようだ。子供の労働力に頼っているところも多いみたいだしね。この国の識字率は高い方みたいなんだが、それでも4割くらいしかないらしく、年齢が上がると識字率も下がっていくようだ。
日本の感覚で考えると識字率は高いのが普通と思っていたし、結構教養ある人としか接してなかったので気がつかなかった。
とりあえず絵によるレシピと、重さを計らなくても分かるように計量スプーンや計量カップについて勧めてみた。スプーンで何杯という形にすれば手間もかかりにくいだろう。こうすればある程度のレベルまではできるようになるはずだ。材料や季節によって調整はしなければならないとは思うけど、こればかりは個人の力量だろう。
料理技術の指導や基本的な部分をマニュアル化するだけでも基本的なことが出来る時間も短くなるだろうし、その分他のことに時間を費やせるから育成期間も短くなると話をした。
あとはこの世界になかったピーラーやスライサーである。最初の頃は特に気にしていなかったんだけど、この世界にはまだ開発されていなかった。これを使うことで下準備の時間はかなり短縮されるはずだ。
これらの道具の使い勝手がいいようであれば商品化してはどうかとカサス商会を紹介してみたところ、かなり好評ですぐに商品化されることになったみたい。これらの商品も特許のようなものをとることができたので、これもアイデア料としてまたもらうこととなった。
カサス商会からもクリスさんの店という新たな関係構築についてお礼を言われ、また新人教育のマニュアル化などについても話をしてみたところかなり感謝された。父がマニュアルを最初に作る人は大変だけど、長い目で見ると絶対に効率的だと言っていたからな。
「まあ、それ以上に一番ありがたかったのは今まで女性にあまり興味を持たなかったクリスに妻の候補をあげてくれたことだな。
ほんとに心配していたんだぞクリス。しかもこんな綺麗なお嬢さんを4人もいっぺんに娶ろうとは隅に置けんな。」
「「「「「・・・・」」」」」
黙り込んだ5人は真っ赤になってしまっている。国王にも何度か会っているようなのですでに公認の仲なんだろう。
「そういえは、新人教育のマニュアルという話を聞いたんだが、王宮で働くものにも同じようなものを作ってみようと考えている。そのアイデアを使わせてもらってもかまわないだろうか?」
「それは特に自分の許可は必要ないと思います。自分はあくまで教育手段の一つとして話しただけです。どのように作るかの工夫は必要かと思いますが、使えるものになるかどうかについては作り手の技量次第だと思います。」
「いいのか?なにか見返りを求めないのか?今までになかったアイデアだと思うのだが・・・。」
「問題ありません。見返りをもらうほどのことはしていませんので・・・。」
「父上、ジュンイチについては話したとおりでしょう。」
「たしかにな。」
「???」
「あまりに見返りもなく知識を披露してくると言うのでな。今回の件についても何を見返りに求めてくるのかと話していたんだ。しかし、本当にいいのか?なにか希望があれば聞ける範囲で聞くぞ。」
「・・・えっと、それなら可能かどうか分かりませんが、希望と言うことであれば一つあります。
このあとアルモニアに行こうと思っているんですが、そこにいる高名な魔法使いとの面談の紹介状を書いていただくことはできるでしょうか?」
「まあ、紹介状を書くくらいなら大丈夫だろう。ただかなり偏屈と聞いているから、希望するようなことを話せるかは保証できないぞ。そのくらいでいいのか?」
「特に今はそのくらいしか思いつきません。ジェンはなにかある?」
「できれば王国の宝物とか見せてもらいたいわね。」
「わかった。紹介状はおって準備しよう。宝物については見せられる範囲内で良ければ許可しよう。」
「「ありがとうございます。」」
「それでは食事の後に案内することにしよう。」
思ったよりも緊張せずに食事は楽しめた。ただ、クリスさんに呼び掛けた時、二人が一瞬固まって笑っていたのはなんだったんだろう?周りの護衛の人達も怪訝な顔をしていた。
食事の後で倉庫の管理をしているという人に案内してもらう。よかった、国王直々に案内されたらしゃれにならないところだった。食事の後はまた仕事に戻っていったのでそんな余裕もないんだろうな。わざわざ自分たちのために時間を割いてくれただけでもすごいことだ。
ただ、「これからもクリスと仲良くしてやってくれ。」と国王陛下に言われてしまったけど、いいのかなあ。
宝物庫の中には宝石や魔法に関する装備関係などいろいろと並んでいた。さすがに宝物と言われるだけあって宝石などはかなりすごいものが付いているし、装飾もすごい。
古代遺跡から発見された魔道具も展示されている。中には道しるべの玉もあったんだけど、並なので登録数が少ないのかもしれない。触らない状態では鑑定レベルが低いので詳細が分からないのが悲しいところだ。
本も保管されていたんだけど、この辺りの本は一部しか閲覧を許可されていないと言われる。でも本を見ることができるのでおそらくガイド本に取り込みができているはずだ。
もしかしてジェンはこれを狙っていたのか?と、ジェンの方を見るとちょっと口元が緩んでいる。ばれたらやばいな。まあこの世界の人にはガイド本は使えないと思うけどね。
一通りの宝物を見せてもらってから挨拶をしてお城を後にする。スレインさん達はこのあとも用事があるみたいなので自分たちだけが先に城を出ることとなった。車で宿まで送り届けてもらったけど、降りたときの周りの目が痛かった。
宿に戻ってからガイド本を見てみると、本の取り込みができていた。いろいろとまずそうなことまで書かれているので時間があるときに読んでみよう。
~国王陛下side~
今日はクリスの婚約者候補の女性達とクリスの友人という二人との昼食会だった。最初に話を聞いたときは何事かと思ってしまった。今まで女性にほとんど興味を持たなかったのに急に付き合いたい女性がいると聞き、驚いたものだ。しかも四人とは。アルフィナも驚いていたしな。
実際に彼女たちに会って話を聞くととてもよい女性たちだった。クリスの肩書きではなく、クリス本人を見ている感じで好感が持てた。素性を調べると元貴族だったようだが、すでにヤーマン国民となっていることだし、おそらく問題はないだろう。
冒険者だったアルフィナもかなり気に入ってもう娘同然に扱っているからな。他の妃達からも特に反対は出ていないし、孫達は冒険の話を聞いてかなり喜んでいたからな。
そのきっかけとなったのが今日会った二人ということだが、いろいろ調べたが詳細な素性がわからなかった。
一年ほど前にナンホウ大陸から入国し、ヤーマン国民として申請されている。そしてそのあとアーマトとオカニウムで冒険者として登録したとなっている。身分証明証にもおかしなところもない。
そのあとは地道に訓練をして今は上階位まで上がっており、実績も生活態度もよいようだ。特別依頼もいくつかこなしており、長年達成できていなかった依頼も達成したと聞いている。
そのほかいろいろな商会とも良好な関係を築いており、特に最近躍進しているカサス商会では相談役として雇われているらしい。ただしあまり表沙汰にはしていないようだが、なにか事情があるのだろうか?
たしかにクリスの商売にも助言をしてもらったようだが、そのアイデアは斬新でかなり効率的なものが多かった。新人教育を兼ねたマニュアルについてはかなり効率的で、確認したあとで王宮での教育に導入する方向で進めていた。いろいろと反対意見もあったが、簡単なものを作成して使ってみたところ、特に新人には喜ばれた。
正直素性が不明なため不安はあったがクリスの勧めもあり、会ってみることにしたのだが、確かにクリスの言うこともわかる気がした。
教育のためのマニュアルの話をした際にも特に褒美を求めないのには驚いた。結局求めたのは紹介状と宝物庫の見学だけだった。
クリスのことを「クリスさん」と呼んだのには驚いた。クリスも気にしていなかったし、人前ではクリストフ殿下と呼んでいるようなのでそのあたりはちゃんとわきまえているようだ。そういう友人がいてもいいものだろう。
クリスにも小さな頃からの友人はいるが、残念ながらクリスには親友という感じの友人はできなかったからな。年齢は少し離れているようだが、いい関係になってくれるとありがたい。
あの年齢にしては知識量がちょっと高すぎることがやはり不思議だ。伝承にある知識人というのは大げさか?過去に今までとは違う知識を持った人がいたという話もあるが、数日で煙のように消えてしまったとある。
今のところ特に害もなく、クリスとも良好な関係を築いているし、我が国への恩恵も大きそうなので温かく見守っていくほうがいいだろう。
~~スレインSide 王子と冒険者の出会い~~
大分暖かくなってきたところで少し南の方の町から魔獣の討伐依頼が出た。どうも冬の間に繁殖が進んだのか、数がかなり多いと言うことと、町の近くでも目撃例が出たということでの緊急依頼だった。通常であれば兵士の訓練を兼ねた討伐となるのだが、準備が間に合わなかったため、先発隊としての対応のようだ。
魔獣のレベルは上階位~良階位ということだが、優階位の魔獣もいるような情報が入っていた。その後に調査が入ったところ、優階位の魔獣も数頭確認されたようだ。
このため討伐には優階位と良階位のパーティーが対応することになり、私たちにも声がかかったようだ。私たちでは優階位の魔獣の討伐は厳しいが、優階位下位のようなのでなんとか対応できると言ったところだ。まあ、実際はあくまで優階位パーティーのサポートだ。
参加するのは私たちのパーティーの他に3グループだ。優階位パーティーのひとつは「剣の翼」だった。剣の翼は私たちが憧れるパーティーの一つで、男性2名、女性2名の夫婦2組のパーティーだ。
もう一つの優階位パーティーは「王家の剣」という第二王子のクリストフ殿下と騎士達のパーティーだ。クリストフ殿下が冒険者として活動するということから選抜された騎士が中心となっている。クリストフ殿下は良階位だが、他の騎士達が優階位のためパーティーは優階位となっている。
王子ということで最初はかなり色眼鏡で見られていたが、活動内容や実績から今ではかなり信頼を得ている。まあ私達は今まで絡むことがなかったから正直わからないがな。
良階位のパーティーは「獣の咆哮」という男性3人のパーティーで、最初の頃よく私たちに絡んできていた人たちだ。最近はお互いに距離をとっているが、それほど関係はよくない。まあ戦闘の際に脚の引っ張り合いをするほど愚かではないがな。
現地に集合してから打ち合わせた結果、2方面から討伐をしていくこととなり、私達は王家の剣と行動することとなった。彼らはクリストフ殿下の他に男性2名と女性2名の合計5名のパーティーだ。
魔獣は良階位が中心となっているが、特に問題なく討伐が進む。ただこのレベルになると索敵にかからない魔獣もいるのが怖いところだ。魔獣が多いこともあり、解体はできないが、王家の剣のメンバーが大きな収納バッグを持っているので全部ではないが、回収していってもらうこととなった。
途中でいやな気配を感じて直感的に防御するとそれが襲いかかってきた。なんとか直撃を耐えるが、そのあとの攻撃がかなり厳しい。アルドが前面に出て攻撃を耐えてもらうが、攻撃が届かない。魔法もガードされるのでなかなかダメージが通らないのだ。
途中でこちらの状況に気がついた王家の剣のメンバーが加勢にやってきたが、魔山猫という優階位の魔獣で1匹だけではなく3匹もいるようだ。
ここで私たちはクリストフ殿下の護衛を頼まれる。殿下の技量は自分たちと互角くらいなので、優階位相手では分が悪い。事前にもしもの場合は殿下と行動を共にしてくれと言われていたが、まさか本当にそういう状況になるとは・・・。
優階位の魔獣の動向を見ながら王家の剣と入れ替わり、私たちは森の浅瀬の方に移動する。途中で他の魔獣も現れるが、殿下も一緒になって討伐していく。護衛対象なんだが、殿下はアルドとともに前面に立ってくれるのでかなりやりやすかった。
ある程度距離をとったところで待っていると、王家の剣のメンバーも戻ってきた。なんとか討伐できたようだが、怪我をしているのでいったん拠点に戻ることになった。
思ったよりも優階位の魔獣が多いと言うことで、殿下はしばらく私たちのパーティーと一緒に行動することとなった。最初はどうなるかと思ったんだが、私たちも戦いやすかった。
このあと3日ほど引き続き魔獣の討伐を行ったが、連携もうまくいくようになり、殿下との会話も増えていった。殿下も私たちとともに行動することが増えて、寝るときはもちろん別々だが、それ以外の時間は一緒にいることが多くなった。女性は苦手という話を聞いていたのだけど違ったのだろうか?
戦闘中はクリスでいいと言われたが、さすがにそれだけは譲れなかったので殿下とだけ呼ぶことにした。戦闘中は名前はできるだけ短くしていないと危ないからな。
7日ほどで村の行動エリアの魔獣をあらかた退治できたのでひとまず大丈夫だろうという判断がでた。優階位の魔獣はかなりの数がいたらしいが、数が把握できなかったのは索敵に引っかからない種類が多かったためのようだ。本格的な討伐はこのあとの討伐隊に任せよう。
今回獣の咆哮のメンバーは結構深い怪我を負ったようだが、サクラに戻って治療すれば復帰できそうだったのでほっとする。
サクラに戻ってしばらくは休養をとろうとくつろいでいたんだが、急にクリストフ殿下がやってきて「絶対に幸せにするから私と結婚してくれ!!」と私たち全員に求婚してきたときには驚いた。なぜか勢いでやってきたらしく、冷静になったところでいったん帰ってもらった。
なにか変なものでも食べたのだろうかと思っていたんだが、翌日にはまたやってきて再度求婚してきた。どうも一緒に戦っている間に気に入られたようだ。
特に異性として意識していたわけではないのでお断りしているんだが、定期的にプロポーズにやってくる。
立場を利用して強引に迫ってくるわけでも、裏から手を回すわけでもなく、真摯に対応してくれているので悪い気分ではない。そうはいっても周りからの圧力がありそうなものなんだが、そこは殿下が気にかけてくれているようだ。
4人と結婚しても十分養う財力はあるみたいだが、結婚してもそのままパーティーとして冒険者は続けてもいいと言っている。ただ、依頼があるときは毎回ではないが彼も一緒に同行したいと言っている。
でも、どう付き合えばいいのかわからない。誰も今まで男の人と付き合ったことはないし、知っているのは貴族としての付き合いだけだ。どうすればいいのだろう。ジュンイチだったら何か助言してくれただろうか。
~~クリストフSide 王子と冒険者の出会い~~
私はクリストフ・ヤーマンというヤーマン国の第二王子だ。王族と言っても今は形骸化された身分になっており、一昔前のような絶対的な権限があるわけではない。そうはいっても他国との交渉や国の方針決定などやらねばならないことは多く、私も外交を中心に手伝いをしている。
王族とはいえ生活に関するお金は国の税金から支給されるため、変なことをすれば譲位させられることもあるようだ。まあ譲位させられた王は過去に1人だけだがな。王族の直轄地からの収入はある程度あるが、一昔前に比べるとかなり少なくなってしまっている。
王位に興味がないこともあり、兄弟がいることや最近は甥もできたため王族から抜けることを考えている。王族を抜けても昔みたいに爵位や領地が与えられるわけではないので、立場は一応平民となってしまう。まあ、王族に戻ることのできる一代限りの王爵という爵位がもらえるので、海外でも上位爵という扱いを受けることができるのは助かる。
小さな頃から鍛錬をしており、16歳からは冒険者として活動している。まだ王族であるため一緒に行動してくれているのは実力のある騎士達なのでパーティーとしては優階位だが、私の実力は良階位相当だ。
その他にも冒険者だけでなく収入も必要と言うことで興味のあった食堂の経営に乗り出してそこそこうまくいっている。収益も出ており、十分独立できるレベルまでになった。
すでに21歳となっているのに結婚どころか彼女もいない私のことを両親はかなり心配しているが、興味を持てる女性に会えないのだから仕方がない。女性に興味がないわけではないんだが、最近は変な噂が出ているのも知っている。
小さな頃から王族として最近は資産家としていろいろな女性が近寄ってくるが、私ではなく、立場やお金を目当てに来ているのがいやでなかなか付き合えないでいる。
完全に割り切ってしまえばいいのかもしれないが、できればちゃんとして恋愛がしたいと思ってこの年になってしまった。両親の恋愛結婚が羨ましいのかもしれない。
今回、冒険者の特別依頼があり、魔獣の討伐に行くこととなった。思った以上に優階位の魔獣が多かったため、複数パーティーでの討伐依頼だ。
討伐の途中で優階位の魔獣が複数出てきたため、事前に取り決めたとおり私は蠍の尾のメンバーと一緒に行動することとなった。何かの時にはどちらかの良階位のパーティーに入れてほしいと確認を取った際、獣の咆哮からは連携が崩れるため出来れば断りたいと言われたのだが、蠍の尾の方からは受け入れても問題ないと言われたのでこっちのパーティーになった経緯がある。彼女たちは男性嫌いという話を聞いていたので断られると思っていたので意外だった。
いつものパーティーでは護衛されている感じだったんだが、このパーティーだと自分もパーティーの一員ということが実感できた。もともと正式な前衛がアルドさんだけだったので前衛としてちょうどすっぽりとはまった感じだと思っている。
他のメンバーにもことわり、今回の依頼の間は彼女たちと一緒に行動させてもらうようにした。もちろん図々しいお願いだと言うことは承知しているが、彼女たちも受け入れてくれたのでうれしかった。
サクラに戻ってから4人のことをいろいろと調べてもらった。南方の国の出身らしいが、調べているとどうも聞いている内容と違っていることが分かった。しかもどうやら貴族の出身らしい。なぜ偽っているのかは不明だが・・・。
あと4人と仲のいいジュンイチという男の存在を聞いた。パーティーは異なるが、一緒にいる女性とともに家に泊まったりもしているらしい。その男が彼氏なのか?
その報告を聞いたあとの記憶は曖昧だ。落ち着くと、目の前には茫然とした4人の姿があった。一緒に着いてきた護衛から、私が4人に求婚したことを聞かされた。
自分でも「なにやっているんだ?」と思ったんだが、これは本当に素直な気持ちなんだろうと思い直し、改めて求婚したが、「もう一度落ち着いてから考えてください。」と言われこの日は帰ることにした。
彼女たちにプロポーズをしているため、もちろん周りに知られることとなったが、気にしてはいられない。ただ、私は本気で彼女たちと付き合いたいので周りの人間には手出ししないことを強く言っておいた。それでも何かしら動こうとする奴らがいたので罰を与えることとなってしまった。
しばらくたったころ、役場で彼女たちを見つけて話をしていると、ジュンイチという男が現れて彼女たちが一緒に出て行った。
ジュンイチって噂になっている男のことか?気になって家に訪問してみると、彼が家にやってきていた。頭に血が上っていたようだが、向こうから挨拶されて少し冷静になれた。いつもはあまり感情の起伏がないと言われているんだが、どうも彼女たちのことが絡むと冷静でいられない自分がいるようだ。
二人で話せないかと言われて別の部屋で話すこととなった。彼と話をしてみると完全に自分の誤解だったことがわかった。彼の言っていることは嘘のようには思えない。おそらく真実だろう。彼女たちのこともいろいろと教えてくれた。
しばらくして彼女たちと付き合うこととなった。ジュンイチが何か言ってくれたのかと思って彼を訪ねてお礼を言った。このときにクリスと呼んでくれと言うと「クリスさん」と言われて驚いてしまった。ちゃんと敬意は払ってくれていることはわかるのだが、王室に対する敬意とは異なるものだった。
ジュンイチは王子という立場を意識しなくていいのがありがたい。気の置けない友人という付き合いはしたことがなかったが、これがそうなのだろうか?兄や弟の幼馴染みみたいなものか。
その後ジュンイチ達に付き添ってもらい、一緒にデートしたり、食事をとったりした。両親にも彼女たちを紹介し、前向きに検討していくこととなった。まだ分からないけど、来年くらいには結婚できるかなあ・・・と夢を見ている。
両親にジュンイチを紹介した時は面白かった。私のことを「クリスさん」と呼んだときの両親の驚いた顔は忘れられない。あとで何か言われるかもしれないと思ったが「いい友人に出会えたな。」と褒めてもらえた。
しかし、ジュンイチにはジェニファーさんのことをもう少し考えてもらいたい。あれだけ好意を寄せてもらっているのになぜ気がつかないんだろう?自分なんかが付き合えるレベルではないと言っているがどう考えても自己評価が低すぎる。まあこっちが焦ってもしょうが無いので温かく見守ろうというのはスレイン達と同じ意見だ。
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