【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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54. 異世界468日目 北の遺跡の調査へ

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54. 異世界468日目 北の遺跡の調査へ
 翌朝、朝食をとってからすぐに出発する。今回は車を使えないので走っての移動だ。2日ほどかかると言うことなんだけど、おそらく1日で到着できるのではないかと思っている。

 途中までは草原という感じで走りやすかったんだけど、途中から木々が増えてきて走りにくくなってきた。そうはいっても一応歩くための道は作られていたから走れないレベルではなかったのでよかったんだけどね。途中の道案内も随所に出ていたので間違ってはいないはずだ。
 出てくる魔獣は並~上階位くらいで倒すには特に問題ないレベルだった。良階位の魔獣は遺跡のさらに奥の森にいるくらいなので大丈夫と言うことなんだけど、注意しておくに越したことはない。


 久しぶりの走っての移動だけど、重力軽減もかなりできる上に筋力もついているので予想通り夕方には遺跡に到着することができた。

 拠点は簡易なものだけど、柵が作られてその中に複数のテントや簡易な小屋が建てられていた。ここが野営地になるのかな?今まで見てきた前線基地のような感じだ。

 門に近づくと、警備をしていた兵士に呼び止められる。まあこんなところに急に兵士以外がやってきたら驚くよな。特別依頼の紙とジョニーファン様からの手紙を見せると態度が一変してすぐテントに通してくれた。

「こちらでお待ち下さい、すぐに上のものを呼んできます。」

 そう言って案内してくれた兵士はテントを出て行った。

「ジョニーファン様の手紙の威力かな?」

「そうかもね。やっぱり手紙を書いてもらっておいて正解だったでしょ?」

 ジェンが依頼の話が出たときにジョニーファン様に手紙を書いてもらっていたのが良かった。

「たしかに依頼書だけだったらただの冒険者として扱いがそこまで良くなかったかもしれないね。」

 しばらくして上司と思われる男女の兵士が入ってきた。男性の方が上官になるのかな?

「はじめまして、ここの遺跡の調査を指揮しているサルマン・クリファーだ。こっちは副官のデイストリフだ。」

「デイストリフよ。よろしくね。」

「はじめまして、アースというパーティーを組んでいるジュンイチと言います。こちらはパーティーメンバーのジェニファーです。」

「ジェニファーです。よろしくお願いします。」

「ジョニーファン様から遺跡の調査に協力してやってくれと言われている。どこまでできるかわからないが、希望があればデイストリフに言ってくれ。
 すまんが、いろいろと仕事もあるので、これで失礼させてもらう。私に用事があるときもデイストリフに言ってくれれば取り次いでくれる。」

「ありがとうございます。」

 サルマンさんがテントから出て行った後、デイストリフさんが少しほっとしたような感じになった。

「改めて自己紹介するわね。私はこの調査団の副官を務めているけど、副官は全部で3人いるわ。一人は遺跡の調査、一人は遺跡の調査の資料のまとめ、私は人の手配やこの拠点の管理を補佐しているの。」

「自分たちはヤーマン国から来た冒険者です。先日ジョニーファン様に指導してもらい、今回の調査にも協力するように言われました。古代ホクサイ語もある程度読むことができます。」

「ジョニーファン様から直接指導を受けたの!?」

「えっ、ええ。数時間だけですけどね。とても有意義な話ができました。」

「うらやましい~~~!!ジョニーファン様からちょっとでも指導受けるだけでもかなり名誉なことなのに数時間って、どれだけすごいの!?」

 これ数日ってほんとのこと言ってたらやばかったな。

「いえ、実力は冒険者の上階位レベルですよ。魔法の威力とかもそれほどすごいわけではありません。魔法について興味を持たれていろいろ話をしたんです。」

「それでもすごいわ~~~。」

 しばらくして正気に戻ったところで話をすすめる。

「自分たちが希望するのは宿泊するための場所の提供、食事が可能ならば食事の提供、遺跡の情報の提供、遺跡内への立ち入りの許可となります。特に護衛の必要はありませんが、監視が必要であればつけてもらってかまいません。」

「ジョニーファン様の推薦の方に監視はつけないわ。他の件も大丈夫そうね。兵士と同じ扱いになるのでここでの食事代は気にしなくていいわ。ただ遺跡に入るときはちゃんと申請をしてね。
 遺跡内は常に兵士が巡回して魔獣を討伐しているので危険はかなり低いけど、やはり魔獣がわいてくることもあるので注意は必要よ。通常は調査員には護衛騎士をつけるんだけど、上階位までの魔獣に対応できるならおそらく大丈夫ね。
 もしなにかあった場合はこの魔道具を使ってね。すぐに兵士が駆けつけるようになっているわ。よほど離れていない限りは10分以内には駆けつけるはずよ。」

「ありがとうございます。」

 このあと細かい話を詰めてから拠点内を案内してもらう。宿泊の場所は簡易テントを一つ使わせてくれるみたいで内部には簡易ベッドまで設置されていた。食堂は1日6回提供されており、2種類の定食から好きな方を選んで食べるようだ。他にもトイレ、医療エリアなど案内してもらった。

 思ったよりも女性の兵士も多くてジェンも少し安心しているようだ。全部で50人くらいの兵士が2交代で活動しているらしい。兵士は冒険者で言うと上~良階位の実力者でサルマンさんやデイストリフさんは良~優階位の実力らしい。

 ちなみに名前を聞いたときに思ったんだけど、サルマンさんはこの国の貴族の子息らしい。ただ貴族と言ってもかなりフレンドリーな人らしく、特にかしこまらなくていいと言われる。現場のこともよくわかっている頼れる上司らしいが、その分緊張もするようだ。

 一緒に夕食をとったあと、テントに戻る。夕食はまあ普通の定食という感じだった。置かれているベッドは簡易なものなので収納バッグからいつものセットを出しておいた。

「明日から遺跡の調査をするけど、特に護衛はいいよね?」

「大丈夫だと思うわ。何かあったら駆けつけてくれるらしいし。」

「あと、この間ジェンが手に入れた道しるべの玉があっただろ?あれってこの遺跡の場所だったよ。」

「ああ、そういえば北の方にある遺跡って言っていたわね。」

「遺跡に行ったら正確な場所はわかると思うけど、明日確認してみよう。」

「わかったわ。おやすみなさい。」



 テントだったんだけど、気温も高くないのと、持っていたベッドマットを使ったのでよく眠ることができた。見張りもいるので魔獣に襲われる心配も無いと考えてよかったし、一応アラームはセットしていたしね。ジョニーファン様の紹介状もあるのでよっぽどなことが無い限りは変なことはされないだろう。

 準備をしてから昨日聞いていた訓練用の広場で簡単に訓練を行う。兵士は鍛錬の時間が決まっているのかこの時間はまだいなくてよかった。ただあまり大きな音は立てられないので打ち合い稽古はできなかったけどね。

 朝食には定食のカレーのセットを頼む。カレーはやっぱりどろっとしている方が好きなんだけど、こっちのカレーはシャバシャバなのがちょっと残念だ。
 このあとデイストリフさんに資料室に連れて行ってもらい、遺跡の情報を見させてもらうことにした。資料室の管理をしているのはヤルマンという副官の男性で、簡単に紹介してもらう。立派な体格で武闘派という感じなんだけど、書類整理の方が好きらしい。もちろん戦闘力は高いみたいだけどね。

 ジョニーファン様から資料については見せていいと言われているみたいなので助かった。遺跡の全体図とある程度の要点の書かれた地図を見せてもらい、資料と照らし合わせていく。
 遺跡は3階建ての構造みたいで、小さめの部屋が並んでいるので居住エリアとかだったのかもしれない。それ以外にいくつかホールのようなところがあり、そのあたりに壁画などが描かれているらしい。見ていくのはこっちの方が中心かな?

 ほとんどの設備は朽ち果てていたみたいで、すでに運び出されているのでがらんどうになっているようだ。現在はケーブル関係の取り外しなども行っているらしい。いくつか魔道具らしきものとかもあったようだけど、こちらも大半のものが朽ちてしまっていたみたい。収納バッグなど結構使えるものもいくつか見つかっているようだ。


 一通りの資料を見るだけですでにお昼になっていた。絞ったとは言え、膨大な数の資料だったからね。でもこれで見るべきところは絞り込めたから主要箇所を見るだけなら2~3日くらいで終わりそうな気もするなあ。
 壁画の確認とかしていたら結構な日数になるだろうし、他にも見落としがあるかもしれないのでもう一度調査もするけどね。

 お昼を食べた後、許可をもらって遺跡へ向かう。道しるべの玉に示される場所が近かったので途中で確認していくことにした。

 すべての距離が0になる地点は、遺跡の入口の近くにある大きな石の上だった。高さの0地点は石の上から100ヤルドくらいのところかな?石は木々に覆われてしまっているんだけど、自然の石ではなく、加工されたもののような印象だ。

「ここが0となる場所なんだけど、この上に転送されると言うことなのかな?」

「多分そうだよね。」

「使って試してみたい気もするけど、一回限りだからもったいない気もするなあ。」

 せっかくなのでこびりついている木々を払ってみると、さすがにかなり雨風で削られてしまっているが、六角形の形をした石だったようだ。何か刻まれているかもと思って調べてみたけど、石の表面には何も残っていなかった。

「島にあった遺跡でも0の地点は特に何もなかったよね?特に転移先の方に仕掛けが必要というわけではないと思うから、ここもそんな感じなのかな?」

「場所を示すためにこの形にしただけなのかもしれないわね。転移先を自由に設定出来るようにしたらいろいろと問題が出そうだから転移先は指定していたのかもしれないわ。でもそれだと勝手に設定も出来そうだからもしかしたら石の中とかに何か埋まっているのかもしれないわね。」

「まあそれはあるかもしれないけど、そうだったとしても下手に調査出来ないなあ。たださっきみたいに木とかがあったら転送したときにどうなるのかが気になる。」

「変なものがあったら転移できないとかもあるかもしれないわね。」

 いろいろと石を調べてみると、遺跡の入口を警備した人がやってきた。

「なにかあったのか?」

「いえ、この石も加工された形跡があったので遺跡の一部かと思って見ていたんです。」

「・・・なるほどな。たしかに言われてみたら人工的な感じだ。気がつかなかった。やはり我々とは見るところが違うようだな。」

 自分たちが調べている石を見て納得したようだ。

 一通り調べたところで、遺跡の入口で受付をして中へ。ある程度通路を歩いて行くと、居住スペースなのか小さめの部屋が並んでいるところにやってきた。ここではドアなどの使える部分の取り外しが行われている。金属関係を再利用するのだろう。

 一応地中探査を行いながら通路を進んでいく。事前に同じような調査は行っているとは思うんだけど、見落としもあるかもしれないからね。島の遺跡とは違って、壁の機能が落ちているのか自分の魔法でも探査はできるので、おそらく時間をかければ壊すこともできるだろう。


 ホールになっているエリアは、階層をぶち抜いた感じで一番高いところは10キヤルド位ありそうだ。ここの設備はすでに運び出しが終わっているのか人の姿はない。

 ホールは3つあって、最初の二つはただの集会所という感じだったけど、3つめは教会だったのか、祭壇があって、正面の壁に壁画が描かれていた。

「ここに描かれているのは古代文明の神達の姿みたいだね。創造神とその他の神様かな。」

「そうね。今の5柱の神様とはどう考えても違うわね。」

 他の遺跡でも同じような絵は見つかっていて、神話では、神の入れ替わりの話が伝わっている。この話は神から直接伝えられたという話もあるけど、もちろん真偽はわからない。ただ遺跡などに描かれている神々と現在の神が異なる点、今の5柱の神様が子供の姿で描かれている壁画もあることからこの話は真実と言われている。


~神の系譜~

 神からの加護を受けて人間は文明を発達させていった。しかし傲慢になってしまった人類は争いをやめず、神に近づこうと不遜な態度を取り始めた。そしてついに人間は神から見放される。
 神の加護が無くなった人間はそれでも反省することもなく暴走し、全世界を巻き込んだ戦争となり、古代文明は滅びてしまった。生き残った人間達を哀れに思った若い神々が再び人間達に加護を与えた。この若い神達が現在の5柱の神となった。

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 簡単に言うとこんな感じなんだけど、もちろん長いものはかなり長い内容となっていて、短いものは絵本くらいの内容になっている。神学のレベルを上げるためにかなりの書類を読んだからなあ。レベルを5に上げるにはこのような壁画を研究していくしかないのかもしれない。

「これは古代ホクサイ語だよね。」

「ええ、神様の名前と神をたたえるような言葉が書かれているわね。」

「かなり年月は経っているけどかなり鮮明に残っているよね。色の付いた石をはめ込んで絵を描いている感じなのかな。文字までそれで書いているからかなりすごいよね。」

「それだけ力をかけた祭壇だったって事でしょうね。」

 絵は描かれたものではなく、いろいろな石をはめ込んで描かれている。技術力でカバーしたのか人海戦術でカバーしたのか・・・。でも人の手で作った感じなんだよなあ。

 途中の通路の探査に時間がかかったこともあり、すでに時間も遅くなってきていたのでいったん撤収することにする。とりあえず明日は先ほどの壁画の調査とその奥の部屋の確認だな。早ければ明日にはすべて見て回れるので、そのあとは壁画の研究とかかな。せっかく依頼として受けたんだから、なにかしらの成果がほしい・・・。

 夕食にはデイストリフさんも付き合ってくれるみたいで一緒に定食を食べながらこっちでの状況など色々と話をする。定食はステーキにサラダという内容だ。魔獣が大量にとれるので肉が中心の献立となってしまうらしい。
 遺跡の調査は冬の間を除いて3ヶ月くらいになるらしく、今年になってからもすでに2ヶ月になるようだ。さすがにずっとこのような生活が続くと不満が出てくるため、今は買い出しをかねて順番に町に戻って息抜きをしているようだ。残念ながら彼女はそのメンバーには入れず、ずっとこっちに滞在らしいけどね。

 夕食の後は、浄化魔法で体を綺麗にしてから眠りにつく。さすがにシャワーのようなものもないので他の人も基本的に浄化魔法で対応しているようだ。できない人は水で体を拭いたり、できる人に頼んでいるらしい。


 昨日と同じように朝の訓練を終えてから朝食をとり、再び遺跡の中へと入る。今回は飛翔の魔法を使ってホールの上の方まで調査することにした。
 壁画の撮影はすでに行っているけど、望遠を使っての撮影みたいなので直接上の方まで調査されているわけではないようだ。上の方はこのあと櫓を組んで本格的な調査が始まるらしい。

 一般的に飛翔の魔法は古代の魔道具なしではできないという認識となっている。これは重量軽減の魔法がうまく使えないためだ。車などのサイズを軽減する魔道具はあまり見つかってないけど、人レベルのものであればある程度見つかっているのでまだ使ってもなんとか説明はつく。
 ただ重量軽減と言ってもほぼ0にする魔道具は少ないので飛翔の魔法と言ってもいろいろと魔道具を使わなければ浮かぶくらいしかできない。ホールには人はほとんどいないんだけど、もし見られたときのいいわけは考えておかないといけないからね。
 ある程度までは手に入った魔道具で軽減してから二人の風魔法で浮かんでいると説明すれば何とかなるだろう。


 壁画が描かれているホールを調べてみると、下からは死角になっているところに壁画がない部分があった。探査すると中が空洞になっているみたいだ。

「これって奥に何か空間がありそうだよね?」

「ここだけ壁画がないのも不自然だし、下から見るとこの部分が分からないようになっているわね。」

 壁画がないところを調べてみると、壁のブロックが外れるようになっていた。

「これブロックが外せるね。とりあえず外せるところは収納していくよ。」

 ブロックを取り込んでいくと、ある程度取り除いたら奥に空間が見えてきた。

「部屋がありそうだね。とりあえず魔獣とかはいそうにないので大丈夫かな?」

「とりあえず光魔法で中を照らしてみるわ。何かいたら反応すると思うわ。」

 そういってジェンが光り魔法を放ってみたが、特に何も反応はない。

「完全に密閉されていたって事なのかな?虫とかもいなさそうだよね。それじゃあ先に入るから何かあったときは援護をお願い。」

「わかったわ。気をつけて!!」

 風魔法で中の空気をしばらく入れ替えて、注意しながら中に入ってみると、中は10畳くらいの広さになっていて中央に祭壇のようなものがあった。周りを見てみるが特に危険はなさそうだ。

「とりあえず大丈夫そうだからジェンも入ってきていいよ。」

 中にも壁画があるんだけど、こちらはなにかで描かれているせいかかなり劣化していた。表と同じように神様の絵のようなんだけど、説明が古代ライハン語で書かれているような気がする。

「これって古代ライハン語だよね?読めないけど。」

「ええ、私もはっきりとは分からないけど、文字の形とか見る限り間違いないと思うわ。ここまで古代ライハン語が残っているのはかなり珍しいわね。」

 古代ライハン語の存在は確認されているけど、遺跡の一部に単語が書かれているというものが多く、文章として書かれているものがほとんど見つかっていない。

「絵の雰囲気から表に書かれているものと同じ感じだよね。文章の内容も実は同じなのかな?」

「見比べてみたらなにか分かるかもしれないけど、今の時点でははっきりとは断言出来ないわね。もしほんとに同じ内容だったら古代ライハン語の解読にかなり役に立つかもしれないわ。」

「ロゼッタストーンみたいな感じなのかな?とりあえずあとで文章を比較してみよう。」

 もともとはこっちの部屋があって、そのあと今の施設が手前に増設されたものなのだろうか?祭壇のようなところにはいくつか箱が置かれていた。これがあるって言うことは、ここはまったく調査されていないのだろう。まあ入口も封鎖されていたからね。

 持ってきていたカメラのような魔道具で壁の絵や文字、祭壇の状態を撮影していく。これは調査するのに必要と言われて借りてきたものだ。一般的にはあまり売られていないようだし、値段もかなり高いので簡単に購入はできないもののようだ
 原理はわからないけど、魔法を使ってデジカメのようにファインダーに見えるものを記録するみたい。その記録は後で表示することが出来るし、プリンターのように印刷することも出来るようだ。

 箱には特に仕掛けがあるようではないので開けて見ると、宝石や装飾品の中にリストバンドのようなものがあった。鑑定してみるとなんと収納の宝玉というものだった。そういえば収納バッグのような宝石があるという話は前に聞いたことはあるな。数はほとんど出ないんだけど、かなり小さいので使い勝手がいいと言うことだった。

名称:収納の宝玉(良)
詳細:生物以外のものを収納する宝玉。収納の際に分解され、取り出す際に収納時の状態に再構成される。空間拡張により分解後の**に相当する***容量分を収納できる。重量は収納した重量を10万分の1まで軽減する。
品質:良
耐久性:良
効果:良
効力:分解、構成、空間拡張-2、重量軽減-3

 真ん中の宝玉のようなところに収納するみたいだ。空間拡張は2だけど、重量軽減の機能が大きいね。容量は後で調べてみよう。

 祭壇の周りに落ちているのは収納の宝玉の中から出てきたものかもしれない。神様への奉納品だったんだろうか?宝石や宝飾品の他に魔符核がいくつかあり、細かな文字が書かれている。機能についてはすぐには分からないので後で確認してみよう。

 この発見だけでもやってきた甲斐もあるし、この壁画に描かれている内容も結構重要な気もするので推薦してくれたジョニーファン様の顔も立てられるだろう。



 もとのホールに戻ってから先ほどの穴は元の状態に戻しておく。壁の中なども探索しながら他のところを見ていく。

「ガ、ガ、ガ、ガ、ズドン!!!!」

 少し奥の通路から大きな音が聞こえた。遺跡の通路が壊れたのかな?そう思ったんだけど、なんかいやな気配がする。

「ジェン、なんかレベルが高そうな魔獣がいるみたい。」

「ええ、私も感知したわ。」

「これは今の自分たちでは絶対にかなわない相手だな。こんなレベルの魔獣が出るなんて聞いてないぞ・・・。逃げるぞ!!」

 警報を鳴らし、来た通路を走って戻るが、どう考えても逃げるのは厳しそうだ。

「ジェン、この先のホールで待ち構えるよ。警報を鳴らしたからすぐに応援が来るはずだ。逃げるより生き延びるチャンスは高いと思う。」

「分かったわ。」

 魔法の準備をしながらホールに出たところで魔獣を待ち構える。魔獣が飛び出してくる前に雷魔法を打ち込んでみるけど、避けられてしまったようだ。まさかこんなに素早いとは・・・。

 姿を現したのは白狼だった。

「良階位の魔獣かよ!」

 自分が前に出てから白狼と対峙すると、白狼がすぐに間合いを詰めてきた。盾で防御と待ち構えるが、自分の横をすり抜けて後ろにいたジェンに向かっていった。

「やられた!」

 ジェンは慌てて回避するが、肩から爪で引き裂かれて壁に吹き飛ばされてしまった。

「ジェーン!!」

 後ろから斬りかかるがあっさりと避けられてしまう。壁にもたれかかり意識があるのかわからないジェンの前に移動して魔法を展開する。とりあえず応援がくるまで耐えるしかない。
 白狼が攻撃してくるのを水魔法と盾でなんとか防ぐが、徐々に手足の感覚がなくなってきた。体も徐々に切り裂かれていく。

 まずい、このままでは・・・。

 そう思ったときに盾がはじきとばされ体当たりを受けてしまった。

 壁に打ち付けられて意識が遠のく。


 だめなのか?ここまでなのか?自分は大切な人すら守れなかったのか?すぐ横には意識があるのかわからないジェンが横たわっている。

 意識がなくなっていく。できるだけ慎重に頑張ってきたはずなんだけど、調子に乗っていたのかなあ・・・。
・・・
・・






 目を覚ますとテントの天井が見える。どうやらベッドに寝かされているようだ。

「ここは?」

 辺りを見ると看護兵のような人が近くの椅子に座っていた。

「おお、気が付いたか。身体は大丈夫か?ちゃんと身体は動かせるか?どこか痛いところはあるか?」

 そう言われて身体を確かめると肩と腕に痛みが走る。

「えっと・・・。」

「とりあえず簡単に治療はしたつもりだ。見える範囲での治療しか出来なかったがな。」

 やっと意識がはっきりしてきた。そうか、魔獣に襲われたんだったな。なんとか助かったのか?兵士が助けに来てくれたのか?

 痛みがある箇所に治癒魔法をかけると痛みが引いていった。自分が治癒魔法を使うことができることに驚いているようだった。

「大丈夫です。痛みはありましたが、とりあえず治療できました。ありがとうございます。」

「治癒魔法が使えたのか。」

「ええ、一応使うことができます。えっと、魔獣に襲われたんですよね。兵士の方に助けてもらったのでしょうか?」

「そこがよくわからないんだが、襲ってきたと思われる魔獣の白狼は遺跡の中で討伐されたらしい。ただ、君たちが見つかったのは遺跡の入口にある岩の上で、入口を警備していた兵士がアラームの音を聞いて気がついたようだ。今から30分ほど前だったかな?私はとりあえず君の治療を行ったところだ。」

 道しるべの玉が発動したんだろうか?とりあえず助かったようで良かった・・・。

「っ!!ジェンは?!一緒にいた女性はどこですか?」

 そういうと、かなり辛そうな顔になった。

「まさか・・・」

「いや、亡くなったわけではないよ。ただ・・・。」

「どこにいるんですか?」

「隣のテントで治療をしているが、状態が酷くてなんとか生命維持ができている状態なんだ。」

 ベッドから飛び起きて隣のテントへと向かう。

「ちょっと!今は立ち入り禁止ですよ!」

 静止する声が聞こえたが構わず中に入ると、ベッドに寝かされているジェンが目に入った。

「ジェン?」

 治療はある程度されてはいるが、まだ終わっていない状態みたいで巻かれている包帯にも血が滲んでいる。

「えっと、同じパーティーの方ですか?」

「そうです、ジェンの容態は?」

「とりあえず今できる範囲の治療は行っています。タイミング悪く中級の治癒ができる治癒士が薬の仕入れのために席を外しており、今呼び寄せているところです。
 おそらくあと1時間ほどで到着できると思います。かなり状態は良くないですが、生命維持として定期的に治癒魔法をかけていますので大丈夫だと思います。ただ、かなりひどいので治癒したとしても傷跡と後遺症が残ってしまうかもしれません。」

 残念ながら治療薬は中級までしか置いていないらしく、このレベルの怪我だとほとんど効果が出ないようだ。通常は中級魔法を使える治癒士が対応することになっているようだけど、魔獣の討伐も進んでいたためにちょうどいないタイミングだったようだ。

「すみません。二人だけにしてもらえますか?」

 先ほどの治療師が自分が治癒魔法を使えることを説明してくれたので納得してくれた。


 他の兵士が出ていったあと、精神を集中して治療に取り掛かる。

 浄化魔法をかけて綺麗にしてから傷口を確認すると、右肩から袈裟懸けに切り裂かれている。出血はだいたい止まっているようだけど、肉がかなりえぐられて骨が見えているところもある。右手もかなりの損傷を受けていてボロボロになっている。あとは打撲関係だけど、内臓あたりは大丈夫そうだ。さすがにここにダメージがあると難しいからな。

 まずは折れた骨の結合、血管の修復、筋肉の再生、皮膚の再生・・・。細胞の再生を意識して回復をしていく。もちろん完全に基の形がわかるわけではないので、あくまで元の状態に戻すイメージで治療していく。
 治療をいろいろと経験していて良かったと改めて思った。絶対に傷跡は残さない。徐々に傷が回復していくが、さすがに精神的にきつい。でも集中を切らすわけにはいかない。
 どのくらい時間がたったのかわからないが、やっとジェンの呼吸も落ち着いてきた。よかった。なんとかなったかなあ?見た感じ特に傷跡は見当たらない。
 よかった・・・
 ・・・
 ・・
 ・



「大丈夫ですか?」

 体を揺さぶられて目を覚ます。

「あれ?」

 どうやら治療の後、ジェンの横でうつ伏せになって寝ていたみたいだ。

「中級魔法を使える治癒士が戻ってきたのですが、もしかして治療されたのですか?」

 先ほどいた治癒士が声をかけてきた。その治癒士と一緒にいる女性がその中級治癒士なのかな?

「自分なりに治療をしてみました。大丈夫と思うのですが、どうでしょうか?」

 そういってジェンの状態を確認してもらうことにした。

「特に傷跡も無いですし、呼吸も安定しています。彼女の着ていた装備を見る限り、後遺症や傷跡が残るレベルだったと思うのですが、ここまで完璧に治療されたんですか?これって上級の治癒魔法になるはずですが・・・。」

「自分の治癒魔法がどの程度なのかはわかりません。あと彼女が目を覚まさないとどこまで治療できているかわかりません。」

 とりあえず大丈夫みたいだけど、一応念のためと言うことで治癒魔法をかけてくれた。中級の治癒魔法を初めて見たけど、やっている感じはあまり初級の治癒魔法と変わらない感じだな。まあほとんど治っている状態だからかもしれないけどね。

「呼吸も落ち着いていますし、おそらく大丈夫だと思いますよ。何かあれば言って下さい。」

 そういって二人は退出し、再びジェンと二人だけになる。


 しばらくすると、ジェンが目を開けた。

「ジェン・・・大丈夫?どこも痛くない?」

「え、ええ。・・・んと・・・特に痛いところはないわね。」

「よかった・・・ほんとによかった・・・・。」

 涙が止まらなかった。ジェンに抱きついてちゃんと無事なことを確認する。


 ジェンは何があったのかと呆然としていたが、横に置いてあった鎧を見てやっと魔獣にやられたことを思いだしたようだ。

「とりあえず治療はしたけど、血液がかなり失われていたと思うのであまり無理はしないでね。」

「イチが治療してくれたの?」

「うん、タイミングが悪くて中級魔法を使える治癒士が不在だったからね。それに中級だとかなり傷跡も残ったかもしれないんだ。」

「ありがとう。」

「うん、うん。よかった。」

 しばらく抱きついていたんだが、何かに気が付いたかジェンが言ってきた。

「えっと・・・わたしね、裸みたいなんだけど・・・」

 そう言われてジェンが裸だったことを思い出した。下半身はシーツが掛かっているけど、上半身は丸見えだ。

「ご、ごめん!!」

 治療の時はとにかく治すことに集中していて皮膚の状態とかは確認していたんだけど、たしかに上半身丸見えだったな。

 シーツを手繰り寄せて恥ずかしそうにしている。

「も~~~!・・・でもありがとう。」

「うん。」



 ひと段落したところで簡単な食事を用意してもらい、お腹を落ち着かせる。しかし治癒魔法の威力はすごいな。元の世界だったら間違いなく後遺症はともかく傷跡が残っていただろうな。

「もうこんなことにならないようにしないとね。」

「そうだね。」

 あのままジェンが亡くなっていたらどうなっていただろう。ほんとに無事でよかった。


~ジェンSide~
 遺跡の探索中に高階位の魔獣に遭遇した。上階位までの魔獣しかいないと言っていたのになぜ?という疑問よりも先に逃げることを選んだ。
 警報を鳴らし逃げ出したけど、どう考えても逃げられそうにない。近くに警備の兵士がいないことも運が悪かったわ。
 イチと話をして戦うことを選んだんだけど、姿を見たときにかなわないと分かってしまった。でもせめて時間を稼ぐことが出来れば応援が来てくれるはず。今はそれを信じるしかない。あきらめるわけにはいかないわ。

 イチが前衛に出たので後ろから牽制をしようかと思っていたんだけど、魔獣は私をターゲットに襲ってきた。慌てて避けようかと思ったけど間に合わず、右肩に衝撃が走った。吹き飛ばされたのか、すぐに背中に衝撃を感じる。

 全身が痛い。

 肩はどうなっているんだろう?

 右手も動かない・・・。

 治癒魔法をかけようにも集中ができなくてだめだ。とりあえず動脈の止血だけでもしないと・・・。

 目の前で必死に私を守ってくれているイチの姿が見える。だけどイチを助けることも出来ない。イチを援護することも出来ない。強くなったと調子に乗っていたかな?
 イチが吹き飛ばされて私の方に飛んできた。ここまで?こんなことならイチにちゃんと言っておけばよかったかな?

 遠くに逃げたい!!そう思ったらなにやら浮遊した感じになって青空が見えていた。どういうこと?あたりに警報が響き渡っていて、先ほど入口で警備をしていた兵士の顔が見えたところで意識がなくなった。



 目を覚ますとイチの顔が目の前にあった。どうしたんだろう?イチがかなり悲しそうな顔をしている。

「ジェ・・・、ジェン?大丈夫?どこも痛くない?」

 イチが声をかけてきたので体の状態を確認してみたけど特に異常はなさそうだ。

「え、ええ。・・・んと・・・特に痛いところはないわね。」

「よかった・・・ほんとによかった・・・・。」

 返事をすると、イチが泣きながら抱きついてきた。どうしたの?何があったの?

 近くに置いてあった壊れている私の鎧を見て思い出した。白狼にやられたんだった。改めて体の状態を確認してみたけど、特に怪我はないようだ。あれ?かなり深い傷になっていたと思ったんだけど、イチが治療してくれたのかな?

 よかったと安心したところでふと気がついた。私、はだか?
 イチは今気がついたように驚いて謝ってきた。治療と心配で全く気にしていなかったみたい。


 あとで治癒士から聞いたんだけど、私はかなり危ない状況だったらしい。治療をしても完全に治すことはできないというレベルだったらしく、ここまでちゃんと治っていたことに驚いていた。
 治癒魔法は上級魔法レベルの能力だと言っていたけど、スキルが上がっていたわけじゃないのよね。治療をしたときに曖昧な感じではなく、きちんと理解して治療をしたのでよかったんだと思う。

 イチには感謝しかない。私を放っていたら逃げ切れていたかもしれない。でも、最後まで私をかばってくれていたんだ・・・。
 なんかイチのことを考えると胸が痛い。感謝?それだけの気持ちなのかな?このままイチとずっと一緒にいたいと思ってしまう。
 でもイチはどう思っているんだろう?聞きたいけど、聞くのが怖い・・・。

 いままで友達には、「好きになったんだったらすぐに告白すればいいじゃない!」と言っていたけど、よくわかってなかったのね。もし断られたらどうしようと思ってしまうと、今のままでいいと思ってしまうんだ。友達が言っていたのはこのことだったのね。

 告白してうまくいけばいいけど、うまくいかなかったときにどう付き合えばいいのかわからない。もし断られたらパーティーとしてやっていくのはつらいよね?これからのことを考えると好きではなくても受け入れてくれるかもしれないけど、そんなのはいやだ。そう考えるとやっぱりこのままがいいの?

~~~~~


 治癒魔法で怪我は完治していたけど、ジェンはかなりの出血だったこともあり、簡単に体を動かしたりしながら3日ほど休養をとらせてもらった。

 ジェンのことを大切な人と思ったことで、好きなんだろうと認識してしまったせいか、ジェンと話すと少し緊張してしまう。まずいなあ・・・。
 ジェンもなぜか少しぎこちない感じなのは気のせいなのかな?やっぱりやはりこの間裸を見られたせいなのかなあ?本人は状況が状況だったから気にしないでと言っているけど・・・。


 あのあと話を聞くと、警報を聞いて現場に駆けつけた兵士達が白狼を討伐したけど、そこに自分たちの姿はなかったようだ。ただ、ボロボロになった装備がいくつか落ちていたらしい。やはり道しるべの玉で転移したのだろう。このことはジョニーファン様には話してもいいかもしれないね。
 道しるべ玉を鑑定してみるとすでに使用済みになっていた。これが発動していなかったらおそらく死んでいただろうな。

 壁画の上の方で見つけた祭壇についてはすでに報告をしていて、見つかったものについても伝えている。収納の宝石の容量は2キリルくらいだったけど、収納バッグよりも高級なものらしい。見つけたものについては後でどうするかを決めなければならない。

 ジェンの状態はかなり危なかったらしくて、あの場で死んでしまっていてもおかしくなかったほどだと言っていた。事前にジェンが自分で止血をしていたこともよかったらしい。あとから来た治癒士が、装備の状況を見てあそこまで元の状態に治療したことに驚いていたからね。
 今回防御関係の魔道具を買っていなかったらもっとダメージがひどくて死んでいたかもしれないね。あぶなかったよ。



 ジェンが療養している間、自分はあの魔獣がどこからきたのかの調査に加わった。もし同レベルの魔獣がいても他の兵士達と一緒に調査するので大丈夫ということで同行した。

 自分たちがいたところの近くで何かが崩れる音がしていたんだけど、やはり通路の途中が崩れていたようで、今もがれきの撤去が行われていた。
 崩れた辺りを探査してみるが、壁の中がちょっとわかりにくく、あの島の遺跡と同じような感じがした。まだ当時の機能が残っている部分があるのだろうか?壁から天井部分が崩れてよく見えないけど、天井の方に空洞があるように感じる。

「ドルナさん、ここの上からどこかにつながっているような感じがします。」

 今回の調査のリーダーであるドルナさんに声をかける。

「はっきりと探査は出来ませんが、奥に部屋があるような感じです。」

「うーん、私ははっきりとは分からないが・・・先に調べてみるか。」

 まだがれきは残っているんだけど、どこからかはしごを持ってきて天井に空いた穴に立てかけて確認することにしたらしい。

「たしかに穴がつながっているみたいだ。風の流れはなさそうだからいったん準備してから調査した方が良さそうだ。」

 どうやら風魔法で中の空気を入れ換えているようだ。風の流れのないところは危ないというのは認識されているみたい。そのあと光魔法で穴の中を照らして数名が中へと進んでいった。

「うわっ、なんだこの部屋は?」

 驚く声が聞こえた後、しばらくして中の確認が終わったのか入ってくるように言われたので自分もはしごを登ってから奥へと進む。
 穴は部屋の壁に開いていたみたいなんだけど、部屋に入って最初に見えたのは山積みになった魔獣石だった。

「こ、これって全部魔獣石?」

「そのようですね。秘密の金庫のようだったのでしょうか?ただそれにしては魔獣石のランクが低すぎますね。
 うーん、特に魔獣石には問題ないようだし、このままでは調査もできないので合成しておきましょう。」

 そう言って数人で魔獣石を合成していくと、一気に部屋の中がすっきりしてきた。細かい額は分からないけど、100万ドールに合成出来ない10万ドールの白い魔獣石が20枚くらいになったようだ。どれも50万ドール以上みたいなので全部で1000万ドールくらいはあるのかもしれないね。金額はあとで確認するらしい。

 部屋の壁にはいくつか付与魔法のような文様が描かれていた。残念ながら使われている文字は古代ライハン語のようで意味がわからない。よくある古代の魔道具と同じだな。
 個室になっているので、ここで魔獣が湧いて死んでを繰り返していたのかな?どのくらいの頻度で湧いていたのかわからないけど、古代遺跡と言うことを考えると数千年分のものなのかもしれない。ただ、魔獣石があるけど、骨などが残っていないのが気になるな。

「付与魔法については詳細は分かりませんが、一部稼働しているような感じもしますね。」

「たしかにまだ稼働しているようにも見えるな。ここは慎重に調査をした方が良さそうだ。高レベルの魔獣が湧くようになっているかもしれないからな。調査の際には兵士も同行するように言っておかないとまずそうだな。」

 自分はある程度確認を行ってから部屋を出る。このあとも引き継き調査は行うようなのであとで報告書は回してくれるようだ。



 ジェンの体力が戻ったところでリハビリをかねて近くの森で魔獣狩りをすることになった。さすがにまた何かあったら大変だと兵士が護衛についてくれることになる。

 いくつかの装備は使えなくなってしまったので予備で持っていたもので代用する。グレードは下がってしまうけどこれはしょうがないな。それでも予備を持っていてよかったよ。
 本当は町に戻ってから装備を新調する手もあったんだけど、護衛がつくこともあり、上階位の魔獣相手であればこの装備でも十分だろうと言うことで予備の装備で当面活動することにした。まあもともとの装備が上階位としてはかなり良いものだったので予備といっても十分なんだけどね。

 上階位の魔獣を討伐していくが、やはりジェンの動きがちょっと悪い。特に白狼に似た容貌の氷狼が相手の時はかなり身体がこわばっている感じがする。やっぱり少しトラウマになっているのかな?
 ジェンもこのままではまずいと思っているのか、魔法ではなくて積極的に武器で攻撃していた。二日ほどするとだいぶ動きもスムーズにはなってきたけど、あとは数をこなしていくしかないだろうな。


「今回いろいろとあったけど、二人とも無事でよかったね。」

「ほんとにそうね。あのときはこれで終わりと覚悟しちゃったわ。」

「ジェン・・・」

「だからね、イチにはほんとに感謝しているの。いつもとの世界に戻れるのかわからないけど、それまで改めてよろしくね。」

「・・・うん、わかった。もとの世界に戻るまで、絶対に生き延びよう。無茶をするつもりはないけどね。」

「もちろん。死にそうにはなったけど、冒険をやめる気はないわよ。普通の生活ということも考えたけど、せっかくだからね。」

「それじゃあ、これからもよろしく!」

「うん」

 お互いに握手して今後のことを誓う。

 ジェンのことを好きだという気持ちはこの際置いておこう。もし告白しても、もとの世界に大事な人がいるのだから、ジェンも困ってしまうだろう。もし戻れることがわかったら、たとえ消えてしまう記憶だとしても、自分の気持ちだけは伝えておきたい。ジェンには迷惑になるかもしれないけどね。



 このあと7日ほど遺跡の調査や壁画の文字の解読など行い、今回の結果について報告書を作成した。自分たちなりの古代ライハン語の解読の結果や最後に見つかった部屋の付与魔法に関する考察などをまとめてみたのでそれなりには意味があるものだと思いたい。
 ちなみに発見した魔道具の売却は自由だけど、魔獣石については12.5%が取り分となるようだ。これは事前に決められていたことなので仕方が無い。こういう調査の時には価値を判断するために魔獣石の魔素を測定する機械が持ってきていて、それで魔素量を計測するようだ。

 一通りの説明も終わったので明日の朝には出発することにして、最後にお世話になった人たちに挨拶して回り、眠りについた。


~デイストリフSide~
 私の名前はデイストリフ。アルモニア王国の兵士団のサルマン・クリファー隊の副官を務めている。剣の才能があったこともあり、任官してから徐々に階級を上げ、副官にまでなることができた。残念ながら結婚という縁には恵まれなかったが、今の立場には満足している。

 現在私たちは発見された遺跡の調査を行っているところだ。付近で山が崩れたと報告があったため調査をしていて見つかった遺跡で、盗掘もされていない貴重なところだった。

 いつものように仕事をしていると、門番の兵士から紹介状を持った冒険者がやってきたと連絡が来た。その紹介者があこがれのジョニーファン様と言うから驚きだ。この国で魔道士様の名前をかたる人間はまずいない。すぐにサルマン様に連絡を取り、紹介状を渡す。
 紹介状は間違いないもので、冒険者だが遺跡などの知識に長けているものなので調査に協力させてやってほしいと書かれていた。

 さっそくサルマン様と挨拶にいくと、そこにいたのは若い男女だった。もっと年配の人たちかと思っていたので、その見た目にかなり驚いた。実際の年齢はもっと上なのかと思ったけれど、年齢は見た目通りでさらに驚いた。

 挨拶の後、二人と話をすると、なんとジョニーファン様から数時間もの間魔法について指導を受けたらしい。少し話すだけでも名誉なことなのに魔道士様が数時間も時間を割いてくれるなんて、どれだけの知識を持っているのだろう?

 さすがに魔道士様の紹介状を持った人を一般の扱いはできないので急遽大きめのテントを空けて部屋を用意した。かなり簡易的なところだったんだけど、十分満足してくれたようだ。


 翌日から調査に入ってもらっていたんだが、2日目に遺跡の入口で二人が血だらけでいるのが発見された。どういうことなの?訓練の様子を見る限り上階位の魔獣であれば十分倒せるレベルだったはず。しかし、あとで白狼がいたということをきいて驚いた。

 運が悪いことにちょうど中級の治癒士がいなかったため、すぐに呼び出しをかけ、それまでは初級の治癒士に対応してもらっていたんだが、なんとジュンイチさんは上級の治癒魔法を使って治療したらしい。本人は中級と言っているが、あそこまで完璧に治療をするというのは中級の治癒士には無理だ。やはり魔道士様に認められるだけのことはある。

 リハビリを行っているときに調査結果を聞いたが、その内容を聞いて驚いた。古代ライハン語の解読につながりそうな壁画を発見したようだ。壁画のかなり上の方のためまだ調査を行っていなかったところだったが、飛翔魔法で見つけたらしい。現在は足場を作り調査を行っているが、「これはすごい発見だ!」とヤルマンがかなり興奮していた。

 その後、白狼がいたと思われる部屋も発見し、その後の調査でも見つかっていなかった小部屋などをいくつか発見していた。地中の探査能力が高いようだ。

 20日ほどで戻ることにしたらしく、最後に報告を受けたが、こういうことにあまり詳しくない私でもかなりの成果だと言うことがわかる内容だった。古代ライハン語の解読もある程度進めており、白狼のいた部屋の考察もかなり興味の引かれるものだった。このあとも資料から検証は進めてくれるらしい。

 今回の調査結果については「あくまで自分たちは調査の協力でしかないから隊からお願いします。」と譲らなかった。ただジョニーファン様には後で自分たちから話してもいいかと申し出があり、サルマン様も同意されていた。

 二人はかなり謙遜していたが、やはり魔道士様の指導を受けるにはこのくらいの知識が無ければならないのだろう。


~魔獣紹介~
白狼:
良階位上位の魔獣。寒い地域の森に多く生息する狼系の魔獣。単体でも良階位中位の脅威であるが、通常は3~5匹の群れを形成しており、集団での狩りが得意。体長は2キヤルドを超えるものもいる。
牙と爪で攻撃してくるが、風魔法も使えるため遠くにいても油断はできない。また風魔法を使って木々の間を縦横無尽に動き回るため、魔法や弓の攻撃も当たりにくい。弓矢は風魔法で軌道を曲げられて届かないことが多い。まずは動きを止めて接近戦に持ち込んだ方がよいだろう。
素材として牙と毛皮が使用されるが、毛皮の需要は非常に高く、特に傷がないものは重宝される。肉は固く、臭いもきついため食用にはされていないが、食べることは可能。


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