【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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65. 異世界692日目 久しぶりのオカニウム

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65. 異世界692日目 久しぶりのオカニウム
 約1年ぶりにやってきたオカニウムだ。まずは入国審査となるが、貴族の場合は事前に部屋で入国手続きをやってくれているのですぐに下船できるのはありがたい。港は出迎えの人も結構いてかなりごった返していた。

 下船するとジェンはかけだして町の方へと向かう。向かった先はメイルミの宿だ。今はお昼過ぎなのでまだ開いていないんだけど、かまわずに扉を開けて建物に入っていってしまった。

「メイサン!ルミナ!」

 宿のドアを開けて大きな声を上げるジェン。

「は~い、まだ準備中なんですよ・・・。」

 掃除をしていたらしいルミナさんが出てきたんだが、ジェンを見て驚いている。

「ジェニファー!!!ジェニファーなのね?戻ってきたの?メイサン!ジェニファーよ!ジェニファーがやってきたわよ!!」

 その声が聞こえたのかドタドタと音が聞こえてメイサンさんがやってきた。

「ジェニファー!!
 よかった、元気そうだな。それに言っちゃ悪いがたくましくなったな。いまではいっぱしの冒険者か?
 それとジュンイチも元気そうだな。ジュンイチはさらにしっかりしてきた感じだな。ジェニファーとはうまくやっているのか?」

 少し話をした後、二人で宿の手伝いをして仕事を一段落させる。一息ついたところでこれまでのことを色々と話した。

「なんか、すごい冒険をしてきたのね。だけど無事でよかったわ。」

「そうだな。まさかハクセンとタイガまで行ったとは思わなかったぞ。冒険者になっていろいろな国に行くと言っていても行かないやつの方が多いと聞くからな。この大陸を一周してきたんだな。」

 心配するので死にかけたことやさらわれたことなどは黙っておいた。あまり詳しく話せないことも多いからね。

 話が一段落したところで、年明けまではこの町に滞在するのでしばらくここに泊まらせてもらいたいことを話す。好きな部屋を使っていいと言われたのでジェンは開いている部屋を見て二人に確認をとる。

「それじゃあ、204号室を使わせてもらうわね。」

「「っ!!」」

「ああ、それでかまわないぞ。なんだったら206号室でもいいぞ。」

「「あっ!」」

「いや、私たちはまだそういう関係じゃないから・・・。」

「そうですよ、パーティーメンバーだから一緒に部屋に泊まるのが普通だっただけだから・・・。」

「はいはい、わかったからとりあえず荷物を置いてきなさい。」

 二人に生温かい目で見送られながらツインの204号室に移動する。ちなみに206号室はダブルの部屋だ。どう考えても変な誤解をされているな・・・。



 夕食の時間になるといつもの常連客がやってきたんだが、久しぶりにいるジェンを見ていろいろと声をかけていた。ちょっといやな気持ちになるのは嫉妬なんだろうか?話を聞いたジェンの友人のアキラとマラルも夕食にやってきて明後日一緒に出かけることにしたらしい。


 ある程度一段落したところで、ルミナさんから声をかけられる。

「長い船旅で疲れたでしょ?船旅は結構ベッドも狭くて疲れると聞くからね。今日は早めに休んでね。」

「・・・はい、わかりました。ありがとうございます。」

 まあ貴族用の個室で帰ってきたとはいえないな。とはいえ、せっかくなので好意に甘えて早めに休むことにした。

「ジェン、久しぶりの接客で疲れたんじゃないか?」

「疲れてないというわけではないけど、久しぶりに会う人達が声をかけてくれてうれしかったというのが一番ね。結構経つのに私のことをちゃんと覚えていてくれたって言うことがね。」

「明後日は出かける約束をしたと言っていたけど、明日は役場やカサス商会とか回ってみようと思っているんだ。あと年末年始はゆっくりしようと思ってる。自分の方は特に予定はないからなにか考えておいて。」

「わかったわ。」

 この後は今後の予定を少し話して早めに眠りについた。



~ルミナSide~
 今日はほんとに驚いたわ。いきなりジェニファーがやってきたんだもの。あれから1年半くらい経ったのかしら。かなり立派になっていて驚いたわ。

 ジェニファーが旅立った後、メイサンと誰かを雇おうかと話をしたんだけど、結局二人で頑張ることにしたのよね。ジェニファーが戻ってきたときの居場所を残してあげたいと思ったのかしらね。

 時々手紙が来ていたけど、思った以上に立派になっていて驚いたわ。冒険者も上階位になったと言っていたからかなり頑張ったんでしょうね。
 アルモニアに行くことは手紙で聞いていたけどハクセンやタイガまで行ったと聞いて驚いたわ。それに貴族の方とも知り合いになったというのが驚きだわ。ナンホウ大陸よりはいいけど、やっぱり貴族の権限が強いところは私たち平民にはちょっと怖いところがあるのよね。
 ナンホウ大陸の話は冒険者や商人から聞くんだけど、結構無茶なことを言われたりすることがあるみたいだからね。商人はまだそれを前提にうまく立ち回っているみたいだけど、冒険者の人達は「もう二度と行くか!!」と言っている人達も結構見かけるからね。もし二人がナンホウ大陸にいくって言いだしたらそのあたりは言ってあげないといけないわ。

 だけど一番驚いたのは来年行われる予定のクリストフ殿下の結婚式に招待されたということね。いくら王族を離れた殿下と言ってもやっぱり有名だからね。まさか殿下の相手との関係を取り持ったとは思わなかったわ。また来たときには結婚式の話を聞かないといけないわね。


 だけどジュンイチとはうまくやっているみたいでほっとしたわ。どうなっているか気になっていたんだけど、まさか普通にツインの部屋に入ろうとするから驚いたわ。言われるまで気がつかなかったくらいだからいつものことなんでしょうね。パーティーメンバーでも普通付き合っていない男女は部屋は分かれて泊まるわよ。
 だけどやることはやっているのかしらね?どうも恋人としては距離感が変なのよね。メイサンは特に気付いていなかったみたいだけど、ここにいる間に一度確認した方がいいかもしれないわね。

~~~~~



 翌朝、宿の手伝いの後で朝食を取り、ジェンと役場へ向かうと、受付にマーニさんがいた。

「あら、ジュンイチさんにジェニファーさんじゃない。お久しぶりですね。」

「マーニさん、お久しぶりです。昨日タイガ国から戻ってきたので登録をお願いします。」

「タイガ国まで行っていたの?昨日の客船で戻ってきたのね。結構色々と回ったみたいね。」

「ええ、いろいろあってせっかくだからと大陸を一周してきた感じですよ。」

「実績ポイントもたまりが早いわね。去年上階位になったばかりでしょ?このペースならあと1年もしないで実績ポイントがたまりそうじゃない?」

「ええ、結構実績ポイントのいい依頼を受けることができたのでよかったですよ。」

 実績ポイントの詳細は記録されているんだけど、閲覧は権限がある人しかできないらしい。昇格試験の時には調べられるみたいだけどね。
 良階位以上は常時依頼だけで実績をためてもだめで、特別依頼を最低限一つは受けて高評価をもらわないといないらしい。確実にするには3つ以上は必要と言われている。
 上階位で特別依頼を受けることがかなり少ないので結構大変なんだけどね。通常は魔獣の討伐関係を受けるらしいが、そのあたりは昇格が近いときに役場の方である程度融通してくれるみたいだ。もちろんそれまでにある程度実績を示していないとダメだけどね。
 自分たちはコーランさんたちの護衛が2回、海賊の宝と金属蜥蜴の討伐、北の遺跡調査、ジョニーファン様の使いと6つ受けて高評価をもらっているので十分だと思う。

 手続きを終えてから資料をいくつか確認する。前来たときからはそれほど変わっていない感じだな。少し他の冒険者と話をしてから役場を後にする。


 続いてやってきたのはカサス商会だ。とりあえず納品依頼は無かったんだけど、こっちの国に戻ってきたので状況を聞きたかったし、連絡もしておかないといけないだろう。商売の話が一段落したところでフラールさんが家族のことを話し出した。

「最近になってやっと娘が本格的に商会の仕事をするようになりましてね。今までは冒険者のまねごとなどをやったりしてなかなか本腰を入れていなくてちょっと困っていたんですがね。どうやら親友の冒険者から届いた手紙を読んで何かやらないといけないと思ったみたいなんですよ。」

「そうなんですか。いずれはこの店の跡取りと言うことですかね?」

「ちゃんと能力があればですね。一応カサス商会の系列ですので私の一存だけでは決められませんので。今回娘にお二人の事を話す許可はもらっていますので、ちょっと紹介させてください。おい、マラルを呼んでくれ。」

 マラル?ジェンの友人と同じ名前なんだな。しばらくして頭を下げた女性が入ってきた。

「こちらがカサス商会のアドバイザーのジュエニさんとジェルさんだ。くれぐれも粗相のないようにな。」

 カサス商会では基本的に自分たちの名前はジュエニとジェルで通している。顔を上げたマラルさんが驚いていた。

「え?ジェン?」

「マラル?」

 あれ?どう見てもジェンの友人のマラルさんじゃないか?

「こら!ジェンってなんだ!」

「あ、ジュエルさん、ジェ、ジェルさん、よろしくお願いします。」

 あわてて言い直すマラルさんだったんだが、かなり混乱しているようだ。

「フラールさん、紹介ありがとうございます。マラルがここで働いているのは知っていましたが、フラールさんの娘だったんですね。実はマラルは私の親友なんです。ですので正式な場以外では普通にジェンと呼んでいただいてかまいません。」

「マラル、もしかして遠くに行ったと言っていた友人ってジェルさんのことなのか?」

「うん。ジェン、ジェルさんから手紙をもらって。それを見て私も頑張らないといけないと思ったの。」

「マラル・・・」

「・・・わかったわ。ジェン。
 アルモニアとハクセンから手紙を書いてくれていたでしょ?ハクセンでは褒章までもらったと聞いて頑張っているんだと思って、私もこのままじゃいけないと思ったの。」

「そうなんだ。こっちの道を進むことにしたのね?」

「うん。もちろん何かの時のために自己鍛錬は続けているけどね。アキラも本格的に仕事をすることにしたみたいよ。」

「そうなのね。また明日話をしようね。」

 フラールさんもジェンとの関係を理解したみたいでかなり驚いていたが、納得してくれた。このあと店の中を見て回り、色々と助言をしてから一緒に昼食を食べることになった。

「まさかあの魔道具を納品しているのがジェン達だとは思わなかったわ。いくつかの魔道具はトップシークレットになっていてわからなかったからね。名前も違っているから二人とは思わなかったわ。」

「コーランさんにいろいろと気を遣ってもらっているの。さすがにあまり公にすると狙われたりして困るだろうからね。」

「マラル、このことは絶対に口外はするなよ。」

「さすがにそれはわかっているわよ。」

 食事の後、他にもお世話になったいくつか店に挨拶して回り、宿に戻る。早めに夕食をとった後、宿の手伝いをしてから眠りにつく。



 翌日ジェンはウキウキしながら出かけていった。自分は宿の手伝いのあと、図書館で調べ物をしたり、役場で資料を見たりした。夜遅くなってジェンはかなり上機嫌で帰ってきた。少しお酒も入っているみたいだったので大丈夫かな?ジェンの様子を見るとかなり楽しかったんだろうな。


~マラルSide~
 その日はカサス商会のアドバイザーと会うことになって緊張していた。カサス商会でもかなり重要な人物らしく、対応は基本的に支店長が行うことになっているのだ。今回は教育を含めて会うことができるようだ。今後の私に大きな影響を与えてくれるはずだと父が言っていた。

 そして部屋に呼ばれて中に入って顔を見たときとても驚いた。なぜジェンがここにいるのかと思ってしまった。ジェンも私の名前を呼んだので間違いないだろう。
 すぐに父から叱責が飛んで慌てて言い直した。ただ混乱して頭が回らない。どういうことなのかと頭の中でぐるぐる考えているとジェンから「私の親友だから」と言われて少し冷静になった。間違いなく本物のジェンだ。

 このあとカサス商会でもトップシークレットになっている魔道具の作成や、カップラーメンなどの販売、商売の方法について助言をしている人と聞いて驚いた。ジュンイチさんも同じ年齢なのに父と対等に話をしていることに驚いた。


 翌日、アキラも合流して遊びに行った。アキラにも秘密を守ってもらうことでアドバイザーのことを話すとかなり驚いていた。このあとは3人で色々と買い物に行ったり、食事をしたりしているとあっという間に時間が過ぎていった。

 夕食の時にジェンにジュンイチさんとのことを聞いてみた。ジェンはかなりアピールしているようなんだけど、ジュンイチさんは気がついているのかいないのか、何も手を出してこないらしい。ただ意識はしているけど、なにかが引っかかっているような感じらしい。
 さすがに私たちが理由を聞くのは難しいので、ジュンイチさんの友人とかに話を聞いてもらえないか聞いて見た。「アーマトにいる冒険者か、クリスさんかな?」と心当たりはあるようだ。
 ジュンイチさんもクリスさんという人に相談したいことがあるとか言っていたらしいのでもしかしてそのことかもしれないねと言うと、ちょっとうれしそうにしていた。

 でも話を聞くとクリスさんって・・・クリストフ殿下のこととしか思えないんだけど。詳しく聞くと、どうやら殿下の結婚相手と縁をつないだのが二人だったらしく、今回の結婚式にも招待されているらしい。ちょっと・・・それってすごすぎない?
 なんか、私たちの知らない間にすごい人物になっているよね?だけど、マラルとアキラは私の親友だから、ずっと親友のままでいてねと言われて感激してしまった。結婚式には呼んでよねと言うと真っ赤な顔をして「もしほんとに結婚できたらね。」と小さな声で言っていた。
 もうお酒の力を借りてでもジェンから迫った方がよくない?ジェンに迫られて断る人はいないと思うよ。でもそんな勢いだけじゃいやというのも理解できるのよねえ・・・。

~~~~~~

 夕べはお酒まで飲んで帰ってきたせいかジェンは起きそうにないのでしばらく寝かせておくことにした。宿の手伝いが一段落したところでジェンを呼んで朝食をとる。

「ごめんね。昨日はほんとに楽しかったからはしゃぎすぎたみたい。」

「たまにはこういうことも必要だと思うよ。いつも相手が自分だけだと面白くもないだろうからね。」

「べつにそんなことはないけど・・・。」

「今年ももうすぐ終わりだけど、今年は12/31まであるから年末年始で4日間休みになるみたいだよ。明日から年末の休暇になるけど何か予定ある?自分は特に予定はないからジェンに予定を考えてもらうことにしてたよね?」

「今年の年末はいろいろ買い物したりしてすごそうかと思っているわ。他の人達も準備で忙しいみたいだしね。だから、なにかしたいことがあれば今年中にやろうよ。
 1日は宿でメイサン達が宿の対応もあるけど一緒にゆっくりしようと言われているのと、2日はマラルが昼食に招待してくれるみたいなので一緒に行こう。」

「わかった。自分は特に予定も無いから大丈夫だよ。せっかくだから1日の朝は早起きしようと思っているから付き合う?」

「もちろん。」


 今日は今年最後の訓練と言うことで、訓練場を借りて一日鍛錬をしていた。他にも同じようなことを考えていた人達もいて、いろいろな人と対戦することができて有意義な一日となった。
 良階位の冒険者から「魔法が使えて、剣もこれだけ使えれば昇格試験を受けても結構行けるんじゃないか?」と言われてちょっとうれしかった。まあまだ実績をためるのに時間がかかるんだけどね。今までがかなり割のいい依頼を受けていたからなあ。でもまあ順調にいけばあと1年以内にはなんとかなるかな?
 サクラに行ったらまた道場に通ってみるかなあ。やっぱり自分たちだけだとなかなか成長はできないからね。


 翌日はいったん郊外に出て拠点の中の荷物整理や補修、改造を行うことにした。前にミルファーさんたちを泊めたときにちょっと手狭になったので、そのあといろいろと改造していたけど、もう一度細かい調整をするつもりだ。
 塀の中は全部屋内にしようということで壁の大きさまで建物を拡張して、もともと外にあった台所やシャワールームなども建物の中に入れている。屋根は傘のようなものから木材で作った屋根に変更した。
 あとやっぱり土足には抵抗があるので玄関と床を作って部屋の中では部屋履きを履くようにした。床は厚めの一枚板を作り、その上にゴムみたいな素材を加工して作った。たださすがに何かの時にすぐ対応出来なくなるので、基本的には室内用の靴を履くようにしている。

 いまは寝室が2つにベッドが4つ、台所はLDKという感じで家具とかも配置しなおしている。台所は対面式っぽく作り、テーブルも拡張したのでそれなりの人数でも対応が可能だ。台所の換気扇はないけど、風魔法に分解浄化の魔道具をつけているので臭いはこもらないし、外にも漏れない。
 シャワーとトイレも穴を掘らなくても対応できるように一段高い配置にして下に処分する魔道具を増設した。このため岩場とか穴が掘りづらいところでも使えるようになった。
 あとは狭いけど簡単な装備の整備ができる鍛冶部屋も作った。もちろん防音処理もしたので中で作業をしても音は漏れないようになっている。この部屋が暑いのだけはしょうがないけどね。
 正直、もう下手な宿よりは立派な家と言っていいくらいになってしまっている。残念ながら畳はないので和室は作れなかったけどね。おかげで収納バッグの占有率が増えてしまったけど、これはしょうがない。早く次元魔法のレベルを上げたいよ。


 31日は朝に教会に行ってお祈りをする。行けるときには教会には行っているんだけど、あれからはなんの連絡もない。
 やはり神様の時間感覚は自分たちとはかなり異なるんだろうか?なんか途中経過だけでも教えて欲しいよ。忘れているということはないと思うんだけどね。まあそれ以前にどういう風に連絡を取るのかがよくわからないからね。

 教会の帰りに色々と買い出しをしてからお昼はお店で食べて宿に戻る。そのあと宿の掃除や片付けを手伝ってやっとひと段落だ。夕食の手伝いをしてから少し早めに眠りについた。



 翌朝は新年となるので、自分たちも19歳になる。今年も夜明け前に起きてから町の高い塔の上まで飛んで行き日の出を待つことにした。塔の上なので眺めはいい。寒さは魔道具もあるので大丈夫だ。

 しばらくすると日が登ってきた。2回目の異世界の新年か。今年も無事に過ごせるといいな。ジェンともこのまま一緒にいられたらいいなあ・・・。

「なあ、ジェン。」

「どうしたの?」

「いや、異世界に来てもうすぐ2年になるけど、いつになったらもとの世界に戻れるのかなあ?って改めて思ってね。」

「そうね。最初の頃は早くもとの世界に戻りたいと思っていたんだけどね。でも大変な目にも遭ったけどいまはこの世界も楽しいと思ってきているのよ。」

「それは自分も同じかな。」

「ふふふ。」

「戻れる日までは出来れば楽しく過ごしたいよな。」

 もし戻れなくなってもこのままジェンと楽しく過ごしていければいいなあ。

「そうね。神様の感覚だともしかしたら何年という事になるかもしれないけど、そのときは年もとらないから二人でいろんな土地に移り住んでいくしかないわよね。」

「そ、そうだね。そのときはいろいろと旅をしようか。」

「うん、イチ、アースのパーティーはずっとだよ。」

「・・・・ああ・・・」

 ふと目の前が見えなくなったと思ったら口に何か柔らかいものが当たった。

「えっ?!」

「新年おめでとう。」

「おめでと。」

 えっ?えっ?いま、キスされたよね。去年はほっぺだったけどいま口に・・・?

「誰にでもするものじゃないからね。特別だよ。今年もよろしくね。」

「あ、ああ・・・。」

 まともな返事ができなかったよ。顔が熱くなっている気がする。「あっちでは挨拶代わりだ、挨拶代わりだ。」と思ってもジェンの顔をまともに見られない。見ると唇に視線が言ってしまう。
 朝日を見た後、「そろそろ戻ろう。」というのが精一杯で、その後の会話がほとんど頭に入らなかったよ・・・。


 宿に戻ってメイサン達と話をしてやっと少し落ち着いた。一息ついたところで、朝食用に準備された魚の丸焼きを食べる。ここでも魚の丸焼きのようだ。このあとは宿の手伝いをしてから夕方までは色々と話をしながらくつろいでいた。

 夕食の後は昨年と同じように買っておいたケーキで誕生日祝いを行う。メイサン達には一緒に年齢を重ねるために誕生日祝いという感覚が無かったみたいで変わった風習だなと言われてしまったよ。ケーキは美味しそうに食べていたけどね。
 ジェンには昨年と同じようにブローチを渡す。なかなか使う機会はないんだけど、町に出るときとかにはつけてくれているのでちょっとうれしい。ジェンからは小さなお守りのようなものをもらった。想いを込めたガラス玉が入っているらしく、何かの時に守ってくれるというものらしい。


~メイサンSide~
 今日二人は朝日を見るというので朝早くから出かけていた。なんでも新しい年の最初の朝日を拝んで一年の願掛けをするジュンイチの故郷の習慣らしい。

 どこに行っていたのかわからないが、朝日が登ってしばらくすると戻ってきた。ただ、戻ってきたジュンイチの様子がなんかおかしい。時々ニマニマしているのだ。「なにかいいことでもあったのか?」と聞くと、「なんでもないですよ。」と言うんだが、やっぱりおかしい。

「そんなのジェンと何かあったに決まってるじゃない。少しは進展できたのかしらね。」

 あとでルミナに話をしたら、あっさりとそう言われて納得した。

「あの子達、一年以上も一緒にいて同じ部屋で泊まることも普通になっているみたいなのにね。二人のやりとりは夫婦みたいな感じということすらわかっていないみたいだけど、あっちの方は全く進展がないみたいなのよね。
 ジェンの友人のマラルからも相談をされているけど、なんとか助言はできたみたいだから余計なことは言わないでよ。あの子達はあの子達のペースで行けばいいんだから。」

 まあジュンイチもかなり奥手みたいだしな。うまくいくといいんだが・・・。

~~~~~


 翌日は昼にマラルさんのところというかカサス商会のロビーで従業員を含めた簡単なパーティーに参加した。自分たちはあくまでマラルさんの友人ということで参加しているので、立場については秘密だ。アキラさんも一緒に参加していたし、従業員の子供達も参加していたので気楽に参加できた。

 立食パーティで自分たちで食事をとっていくバイキング形式だったので新鮮だった。最近このスタイルでイベントや食堂などもやり始めたらしく、評判になっているようだ。前にコーランさんに話したことを始めたんだな。

 久しぶりのこのスタイルでちょっと食べ過ぎてしまったよ。こっちでは普通は係の人に言って取ってもらうんだけど自分で取ると量が多くなってしまうんだよなあ。少しお酒は飲んだけど、ジェンの飲み過ぎに注意しなければいけなかったので控えておいた。最近は結構お酒の味とかが分かるようになってきたんだよね。

 パーティーのあとは少しジェンと海岸を散歩して宿に戻った。昨日のキスはやっぱり挨拶みたいなものなんだと割り切ろうとするが、ジェンの唇が気になって仕方がないのはしょうがないよね。


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