【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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64. 異世界653日目 タイガ国からヤーマン国へ

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64. 異世界653日目 タイガ国からヤーマン国へ
 宿で朝食をとってから準備をしてタイガ国への通関ゲートへ。ここのゲートは山道を少し登ったところにあるトンネルだった。以前はこのトンネルもなく、結構な山道を登っていかなければならなかったらしい。
 結構早い時間なんだが、すでにかなりの行列になっていた。でもここにも貴族用の通路があったので使わせてもらうことにした。
 身分証明証を出すと、かなり対応が丁寧なのでどうしたのかと思ったんだけど、タイガはハクセンとは対等ではなかったことを思い出した。属国とかではないが毎年貢物をしているとか書いていたな。
 たしかにハクセンの貴族には礼を尽くさないといけないかもしれないね。自分たちにしても意味が無いだろうけど・・・。貴族だったせいか、通関料は無料だった。


 すでに11月と季節は冬になっているんだけど、思ったほど寒くない。南の方に来ていることと、暖流か何かの影響なんだろう。まあ長袖はいるけどね。

 トンネルを抜けてから山道を下っていくと町が見えてきたけど、タイガ国側の町トルガはなんかちょっと雰囲気が違っていた。周囲を高い山に囲まれている国だったので文化がちょっと異なっているのだろう。もともとは他国との交流も少なかったみたいだしね。
 建物は石造りをベースとしているけど木材も結構使われている。さらに着ている衣装がちょっと違っていて、ちょっと薄手の東南アジアの方のような印象のものだった。顔つきも少し異なっているのはもともとの人種が少し異なるのかもしれない。


 まずは役場に行って国の移動について登録にいくと、スレインさんから連絡が入っていた。

「スレインさんから結婚のことについて連絡が入っていたよ。クリスさんが今年のヤーマン建国祭の後で王家を出たみたいで、来年の4月に結婚することが決まったみたい。」

「そうなの。それはおめでたいわね。会ったときに渡すお祝いを用意しないといけないわね。」

「それがね、結婚式に参加してほしいみたいだよ。」

「私達が参加してもいいのかしら?」

「短い文章だけど、絶対に参加してと念押しされているよ。」

「折角誘われているのなら参加したいわね。うーんと、それじゃあ、3月くらいにはサクラに戻る感じで考えないといけないわね。」

「そうだね。まあまだ5ヶ月くらいあるから何とかなると思うけどね。」

 とりあえず現在の状況と参加する旨の連絡をしてもらうことにした。ついにクリスさんも結婚かあ。うまくやっているんだろうなあ。



 ここでなにか面白い依頼でもないか確認してみたけど特にいいものは見つからない。ただ資料を読んで気になったのは龍のことだ。
 タイガ国の資料はあまり読んでいなかったんだけど、タイガ国の東の山に神龍が生息しているらしい。この神龍は魔獣ではなく、古代文明の時代から生きていると言われる神獣という扱いになっていた。
 特に人を捕食したりするわけではなく、ほとんど人前に姿を現さないんだけど、過去に何度か英雄気取りで討伐に向かったものが反撃に遭い、さらに近くの町まで滅ぼされたことがあるようだ。このため現在は神龍の住処に行く道は警備されており、変な人間が入り込まないようにしているらしい。

 ちなみに魔獣で竜と言われるものはいるけど、それは翼竜や蜥蜴が進化したものであり、龍とは根本的に異なるもののようだ。

 神龍についてのパンフレットのようなものが置いてあったので読んでみる。

『遙か昔、龍は魔獣という扱いでした。倒せば大きな名声が得られる、とてつもない魔獣石が手に入る、龍のためた宝が手に入るというようなことで何度か討伐隊が組織されました。もちろんすべて撃退され、そのたびに大きな被害を受けていました。
 大規模な討伐が行われたときにはその報復で、国が滅びてしまったこともありました。このタイガ国の前にあったスライン国がまさしくそうでした。またその力を国の力であると偽って他の国を制圧しようとした国もありましたが、そのような国は龍に滅ぼされています。
 今から300年ほど前にタイガ国が建国されたとき、魔獣扱いであった龍を神龍と呼び、あがめることとなりました。それに伴い、この監視塔を建設し、討伐しようとするものが入らないように見張ることとなりました。これにより神龍は人を襲うこともなくなり、平和な時代が続きました。
 しかしながら今から150年前にハクセン国より侵攻を受けタイガ国は滅亡の危機となりました。その際にハクセン国はこの神龍にも目をつけ討伐をもくろみました。しかし神龍の力により兵士は全滅し、さらに遠征に来ていた他のハクセンの兵士達の多くが撃たれたのです。
 このときタイガ国の兵士にも若干の被害は出ましたが、多くのタイガ国の兵士は被害を免れました。このおかげでタイガ国はハクセン国を追い出すことができ、ハクセン国と不可侵の条約を結ぶことで平和が訪れました。
 このためタイガ国はさらに神龍への信仰を集め、現在は神龍が安心して過ごせるように見張っているのです。』

「神龍っていうのは日本の龍という感じかと思ったけど、描かれている絵を見るとちょっと違うね。体は結構長いけど、全身が白い毛で覆われているみたいで、顔つきは狼のような感じだ。なんか果てしない物語に出てきたドラゴンみたいな感じだな。」

 まああくまで自分が記述を読んで日本で言う龍のイメージだったから龍と言っているだけなので違っていて当然だろう。

「そうね。でもドラゴンでもないし、まだ龍といった方がニュアンスは近いかもしれないわ。英語だったら“Cryptid”って未確認生物ってなるけどね。」

「記述では体の長さは30キヤルドと書かれていたから結構大きいと思うんだよね。これって羽で飛んでるわけじゃないよね。」

「普通に考えたら飛べるフォルムじゃないし、魔法で飛ぶと言うことなんでしょうね。」

「やっぱり魔獣とは違う生物なのかな。まあ機会があれば見てみたいけど、そうそう見ることが出来ないみたいだからまあいいか。」


 すぐに出発してから南下していくけど、タイガ国はやはり国力が低いのか街道の整備ができあがってない感じで振動が結構大きい。魔獣よけのレベルも低いのか結構近くまで魔獣が来ているところがあった。

 途中にある町に少し寄りながら走って行ったけど、泊まるのは拠点だけにした。温泉とかあれば泊まってみたいけど、特に目を引くところはなかったからね。なので町に入っても食事をするだけだ。特に何が起こることもなく7日ほどして無事に王都のヒョウマに到着する。

 こっちは結構米の栽培が盛んみたいで町の近くには水田が広がっていた。途中に結構川も多いので水も豊富なんだろう。料理は香辛料のきついものが多いんだけど、煮付けのような料理も多い。もしかしたら日本に一番近い国なのかもしれない。箸を使う文化もあったしね。山に囲まれていたので文化が独自に進化したのかもしれないなあ。


 王都のヒョウマにやってきたけど、町の大きさは思ったよりも小さかった。アーマトと同じくらいかな?ここでも貴族の門から入ったのですんなりと中に入ることができた。

 鍛冶屋を覗いてみると、武器の方はそこそこ充実しているけど、ハクセンと比べると見劣りしてしまう。まあこれはしょうがないだろう。もしかして刀とかが置いているかなと思ったんだけど、残念ながらそのような武器はなかった。ただスキルにあるからこの世界にもあると思うんだけど、よほど貴重なのか、もう技術が失われてしまったのか・・・。
 他の店もちょっと今までと売っているものは違っているけど、途中の町でも見てきたものなのであまり目新しさはない。
 カサス商会に行って少し話をすると魔道具の注文が入っていたので魔符核を200個納品する。お金が厳しかったのでちょうどよかったよ。いくつか店のレイアウトなど助言をしてから店を後にする。


 とりあえずこの後の予定を立てるためにいったん宿を取って情報収集することにした。宿はトランという宿の1200ドールのツインの部屋にする。貴族でも一応平民用に泊まるのは問題ないけど、それなりの対応になることは理解している上となる。
 ただ、お金をある程度落とす目的と、威厳を保つ為ということもあり、それなりのところに泊まるのが普通らしいので平民用の宿に泊まる貴族はほとんどいないようだ。まあ自分はあくまで貴族相当だからね。気にしていられない。
 夕方までいろいろと調べ物をしてから夕食は適当に入った店で食べることにしたが残念ながら外れだった。というか、辛すぎて食べられなかったという・・・。うーん、まあこういうときもあるな。

 宿に戻ってからジェンと少し話をする。

「ここ最近まともに狩りをしてないからここで少し狩りをしていこうと思っているんだ。」

「たしかにそうね。最近は冒険者カードの維持のために少し狩りをしたくらいだったわね。」

「こっちしかいない魔獣を中心に狩りをしてみようかと思っているんだけど、できれば年内にヤーマンには戻りたいのでそこまでゆっくり出来ない感じかな。」

「まあ、とりあえずはやれるだけやってみましょう。」

「うん。そのあと4月にはサクラに戻らないといけないけど、雪解けとか確認しながら北上していくことになると思うよ。」

 とりあえず大体の方針を決めたところに眠りにつく。


 翌日の町を出発して車を走らせて東へと向かう。昨日調べたところ、魔獣の種類や出現率を考えると東にあるチルトという町が良さそうだったのでそこでしばらく狩りをすることにした。
 街道の整備があまり良くなくて速度を出しにくいことと、魔獣の対応のため距離の割には思ったよりも時間がかかり、8日目の昼すぎにやっとチルトに到着する。町は前線基地という感じでかなり高い城壁に囲まれたところだった。

 到着してからまずは役場に行って辺りの狩り場についての情報を集める。狩ったことのない魔獣は初階位の魔猫、土蛙、並階位の魔豹、牙豹、魔鹿、岩蛙、上階位の大牙豹といったところだ。ただ豹関係はあまり見つからないらしいのでどこまで見つけることができるかがネックだな。収入はあった方がいいけど、まずは倒したことのない魔獣を狩るのを優先だ。
 利用者に対していい宿が少ないこともあってツインの部屋で首都と同じく1200ドールとなったのは仕方が無い。狩り場は自分たちなら十分日帰りができる範囲なので宿は連泊にしておいた。食事を出来る場所も結構あり、値段の割には肉関係の料理の結構安いのはそれだけ素材が多いのだろう。


 翌日、北の森までは走って30分ほどで到着。このあたりまでやってきている冒険者は少ないみたいで魔獣の数はそれなりに多い感じだ。冒険者だけで討伐が間に合わず、兵士が定期的に討伐していることも多いみたいだしね。

 まずは森の周辺から索敵して魔獣を倒していく。さすがにこのレベルの魔獣だと特に問題なく倒していくことができる。
 豹関係は隠密のスキルを持っているみたいで索敵しにくいようだけど、索敵レベルも3まで上がっているのでまだ大丈夫だろう。解体は後回しにして。まずは見つけた魔獣を片っ端から狩っていく。今回は訓練よりは殲滅速度を優先なので魔法もどんどん使っていく。

 さすがにミスリルの剣は前に使っていた鋼の剣とは切れ味が違う。重さは前の鋼の剣よりは若干軽くなったんだけど、手になじむ重さだ。重い方が威力は増すんだけど、その分扱いにくいしね。骨があっても結構すっぱりと切れてくれるのはありがたい。

 ジェンの短剣の重さはあまりかわらなかったみたいだけど、やはり切れ味がよくなっていい感じらしい。切り口を見ると一目瞭然だ。しかもミスリルは切れ味が悪くなりにくいのでその点も助かる。

 さすがに大牙豹は体躯が大きくて結構驚いた。牙豹までは大きな猫といった感じだったのに、いきなり地球の豹レベルになるんだもんなあ。最初にこちらが見つけて風魔法でダメージを与えられたから良かったけど、ちょっと怖かったよ。

 一応交代で前衛を務めながら森の奥へと入っていき、日が傾いてきたところで町の近くの川に移動してから魔獣を解体する。初めての魔獣は自動で解体はできないので数をこなさなければならない。まあ1週間も狩りをすればなんとか自動解体ができるようになるかな?

 解体が終わった後は浄化魔法で綺麗にしてから町に戻る。素材関係はここよりも他の町の方がいい値段がつくみたいなので売るのはやめておいた。まあ収納バッグにはまだまだ余裕があるから大丈夫だろう。

 町に戻った後は装備の手入れをしたけど、防具とかの調整や修理も簡単にできるようになっているので助かる。まあ本格的な作業は道具を出さないとできないので無理だけど、それでも今までよりもきちんと整備できるので装備の持ちが変わってくるだろう。


 翌日からも同じように狩りをしていたんだけど、空から魔獣に襲われそうになって焦ってしまった。索敵は上方向にはあまり遠くまで行っていないので気がついたときにはかなり近くまでやってきていた。先にジェンが気付いて攻撃してくれたからよかったけど、腕をかすめてしまった。
 すぐに風斬と水弾で攻撃すると、運良く当たってくれて地面に落ちてきたので大慌てでとどめを刺す。襲ってきたのは魔鷹という良階位の魔獣だった。よく倒せたな。
 良階位の魔獣と言っても、今のような不意打ちをするために一つ上と区分されているけど、ちゃんと落ち着いて戦うことができれば上階位とそこまで強さに差がないらしい。この攻撃を受けてから索敵の範囲を面ではなく、球体に変えることにした。このため索敵範囲が狭くなってしまうのはしょうが無いところだ。

 朝から晩まで狩りを続け、9日目になんとか目標の自動解体ができるようになった。ただレベルは4にはなかなか上がってくれない。まあ魔獣の解体回数が絶対的に足りていないんだろうからしょうが無いよね。


 チルトの町を出発してから結構強行軍で港町ジャルガにやってきた。というのもヤーマン行きの客船はしょっちゅう出ているわけではないと聞いたからだ。のんびりしすぎたか?
 さすがに南に下ってきているせいか、冬なんだけど大分暖かくなってきている。秋くらいの気温かな?4日目の昼をまわったところでなんとかジャルガの町に到着できた。

 ジャルガの町はさらに木造建築が増えて低い民家が多く、日本の港町という雰囲気だった。オカニウムとはちょっと違うね。丘の斜面に町が造られており、細い坂道が多い。
 まずは事前に聞いていた少し高台にある海風という宿を予約する。ツインで1000ドールなんだけど、ここで食事をとれば食事代は3割引になるらしい。

 宿の予約を終えてから早速船の予約に向かう。天候に問題が無ければ2日後には出航するらしく、到着まで順調にいけば7日間なのでなんとか年内にはヤーマンに到着できるようだ。これを逃すと出航は1ヶ月後になるらしい。危なかったな。

 港で乗船案内に従って建物に入ると乗船券の予約を行っているカウンターがあった。値段も張り出されているんだけど、やはり結構高い。でもタイガからヤーマンにハクセン経由で行くことを考えると時間と金額が半端ないし、山は切り立った断崖で越えるのは普通に考えて無理みたいだからね。それを考えると7日間で行けるなら値段が高くてもやはりこっちを選ぶんだろうな。

 もちろん船室のランクが低ければ安いんだけど、一番安い部屋は雑魚寝みたいだからねえ。それでも一人6千ドールだ。まあ宿6泊と護衛を考えたらそんなものか。
 個室は4人まで入ることができるけど、一部屋3万5千ドールで、高い部屋は5万ドールとなっている。雑魚寝はさすがにないので個室を取ろうと思ったけど、すでに売り切れの案内が出ていた。

「すみません、個室ってやっぱりもう空きはないんですか?」

「ええ、すべて完売しています。もし個室を希望であればキャンセル待ちを受けることは出来ますが、空く保証は出来ません。他にもキャンセル待ちの方がおられますので、順番に案内することになります。」

「わかりました。ちょっと相談してきます。」


「どうする?さすがに7日間も雑魚寝は辛いと思うよ。」

「雑魚寝ってどんなものなのかよくわからないけど、他にないならしょうがないんじゃない?」

「地球で1泊とか2泊のには乗ったことがあるけど、10人とか20人とかが同じ部屋だったよ。ベッドじゃなくて簡単なマットと毛布で寝る感じでスペースもかなり狭かったし、同じ部屋の人でいびきがひどい人とかいたら最悪だね。案内で見る限りそれとそんなに差はなさそうだよ。」

「それはさすがに辛そうね。」

「かと言って次の便というわけにもいかないし、とりあえず押さえておいて部屋の方はキャンセル待ちにするか?」

 ふと近くのカウンターを見ると貴族用の案内が出ていた。

「もしかしたらあっちだったら空いているかも。」

 貴族用のカウンターに行って話を聞いてみると個室はまだ空いていたけど、値段ももちろん高かった。

「すみません、これってハクセンの貴族でも部屋は取れますか?」

「はい、もちろん大丈夫です。」

「「よかった~~~。」」

「それじゃあ予約をお願いします。」

「えっと、貴族の方本人の証明か委任状がいるのですが、こちらに来られていますか?」

「ああ、これが証明証です。」

 自分たちの身分証明証を渡す。

「し、失礼しました。ご本人様ですね。それではどの部屋をご希望でしょうか?」

 一番安い部屋で6万ドールとかなりの値段なんだが、上は40万ドールとなっていた。ただ、もう大体の部屋は埋まっていて空いているのは6万と8万と20万の部屋だった。うん、選択の余地はないな。6万ドールでも部屋は十分に広いからこれでいいだろう。

「それじゃあこの6万ドールの部屋でお願いします。」

「いえ、こっちの8万ドールの部屋で。」

「え?」

「こちらでお願いします。」

 なんかよくわからないけどジェンが強引に決めてしまった。まあ、お金には余裕あるからいいけど。さすがに20万の部屋はないしね。後で聞くと、部屋にお風呂がついていたらしい。

「とりあえず部屋が確保できてよかった。貴族なんてなってもしょうがないと思っていたけどこっちの世界では結構役に立つね。」

「ほんとそうね。地球だったらだいたいの場合は身分よりお金の方が強いからねえ。」

 船は岸壁に停泊しており、かなりの大きさのようだ。まあ地球で有名な豪華客船よりは小さいけどね。



 このあと新鮮な魚が手に入れられないかと思って漁港にやってきたんだけど、さすがに市場のようなところはしまっていた。折角だから色々仕入れたいから明日の朝一でやってこよう。

 宿に戻って、夕食は宿で食べることにした。魚メインの食事でなかなか美味しかった、ちょっと塩味が濃い目かな?もちろん刺身なんて物は出なかったけど、天ぷらのようなものは美味しかった。



 翌日0時前に漁港に行ってみるとすでに開いている店があった。マグロのようなものやブリのようなもの、イカなどもあったのでいろいろと買っていく。今日のお昼にでもさっそく食べることにしよう。

 いったん宿に戻って朝食を取ってから役場に行って実績の更新を行う。良階位まであと13万ポイントくらいらしく、かなり速いペースのようだ。まあ依頼の実績ポイントが結構大きかったからね。このあと素材を換金してから香辛料などこっちでしか売っていない物を購入する。


 お昼は宿の調理場を借りて魚を捌いてから刺身を食べる。久しぶりの刺身を堪能していたんだけど、変な目で見られてしまったよ。美味しいから・・・。

 昼からはいろいろと店を見て回り、服なども購入。宿に戻ってから収納バッグの荷物の整理をすると、思った以上に荷物がたまっていた。定期的に整理しないとまずいね。
 収納魔法はまだレベル1のままなのでそれほど収納できないけど、レベル2になれば結構広がるからなあ。そうしたら収納バッグも必要がなくなるかもね。そのときの持ちたい量にもよるけどね。正直言って荷物はいくらあっても足りないくらいになってきている。

 荷物の整理に思ったよりも時間がかかったため、夕食も宿で食べることにした。食事を終えた後、明日に備えて早めに寝る。



 今日の1時に出航というので朝食をとってから早々に船着き場にやってきた。遠目にはそこまで無いと思っていたけど、近くで見ると船は思ったよりも大きいのでちょっと驚いた。地球のクイーンなんとかとかいうレベルではないけど、十分大きい。今まで乗ったことがあるのは瀬戸内のフェリーぐらいだったからなあ。
 資料では見ていたけど実際に見ると余計に大きく感じる。全長200キヤルドで高さは25キヤルドとか書いてあったから高さは10階建てくらいの感じか?

 港には乗船客と見送り客が集まっていてかなりごった返している。乗船は貴族と平民で乗るところが違うようで、貴族用の乗船口はかなり空いている。

 貴族用の乗船口に向かうと、「こっちは貴族用だ、平民はあっちに並べ!!」と厳つい船員に追い返されそうになってしまった。
 チケットを見せると驚いた顔をしていたが、いくら何でも態度が悪すぎだよ。いくら貴族に見えないと言ってもせめてチケットの確認ぐらいしてよね。まあ、周りを見てみるとみんなちょっと立派な服を着ているので、普段着の自分たちはちょっと浮いているかも。

「やっぱりもう少しちゃんとした服で来るべきだったかな?」

「どのくらいがいいのか分からなかったからちょっと程度のいい普段着で来たけど、船の中ではちょっと考えた方がいいかもしれないわね。」

 すぐにその上司と思われる人がやって来たのでチケットと身分証明証を提示したら、ハクセンの貴族とわかってかなりうろたえていた。


 貴族の場合は部屋まで案内が付くみたいで、荷物も運んでくれるようなんだけど、特に荷物はない。「え?荷物はないんですか?」と驚かれていたけどね。収納バッグはあってもある程度荷物を持つのが一般的らしい。ポーターに仕事をさせるためかな?

 貴族エリアと平民エリアは船内では完全に分けられていてお互いに行き来はできないみたい。貴族エリアは乗船してすぐにエレベーターで船の上層階へ移動したところにあった。船室へ向かう途中で船の設備案内をしてもらったけど、いろいろ施設があるのでとりあえず退屈はしないですみそうだ。

 部屋に案内されて中を見ると、かなり広くてベランダまであった。ベランダもかなりの広さだ。部屋にはシャワーだけでなくお風呂まであって、お風呂からは外が見えるようになっていた。いい感じの部屋だ。ただ、寝室は別部屋で広いのはいいんだけど、ベッドが一つというのはどういうことだ?ジェンの方を見ると目を逸らしてどこかを見ていた。

「なあ、どうしてベッドが一つなのかなあ?」

「ど、どうしてだろうね。こっちの方が上の階で部屋も広そうだったし、良さそうだったからこっちにしたんだよ。
 だってあっちだったら部屋にお風呂もなかったでしょ。いやー、まさかダブルの部屋だったとは思わなかったわ。」

「本当か?」

「・・・ごめんなさい。わかっていたけどお風呂があったほうがいいと思って。だってイチはお風呂大好きでしょ?ベッドが一つだってわかったら断ると思って。」

「・・・ありがとう。」

 もう同じベッドでも驚かないよ。だけどこれっていいのかなあ。

「そ、それっじゃあ、船の中を探検に行こう!!」


 部屋を確認したあと、デッキに行ってみると思ったよりも大きなプールがあった。7日間もあるからいろいろゆっくりはできそうだな。運動するスペースもあるので訓練もできそうだ。
 デッキも貴族エリアの上層階と平民エリアの下層階で分けられているみたいで、こっちはかなりゆったりしているんだけど、下の方は人数に対しては狭い印象だ。すでに結構な人でごった返しているしね。まあ乗船代金が全く違うのでしょうがないと言えばしょうが無いだろう。まあこのあたりのことは気にしてもしょうがないのでせっかくの優雅な船旅を満喫しよう。

 船の中を色々と探検していると思ったよりも時間がかかってしまった。船の貴族エリアには食堂が2つ、遊技場、舞台などがあり、舞台では定期的に演劇やコンサートが行われるようだ。遊技場にはトランプのようなゲームやビリヤードのようなもの、ボードゲームなどが置いてあり、ギャンブルのコーナーもあった。
 デッキのプールの横にはテーブルやイスが常備されており、自由に使っていいらしい。食事もここで食べることができるようだ。うーん・・・贅沢だねえと思ったんだけど、ジェンはもっと豪華な船に乗ったことがあるらしく、まあ及第点ねとか言っている。
 部屋のカードを見せると基本的にすべて無料で使用できるようだけど、もちろんギャンブルやお酒などは別扱いだ。まあ当たり前だけどね。基本的な食事代まですべて込みというのはちょっと慣れないけど、こんな客船では普通らしい。

 お昼は食堂で海鮮料理を味わってからせっかくなのでプールに入ることにした。もちろん外は暑いという季候ではないんだが、ここは暖房設備が設置されており、プールの水も温かいというなんとも贅沢な状態だった。冬なのに夏の雰囲気が味わえるというのもいいねえ。
 ジェンの水着姿はありがたく見させてもらうんだけど、他の人の視線がちょっと気になる。心が狭いなあ・・・。だけど、プールであまり体を寄せられるとちょっと・・・。プールサイドでジュースを飲んだりしてくつろいでから夕食は食堂のミニコンサートを聴きながらとる。

 夕食の後は海を眺めながらのんびりと湯船に浸かる。大きな湯船なのでかなりリラックスできる。贅沢だなあ・・・。寝るのは同じベッドなんだけど、ベッドは広いので特に問題は無い。まああとは寝ているときに何もしないことを祈るだけだ。


 翌日からは朝早めに1時間ほど訓練をしてから朝食を取り、午前中は魔道具の作成などをする。部屋も広いので、防音装置を使えば鍛冶も問題なく出来るのは良かった。
 午後からはゆっくりと過ごすという形で船旅を楽しんだ。一人だったらかなり寂しいと思うけど、ジェンと一緒にいると退屈しなくていい。

 コンサートを聞きに行ったときに楽団にお願いしてジェンもバイオリンを弾かせてもらったんだけど、かなり好評だった。せっかくだからと2回ほどプロに交じって一緒に演奏させてもらっていた。しかも伴奏付きとはいえ、ソロでの演奏はすごかったなあ。かなり勧誘されていたけどね。

 航海の途中で水生の魔獣も襲ってくることはあったけど、そこは慣れた船員が速攻で倒していた。まあ襲ってくると言っても小型の魔獣なので結局は船に損害を与えられるレベルではないんだけどね。
 倒した魔獣は回収することもあるけど、基本的に放置のようだ。まあいちいち船を下ろしたりはできないよね。できれば解体作業とか行ってみたかったんだけどねえ。水生の魔獣を解体する機会は少ないからな。

 途中で船の見学会があったのでせっかくだから参加してみた。船の推力はプロペラではなくジェット水流という感じの推進方式だった。水魔法と風魔法で船の後方に海水を勢いよく噴出することで前に進み、左右方向には舵と横についたジェット噴射で方向変換するようだ。
 船の設計は古代の遺跡で発見された構造に基づいて造られているらしいので、船の大きさは何段階で決まっているらしい。船の黄金比のような物があるとか言っていたような気がする。特に運河とかも無いようなので船の幅もあまり気にしなくていいのだろう。地球では運河の大きさに合わせているとか言う話を聞いたことがある。

 途中嵐に遭うことも、大型の魔獣に襲われることもなく、順調に航海は進み、予定通りにオカニウムの町に到着できた。帰ってきたぞ~~~~!!


~ジェンSide~
 タイガ国は国の雰囲気とかが日本に似ているところがあるとちょっと懐かしそうにしていた。両親が旅行が好きで日本のいろいろなところ、日本の文化をいろいろと体験させてくれたみたいだからね。

 帰りは船で移動することになっただけど、個室がないと聞いたときはちょっと困ってしまったわ。雑魚寝というものがどんなものなのかよく知らなかったけど、イチに聞いた限りではさすがに7日間はきつそうだったのよね。貴族の職位をもらっておいてほんとによかったと思ったわ。

 開いている部屋を見ると残っているのは3つだけだった。一番下で6万ドールだけど、宿屋と比較すると十分な広さがあった。イチは広さを確認して6万ドールの部屋を予約しようとしたみたいだけど、8万ドールの部屋にしてもらった。
 6万ドールの部屋にはシャワーしかないんだけど、8万ドールの部屋にはお風呂がついているみたいだったからね。ただそっちの部屋はベッドが一つだけだったんだよね。イチは気を遣うかもしれないけど、せっかくならお風呂がついている方が喜ぶと思うのよね。
 それにもう今更だと思うのよ。ベッドを並べて寝ているんだし、いつも寝ているのとほとんど変わらないのに、同じベッドというのになぜか抵抗するのよね。

 船に乗った後、イチには問い詰められたけど、お礼を言われてやっぱりこの部屋にしてよかったと思ったわ。やっぱり海を見ながらお風呂に入れるというのはよかったみたい。夕日を見ながら珍しくお酒とかを飲みながら湯船に浸かっていたしね。

 船の旅は久しぶりにのんびりできたわ。もちろん訓練とかはやったんだけど、それでもくつろげた。たまにはこういう風にのんびりするのもいいわね。こっちの世界に来てから2、3日休憩することはあったけど7日間ものんびりすることはなかったからね。
 こういうバカンスのようなことをまたやりたいというとイチも賛成してくれた。そうは言っても何もしないとなかなか動かないから私の方で考えた方がよさそうよね。



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レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

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