【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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73. 異世界801日目 褒章の授与とサクラでの生活

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73. 異世界801日目 褒章の授与とサクラでの生活
 クリスさんたちの結婚式から少したったころ、朝食をとって出かける準備をしていると宿の受付に王宮からの使いが来ていると連絡があって驚いた。王宮から?クリスさんはもう関係ないはずだよね?

 大急ぎで準備をしてからジェンと二人でロビーに行くと、ロビーの横にある部屋に案内される。こういうところは応接室のようなところがちゃんと用意されているようだ。
 部屋に入るといかにも役人という感じでこっちの世界のスーツのようなものを着た男性が立ち上がった。30歳くらいのちょっと気弱そうな感じで顔にはあごひげを蓄えている。
 部屋の中央にテーブルがあり、全部で8人くらいはかけられそうなくらいのソファが周りに置いてある。ちょっとというか、かなり高級そうな感じの絵画や家具が置いてあるので上流階級の人のための部屋なんだろう。

「初めまして、私は王宮の事務部門に勤めるラウソンと言います。」

「初めまして。自分はジュンイチと言います。」

「初めまして。ジェニファーです。」

 とりあえず簡単な挨拶を済ませた後、席を勧められたのでラウソンさんの正面のソファーに座って話を聞くことにした。

「急な訪問にも関わらず対応いただきありがとうございます。
 本来であれば事前に連絡をしておくべきなのですが、冒険者の方に対してはできるだけ早く連絡しなければ連絡が取れなくなるということもありますので、このような形になったことをお詫びいたします。」

 冒険者だといきなり出かけていなくなっているということは確かにあるかもね。

「さて、今回訪問させていただいたのは褒章に関する件です。このたび、お二方の国への貢献が認められて褒章されることとなりました。誠におめでとうございます。」

 褒章?国への貢献ってなんだろう?この間のクリスさんのことなのか?でもすでに王族ではないので国への貢献とはならないよなあ?

「褒章といわれても、ヤーマン国に貢献するようなことに心当たりがないのですが・・・。」

「詳細についてはまた後日説明があると思いますが、行政部門での教育や運用方法に多大なる貢献があったと聞いています。」

「教育や運用方法?」

「イチ、あれじゃない?前に国王陛下にお会いしたときにクリストフ殿下に説明したやり方を使わせてもらえないかと言われたじゃない。」

「ああ、あれか。教育方法のマニュアル化とかひな形の作成とかだったよね。」

 こちらの話が一段落したところでラウソンさんが続きを話し出した。

「よろしいでしょうか?

 そこで近いうちに褒章式が行われる予定ですが、ご都合をお聞きたいと思い訪問させていただきました。今のところ2日後の4月15日の2時が候補となっております。もし不都合がないようでしたらこの日程で進めさせていただきたいと思いますがいかがでしょうか?」

 かなり急な話だなあ。なにか事情があるのかもしれないけど、国から褒章をしてくれるというのに断る選択肢はないか。まあそれ以前に断ることができるのかもわからないし。
 ハクセンでももらったけど、意外と役に立つことも多かったからね。この世界で生きて行くにはあって損はないだろう。

「ジェン、特に予定というのもないので大丈夫だよね?」

「大丈夫だと思うわ。せっかく時間をとってもらっているのにまた調整してもらうのも悪いからね。」

「そういうことなのでその日時で問題ありません。当日は王宮の方に直接行けばよろしいのでしょうか?あと服装など注意する点などはありますか?」

「ありがとうございます。それではその日程で進めさせていただきます。当日はこちらの宿に宿泊しているのであれば1時半にお迎えに上がります。」

 このあと他の注意点についていくつか確認をとっておいた。服装は冒険者と言うことなので防具でもいいようだが、ハクセンで作った服を見せると、その衣装が一番よいと言われたのでほっとする。


 ラウソンさんを見送った後、ジェンと話をする。

「ハクセンだけでなくヤーマンからも褒章を受けるとはなかなかすごいことだねえ。まあ、どのクラスの褒賞を受けるかわからないけど、普通に考えたら一番下の赤玉章か下から二番目の紫玉章だろう。爵位に相当する緑玉章ということは無いだろうしね。」

「下位爵が二つあってもしょうが無いと思うから何かもらえるだけでもいいと思うわ。一応準位爵ということにはなるみたいだけど、これでもかなりありがたがる人も多いと思うから何かの時には役に立つかもしれないわ。」

 とりあえず二日後には王宮に行かないといけなくなったのでちょっと面倒だけどしょうが無いだろう。服についてはハクセンで作ってもらった衣装が役に立って良かった。結婚式では使わなかったので使う機会が無かったんだよね。



 二日後に約束したとおりラウソンさんが迎えにやってきた。宿の前に王宮からの迎えの車が着いたんだけど、やはりわかる人にはわかるみたいでかなり目立っていた。さすがにこんなに注目されるのはつらいので裏口に回ってもらったよ。自分たちも正装をしているので余計に目立つしね。
 今回は指示されたとおりハクセンでもらった緑玉章も胸につけていくことにした。正式な場では持っている玉章などはつけていくものらしい。

 この玉章なんだけど、形は長方形の下に丸がついているようなもので、丸い部分は50ヤルド(5cm)くらいでガラスのような半球がはまっている。自分が持っているのは緑色だけど、褒賞の種類によって色が異なるみたい。
 上の長方形の部分は銀色で複雑な文様が施されており、国名が刻まれている。ここのデザインは国によって異なるみたい。

 王宮の途中のゲートは確認もなく入ることができた。王宮の車に乗っているからね。そうは言ってもおそらく索敵系の魔法は使われているだろう。

 王宮に入ってから待合室のようなところに通されたけど、さすがに豪華で緊張してしまう。部屋にいるメイドさんがお茶菓子を用意してくれたんだけど、緊張して飲む気持ちにはなれない。横でお菓子を美味しそうに食べているジェンがうらやましいよ。

 時間になったところでラウソンさんに先導されて褒章が行われる部屋に移動する。廊下を歩いて行き、豪華な扉の前に連れてこられた。扉の両側には兵士が控えており、扉の上には”授与の間”と書かれていた。ここからは自分たちだけで入らないといけないみたい。

 ドアをくぐって入った部屋は、大広間ではないんだけど、やはりそれなりに広いところだった。中央に青い絨毯が通路のように敷かれている。その奥の中央の高い位置にある玉座には国王陛下が座っており、その左右に大臣と思われる人が3人ずつ立っている。二人ほどは前に見たことのある顔だ。もちろん話したことはないんだけどね。
 段の下の左右には兵士が2人立っているが、それ以外にも扉の横と壁の付近にも兵士が立っている。まあ何かあった時にすぐ対応するためだろう。他に何やら大事そうなものを持った人がいるのでおそらくあれが褒章されるものだと思う。

 二人で青い絨毯を並んで進み、先に言われていた印があるところで立ち止まり、そこで片膝をついて頭を下げる。右手は胸の前に当てて、左手は地面につけて言葉を待つ。これはハクセンで習ったものだ。

 しばらくして、今回の受賞になった経緯の説明が始まった。予想通り以前話をした教育、指導方法の効率化についてだった。採用してしばらくは少し混乱があったようだけど、かなり効率が上がったらしく、王宮内のみではなく、国の行政機関すべてに広がっているらしい。
 さらに詳細については伏せられたが、王家に関わる重要事項を解き明かしたと言うことで追加で褒賞が与えられることになったようだ。これは古代遺跡のことだろう。

「我が国のために貢献した褒章として緑玉章を授けることとする。」

 そう言って国王陛下より言葉をもらい、係の人から褒賞を受け取る。緑とは驚いたな。これってここでも下位爵になるってこと?

 国王陛下が退出した後で、横にいた一人から別室へ案内された。案内をしてくれたのは財務大臣の秘書のマカトシンという人で、今回の褒章の経緯について詳細に説明される。

 1年ほど前にまずは事務部と環境部の部署からマニュアルによる新人教育が開始されたらしい。最初のマニュアルを作るのに時間はかかったが、それを使って教育することにより、教育期間の大幅な時間短縮、作業内容の統一、文字が読めない人への絵による説明などでかなり効率化されたようだ。
 特に提出書類についてはミスや修正の大幅な減少によってかなりの効率化が図れたらしく、また長年取り組んでいた報告書類の統一も進めることができたようだ。
 もちろん国王陛下からの肝いりの命令であったことも一気に改善が進んだ要因の一つだけど、その命令の根幹となったのがこのシステム化だったと言うことは間違いないと判断されたらしい。
 もちろんこの改革により、不遇を受けた人間もいたようだけど、国王の命令だったこともあり、表だって批判する人間はいないようだ。効果も目に見える形で出ているので最初に批判的だった人たちも今では大人しいようだ。
 ただあまり表だってこのアイデアの提案者のことを言ってしまうと、二人に迷惑がかかるかもしれないと言うことで大々的な発表とはならなかったらしい。

 今回の褒章は実際に恩恵にあずかった人達からも声が上がっていたことから一番下の赤玉章ではなく紫玉章が授与されることとなったみたいだ。
 その内容で受章を進めていたところで、今回のクリストフ王爵の事件があり、詳細は公開されていないけど、王家にまつわる懸案事項の解明に貢献したという業績が出たため、一つ上の緑玉章の受賞となったらしい。

「すでにハクセンでも同等の褒賞をもらっていると聞いているのでわかっていると思うが、ヤーマン国でも下位爵に相当する身分となる。2つの国で爵位を持っているものはゼロではないが、かなり珍しい事例となる。国によっては二国の爵位があれば一つ上の爵位と見なすところもあるくらいだ。
 ただ、その分、あまり変な行動をしないように心がけてもらわねばならないので、そこは理解してほしい。」

「わ、わかりました。」

「あと、報奨金として一人100万ドールが授与されるので身分証明証の書き換えとあわせて窓口で申請してくれ。」

 ハクセンは口止めもあったのであの金額だったと思うけど、こっちでは少ないとはいえ一人100万ドールは大きいな。

 部屋を出てから窓口で身分証明証の更新をしてもらい、お金についても振り込んでもらうことにした。身分証明証はこんな感じになった。

名前:ジュンイチ
生年月日:998年10月30日
年齢:19歳
国籍:ヤーマン国
職業:冒険者(上階位・アース) ハクセン下位爵、ヤーマン下位爵
賞罰:ハクセン緑玉章、ヤーマン緑玉章

名前:ジェニファー
生年月日:998年12月15日
年齢:19歳
国籍:ヤーマン国
職業:冒険者(上階位・アース) ハクセン下位爵、ヤーマン下位爵
賞罰:ハクセン緑玉章、ヤーマン緑玉章

 なかなかすごいね。貴族の特権が強い国に行くときには役に立つかもしれないね。



 ジェンに告白した後、付き合い始めた記念だといってしばらく訓練などもやめて二人でいろいろなところに行った。
 買い物に行ったり、いろいろ食べ歩いたり、演劇などを見に行ったりと今までも休みにはしていたことなんだけど、今までよりジェンとの距離が近くて今まで以上に楽しかった。今まで以上にジェンが愛おしかった。今まで以上にジェンが輝いて見えた。
 ジェンが最初から普通に手をつないでくるので、手をつなぐのをためらうという期間はなかったけど、時々外で腕に抱きついてくるのでちょっと興奮してしまって困ってしまったのは内緒だ。

 知り合いに会うと冷やかされることもあったけど、自分たちのことを祝福してくれてうれしい反面、ちょっと恥ずかしかった。


 本当は今までのようにいろいろと冒険をしてみたい気持ちもあったんだけど、それよりも切実な問題があったのでなかなか踏ん切りがつかなかった。

”いつ地球に戻るのかわからない。”

 お互いにお互いのことを忘れるかもしれないということが心配だった。ジェンのことを絶対に忘れたくないけど、こればかりはどうなるかわからないのだ。
 ただ長い間一緒にいていろいろなことを経験していけば少しでも多くの記憶が残るかもしれない。そのためには他にどうすればいいのかわからないまま、デートを重ねているという状態だった。

 それで出した答えは一緒に暮らそうと言うことだった。いままでも一緒に行動してきたんだけど、やっぱり冒険者のパーティーメンバーという側面が強かったから、環境を変えてみようと言うことになった。

 補償の問題もあり、上階位の冒険者が家を借りるというのはなかなか難しいんだけど、クリスさんの口利きで借りることができるようになった。あとでコーランさんにも話したら、コーランさんからでも紹介ができたようだったけどね。

 クリスさんに紹介してもらった不動産会社に行くと、すぐに担当者がやってきた。さすがクリスさんの紹介だけあるね。

 事前に調べた感じでは家賃は月に1万ドール以下のところもあるけど、せっかくならそこそこいいところに住みたいと考えている。2~3万ドールくらい出せばかなりいいところを借りられるらしい。
 今の特許の収入が月に20万ドールくらいあるので正直なところかなり豪華なところに住んでも生活費を含めてやっていけるくらいだ。冒険に出なければ防具とかの修繕費や買い換えも考えなくていいからね。まあ、この収入もあと1年くらいだけど。
 ただあまり大きなところに住んでも人を雇ったりしなければならなくなるし、自分たちが十分暮らせるくらいの広さで十分と考えると2LDKから3LDKくらいあれば十分か?
 サクラはさすがに王都だけあって家賃は高いらしいけど、広さとその建物の場所によって値段も変わってくるようなのでそこは現物を見てからだな。

 ちなみに今泊まっている宿は一泊2000ドールなのでそのまま30日泊まると6万ドールとかなりの額となってしまうので、この金額以内なら宿泊費は安くなると言うことだ。光熱費は別途かかるけどね。6万ドールって60万円だよなあ。この家賃なら東京でもかなりいいところに住めそうな気もする。
 お金もこの間の報奨金とあわせて500万ドールほどあるから普通の生活をするくらいなら十分なので大丈夫だ。


 事前に部屋の希望については連絡しておいたのである程度準備はしてくれているようだ。自分たちの希望を出して絶対に譲れないところ、譲ってもいいところだけはしっかり決めてから見た方がいいというのは以前からよく言われていたからな。

 最初に連れて行かれたところは家賃が40000ドールと結構高いんだけど、物件的にはかなりおすすめというところで、町の中心からは少し離れているけど一軒家となっている。
 部屋は5LDKに庭まであるので結構広いのはいいけど、ここまで部屋数が必要なのかという気もする。あとやはり中心街からは遠いので車を使わないといけないということと、買い物をする店もすぐ近くにないというのが難点だ。
 次に連れて行かれたのは、町の中心部付近のアパートの4階だった。家賃は20000ドールと安いけど、2LDKで部屋も狭いし、あと台所なども結構古いのが気になるところだ。ちなみにアパートにはエレベーターなどはないせいもあって、階層が低い方が家賃が高くなるみたい。
 このあといくつか見せられたんだけど、なかなかこれというところがない。最後にやってきたのは少し郊外のアパートの1階で家賃は32000ドールで3LDKというところだった。ここはリビングキッチンも広いし、小さいけど庭もあっていい感じだった。台所もある程度使い込まれているけど使い勝手は良さそうな感じ。周りにも結構店もあるので環境も良さそうだった。

 いったん店に戻ってからジェンと二人で話をさせてもらう。

「自分的には最後のところが一番いいと思うんだけどどうかな?」

「広さ的には最初のところが一番いいんだけど、ちょっと狭いような気もするけど利便性とか考えたらイチと同じ最後のところかな?」

「ええー、あれで狭い?二人しかいないんだよ。十分だと思うけど。」

「まあ、収納関係はいらないから普通に生活するには十分なのかな?」

 日本人が聞いたら怒られるよ。家族でも住めるレベルだって。

「それじゃあ、あそこで仮契約してから夜とかの状況を後で確認しに行こう。家を借りるときは時間によって周りの環境も変わるからできるだけ違う時間で確認した方がいいみたいだからね。」

「わかったわ。」

 係の人に話をして最後のところを仮契約してもらう。保証金として1000ドール納めておけば2日間は確保してくれるらしい。契約すれば最初の家賃に加えることができ、しなければ半分は没収されるけどそこは仕方がない。

 朝から回って宿に戻るとすでに夕方になっていた。思ったよりも疲れた・・・。店で早めの夕食をとってから仮契約をしたところに様子を見に行くと、暗くなってきているけれどそれなりに人通りもあって治安も良さそうだった。
 翌日も朝食を食べる前に見に行き、問題ないことを確認したあと、不動産屋に行って契約をすることにした。


 家を借りるときは半年単位での契約となっていて、最初に3ヶ月分の補償金を預けるのが普通らしい。補償金は退去するときに全額返却されるけど、部屋に大きな損害が出ている場合は補償金から差し引かれることとなるようだ。日本で言う敷金のようなものなのだろう。
 家賃は半年おきの支払いとなるみたいで、まずは6ヶ月分支払わなければならない。このため最初に最低でも家賃の9ヶ月分払わないといけないので結構大きい。
 そのあとは半年おきの更新となるけど、そのとき半年以内に出るのであれば希望する月数の家賃を払えばいいようだ。
 支払ったあとで、急遽出ることになった場合は、残りの月数から1ヶ月分を引いた月数の80%までが返金されるらしい。かなり貸し手に有利な契約だなあと思ったけど、公営の建物以外はこの契約が普通らしい。まあ土地や建物を持っている人が裕福になっていくのは仕方が無いのかね。

 今日からすぐに入居はできるようなので鍵を受け取ってから不動産屋を後にする。鍵はシリンダー錠の鍵だったので、魔法認証の鍵はまだ一般的ではないようだ。まあ宿も普通のところはシリンダー錠だったしね。
 これでジェンとの同棲生活が始まるのか・・・。やっぱり宿に泊まるのとはちょっと違うよね。


 借りたアパートは5階建ての建物で、建物の5階は共用スペースや倉庫となっているみたい。残りの各階に3軒ずつで自分たちを含めて12軒が生活しているようだ。
 部屋は40キヘル(m2)くらいのリビングキッチンがあり、その部屋からドアで15キヘルくらいの部屋が1つと10キヘルくらいの部屋が2つにつながっている。10キヘルの部屋は二つつなげることができるようになっている。残念ながらお風呂はついていないけど、脱衣所とシャワールームがあり、もちろんトイレも水洗がついている。二人で住むには十分な広さと言っていいだろう。
 今まで泊まった宿の床はカーペットやフローリングや絨毯みたいなものが多かったんだけど、アパートは石材の上にカーペットが敷かれているのが普通らしい。キッチン周り、シャワールームやトイレはタイル張りだ。

 庭は15キヘルくらいの広さで、前の住人が小さな菜園を造っていたらしく、半分くらいが畑のようになっていた。ここに倉庫のようなものを置いてもいいと言われているので鍛冶場を造るつもりだ。手間を考えると畑はさすがにやめておいた方が良さそうだからね。


 まずは浄化魔法を使って部屋の掃除から開始。家の中は日本スタイルにすることにしたのでリビングなどには絨毯を敷くことにする。それから家具などを配置していくけど、収納バッグから拠点で使っていたものを配置するだけなのでたいした手間ではない。キッチンについては前に買っておいた調理器具や皿などを棚ごと配置すれば完了だ。
 リビングにも拠点で使っていたテーブルやソファーを出せばそれでいいし、寝室もベッドを出せば完了だ。寝室は結局二人で共用と言うことにした。小さい方の部屋は今のところ二つくっつけてお客用として予備のベッドを出しておく。

 庭には小さいけど鍛冶ができる小屋のようなものを置く予定なんだけど、これは今度どこかで作って持ってこなければならない。これに防音関係の魔道具もセットすれば好きなときに鍛冶ができるかな。荷物の移動は楽だったんだけど、いろいろと配置を考えていると思ったよりも時間がかかってしまった。

 クリスさんにも引っ越しのことを伝えていたんだけど、忙しいにもかかわらず二日後にはやってきてくれた。部屋を見てから寝室はやっぱり同じなんだなと冷やかされてしまったよ。


~ジェンSide~
 ジュンイチに告白されてからしばらくは二人であちこちにでかけた。今までも色々と出かけていたんだけど、やっぱり今までとはまったく違っていた。お互いに好きという気持ちがわかっているとこんなに安心できるんだ。今までよりもずっとイチが輝いてみえる。今までよりもずっとイチが頼もしく見える。
 デートの時に手をつなぐとイチは驚いていたけど、ちゃんと握り返してくれた。最初は照れていたけどね。

 だけど、やっぱり不安だった。こんなに好きになったのに、地球に戻ったらすべて忘れてしまうかもしれないと考えるのが怖かった。絶対に忘れたくない。
 イチともいろいろ話をしたけど、このことについてはなにも答えは出なかった。あたりまえだ、誰も答えがわかるわけがない。唯一の望みは「記憶が”ほとんど”無くなる」と言われたことだ。

 結局いろいろな経験をすればより多くの記憶が残るかもしれないと言うことで、しばらくは今までとは違う生活をしてみようということとなり、家を借りることになった。

 結婚前には一緒に生活してその人のことをよく知っていた方がいいとは言われていたけど、これだけ長くいたら今更という気もするんだけどね。でも一緒に部屋を借りるというのは宿に一緒に泊まるよりもちょっと上のランクという感じだわ。


 不動産に案内してもらって色々と家を見ていったけど、思ったよりも狭いところだった。だけどイチが言うには普通に二人で生活するくらいならあまり広くない方がいいよと言われ、確かに宿に泊まっていたことを考えるとそんなものかなと納得した。

 引っ越しとは言っても拠点にある物をそのまま使うことにしたのでそこまで目新しさはなかったけど、絨毯とかいくつか新しく買ったものもあるので”新生活”という感じにはなった。ちゃんと寝室を用意すると、改めて一緒に生活をするんだなと思ってしまう。

 寝る前にイチと色々話をしたけど、やっぱり宿にいるときとはちょっと違う感じがした。寝る前にはイチが軽くキスしていってくれるのがちょっとうれしい。



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