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74. 異世界870日目 良階位に挑戦
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74. 異世界870日目 良階位に挑戦
住むところを決めたのはいいんだけど、やっぱりこのまま何もしないわけにもいかないだろうと言うことで結局はいろいろと勉強と鍛錬をしていくことなった。今後どうなるにしてもいろいろと能力を高めておいて損はないからね。
前から通っているハルト道場で鍛錬をしたり、訓練場や郊外に出てから魔法の訓練をしたり、錬金、調合、鍛冶などの技術力アップに励んだ。
鍛冶場の建物は自分たちで作ろうかと思ったけど、結局は倉庫のような建物を購入して設置することにした。やっぱり庭に荷物置きを置くのはいいけど、部屋という感じで設置するのは良くないという話を聞いたからね。
ただせっかく付き合いだしたので5日に1日は休養日を作ってデートをすることにした。食事もできるだけ自炊でやっていこうと言うことになり、一緒に買い物に行って食事を作ったりした。うーん、新婚さんみたいだな。
しばらく狩りには出ないので冒険者登録を休止しようかと思っていたんだけど、この間の緊急の特別依頼を受けていたので依頼達成の期間が延長されていたようだ。通常3ヶ月以内に何かしらの依頼や討伐を達成しなければならないけど、6ヶ月以内でいいらしい。それだったらまだいいかと休止手続きはやめておいた。
訓練には時々クリスさんたちが付き合ってくれていたんだけど、2ヶ月ほどすると良階位昇格試験に合格できるくらいではないかと言われる。もちろん武術の実力が十分というわけではないけど、魔法の威力が高いので、武術については若干低くても合格は可能だろうという話だ。
役場に行って試験日を確認してみると一番早い試験は10日後の6/21に行われるようなのでここで受けることにした。ちなみに良階位への昇格試験はサクラでは年に3回行われており、今年最後の試験は9月に行われるようだ。
試験の1日目は上階位の時と変わらなくて学識と実技の試験らしいけど、2日目からの行動試験は当日発表されるということだった。その時々によって試験内容は変わるらしいけど、今年はどんなものだろうなあ・・・。最長で3日ほどかかるらしい。
試験日までは主に武術の訓練を中心に行い、さらに学力テストの対策も行った。とりあえずやれることはやって試験の当日を迎えることとなった。
ちなみにスレインさんたちはクリスさんが用意していた邸宅に移っていた。貴族や金持ちの人達が多く住むエリアの立派な邸宅だ。まあ小説とかに出てくるような馬鹿でっかい貴族の屋敷というわけではないんだけど、御殿というレベルはあった。時々家にも招待してもらったり、うちにも遊びに来てもらったりと交流は続いている。
スレインさんたちが住んでいた家は売ってしまったようだけど、元王子と結婚した人が住んでいた縁起の良い建物と言うことですぐに買い手が見つかったらしい。警備をしていたジャニーさんとルリアンさんはどうなったのかと思ったら、ちゃっかりと新しい家の警備に雇われたようである。
スレインさんたちもクリスさんのやっている仕事の手伝いをやっているようなんだけど、どうもイントさんは事務的な仕事が嫌いらしく、いつの間にか姿が消えているらしい。
他にもやはり王爵としての付き合いや行事があるみたいで、そのときはかなり大変そうだった。自分たちも一応爵位は持っているけど、あくまで褒章による貴族相当というだけなので参加しなくていいのはありがたい。
ちなみにこのつきあいはアルドさんとデルタさんが苦手としているらしい。昔はそれが普通だったからまだ知識としてはあるみたいだけど、一度離れてしまうと・・・という事のようだ。
時々ガーデンパーティーのようなことも行っているのでそれに招待されることはあるけど、招待してくれるときは気の置けないメンバーだけだったので大分楽だった。ただ国王陛下や王妃殿下が来ているときもあったのでちょっと困ってしまったけどね。そんな身内のパーティーに声をかけないでよ。
試験の当日は早めに起きてから体をほぐしておく。役場の訓練場に行くと、今日の試験を受ける人達が集まっていた。何人か見かけたことのある冒険者がいたんだけど、その中の冒険者の一団に目がとまる。
「あれっ?あの人達ってアルモニアで会ったレイスマントの狼というパーティーだよね?」
「え?どの人?ああ、あの人達ね。確かにそうだったと思うわ。声をかけてみる?」
ジェンもなんとなく覚えていたみたいで間違いなさそうだ。
「「こんにちは。」」
「ああ、こんにちは?・・・あれ?前にどこかで会ったことがある?」
「ええ、トレラムの町で情報交換をしたアースのジュンイチとジェニファーです。お久しぶりです。まさかこんなところで会うとは思いませんでしたよ。」
「ああ、あそこで話した二人か。思い出したよ。」
「あれからずっとヤーマンで活動していたんですか?」
「やっぱりこっちは温かいからな。冬の間はルイサレム方面に行っていたんだよ。いろいろ情報が役に立ったよ。ありがとうな。」
話を聞くと、あのあと南下してサクラまできたけど、やはりこの町での活動は厳しかったみたいで南東方向にあるムライオカの町で主に活動していたらしい。
ある程度経験も積めたので国に戻るつもりだったらしいけど、腕試しもかねてここで良階位の試験を受けていくことにしたようだ。ただ受けるのはカースさんとヤルマンさんの二人だけで、他の二人は今回はパスするようだ。
「もしかして二人も良階位の試験を受けるのか?」
「ええ、なんとか実績もたまったのと、訓練をしてもらっている人達に実力もついたので試してみたらと言われたので受けることにしたんですよ。」
「その年でもう実績をためたのはすごいな。」
「こう見えても結構いろいろと経験を積んできましたからね。」
「そうか、お互いに頑張ろう。」
他の受験者ともすこし話をしてから開始時間を待つ。
~役場の受付Side~
今回アースの二人が良階位への試験を受けることにしたらしい。もちろん前例がないわけではないのだけれど、かなり速いペースであることには違いないわね。
もともと武勇や魔法に優れた冒険者が高階位の魔獣を狩って一気に実績ポイントを稼ぐことがあるけど、この二人の場合は特別依頼の実績ポイントが大きいというのがすごいところね。しかもお飾りの護衛依頼とかではなくてかなり難易度の高そうな特別依頼だからね。
もちろん合格したわけではないのでまだ良階位になると決まったわけではないのだけれど、合格してほしいものだわ。二人はかなり評判もよく、そのせいで妬まれていることもあるけど、多くの人は好意的に見ている。王族との関係もあり、いまは二つの国から爵位をもらっているという。しかも一つはハクセン国だ。まだ19歳でこの関係はすごいことだわ。
面白いのは二人の関係なのよね。二人の親密ぶりからどう考えても恋人同士か夫婦なのだと思っていたのにそうじゃないと聞いたときは驚いたわ。二人は無意識なのかもしれないけど、あれで付き合っていないと言って誰が信じるのかしらね。
まあ、最近はほんとに付き合いだしたみたいで、今までと違ってなぜか初々しさを感じるのが面白いわね。
~~~~~
まずは筆記試験があったんだけど、これはまあ問題なくクリアできたと思う。問題集さえちゃんとやっていれば落ちることはない試験だしね。
このあと実技に入ることになったけど、今回の試験官は剣の翼という優階位のパーティーメンバーだった。たしかスレインさんたちが憧れていると言っていたパーティーだよな。たしかに強そうだ。
良階位の実技試験は非公開となっているので一人ずつ訓練場に入っての試験となる。試験を受けるのは35人だ。多いときは50人以上受けることもあるらしいので、今回は少ない方みたい。
実技は剣だけでなく魔法を使ってもかまわないとなっているけど、結界のようなもので威力はかなり落とされた状態での試験となるので魔法については牽制くらいにしか使えないだろう。
同時に2~3人ずつやっていくみたいで一人大体30分くらいかかるようだ。自分の順番になったところで中に入ると、剣と盾を持ったがっちりとした体格の男性が立っていた。うーん、体格的にすでに負けているような気がする。
対人の試験時間は10分程度で、その間にどこまで自分の実力をアピールできるかが勝負だ。装備はいつもの物だけど、切れ味はかなり落としているので大きな怪我をすることはない。何かの時には治癒魔法をかける人が待機しているしね。
まずは火魔法と風魔法で左右から攻撃を仕掛けたあと、水魔法で正面の視界を遮り回り込んで攻撃を仕掛けるが、あっさりと防がれてしまう。まあそんな簡単にいくとは思っていないけど、魔法の威力がかなり押さえられているので効果が低すぎる。
このあと牽制のために雷魔法を使いながら剣で攻撃を仕掛けるが、正面からいくと簡単によけられてしまう。それからは剣と盾を使って攻撃を仕掛けながらちょくちょく魔法も使って攻撃をするが躱されてしまって全く当たらない。
一通りこっちの攻撃を受けたと思ったのか、向こうからも攻撃をしてきたので盾で剣を捌きながらなんとか耐える。さすがに剣の動きが鋭すぎてぎりぎり捌くのが限界だ。これでも手加減しているのがわかるくらいなのが悲しい。とりあえず決定的なダメージを受けなかったのが救いかな。
対人の確認が終わった後は、魔獣と戦うことになる。捕らえてきた魔獣なんだけど連れてこられたのは上階位上位の銀狼だ。こっちも魔法を先制攻撃で使ってから土魔法で足止め。そのあと水魔法で防御しながら雷魔法を使って動きを鈍らせる。盾で攻撃を防ぎながら徐々に剣で攻撃し、首を切り落として討伐を完了した。
魔獣戦は剣の威力も魔法も制約されていなかったのでかなり楽に倒すことができた。まあ剣だけでもなんとか倒すことはできるんだけど、魔法があればまず負けることはないし、わざわざ剣にこだわる必要も無いだろう。
このあと別の部屋に行ってから魔法の威力についても試験してもらう。火魔法は白色まで行かないけど白っぽい色まで制御できるようになったから威力はかなりのものだったと思う。他にも5種の魔法で的に攻撃して結構な威力を出せたと思っている。複合魔法とかもあるんだけど、それについてはさすがに必要は無いだろう。
試験が終わると、別の部屋で全員が終わるまで待機だ。ジェンも同じタイミングで試験を受けていたようで自分の少し後にやってきた。
「どうだった?」
「魔法を使いながら短剣で攻撃をしてみたけど、ほとんど当たらなかったわね。ただ相手の攻撃もほとんどがかわすか受けることはできたのでなんとか及第点はもらえたんじゃないかな?まあ手加減はしてくれているようだったけどね。」
「自分と同じ感じかな。やっぱり武術だけだとまだまだだなあ。」
「まあそこは仕方が無いわよ。それでもこの期間でここまで上達したのはかなり早いと言われているじゃない。」
「まあねえ。ちゃんと魔法が使うことが出来ればもう少しいい勝負は出来たかもしれないしね。」
「魔獣の方は結構あっさりと勝つことが出来たでしょ?」
「まあ上階位の魔獣だからね。魔法を使ったらまず負けることはないよね。」
全員の試験が終わったところでいったん自由時間になる。近くの喫茶店に入ってからお茶を飲んでのんびりして、時間になったところで会場へ。
試験結果の発表は一人ずつ呼ばれるわけではなく、番号が張り出されるみたい。しばらくすると番号の書かれた紙が張り出された。
「あった!!よかった~~。これで自分だけ落ちていたら悲しすぎたよ。」
「確かにどちらかだけだったらちょっと悲しいわね。」
不合格になった人達は試験結果の概要について説明を受けていた。合格した人は次の試験の後で説明を受けるらしい。
カースさんとヤルマンさんさんも受かったようだ。ここで合格したのは全部で18人と結構多い印象だ。まあ実力が無いと受けないだろうからね。
「合格者は明日の0時にここに集合するように。分かっていると思うが、遅れた場合はその場で失格になるからな。
試験に持って行けるのは装備と携帯できるものだけだ。ただしリュックなどの鞄や収納バッグについては認めていないので、置いてこれるものは置いてきた方がいいだろう。ただし魔道具などの携帯は禁止とする。
それでは明日に備えて英気を養っておいてくれ。解散!!」
装備以外の荷物は持って行くことが出来ないと言うことなので特に準備はいらないみたいだけど、収納魔法については言及していなかったな。とりあえずある程度荷物の整理をしたら今日は早めに休むことにしよう。
帰りに簡単に外で夕食をとり、家に戻ってから装備の手入れをして早々に眠りにつく。数日間かかると言うことだったので眠れるうちに寝ておかないとまずそうだからね。
~試験官Side~
今回の試験の内容について試験官および関係者が集まって協議をしている。説明をするのは実際に対応した試験官だ。
「さて、次にジュンイチの評価に移ろう。同じパーティーのジェニファーも一緒に評価しようと思う。」
「ジュンイチの戦闘能力について言わせてもらうと、剣や盾などの武術に関しての能力はぎりぎりだが合格点を出せるレベルと判断していいと思う。攻撃に関しては若干劣るが、防御に関しては十分なレベルを持っている。魔法もかなり使えることから、攻撃に関しては魔法を主体に置いているのだろう。魔法攻撃と剣の攻撃の間合いもよかった。」
「魔獣の討伐においては魔法での先制攻撃の後、防御を優先しながら的確に攻撃を加えており、かなり安全な討伐をしていた。おそらくリスクを最小限にして常に素材確保を念頭に置いた戦い方をしていると思われる。魔法を制限無く使うのであれば良階位の魔獣でも一人で十分に倒すことができるのではないかと思われる。」
「ジェニファーについてはジュンイチと同じように若干攻撃力には劣るが、これは戦闘スタイルによるものだろう。どちらかというと防御の方に力を入れている感じであり、防御に関してはこちらも十分なレベルに達していると判断していいだろう。魔法についても攻防の間にうまく使っている。」
「魔獣との戦闘においては防御を中心に魔法攻撃で牽制し、とどめを刺すというスタンスで行っていた。魔法の威力があるにもかかわらず、防御を重点に置いているのもリスクを考えていて評価できると思われる。」
「ジュンイチの魔法の威力は属性によっては優階位レベルはあると言っていいのではないかと判断した。発動までの時間も短いのに威力は高い。特に火魔法の威力はかなり高いのだが、今回見せたものはすべての実力ではないようにも感じる。
他の属性についても5種の攻撃をしていたが、攻撃力も備わっていた。はっきりとはわからないが、全種の魔法が使えて次元魔法も使えると思われる。
ジェニファーについても確認したが、魔法のレベルに関してはジュンイチと同レベルと考えてよいかと思う。水魔法についてはジュンイチよりも威力が高い感じだった。」
「実力的には武術はギリギリ合格、魔法については十分な実力であり、戦闘力として判断すると十分な能力を有するということで問題は無いか?」
特に異論は無く次の内容に進む。
「過去の依頼の実績についても達成結果はすべて優や良の結果が報告されており、失敗の報告はない。並階位の時に受けた護衛依頼についてだが、そのときに盗賊討伐を行っているが実際にはかなり貢献していたらしい。当時は良階位の蠍の尾と一緒だったために共闘という形で報告されたと言うことだったが、蠍の尾に確認したところ、この二人がいなかったら危なかったと言っていたので間違いないだろう。
それに良階位の魔獣の討伐依頼を2回達成しており、その評価も良だった。さらにジョニーファン様やヤーマン王家からの特別依頼も完了していることからもその実力は十分だと判断していいだろう。
このほか海賊の宝の依頼、北の遺跡調査の依頼については討伐や探索能力だけでなく、かなりの知識も有していると判断できる。古代ライハン語の解読の貢献度についても報告されているが、その業界ではかなりの知名度となっているようだ。」
「まだ19歳と聞いているが、小さな頃から実力があったのか?」
「いや、冒険者に登録したのは2年ほど前だが、そのときはやはり初階位の実力だったようだ。実力を隠していたわけではないだろう。上階位の昇格試験でもやはりそのレベル並みだったことは間違いないはずだ。武術の道場にも通っているみたいで、実力は徐々に上がってきている印象だ。
高位の治癒魔法を使えるのではないかという話も出ているが、それについては公にしていない。まあ教会のこともあるからたとえ知っていても公にする気もないがな。」
「そこは詮索する必要は無いだろう。冒険者で高位の治癒魔法まで使えるというのはいいことだ。」
「このあとの行動試験もあるが、まずは合格でいいだろう。」
「うむ、異論は無い。」
思った以上に高い評価を受けている二人だった。
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翌日は朝の0時に集合となっていたので朝食を早めにとってから役場に向かう。時間前なんだけど、さすがに受験者は皆そろっているようだ。まあ時間を守れないような人が合格するわけもないだろう。
時間になったところで説明を受けてから準備が始まった。まずは装備を外していったんすべて預け、その代わりに簡単な装備を渡されてそれをつけることとなった。預けた装備は現地に着いたところで返却されるようだ。アクセサリー関係もすべて外させられる。
確実に保管、返却すること、もし何かあった場合は保証する旨説明される。金額が金額だけにそれは守ってもらわないとしゃれにならないよね。収納バッグもすべて回収されるが、必要と思われるものは収納魔法に入れていたからいいけどね。
全員の準備ができたところで、用意された車に乗り込んで移動するようだ。20人ほどが乗れるバスに分乗してから出発する。
車で30分ほど移動した後、全員バスから降ろされ、ここから走って行くことになった。とりあえずついてくるように言われるけど、魔法を使うのは問題ないようなので重量軽減魔法を使えば楽勝だ。先頭を走る指導員はかなりのペースで走っているんだけど、いつも自分たちが普段走るよりも遅いくらいだ。
60分くらいひたすら走り続けて、遺跡のようなところまでやってきた。ここが目的地なんだろうか?指導員についてきたのは自分たちを含めて8人だけだ。このあと少し遅れて他の人達も到着した。
現地に着くまでの時間にも制限があったらしく、数名がここで脱落してしまったようだ。まあ指導員に付いてこれた人もかなりきつそうにしているくらいだったからね。
少し休憩時間があった後、ここからの試験について説明を受ける。
「今からこの付近で野営をしてもらう。ただしパーティーを組むことはできない。野営場所はそれぞれ個別に指定されたエリアで行うこと。
火、水などの最低限の魔道具は準備しているのでそれを使うことは問題ないが、他の魔道具の使用は禁止とさせてもらう。食料についても各人で調達すること。
すでにわかっているものもいると思うが、収納魔法を習得していること自体がレベルが高いことを意味するため、収納魔法は不可にはしていない。ただし、持っている食料や魔道具などの使用は不可ということは守ってほしい。
収納魔法に入っていたものを含めて今言ったものの使用や譲渡が発覚した場合は不合格となるので注意してくれ。
出てくる魔獣は強くて上階位下位までだ。今の君たちであれば一人でも十分に倒すことができるだろう。ただし一人で野営となるため、どのように対応するかは各人で考えて行動すればいい。装備は返却するので装備してもらって良いが、収納バッグについては試験終了時に返却する。
この試験内容で断念するというものがあれば後で言ってくれ。」
収納魔法に入っているものは大丈夫なんだな。それを想定しておいてよかった。魔道具や食料じゃなければ使っていいってことだよな。
「試験期間中にやってもらうのはこの遺跡と付近の森に隠されている印を発見することだ。印は索敵スキルで発見することもできるが、発見方法は各人で考えてくれ。参考に各人に印を渡すので後で見てくれ。
印を見つけたらこの後で渡すプレートに登録する。印にプレートを当てるとこのように登録ができる。ただし発見した印のすべてが渡したプレートに登録できるとは限らない。プレートによって登録できる印に差があるからな。
印は固定してあるので絶対に持っていかないように。発見したあとは元の場所に戻しておくことは徹底してほしい。」
なるほど、たしかに索敵で見つけられそうだな。
「探索の制限時間は今日は今から6時までで、その時間を過ぎて戻ってきた場合はその時点で失格となる。時間厳守は基本だからな。
明日は0時から6時、明後日は0時から1時までとなるのでその間にできるだけ見つけるように。最終日の1時はこの場所に集合する時間なので勘違いしないように。
なお、野営場所には魔獣が来るかもしれないので注意が必要だ。もし気がつかないまま魔獣から攻撃を受けた場合はその時点で失格となる。」
どうやら3日間のサバイバルのようだ。一番の問題は睡眠時間をどう確保するかだな。魔道具が使えないとなると厳しいな。
「時間はどのように使っても自由だが、他の受験者の野営エリアを覗くことは禁止とする。食事についてもきちんと食べなければ体力が持たないと思うが、最低限の携行食と調味料は準備しているのでそれは使ってもかまわない。」
このあといくつかの注意事項と簡単な質疑が行われ、まずは野営をするという場所に案内される。お互いに50キヤルドは離れており、木々に邪魔されてあたりの様子は見ることができない。このあたりには案内が書かれて道もあるので迷うことはないだろう。
近くを索敵すると、それなりに魔獣がいるので元々多いのか、それとも試験のために呼び寄せているのかもしれない。移動中にも魔獣がやってきているからね。
宿泊エリアにはテントや魔道具、食料が準備されていた。魔道具は火起こしや水の供給等なので正直自分には必要がないものだ。魔物除けの魔道具はあるけど、効力はほとんど無いので意味が無いだろう。結構立派そうには見えるんだけど、これは引っかけなのか?調味料は最低限あるけど、食料はビスケットのような携行食だけだ。
まずはテントを設置してから盾に使っている岩を出してテントを囲う。間が開いているのでその間は土魔法で埋めていくことで隙間をなくしていく。これで並階位程度であれば最初に攻撃されても耐えることができるだろう。
あとは簡単な魔物除けの魔道具も作成してみた。持ち込むのはいけないけど現地にあるもので道具などを作成するのは問題ないと言っていたからね。それに魔道具が含まれるかまでは言及していないけど、収納魔法がいいのならこれも許容範囲内だろう。素材に使っているのも拾った石だしね。
1時間ほどかけて宿泊場所の準備を完了する。途中で襲ってきた魔獣はすべて処理しておいたのでさっそく中に入って調理を行う。食べられる魔獣はかなり少なかったけど、一人分と考えると十分だ。かまども作っておいたので完璧だ。
匂いが広がらないように風魔法などで匂いの拡散は防ぐので大丈夫だろう。まあ肉くらいしかないけどあとは食べられる葉っぱとかがあればいいなあ。
昼食をとってから印を見つけるために探索を開始する。索敵をすると、魔獣や受験者の他にかなり引っかかりにくいけどおそらく監視をしている人と思われる気配も感じる。
障害物があるのであまり早く移動はできないけど、それでも普段の狩りよりも速い速度で印を探していく。途中でかなり反応が小さくて見落としそうになってしまうものも混じっていることに気がついたので、索敵の範囲を絞らなければならなかった。気がつく前のエリアは見落としているかもしれないな。
印は岩の間に隠されていたり、木の穴にあったりするものもあって索敵がなければ見つけられないだろう。索敵スキルが無い人は合格できるのかねえ?まあ誰かの後をつけていく方法もありそうだけどね。
やっと見つけてもプレートが反応しないものが結構多いのでしゃれにならない。いくつ見つけたら合格かわからないし、単純に上位何人というものだったらできるだけ多く見つけないといけないからなあ。
とりあえず見落としがないようにローラー作戦で探していくしかないので、確認した場所をちゃんと確認しておかないといけない。これはガイド本があるので正直かなり楽だった。探すエリアは反応がなくなるところでだいたい目星を付けた。索敵にかからない範囲くらい離れているとは思えないしね。
途中にいる魔獣はできるだけ回避していく。まあ避けられないものは狩っていくけどね。盾を出したので収納魔法は少し余裕があるので食べられるものだけを回収していく。
時間を確認して6時前には拠点に戻って調理に入る。途中で見つけた薬草類と肉を使ってスープを作ってみた。まあ今日はこれくらいでいいだろう。
食事をとった後は浄化魔法でさっぱりしてから眠りにつく。かなり暑いので魔法で氷を出すとある程度は涼しくなったので助かった。
深くは眠れなかったけど、最低限の睡眠はとれたので大丈夫かな?気配もできるだけ抑えていたせいか、特に襲撃も無かった。
朝食には昨日のスープの残りを食べてから探索を再開する。途中の食事は昨日の夜に作って置いた焼き鳥(串焼き)のようなものを食べて簡単に済ませる。収納魔法からの食事はだめと言っていたけど、こっちで調理したものはいいだろう。
なんとかエリア内と思われる範囲を一回りしたけど、索敵が出来なかったものがないとは言えない。登録できたものは全部で11個だったけど、それなりには見つけたと思っている。全部で50個位は見つけたので登録できたのは2割くらいだったのかな?
昨日と同じように夕食を作って食べた後は浄化魔法で綺麗にしてから早めの就寝に入る。ここで無理してもしょうが無いからね。
夜中にふと気配で目が覚める。警戒していると、誰かが隠密を使いながら近づいてきているようだ。壁の上に移動してから見てみると、黒い服を着た姿を発見する。
「一応確認するけど、これは撃退することが必要なんですか?」
「いや、あくまで警戒をしているかの確認だったから戦闘の必要は無い。近づいてきたところで気配を察知したようなのでそれだけでも十分だよ。しかし、こんなものを作っているとは正直驚いたよ。」
「一から作ると大変ですけど、盾として使っていたものがあったのでそれを応用したんです。特に使うことには制限されていなかったので・・・。」
「それは問題ないはずだ。終了まではあと少しだから頑張ってくれよ。」
そう言って試験官らしき人は去って行ったけど、これで安心するわけにもいかないだろうな。このあとも警戒をしながら眠りにつき、3日目の朝を迎える。
拠点を撤収してからエリアをさらに絞って索敵しながら近くを探してみるがやはり何も見つけることはできなかった。まあこれだけ見つけられればいいだろうと時間前に集合場所に戻る。
やはりみんなかなり疲れているようだが、ジェンはそこまではひどくない感じだった。自分と同じような感じだったのかな?18人いたはずだけど、12人くらいになっていると言うことはすでにリタイヤした人がいるのだろうか?
「ジェン、どうだった?」
「事前にイチと話したように拠点や魔道具を作って対応したわ。辺りを警戒はしてたので深い眠りは出来なかったけど、まだ休めた方かしらね。」
「人数が減っているところを見ると魔獣に襲われたか、監察官に襲われたかのどちらかだろうね。魔道具があるから油断したのかな?」
「魔道具の知識があまり無い人もいるかもしれないわよね。」
時間になったところで再び走っての移動となるけど、さすがに試験官についてきている人は少ない。指定の場所まで移動したときに試験官についてきていたのは自分たちを含めて4人だけだった。他の人の到着を待ってから車に乗り込んで町に戻る。カースさんとヤルマンさんも一緒のバスだったのでここまでは残っているようだ。
町に戻ってから昼食にカースさんとヤルマンさんも誘ったんだけど、宿に戻って休みたいというのでジェンと二人で行くことになった。まあ、二人はかなり死にそうになっていたからねえ。試験結果は明日の昼過ぎに発表されるそうなのでこの日はゆっくりすることにした。
夕べは早く寝たんだけど、さすがに疲れていたのか結構ぐっすり眠っていたようで、時間をみるとすでに1時半だった。発表は4時からだったのでまだ時間は十分にある。ジェンが起きてきたところで食事をとり、少し荷物整理などをしてから役場に向かう。
最後まで残っていなかったメンバーはすでに結果が伝えられているので、今日の発表に来ているのは昨日の帰りのバスに乗ったメンバーとその関係者だけのようだ。
まずは最初に合格者が呼ばれるようだ。
「お疲れ様です。今回の試験の受講者は35名、最終試験に最後まで残ったのは13名でした。さらに今回の行動試験の内容を判断して、合格したのは5名でした。それでは番号と名前を発表します。」
自分が11番でジェンが12番だけどどうだろうか・・・。
「合格者は受験番号順に言っていきます。」
「3番のクリサイア。
11番のジュンイチ。
12番のジェニファー。
28番のカース。
35番のライントフ。
以上の5名となります。」
「よっしゃ~~~!!」
「やったわ!!」
周りでは合格に喚起する声と不合格に落胆することが入り交じっている。自分とジェンは抱き合って喜んだ。よかった~~~!!!
「今呼ばれた5名はこちらの部屋に、残念ながら呼ばれなかったものはあちらの部屋に移動してください。」
残念ながらヤルマンさんは合格できなかったようだ。昨日印をあまり発見できなかったから厳しいかもしれないと言っていたしね。おそらく索敵スキルがあまり高くないのだろう。
部屋に入り、言われた席についてから説明を受ける。
「皆さん、改めておめでとう。君たちは十分に良階位の能力があると判断されたため、今回の昇格となった。君たちが・・・・」
きっとお偉いさんなんだろうけど、こういう話が長いのはどの世界でも同じなのかもしれない。結局15分ほどいろいろと心構えについて話があったあと、やっと実務的な話となった。
基本的には上階位とは変わらないんだけど、依頼の受注猶予期間が3ヶ月から1年に伸びたり、特別依頼を受ける可能性が上がったりという内容だ。
もちろん罰則についても細かく説明があり、場合によっては降格もあることが説明される。良階位以上になると罰則についても厳しくなるようだ。まあその分報酬とかも大きくなるので仕方が無いけどね。
一通りの説明の後、身分証明証を出して書き換えをしてもらう。冒険者のところが「良階位」となっていた。
役場を出ると、クリスさんたちがやってきていた。
「そっちの部屋から出てきたってことは合格できたってことだよな?」
「ええ、無事に良階位まで上がることができましたよ。まだまだ精進は必要ですけどね。」
「「「「「おめでとう!!」」」」」
「せっかくだから昇格祝いにうちの店に食べにこいよ。時間は大丈夫なんだろ?」
「いいんですか?それじゃあ、ごちそうになろうかな。」
一緒にいたカースさんにも話をするが、ヤルマンさんのこともあるし、他のメンバーと食事をするからといって断られた。まあクリスさんたちを紹介したところでいきなり直立不動で固まっていたからねえ。まあ元王子と一緒に食事というのは緊張しすぎるか・・・。
このあとクリスさんの店の一室を借り切って宴会となった。かなり楽しくて、ジェンはいつものように最後は眠ってしまったよ。やれやれ・・・。
~ジェンSide~
スレインさんたちにも言われて良階位の昇格試験を受けることになった。十分良階位のレベルはあるから大丈夫といわれてもやっぱり心配だったわ。
昇格試験は思ったよりもいい感じにできたと思っている。緊張せずにできたのが良かったのかもしれないわね。剣術についてはまだまだかもしれないけど、魔法の威力はなかなかのもだったと思うのよね。手加減してくれているのはわかったけど、向こうの攻撃はなんとか受けることができたからね。
行動試験は思ったよりもきつかったけど、重力軽減魔法があるのでまだ楽だったと思う。他の人は走るだけでも結構疲れていたからね。
イチと事前に話をして収納魔法に岩の盾を入れておいて正解だった。このおかげでテントの周りを囲えたのが大きいわね。一から壁を作っていたら時間がかかりすぎて印を探す時間がそんなにとれなかったかもしれないもの。
夜に人の気配を感じたときはちょっと怖かったのよね。警戒していたからまだすぐに気がついたけど、結構明け方だったから同じように他の人のところに行ったとしたら気がつかない人もいたんじゃないかな?かなり疲れている状態だったと思うからね。
索敵で印を探したけど、思ったよりも小さなものもあって驚いた。索敵エリアを絞ったせいで全エリアを見て回れなかったけど、10個見つけたのでまだ大丈夫だったのかな?
イチは11個見つけたと言っていたけど、全エリアを探したと言っていたから全部で15個くらいだったのかな?かなり小さなものは見つけていなかったみたいだからね。
私の後ろをつけてきていた人がいたけど、さすがに追いつけなくて諦めたみたいだった。索敵が苦手な人は得意と思われる人について行こうとしていたのかもしれないわ。パーティーだと全員が索敵が得意というわけでもないからね。
試験内容は毎回変わるみたいだから、試験内容と自分の得意な内容が一致していればかなり有利になるって事ね。まあこればかりは運だろうけど。
翌日の試験の結果発表まではかなり緊張したわ。番号と名前を言われたときは本当にうれしかった。イチも一緒に合格できて良かったわ。
あとでスレインさんたちもお祝いしてくれてとても楽しかった。本当に喜んでお祝いしてくれるだけでとてもいい気持ちになれるものね。おかげで飲み過ぎちゃったけど、イチがいるとつい気持ちが緩んじゃうのよね。気がついたら家のベッドで寝ていたけど・・・。
~試験官Side~
「今回の受講者は35人とそれほど多くなかったが、かなり優秀な人材もいた。行動試験に行けたのは18人といつもと同じくらいの人数だ。とりあえず順番に判断していこう。」
「いつものように受験者につけた監視人からの意見を聞きながら確認をしていく。
なお、他の試験の時と同じようにダミーの魔道具なども混ぜていたのでそれを信じて油断するものもいた。事前に情報を収集していればある程度予想できたと思うんだがな。このため安心して眠りについて襲われていたものもいた。
印についてもサンプルとすべて同じものと勘違いして見落とすものも多かった。今回の発見した個数の平均は4個となっている。合格ラインは6個と言うことには変わりは無い。」
・・・・
「これは本当なのか?」
「ええ、残念ながら移動速度が速く、すべてに同行はできませんでしたが、魔道具を使ったような形跡はありませんでした。」
「追いつけなかったのか?」
「はい、風魔法を使っているのか、飛んでいるような感じで走っていきました。」
監視員は戦闘能力はそこまでは無いが、隠密能力や移動などには特化しているのだが、その人間が追いつけないと言うことに驚いた。
「印を12個中11個を発見だとは・・・。」
「かなりの索敵能力を持っているようです。私のこともおそらく気がついていたと思います。」
「拠点については収納魔法から盾として使っていると思われるものを取り出して土魔法で補強していました。特に魔道具を使っていたわけでもなく、装備という扱いですので違反というわけではありません。
あとで分かったのですが、魔物除けの魔道具を自作していました。素材は辺りにある石を使っていたのでこれも違反にはなりませんし、正直そのスキルがあることに驚いているくらいです。
そのようなものを作っていたので油断しているかと思ったのですが、夜に隠密スキルを使って近づいていったときは、かなり離れたところからこちらのことに気がつかれました。
食事についても火を使っていましたが、魔法を使って臭いの拡散などを防いでいたようです。攻撃魔法だけでなく、その応用力もかなり高いと思われます。」
「戦闘能力も申し分ない上、行動試験でも十分な成果だ。十分に良階位レベルがあると判断していいだろう。だれか異論があるものはいるか?」
「僭越ながら・・・このものはハクセンの爵位を持っています。ハクセンからのスパイということはないでしょうか?この短期間での能力の伸びが急すぎると思うのですが・・・。」
「その点については別の報告がある。戦闘能力についてはたしかに急激な上がり方ではあるが、訓練をしたという道場にも確認したところ、間違いなく最初からの能力ではないと断言していた。冒険者以外にも収入源があるみたいで、その収入の多くをつぎ込んで個別指導で訓練しているようだ。
また、ハクセンの爵位についてもできる範囲で確認したところ、貴族の粛正にかなり協力したことが受賞の要因のようだ。事前に決まっていたわけでもなく、急な褒章だったことは確認できている。
今までの行動を考えても特段気になる点もないし、問題ないと考えていいだろう。良階位としてはまだそこまで気にすることも無いと思われる。」
「わかりました。そこまで確認されているのであれば異論はありません。」
「続いて同じパーティーのジェニファーについても話をしたい。」
「こっちの女性は10個発見か。ただこっちは見つけにくい4個、特に他に誰も発見できていない一つを見つけている。」
「11番とは異なり、エリアを絞って探索していったようです。このため時間的にすべてのエリアを探索できなかったようです。」
「野営の対応については11番と同じでした。ただ警戒レベルは高く、かなり離れたところからこちらの気配を感じて警戒してきました。」
「こちらも応用力などを考えると問題ないと考えていいだろう。」
「あと、余談かもしれませんが、試験の後でテントなどの回収に行ったもの達からの報告です。この2名の使ったテントですが、試験前よりもかなり綺麗な状態になっていたようです。浄化魔法を使ったようですが、驚くほど綺麗になっていたようです。おそらく光魔法や治癒魔法を合わせて使っていたのではないかと思われます。」
「魔法に関してはジョニーファン様のお墨付きというレベルと言うことか。未確認ではあるが、あのジョニーファン様と討論をしたという話もあるからな。」
評価者全員がうなずいたことから承認を得られたと判断した議長が採決をとった。
「二人ともに良階位にあげることで問題なしとする。」
住むところを決めたのはいいんだけど、やっぱりこのまま何もしないわけにもいかないだろうと言うことで結局はいろいろと勉強と鍛錬をしていくことなった。今後どうなるにしてもいろいろと能力を高めておいて損はないからね。
前から通っているハルト道場で鍛錬をしたり、訓練場や郊外に出てから魔法の訓練をしたり、錬金、調合、鍛冶などの技術力アップに励んだ。
鍛冶場の建物は自分たちで作ろうかと思ったけど、結局は倉庫のような建物を購入して設置することにした。やっぱり庭に荷物置きを置くのはいいけど、部屋という感じで設置するのは良くないという話を聞いたからね。
ただせっかく付き合いだしたので5日に1日は休養日を作ってデートをすることにした。食事もできるだけ自炊でやっていこうと言うことになり、一緒に買い物に行って食事を作ったりした。うーん、新婚さんみたいだな。
しばらく狩りには出ないので冒険者登録を休止しようかと思っていたんだけど、この間の緊急の特別依頼を受けていたので依頼達成の期間が延長されていたようだ。通常3ヶ月以内に何かしらの依頼や討伐を達成しなければならないけど、6ヶ月以内でいいらしい。それだったらまだいいかと休止手続きはやめておいた。
訓練には時々クリスさんたちが付き合ってくれていたんだけど、2ヶ月ほどすると良階位昇格試験に合格できるくらいではないかと言われる。もちろん武術の実力が十分というわけではないけど、魔法の威力が高いので、武術については若干低くても合格は可能だろうという話だ。
役場に行って試験日を確認してみると一番早い試験は10日後の6/21に行われるようなのでここで受けることにした。ちなみに良階位への昇格試験はサクラでは年に3回行われており、今年最後の試験は9月に行われるようだ。
試験の1日目は上階位の時と変わらなくて学識と実技の試験らしいけど、2日目からの行動試験は当日発表されるということだった。その時々によって試験内容は変わるらしいけど、今年はどんなものだろうなあ・・・。最長で3日ほどかかるらしい。
試験日までは主に武術の訓練を中心に行い、さらに学力テストの対策も行った。とりあえずやれることはやって試験の当日を迎えることとなった。
ちなみにスレインさんたちはクリスさんが用意していた邸宅に移っていた。貴族や金持ちの人達が多く住むエリアの立派な邸宅だ。まあ小説とかに出てくるような馬鹿でっかい貴族の屋敷というわけではないんだけど、御殿というレベルはあった。時々家にも招待してもらったり、うちにも遊びに来てもらったりと交流は続いている。
スレインさんたちが住んでいた家は売ってしまったようだけど、元王子と結婚した人が住んでいた縁起の良い建物と言うことですぐに買い手が見つかったらしい。警備をしていたジャニーさんとルリアンさんはどうなったのかと思ったら、ちゃっかりと新しい家の警備に雇われたようである。
スレインさんたちもクリスさんのやっている仕事の手伝いをやっているようなんだけど、どうもイントさんは事務的な仕事が嫌いらしく、いつの間にか姿が消えているらしい。
他にもやはり王爵としての付き合いや行事があるみたいで、そのときはかなり大変そうだった。自分たちも一応爵位は持っているけど、あくまで褒章による貴族相当というだけなので参加しなくていいのはありがたい。
ちなみにこのつきあいはアルドさんとデルタさんが苦手としているらしい。昔はそれが普通だったからまだ知識としてはあるみたいだけど、一度離れてしまうと・・・という事のようだ。
時々ガーデンパーティーのようなことも行っているのでそれに招待されることはあるけど、招待してくれるときは気の置けないメンバーだけだったので大分楽だった。ただ国王陛下や王妃殿下が来ているときもあったのでちょっと困ってしまったけどね。そんな身内のパーティーに声をかけないでよ。
試験の当日は早めに起きてから体をほぐしておく。役場の訓練場に行くと、今日の試験を受ける人達が集まっていた。何人か見かけたことのある冒険者がいたんだけど、その中の冒険者の一団に目がとまる。
「あれっ?あの人達ってアルモニアで会ったレイスマントの狼というパーティーだよね?」
「え?どの人?ああ、あの人達ね。確かにそうだったと思うわ。声をかけてみる?」
ジェンもなんとなく覚えていたみたいで間違いなさそうだ。
「「こんにちは。」」
「ああ、こんにちは?・・・あれ?前にどこかで会ったことがある?」
「ええ、トレラムの町で情報交換をしたアースのジュンイチとジェニファーです。お久しぶりです。まさかこんなところで会うとは思いませんでしたよ。」
「ああ、あそこで話した二人か。思い出したよ。」
「あれからずっとヤーマンで活動していたんですか?」
「やっぱりこっちは温かいからな。冬の間はルイサレム方面に行っていたんだよ。いろいろ情報が役に立ったよ。ありがとうな。」
話を聞くと、あのあと南下してサクラまできたけど、やはりこの町での活動は厳しかったみたいで南東方向にあるムライオカの町で主に活動していたらしい。
ある程度経験も積めたので国に戻るつもりだったらしいけど、腕試しもかねてここで良階位の試験を受けていくことにしたようだ。ただ受けるのはカースさんとヤルマンさんの二人だけで、他の二人は今回はパスするようだ。
「もしかして二人も良階位の試験を受けるのか?」
「ええ、なんとか実績もたまったのと、訓練をしてもらっている人達に実力もついたので試してみたらと言われたので受けることにしたんですよ。」
「その年でもう実績をためたのはすごいな。」
「こう見えても結構いろいろと経験を積んできましたからね。」
「そうか、お互いに頑張ろう。」
他の受験者ともすこし話をしてから開始時間を待つ。
~役場の受付Side~
今回アースの二人が良階位への試験を受けることにしたらしい。もちろん前例がないわけではないのだけれど、かなり速いペースであることには違いないわね。
もともと武勇や魔法に優れた冒険者が高階位の魔獣を狩って一気に実績ポイントを稼ぐことがあるけど、この二人の場合は特別依頼の実績ポイントが大きいというのがすごいところね。しかもお飾りの護衛依頼とかではなくてかなり難易度の高そうな特別依頼だからね。
もちろん合格したわけではないのでまだ良階位になると決まったわけではないのだけれど、合格してほしいものだわ。二人はかなり評判もよく、そのせいで妬まれていることもあるけど、多くの人は好意的に見ている。王族との関係もあり、いまは二つの国から爵位をもらっているという。しかも一つはハクセン国だ。まだ19歳でこの関係はすごいことだわ。
面白いのは二人の関係なのよね。二人の親密ぶりからどう考えても恋人同士か夫婦なのだと思っていたのにそうじゃないと聞いたときは驚いたわ。二人は無意識なのかもしれないけど、あれで付き合っていないと言って誰が信じるのかしらね。
まあ、最近はほんとに付き合いだしたみたいで、今までと違ってなぜか初々しさを感じるのが面白いわね。
~~~~~
まずは筆記試験があったんだけど、これはまあ問題なくクリアできたと思う。問題集さえちゃんとやっていれば落ちることはない試験だしね。
このあと実技に入ることになったけど、今回の試験官は剣の翼という優階位のパーティーメンバーだった。たしかスレインさんたちが憧れていると言っていたパーティーだよな。たしかに強そうだ。
良階位の実技試験は非公開となっているので一人ずつ訓練場に入っての試験となる。試験を受けるのは35人だ。多いときは50人以上受けることもあるらしいので、今回は少ない方みたい。
実技は剣だけでなく魔法を使ってもかまわないとなっているけど、結界のようなもので威力はかなり落とされた状態での試験となるので魔法については牽制くらいにしか使えないだろう。
同時に2~3人ずつやっていくみたいで一人大体30分くらいかかるようだ。自分の順番になったところで中に入ると、剣と盾を持ったがっちりとした体格の男性が立っていた。うーん、体格的にすでに負けているような気がする。
対人の試験時間は10分程度で、その間にどこまで自分の実力をアピールできるかが勝負だ。装備はいつもの物だけど、切れ味はかなり落としているので大きな怪我をすることはない。何かの時には治癒魔法をかける人が待機しているしね。
まずは火魔法と風魔法で左右から攻撃を仕掛けたあと、水魔法で正面の視界を遮り回り込んで攻撃を仕掛けるが、あっさりと防がれてしまう。まあそんな簡単にいくとは思っていないけど、魔法の威力がかなり押さえられているので効果が低すぎる。
このあと牽制のために雷魔法を使いながら剣で攻撃を仕掛けるが、正面からいくと簡単によけられてしまう。それからは剣と盾を使って攻撃を仕掛けながらちょくちょく魔法も使って攻撃をするが躱されてしまって全く当たらない。
一通りこっちの攻撃を受けたと思ったのか、向こうからも攻撃をしてきたので盾で剣を捌きながらなんとか耐える。さすがに剣の動きが鋭すぎてぎりぎり捌くのが限界だ。これでも手加減しているのがわかるくらいなのが悲しい。とりあえず決定的なダメージを受けなかったのが救いかな。
対人の確認が終わった後は、魔獣と戦うことになる。捕らえてきた魔獣なんだけど連れてこられたのは上階位上位の銀狼だ。こっちも魔法を先制攻撃で使ってから土魔法で足止め。そのあと水魔法で防御しながら雷魔法を使って動きを鈍らせる。盾で攻撃を防ぎながら徐々に剣で攻撃し、首を切り落として討伐を完了した。
魔獣戦は剣の威力も魔法も制約されていなかったのでかなり楽に倒すことができた。まあ剣だけでもなんとか倒すことはできるんだけど、魔法があればまず負けることはないし、わざわざ剣にこだわる必要も無いだろう。
このあと別の部屋に行ってから魔法の威力についても試験してもらう。火魔法は白色まで行かないけど白っぽい色まで制御できるようになったから威力はかなりのものだったと思う。他にも5種の魔法で的に攻撃して結構な威力を出せたと思っている。複合魔法とかもあるんだけど、それについてはさすがに必要は無いだろう。
試験が終わると、別の部屋で全員が終わるまで待機だ。ジェンも同じタイミングで試験を受けていたようで自分の少し後にやってきた。
「どうだった?」
「魔法を使いながら短剣で攻撃をしてみたけど、ほとんど当たらなかったわね。ただ相手の攻撃もほとんどがかわすか受けることはできたのでなんとか及第点はもらえたんじゃないかな?まあ手加減はしてくれているようだったけどね。」
「自分と同じ感じかな。やっぱり武術だけだとまだまだだなあ。」
「まあそこは仕方が無いわよ。それでもこの期間でここまで上達したのはかなり早いと言われているじゃない。」
「まあねえ。ちゃんと魔法が使うことが出来ればもう少しいい勝負は出来たかもしれないしね。」
「魔獣の方は結構あっさりと勝つことが出来たでしょ?」
「まあ上階位の魔獣だからね。魔法を使ったらまず負けることはないよね。」
全員の試験が終わったところでいったん自由時間になる。近くの喫茶店に入ってからお茶を飲んでのんびりして、時間になったところで会場へ。
試験結果の発表は一人ずつ呼ばれるわけではなく、番号が張り出されるみたい。しばらくすると番号の書かれた紙が張り出された。
「あった!!よかった~~。これで自分だけ落ちていたら悲しすぎたよ。」
「確かにどちらかだけだったらちょっと悲しいわね。」
不合格になった人達は試験結果の概要について説明を受けていた。合格した人は次の試験の後で説明を受けるらしい。
カースさんとヤルマンさんさんも受かったようだ。ここで合格したのは全部で18人と結構多い印象だ。まあ実力が無いと受けないだろうからね。
「合格者は明日の0時にここに集合するように。分かっていると思うが、遅れた場合はその場で失格になるからな。
試験に持って行けるのは装備と携帯できるものだけだ。ただしリュックなどの鞄や収納バッグについては認めていないので、置いてこれるものは置いてきた方がいいだろう。ただし魔道具などの携帯は禁止とする。
それでは明日に備えて英気を養っておいてくれ。解散!!」
装備以外の荷物は持って行くことが出来ないと言うことなので特に準備はいらないみたいだけど、収納魔法については言及していなかったな。とりあえずある程度荷物の整理をしたら今日は早めに休むことにしよう。
帰りに簡単に外で夕食をとり、家に戻ってから装備の手入れをして早々に眠りにつく。数日間かかると言うことだったので眠れるうちに寝ておかないとまずそうだからね。
~試験官Side~
今回の試験の内容について試験官および関係者が集まって協議をしている。説明をするのは実際に対応した試験官だ。
「さて、次にジュンイチの評価に移ろう。同じパーティーのジェニファーも一緒に評価しようと思う。」
「ジュンイチの戦闘能力について言わせてもらうと、剣や盾などの武術に関しての能力はぎりぎりだが合格点を出せるレベルと判断していいと思う。攻撃に関しては若干劣るが、防御に関しては十分なレベルを持っている。魔法もかなり使えることから、攻撃に関しては魔法を主体に置いているのだろう。魔法攻撃と剣の攻撃の間合いもよかった。」
「魔獣の討伐においては魔法での先制攻撃の後、防御を優先しながら的確に攻撃を加えており、かなり安全な討伐をしていた。おそらくリスクを最小限にして常に素材確保を念頭に置いた戦い方をしていると思われる。魔法を制限無く使うのであれば良階位の魔獣でも一人で十分に倒すことができるのではないかと思われる。」
「ジェニファーについてはジュンイチと同じように若干攻撃力には劣るが、これは戦闘スタイルによるものだろう。どちらかというと防御の方に力を入れている感じであり、防御に関してはこちらも十分なレベルに達していると判断していいだろう。魔法についても攻防の間にうまく使っている。」
「魔獣との戦闘においては防御を中心に魔法攻撃で牽制し、とどめを刺すというスタンスで行っていた。魔法の威力があるにもかかわらず、防御を重点に置いているのもリスクを考えていて評価できると思われる。」
「ジュンイチの魔法の威力は属性によっては優階位レベルはあると言っていいのではないかと判断した。発動までの時間も短いのに威力は高い。特に火魔法の威力はかなり高いのだが、今回見せたものはすべての実力ではないようにも感じる。
他の属性についても5種の攻撃をしていたが、攻撃力も備わっていた。はっきりとはわからないが、全種の魔法が使えて次元魔法も使えると思われる。
ジェニファーについても確認したが、魔法のレベルに関してはジュンイチと同レベルと考えてよいかと思う。水魔法についてはジュンイチよりも威力が高い感じだった。」
「実力的には武術はギリギリ合格、魔法については十分な実力であり、戦闘力として判断すると十分な能力を有するということで問題は無いか?」
特に異論は無く次の内容に進む。
「過去の依頼の実績についても達成結果はすべて優や良の結果が報告されており、失敗の報告はない。並階位の時に受けた護衛依頼についてだが、そのときに盗賊討伐を行っているが実際にはかなり貢献していたらしい。当時は良階位の蠍の尾と一緒だったために共闘という形で報告されたと言うことだったが、蠍の尾に確認したところ、この二人がいなかったら危なかったと言っていたので間違いないだろう。
それに良階位の魔獣の討伐依頼を2回達成しており、その評価も良だった。さらにジョニーファン様やヤーマン王家からの特別依頼も完了していることからもその実力は十分だと判断していいだろう。
このほか海賊の宝の依頼、北の遺跡調査の依頼については討伐や探索能力だけでなく、かなりの知識も有していると判断できる。古代ライハン語の解読の貢献度についても報告されているが、その業界ではかなりの知名度となっているようだ。」
「まだ19歳と聞いているが、小さな頃から実力があったのか?」
「いや、冒険者に登録したのは2年ほど前だが、そのときはやはり初階位の実力だったようだ。実力を隠していたわけではないだろう。上階位の昇格試験でもやはりそのレベル並みだったことは間違いないはずだ。武術の道場にも通っているみたいで、実力は徐々に上がってきている印象だ。
高位の治癒魔法を使えるのではないかという話も出ているが、それについては公にしていない。まあ教会のこともあるからたとえ知っていても公にする気もないがな。」
「そこは詮索する必要は無いだろう。冒険者で高位の治癒魔法まで使えるというのはいいことだ。」
「このあとの行動試験もあるが、まずは合格でいいだろう。」
「うむ、異論は無い。」
思った以上に高い評価を受けている二人だった。
~~~~~
翌日は朝の0時に集合となっていたので朝食を早めにとってから役場に向かう。時間前なんだけど、さすがに受験者は皆そろっているようだ。まあ時間を守れないような人が合格するわけもないだろう。
時間になったところで説明を受けてから準備が始まった。まずは装備を外していったんすべて預け、その代わりに簡単な装備を渡されてそれをつけることとなった。預けた装備は現地に着いたところで返却されるようだ。アクセサリー関係もすべて外させられる。
確実に保管、返却すること、もし何かあった場合は保証する旨説明される。金額が金額だけにそれは守ってもらわないとしゃれにならないよね。収納バッグもすべて回収されるが、必要と思われるものは収納魔法に入れていたからいいけどね。
全員の準備ができたところで、用意された車に乗り込んで移動するようだ。20人ほどが乗れるバスに分乗してから出発する。
車で30分ほど移動した後、全員バスから降ろされ、ここから走って行くことになった。とりあえずついてくるように言われるけど、魔法を使うのは問題ないようなので重量軽減魔法を使えば楽勝だ。先頭を走る指導員はかなりのペースで走っているんだけど、いつも自分たちが普段走るよりも遅いくらいだ。
60分くらいひたすら走り続けて、遺跡のようなところまでやってきた。ここが目的地なんだろうか?指導員についてきたのは自分たちを含めて8人だけだ。このあと少し遅れて他の人達も到着した。
現地に着くまでの時間にも制限があったらしく、数名がここで脱落してしまったようだ。まあ指導員に付いてこれた人もかなりきつそうにしているくらいだったからね。
少し休憩時間があった後、ここからの試験について説明を受ける。
「今からこの付近で野営をしてもらう。ただしパーティーを組むことはできない。野営場所はそれぞれ個別に指定されたエリアで行うこと。
火、水などの最低限の魔道具は準備しているのでそれを使うことは問題ないが、他の魔道具の使用は禁止とさせてもらう。食料についても各人で調達すること。
すでにわかっているものもいると思うが、収納魔法を習得していること自体がレベルが高いことを意味するため、収納魔法は不可にはしていない。ただし、持っている食料や魔道具などの使用は不可ということは守ってほしい。
収納魔法に入っていたものを含めて今言ったものの使用や譲渡が発覚した場合は不合格となるので注意してくれ。
出てくる魔獣は強くて上階位下位までだ。今の君たちであれば一人でも十分に倒すことができるだろう。ただし一人で野営となるため、どのように対応するかは各人で考えて行動すればいい。装備は返却するので装備してもらって良いが、収納バッグについては試験終了時に返却する。
この試験内容で断念するというものがあれば後で言ってくれ。」
収納魔法に入っているものは大丈夫なんだな。それを想定しておいてよかった。魔道具や食料じゃなければ使っていいってことだよな。
「試験期間中にやってもらうのはこの遺跡と付近の森に隠されている印を発見することだ。印は索敵スキルで発見することもできるが、発見方法は各人で考えてくれ。参考に各人に印を渡すので後で見てくれ。
印を見つけたらこの後で渡すプレートに登録する。印にプレートを当てるとこのように登録ができる。ただし発見した印のすべてが渡したプレートに登録できるとは限らない。プレートによって登録できる印に差があるからな。
印は固定してあるので絶対に持っていかないように。発見したあとは元の場所に戻しておくことは徹底してほしい。」
なるほど、たしかに索敵で見つけられそうだな。
「探索の制限時間は今日は今から6時までで、その時間を過ぎて戻ってきた場合はその時点で失格となる。時間厳守は基本だからな。
明日は0時から6時、明後日は0時から1時までとなるのでその間にできるだけ見つけるように。最終日の1時はこの場所に集合する時間なので勘違いしないように。
なお、野営場所には魔獣が来るかもしれないので注意が必要だ。もし気がつかないまま魔獣から攻撃を受けた場合はその時点で失格となる。」
どうやら3日間のサバイバルのようだ。一番の問題は睡眠時間をどう確保するかだな。魔道具が使えないとなると厳しいな。
「時間はどのように使っても自由だが、他の受験者の野営エリアを覗くことは禁止とする。食事についてもきちんと食べなければ体力が持たないと思うが、最低限の携行食と調味料は準備しているのでそれは使ってもかまわない。」
このあといくつかの注意事項と簡単な質疑が行われ、まずは野営をするという場所に案内される。お互いに50キヤルドは離れており、木々に邪魔されてあたりの様子は見ることができない。このあたりには案内が書かれて道もあるので迷うことはないだろう。
近くを索敵すると、それなりに魔獣がいるので元々多いのか、それとも試験のために呼び寄せているのかもしれない。移動中にも魔獣がやってきているからね。
宿泊エリアにはテントや魔道具、食料が準備されていた。魔道具は火起こしや水の供給等なので正直自分には必要がないものだ。魔物除けの魔道具はあるけど、効力はほとんど無いので意味が無いだろう。結構立派そうには見えるんだけど、これは引っかけなのか?調味料は最低限あるけど、食料はビスケットのような携行食だけだ。
まずはテントを設置してから盾に使っている岩を出してテントを囲う。間が開いているのでその間は土魔法で埋めていくことで隙間をなくしていく。これで並階位程度であれば最初に攻撃されても耐えることができるだろう。
あとは簡単な魔物除けの魔道具も作成してみた。持ち込むのはいけないけど現地にあるもので道具などを作成するのは問題ないと言っていたからね。それに魔道具が含まれるかまでは言及していないけど、収納魔法がいいのならこれも許容範囲内だろう。素材に使っているのも拾った石だしね。
1時間ほどかけて宿泊場所の準備を完了する。途中で襲ってきた魔獣はすべて処理しておいたのでさっそく中に入って調理を行う。食べられる魔獣はかなり少なかったけど、一人分と考えると十分だ。かまども作っておいたので完璧だ。
匂いが広がらないように風魔法などで匂いの拡散は防ぐので大丈夫だろう。まあ肉くらいしかないけどあとは食べられる葉っぱとかがあればいいなあ。
昼食をとってから印を見つけるために探索を開始する。索敵をすると、魔獣や受験者の他にかなり引っかかりにくいけどおそらく監視をしている人と思われる気配も感じる。
障害物があるのであまり早く移動はできないけど、それでも普段の狩りよりも速い速度で印を探していく。途中でかなり反応が小さくて見落としそうになってしまうものも混じっていることに気がついたので、索敵の範囲を絞らなければならなかった。気がつく前のエリアは見落としているかもしれないな。
印は岩の間に隠されていたり、木の穴にあったりするものもあって索敵がなければ見つけられないだろう。索敵スキルが無い人は合格できるのかねえ?まあ誰かの後をつけていく方法もありそうだけどね。
やっと見つけてもプレートが反応しないものが結構多いのでしゃれにならない。いくつ見つけたら合格かわからないし、単純に上位何人というものだったらできるだけ多く見つけないといけないからなあ。
とりあえず見落としがないようにローラー作戦で探していくしかないので、確認した場所をちゃんと確認しておかないといけない。これはガイド本があるので正直かなり楽だった。探すエリアは反応がなくなるところでだいたい目星を付けた。索敵にかからない範囲くらい離れているとは思えないしね。
途中にいる魔獣はできるだけ回避していく。まあ避けられないものは狩っていくけどね。盾を出したので収納魔法は少し余裕があるので食べられるものだけを回収していく。
時間を確認して6時前には拠点に戻って調理に入る。途中で見つけた薬草類と肉を使ってスープを作ってみた。まあ今日はこれくらいでいいだろう。
食事をとった後は浄化魔法でさっぱりしてから眠りにつく。かなり暑いので魔法で氷を出すとある程度は涼しくなったので助かった。
深くは眠れなかったけど、最低限の睡眠はとれたので大丈夫かな?気配もできるだけ抑えていたせいか、特に襲撃も無かった。
朝食には昨日のスープの残りを食べてから探索を再開する。途中の食事は昨日の夜に作って置いた焼き鳥(串焼き)のようなものを食べて簡単に済ませる。収納魔法からの食事はだめと言っていたけど、こっちで調理したものはいいだろう。
なんとかエリア内と思われる範囲を一回りしたけど、索敵が出来なかったものがないとは言えない。登録できたものは全部で11個だったけど、それなりには見つけたと思っている。全部で50個位は見つけたので登録できたのは2割くらいだったのかな?
昨日と同じように夕食を作って食べた後は浄化魔法で綺麗にしてから早めの就寝に入る。ここで無理してもしょうが無いからね。
夜中にふと気配で目が覚める。警戒していると、誰かが隠密を使いながら近づいてきているようだ。壁の上に移動してから見てみると、黒い服を着た姿を発見する。
「一応確認するけど、これは撃退することが必要なんですか?」
「いや、あくまで警戒をしているかの確認だったから戦闘の必要は無い。近づいてきたところで気配を察知したようなのでそれだけでも十分だよ。しかし、こんなものを作っているとは正直驚いたよ。」
「一から作ると大変ですけど、盾として使っていたものがあったのでそれを応用したんです。特に使うことには制限されていなかったので・・・。」
「それは問題ないはずだ。終了まではあと少しだから頑張ってくれよ。」
そう言って試験官らしき人は去って行ったけど、これで安心するわけにもいかないだろうな。このあとも警戒をしながら眠りにつき、3日目の朝を迎える。
拠点を撤収してからエリアをさらに絞って索敵しながら近くを探してみるがやはり何も見つけることはできなかった。まあこれだけ見つけられればいいだろうと時間前に集合場所に戻る。
やはりみんなかなり疲れているようだが、ジェンはそこまではひどくない感じだった。自分と同じような感じだったのかな?18人いたはずだけど、12人くらいになっていると言うことはすでにリタイヤした人がいるのだろうか?
「ジェン、どうだった?」
「事前にイチと話したように拠点や魔道具を作って対応したわ。辺りを警戒はしてたので深い眠りは出来なかったけど、まだ休めた方かしらね。」
「人数が減っているところを見ると魔獣に襲われたか、監察官に襲われたかのどちらかだろうね。魔道具があるから油断したのかな?」
「魔道具の知識があまり無い人もいるかもしれないわよね。」
時間になったところで再び走っての移動となるけど、さすがに試験官についてきている人は少ない。指定の場所まで移動したときに試験官についてきていたのは自分たちを含めて4人だけだった。他の人の到着を待ってから車に乗り込んで町に戻る。カースさんとヤルマンさんも一緒のバスだったのでここまでは残っているようだ。
町に戻ってから昼食にカースさんとヤルマンさんも誘ったんだけど、宿に戻って休みたいというのでジェンと二人で行くことになった。まあ、二人はかなり死にそうになっていたからねえ。試験結果は明日の昼過ぎに発表されるそうなのでこの日はゆっくりすることにした。
夕べは早く寝たんだけど、さすがに疲れていたのか結構ぐっすり眠っていたようで、時間をみるとすでに1時半だった。発表は4時からだったのでまだ時間は十分にある。ジェンが起きてきたところで食事をとり、少し荷物整理などをしてから役場に向かう。
最後まで残っていなかったメンバーはすでに結果が伝えられているので、今日の発表に来ているのは昨日の帰りのバスに乗ったメンバーとその関係者だけのようだ。
まずは最初に合格者が呼ばれるようだ。
「お疲れ様です。今回の試験の受講者は35名、最終試験に最後まで残ったのは13名でした。さらに今回の行動試験の内容を判断して、合格したのは5名でした。それでは番号と名前を発表します。」
自分が11番でジェンが12番だけどどうだろうか・・・。
「合格者は受験番号順に言っていきます。」
「3番のクリサイア。
11番のジュンイチ。
12番のジェニファー。
28番のカース。
35番のライントフ。
以上の5名となります。」
「よっしゃ~~~!!」
「やったわ!!」
周りでは合格に喚起する声と不合格に落胆することが入り交じっている。自分とジェンは抱き合って喜んだ。よかった~~~!!!
「今呼ばれた5名はこちらの部屋に、残念ながら呼ばれなかったものはあちらの部屋に移動してください。」
残念ながらヤルマンさんは合格できなかったようだ。昨日印をあまり発見できなかったから厳しいかもしれないと言っていたしね。おそらく索敵スキルがあまり高くないのだろう。
部屋に入り、言われた席についてから説明を受ける。
「皆さん、改めておめでとう。君たちは十分に良階位の能力があると判断されたため、今回の昇格となった。君たちが・・・・」
きっとお偉いさんなんだろうけど、こういう話が長いのはどの世界でも同じなのかもしれない。結局15分ほどいろいろと心構えについて話があったあと、やっと実務的な話となった。
基本的には上階位とは変わらないんだけど、依頼の受注猶予期間が3ヶ月から1年に伸びたり、特別依頼を受ける可能性が上がったりという内容だ。
もちろん罰則についても細かく説明があり、場合によっては降格もあることが説明される。良階位以上になると罰則についても厳しくなるようだ。まあその分報酬とかも大きくなるので仕方が無いけどね。
一通りの説明の後、身分証明証を出して書き換えをしてもらう。冒険者のところが「良階位」となっていた。
役場を出ると、クリスさんたちがやってきていた。
「そっちの部屋から出てきたってことは合格できたってことだよな?」
「ええ、無事に良階位まで上がることができましたよ。まだまだ精進は必要ですけどね。」
「「「「「おめでとう!!」」」」」
「せっかくだから昇格祝いにうちの店に食べにこいよ。時間は大丈夫なんだろ?」
「いいんですか?それじゃあ、ごちそうになろうかな。」
一緒にいたカースさんにも話をするが、ヤルマンさんのこともあるし、他のメンバーと食事をするからといって断られた。まあクリスさんたちを紹介したところでいきなり直立不動で固まっていたからねえ。まあ元王子と一緒に食事というのは緊張しすぎるか・・・。
このあとクリスさんの店の一室を借り切って宴会となった。かなり楽しくて、ジェンはいつものように最後は眠ってしまったよ。やれやれ・・・。
~ジェンSide~
スレインさんたちにも言われて良階位の昇格試験を受けることになった。十分良階位のレベルはあるから大丈夫といわれてもやっぱり心配だったわ。
昇格試験は思ったよりもいい感じにできたと思っている。緊張せずにできたのが良かったのかもしれないわね。剣術についてはまだまだかもしれないけど、魔法の威力はなかなかのもだったと思うのよね。手加減してくれているのはわかったけど、向こうの攻撃はなんとか受けることができたからね。
行動試験は思ったよりもきつかったけど、重力軽減魔法があるのでまだ楽だったと思う。他の人は走るだけでも結構疲れていたからね。
イチと事前に話をして収納魔法に岩の盾を入れておいて正解だった。このおかげでテントの周りを囲えたのが大きいわね。一から壁を作っていたら時間がかかりすぎて印を探す時間がそんなにとれなかったかもしれないもの。
夜に人の気配を感じたときはちょっと怖かったのよね。警戒していたからまだすぐに気がついたけど、結構明け方だったから同じように他の人のところに行ったとしたら気がつかない人もいたんじゃないかな?かなり疲れている状態だったと思うからね。
索敵で印を探したけど、思ったよりも小さなものもあって驚いた。索敵エリアを絞ったせいで全エリアを見て回れなかったけど、10個見つけたのでまだ大丈夫だったのかな?
イチは11個見つけたと言っていたけど、全エリアを探したと言っていたから全部で15個くらいだったのかな?かなり小さなものは見つけていなかったみたいだからね。
私の後ろをつけてきていた人がいたけど、さすがに追いつけなくて諦めたみたいだった。索敵が苦手な人は得意と思われる人について行こうとしていたのかもしれないわ。パーティーだと全員が索敵が得意というわけでもないからね。
試験内容は毎回変わるみたいだから、試験内容と自分の得意な内容が一致していればかなり有利になるって事ね。まあこればかりは運だろうけど。
翌日の試験の結果発表まではかなり緊張したわ。番号と名前を言われたときは本当にうれしかった。イチも一緒に合格できて良かったわ。
あとでスレインさんたちもお祝いしてくれてとても楽しかった。本当に喜んでお祝いしてくれるだけでとてもいい気持ちになれるものね。おかげで飲み過ぎちゃったけど、イチがいるとつい気持ちが緩んじゃうのよね。気がついたら家のベッドで寝ていたけど・・・。
~試験官Side~
「今回の受講者は35人とそれほど多くなかったが、かなり優秀な人材もいた。行動試験に行けたのは18人といつもと同じくらいの人数だ。とりあえず順番に判断していこう。」
「いつものように受験者につけた監視人からの意見を聞きながら確認をしていく。
なお、他の試験の時と同じようにダミーの魔道具なども混ぜていたのでそれを信じて油断するものもいた。事前に情報を収集していればある程度予想できたと思うんだがな。このため安心して眠りについて襲われていたものもいた。
印についてもサンプルとすべて同じものと勘違いして見落とすものも多かった。今回の発見した個数の平均は4個となっている。合格ラインは6個と言うことには変わりは無い。」
・・・・
「これは本当なのか?」
「ええ、残念ながら移動速度が速く、すべてに同行はできませんでしたが、魔道具を使ったような形跡はありませんでした。」
「追いつけなかったのか?」
「はい、風魔法を使っているのか、飛んでいるような感じで走っていきました。」
監視員は戦闘能力はそこまでは無いが、隠密能力や移動などには特化しているのだが、その人間が追いつけないと言うことに驚いた。
「印を12個中11個を発見だとは・・・。」
「かなりの索敵能力を持っているようです。私のこともおそらく気がついていたと思います。」
「拠点については収納魔法から盾として使っていると思われるものを取り出して土魔法で補強していました。特に魔道具を使っていたわけでもなく、装備という扱いですので違反というわけではありません。
あとで分かったのですが、魔物除けの魔道具を自作していました。素材は辺りにある石を使っていたのでこれも違反にはなりませんし、正直そのスキルがあることに驚いているくらいです。
そのようなものを作っていたので油断しているかと思ったのですが、夜に隠密スキルを使って近づいていったときは、かなり離れたところからこちらのことに気がつかれました。
食事についても火を使っていましたが、魔法を使って臭いの拡散などを防いでいたようです。攻撃魔法だけでなく、その応用力もかなり高いと思われます。」
「戦闘能力も申し分ない上、行動試験でも十分な成果だ。十分に良階位レベルがあると判断していいだろう。だれか異論があるものはいるか?」
「僭越ながら・・・このものはハクセンの爵位を持っています。ハクセンからのスパイということはないでしょうか?この短期間での能力の伸びが急すぎると思うのですが・・・。」
「その点については別の報告がある。戦闘能力についてはたしかに急激な上がり方ではあるが、訓練をしたという道場にも確認したところ、間違いなく最初からの能力ではないと断言していた。冒険者以外にも収入源があるみたいで、その収入の多くをつぎ込んで個別指導で訓練しているようだ。
また、ハクセンの爵位についてもできる範囲で確認したところ、貴族の粛正にかなり協力したことが受賞の要因のようだ。事前に決まっていたわけでもなく、急な褒章だったことは確認できている。
今までの行動を考えても特段気になる点もないし、問題ないと考えていいだろう。良階位としてはまだそこまで気にすることも無いと思われる。」
「わかりました。そこまで確認されているのであれば異論はありません。」
「続いて同じパーティーのジェニファーについても話をしたい。」
「こっちの女性は10個発見か。ただこっちは見つけにくい4個、特に他に誰も発見できていない一つを見つけている。」
「11番とは異なり、エリアを絞って探索していったようです。このため時間的にすべてのエリアを探索できなかったようです。」
「野営の対応については11番と同じでした。ただ警戒レベルは高く、かなり離れたところからこちらの気配を感じて警戒してきました。」
「こちらも応用力などを考えると問題ないと考えていいだろう。」
「あと、余談かもしれませんが、試験の後でテントなどの回収に行ったもの達からの報告です。この2名の使ったテントですが、試験前よりもかなり綺麗な状態になっていたようです。浄化魔法を使ったようですが、驚くほど綺麗になっていたようです。おそらく光魔法や治癒魔法を合わせて使っていたのではないかと思われます。」
「魔法に関してはジョニーファン様のお墨付きというレベルと言うことか。未確認ではあるが、あのジョニーファン様と討論をしたという話もあるからな。」
評価者全員がうなずいたことから承認を得られたと判断した議長が採決をとった。
「二人ともに良階位にあげることで問題なしとする。」
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