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83. 異世界1239日目 サビオニアへ
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83. 異世界1239日目 サビオニアへ
朝早くから開いている店で朝食をとってからサビオニアへの門へと向かう。それなりには混んでいると思っていたんだが、ほとんど人がいない。まあ朝早いこともあるんだけど、それでも少なすぎるような気がする。やっぱりサビオニアに行く人が少ないのかねえ?
「思った以上に人が少ないね。特に平民用の方はガラガラだ。」
「もともと平民は国外に出ることができないと言っていたし、こちらの平民もわざわざ行こうと思わないんでしょうね。」
「たしかに。自分たちも爵位を持っていなかったら行くのはやめておいた方が良かったかもしれないというレベルだね。褒賞をくれたことに感謝だな。」
「ほんとそうだね。」
ここは貴族でも入国税が取られるようだ。それも一人2000ドールとかなりの金額である。あまり国の経営がうまくいっていないということだからお金を稼ぎたいのかな?
国境の門を越えてラルトニアの町へと入ると、そのまま貴族エリアへと続いていた。貴族エリアの方はそこそこ綺麗な感じに見えるけど、平民エリアはどうなっているのかわからない。エリアは完全に分かれているけど、行くことはできるようなのであとで行ってみることにしよう。
町は整備された感じなんだけど、何やらすこし匂いが漂っている。これって平民エリアからの匂いだろうか?下水関係がちゃんと整備されていないのかもしれない。そのせいでかなり香水の臭いが充満していてさらにむごい。
役場に行ってから受付を済ませて話を聞いて見る。朝早いけど冒険者の数はかなり少ないのか受付も閑散としている。貴族はそもそも護衛を雇っていることが普通らしく、冒険者を護衛に雇うと言うことはあまりないらしい。ということは特別依頼も少なそうだね。
宿は結構な値段設定をされているけど、これは仕方が無いだろう。宿自体は高級な感じなんだけど、普通では2000ドールという感じのところでも4000ドールとかなりの値段になっていた。事前に聞いていたことなのでしょうが無いか。店なども見ていくが、やはり値段が倍くらいしているのはものが少ないのか、単純に値段が高いだけなのか・・・。
服を使い古しに着替えてから平民エリアへの門へと向かう。門にいる係員からは本当に行くのかと何度も確認された後、いろいろと注意事項を受ける。路地裏や危なそうなところに行かないこと、スリなどに気をつけることなど色々と言われてしまった。
門をくぐるとそこはデパートのような店につながっていて、店の中を抜けて表通りに抜けるようになっていた。貴族と言うことを少しでもごまかすための処置だろうか?
町に入るとやはり結構匂いが漂っている。下水処理があまりきちんとできていないのか、単純にそこら中でやっているかのどちらかだろう。
町の人通りは多いが、歩いている人の服装の質は良くない。店を覗いてみるが、商品の棚もかなり空きが目立っていて、商品自体が少ない。うーん・・・かなりやばそうな感じだなあ。
認識阻害を使っているけど、この服装でもちょっと目立ってしまいそうなのでいったん店に入ってから服のランクを下げることにした。
いろいろと町中を見て回るが、やはり生活レベルはかなり低いことがわかる。お昼はここで食べることにしたけど、結構よさげな店でも料理の味はあまり良くない。料理自体は頑張っているんけど、香辛料があまり使われていないのと材料の質が悪いせいだろうか?それでも値段が150ドールとなっているのでこのエリアでは高級料理になるのかもしれない。
夕方になったところで役場に行ってみると、冒険者と思われる人達がそれなりにいた。話を聞いている限りでは並階位や上階位といったところか?しばらく様子を見てから男女二人組の冒険者に目をつける。
年齢は30歳くらいで、装備は使い込んではいるが結構上等なものをつけているし、歩き方などを見ても結構な腕前のような印象を受ける。他の冒険者との対応を見ても変な感じではないし、女性とのペアだとこっちも話しかけやすいからね。
二人が役場を出たので後をつけていくと、二人は夕食をとるのか居酒屋のようなところに入って行った。店はあまり混んではないようだが、大テーブルに座ったのでよかった。
「こんにちは。すみませんが、少し話をさせてもらってもよいですか?」
「なんだい?変な依頼は受けないよ。」
声をかけると女性の方が答えてきた。
「いえ、この国に来たのが始めてなのでいろいろと話を聞きたいと思いまして。もしよろしければ情報代として夕食はおごりますよ。」
「・・・もしかして役場から着いてきたのはあなたたちかい?変な気配を感じていたんだけど。」
こっちを気にするような感じがあったけど、気付かれていたのか。
「すみません。その通りです。あなたたちが実力もあって声をかけやすそうだったので後をつけさせてもらったんです。でもよくわかりましたね。」
「素直に認めるんだね。まあまだ上階位だけどこれでも良階位くらいの実力はあると思ってるからね。ただあんたたちも結構な実力もってるよね。魔道具だけであれだけ気配は消せないからね。」
「これでも一応良階位の冒険者ですので・・・」
「他の国から来たにしてはサビオニア語をちゃんと話せるんだね?まあちょっとなまりはあるけどね。」
「頑張って勉強したので通じるようで良かったです。」
「いいさ。おごってくれるって言うのは本当だろうね。お酒代も入るってことでいいんだよね。」
「おいおい。さすがにそこまでたかるなよ。」
一緒にいた男性の方が遠慮して声を上げてきた。
「いえ、そのあたりは気にしなくていいです。おごると言ったからにはちゃんと責任は持ちますよ。」
「よし、言質はとったからね。マスター!!」
自分たちも食事を頼み、お酒を酌み交わす。まあお酒の相手は主にジェンに任せたけどね。一緒にいた男性もお酒はほどほどみたいで、自分と食べ物をつまみながら話すこととなった。
彼らはタルミとマイトという二人組で、今は上級平民として活動しているらしい。やはりこの国から出るのはかなり厳しいみたいで、貴族でも国を出るのに許可がいるらしい。やはり貴族と平民の格差が大きくて、その土地の領主によっては悲惨な生活を強いられているようだ。
このため冒険者になる人は多いらしいが、実力が付く前に亡くなる人もそれ以上に多いらしい。彼女達もかなり苦労はしたが最初のころに運良く他の国の冒険者と知り合えていろいろと教えてもらったので生き残ることができたらしい。
ただ平民が良階位へ昇格するのはかなり厳しいみたいでなかなか階位があげられないようだ。このため上階位でくすぶっている冒険者は結構いるらしい。ちなみに貴族は普通に昇格試験は受けられるし、試験もかなり甘いという話のようだ。そういえばサビオニアの貴族の冒険者階位は当てにならないとか聞いたなあ。
1時間ほどいろいろと話を聞いたところで二人と別れて宿に戻ることにした。かなり飲み食いしたこともあり、800ドールもしたが、宿代を考えると安いものだ。
しかし聞いた限りでは貴族が絡むとろくなことがなさそうなのであまり町には寄らない方がいいかもしれないね。いろいろと見て回りたい気持ちはあるけど、余計なトラブルは極力避けたほうがいいだろう。
この国でも遺跡の調査するため王都に行って許可証を出してもらわなければならない。王都はここから南に行ったところでバスで7日くらいの日程のようだ。特に町の中を色々見て回る必要もなさそうなので早々に出発することにした。買い出しも必要が無いしね。
街道は整備されているんだけど、主要道路としては道路の幅が狭い感じだ。車を持っているのが貴族限定らしいので走っている車の数がかなり少ない。その分車で走るには問題ないからいいんだけどね。
「街道はそれほど広くもないけど、魔獣の討伐などはちゃんと行われているみたいだね。まあその土地の領主の威信がかかっているから手を抜けないってことなのかな?」
「特に主要道路だからそれはあるかもしれないわね。」
「私たちが中位爵相当で良かったわね。そうでなかったらずっと後ろについて走らないといけなかったわ。」
この国独自のいろいろな決まり事があり、その中に走っている上位の爵位の車を抜いてはいけないとかいうことがあった。
「さすがに上位爵の車がいたらつらいけど、今のところは遭遇していないから良かったよ。まあその場合は街道を無視して行く手もあるけどね。」
「基本的に上位の爵位の人の車は質がいいからスピードは速いみたいだけど、自分たちの車にはかなわないからねえ。」
こっちの車のペースにあわせて走ったら遅くなってしょうが無いからね。
変なトラブルに巻き込まれても面倒なので途中の町には寄らずに拠点に泊まりながら移動していく。本当はもっと楽しみながら行きたいけど、こればかりはしょうがない。途中の町の様子はわからなかったけど、畑で働いている人達は痩せ細っている人ばかりなのであまり暮らしぶりがいいわけではないのだろう。
途中で上位爵のプレートをつけた車はいなかったので自分たちのペースで走ることができたこともあり、5日目には王都サビオニアが見えてきた。城壁の向こうにいかにも中世という感じの城が建っているのでなんか違和感を覚えてしまう。社会性だけでなく生活まで中世風なのか?
王都もきっちりと貴族エリアと平民エリアが分かれておいて、貴族専用の門からは貴族エリアにつながっていた。早速宿の予約に行くが一泊が5000ドールとかなりの高額だ。どうもこれで普通らしいが、半端ないな・・・。宿のレベルはそんなに高いとは思えないけどね。
宿の予約を済ませてから役場に行って遺跡の調査許可証の申請を行う。紹介状と一緒に申請すると、モクニクと同じようにすぐに上司と思われる人に呼ばれることとなった。
申請を行うと今回はその日に許可証を発行してくれることになったが、発行されたのは1級調査許可証だった。この国では特級調査許可証というものはなく、1級が一番上らしい。これでも特別許可がいるところ以外は入れるようだ。
ただ話を聞くと、許可の必要な遺跡はほとんど無く、管理している人もほとんどいないというのが実情らしい。特に許可証はいらなかったか・・・。まあ遺跡の保護って言うのはある程度社会が安定した国でないとできないだろうな。
そもそも遺跡の調査を行っているのが貴族の道楽でやっているくらいで、遺跡は古代遺物のある場所という認識のようだ。このため他国の調査団が調査する以外は放置に近い状態らしい。
このあと役場で資料を見てみるが、やはり王都付近は魔獣の階位が低いものしかいないようなので冒険者は少ないようだ。
平民エリアの方にも行ってみたけど、こっちはさらにひどくて冒険者がほとんどいないという状況だった。このため受付も一つしか無かった。平民だと車もないので狩りをするのも大変だし、護衛依頼もほとんど無いという状況だからね。いるのはほんとに初心者くらいだろうが、生活まで考えると少しでも物価の安い地方に行くよな。
店を見て回るが、王都でも平民エリアは取り扱いの品物が少ない状況だった。貴族エリアでもそんなに十分あるというわけではなかったからね。他の国ともあまり交流していないようだし自国の物流もどこまでちゃんとしているか不明だ。
食事は宿の食堂でとることにしたが、一人500ドールとかなりの値段だった。しかし出てくるものがそんなにいいものではないというのがかなり悲しい。これだったら平民エリアで食べた方がまだ良かったかもしれないよなあ。お昼は高いとは言え150ドールで食べられたしね。
部屋はシルバーフローよりも質が悪いという感じだ。掃除などはちゃんとしているんだけど、置いている家具の質が悪いという感じ。もっと上の部屋になればいいものを使っているとは思うんだけど、このあたりは仕方が無いのかねえ。
王都での滞在もそこまでの意味はなさそうだったのですぐに出発することにした。目指すのはここから北西にある遺跡だ。
王都を出発してから拠点に泊まりながら車を走らせる。ここに来るまでと同じように途中の町は素通りだ。街道のランクは下がるけど、特に魔獣が出るというわけではないので走るのには問題は無い。
このまま順調に遺跡まで行けるといいなと思っていると、索敵に魔獣が引っかかった。上階位の魔獣のようだが結構数が多そうだ。こんな街道の近くに上階位の魔獣がいるのか?さすがに気がついてしまったのに素通りも気が引ける。
「ジェン、とりあえず近くに行ってみるよ。」
「わかったわ。」
街道から少し離れたところにある岩場の影に車が止まっており、魔獣が襲いかかっているようだ。ちょっと離れたところに人の気配も感じるのが気になるが、まずはこっちからだ。
「ジェンも気がついているとは思うけど、あっちに変な団体がいるから注意してね。」
「わかっているわ。実力的には自分たちでも十分倒せそうだけど油断はできないわね。盗賊かしら?」
「なんとも言えないね。魔獣ももしかしたらあそこにいる人達の仕業かもしれないよ。」
車の周りに護衛と思われる人が戦っているんだけど、ちょっと押されている感じ。襲っているのは集団蜂のようにみえる。なんでこんなところにこんな魔物が出ているんだ?
集団蜂はかなりたちが悪い蜂の魔獣で、町や道路の近くで発見されたらすぐに討伐される指定駆除魔獣だ。前に倒したことのある握りこぶしくらいの大きさの大蜂よりちょっと大きいくらいだけど、脅威度は良階位となる。装甲が固い上に素早いし、さらに毒の威力も高いのがその理由の一つだけど、とにかく数が多いのがもっとも大きな理由だ。
普通は森の奥などにいる魔獣で、普通の蜂のように巣を作って集団生活をしている。大きな巣になれば数千匹の集団で生活しているらしい。大蜂と同じく魔法がかなり有効なんだけど、物理攻撃だけだと討伐はかなり厳しい魔獣だ。
さすがになにかあっても困るので少し離れたところから声をかける。
「大丈夫ですか?手助けがいるなら援護します!!」
「頼む!!!」
こちらの声に反応した護衛と思われる人が返事をしてきた。
とりあえず盗賊などと言うわけではなさそうだけど、あまり信用しすぎるのも危ないからね。小説みたいに襲われる人が問答無用でいい人という保証はないし。
近づいていくと集団蜂がこちらにも気がついて襲ってきたんだけど、数はそれほどいないようだ。巣が近くにあるというわけではなかったのかな?
こちらに襲いかかってくる集団蜂を火魔法で焼き払いながら近づいていく。こちらを脅威に感じたのか、残った蜂が一気に襲いかかってきたけど、周りに人がいないなら遠慮する必要も無い。風魔法と水魔法でたたき落として火魔法と剣でとどめを刺していく。近づかれて針を刺されたら大変だからね。
あくまで集団攻撃での脅威から良階位となっているんだけど、単発攻撃であれば上階位レベルの魔獣だからね。まあそれでも100匹くらいはいたっぽい。
岩陰には車が2台止まっていたんだけど、蜂の攻撃を受けたせいかかなりボコボコになっていた。タイヤもパンクしているみたい。食事をとっていたのか、あたりにはテーブルや椅子の他、食器や食べ物も散らばっている。食事中に襲われたのかな?
普通の蜂と同じく巣分けで移動していたんだろうか?それでちょうど休憩していたところにこの人達がやってきて襲ったっていう感じかな?まあこのあたりは正直わからない。
先ほどの様子をうかがっていたと思われる人達の気配はなくなっていたのでもうどこかに行ってしまったのかもしれない。どういう人達だったのかは不明だけど、とりあえずは大丈夫かな?
「大丈夫ですか?」
あたりを警戒しながら確認すると、護衛と思われる男性が2人と女性が2人がいて、車の中に護衛対象と思われる人が乗っているようだ。
「すまなかった。協力に感謝する。」
リーダーと思われる男性が声をかけてきた。
「いえ、困ったときはお互い様です。怪我はありませんでしたか?」
「ああ、大丈夫だ。結構刺されたりしたが、薬を持っていたからな。ただしばらくはまともに戦えないかもしれない。」
たしかこの蜂の毒は遅効性なので徐々に効果が強くなっていく感じだったかな。治療してあげてもいいんだけど、変なことになってもまずいのでやめておいた方がいいかな。まあ薬を飲んでいるのなら死ぬこともないだろう。
話を聞くと貴族に雇われている護衛らしいけど、火魔法を使える人がいなくてかなり手こずっていたらしい。こんなところに集団蜂が出るなんて聞いたことがなかったようだ。数がまだ少なかったから良かったけど、あのままだったらやられていたかもしれないと言っていた。
話をしていると、車の中から人が降りてきた。少し年配の女性と10歳くらいの子供が二人だ。
「助力感謝いたします。危ないところでした。」
「「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとー!」」
男の子と女の子らしいが、顔がかなり似ているので兄妹なんだろう。貴族の奥さんと子供っぽいけど、貴族にしては護衛とか車がお粗末だなあ・・・。
こちらも貴族と言うことは言わず、ヤーマンから来た冒険者と言うことだけ話をしておく。遺跡に興味があり、いろいろと見て回っていると言うことを説明するとかなり不思議そうな顔をされてしまったよ。意味が無いかもしれないが、遺跡の調査許可証も見せると、一応は納得してくれたようだ。
よく小説で高位貴族が盗賊や魔獣に襲われているところを主人公が助けるという展開があるけど、普通に高位貴族が盗賊や魔獣に襲われてやられそうになるレベルってどれだけ国がヤバイ状況なんだと思ってしまう。
それに魔獣はまだしも盗賊もそんな高位貴族を襲った場合のデメリットはわかるだろう。特に王族を盗賊が襲うなんてあり得ないからね。なにかあったら国の威信をかけて速攻で討伐されるよ。貴族を襲うにしても対価が大きすぎるよ。よほどの兵力を持っていない限りはあり得ない話だ。それか貴族や後継者争いに巻き込まれているくらいしかないよな。
さらに助けられたからと言ってすぐに信用されるというのはもっとあり得ないことだろう。わざとけしかけてそれを救ったと見せかける話なんてよくあることだからね。
ってことは、今の自分たちがその立場ってこと?魔獣をけしかけて助けた風を装っていると勘違いされてもまずいからそうそうに立ち去った方がいいよな。
それでは先を急ぐのでと出発しようとしたんだが、この先の町に移動中だったのでそこまで同行してくれと頼まれてしまった。どうやら護衛の二人が結構刺されたみたいでこのあとの護衛が少し不安らしい。
いくら助けたと言ってもすぐに信用して大丈夫なのか?と思ったんだが、さすがにほおっていくのもかわいそうだと思って町まで同行することにした。
車のパンク修理を終えてから簡単に昼食をとったあと、移動を開始する。1台はリーダーが運転し、もう一台に負傷者2人を乗せて走るようだ。自分たちはその後ろを付いていくことになる。まあ一緒の車に乗って移動とかじゃないから信用しているかどうかは別問題かもね。面倒になってしまうかもしれないので車の貴族の印は外しておいた。
町までは車で2時間ほどだったが、ペースが遅いのがちょっと面倒だった。途中でジェンと彼らのことについて話をする。
「どう思う?」
「うーん、なんとも言えないわねえ?見た感じは助けてくれたお礼をしたいから護衛と言う名目で町に連れて行こうとしている風にも思えるけど・・・通りすがりの冒険者を簡単に信用するってことがあるかしら?しかもあの人達は平民でなくて貴族だからね。」
「小説みたいに助けてもらったから信用できる人というのはあり得ないからね。あの魔獣だって自分たちのせいだと思われてもおかしくないよ。」
「そうなのよね。ただあの女性は貴族という割には貴族らしくないというか、なんか雰囲気が違うのよね。子供達もそうだけど・・・。」
たしかにそれは自分も感じたことだ。貴族と言うよりはちゃんと学のある平民という感じなのである。見初められて貴族に娶られたということもありうるか?でもこの国では平民と貴族が結婚することはかなり大変だという話は聞いたことがある。妾ならまだしも正妻と言うことは普通はあり得ないだろう。
「とりあえず警戒を怠らずにしておこう。へんな疑いをかけられたらいやだからね。最悪隠密の魔道具をすぐに使えるようにしておいた方がいいね。」
「わかったわ。」
町に到着したところで別れようとしてみるが、どうしてもお礼がしたいと言われてなかなか離してくれない。そのまま立ち去れば良かったかなあ?
しょうがないので町に入ることになったが、彼女たちが一緒だったせいか、身分証明証だけで中に入ることができた。やはりこのあたりを治める貴族だったみたいでこの町に住んでいるようだ。
貴族に関わる項目は見えないようにしたので特に何も言われることはなかった。職業で第一職業の場合は非表示にはできないが、2つめ以降の職業については非表示にできるからね。また賞罰についても犯罪歴などは隠せないが、褒章などについては隠すことができるようだったので必要が無いときは隠している。
町の宿に案内されて今日は泊まっていくように言われてしまった。宿代は払ってくれるみたいなんだけど、ここ大丈夫だよね?まあいきなり領主の家に連れて行かれるよりはまだ納得できる話だけどね。夕方に改めてお礼に伺うと言っていた。
町に入って思ったんだが、ここの町は結構活気があって住人の表情も明るい。宿の受付もかなり普通に対応していたのもちょっと驚きだ。領主の家族が来たら平民用の宿の従業員はかなり驚くと思うのに、丁寧ではあるが、普通に対応していたからなあ。
時間もあるので町に出て買い物の時に話を聞いて見ると、領主がかなり善政を敷いているみたいで税金も他に比べるとかなり抑えてくれているようだ。その分の税金は領主が行っている事業で納めてくれているらしい。なかなか好感の持てる領主のようである。
孤児院にも行ってみたが、結構きちんと経営されていて、子供達の表情も明るい。しかもちゃんと勉強まで行っていると聞いて驚いた。
特に治療の必要な人はいないようだったが、食料関係について少し寄付していくことにした。さすがに肉はあまり食べられなかったらしく、かなり喜んでいた。
かなり良い領主のようだが、あと数年で領主が変わるという話が出ているようだ。細かい話はわからないが、今の領主の親戚に領主が変わるみたいで、どういう統治になるのかかなり不安らしい。
ちなみに今の領主はもともと先代の三男だったらしく、家を出て冒険者として活動していたようだ。しかし上の二人の兄が病気で亡くなったため、後を引き継ぐことになったようだ。奥さんは冒険者として活動していたときに結婚した他国の人らしく、彼女も冒険者だったようだ。その話を聞いてさっきまで持っていた違和感が払拭された。
夕食の後、宿に戻ってからしばらく寛いでいると訪問客がやってきたと連絡が入った。ロビーに行くと、個室に案内される。中にいたのは先ほどの女性と夫と思われる男性、護衛が二人だ。男性と護衛は自分たちと同じくらいのレベルはありそうだが、何かあっても逃げることはできるだろう。
「この辺り一帯を管理している下位爵のデミル・ハーマンだ。今日は妻と子供達が危ないところを助けていただいたようでお礼に伺った。」
「はじめまして、デミル様。アースというパーティを組んでいるジュンイチとジェニファーです。わざわざ申し訳ありません。」
「今回はいろいろと手助けしてくれてすまなかった。お礼としては少額かもしれんが、これを受け取ってくれ。」
お金が入っていると思われる小袋を出してきた。
「いえ、お礼をもらうために助けたわけでもありませんし、特に被害も無かったので必要ありませんよ。」
「・・・お金ではなく、他に何か希望でもあるのか?」
「いえ、特にはないのですが・・・旅の途中なので可能であればこの国の情報・・・町のおすすめの宿とか食堂とか特産とかを教えてもらえれば十分です。」
自分の返事を聞くと一瞬驚いたような顔をしたが、その後笑い出した。
「なるほど、冒険者らしい回答だな。すまなかった、ちょっと疑っていたんだが、その返答を聞いてちょっと安心したよ。」
「疑っていたというのはあんなところに集団蜂がいたということでしょうか?数も中途半端に少なかったですし、気がついていたかもしれませんが、付近に怪しい気配がありましたからね。」
「ああ、それは妻にも聞いている。彼女の索敵能力は結構高いからね。」
「そうなのよ。昼食を取る前に周りは索敵して特に何もなかったのに、急に襲ってきたのよね。しかも集団蜂でしょ?こちらから何か仕掛けない限りは襲ってくる魔獣じゃないわよね。
魔獣を気絶させるとかして持ち運んで襲わせて、そのあと魔獣の仕業に見せかける盗賊だったのかもしれないわ。襲われている間もこっちの様子をうかがっているみたいだったものね。あなたたちが現れて討伐を始めたら慌てて逃げていったようだけど、こんなことならちゃんと装備しておけば良かったわ。」
「さすがにそれは勘弁しておいてくれ。」
どうやら話に聞いていたとおり、二人は元々冒険者だったみたい。とりあえず疑いはなくなったのか、そのまましばらく二人と話をする。
デミルさんは貴族を継げないこともあり、冒険者として生活していたようだ。この国を出てホクサイ大陸に行ったことでそれまでの価値観がすべて変わってしまったらしく、そこで知り合った同じ冒険者の奥さんと結婚したようだ。
その後、兄たちが亡くなったと聞いて仕方なく領地に戻って領主としての教育を受け、10年前に領主となったようだ。両親は最初は妻のことを認めていなかったが、それだけは譲れないと断固として受け入れなかったこともあり、最後は諦めたらしい。その両親も8年前に他界したそうだ。
こっちに戻ってきてから子供ができたが、子供が成人するのを待ってホクサイ大陸に移住しようと考えているみたい。やはり子供達に余計な苦労をさせたくないというのが本音らしく、貴族としての生活には未練が無いようだ。このため最低限の貴族としての教育はしているが、他の国での価値観や考え方を教えているそうだ。
今のホクサイ大陸の話をするとかなり興味を持っていた。もう少ししたら移住する予定ということなのでこちらもいろいろと情報を提供した。
「折角なので私の名刺を渡しておこう。どこまで効果があるか分からないが、この国のことを考えると持っていて損は無いと思うからな。」
そう言って差し出してきたのは魔力を封印した名刺だった。どうやら特別な処理をされているみたいで、この国の貴族の知り合いであることを証明してくれるものらしい。
「ありがとうございます。」
思ったよりもいろいろと話をしたせいで結構遅くなってしまった。明日の朝には出発することを伝えて見送りをする。
翌朝、朝食をとり、早々に出発する。夕べここから北の地域について色々と聞いておいたんだけど、あまりよい領地ではないみたいなのですぐに通り抜けた方がいいと言われている。
「昨日聞いた領主の名前で”チカ”って言う家があったよね?その家ってスレインさん達の実家じゃないかな?」
「わたしもそう思ったわ。結構珍しい家名らしいし、北部の辺鄙なところの貴族と言っていたから間違いないんじゃないかな?」
「折角だから少し寄ってみようか。スレインさん達も家を出たとはいえ少しは気になっていると思うしね。」
少し遠回りになるけど、2日目にチカ家の領地に入る。町の近くに行ってみたけど、なんか畑の手入れがかなりおざなりになっているのが気になる。昼間なのに働いている人の姿も少ないし・・・。
車を降りて働いている人に挨拶してみるが、あまりにも覇気が無い。お昼前だったので、近くの木陰で食事の準備をしていると、こっちが気になっているようでこちらをちらちら見ていた。
働いている人の子供と思われる6歳くらいの子供が2人こっちをずっと見ているのでサンドイッチを出して呼んでみると、目を輝かせながら近くにやってきた。サンドイッチを渡すと、むさぼるように食べ始めた。どう見ても食事がまともにできていない印象だ。
しばらくすると休憩時間になったのか、簡単な食事を始めたんだが、乾燥したようなパンを少し食べているだけのようだ。一応休憩時間のようなので声をかけてみることにした。
「すみません、少しお話してかまいませんか?」
「ああ、かまわんよ。すまないね、子供達に食べ物を恵んでくれたんだろ。かなり喜んでいたよ。」
「もしよろしければあなたたちの分もありますけど、いかがですか?」
かなり驚いた表情をしている。
「いや、子供達に恵んでくれただけでもありがたいよ。わしたちには恵んでもらっても何もお返しするものがないからな。」
「いえ、いろいろと話を聞かせてくれるだけで十分ですので一緒に食事をしましょう。」
人数分のサンドイッチを出すとむさぼるようにして食べ始めた。
「久しぶりに食べる柔らかいパンじゃ。」
久しぶりというのがちょっと気になる。こっちの世界では結構普通に食べられているはずなんだけど、そんなに生活が厳しいのか?
話を聞いてみると、どうやらここ数年の間不作が続き、それなりに多くの人が亡くなってしまっているらしい。特に天候が悪かったというわけではないんだけど、いろいろとあって管理が行き届いていないのが問題のようだ。
親が亡くなったせいで孤児も増えてしまっているようだけど、救済策は特になく、多くの子供達も亡くなっているようだ。なんとかしてやりたい気持ちはあっても自分たちが生活するだけで精一杯のようだ。
それでも税金の緩和もなく、取り立てられているため夜逃げする人達も出てきているが、他の町にいっても町には入れないのでどうなっているのかわからないという状況らしい。もちろん奴隷として売られた人も多いようだ。
奴隷といってもこの地域では買い手もないので他の地域に行くことになるんだけど、正直奴隷の方がいいのかもしれないと嘆いているのがちょっと・・・。
「前の領主様の時はまだ良かったんじゃがなあ。まあ不作が続いたこともあるが、今の領主様になってから生活が厳しくなったのは確かじゃな。」
領主は数年前に長男に代替わりしたようだ。スレインさんたちの兄になるのかな?
「前は領主の子供たちが町に来ることもあったりしてな。特に仲の良かった娘さん4人は気さくに声をかけてくれていて町でも結構人気があったもんじゃ。そのあとその4姉妹が亡くなったと聞かされたときはかなり悲しんだもんじゃ。
今の領主様の子供達は正直手に負えない状況じゃ。暴力を振るったり、女性を襲ったりやりたい放題じゃ。あなたたちも気をつけた方がええぞ。」
いろいろ聞いていると、やはりここがスレインさんたちの故郷で間違いが無いようだ。ただスレインさんたちは亡くなったことになっているみたい。たしかに逃亡したとなったら体面が悪いだろう。
話をしていると、えらく豪華な車が通りかかり、中から人が降りてきた。
「おい、休んでいる暇があったら働かないか!!」
40歳くらいと思われるちょっと上等そうな服を着た男がいきなり大声で威嚇してきた。休んでいた人達はすぐに仕事に取りかかるようだ。自分たちもそろそろ移動しようかと思っていると、こっちに向かって声をかけてきた。
「ここらでは見ない風貌だな。おや?お前は女か?ちょっと顔を見せてみろ!!」
認識阻害の魔道具があるとはいえ、こう正面から来られると効果は無い。マントのようなものを羽織っているので装備もどのようなものを着ているのかはわかりにくくなっている。
しかしなんなんだこいつは?相手のことをちゃんと確認もしないでいきなりこんな態度?えらく威張っているなあ。それほど強くもなさそうだし、護衛と思われる人間も上階位レベルか?実力を隠しているという風にも見えないよな。
ジェンに手を伸ばそうとしている男の前に立ちはだかって声をかける。
「どういうことでしょうか?いきなり自分の妻に対して失礼ではありませんか?あなたになんの権限があってそのようなことを言っているのでしょうか?」
護衛を含めて全員に威圧をかけて声を出すとその場にへたり込んでしまった。
「お、おまえ!!貴族に逆らうのか?」
「あんたが貴族なのか?そうは見えないけどな。」
いくらなんでもこんなのが貴族とは思えないんだが、実はこれで領主なんだろうか?威厳も何もないよなあ。
「そこまでだ!!」
車から降りてきた男が声を上げる。自分たちより下の年齢という感じなんだが、先ほどの男よりも整った服装をしている。これは年齢的に考えて領主の息子か何かかな?
「そのものは私の代理だ。平民冒険者風情が生意気な口を利くな。
ほぉ、ここでは見ないくらい上等そうな女だな。人妻でもかまわん、連れて行け。」
ひるんでいた護衛達がなんとか立ち上がり、ジェンに手を伸ばそうとするが、その前に立ちはだかる。
「き、きさまぁ!!貴族に逆らうのか!?」
なんでこんなテンプレみたいなくず貴族がいるんだろう。小説の中くらいしかいないと思っていたのに本当にいることにびっくりだよ。
「相手の実力や身分の確認もしないし、よくこれで貴族をやっているな。貴族に逆らう?相手が貴族と言うことは考えなかったのか?」
自分たちが胸元からペンダントを取り出すとあっけにとられていた。
「あ・・・あ・・・まさか・・・。」
「もう一度言ってくれるかな?どうするつもりだって?貴族と言っていたが、お前は当主なのか?当主でないのなら正式には貴族ではないだろう?」
「いえ、その・・・も、申し訳ありません。」
ひたすら頭を下げてきた。おそらく貴族の息子だと思うので、立場は準位爵で貴族ではないだろう。さすがに貴族に対する不敬は死刑ということは無いが、状況によってはかなり厳しい処分となるはずだ。
「あまり無茶をしていると、いつか大きなしっぺ返しを受けることになると思うよ。あと貴族なら慎重に行動しないとね。なんで自分より上の人間がいないと思っているんだか・・・。
今のところ今回の事を報告するつもりはないけど、どこに監視の目があるかは考えた方がいいと思うよ。変なことをしていたら自分も何を言うかわからないからね。」
こっちの身分をちゃんと教えてあげる必要も無いので、この国の中位爵と言うことにしておこう。
さすがにこんな貴族のいる町にわざわざ行くこともないので車を出してからすぐに出発する。こっちが立ち去るまではずっと頭を下げたままだったよ。あとはどうなるかわからないけど、自分たちに何かできるわけではないので釘を刺すのが精一杯だろう。まあしばらくはおとなしくなるかな?
自分の実家がこんなことになっているってスレインさんたちはどう思うのかなあ?クリスさんはもしかしたら現状を把握しているかもしれないけどね。
~だめ貴族Side~
くっそ~~。なんであんなところに中位爵の貴族がいるんだ。しかも平民なんかと一緒にいるとか考えられないぞ。久しぶりにいい女を見かけたと思っていたのに、腹が立つ!!
ただなんでこんなところにやってきていたんだ?もしかして査察でもやってきたのか?だとしたらまずいな。特に報告はしないと言っていたが、今回のことをチクられたら俺の立場がまずいことになるかもしれない。
やはりちゃんとお詫びをした方がいいかもしれないな。そうだ、そうしよう。家に招待して歓迎すれば機嫌も治ってくれるだろう。さっそく父に相談しておこう。
もちろんジュンイチ達二人はこの町に寄るつもりはなかったのでいくら探しても見つかるわけはなかったんだが・・・。
~魔獣紹介~
集団蜂:
良階位中位の魔獣。森の奥に多く生息している蜂の形をした昆虫型の魔獣。大きさは握りこぶしより二回りほどの大きさで、動物や魔獣を餌としており、人間にも襲いかかる。
1匹でも上階位の強さがあり、通常は数百~数千匹の集団で襲いかかってくる。お尻にある針には大蜂よりもさらに強い毒が含まれており、一度に複数箇所を刺されてしまうと死に至ることがある。このため戦闘中であっても解毒剤を服用しながら対応した方が良い。
体が小さいため、剣や弓での攻撃は難しく、魔法攻撃が最も有効。体が油に覆われているため、特に火魔法が有効であるが、延焼には注意が必要。
もし巣を見つけることができれば女王蜂を退治することが望ましいが、地中に巣を作るため見つけるのは難しい。
町や街道の近くで発見された場合はすぐに討伐依頼の出る駆除指定魔獣に登録されている。
女王蜂以外は素材としての買い取り対象はない。巣で育っている幼虫を食べる地域もあるため、地域によっては買い取りも行っている。女王蜂の瞳は宝石として流通しており、かなりの高値で売買されている。
朝早くから開いている店で朝食をとってからサビオニアへの門へと向かう。それなりには混んでいると思っていたんだが、ほとんど人がいない。まあ朝早いこともあるんだけど、それでも少なすぎるような気がする。やっぱりサビオニアに行く人が少ないのかねえ?
「思った以上に人が少ないね。特に平民用の方はガラガラだ。」
「もともと平民は国外に出ることができないと言っていたし、こちらの平民もわざわざ行こうと思わないんでしょうね。」
「たしかに。自分たちも爵位を持っていなかったら行くのはやめておいた方が良かったかもしれないというレベルだね。褒賞をくれたことに感謝だな。」
「ほんとそうだね。」
ここは貴族でも入国税が取られるようだ。それも一人2000ドールとかなりの金額である。あまり国の経営がうまくいっていないということだからお金を稼ぎたいのかな?
国境の門を越えてラルトニアの町へと入ると、そのまま貴族エリアへと続いていた。貴族エリアの方はそこそこ綺麗な感じに見えるけど、平民エリアはどうなっているのかわからない。エリアは完全に分かれているけど、行くことはできるようなのであとで行ってみることにしよう。
町は整備された感じなんだけど、何やらすこし匂いが漂っている。これって平民エリアからの匂いだろうか?下水関係がちゃんと整備されていないのかもしれない。そのせいでかなり香水の臭いが充満していてさらにむごい。
役場に行ってから受付を済ませて話を聞いて見る。朝早いけど冒険者の数はかなり少ないのか受付も閑散としている。貴族はそもそも護衛を雇っていることが普通らしく、冒険者を護衛に雇うと言うことはあまりないらしい。ということは特別依頼も少なそうだね。
宿は結構な値段設定をされているけど、これは仕方が無いだろう。宿自体は高級な感じなんだけど、普通では2000ドールという感じのところでも4000ドールとかなりの値段になっていた。事前に聞いていたことなのでしょうが無いか。店なども見ていくが、やはり値段が倍くらいしているのはものが少ないのか、単純に値段が高いだけなのか・・・。
服を使い古しに着替えてから平民エリアへの門へと向かう。門にいる係員からは本当に行くのかと何度も確認された後、いろいろと注意事項を受ける。路地裏や危なそうなところに行かないこと、スリなどに気をつけることなど色々と言われてしまった。
門をくぐるとそこはデパートのような店につながっていて、店の中を抜けて表通りに抜けるようになっていた。貴族と言うことを少しでもごまかすための処置だろうか?
町に入るとやはり結構匂いが漂っている。下水処理があまりきちんとできていないのか、単純にそこら中でやっているかのどちらかだろう。
町の人通りは多いが、歩いている人の服装の質は良くない。店を覗いてみるが、商品の棚もかなり空きが目立っていて、商品自体が少ない。うーん・・・かなりやばそうな感じだなあ。
認識阻害を使っているけど、この服装でもちょっと目立ってしまいそうなのでいったん店に入ってから服のランクを下げることにした。
いろいろと町中を見て回るが、やはり生活レベルはかなり低いことがわかる。お昼はここで食べることにしたけど、結構よさげな店でも料理の味はあまり良くない。料理自体は頑張っているんけど、香辛料があまり使われていないのと材料の質が悪いせいだろうか?それでも値段が150ドールとなっているのでこのエリアでは高級料理になるのかもしれない。
夕方になったところで役場に行ってみると、冒険者と思われる人達がそれなりにいた。話を聞いている限りでは並階位や上階位といったところか?しばらく様子を見てから男女二人組の冒険者に目をつける。
年齢は30歳くらいで、装備は使い込んではいるが結構上等なものをつけているし、歩き方などを見ても結構な腕前のような印象を受ける。他の冒険者との対応を見ても変な感じではないし、女性とのペアだとこっちも話しかけやすいからね。
二人が役場を出たので後をつけていくと、二人は夕食をとるのか居酒屋のようなところに入って行った。店はあまり混んではないようだが、大テーブルに座ったのでよかった。
「こんにちは。すみませんが、少し話をさせてもらってもよいですか?」
「なんだい?変な依頼は受けないよ。」
声をかけると女性の方が答えてきた。
「いえ、この国に来たのが始めてなのでいろいろと話を聞きたいと思いまして。もしよろしければ情報代として夕食はおごりますよ。」
「・・・もしかして役場から着いてきたのはあなたたちかい?変な気配を感じていたんだけど。」
こっちを気にするような感じがあったけど、気付かれていたのか。
「すみません。その通りです。あなたたちが実力もあって声をかけやすそうだったので後をつけさせてもらったんです。でもよくわかりましたね。」
「素直に認めるんだね。まあまだ上階位だけどこれでも良階位くらいの実力はあると思ってるからね。ただあんたたちも結構な実力もってるよね。魔道具だけであれだけ気配は消せないからね。」
「これでも一応良階位の冒険者ですので・・・」
「他の国から来たにしてはサビオニア語をちゃんと話せるんだね?まあちょっとなまりはあるけどね。」
「頑張って勉強したので通じるようで良かったです。」
「いいさ。おごってくれるって言うのは本当だろうね。お酒代も入るってことでいいんだよね。」
「おいおい。さすがにそこまでたかるなよ。」
一緒にいた男性の方が遠慮して声を上げてきた。
「いえ、そのあたりは気にしなくていいです。おごると言ったからにはちゃんと責任は持ちますよ。」
「よし、言質はとったからね。マスター!!」
自分たちも食事を頼み、お酒を酌み交わす。まあお酒の相手は主にジェンに任せたけどね。一緒にいた男性もお酒はほどほどみたいで、自分と食べ物をつまみながら話すこととなった。
彼らはタルミとマイトという二人組で、今は上級平民として活動しているらしい。やはりこの国から出るのはかなり厳しいみたいで、貴族でも国を出るのに許可がいるらしい。やはり貴族と平民の格差が大きくて、その土地の領主によっては悲惨な生活を強いられているようだ。
このため冒険者になる人は多いらしいが、実力が付く前に亡くなる人もそれ以上に多いらしい。彼女達もかなり苦労はしたが最初のころに運良く他の国の冒険者と知り合えていろいろと教えてもらったので生き残ることができたらしい。
ただ平民が良階位へ昇格するのはかなり厳しいみたいでなかなか階位があげられないようだ。このため上階位でくすぶっている冒険者は結構いるらしい。ちなみに貴族は普通に昇格試験は受けられるし、試験もかなり甘いという話のようだ。そういえばサビオニアの貴族の冒険者階位は当てにならないとか聞いたなあ。
1時間ほどいろいろと話を聞いたところで二人と別れて宿に戻ることにした。かなり飲み食いしたこともあり、800ドールもしたが、宿代を考えると安いものだ。
しかし聞いた限りでは貴族が絡むとろくなことがなさそうなのであまり町には寄らない方がいいかもしれないね。いろいろと見て回りたい気持ちはあるけど、余計なトラブルは極力避けたほうがいいだろう。
この国でも遺跡の調査するため王都に行って許可証を出してもらわなければならない。王都はここから南に行ったところでバスで7日くらいの日程のようだ。特に町の中を色々見て回る必要もなさそうなので早々に出発することにした。買い出しも必要が無いしね。
街道は整備されているんだけど、主要道路としては道路の幅が狭い感じだ。車を持っているのが貴族限定らしいので走っている車の数がかなり少ない。その分車で走るには問題ないからいいんだけどね。
「街道はそれほど広くもないけど、魔獣の討伐などはちゃんと行われているみたいだね。まあその土地の領主の威信がかかっているから手を抜けないってことなのかな?」
「特に主要道路だからそれはあるかもしれないわね。」
「私たちが中位爵相当で良かったわね。そうでなかったらずっと後ろについて走らないといけなかったわ。」
この国独自のいろいろな決まり事があり、その中に走っている上位の爵位の車を抜いてはいけないとかいうことがあった。
「さすがに上位爵の車がいたらつらいけど、今のところは遭遇していないから良かったよ。まあその場合は街道を無視して行く手もあるけどね。」
「基本的に上位の爵位の人の車は質がいいからスピードは速いみたいだけど、自分たちの車にはかなわないからねえ。」
こっちの車のペースにあわせて走ったら遅くなってしょうが無いからね。
変なトラブルに巻き込まれても面倒なので途中の町には寄らずに拠点に泊まりながら移動していく。本当はもっと楽しみながら行きたいけど、こればかりはしょうがない。途中の町の様子はわからなかったけど、畑で働いている人達は痩せ細っている人ばかりなのであまり暮らしぶりがいいわけではないのだろう。
途中で上位爵のプレートをつけた車はいなかったので自分たちのペースで走ることができたこともあり、5日目には王都サビオニアが見えてきた。城壁の向こうにいかにも中世という感じの城が建っているのでなんか違和感を覚えてしまう。社会性だけでなく生活まで中世風なのか?
王都もきっちりと貴族エリアと平民エリアが分かれておいて、貴族専用の門からは貴族エリアにつながっていた。早速宿の予約に行くが一泊が5000ドールとかなりの高額だ。どうもこれで普通らしいが、半端ないな・・・。宿のレベルはそんなに高いとは思えないけどね。
宿の予約を済ませてから役場に行って遺跡の調査許可証の申請を行う。紹介状と一緒に申請すると、モクニクと同じようにすぐに上司と思われる人に呼ばれることとなった。
申請を行うと今回はその日に許可証を発行してくれることになったが、発行されたのは1級調査許可証だった。この国では特級調査許可証というものはなく、1級が一番上らしい。これでも特別許可がいるところ以外は入れるようだ。
ただ話を聞くと、許可の必要な遺跡はほとんど無く、管理している人もほとんどいないというのが実情らしい。特に許可証はいらなかったか・・・。まあ遺跡の保護って言うのはある程度社会が安定した国でないとできないだろうな。
そもそも遺跡の調査を行っているのが貴族の道楽でやっているくらいで、遺跡は古代遺物のある場所という認識のようだ。このため他国の調査団が調査する以外は放置に近い状態らしい。
このあと役場で資料を見てみるが、やはり王都付近は魔獣の階位が低いものしかいないようなので冒険者は少ないようだ。
平民エリアの方にも行ってみたけど、こっちはさらにひどくて冒険者がほとんどいないという状況だった。このため受付も一つしか無かった。平民だと車もないので狩りをするのも大変だし、護衛依頼もほとんど無いという状況だからね。いるのはほんとに初心者くらいだろうが、生活まで考えると少しでも物価の安い地方に行くよな。
店を見て回るが、王都でも平民エリアは取り扱いの品物が少ない状況だった。貴族エリアでもそんなに十分あるというわけではなかったからね。他の国ともあまり交流していないようだし自国の物流もどこまでちゃんとしているか不明だ。
食事は宿の食堂でとることにしたが、一人500ドールとかなりの値段だった。しかし出てくるものがそんなにいいものではないというのがかなり悲しい。これだったら平民エリアで食べた方がまだ良かったかもしれないよなあ。お昼は高いとは言え150ドールで食べられたしね。
部屋はシルバーフローよりも質が悪いという感じだ。掃除などはちゃんとしているんだけど、置いている家具の質が悪いという感じ。もっと上の部屋になればいいものを使っているとは思うんだけど、このあたりは仕方が無いのかねえ。
王都での滞在もそこまでの意味はなさそうだったのですぐに出発することにした。目指すのはここから北西にある遺跡だ。
王都を出発してから拠点に泊まりながら車を走らせる。ここに来るまでと同じように途中の町は素通りだ。街道のランクは下がるけど、特に魔獣が出るというわけではないので走るのには問題は無い。
このまま順調に遺跡まで行けるといいなと思っていると、索敵に魔獣が引っかかった。上階位の魔獣のようだが結構数が多そうだ。こんな街道の近くに上階位の魔獣がいるのか?さすがに気がついてしまったのに素通りも気が引ける。
「ジェン、とりあえず近くに行ってみるよ。」
「わかったわ。」
街道から少し離れたところにある岩場の影に車が止まっており、魔獣が襲いかかっているようだ。ちょっと離れたところに人の気配も感じるのが気になるが、まずはこっちからだ。
「ジェンも気がついているとは思うけど、あっちに変な団体がいるから注意してね。」
「わかっているわ。実力的には自分たちでも十分倒せそうだけど油断はできないわね。盗賊かしら?」
「なんとも言えないね。魔獣ももしかしたらあそこにいる人達の仕業かもしれないよ。」
車の周りに護衛と思われる人が戦っているんだけど、ちょっと押されている感じ。襲っているのは集団蜂のようにみえる。なんでこんなところにこんな魔物が出ているんだ?
集団蜂はかなりたちが悪い蜂の魔獣で、町や道路の近くで発見されたらすぐに討伐される指定駆除魔獣だ。前に倒したことのある握りこぶしくらいの大きさの大蜂よりちょっと大きいくらいだけど、脅威度は良階位となる。装甲が固い上に素早いし、さらに毒の威力も高いのがその理由の一つだけど、とにかく数が多いのがもっとも大きな理由だ。
普通は森の奥などにいる魔獣で、普通の蜂のように巣を作って集団生活をしている。大きな巣になれば数千匹の集団で生活しているらしい。大蜂と同じく魔法がかなり有効なんだけど、物理攻撃だけだと討伐はかなり厳しい魔獣だ。
さすがになにかあっても困るので少し離れたところから声をかける。
「大丈夫ですか?手助けがいるなら援護します!!」
「頼む!!!」
こちらの声に反応した護衛と思われる人が返事をしてきた。
とりあえず盗賊などと言うわけではなさそうだけど、あまり信用しすぎるのも危ないからね。小説みたいに襲われる人が問答無用でいい人という保証はないし。
近づいていくと集団蜂がこちらにも気がついて襲ってきたんだけど、数はそれほどいないようだ。巣が近くにあるというわけではなかったのかな?
こちらに襲いかかってくる集団蜂を火魔法で焼き払いながら近づいていく。こちらを脅威に感じたのか、残った蜂が一気に襲いかかってきたけど、周りに人がいないなら遠慮する必要も無い。風魔法と水魔法でたたき落として火魔法と剣でとどめを刺していく。近づかれて針を刺されたら大変だからね。
あくまで集団攻撃での脅威から良階位となっているんだけど、単発攻撃であれば上階位レベルの魔獣だからね。まあそれでも100匹くらいはいたっぽい。
岩陰には車が2台止まっていたんだけど、蜂の攻撃を受けたせいかかなりボコボコになっていた。タイヤもパンクしているみたい。食事をとっていたのか、あたりにはテーブルや椅子の他、食器や食べ物も散らばっている。食事中に襲われたのかな?
普通の蜂と同じく巣分けで移動していたんだろうか?それでちょうど休憩していたところにこの人達がやってきて襲ったっていう感じかな?まあこのあたりは正直わからない。
先ほどの様子をうかがっていたと思われる人達の気配はなくなっていたのでもうどこかに行ってしまったのかもしれない。どういう人達だったのかは不明だけど、とりあえずは大丈夫かな?
「大丈夫ですか?」
あたりを警戒しながら確認すると、護衛と思われる男性が2人と女性が2人がいて、車の中に護衛対象と思われる人が乗っているようだ。
「すまなかった。協力に感謝する。」
リーダーと思われる男性が声をかけてきた。
「いえ、困ったときはお互い様です。怪我はありませんでしたか?」
「ああ、大丈夫だ。結構刺されたりしたが、薬を持っていたからな。ただしばらくはまともに戦えないかもしれない。」
たしかこの蜂の毒は遅効性なので徐々に効果が強くなっていく感じだったかな。治療してあげてもいいんだけど、変なことになってもまずいのでやめておいた方がいいかな。まあ薬を飲んでいるのなら死ぬこともないだろう。
話を聞くと貴族に雇われている護衛らしいけど、火魔法を使える人がいなくてかなり手こずっていたらしい。こんなところに集団蜂が出るなんて聞いたことがなかったようだ。数がまだ少なかったから良かったけど、あのままだったらやられていたかもしれないと言っていた。
話をしていると、車の中から人が降りてきた。少し年配の女性と10歳くらいの子供が二人だ。
「助力感謝いたします。危ないところでした。」
「「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとー!」」
男の子と女の子らしいが、顔がかなり似ているので兄妹なんだろう。貴族の奥さんと子供っぽいけど、貴族にしては護衛とか車がお粗末だなあ・・・。
こちらも貴族と言うことは言わず、ヤーマンから来た冒険者と言うことだけ話をしておく。遺跡に興味があり、いろいろと見て回っていると言うことを説明するとかなり不思議そうな顔をされてしまったよ。意味が無いかもしれないが、遺跡の調査許可証も見せると、一応は納得してくれたようだ。
よく小説で高位貴族が盗賊や魔獣に襲われているところを主人公が助けるという展開があるけど、普通に高位貴族が盗賊や魔獣に襲われてやられそうになるレベルってどれだけ国がヤバイ状況なんだと思ってしまう。
それに魔獣はまだしも盗賊もそんな高位貴族を襲った場合のデメリットはわかるだろう。特に王族を盗賊が襲うなんてあり得ないからね。なにかあったら国の威信をかけて速攻で討伐されるよ。貴族を襲うにしても対価が大きすぎるよ。よほどの兵力を持っていない限りはあり得ない話だ。それか貴族や後継者争いに巻き込まれているくらいしかないよな。
さらに助けられたからと言ってすぐに信用されるというのはもっとあり得ないことだろう。わざとけしかけてそれを救ったと見せかける話なんてよくあることだからね。
ってことは、今の自分たちがその立場ってこと?魔獣をけしかけて助けた風を装っていると勘違いされてもまずいからそうそうに立ち去った方がいいよな。
それでは先を急ぐのでと出発しようとしたんだが、この先の町に移動中だったのでそこまで同行してくれと頼まれてしまった。どうやら護衛の二人が結構刺されたみたいでこのあとの護衛が少し不安らしい。
いくら助けたと言ってもすぐに信用して大丈夫なのか?と思ったんだが、さすがにほおっていくのもかわいそうだと思って町まで同行することにした。
車のパンク修理を終えてから簡単に昼食をとったあと、移動を開始する。1台はリーダーが運転し、もう一台に負傷者2人を乗せて走るようだ。自分たちはその後ろを付いていくことになる。まあ一緒の車に乗って移動とかじゃないから信用しているかどうかは別問題かもね。面倒になってしまうかもしれないので車の貴族の印は外しておいた。
町までは車で2時間ほどだったが、ペースが遅いのがちょっと面倒だった。途中でジェンと彼らのことについて話をする。
「どう思う?」
「うーん、なんとも言えないわねえ?見た感じは助けてくれたお礼をしたいから護衛と言う名目で町に連れて行こうとしている風にも思えるけど・・・通りすがりの冒険者を簡単に信用するってことがあるかしら?しかもあの人達は平民でなくて貴族だからね。」
「小説みたいに助けてもらったから信用できる人というのはあり得ないからね。あの魔獣だって自分たちのせいだと思われてもおかしくないよ。」
「そうなのよね。ただあの女性は貴族という割には貴族らしくないというか、なんか雰囲気が違うのよね。子供達もそうだけど・・・。」
たしかにそれは自分も感じたことだ。貴族と言うよりはちゃんと学のある平民という感じなのである。見初められて貴族に娶られたということもありうるか?でもこの国では平民と貴族が結婚することはかなり大変だという話は聞いたことがある。妾ならまだしも正妻と言うことは普通はあり得ないだろう。
「とりあえず警戒を怠らずにしておこう。へんな疑いをかけられたらいやだからね。最悪隠密の魔道具をすぐに使えるようにしておいた方がいいね。」
「わかったわ。」
町に到着したところで別れようとしてみるが、どうしてもお礼がしたいと言われてなかなか離してくれない。そのまま立ち去れば良かったかなあ?
しょうがないので町に入ることになったが、彼女たちが一緒だったせいか、身分証明証だけで中に入ることができた。やはりこのあたりを治める貴族だったみたいでこの町に住んでいるようだ。
貴族に関わる項目は見えないようにしたので特に何も言われることはなかった。職業で第一職業の場合は非表示にはできないが、2つめ以降の職業については非表示にできるからね。また賞罰についても犯罪歴などは隠せないが、褒章などについては隠すことができるようだったので必要が無いときは隠している。
町の宿に案内されて今日は泊まっていくように言われてしまった。宿代は払ってくれるみたいなんだけど、ここ大丈夫だよね?まあいきなり領主の家に連れて行かれるよりはまだ納得できる話だけどね。夕方に改めてお礼に伺うと言っていた。
町に入って思ったんだが、ここの町は結構活気があって住人の表情も明るい。宿の受付もかなり普通に対応していたのもちょっと驚きだ。領主の家族が来たら平民用の宿の従業員はかなり驚くと思うのに、丁寧ではあるが、普通に対応していたからなあ。
時間もあるので町に出て買い物の時に話を聞いて見ると、領主がかなり善政を敷いているみたいで税金も他に比べるとかなり抑えてくれているようだ。その分の税金は領主が行っている事業で納めてくれているらしい。なかなか好感の持てる領主のようである。
孤児院にも行ってみたが、結構きちんと経営されていて、子供達の表情も明るい。しかもちゃんと勉強まで行っていると聞いて驚いた。
特に治療の必要な人はいないようだったが、食料関係について少し寄付していくことにした。さすがに肉はあまり食べられなかったらしく、かなり喜んでいた。
かなり良い領主のようだが、あと数年で領主が変わるという話が出ているようだ。細かい話はわからないが、今の領主の親戚に領主が変わるみたいで、どういう統治になるのかかなり不安らしい。
ちなみに今の領主はもともと先代の三男だったらしく、家を出て冒険者として活動していたようだ。しかし上の二人の兄が病気で亡くなったため、後を引き継ぐことになったようだ。奥さんは冒険者として活動していたときに結婚した他国の人らしく、彼女も冒険者だったようだ。その話を聞いてさっきまで持っていた違和感が払拭された。
夕食の後、宿に戻ってからしばらく寛いでいると訪問客がやってきたと連絡が入った。ロビーに行くと、個室に案内される。中にいたのは先ほどの女性と夫と思われる男性、護衛が二人だ。男性と護衛は自分たちと同じくらいのレベルはありそうだが、何かあっても逃げることはできるだろう。
「この辺り一帯を管理している下位爵のデミル・ハーマンだ。今日は妻と子供達が危ないところを助けていただいたようでお礼に伺った。」
「はじめまして、デミル様。アースというパーティを組んでいるジュンイチとジェニファーです。わざわざ申し訳ありません。」
「今回はいろいろと手助けしてくれてすまなかった。お礼としては少額かもしれんが、これを受け取ってくれ。」
お金が入っていると思われる小袋を出してきた。
「いえ、お礼をもらうために助けたわけでもありませんし、特に被害も無かったので必要ありませんよ。」
「・・・お金ではなく、他に何か希望でもあるのか?」
「いえ、特にはないのですが・・・旅の途中なので可能であればこの国の情報・・・町のおすすめの宿とか食堂とか特産とかを教えてもらえれば十分です。」
自分の返事を聞くと一瞬驚いたような顔をしたが、その後笑い出した。
「なるほど、冒険者らしい回答だな。すまなかった、ちょっと疑っていたんだが、その返答を聞いてちょっと安心したよ。」
「疑っていたというのはあんなところに集団蜂がいたということでしょうか?数も中途半端に少なかったですし、気がついていたかもしれませんが、付近に怪しい気配がありましたからね。」
「ああ、それは妻にも聞いている。彼女の索敵能力は結構高いからね。」
「そうなのよ。昼食を取る前に周りは索敵して特に何もなかったのに、急に襲ってきたのよね。しかも集団蜂でしょ?こちらから何か仕掛けない限りは襲ってくる魔獣じゃないわよね。
魔獣を気絶させるとかして持ち運んで襲わせて、そのあと魔獣の仕業に見せかける盗賊だったのかもしれないわ。襲われている間もこっちの様子をうかがっているみたいだったものね。あなたたちが現れて討伐を始めたら慌てて逃げていったようだけど、こんなことならちゃんと装備しておけば良かったわ。」
「さすがにそれは勘弁しておいてくれ。」
どうやら話に聞いていたとおり、二人は元々冒険者だったみたい。とりあえず疑いはなくなったのか、そのまましばらく二人と話をする。
デミルさんは貴族を継げないこともあり、冒険者として生活していたようだ。この国を出てホクサイ大陸に行ったことでそれまでの価値観がすべて変わってしまったらしく、そこで知り合った同じ冒険者の奥さんと結婚したようだ。
その後、兄たちが亡くなったと聞いて仕方なく領地に戻って領主としての教育を受け、10年前に領主となったようだ。両親は最初は妻のことを認めていなかったが、それだけは譲れないと断固として受け入れなかったこともあり、最後は諦めたらしい。その両親も8年前に他界したそうだ。
こっちに戻ってきてから子供ができたが、子供が成人するのを待ってホクサイ大陸に移住しようと考えているみたい。やはり子供達に余計な苦労をさせたくないというのが本音らしく、貴族としての生活には未練が無いようだ。このため最低限の貴族としての教育はしているが、他の国での価値観や考え方を教えているそうだ。
今のホクサイ大陸の話をするとかなり興味を持っていた。もう少ししたら移住する予定ということなのでこちらもいろいろと情報を提供した。
「折角なので私の名刺を渡しておこう。どこまで効果があるか分からないが、この国のことを考えると持っていて損は無いと思うからな。」
そう言って差し出してきたのは魔力を封印した名刺だった。どうやら特別な処理をされているみたいで、この国の貴族の知り合いであることを証明してくれるものらしい。
「ありがとうございます。」
思ったよりもいろいろと話をしたせいで結構遅くなってしまった。明日の朝には出発することを伝えて見送りをする。
翌朝、朝食をとり、早々に出発する。夕べここから北の地域について色々と聞いておいたんだけど、あまりよい領地ではないみたいなのですぐに通り抜けた方がいいと言われている。
「昨日聞いた領主の名前で”チカ”って言う家があったよね?その家ってスレインさん達の実家じゃないかな?」
「わたしもそう思ったわ。結構珍しい家名らしいし、北部の辺鄙なところの貴族と言っていたから間違いないんじゃないかな?」
「折角だから少し寄ってみようか。スレインさん達も家を出たとはいえ少しは気になっていると思うしね。」
少し遠回りになるけど、2日目にチカ家の領地に入る。町の近くに行ってみたけど、なんか畑の手入れがかなりおざなりになっているのが気になる。昼間なのに働いている人の姿も少ないし・・・。
車を降りて働いている人に挨拶してみるが、あまりにも覇気が無い。お昼前だったので、近くの木陰で食事の準備をしていると、こっちが気になっているようでこちらをちらちら見ていた。
働いている人の子供と思われる6歳くらいの子供が2人こっちをずっと見ているのでサンドイッチを出して呼んでみると、目を輝かせながら近くにやってきた。サンドイッチを渡すと、むさぼるように食べ始めた。どう見ても食事がまともにできていない印象だ。
しばらくすると休憩時間になったのか、簡単な食事を始めたんだが、乾燥したようなパンを少し食べているだけのようだ。一応休憩時間のようなので声をかけてみることにした。
「すみません、少しお話してかまいませんか?」
「ああ、かまわんよ。すまないね、子供達に食べ物を恵んでくれたんだろ。かなり喜んでいたよ。」
「もしよろしければあなたたちの分もありますけど、いかがですか?」
かなり驚いた表情をしている。
「いや、子供達に恵んでくれただけでもありがたいよ。わしたちには恵んでもらっても何もお返しするものがないからな。」
「いえ、いろいろと話を聞かせてくれるだけで十分ですので一緒に食事をしましょう。」
人数分のサンドイッチを出すとむさぼるようにして食べ始めた。
「久しぶりに食べる柔らかいパンじゃ。」
久しぶりというのがちょっと気になる。こっちの世界では結構普通に食べられているはずなんだけど、そんなに生活が厳しいのか?
話を聞いてみると、どうやらここ数年の間不作が続き、それなりに多くの人が亡くなってしまっているらしい。特に天候が悪かったというわけではないんだけど、いろいろとあって管理が行き届いていないのが問題のようだ。
親が亡くなったせいで孤児も増えてしまっているようだけど、救済策は特になく、多くの子供達も亡くなっているようだ。なんとかしてやりたい気持ちはあっても自分たちが生活するだけで精一杯のようだ。
それでも税金の緩和もなく、取り立てられているため夜逃げする人達も出てきているが、他の町にいっても町には入れないのでどうなっているのかわからないという状況らしい。もちろん奴隷として売られた人も多いようだ。
奴隷といってもこの地域では買い手もないので他の地域に行くことになるんだけど、正直奴隷の方がいいのかもしれないと嘆いているのがちょっと・・・。
「前の領主様の時はまだ良かったんじゃがなあ。まあ不作が続いたこともあるが、今の領主様になってから生活が厳しくなったのは確かじゃな。」
領主は数年前に長男に代替わりしたようだ。スレインさんたちの兄になるのかな?
「前は領主の子供たちが町に来ることもあったりしてな。特に仲の良かった娘さん4人は気さくに声をかけてくれていて町でも結構人気があったもんじゃ。そのあとその4姉妹が亡くなったと聞かされたときはかなり悲しんだもんじゃ。
今の領主様の子供達は正直手に負えない状況じゃ。暴力を振るったり、女性を襲ったりやりたい放題じゃ。あなたたちも気をつけた方がええぞ。」
いろいろ聞いていると、やはりここがスレインさんたちの故郷で間違いが無いようだ。ただスレインさんたちは亡くなったことになっているみたい。たしかに逃亡したとなったら体面が悪いだろう。
話をしていると、えらく豪華な車が通りかかり、中から人が降りてきた。
「おい、休んでいる暇があったら働かないか!!」
40歳くらいと思われるちょっと上等そうな服を着た男がいきなり大声で威嚇してきた。休んでいた人達はすぐに仕事に取りかかるようだ。自分たちもそろそろ移動しようかと思っていると、こっちに向かって声をかけてきた。
「ここらでは見ない風貌だな。おや?お前は女か?ちょっと顔を見せてみろ!!」
認識阻害の魔道具があるとはいえ、こう正面から来られると効果は無い。マントのようなものを羽織っているので装備もどのようなものを着ているのかはわかりにくくなっている。
しかしなんなんだこいつは?相手のことをちゃんと確認もしないでいきなりこんな態度?えらく威張っているなあ。それほど強くもなさそうだし、護衛と思われる人間も上階位レベルか?実力を隠しているという風にも見えないよな。
ジェンに手を伸ばそうとしている男の前に立ちはだかって声をかける。
「どういうことでしょうか?いきなり自分の妻に対して失礼ではありませんか?あなたになんの権限があってそのようなことを言っているのでしょうか?」
護衛を含めて全員に威圧をかけて声を出すとその場にへたり込んでしまった。
「お、おまえ!!貴族に逆らうのか?」
「あんたが貴族なのか?そうは見えないけどな。」
いくらなんでもこんなのが貴族とは思えないんだが、実はこれで領主なんだろうか?威厳も何もないよなあ。
「そこまでだ!!」
車から降りてきた男が声を上げる。自分たちより下の年齢という感じなんだが、先ほどの男よりも整った服装をしている。これは年齢的に考えて領主の息子か何かかな?
「そのものは私の代理だ。平民冒険者風情が生意気な口を利くな。
ほぉ、ここでは見ないくらい上等そうな女だな。人妻でもかまわん、連れて行け。」
ひるんでいた護衛達がなんとか立ち上がり、ジェンに手を伸ばそうとするが、その前に立ちはだかる。
「き、きさまぁ!!貴族に逆らうのか!?」
なんでこんなテンプレみたいなくず貴族がいるんだろう。小説の中くらいしかいないと思っていたのに本当にいることにびっくりだよ。
「相手の実力や身分の確認もしないし、よくこれで貴族をやっているな。貴族に逆らう?相手が貴族と言うことは考えなかったのか?」
自分たちが胸元からペンダントを取り出すとあっけにとられていた。
「あ・・・あ・・・まさか・・・。」
「もう一度言ってくれるかな?どうするつもりだって?貴族と言っていたが、お前は当主なのか?当主でないのなら正式には貴族ではないだろう?」
「いえ、その・・・も、申し訳ありません。」
ひたすら頭を下げてきた。おそらく貴族の息子だと思うので、立場は準位爵で貴族ではないだろう。さすがに貴族に対する不敬は死刑ということは無いが、状況によってはかなり厳しい処分となるはずだ。
「あまり無茶をしていると、いつか大きなしっぺ返しを受けることになると思うよ。あと貴族なら慎重に行動しないとね。なんで自分より上の人間がいないと思っているんだか・・・。
今のところ今回の事を報告するつもりはないけど、どこに監視の目があるかは考えた方がいいと思うよ。変なことをしていたら自分も何を言うかわからないからね。」
こっちの身分をちゃんと教えてあげる必要も無いので、この国の中位爵と言うことにしておこう。
さすがにこんな貴族のいる町にわざわざ行くこともないので車を出してからすぐに出発する。こっちが立ち去るまではずっと頭を下げたままだったよ。あとはどうなるかわからないけど、自分たちに何かできるわけではないので釘を刺すのが精一杯だろう。まあしばらくはおとなしくなるかな?
自分の実家がこんなことになっているってスレインさんたちはどう思うのかなあ?クリスさんはもしかしたら現状を把握しているかもしれないけどね。
~だめ貴族Side~
くっそ~~。なんであんなところに中位爵の貴族がいるんだ。しかも平民なんかと一緒にいるとか考えられないぞ。久しぶりにいい女を見かけたと思っていたのに、腹が立つ!!
ただなんでこんなところにやってきていたんだ?もしかして査察でもやってきたのか?だとしたらまずいな。特に報告はしないと言っていたが、今回のことをチクられたら俺の立場がまずいことになるかもしれない。
やはりちゃんとお詫びをした方がいいかもしれないな。そうだ、そうしよう。家に招待して歓迎すれば機嫌も治ってくれるだろう。さっそく父に相談しておこう。
もちろんジュンイチ達二人はこの町に寄るつもりはなかったのでいくら探しても見つかるわけはなかったんだが・・・。
~魔獣紹介~
集団蜂:
良階位中位の魔獣。森の奥に多く生息している蜂の形をした昆虫型の魔獣。大きさは握りこぶしより二回りほどの大きさで、動物や魔獣を餌としており、人間にも襲いかかる。
1匹でも上階位の強さがあり、通常は数百~数千匹の集団で襲いかかってくる。お尻にある針には大蜂よりもさらに強い毒が含まれており、一度に複数箇所を刺されてしまうと死に至ることがある。このため戦闘中であっても解毒剤を服用しながら対応した方が良い。
体が小さいため、剣や弓での攻撃は難しく、魔法攻撃が最も有効。体が油に覆われているため、特に火魔法が有効であるが、延焼には注意が必要。
もし巣を見つけることができれば女王蜂を退治することが望ましいが、地中に巣を作るため見つけるのは難しい。
町や街道の近くで発見された場合はすぐに討伐依頼の出る駆除指定魔獣に登録されている。
女王蜂以外は素材としての買い取り対象はない。巣で育っている幼虫を食べる地域もあるため、地域によっては買い取りも行っている。女王蜂の瞳は宝石として流通しており、かなりの高値で売買されている。
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【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
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上澄タマルは過労死した。
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※2019年10月、完結しました。
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手違いだったのだ。もしくは事故。
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※本作は他サイトでも掲載しています
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