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95. 異世界1624日目 貴族との再会と北の遺跡
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95. 異世界1624日目 貴族との再会と北の遺跡
朝早くにハルマを出発して北上する。王都のハルストニアまで、途中の宿泊はほとんどが拠点になった。やはり一日に走る距離と町の位置がなかなか合わないんだよね。拠点の方が居心地がいいというのも問題だ。
王都に到着すると、町に入るための行列ができていた。前に来たときは平民用の入口から入ったのでかなり時間がかかったけど、今回は貴族用の出入口から入れるのでそこまで待つ必要はなさそうだ。こういうときは本当にありがたいね。前に来たときよりも行列は短いけどかなり待つのは間違いないからね。
町に入るが、問題はどうやってラクマニア様に連絡を取るかだな。前はジョニーファン様の紹介があったからいいんだけど、普通はどうやって連絡すればいいんだろう?マイルスさんに聞いておけば良かったよ。
「なあ、貴族の家に訪問するときには事前に連絡が必要だよね?」
「たぶん普通はそうでしょうね。前は貴族エリアの入口でジョニーファン様からの手紙を渡してからだったし、そのあとは家に滞在させてもらっていたから特に問題なかったけどね。」
「とりあえず門のところまで行って連絡だけしてみるか?」
「宿泊場所を伝えておけば何とかなると思うわ。確か門のところに門番の待機所があったし、もしかしたら知っている人がいるかもしれないわよ。」
まずは泊まるところを確保した方がいいだろうな。前にも泊まった宿に行くと、すでに自分たちのことは登録されているのか、すぐに部屋を取ることができた。金額は前と同じくルイドルフ爵の紹介と言うことで2000ドールと安くなっていた。たしかに前に見たことのあるフロント係だったけど、顔を覚えているというのはすごいな。
爵位を持っているので貴族エリアに入るのは問題なかった。前はここで連絡をとるしかなかったからな。ルイドルフ家の門のところにある受付にいくとかなりの行列ができていた。門番も数名いたんだが、残念ながら見知った顔の人はいなかった。
「もしかしてこれって面会希望の人たちの行列なのかな?」
「そうかも。思った以上に多いわね・・・。」
受付にはかなりの行列ができていて係の人も対応に追われているようだ。この受付だけでも結構時間がかかりそうだなあ。
いくつかの行列ができているんだが、一つだけ結構空いているところがあった。案内を見ると外国人用となっているみたいなのであっちの方がいいかもしれないな。少し待つと順番がやって来たので聞いてみる。
「すみません。ラクマニア様に面会をお願いしたいのですが、ここで受付すればよろしいのでしょうか?」
「はい。ここまで来られていると言うことは貴族の方とは思いますが、面会希望者が多いですので、面会できるか確約できません。まずはここに名前と用件、連絡先について記入をしてください。」
とりあえず名前と用件などを記載しておく。用件と言っても特にはないんだよなあ。まあそれっぽく「魔法に関する情報提供」とでも書いておこう。
「それではまたご連絡しますね。」
記入を終えたので屋敷を後にする。
「前は結構気楽に中に入っていたけど、よくよく考えたら今はこの国のトップと言われているくらいの人物なんだから早々会えないのはしょうがないな。とりあえず来たと言うことだけでも記録があれば大丈夫だよね。」
「そうね。雪が積もる前に北の遺跡に行くつもりなんでしょ?またこっちに戻ってくるからそのときにゆっくり待ちましょう。」
「うん、だから5日間のみの滞在していったん町を出ると書いておいた。」
このあと遺跡の調査許可証をもらうために役場に行って話をする。ここでもジョニーファン様の紹介状が役に立ちすぐに発行してもらえることとなったが、発行には2日かかるようなのでしばらく待つしかない。
買い物をしてから夕食をとり、宿に戻ってゆっくりする。まあラクマニア様とは会えればラッキーと言うくらいに考えておかないといけないだろうね。
翌日も買い物に行ったり食事をしたりしてから宿に戻ると受付のところにルイドルフ家の執事のクリファリアさんの姿があった。こちらが気がつく前に向こうが気がついたみたいですぐにやって来て挨拶してきた。
「誠に申し訳ありません。お二人のことは事前に受付に連絡していたのですが、手違いがありすぐに対応できませんでした。」
彼の横にもう一人男性が頭を下げていた。受付の時にいた人のような気がする。
「申し訳ありません。」
いきなり謝られても、なにがどうなったのか分からないので、場所を移動してから話を聞く。
どうやら自分たち二人が近々訪問することは伝えられていたみたいで、貴族エリアの入口や受付にもやって来たときにはすぐに連絡を取るようにしていたようだ。
ただ今回、貴族エリアの入口では名前の確認がちゃんとされなかったことと、受付の人がヤーマン語の名前の発音を間違えて読んでしまい、別人と思っていたらしい。そういえば外国用の受付だったのでヤーマン語で書いてしまっていたな。
「いえ、こちらも連絡方法をちゃんと聞いておけば良かったのに完全に忘れていたのが失敗でした。受付の方にもご迷惑をおかけしました。」
「いえいえ、もし都合が良いのであればこのあと一緒に食事をしたいとおっしゃっているのですが大丈夫でしょうか?」
「えっと・・・ええ、大丈夫ですよ。いいのですか?」
「はい、主人からの招待ですので問題ありません。」
屋敷に到着して中に入ると従業員が整列していてかなり圧倒される。しかもわざわざラクマニア様と奥さんのスレンダさん二人が玄関ホールまでやって来ていたのには驚いた。
「「お久しぶりです。」」
「よく来たな。今回はいろいろと不都合をかけて申し訳なかった。」
「ごめんなさいね。格好などももう少し詳細に伝えておくべきだったわ。」
「いえ、こちらも訪問方法などちゃんと確認しておくべきでした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
結局この後一緒に食事をとり、せっかくだから泊まっていけと言われてさすがに断ることもできずに宿泊することになった。宿には連絡してもらうしかない。
サビオニアの政変のことにかなり興味があったようで、いろいろと説明をした。タイラス爵のことはラクマニア様も知っていたらしく、今回の革命に大きな影響を与えたことも分かっていたようだ。
貴族社会が倒されたという事例はこの国にも色々と影響が出ているらしい。ただ数年前から貴族の意識改革、平民生活の改善や平民の登用について改革を行っていたようで、「打倒貴族!」というような雰囲気はないらしい。
あの事件の後、敵対関係にあったハックツベルト爵もラクマニア様の進めていた政策に賛同することも多くなり、意見の対立はもちろんあるが、それでも以前に比べて格段にいい関係になっているようだ。
今回の事件で二つの派閥が中心となって進めていた政策が時流に合っていることが分かり、この二つの派閥が大半を占めるようになってきているようだ。ハックツベルト爵とは非公式でときどき会っているらしく、自分たちのことも話題に出るみたいだ。
結局今回も出発するまでお世話になることになってしまった。ラクマニア様はもちろん仕事があるので昼間は護衛の人たちと一緒に訓練したり、奥さんとお茶をしたりする。
今回次男のルイアニアさんは家族共々領地の方に行っていていなかったんだけど、長男のハルトニアさんとその家族と会うことになった。この町に別に屋敷があるようだけど、折角だからと今回はわざわざこっちに顔を出してくれたみたい。家族は奥さん二人とルイアニアさんところとあまり年齢の変わらない娘さん二人、まだ赤ちゃんの息子一人という構成だった。
挨拶すると、最初に「いろいろとおもしろい話を聞いていますよ。」と言われてしまった。何を聞いているんだろう?ハルトニアさんは見た目ちょっと怖い印象だが、話してみるとルイアニアさんと変わらず親しみやすい人だった。この家の風潮なんだろうか?
剣士としての実力もあるみたいで、少し手合わせさせてもらうと、自分たちよりも上の実力を持っていた。良~優階位の冒険者と言うくらいなのかな?若いときは騎士として修行に明け暮れていたらしい。
子供達は最初かなり遠慮していたんだけど、おもちゃなどを出してあげるとかなり気に入ってまとわりついてくるようになった。やっぱりここの家族は選民思想がないので付き合いやすいよなあ。
このあといったんこの国の北部の遺跡に調査に行くつもりだ話すと、途中の町についてもおすすめの宿と紹介状を渡されてしまった。紹介状はうれしいんだけど、ラクマニア様級の紹介状だと過剰な接待になってしまうんだよなあ。
ルイアニアさんは北西方向にある港町ハイレニアのある領地にいるので戻る途中に寄って行ってもいいかもしれないね。ただ冬になる前には王都に戻ってくるようなので、その前に寄ることができればと言うところかな。
~スレンダSide~
久しぶりに楽しい二人がやって来て、ラクアもとても喜んでいたわ。ここのところ忙しくて大変だったようなので、かなり気分転換になったみたいね。この国ではあまりできないけれど、魔法のことが本当に好きなのね。
二人が来ていたことに気がつかずに返してしまったと聞いたとき、その係の者をかなりしかりつけていたんだけど、二人にたしなめられて処罰をやめるなんてどっちが年上なんだか・・・。
朝食の後もかなり名残惜しそうに仕事に出かけていく姿はちょっとおもしろかったわね。「ちゃんとお相手はしておくわよ。」と言ったらすごく悔しそうな顔をしていたのよね。二人の結婚式の時にジョニーファン様が魔法を披露したときと同じ顔をしていたわ。
息子のハルアもうまく付き合っているようで安心したわ。まあ大丈夫とは思っていたけど、やっぱり最初はちょっと気になったのよね。まああの子らしく、剣を交えてからはかなり空気も和らいだのよね。孫達もかなり気に入ったみたいだし。
だけど不思議な子達よね。ラクアも平民だからと言って下に見たりはしないのだけど、あの二人にはかなり敬意を払っている感じなのよね。やはりあの二人の知識の深さに驚いているのかしらね。
またこちらに戻ってくるようなことを言っていたけど、おそらくその頃には雪で動けなくなるからそのまま引き留められそうね。それはそれで楽しそうだわ。私もいろいろと連れて行ってあげないといけないわね。ジェニファーさんは音楽や踊りにも造詣が深そうだしね。
~~~~~~
ラクマニア様の家を出発してからまっすぐ北上する。さすがに主要街道と言うだけあってきちんと整備されているし、魔獣の姿もほとんどない。出てくるのは初階位レベルの魔獣くらいなので、車で通り過ぎていくことがほとんどだ。見かけたら討伐するのが義務なので魔法で攻撃していくこともあるけどね。
拠点に泊まりながら10日間車を走らせ、北部エリアの中心都市ハルマニアに到着する。さすがに中心都市といわれるだけあって人も多い。入口の混雑もすごいので貴族用の入口から中に入る。貴族用の出入口でも少し行列ができているくらいだからね。
ここから北にも大きな町はあるんだけど、さすがにこの時期にはもう移動が厳しくなってきているみたいだ。もちろんいけないことはないけど、雪で通れなくなることもしばしばあるらしい。
かなり環境も変わっているのでまずはここで少し滞在して周りの情報を集めることにしたほうがいいだろう。とりあえずラクマニア様に紹介してもらった宿へ向かうが・・・予想通りかなり高級そうなところだった。
「紹介状を出したらまた最上級の部屋とか案内されそうなんだよねえ。しかも無料で・・・。」
「ええ、そうでしょうね。」
「さすがにいつもいつも気が引けるから今回は別のところにしてもいいか?」
「イチがそう思うんならそれでいいんじゃない?それでも別に安宿に泊まるっていうわけでもないでしょ?」
「まあそれは最低限ちゃんとしたところに泊まるよ。」
さすがに自腹でこの宿に泊まるのはもったいないので前に冒険者から聞いておいたおすすめの宿に泊まることにした。建物もきちんと清掃されているし、部屋も必要最低限の物はある上、シャワーとかもついている。まあ平民用なので最初に行ったところと比べるまでもないが、1泊800ドールでこのくらいなら十分だろう。
夕食は宿の近くにある食堂で食べるが、やはり寒い地域になってくると、煮込み料理などの温かいものが名物となってくるようだ。あとお酒も度数の高い物が多くなってきているような気もする。ジェンは嬉々としてお酒を選んでいた。
夕食は宿に併設する食堂で食べたけど、普通においしかった。ここにいた冒険者と思われる人たちとも話をしたんだけど、やっぱり冬になると活動ができなくなるので動ける今のうちにできるだけ稼がなければならないとぼやいていた。ずっとこの辺りに住んでいるので寒くなったら南の方まで移動する考えはないようだ。
彼らは冬になるともともと生まれ育った地方の町に行っているみたい。その町の護衛にもなるし、日帰りでそこそこの魔獣を狩ることができるので十分らしい。
翌日は役場に行って依頼の確認をしてみたけど、特に目を引く依頼はなかった。受付に話をしてみると、討伐記録を見た後で提案があった。
「素材の確保のための討伐依頼が出ていますが、受けてみませんか?良階位上位の大白兎の毛皮が対象となるのですが、冬になる前にかなりの数の要望が出ているのです。毛皮の状態にもよりますが、普通のレベルでも2000ドール、状態が良ければ最高2500ドールと普段の買い取り価格よりも非常に高くなっています。」
確かに通常は1500ドール、店に出しても2000ドールは行かないはずなので買い取り価格はいいのかもしれない。ただこの魔獣を狩ったことはないはずだけど、なんで自分たちにこの話を提案してきたんだろう?
「大白兎は倒したことはないと思いますが、なぜ自分たちに依頼されるのですか?」
「ええ、通常は討伐実績を基準に依頼をするのですが、討伐実績に蹴兎と大蹴兎がありましたので提案させていただきました。
雪の中での戦いだと大白兎の方が危険度が高いと言われていますが、雪がない状態であれば蹴兎の方が素早く、討伐の危険性は高いと言われています。その蹴兎の討伐をされていますし、それよりも格段に討伐の難しい優階位の大蹴兎を狩られているので問題はないかと思いますよ。」
そういうことか。まあ、あれは魔道具を使ったからなんとか討伐できただけだけどね。でも蹴兎と同レベルなら何とかなるかな?まあ受けてみても損はないしね。
「いろいろと回っているところなので、この町に戻ってこれるか分からないのでちょっと厳しいかもしれません。」
「ああ、それでしたら大丈夫ですよ。討伐依頼はこの町だけでなく、大白兎を狩ることのできる北部エリア全体に出ていますので、納品はこの町でなくてもよろしいですよ。ただ正直な話をしますと、各支部の実績にもなるので、できればこの町に納めてほしいですけどね。」
そういうことなら断る理由もないな。数の指定もないので最悪1匹は狩ることができるだろう。
「分かりました。それでは受けさせてもらいます。」
このあと、置かれている資料を確認していく。この辺りにいる魔獣の特性はアルモニアと大きな差はないようだ。個体的にはこっちの方が若干身体が小さいようだけど、動きが素早いらしい。
今回行こうとしているトニア遺跡はすでに調査は終了しているところなので最低限の管理しかされていないみたいだ。春に大規模な魔獣退治が行われ、夏の間は現地で管理を行うけど、今の時期はすでに現地の管理は行われておらず、近くのトニアの町で入口の鍵を管理しているだけらしい。
そこの遺跡は多くの壁画が残っており、古代ライハンドリア語の解明が進んだせいで最近再調査が行われたらしく、いくつか論文も発表されていた。神話に関する内容が多いみたいなので、今回はその確認を兼ねての調査だ。
管理をしていた時期からすでに1ヶ月以上経って魔獣が増えている可能性があるのでしっかり対策しておかなければならない。まあ優階位の魔獣はいないと思うけど、良階位の魔獣はいる可能性はあるからね。
ここ最近はあまり使う機会がなかったけど、一応防寒着についても対策を考えている。魔道具である程度寒さの緩和はできるけど、やはりアンダーウェアのようなものは着たほうがいいからね。さすがにこの辺りの町だといろいろと売られているのでいくつか買い込んでおいた。
ちなみにマントは購入していたんだけど、最近はほとんどが町の中の変装用という使い方だ。町の中では護身用に鉄の短剣を身につけているけど、防具も結構いい物を着ているのでそれを隠すために使っている。
最初の頃は暑さと寒さ対策、雨対策、野宿の時の寝具代わりとかに使っていたんだけど、今は雨の日はあまり動かないことが多いし、収納バッグがあるから寝るときの防寒道具も十分、暑さや寒さ対策には魔道具がある、移動は車がほとんどということでなかなか出番がない。
たださすがに年数も経っていたのでこの際だと買い換えることにした。前よりも薄くて丈夫な素材のせいもあり、一つ15000ドールと結構な値段となってしまった。買ったマントには耐久性向上と重量軽減の魔符核を刻んでおいた。レベルは低い物だけど、それでもあるとなしでは重さとか耐久性が違うんだよね。
いろいろと買い物をしていると思ったよりも時間がかかってしまったので結局この町で2泊することになってしまった。翌日の朝早くに出発して西にある遺跡へと向かう。
車を走らせて3日目にトニアの町に到着する。役場に行って遺跡のことを確認すると、遺跡入口の鍵の解除方法について教えてくれた。調査許可証があれば入る許可はもらえるようだけど、遺跡の鍵は毎年変えられるので、入れるのは来年の春までらしい。
遺跡はここから3日ほど歩いた山の麓にあるようだけど、良階位くらいの魔獣が出るエリアになるので注意するように言われる。途中まで道はあるが、車で走れるようなところではないみたい。しかもしばらく使っていないのでどうなっているのかは分からないようだ。
距離を考えると自分たちの移動速度でも1日では着けない感じなので今日は町で泊まってから明日の朝一に出発した方が良さそうだ。
宿を確認していくが、あまりいいところがなかったので、貴族用の宿に泊まることにした。ちょっと割高だけど、安全や設備がいいところの方がいい。
このあとは役場で資料を見たり、適当に町をぶらついたりして夕食をとって眠りにつく。明日から拠点に泊まれるかどうかも分からないので今のうちにしっかりと休んでいた方がいいからね。
翌朝早めに出発する。道はかなりあれてきているけど、道路の体裁は残っているのでまだ走りやすい。それでも道幅は狭いので慎重に索敵しながらの移動となるのでそこまでペースを上げることができなかった。
お昼はサンドイッチくらいで簡単に済ませ、時間はまだ早かったが行程の三分の二くらい進んだところで拠点を出して泊まることにした。調べた感じだともう少し先に進むと良階位の魔獣が出てくるようなので、下手に良階位の魔獣が出るところまで行くよりも、ここで休憩を取って明日朝早く出発した方がいいだろう。
翌日早くに出発してしばらく行くと、良階位の魔獣の気配をとらえる。この辺りにでる良階位レベルの魔獣は白狼、大白兎、巨魔鹿だが、巨大蜘蛛や猛毒スライムなども油断すると不意打ちを食らうので気をつけなければならない。
今回最も気になるのは白狼だ。以前遺跡で襲われて死にそうになった魔獣だからね。
「ジェン、白狼がいるみたいだけど、大丈夫?」
「ええ、まだ対峙してみないと分からないけど、大丈夫だと思うわ。あのときより強くなっている自覚もあるし、似たような魔獣も倒しているからね。イチの方こそ大丈夫なの?」
「ああ、たぶんジェンと同じような気持ちだと思うよ。ただ完全に白狼に対する恐怖心を払拭するには一回倒さないとだめだと思ってる。」
「そうね。まずはいつものように倒して、大丈夫そうだったら私も前に出てやってみるわ。」
「わかった。まずは一番安全と思われる方法で討伐してみよう。」
やっぱりまだ白狼には苦手意識があるよなあ。死にそうになったんだからしょうがないけどね。でも気持ちを切り替えるためにも倒して前に進まないといけないな。
しばらく進んだところで白狼の姿を確認する。こっちが先に見つけることができたのでよかった。他の魔獣の場所も確認してからジェンと再度倒す方法を確認する。
まずは自分が魔法で攻撃を仕掛けたけど、予想通り避けられてこちらに襲いかかってきた。近づいてきたところで収納魔法から盾をだして左右に逃げられないように挟み込み、正面に水盾を出して勢いを止める。ここでジェンが雷魔法で攻撃し、動きを若干鈍らせることができた。雷魔法の効きは悪いが、水を浴びせた後だとそれなりに効果はあるからね。少しでも動きを遅くできるのはかなり大きい。
このあとは自分が前衛で剣で攻撃し、ジェンが後ろから魔法で攻撃する。さすがにオリハルコンの剣のせいか、剣の通りが良く、思った以上に早くととどめを刺すことができた。
前は全く速度についていけなかったけど、今なら雷魔法を使わなくても対応できそうだ。もしかしたら剣のみでも倒すことはできるかもしれないけど、素材の程度が悪くなるし、こちらの被害もそれなりに出るので余計なことはしたくないというのが本音だけどね。
このあとジェンも同じように対応して倒すことができたので苦手意識は払拭できたと考えていいだろう。ジェンも短剣の斬れにかなり驚いていた。やはり高レベルの魔獣だと武器の差がかなり分かるね。
大白兎も同じような感じで対応したので思ったよりも楽に倒すことができた。討伐依頼もあるのでこっちは索敵に引っかかった物はすべて倒していく。結構魔獣が多いのはあまり冒険者がこないせいなのかねえ?
昼過ぎには遺跡に到着し、鍵を開けて中を確認する。入口から確認した感じでは中にいるのは並階位レベルくらいまでのようだ。ただ遺跡の周辺には良階位の魔獣の気配を感じるので先に倒しておいた方がいいだろうな。索敵にかかる範囲で魔獣の討伐を終えて、遺跡の内部の魔獣も討伐する。
遺跡の大半は洞窟になっていて、すでに調査が何度も行われているせいか中には何も残っていない。ただ多くの部屋に壁画が描かれており、魔法で劣化を抑制しているようだった。
この日は遺跡の中の広いエリアに拠点を出し、倒した魔獣の解体をしてから夕食をとる。
「近くの魔獣はあらかた退治しているし、遺跡の中には並階位の魔獣しかいなかったので見張りはなくても大丈夫だよね?」
「ええ、良階位の魔獣が出たとしてもしばらくは耐えられるから不意打ちはないと思うわ。」
「まあ、装備は全部外せないけどね。」
やはり精神的には安心できなくて緊張はしていると思うし、装備も着けたままだけど、交代で見張りをするよりは休めるので見張りはなしにした。
翌日から朝と夕方に近くの魔獣を退治し、その間に遺跡の壁画の確認を行う。朝と夕方に退治しておけば寝ている間に沸く確率も低くなるからね。
最近文章が解明されて、神話の一部が見直されているけど、従来の神話を支持する反対勢力もあるみたいで、世間ではまだどっちが正しいのだろうという認識のようだ。
書かれているのは先代の神が加護をやめたのではなく、スキルの一部を奪ってからこの世界から去ったと言うことだった。傲慢な人間達への反省のために奪ったということで、文明の崩壊につながったために新しい神が再度スキルを与えたということだった。ただやはりスキルのレベルという概念がないのでそこについての解読ができないようだ。
原文を見てもそこまで詳しい内容が書かれているわけでもないからしょうがないだろう。そもそも解読も完全にできるようになっているわけでもないし、ここに描かれている壁画もなにを意図して書いたのかが分からないからね。
「やっぱり前の神がスキルを奪ったというのが正確なところなのかなあ?そして新しい神がスキルを戻したけど、いくつかのスキルのレベルに制約を設けたというところか。」
「ジョニーファン様でも自然科学のレベルが3までしか上がっていなかったくらいでしょ?こっちの世界の人はそれ以上は上がらないし、それ以上の知識は得られないような制約がかけられていると考えた方が自然ね。知識とスキルがどういう関係にあるのかはっきりとは分からないけど、スキルが上がらないとそれ以上知識が得られないという風になっているのかもしれないわ。」
「いくつかのスキルに制約を加えてしまえば、鑑定などの他のスキルもレベルがあがらなくなるからなあ。」
「そのせいで収納バッグも作れないし、転移魔法も使えないって言うところなのかな?」
「もし自分たちがこのことを言ってしまったり、今自分たちの知っている知識を伝えようとしてしまうと何かしらされてしまう可能性は否定できないね。この世界のことわりを壊してしまうのはまずいと思って制約をしておいてよかったかもしれないよ。特にこの世界では神罰があると言われているから正直怖すぎる。」
「本当にそうよね。まあ神罰がどこまで本当なのかは分からないけど、神様の存在がここまで近いと怖いわよね。それでもいろいろと知識は広めていると思うけど、このくらいならまだ大丈夫なのかな?実際に発明品で祝福ももらっているわよね。」
「そう思わないと怖くてこれ以上何もできないよ。
ただ当時の知識がなくなってしまったのは分かるけど、記録として残されたものがなくなっているのは何かあったのかな?それとも記録類はメモリーのような記録媒体になっていたせいで使えなくなってすべて失われたんだろうか?」
「それは分からないわね。紙の資料があったような跡はあったけど、単に年数的に残らなかった可能性もあるわね。紙を作る技術がなくなってしまって壁に書くようになったことも考えられるわ。錬金の技術もいったん失われたあとにまたできるようになってきたかもしれないしね。」
「こればっかりは新たな資料でも発見されない限りは分からないよなあ。」
遺跡の近くの魔獣の狩りに時間がとられたこともあって、遺跡の調査に6日ほどかかってしまったけど、いろいろと確認もできたのでよしとしよう。討伐依頼の出ていた大白兎も結構狩ることができたしね。
遺跡を出発してからいったんトニアの町に戻りって素材を納品してからハイレニア方面に向かう田舎道を進んでいく。車では走れなかったけど、討伐依頼のこともあるので林の中を突っ切っていった。おかげで結構な数の魔獣を狩ることができた。その分時間はかかったけどそれはそれでしょうがない。
林を抜けて大きな道に出た後は車に乗って港町ハイレニアへとやってきた。この町の周辺がルイアニアさんの治めている領地になるらしい。漁業が中心のようだけど、灌漑工事もちゃんとしているみたいで町の周りには広大な農地が広がっていた。まあ土木関係も魔法があるから力業でできるんだろうな。
町に入ってすぐに貴族エリアへと行き、そのまま領主の屋敷へとやってきた。ここの受付にも訪問客が結構いたんだが、ラクマニア様に紹介状を書いてもらっていたので、名前を確認するとすぐに案内してくれることになった。その対応のせいか、周りの視線がちょっと痛い・・・。
屋敷に入ると応接室に通されて、少しすると奥さんのタスマールさんと子供達のソラニアくんとクリスティファちゃんがやってきた。子供達は大分大きくなっていてちょっと驚いてしまった。
「タスマール様。近くに来る用事がありましたので寄らせてもらいました。歓迎していただいてありがとうございます。」
「お久しぶりね。元気そうで何よりだわ。わざわざ寄ってもらって悪かったわね。いつ来るのかいつ来るのかと子供達がずっと楽しみにしていたのよ。」
「「ジュンイチさん、ジェニファーさん、お久しぶりです。」」
「大きくなりましたね。お兄ちゃんとお姉ちゃんになったかな?ちょっとびっくりしましたよ。」
「ほんとにそうね。結婚式の時から比べてとても見違えたわ。」
「「ほんとに!!」」
お茶をいただきながら少し話していたんだが、子供達にせがまれて遊ぶことになった。ちなみにルイアニアさんは仕事で出かけているようだ。
「勉強とかはいいの?」
「うん、もうちゃんと今日の分は終わったし、二人が来たらその日は特別に遊んでいいと言われていたから大丈夫だよ。」
結局この日はかなり遅くまで庭で遊ぶことになってしまった。飛行魔法も使ったので結構疲れてしまったよ。
夜にルイアニアさんが戻ってきて一緒に食事をすることになったんだけど、あと10日もしないうちに王都に戻るらしく、折角なら一緒に戻ろうという話になってしまった。そしてそれまではここに泊まるように言われてしまう。さすがに断ることはできなかったよ。
貴族が町を移動する際、いくら自前の護衛を雇っていても、最低1パーティーの冒険者に護衛依頼を出すことになっているらしい。どうやら腕のいい冒険者の保護の意味があるようだ。
いつも同じところに護衛依頼を出しているみたいだけど、自分たちにも護衛依頼を出してくれるといわれて素直にお礼を言う。ただもともと依頼しているところには事前に挨拶はしておいた方がいいだろうな。
翌日役場に行って討伐依頼の報告を行う。事前に受けていた大白兎の素材の依頼だけど、まだ規定数には達していないようなので買い取りをお願いした。結局狩ることのできた大白兎は全部で38匹と多いか少ないか分からなかったんだけど、1日1~2匹狩れればいい方らしく、この数はかなり多いようだった。索敵能力の差だろうか?
素材である毛皮の状態がかなり良くて満額の支払いとなったため、1匹2500ドールの買い取りで全部で9万5千ドールとかなりの額になった。他にも白狼などの素材についても買い取ってもらったので久しぶりの大きな収入だ。
「ルイドルフ・ルイアニア爵から護衛依頼が出ていますが、ご存じでしょうか?」
「ああ、はい。いつもの護衛のパーティーに加えて自分たちにも護衛依頼を出すと聞いています。」
「承知しました。すでに話が通っていたようで安心しました。
あそこの家が複数のパーティーに護衛依頼を出すことは珍しいことなのですよ。もともとかなり実力のある護衛を雇っていますからね。特に盗賊や魔獣が出ているという話は聞いていないのですが、なにかご存じでしょうか?」
やっぱり通常頼むパーティーは決まっているみたいだな。たぶんいきなり護衛を追加されたはずなのでいい気分ではないだろうな。
「いえ、そのような話は聞いていませんね。自分たちもこのあと王都に戻る予定でしたので、折角だから護衛として同行することになったんですよ。」
「そ、そうなのですね。」
「一緒に行動するパーティーの方達は今はこの町にいらっしゃるのでしょうか?」
「この町を拠点にしているのですが、今は狩りに出ているので戻ってくるのはもう少し後になるかと思いますよ。護衛依頼はすでに受けていますので、遅くとも出発予定日の5日前には戻ってくるはずです。」
「分かりました。どうせなら出発前に一度顔合わせをしておきたいと思っていますので、もし不都合なければ連絡をお願いします。狩りに出る予定はないので、連絡をもらえればすぐに顔を出せると思います。」
「承知しました。その際にはまたご連絡いたします。」
「お願いします。」
折角なので港に行って魚を仕入れたり買い物したりしてから屋敷に戻る。ソラニアくんとクリスティファちゃんは今日は勉強や訓練をちゃんとやっているみたいで、4時から1時間だけは自分たちが相手をすることにしている。
翌日からは買い物に行ったり、図書館に行ったり、屋敷にある本を読ませてもらったり、護衛の人たちと一緒に鍛錬したりといろいろと忙しくしていた。
屋敷の人たちにはラクマニア様の知り合いのヤーマンとハクセン両国の下位爵と説明されているらしく、かなり丁寧な対応で正直困ってしまう。最初は護衛の人たちも気を遣っていたからなあ。そこそこ実力があると分かってからは、ちゃんと相手してもらうようになったけど、最初はけがをさせてはまずいという感じでかなり手を抜かれていたからね。
奥さんのタスマールさんとはお茶をしたりしているんだけど、ジェンはかなり気に入られたのか、一緒に買い物にも行っていた。もちろん二人だけではなく、護衛の人も一緒だけどね。
~ルイアニア護衛Side~
ラクマニア様の知り合いという方がルイアニア様の屋敷にやって来た。数年前にラクマニア様の屋敷にやって来たこともあり、二国で爵位相当となる褒章を受けているというかなり珍しい方だ。初めて二人に会った人はあまりに若い二人にかなり驚いているが、その気持ちは分かる。
私は同行していないが、ルイアニア様だけでなくラクマニア様もわざわざ二人の結婚式に参加されたと聞いてほんとうに驚いた。ラクマニア様が結婚式に参加されるのは王族や上位貴族くらいだったからだ。いくら二国の爵位を持っているとは言え、下位爵の二人の結婚式に参加するというのはよほどの関係と言うことだろう。
正直どういう態度をとっていいか分からないので接触はできるだけ持たないようにしようと思っていたのだが、訓練の相手をしてほしいと言われて焦ってしまった。もし相手にけがをさせてしまったらどうなるのか考えるだけでも怖い。ラクマニア様と懇意にしているという相手ならなおさらだ。
良階位の冒険者と言うことは聞いていたが、実力は思った以上に高かった。最初はかなり手を抜いて相手をしていたのだが、すぐに本気で相手しなければならないことになった。
特に防御について優れており、本気を出してもなかなか攻めきれないレベルだった。私より上の実力を持つ同僚もかなり驚いており、魔法の方が得意と言うことは魔法に関しては優階位のレベルがあるのではないかと噂している。
爵位を持っていると言うことでかなり気を遣っていたのだが、本人は爵位相当であくまで平民ですよとあっけらかんと言っていたこともあり、数日経った頃にはかなり溶け込んでいた。ジェニファー様はお酒が好きらしく、いろいろとお酒を秘蔵していたようで、おすすめというお酒を飲ませてもらってみんなかなり盛り上がっていた。
ジェニファー様は奥様とお出かけすることもあり、かなり仲良くされていた。奥様の表情を見てもかなりリラックスされているのが分かるくらいだ。娘のような妹のような扱いをしているのは正直言ってほほえましい。クリスティファお嬢様が大きくなったときはこういう風なことをしたいのかもしれないな。
~~~~~
役場から護衛に同行する白狼の牙パーティーが戻ってきたと連絡があり、明日の朝に時間をとれないかと打診されたので承知する。
翌日に朝食をとった後、役場に行くと、受付から白狼の牙のメンバーを紹介された。
「初めまして。今回急遽護衛として同行させていただくことになりましたアースのジュンイチです。隣がメンバーのジェニファーです。」
「初めまして。私が白狼の牙のリーダーのハルト、あとはカオリ、タツマ、マイル、リューカの5人メンバーだ。今回同行すると言われたのでこちらこそよろしく頼む。
いきなりですまないが手合わせしてもらってもいいか?特に何も起きないとは思うのだが、やはりお互いの力量はある程度把握しておかなければいざというときに困るからな。」
「ちょっと、ハルト!!」
「いや、実力も分からない状態で護衛をするというのは無理があるだろ?今までまったく面識もないからな。」
やっぱりいきなり護衛を追加されたので気になるのだろうな。
「確かにそうですね。それではお手合わせ願います。これでも一応あなた方と同じ良階位ですので手加減無用です。
ジェンも前衛として戦うことが出来ますのでそちらからも二人出してもらえますか?」
彼らは全員20代後半くらいかな?優階位にはなかなか上がれないので同じ良階位でも実力にはかなり幅があるとは思うけど、それでもそんなに劣っているわけではないと思う。
訓練場に移動し、練習用の装備を借りて対戦することになった。相手をするのは前衛らしいハルトさんとタツマさんの二人だ。体格的に自分がハルトさん、ジェンがタツマさんの相手をすることにした。ハルトさんはかなり大きいからね。
ハルトさんは片手剣と盾を使う自分と同じスタイルだ。剣さばきは鋭いが、動きが見えないわけではないのでなんとか捌くことが出来る。それに対人での戦いはあまりしたことがないのか、盾の使い方がちょっと甘い気がする。魔獣相手に腕を鍛えたのだろう。
そうはいっても勢いはすごいのでこちらからもなかなか攻撃出来ない。隙を突いて剣を繰り出すが、なかなかうまく当たらない。
お互いに有効打が出ないままやり合っていたんだけど、彼らの仲間から「これだけやれば十分だろう。」とストップがかかった。思ったよりも長い時間やり合っていたみたいだ。まあ負けはしなかったけど、判定だったら負けという感じかな?
ジェンも同じ時間耐えていたようだが、相手が片手剣と盾というスタイルでリーチの関係もあってほとんど防御に徹する形だったらしい。それでも決定打をもらわなかったようなので十分じゃないかな?
「私たちと違って対人相手にも訓練しているみたいだな。ただ、防御に比べて攻撃するときの動きが若干劣っているような感じがするんだが、これだと魔獣を倒すのにはちょっとつらいんじゃないか?」
ハルトさんは先ほどまでとはちょっと違って納得したような表情で言ってきた。
「いえ、攻撃は魔法も使っているのでそうでもありません。」
「魔法も使えるのか?もしかして二人とも?」
「ええ、どちらかというと魔法の方が得意なので・・・。剣での戦闘は魔法前提ですので守りを主体においています。」
「そういうことか。どおりで防御から攻撃に移る際の動きに違和感があったわけだ。これだけの技量があって魔法が得意というのであればかなりの実力だな。
すまなかった。正直なことをいうと、良階位と言っても実力は疑っていたんだよ。本当かどうかは分からないが、貴族とつながりがあると若干融通してくれるという話を聞いたことがあったからな。」
「自分たちはヤーマンで昇格試験を受けましたからそれはないと思いますよ。そもそも貴族だから融通されるというのは昔のサビオニアくらいじゃないですかね?当時は平民だと実力があっても良階位以上に上がれないと言っていましたからね。」
「サビオニアまで行ったことがあるのか!?それはすごいな。若く見えるけど本当はもっと年上なのか?」
「いえ、よく言われますが、自分もジェンも21歳ですよ。機会に恵まれていろいろと行くことが出来たのです。ハクセンに来るのも2回目ですからね。
今回ももともと護衛する予定はなかったのですが、ルイアニア様達と一緒に王都に向かうことになって、どうせ同行するならと護衛依頼を出してくれたのです。ですからルイアニア様からもあなたたちに不満があるわけではなく、信頼の置けるパーティーだと言うことを聞いていますよ。」
「それはありがたいことだな。しかし、ルイアニア様と同行するように言われるとはすごいな。」
「以前ハクセンに来たときにいろいろとあって知り合うことが出来たんです。正直なところただの平民の自分がいいのだろうかと思うことは多いですけどね。」
他のメンバーも交えて話をする。女性のカオリさんはクロスボウを使った遠距離攻撃と罠解除などの支援、男性のマイルさんは攻撃魔法、女性のリューカさんは攻撃魔法と治癒魔法を使うみたいだ。ちなみに5人ともに結婚していて、マイルさんとリューカさんは夫婦らしい。他の3人の相手は冒険者ではないようだ。
「あれ?そのクロスボウですけど、最近購入されました?」
なんか見覚えのあるクロスボウだったので気になって聞いてみた。
「え、ええ。どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと見せていただくことはできますか?」
「少しなら。でもかなり貴重な物なので取り扱いには注意してくださいね。」
確認してみると、やっぱりあのとき売ったクロスボウのようだ。ジェンも同じ事を言っている。
「どうかされたのですか?」
「いえ、3年ほど前に自分たちが手放したものに似ていたのでちょっと懐かしいなと思っていたんです。運良く手に入れたんですけど、魔法が使えたこともあって結局使わなくて、ハルストニアの武器屋で買い取ってもらったんです。あのときは壊れていたのですが、いい物なので本当に売っていいのかと念押しされたんです。」
「たしかに買ったのはハルストニアだったわね。ここで逃したらもう二度と手に入れられない一品と言われたのよ。それで無理して買ったのよね。」
「いい人に買われてもらったようで良かったです。使わないまま眠らせておくにはもったいないものでしたからね。」
折角なのでクロスボウの腕前を見せてもらったが、さすがに精度が高い。説明では矢の威力を向上させる効果と書かれていたんだけど、威力はかなり落ちるが矢を使わなくても魔力を少し込めると矢のような物が打ち出せる仕様だったらしい。かなりの一品だったようだけど、そんな物がのみの市で投げ売りされていたとは、のみの市侮れないな。
それから5日ほどしてから王都に向けて出発することになった。よく聞く話だけど、貴族は途中の町にはある程度寄っていかないといけないらしく、自分たちのペースで走れば5日くらいで到着できそうなところなんだけど、10日くらいかけて移動するようだ。まあたまにはこういうのもいいかな。
ルイアニアさんの家族は大きめの車一台にのり、護衛などが4台に分乗してその前後を、そして白狼の牙が先頭を走り、自分たちが最後尾を走るという布陣となった。
基本的に移動中の護衛対応は雇われた冒険者が行うことになっており、よほどでなければ専属の護衛たちは手を出さない。野営がある場合は見張りは冒険者のみで行うようだ。
そうはいっても、そもそもこの国で貴族にちょっかいを出そうとする盗賊はいないし、今回のルートではそうそう強い魔獣が出ることもないみたいだけどね。
今回の宿泊はすべて町の宿なので野営の必要はないのはうれしいね。一日の行程は200メヤルドと自分たちが走る距離の半分くらいで、走るペースも遅いし、走る時間も短いので仕方がないだろう。
途中の町では一番いい宿に泊まるんだけど、自分たちも一緒の宿にされてしまった。普通、雇われた冒険者はランクの落ちる宿に泊まるものだし、まして食事を一緒にすることはない。ハルトさん達は最初かなり驚いていたもんなあ。
食事の時には町の長官達も同席するんだが、自分たちは何者なのか?という目で見てくるんだよなあ。まあそれはそうだろうね。ただ他の家族の態度を見て変なことは言えないと悟っていたけど。
さすがに大きな街道だったので特に事件もなく、予定通り10日間で王都のハルストニアに到着する。途中出てきたのは並階位くらいの魔獣くらいだったからね。
~ハルトSide~
護衛の任務のために、いつもよりも遠征期間を短くしてハイレニアの町に戻ってきた。ここ数年間ずっと依頼を任されていたルイアニア様の護衛だったが、今回は追加で他の冒険者が護衛に付くという話を聞いた。どういうことなのか?それも私たちが依頼を受けた後で追加で言われたので余計に気分が悪かった。
もともとこの町と王都の移動は正直出番がないくらい安全だ。その上自前の護衛も同行するため冒険者の護衛は形式上であり、実力がそれほどいるわけでもない。ただし護衛を受けるにはそれなりの実力を貴族の護衛に示さなければならないはずだ。
今回は護衛を変更するための布石なのかと思ってしまった。護衛による報酬や実績ポイントはやはり大きいからな。
本人達に会って話を聞くと、あくまでルイアニア様の知り合いと言うことで護衛を依頼されたようだった。そもそもヤーマンの冒険者だった。
実力を確認させてもらったが、良階位に違わぬ実力を持っていた。魔法の腕前については確認できなかったが、剣よりも得意と言っていることからも相応の腕前だと予想できる。二人だけのパーティーなのでもしかしたら治癒魔法も少し使えるかもしれないな。
二人と会った後で受付のユーミンから話を聞いてちょっと焦ってしまった。どうやらヤーマンだけでなくここハクセンでも爵位相当の褒章を受けていると聞いたからだ。場合によっては不敬罪が適用されていたかもしれない。
そして移動が始まった後、驚いたのはルイアニア様達の態度だった。知り合いとは聞いていたが、扱いがそのレベルを超えていたからだ。二人はルイアニア様の家族と一緒の宿に泊まり、食事も一緒にしているのだ。しかも家族全員が普通に慕っている。ルイアニア様だけでなく、奥様のタスマール様、そして子供達もだ。タスマール様はジェニファーさんを妹や娘のように扱っているように見える。
そのくせ私たちにも年上といって敬語で接してくる。時間があるときには一緒に訓練をしたりもするし、正直どう対応していいのか分からないくらいだ。本人達は爵位相当を持っているけど平民ですからといっているので正直困ってしまう。
そして衝撃だったのは護衛の人たちから聞いた話だった。「ルイアニア様ではなく、ラクマニア様がお客様として対応するほどの人物だから対応には注意した方がいい。」と言われたときは本気で焦ってしまった。ただこのことは決して口外しないように念を押されてしまった。
朝早くにハルマを出発して北上する。王都のハルストニアまで、途中の宿泊はほとんどが拠点になった。やはり一日に走る距離と町の位置がなかなか合わないんだよね。拠点の方が居心地がいいというのも問題だ。
王都に到着すると、町に入るための行列ができていた。前に来たときは平民用の入口から入ったのでかなり時間がかかったけど、今回は貴族用の出入口から入れるのでそこまで待つ必要はなさそうだ。こういうときは本当にありがたいね。前に来たときよりも行列は短いけどかなり待つのは間違いないからね。
町に入るが、問題はどうやってラクマニア様に連絡を取るかだな。前はジョニーファン様の紹介があったからいいんだけど、普通はどうやって連絡すればいいんだろう?マイルスさんに聞いておけば良かったよ。
「なあ、貴族の家に訪問するときには事前に連絡が必要だよね?」
「たぶん普通はそうでしょうね。前は貴族エリアの入口でジョニーファン様からの手紙を渡してからだったし、そのあとは家に滞在させてもらっていたから特に問題なかったけどね。」
「とりあえず門のところまで行って連絡だけしてみるか?」
「宿泊場所を伝えておけば何とかなると思うわ。確か門のところに門番の待機所があったし、もしかしたら知っている人がいるかもしれないわよ。」
まずは泊まるところを確保した方がいいだろうな。前にも泊まった宿に行くと、すでに自分たちのことは登録されているのか、すぐに部屋を取ることができた。金額は前と同じくルイドルフ爵の紹介と言うことで2000ドールと安くなっていた。たしかに前に見たことのあるフロント係だったけど、顔を覚えているというのはすごいな。
爵位を持っているので貴族エリアに入るのは問題なかった。前はここで連絡をとるしかなかったからな。ルイドルフ家の門のところにある受付にいくとかなりの行列ができていた。門番も数名いたんだが、残念ながら見知った顔の人はいなかった。
「もしかしてこれって面会希望の人たちの行列なのかな?」
「そうかも。思った以上に多いわね・・・。」
受付にはかなりの行列ができていて係の人も対応に追われているようだ。この受付だけでも結構時間がかかりそうだなあ。
いくつかの行列ができているんだが、一つだけ結構空いているところがあった。案内を見ると外国人用となっているみたいなのであっちの方がいいかもしれないな。少し待つと順番がやって来たので聞いてみる。
「すみません。ラクマニア様に面会をお願いしたいのですが、ここで受付すればよろしいのでしょうか?」
「はい。ここまで来られていると言うことは貴族の方とは思いますが、面会希望者が多いですので、面会できるか確約できません。まずはここに名前と用件、連絡先について記入をしてください。」
とりあえず名前と用件などを記載しておく。用件と言っても特にはないんだよなあ。まあそれっぽく「魔法に関する情報提供」とでも書いておこう。
「それではまたご連絡しますね。」
記入を終えたので屋敷を後にする。
「前は結構気楽に中に入っていたけど、よくよく考えたら今はこの国のトップと言われているくらいの人物なんだから早々会えないのはしょうがないな。とりあえず来たと言うことだけでも記録があれば大丈夫だよね。」
「そうね。雪が積もる前に北の遺跡に行くつもりなんでしょ?またこっちに戻ってくるからそのときにゆっくり待ちましょう。」
「うん、だから5日間のみの滞在していったん町を出ると書いておいた。」
このあと遺跡の調査許可証をもらうために役場に行って話をする。ここでもジョニーファン様の紹介状が役に立ちすぐに発行してもらえることとなったが、発行には2日かかるようなのでしばらく待つしかない。
買い物をしてから夕食をとり、宿に戻ってゆっくりする。まあラクマニア様とは会えればラッキーと言うくらいに考えておかないといけないだろうね。
翌日も買い物に行ったり食事をしたりしてから宿に戻ると受付のところにルイドルフ家の執事のクリファリアさんの姿があった。こちらが気がつく前に向こうが気がついたみたいですぐにやって来て挨拶してきた。
「誠に申し訳ありません。お二人のことは事前に受付に連絡していたのですが、手違いがありすぐに対応できませんでした。」
彼の横にもう一人男性が頭を下げていた。受付の時にいた人のような気がする。
「申し訳ありません。」
いきなり謝られても、なにがどうなったのか分からないので、場所を移動してから話を聞く。
どうやら自分たち二人が近々訪問することは伝えられていたみたいで、貴族エリアの入口や受付にもやって来たときにはすぐに連絡を取るようにしていたようだ。
ただ今回、貴族エリアの入口では名前の確認がちゃんとされなかったことと、受付の人がヤーマン語の名前の発音を間違えて読んでしまい、別人と思っていたらしい。そういえば外国用の受付だったのでヤーマン語で書いてしまっていたな。
「いえ、こちらも連絡方法をちゃんと聞いておけば良かったのに完全に忘れていたのが失敗でした。受付の方にもご迷惑をおかけしました。」
「いえいえ、もし都合が良いのであればこのあと一緒に食事をしたいとおっしゃっているのですが大丈夫でしょうか?」
「えっと・・・ええ、大丈夫ですよ。いいのですか?」
「はい、主人からの招待ですので問題ありません。」
屋敷に到着して中に入ると従業員が整列していてかなり圧倒される。しかもわざわざラクマニア様と奥さんのスレンダさん二人が玄関ホールまでやって来ていたのには驚いた。
「「お久しぶりです。」」
「よく来たな。今回はいろいろと不都合をかけて申し訳なかった。」
「ごめんなさいね。格好などももう少し詳細に伝えておくべきだったわ。」
「いえ、こちらも訪問方法などちゃんと確認しておくべきでした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
結局この後一緒に食事をとり、せっかくだから泊まっていけと言われてさすがに断ることもできずに宿泊することになった。宿には連絡してもらうしかない。
サビオニアの政変のことにかなり興味があったようで、いろいろと説明をした。タイラス爵のことはラクマニア様も知っていたらしく、今回の革命に大きな影響を与えたことも分かっていたようだ。
貴族社会が倒されたという事例はこの国にも色々と影響が出ているらしい。ただ数年前から貴族の意識改革、平民生活の改善や平民の登用について改革を行っていたようで、「打倒貴族!」というような雰囲気はないらしい。
あの事件の後、敵対関係にあったハックツベルト爵もラクマニア様の進めていた政策に賛同することも多くなり、意見の対立はもちろんあるが、それでも以前に比べて格段にいい関係になっているようだ。
今回の事件で二つの派閥が中心となって進めていた政策が時流に合っていることが分かり、この二つの派閥が大半を占めるようになってきているようだ。ハックツベルト爵とは非公式でときどき会っているらしく、自分たちのことも話題に出るみたいだ。
結局今回も出発するまでお世話になることになってしまった。ラクマニア様はもちろん仕事があるので昼間は護衛の人たちと一緒に訓練したり、奥さんとお茶をしたりする。
今回次男のルイアニアさんは家族共々領地の方に行っていていなかったんだけど、長男のハルトニアさんとその家族と会うことになった。この町に別に屋敷があるようだけど、折角だからと今回はわざわざこっちに顔を出してくれたみたい。家族は奥さん二人とルイアニアさんところとあまり年齢の変わらない娘さん二人、まだ赤ちゃんの息子一人という構成だった。
挨拶すると、最初に「いろいろとおもしろい話を聞いていますよ。」と言われてしまった。何を聞いているんだろう?ハルトニアさんは見た目ちょっと怖い印象だが、話してみるとルイアニアさんと変わらず親しみやすい人だった。この家の風潮なんだろうか?
剣士としての実力もあるみたいで、少し手合わせさせてもらうと、自分たちよりも上の実力を持っていた。良~優階位の冒険者と言うくらいなのかな?若いときは騎士として修行に明け暮れていたらしい。
子供達は最初かなり遠慮していたんだけど、おもちゃなどを出してあげるとかなり気に入ってまとわりついてくるようになった。やっぱりここの家族は選民思想がないので付き合いやすいよなあ。
このあといったんこの国の北部の遺跡に調査に行くつもりだ話すと、途中の町についてもおすすめの宿と紹介状を渡されてしまった。紹介状はうれしいんだけど、ラクマニア様級の紹介状だと過剰な接待になってしまうんだよなあ。
ルイアニアさんは北西方向にある港町ハイレニアのある領地にいるので戻る途中に寄って行ってもいいかもしれないね。ただ冬になる前には王都に戻ってくるようなので、その前に寄ることができればと言うところかな。
~スレンダSide~
久しぶりに楽しい二人がやって来て、ラクアもとても喜んでいたわ。ここのところ忙しくて大変だったようなので、かなり気分転換になったみたいね。この国ではあまりできないけれど、魔法のことが本当に好きなのね。
二人が来ていたことに気がつかずに返してしまったと聞いたとき、その係の者をかなりしかりつけていたんだけど、二人にたしなめられて処罰をやめるなんてどっちが年上なんだか・・・。
朝食の後もかなり名残惜しそうに仕事に出かけていく姿はちょっとおもしろかったわね。「ちゃんとお相手はしておくわよ。」と言ったらすごく悔しそうな顔をしていたのよね。二人の結婚式の時にジョニーファン様が魔法を披露したときと同じ顔をしていたわ。
息子のハルアもうまく付き合っているようで安心したわ。まあ大丈夫とは思っていたけど、やっぱり最初はちょっと気になったのよね。まああの子らしく、剣を交えてからはかなり空気も和らいだのよね。孫達もかなり気に入ったみたいだし。
だけど不思議な子達よね。ラクアも平民だからと言って下に見たりはしないのだけど、あの二人にはかなり敬意を払っている感じなのよね。やはりあの二人の知識の深さに驚いているのかしらね。
またこちらに戻ってくるようなことを言っていたけど、おそらくその頃には雪で動けなくなるからそのまま引き留められそうね。それはそれで楽しそうだわ。私もいろいろと連れて行ってあげないといけないわね。ジェニファーさんは音楽や踊りにも造詣が深そうだしね。
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ラクマニア様の家を出発してからまっすぐ北上する。さすがに主要街道と言うだけあってきちんと整備されているし、魔獣の姿もほとんどない。出てくるのは初階位レベルの魔獣くらいなので、車で通り過ぎていくことがほとんどだ。見かけたら討伐するのが義務なので魔法で攻撃していくこともあるけどね。
拠点に泊まりながら10日間車を走らせ、北部エリアの中心都市ハルマニアに到着する。さすがに中心都市といわれるだけあって人も多い。入口の混雑もすごいので貴族用の入口から中に入る。貴族用の出入口でも少し行列ができているくらいだからね。
ここから北にも大きな町はあるんだけど、さすがにこの時期にはもう移動が厳しくなってきているみたいだ。もちろんいけないことはないけど、雪で通れなくなることもしばしばあるらしい。
かなり環境も変わっているのでまずはここで少し滞在して周りの情報を集めることにしたほうがいいだろう。とりあえずラクマニア様に紹介してもらった宿へ向かうが・・・予想通りかなり高級そうなところだった。
「紹介状を出したらまた最上級の部屋とか案内されそうなんだよねえ。しかも無料で・・・。」
「ええ、そうでしょうね。」
「さすがにいつもいつも気が引けるから今回は別のところにしてもいいか?」
「イチがそう思うんならそれでいいんじゃない?それでも別に安宿に泊まるっていうわけでもないでしょ?」
「まあそれは最低限ちゃんとしたところに泊まるよ。」
さすがに自腹でこの宿に泊まるのはもったいないので前に冒険者から聞いておいたおすすめの宿に泊まることにした。建物もきちんと清掃されているし、部屋も必要最低限の物はある上、シャワーとかもついている。まあ平民用なので最初に行ったところと比べるまでもないが、1泊800ドールでこのくらいなら十分だろう。
夕食は宿の近くにある食堂で食べるが、やはり寒い地域になってくると、煮込み料理などの温かいものが名物となってくるようだ。あとお酒も度数の高い物が多くなってきているような気もする。ジェンは嬉々としてお酒を選んでいた。
夕食は宿に併設する食堂で食べたけど、普通においしかった。ここにいた冒険者と思われる人たちとも話をしたんだけど、やっぱり冬になると活動ができなくなるので動ける今のうちにできるだけ稼がなければならないとぼやいていた。ずっとこの辺りに住んでいるので寒くなったら南の方まで移動する考えはないようだ。
彼らは冬になるともともと生まれ育った地方の町に行っているみたい。その町の護衛にもなるし、日帰りでそこそこの魔獣を狩ることができるので十分らしい。
翌日は役場に行って依頼の確認をしてみたけど、特に目を引く依頼はなかった。受付に話をしてみると、討伐記録を見た後で提案があった。
「素材の確保のための討伐依頼が出ていますが、受けてみませんか?良階位上位の大白兎の毛皮が対象となるのですが、冬になる前にかなりの数の要望が出ているのです。毛皮の状態にもよりますが、普通のレベルでも2000ドール、状態が良ければ最高2500ドールと普段の買い取り価格よりも非常に高くなっています。」
確かに通常は1500ドール、店に出しても2000ドールは行かないはずなので買い取り価格はいいのかもしれない。ただこの魔獣を狩ったことはないはずだけど、なんで自分たちにこの話を提案してきたんだろう?
「大白兎は倒したことはないと思いますが、なぜ自分たちに依頼されるのですか?」
「ええ、通常は討伐実績を基準に依頼をするのですが、討伐実績に蹴兎と大蹴兎がありましたので提案させていただきました。
雪の中での戦いだと大白兎の方が危険度が高いと言われていますが、雪がない状態であれば蹴兎の方が素早く、討伐の危険性は高いと言われています。その蹴兎の討伐をされていますし、それよりも格段に討伐の難しい優階位の大蹴兎を狩られているので問題はないかと思いますよ。」
そういうことか。まあ、あれは魔道具を使ったからなんとか討伐できただけだけどね。でも蹴兎と同レベルなら何とかなるかな?まあ受けてみても損はないしね。
「いろいろと回っているところなので、この町に戻ってこれるか分からないのでちょっと厳しいかもしれません。」
「ああ、それでしたら大丈夫ですよ。討伐依頼はこの町だけでなく、大白兎を狩ることのできる北部エリア全体に出ていますので、納品はこの町でなくてもよろしいですよ。ただ正直な話をしますと、各支部の実績にもなるので、できればこの町に納めてほしいですけどね。」
そういうことなら断る理由もないな。数の指定もないので最悪1匹は狩ることができるだろう。
「分かりました。それでは受けさせてもらいます。」
このあと、置かれている資料を確認していく。この辺りにいる魔獣の特性はアルモニアと大きな差はないようだ。個体的にはこっちの方が若干身体が小さいようだけど、動きが素早いらしい。
今回行こうとしているトニア遺跡はすでに調査は終了しているところなので最低限の管理しかされていないみたいだ。春に大規模な魔獣退治が行われ、夏の間は現地で管理を行うけど、今の時期はすでに現地の管理は行われておらず、近くのトニアの町で入口の鍵を管理しているだけらしい。
そこの遺跡は多くの壁画が残っており、古代ライハンドリア語の解明が進んだせいで最近再調査が行われたらしく、いくつか論文も発表されていた。神話に関する内容が多いみたいなので、今回はその確認を兼ねての調査だ。
管理をしていた時期からすでに1ヶ月以上経って魔獣が増えている可能性があるのでしっかり対策しておかなければならない。まあ優階位の魔獣はいないと思うけど、良階位の魔獣はいる可能性はあるからね。
ここ最近はあまり使う機会がなかったけど、一応防寒着についても対策を考えている。魔道具である程度寒さの緩和はできるけど、やはりアンダーウェアのようなものは着たほうがいいからね。さすがにこの辺りの町だといろいろと売られているのでいくつか買い込んでおいた。
ちなみにマントは購入していたんだけど、最近はほとんどが町の中の変装用という使い方だ。町の中では護身用に鉄の短剣を身につけているけど、防具も結構いい物を着ているのでそれを隠すために使っている。
最初の頃は暑さと寒さ対策、雨対策、野宿の時の寝具代わりとかに使っていたんだけど、今は雨の日はあまり動かないことが多いし、収納バッグがあるから寝るときの防寒道具も十分、暑さや寒さ対策には魔道具がある、移動は車がほとんどということでなかなか出番がない。
たださすがに年数も経っていたのでこの際だと買い換えることにした。前よりも薄くて丈夫な素材のせいもあり、一つ15000ドールと結構な値段となってしまった。買ったマントには耐久性向上と重量軽減の魔符核を刻んでおいた。レベルは低い物だけど、それでもあるとなしでは重さとか耐久性が違うんだよね。
いろいろと買い物をしていると思ったよりも時間がかかってしまったので結局この町で2泊することになってしまった。翌日の朝早くに出発して西にある遺跡へと向かう。
車を走らせて3日目にトニアの町に到着する。役場に行って遺跡のことを確認すると、遺跡入口の鍵の解除方法について教えてくれた。調査許可証があれば入る許可はもらえるようだけど、遺跡の鍵は毎年変えられるので、入れるのは来年の春までらしい。
遺跡はここから3日ほど歩いた山の麓にあるようだけど、良階位くらいの魔獣が出るエリアになるので注意するように言われる。途中まで道はあるが、車で走れるようなところではないみたい。しかもしばらく使っていないのでどうなっているのかは分からないようだ。
距離を考えると自分たちの移動速度でも1日では着けない感じなので今日は町で泊まってから明日の朝一に出発した方が良さそうだ。
宿を確認していくが、あまりいいところがなかったので、貴族用の宿に泊まることにした。ちょっと割高だけど、安全や設備がいいところの方がいい。
このあとは役場で資料を見たり、適当に町をぶらついたりして夕食をとって眠りにつく。明日から拠点に泊まれるかどうかも分からないので今のうちにしっかりと休んでいた方がいいからね。
翌朝早めに出発する。道はかなりあれてきているけど、道路の体裁は残っているのでまだ走りやすい。それでも道幅は狭いので慎重に索敵しながらの移動となるのでそこまでペースを上げることができなかった。
お昼はサンドイッチくらいで簡単に済ませ、時間はまだ早かったが行程の三分の二くらい進んだところで拠点を出して泊まることにした。調べた感じだともう少し先に進むと良階位の魔獣が出てくるようなので、下手に良階位の魔獣が出るところまで行くよりも、ここで休憩を取って明日朝早く出発した方がいいだろう。
翌日早くに出発してしばらく行くと、良階位の魔獣の気配をとらえる。この辺りにでる良階位レベルの魔獣は白狼、大白兎、巨魔鹿だが、巨大蜘蛛や猛毒スライムなども油断すると不意打ちを食らうので気をつけなければならない。
今回最も気になるのは白狼だ。以前遺跡で襲われて死にそうになった魔獣だからね。
「ジェン、白狼がいるみたいだけど、大丈夫?」
「ええ、まだ対峙してみないと分からないけど、大丈夫だと思うわ。あのときより強くなっている自覚もあるし、似たような魔獣も倒しているからね。イチの方こそ大丈夫なの?」
「ああ、たぶんジェンと同じような気持ちだと思うよ。ただ完全に白狼に対する恐怖心を払拭するには一回倒さないとだめだと思ってる。」
「そうね。まずはいつものように倒して、大丈夫そうだったら私も前に出てやってみるわ。」
「わかった。まずは一番安全と思われる方法で討伐してみよう。」
やっぱりまだ白狼には苦手意識があるよなあ。死にそうになったんだからしょうがないけどね。でも気持ちを切り替えるためにも倒して前に進まないといけないな。
しばらく進んだところで白狼の姿を確認する。こっちが先に見つけることができたのでよかった。他の魔獣の場所も確認してからジェンと再度倒す方法を確認する。
まずは自分が魔法で攻撃を仕掛けたけど、予想通り避けられてこちらに襲いかかってきた。近づいてきたところで収納魔法から盾をだして左右に逃げられないように挟み込み、正面に水盾を出して勢いを止める。ここでジェンが雷魔法で攻撃し、動きを若干鈍らせることができた。雷魔法の効きは悪いが、水を浴びせた後だとそれなりに効果はあるからね。少しでも動きを遅くできるのはかなり大きい。
このあとは自分が前衛で剣で攻撃し、ジェンが後ろから魔法で攻撃する。さすがにオリハルコンの剣のせいか、剣の通りが良く、思った以上に早くととどめを刺すことができた。
前は全く速度についていけなかったけど、今なら雷魔法を使わなくても対応できそうだ。もしかしたら剣のみでも倒すことはできるかもしれないけど、素材の程度が悪くなるし、こちらの被害もそれなりに出るので余計なことはしたくないというのが本音だけどね。
このあとジェンも同じように対応して倒すことができたので苦手意識は払拭できたと考えていいだろう。ジェンも短剣の斬れにかなり驚いていた。やはり高レベルの魔獣だと武器の差がかなり分かるね。
大白兎も同じような感じで対応したので思ったよりも楽に倒すことができた。討伐依頼もあるのでこっちは索敵に引っかかった物はすべて倒していく。結構魔獣が多いのはあまり冒険者がこないせいなのかねえ?
昼過ぎには遺跡に到着し、鍵を開けて中を確認する。入口から確認した感じでは中にいるのは並階位レベルくらいまでのようだ。ただ遺跡の周辺には良階位の魔獣の気配を感じるので先に倒しておいた方がいいだろうな。索敵にかかる範囲で魔獣の討伐を終えて、遺跡の内部の魔獣も討伐する。
遺跡の大半は洞窟になっていて、すでに調査が何度も行われているせいか中には何も残っていない。ただ多くの部屋に壁画が描かれており、魔法で劣化を抑制しているようだった。
この日は遺跡の中の広いエリアに拠点を出し、倒した魔獣の解体をしてから夕食をとる。
「近くの魔獣はあらかた退治しているし、遺跡の中には並階位の魔獣しかいなかったので見張りはなくても大丈夫だよね?」
「ええ、良階位の魔獣が出たとしてもしばらくは耐えられるから不意打ちはないと思うわ。」
「まあ、装備は全部外せないけどね。」
やはり精神的には安心できなくて緊張はしていると思うし、装備も着けたままだけど、交代で見張りをするよりは休めるので見張りはなしにした。
翌日から朝と夕方に近くの魔獣を退治し、その間に遺跡の壁画の確認を行う。朝と夕方に退治しておけば寝ている間に沸く確率も低くなるからね。
最近文章が解明されて、神話の一部が見直されているけど、従来の神話を支持する反対勢力もあるみたいで、世間ではまだどっちが正しいのだろうという認識のようだ。
書かれているのは先代の神が加護をやめたのではなく、スキルの一部を奪ってからこの世界から去ったと言うことだった。傲慢な人間達への反省のために奪ったということで、文明の崩壊につながったために新しい神が再度スキルを与えたということだった。ただやはりスキルのレベルという概念がないのでそこについての解読ができないようだ。
原文を見てもそこまで詳しい内容が書かれているわけでもないからしょうがないだろう。そもそも解読も完全にできるようになっているわけでもないし、ここに描かれている壁画もなにを意図して書いたのかが分からないからね。
「やっぱり前の神がスキルを奪ったというのが正確なところなのかなあ?そして新しい神がスキルを戻したけど、いくつかのスキルのレベルに制約を設けたというところか。」
「ジョニーファン様でも自然科学のレベルが3までしか上がっていなかったくらいでしょ?こっちの世界の人はそれ以上は上がらないし、それ以上の知識は得られないような制約がかけられていると考えた方が自然ね。知識とスキルがどういう関係にあるのかはっきりとは分からないけど、スキルが上がらないとそれ以上知識が得られないという風になっているのかもしれないわ。」
「いくつかのスキルに制約を加えてしまえば、鑑定などの他のスキルもレベルがあがらなくなるからなあ。」
「そのせいで収納バッグも作れないし、転移魔法も使えないって言うところなのかな?」
「もし自分たちがこのことを言ってしまったり、今自分たちの知っている知識を伝えようとしてしまうと何かしらされてしまう可能性は否定できないね。この世界のことわりを壊してしまうのはまずいと思って制約をしておいてよかったかもしれないよ。特にこの世界では神罰があると言われているから正直怖すぎる。」
「本当にそうよね。まあ神罰がどこまで本当なのかは分からないけど、神様の存在がここまで近いと怖いわよね。それでもいろいろと知識は広めていると思うけど、このくらいならまだ大丈夫なのかな?実際に発明品で祝福ももらっているわよね。」
「そう思わないと怖くてこれ以上何もできないよ。
ただ当時の知識がなくなってしまったのは分かるけど、記録として残されたものがなくなっているのは何かあったのかな?それとも記録類はメモリーのような記録媒体になっていたせいで使えなくなってすべて失われたんだろうか?」
「それは分からないわね。紙の資料があったような跡はあったけど、単に年数的に残らなかった可能性もあるわね。紙を作る技術がなくなってしまって壁に書くようになったことも考えられるわ。錬金の技術もいったん失われたあとにまたできるようになってきたかもしれないしね。」
「こればっかりは新たな資料でも発見されない限りは分からないよなあ。」
遺跡の近くの魔獣の狩りに時間がとられたこともあって、遺跡の調査に6日ほどかかってしまったけど、いろいろと確認もできたのでよしとしよう。討伐依頼の出ていた大白兎も結構狩ることができたしね。
遺跡を出発してからいったんトニアの町に戻りって素材を納品してからハイレニア方面に向かう田舎道を進んでいく。車では走れなかったけど、討伐依頼のこともあるので林の中を突っ切っていった。おかげで結構な数の魔獣を狩ることができた。その分時間はかかったけどそれはそれでしょうがない。
林を抜けて大きな道に出た後は車に乗って港町ハイレニアへとやってきた。この町の周辺がルイアニアさんの治めている領地になるらしい。漁業が中心のようだけど、灌漑工事もちゃんとしているみたいで町の周りには広大な農地が広がっていた。まあ土木関係も魔法があるから力業でできるんだろうな。
町に入ってすぐに貴族エリアへと行き、そのまま領主の屋敷へとやってきた。ここの受付にも訪問客が結構いたんだが、ラクマニア様に紹介状を書いてもらっていたので、名前を確認するとすぐに案内してくれることになった。その対応のせいか、周りの視線がちょっと痛い・・・。
屋敷に入ると応接室に通されて、少しすると奥さんのタスマールさんと子供達のソラニアくんとクリスティファちゃんがやってきた。子供達は大分大きくなっていてちょっと驚いてしまった。
「タスマール様。近くに来る用事がありましたので寄らせてもらいました。歓迎していただいてありがとうございます。」
「お久しぶりね。元気そうで何よりだわ。わざわざ寄ってもらって悪かったわね。いつ来るのかいつ来るのかと子供達がずっと楽しみにしていたのよ。」
「「ジュンイチさん、ジェニファーさん、お久しぶりです。」」
「大きくなりましたね。お兄ちゃんとお姉ちゃんになったかな?ちょっとびっくりしましたよ。」
「ほんとにそうね。結婚式の時から比べてとても見違えたわ。」
「「ほんとに!!」」
お茶をいただきながら少し話していたんだが、子供達にせがまれて遊ぶことになった。ちなみにルイアニアさんは仕事で出かけているようだ。
「勉強とかはいいの?」
「うん、もうちゃんと今日の分は終わったし、二人が来たらその日は特別に遊んでいいと言われていたから大丈夫だよ。」
結局この日はかなり遅くまで庭で遊ぶことになってしまった。飛行魔法も使ったので結構疲れてしまったよ。
夜にルイアニアさんが戻ってきて一緒に食事をすることになったんだけど、あと10日もしないうちに王都に戻るらしく、折角なら一緒に戻ろうという話になってしまった。そしてそれまではここに泊まるように言われてしまう。さすがに断ることはできなかったよ。
貴族が町を移動する際、いくら自前の護衛を雇っていても、最低1パーティーの冒険者に護衛依頼を出すことになっているらしい。どうやら腕のいい冒険者の保護の意味があるようだ。
いつも同じところに護衛依頼を出しているみたいだけど、自分たちにも護衛依頼を出してくれるといわれて素直にお礼を言う。ただもともと依頼しているところには事前に挨拶はしておいた方がいいだろうな。
翌日役場に行って討伐依頼の報告を行う。事前に受けていた大白兎の素材の依頼だけど、まだ規定数には達していないようなので買い取りをお願いした。結局狩ることのできた大白兎は全部で38匹と多いか少ないか分からなかったんだけど、1日1~2匹狩れればいい方らしく、この数はかなり多いようだった。索敵能力の差だろうか?
素材である毛皮の状態がかなり良くて満額の支払いとなったため、1匹2500ドールの買い取りで全部で9万5千ドールとかなりの額になった。他にも白狼などの素材についても買い取ってもらったので久しぶりの大きな収入だ。
「ルイドルフ・ルイアニア爵から護衛依頼が出ていますが、ご存じでしょうか?」
「ああ、はい。いつもの護衛のパーティーに加えて自分たちにも護衛依頼を出すと聞いています。」
「承知しました。すでに話が通っていたようで安心しました。
あそこの家が複数のパーティーに護衛依頼を出すことは珍しいことなのですよ。もともとかなり実力のある護衛を雇っていますからね。特に盗賊や魔獣が出ているという話は聞いていないのですが、なにかご存じでしょうか?」
やっぱり通常頼むパーティーは決まっているみたいだな。たぶんいきなり護衛を追加されたはずなのでいい気分ではないだろうな。
「いえ、そのような話は聞いていませんね。自分たちもこのあと王都に戻る予定でしたので、折角だから護衛として同行することになったんですよ。」
「そ、そうなのですね。」
「一緒に行動するパーティーの方達は今はこの町にいらっしゃるのでしょうか?」
「この町を拠点にしているのですが、今は狩りに出ているので戻ってくるのはもう少し後になるかと思いますよ。護衛依頼はすでに受けていますので、遅くとも出発予定日の5日前には戻ってくるはずです。」
「分かりました。どうせなら出発前に一度顔合わせをしておきたいと思っていますので、もし不都合なければ連絡をお願いします。狩りに出る予定はないので、連絡をもらえればすぐに顔を出せると思います。」
「承知しました。その際にはまたご連絡いたします。」
「お願いします。」
折角なので港に行って魚を仕入れたり買い物したりしてから屋敷に戻る。ソラニアくんとクリスティファちゃんは今日は勉強や訓練をちゃんとやっているみたいで、4時から1時間だけは自分たちが相手をすることにしている。
翌日からは買い物に行ったり、図書館に行ったり、屋敷にある本を読ませてもらったり、護衛の人たちと一緒に鍛錬したりといろいろと忙しくしていた。
屋敷の人たちにはラクマニア様の知り合いのヤーマンとハクセン両国の下位爵と説明されているらしく、かなり丁寧な対応で正直困ってしまう。最初は護衛の人たちも気を遣っていたからなあ。そこそこ実力があると分かってからは、ちゃんと相手してもらうようになったけど、最初はけがをさせてはまずいという感じでかなり手を抜かれていたからね。
奥さんのタスマールさんとはお茶をしたりしているんだけど、ジェンはかなり気に入られたのか、一緒に買い物にも行っていた。もちろん二人だけではなく、護衛の人も一緒だけどね。
~ルイアニア護衛Side~
ラクマニア様の知り合いという方がルイアニア様の屋敷にやって来た。数年前にラクマニア様の屋敷にやって来たこともあり、二国で爵位相当となる褒章を受けているというかなり珍しい方だ。初めて二人に会った人はあまりに若い二人にかなり驚いているが、その気持ちは分かる。
私は同行していないが、ルイアニア様だけでなくラクマニア様もわざわざ二人の結婚式に参加されたと聞いてほんとうに驚いた。ラクマニア様が結婚式に参加されるのは王族や上位貴族くらいだったからだ。いくら二国の爵位を持っているとは言え、下位爵の二人の結婚式に参加するというのはよほどの関係と言うことだろう。
正直どういう態度をとっていいか分からないので接触はできるだけ持たないようにしようと思っていたのだが、訓練の相手をしてほしいと言われて焦ってしまった。もし相手にけがをさせてしまったらどうなるのか考えるだけでも怖い。ラクマニア様と懇意にしているという相手ならなおさらだ。
良階位の冒険者と言うことは聞いていたが、実力は思った以上に高かった。最初はかなり手を抜いて相手をしていたのだが、すぐに本気で相手しなければならないことになった。
特に防御について優れており、本気を出してもなかなか攻めきれないレベルだった。私より上の実力を持つ同僚もかなり驚いており、魔法の方が得意と言うことは魔法に関しては優階位のレベルがあるのではないかと噂している。
爵位を持っていると言うことでかなり気を遣っていたのだが、本人は爵位相当であくまで平民ですよとあっけらかんと言っていたこともあり、数日経った頃にはかなり溶け込んでいた。ジェニファー様はお酒が好きらしく、いろいろとお酒を秘蔵していたようで、おすすめというお酒を飲ませてもらってみんなかなり盛り上がっていた。
ジェニファー様は奥様とお出かけすることもあり、かなり仲良くされていた。奥様の表情を見てもかなりリラックスされているのが分かるくらいだ。娘のような妹のような扱いをしているのは正直言ってほほえましい。クリスティファお嬢様が大きくなったときはこういう風なことをしたいのかもしれないな。
~~~~~
役場から護衛に同行する白狼の牙パーティーが戻ってきたと連絡があり、明日の朝に時間をとれないかと打診されたので承知する。
翌日に朝食をとった後、役場に行くと、受付から白狼の牙のメンバーを紹介された。
「初めまして。今回急遽護衛として同行させていただくことになりましたアースのジュンイチです。隣がメンバーのジェニファーです。」
「初めまして。私が白狼の牙のリーダーのハルト、あとはカオリ、タツマ、マイル、リューカの5人メンバーだ。今回同行すると言われたのでこちらこそよろしく頼む。
いきなりですまないが手合わせしてもらってもいいか?特に何も起きないとは思うのだが、やはりお互いの力量はある程度把握しておかなければいざというときに困るからな。」
「ちょっと、ハルト!!」
「いや、実力も分からない状態で護衛をするというのは無理があるだろ?今までまったく面識もないからな。」
やっぱりいきなり護衛を追加されたので気になるのだろうな。
「確かにそうですね。それではお手合わせ願います。これでも一応あなた方と同じ良階位ですので手加減無用です。
ジェンも前衛として戦うことが出来ますのでそちらからも二人出してもらえますか?」
彼らは全員20代後半くらいかな?優階位にはなかなか上がれないので同じ良階位でも実力にはかなり幅があるとは思うけど、それでもそんなに劣っているわけではないと思う。
訓練場に移動し、練習用の装備を借りて対戦することになった。相手をするのは前衛らしいハルトさんとタツマさんの二人だ。体格的に自分がハルトさん、ジェンがタツマさんの相手をすることにした。ハルトさんはかなり大きいからね。
ハルトさんは片手剣と盾を使う自分と同じスタイルだ。剣さばきは鋭いが、動きが見えないわけではないのでなんとか捌くことが出来る。それに対人での戦いはあまりしたことがないのか、盾の使い方がちょっと甘い気がする。魔獣相手に腕を鍛えたのだろう。
そうはいっても勢いはすごいのでこちらからもなかなか攻撃出来ない。隙を突いて剣を繰り出すが、なかなかうまく当たらない。
お互いに有効打が出ないままやり合っていたんだけど、彼らの仲間から「これだけやれば十分だろう。」とストップがかかった。思ったよりも長い時間やり合っていたみたいだ。まあ負けはしなかったけど、判定だったら負けという感じかな?
ジェンも同じ時間耐えていたようだが、相手が片手剣と盾というスタイルでリーチの関係もあってほとんど防御に徹する形だったらしい。それでも決定打をもらわなかったようなので十分じゃないかな?
「私たちと違って対人相手にも訓練しているみたいだな。ただ、防御に比べて攻撃するときの動きが若干劣っているような感じがするんだが、これだと魔獣を倒すのにはちょっとつらいんじゃないか?」
ハルトさんは先ほどまでとはちょっと違って納得したような表情で言ってきた。
「いえ、攻撃は魔法も使っているのでそうでもありません。」
「魔法も使えるのか?もしかして二人とも?」
「ええ、どちらかというと魔法の方が得意なので・・・。剣での戦闘は魔法前提ですので守りを主体においています。」
「そういうことか。どおりで防御から攻撃に移る際の動きに違和感があったわけだ。これだけの技量があって魔法が得意というのであればかなりの実力だな。
すまなかった。正直なことをいうと、良階位と言っても実力は疑っていたんだよ。本当かどうかは分からないが、貴族とつながりがあると若干融通してくれるという話を聞いたことがあったからな。」
「自分たちはヤーマンで昇格試験を受けましたからそれはないと思いますよ。そもそも貴族だから融通されるというのは昔のサビオニアくらいじゃないですかね?当時は平民だと実力があっても良階位以上に上がれないと言っていましたからね。」
「サビオニアまで行ったことがあるのか!?それはすごいな。若く見えるけど本当はもっと年上なのか?」
「いえ、よく言われますが、自分もジェンも21歳ですよ。機会に恵まれていろいろと行くことが出来たのです。ハクセンに来るのも2回目ですからね。
今回ももともと護衛する予定はなかったのですが、ルイアニア様達と一緒に王都に向かうことになって、どうせ同行するならと護衛依頼を出してくれたのです。ですからルイアニア様からもあなたたちに不満があるわけではなく、信頼の置けるパーティーだと言うことを聞いていますよ。」
「それはありがたいことだな。しかし、ルイアニア様と同行するように言われるとはすごいな。」
「以前ハクセンに来たときにいろいろとあって知り合うことが出来たんです。正直なところただの平民の自分がいいのだろうかと思うことは多いですけどね。」
他のメンバーも交えて話をする。女性のカオリさんはクロスボウを使った遠距離攻撃と罠解除などの支援、男性のマイルさんは攻撃魔法、女性のリューカさんは攻撃魔法と治癒魔法を使うみたいだ。ちなみに5人ともに結婚していて、マイルさんとリューカさんは夫婦らしい。他の3人の相手は冒険者ではないようだ。
「あれ?そのクロスボウですけど、最近購入されました?」
なんか見覚えのあるクロスボウだったので気になって聞いてみた。
「え、ええ。どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと見せていただくことはできますか?」
「少しなら。でもかなり貴重な物なので取り扱いには注意してくださいね。」
確認してみると、やっぱりあのとき売ったクロスボウのようだ。ジェンも同じ事を言っている。
「どうかされたのですか?」
「いえ、3年ほど前に自分たちが手放したものに似ていたのでちょっと懐かしいなと思っていたんです。運良く手に入れたんですけど、魔法が使えたこともあって結局使わなくて、ハルストニアの武器屋で買い取ってもらったんです。あのときは壊れていたのですが、いい物なので本当に売っていいのかと念押しされたんです。」
「たしかに買ったのはハルストニアだったわね。ここで逃したらもう二度と手に入れられない一品と言われたのよ。それで無理して買ったのよね。」
「いい人に買われてもらったようで良かったです。使わないまま眠らせておくにはもったいないものでしたからね。」
折角なのでクロスボウの腕前を見せてもらったが、さすがに精度が高い。説明では矢の威力を向上させる効果と書かれていたんだけど、威力はかなり落ちるが矢を使わなくても魔力を少し込めると矢のような物が打ち出せる仕様だったらしい。かなりの一品だったようだけど、そんな物がのみの市で投げ売りされていたとは、のみの市侮れないな。
それから5日ほどしてから王都に向けて出発することになった。よく聞く話だけど、貴族は途中の町にはある程度寄っていかないといけないらしく、自分たちのペースで走れば5日くらいで到着できそうなところなんだけど、10日くらいかけて移動するようだ。まあたまにはこういうのもいいかな。
ルイアニアさんの家族は大きめの車一台にのり、護衛などが4台に分乗してその前後を、そして白狼の牙が先頭を走り、自分たちが最後尾を走るという布陣となった。
基本的に移動中の護衛対応は雇われた冒険者が行うことになっており、よほどでなければ専属の護衛たちは手を出さない。野営がある場合は見張りは冒険者のみで行うようだ。
そうはいっても、そもそもこの国で貴族にちょっかいを出そうとする盗賊はいないし、今回のルートではそうそう強い魔獣が出ることもないみたいだけどね。
今回の宿泊はすべて町の宿なので野営の必要はないのはうれしいね。一日の行程は200メヤルドと自分たちが走る距離の半分くらいで、走るペースも遅いし、走る時間も短いので仕方がないだろう。
途中の町では一番いい宿に泊まるんだけど、自分たちも一緒の宿にされてしまった。普通、雇われた冒険者はランクの落ちる宿に泊まるものだし、まして食事を一緒にすることはない。ハルトさん達は最初かなり驚いていたもんなあ。
食事の時には町の長官達も同席するんだが、自分たちは何者なのか?という目で見てくるんだよなあ。まあそれはそうだろうね。ただ他の家族の態度を見て変なことは言えないと悟っていたけど。
さすがに大きな街道だったので特に事件もなく、予定通り10日間で王都のハルストニアに到着する。途中出てきたのは並階位くらいの魔獣くらいだったからね。
~ハルトSide~
護衛の任務のために、いつもよりも遠征期間を短くしてハイレニアの町に戻ってきた。ここ数年間ずっと依頼を任されていたルイアニア様の護衛だったが、今回は追加で他の冒険者が護衛に付くという話を聞いた。どういうことなのか?それも私たちが依頼を受けた後で追加で言われたので余計に気分が悪かった。
もともとこの町と王都の移動は正直出番がないくらい安全だ。その上自前の護衛も同行するため冒険者の護衛は形式上であり、実力がそれほどいるわけでもない。ただし護衛を受けるにはそれなりの実力を貴族の護衛に示さなければならないはずだ。
今回は護衛を変更するための布石なのかと思ってしまった。護衛による報酬や実績ポイントはやはり大きいからな。
本人達に会って話を聞くと、あくまでルイアニア様の知り合いと言うことで護衛を依頼されたようだった。そもそもヤーマンの冒険者だった。
実力を確認させてもらったが、良階位に違わぬ実力を持っていた。魔法の腕前については確認できなかったが、剣よりも得意と言っていることからも相応の腕前だと予想できる。二人だけのパーティーなのでもしかしたら治癒魔法も少し使えるかもしれないな。
二人と会った後で受付のユーミンから話を聞いてちょっと焦ってしまった。どうやらヤーマンだけでなくここハクセンでも爵位相当の褒章を受けていると聞いたからだ。場合によっては不敬罪が適用されていたかもしれない。
そして移動が始まった後、驚いたのはルイアニア様達の態度だった。知り合いとは聞いていたが、扱いがそのレベルを超えていたからだ。二人はルイアニア様の家族と一緒の宿に泊まり、食事も一緒にしているのだ。しかも家族全員が普通に慕っている。ルイアニア様だけでなく、奥様のタスマール様、そして子供達もだ。タスマール様はジェニファーさんを妹や娘のように扱っているように見える。
そのくせ私たちにも年上といって敬語で接してくる。時間があるときには一緒に訓練をしたりもするし、正直どう対応していいのか分からないくらいだ。本人達は爵位相当を持っているけど平民ですからといっているので正直困ってしまう。
そして衝撃だったのは護衛の人たちから聞いた話だった。「ルイアニア様ではなく、ラクマニア様がお客様として対応するほどの人物だから対応には注意した方がいい。」と言われたときは本気で焦ってしまった。ただこのことは決して口外しないように念を押されてしまった。
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