【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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104. 異世界2334日目 不穏な噂

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104. 異世界2334日目 不穏な噂
 いろいろと情報を集めて動き回っていたんだけど、ある日朝早くにフロントから連絡が入った。ロビーへと行くとクリスさんがやって来ていたんだけど、今回は珍しくクリスさんだけだった。

「クリスさん?おはようございます。クリスさん一人というのは珍しいですね。」

 護衛は付いているようだけど、今日はスレインさん達が一緒じゃない。

「ああ、今日は遊びに来たというわけではないからな。部屋を取ってもらっているのでそっちで話をさせてもらってもいいか?」

「ええ、大丈夫ですよ。一応防音結界をしますね。」

「ああ、助かる。」

 ちょっと深刻そうな顔をしているようなので、なにかまずいことでも起きたのだろうか?護衛の人たちは入口で待機するようなので、中に入ったところで音が漏れないように風魔法をかける。

「実は今回は王宮からの使いで来たんだ。ここで詳細を話すことは出来ないが、古代文明の遺跡に関して会議が行われることになっている。そこで古代遺跡について造詣の深い二人の名前が挙がっているんだ。
 急な話だが、明日の朝に王宮で行われる会議に参加してほしい。会議は非公開で行われるため、今回こういう形で参加を求めることになった。もちろん会議のことについては口外しないことが条件になる。」

「よほどの事なんですね。分かりました。どこまで知識が役に立つか分かりませんが、参加させていただきます。」

「助かるよ。父上も二人に期待しているようだからな。

 申し訳ないが、他にも回るところがあるので失礼するよ。」

 クリスさんは他にも行かないといけないみたいですぐに出て行った。部屋に戻ってからジェンと話をする。

「非公開の会議で話があるってどうしたのかしらね?古代文明とか遺跡の造詣が深いと言うことで選ばれたみたいだけど、なにか変なものでも見つかったのかしら?」

「まさか王家の遺跡の古代兵器とかが復活したとかじゃないよね?国王陛下もあそこまではっきりと手を出さないと断言していたし、簡単にあの封印を解いて中に入れる人がいるとも思えないしね。」

「行ってみないと分からないけど、とりあえず遺跡の調査資料をすぐにでも出せるようにまとめておきましょう。」

 遺跡で撮影した資料や回収した資料を改めて整理する。特に島の遺跡で見つかった資料には古代兵器に関する内容がかなり含まれているからね。正直言ってこんな資料は無駄になった方がいいと思うけど、もしもの時のことは考えておかないといけないからなあ。



 翌朝、迎えに来た車に乗って王宮に向かうけど、入ったのは正門ではなく裏口の方だった。やはり非公開の会議と言うことなんだろう。
 案内された部屋に入ると、一斉にこっちをにらまれてしまった。見たことのない顔ばかりだけど、結構年配の人が多い。格好から見て学者という感じだろうか?

「あの二人は何者だ?」

「なんであんな若造が呼ばれているんだ?」

 なんかひそひそと話をしているが、聞こえているよ。まあ結構権威のある学者達みたいなので、自分たちのような若い人間が来ているのが我慢ならないのかもしれないな。


 自分たちが到着して少しすると、何人かがまとめて入ってきた。見たことのある大臣もいたので国の役人関係なんだろう。そのあと国王陛下がやって来たところで、進行役の人から説明が始まった。

「今回、急な招集にもかかわらず、また詳細を説明出来なかったにも関わらず、参加してくださりありがとうございます。今回ここに集まっていただいたのはサクラに滞在する中で魔獣や古代遺跡や古代文明について造詣が深い方々です。
 事前にも説明し、書類にサインもいただきましたが、このあと説明する内容は口外しないと言うことをかならず守っていただきますようにお願いします。もし口外したことが分かった場合は申し訳ありませんが、厳正な処罰を下さざるを得ないとご理解ください。」

 機密に関する内容について再度確認をとられ、説明が始まった。

「今回の会議のきっかけはトウセイ大陸のアウトラス帝国からの依頼によるものです。」

 トウセイ大陸からの依頼なのか。ちょうどいろいろと情報を集めていたいところだからまだ理解しやすい。簡単にトウセイ大陸の状況についての説明があった。

 トウセイ大陸はもともといくつかの国に分かれていたが、80年ほど前にそのうちの一国だったアウトラス帝国が大陸を統一した。しかし統一して10年ほどした頃に、キクライ大陸のルトラ帝国に攻め込まれ、長い戦争が続いた。そして50年ほど前に和平条約が締結され、それ以降は大きな戦闘は起きていない。
 統一戦争の傷跡も完全に復興しないままで疲弊したアウトラス帝国と、キクライ大陸での戦争のために戦線の維持が厳しくなってきたルトラ帝国の思惑が一致した中での和平と言われている。
 またルトラ帝国が占領していた地域がもともとルトラ帝国と仲の良かった国が支配するエリアだったこともあり、国境の設置がスムーズに決まったことも影響しているようだ。

 戦後、両国の間には直接的な国交はなかったが、20年ほど前から徐々に解禁され、限定的ではあるが人の行き来も増えてきているらしい。

「今回の依頼というのはアウトラス帝国の南部に出現した強力な魔獣についてのことです。まだ詳細は分かっていませんが、すでにいくつかの町や村が壊滅したと聞いています。なお、被害はアウトラス帝国だけでなく、ルトラ帝国にも及んでいるという話です。

 アウトラス帝国とルトラ帝国で情報交換が行われ、討伐隊が組織されたようですが、結果的には失敗したようです。
 魔獣の詳細についてはまだ明確には分かっていませんが、魔法は効かず、装甲もかなり堅くてオリハルコンの武器でないと傷つけることが出来なかったと聞いています。」

 一通りの説明が終わった後、一人の研究者が声を上げた。

「あの、強力な魔獣が現れたというのは分かりましたが、なぜ古代遺跡や古代文明に詳しいメンバーが集められたのでしょうか?私は残念ながら魔獣についてはあまり詳しくないのです。」

 たしかにこれは自分も変に思う。魔獣の事を確認したいのであれは自分も含めて呼ばれる意味が無いからだ。研究者だけでなく、経験豊富な冒険者が呼ばれていてもいいはずだ。

「それには理由があります。今回討伐に参加した人間や逃げてきた人たちから、あの魔獣は古代文明を滅ぼした古代兵器ではないか?という話が出ているのです。おそらく壁画などに残っている姿から連想されたのだと思われます。」

 古代兵器?それだったら分かるけど、古代兵器が復活したって言うのか?

「そしてこれは遠景から撮影されたものを拡大したものと、実際に見た人たちからの話を元に描かれたものですが、これを見てなにか分かることはありませんか?」

 魔獣の写っている写真と絵と簡単な説明が書かれた紙が配られる。そして壁にその写真を拡大した物が投影された。確認してみると、蜘蛛のような形をした魔獣の姿が映っていた。

「たしかに金属蜘蛛などに形は似ているが、ちょっと違うな?蜘蛛の魔獣の上に人のようなものが乗っているのか?比較として描かれている絵から考えると成人男性よりもかなり身長が高いという理解でいいのか?」

「たしかどこかの遺跡の壁画で似たような姿を見たことがあるが、あれは蜘蛛の上の部分がこんな形じゃなかったと記憶している。」

「大陸が異なれば古代兵器の種類も違う可能性はあるが、全く同じものは見たことがないな。」

 いろいろと意見を言っているが、はっきりと明言する人はいない。


「ジェン、遺跡の島の資料にこんな形の絵がなかったか?」

「ちょっとまってね。」

 印刷しておいた壁画の資料を見ていく。あった・・・。

「発言よろしいでしょうか?」

 まわりから注目を浴びるが、かまっていられない。

「以前調査した古代遺跡に描かれていた壁画を撮影したものがありますが、こちらを見ていただけますか?」

 そう言って壁画に描かれていた兵器の絵を投影してもらう。

「こ、これは・・・。」

 その写真を見た人たちの顔色が変わる。

「確信はありませんが、この古代兵器ではないかと思います。足の数は10本、蜘蛛のような形態の上に人間の上半身のようなものが付いています。遺跡の資料の大きさはわかりませんが、形状は一致しているとみていいかと思います。」

「た、たしかに、可能性はかなり高いな。」

「そして最近解明された古代ライハンドリアの言葉で書かれていた中に、このような記述がありました。もちろん完全に解読されたわけではありませんが、大筋は間違っていないと思います。
 『古代兵器にはオリハルコン100%の物質が使われている』という記述です。現代のオリハルコンはミスリルとの合金となりますので、オリハルコン100%で製作されたとなるとその性能差は大きいと思います。これは古代の遺物で発見された武器を考えれば分かると思います。
 さらにこの装甲であれば魔法も効きにくいことも当てはまります。本体の強さは分かりませんが、武器でも魔法でもなかなか傷つけにくい装甲のせいで討伐に失敗した可能性があります。」

「つまり現代の装備では倒せないと言うことなのか?」

「オリハルコンは貴重な金属です。いくら何でも兵器すべてに使われているとは思えません。おそらく部分的に使われているだけだと思いますが、正直なところそこは分かりませんね。
 オリハルコンが使われていない部分があればそこを攻撃すればいいですし、この古代兵器の強さがどの程度かにもよりますが、実力者が集まれば押さえ込めるのでは無いかと思います。ただ現時点では魔獣の強さなど分からない事が多いのでこれ以上は判断できないですね。

 古代兵器ということであれば、兵器の動力となるエネルギー源がある可能性もあります。それを壊すことが出来れば止めることが出来るかもしれませんね。ただ・・・、いえ。説明は以上です。」


 このあといろいろと意見が出たが、自分が提示した意見を支持する人が大半だった。ただ参加していた年配の数人は頑なに反論していたけどね。まあなんの代案もないので反論というよりただの文句というかいちゃもんを付けているだけにしか見えなかったけどね。

 根拠となった資料を見せたんだけど、全く理解できなかったのにはちょっと驚いた。古代ライハンドリア語の解読方法が発表されてからかなり経つのに全く読めなかったからね。

「古代文明の文字はまだ解読されていないだろう!勝手な解釈をしてもらっても困るぞ!!」とか言われたときにはどうしようかと思ったもんなあ。理解している人たちは笑いをこらえるのが大変そうだった。

 すでに古代ライハン語の解読方法が論文で発表されてからすでに3年以上経っていることや、古代文明の調査を行っている人たちの中では解読できることはすでに共通認識であることを説明したら「そんなわけないだろう!!」とか言ってきたからね。
 周りの失笑を受けて最後は国王陛下が自分の言うことに賛同したため、青ざめていた。正直言って最近の研究内容を全く理解していないことのほうが驚きだ。言うこともかなり古い内容だったからなあ。こんな人が研究の上の方だとしたら何も進まないよな。

 現段階では出現した魔獣は古代兵器の可能性が高いが、これ以上のことについては現段階では説明できないだろうと言うことでまた情報が入り次第打ち合わせることとなった。


 会議が終わった後、自分とジェンは別の部屋に呼ばれる。部屋には国王陛下の他に数名の役人が座っていた。国王陛下の隣に座っている大臣と思われる一人が話し出した。

「すまなかったな。古代文明研究所の所長があのような人物で驚いただろう。私もあそこまでひどいとは思ってみなかったのだがな・・・。今回のことであそこは大幅に改革が進むだろう。」

「正直言って驚きました。古代ライハン語の解読のことを全く知らないとは・・・。」

 少し愚痴を言わせてもらった後、国王陛下から発言があった。

「あの場では核心部分には触れないようにしていたように思えたが、なにか分かることがあるのか?」

「はい。ただ現時点では詳細な情報が無いのでそこまで言っていいのか分かりませんでしたのであの場では意見は控えさせてもらいました。あと、そのことについてお願いしたいこともありましたのでちょうど良かったです。

 今からお話しするのは今回出現した魔獣が古代兵器という前提での話となります。また実際の強さについても分かりませんので倒せるかどうかの判断はどのような討伐をして失敗したのかが分からないと無理ですね。」

「その件については現在別にすすめていることがあるので大丈夫だろう。」

「先ほどの打ち合わせでは説明していませんが、古代遺跡で古代兵器についてもいろいろと調べてみましたので、あくまで仮定の一つとしてお聞きください。

 通常の魔獣はいくら強い魔獣でも数の力で倒すことが出来ます。徐々にダメージを蓄積していけるからです。タイガ国にいる神獣といわれる竜は別扱いだとは思いますが・・・。
 ただし古代兵器は疲れることがないようなのです。兵器の一部を壊すことが出来れば戦闘力を下げることは出来ると思いますが、無限の体力があると考えた方が良いです。
 そして先ほど話したようにオリハルコンがかなりの部分で使われているとなると、現代のオリハルコンの合金では刃が立たないでしょう。古代の遺物でオリハルコン製の武器があることは知っていますが、もしそれを使ったとして、果たして使い慣れない武器を使って通常通り戦闘が出来るかは疑問です。

 古代文明も古代兵器を倒すことが出来ずに多くの文明が失われたようです。最終的に古代兵器がどのようにして倒されたのかは分かっていません。資料はありましたが、その結果について書かれたものは見つかりませんでしたので。

 遺跡の中で見つかった資料に古代兵器について書かれているところがありました。そこには古代兵器を動かすための核があることが書かれています。この核部分が兵器のエネルギーになっており、これを破壊できれば動かなくなるようです。
 もちろん核部分は兵器の中に収められていますので、簡単に破壊できるものではありませんが、もしこれを破壊できれば古代兵器を停止することが出来るのではないかと思います。」

 自分の説明を聞いてみんな黙り込んでしまった。

「そこには取り外し方などは書かれていなかったのか?」

「資料によると取り外しは難しいようです。また兵器によって異なっているみたいですので、今回現れた兵器のどこにその核が配置されているかは正直分かりかねます。

 そこでもし許可がもらえるのであれば王家の遺跡を調査させてもらえないかと思っています。もしかしたら倒すヒントがあるかもしれません。」

 国王陛下はしばらく考え込んだ後、覚悟を決めたような表情になって言ってきた。

「わかった。古代兵器の調査許可を出すことにしよう。メンバーは前と同じく王家の剣とクリスに行かせよう。」

「ありがとうございます。」



 翌日にはすぐにメンバーを招集してくれて王家の遺跡に向かうことになった。出発前に実力の確認のために簡単に王家の剣の人たちと手合わせをしたんだけど、かなり褒めてもらえてちょっとうれしかった。

「まさかこの短期間でここまで実力が上がっているとは驚きだ。しかも魔法の方が得意というのにこのレベルなんだろ?」

「そうね。前から実力はかなりあるとは思っていましたが、以前よりも格段に上がっていますね。しかもあの突撃は目を見張るものがありますよ。警戒していたから対応が出来ましたが、少しでも油断していたらやられていたかもしれませんね。」

 折角の必殺技だったんだけど、防がれてしまったのはちょっと悔しかったが、かなり褒めてもらえたのは良かった。

「二人ともそんな隠し技を持っていたのか。すごいな。」

 クリスさんがちょっとうらやましそうに言ってきた。

「必殺技っていうわけじゃないですけど、やっぱりこういう特別なものってほしいじゃないですか。」

「まあちょっとあこがれるものではあるな。」

「でしょ?なのでいろいろと試して突撃について研磨していったんですよ。防御を考えない捨て身だったらもう少し速度も上げられますよ。」

「切り札か・・・。でも使いたくはないものだな。」

「ええ、それを使わないといけない場面には遭遇したくないですよ。」



 王家の遺跡に到着してから遺跡の内部に入り、地下遺跡の入口のある場所へと向かう。

「ここに来るのも久しぶりだな。あの時からもう3年以上経っているんだな。」

「そうですね。あのときはほんとにどうなるかと思いましたよ。」

「みんなが助けに来てくれたからこそ今の私があるのだからな。いくら感謝してもしたりないよ。」

 入口は岩や土で封鎖しているので土を取り除いていかなければならない。まあ今回は大きめの収納バッグを準備してくれていたので、前よりは楽だった。ほんとは収納魔法でも十分なんだが、あまり容量をおおっぴらにするわけにもいかないからね。
 そうは言っても思ったよりも時間がかかってしまったので、遺跡の入口が見えてきたところでいったん外に出て、休んで行くことにした。きっちり休息をとって、明日の朝から調査をした方がいいからね。外だったら基本的に奇襲を受けることもないはずだ。

「やっぱりこの拠点はいいわねえ。最近はあまり野宿することはないけど、ほんとに宿に泊まるのと差が無いわよね。」

 久しぶりに泊まる自分たちの拠点に感激しているようだ。

「今回は人数も多いので少し小さいですが人数分のベッドを持ち込んでいます。狭くなりますが、部屋も区切っていますので、部屋割りは夫婦で3部屋とクリスさんでよろしいですか?」

 一応防音機能は付けているが、まあこんなところで励むような愚行は犯さないだろう。

「ああ、それでかまわない。」

 このあと収納していたいろいろなお弁当や料理を温めてから皿に盛りつけて食事にする。やはり電子レンジがあると便利だ。

「さすがにお酒は出せませんが、食事内容は豪華にしました。」

「「「「「おお~~~!!」」」」」

「へたな食堂よりも豪華じゃないか。」

「買ってきたものを温め直しただけですよ。さすがに一から作るまでは手間をかけられませんから。」

 食事をとった後はそうそうに眠りについた。魔獣よけの魔道具もあるし、もしもの時は警報も出るので見張りは立てなかったけど、最低限の装備は身につけていないといけないのはしょうがない。



 翌朝も温めたお弁当で簡単に済ませてから準備に取りかかる。

「ジュンイチ達の武器はもしかしてオリハルコン製なのか?」

 装備を変更したのをみてランドリアさんが聞いてきた。

「ええ、ハクセンに行ったときに修行させてもらった鍛冶屋で作ってもらったんです。ナンホウ大陸に行ったときに遺跡を発見して材料は手に入れていたのでかなり安くしてもらえたんですよ。ただ普段から装備していると目立ってしまうのでいつもは別のものを使っています。」

「ちょっと見せてもらってもいいか?」

 そういわれたので剣を渡す。

「もしかしてハルマの鍛冶屋製のものか?」

「ええ、そうですけど・・・、ご存じなんですか?」

 まさかハルマの鍛冶屋を知っているとは驚きだ。

「ハクセンからやってくる使節団に随行する護衛達から聞いたんだがな。最近になって使い出した鍛冶屋と聞いている。」

 鍛冶屋でラクマニア様の護衛できていたマイルスさんの話をすると、ちょっと驚いていた。

「もともとはジュンイチ達が見つけた鍛冶屋だったのか。」

「いろいろと店を見て回っていたら偶然見つけたんです。冒険者の間では有名になり始めていたので、いずれは有名になっていたとは思いますけどね。そのときにお願いして店で働かせてもらったおかげで鍛冶のレベルも結構上がりましたよ。」

「鍛冶もやっているのか?」

「ええ、鋼の装備までならちゃんと整備も出来ますし、ミスリルでも簡単であれば整備できますよ。まあ、そうはいってもさすがに定期的にちゃんとしたところに整備に出していますけどね。」

 ヤーマンまで知られているって聞いたらハルマさんはどう思うかなあ。


 いろいろと話しながら通路を進み、ドアのところまでやって来た。こっちからは魔物の気配を感じることができないので、もし魔獣が出てきたときのことを考えて配置をしてからクリスさんに扉の封印を解除してもらう。
 扉を開けても、いきなり魔獣が襲ってくることはなかった。内部は前に来たときと特に変わった様子はない。ここから少し北上したら古代兵器があるところに行くはずだ。

 遺跡内には良階位や優階位の魔獣もいるけど、退治が目的ではないので出来るだけ戦闘はしないように進んでいく。魔獣に気づかれたら襲ってくるけど、先に魔獣の位置さえ把握していれば大丈夫だろう。
 隠密のスキルを使っている魔獣もいるので気をつけなければならないけど、索敵のスキルも上がっているので不意打ちはなさそうだ。まあ索敵があっても完璧じゃないけどね。

 先頭は王家の剣の前衛のランドリアさんと弓のデルミストさん、その後にクリスさんと魔法使いのマルニキアさん、その後ろに自分たちで、しんがりにはミスカルトさんという布陣で進む。索敵能力はデルミストさんと自分たちの能力が高いのでこれで前後左右の警戒を行う。
 魔獣が近づいてくると、布陣を決めて交代で倒していく。思ったよりも実力は上がっているみたいけどが、やはりかなりそこまで余裕がないというのは仕方が無いところだ。まあ武器の恩恵も大きいけどね。


 しばらく歩いてから古代兵器を封印したという建物までやって来た。入口にはここに入るときと同じように王家の血で封印されていたのでクリスさんに解除してもらう。建物の中には魔物の気配はないので大丈夫のようだ。
 中には通路が続いており、慎重に進んでいくが途中で罠が仕掛けられていた。床を踏むと穴から何かが飛んで来るというものだ。おそらく毒液とかじゃないかと思われる。その罠が一定おきにあるだけなのでそこまで危ないことはない。途中に魔獣石が転がっているので罠にかかった魔獣がいたのかもしれない。
 しばらく通路を進むと、その奥が広い部屋になっていた。その部屋の中央に古代兵器と思われる物体が鎮座している。

「これが古代兵器か?」

 そこにあったのは今回現れたという古代兵器とは異なるが、似ていると言ってもいいのかもしれない。4本足の蜘蛛の様な形で背中に出っ張りがあり、そこには腕のような刃が4本ついていた。この部分で攻撃するのかな?

 動きださないか心配したんだけど、完全に機能が失われているようだ。某アニメみたいに動かないものが呪文で動き出すというのはやめてよね。

「調査を行いますので、申し訳ありませんが辺りの警戒をお願いします。」

 他の5人には辺りを警戒しながら待機してもらい、ジェンと二人で調査を開始する。


 年月は経っているけど、まだそこまで朽ちている印象はない。しかしよく見てみると、さびのようなものが出てきているところがある。オリハルコンやミスリルであればさびは出てこないはずなので普通の金属も使われているのだろう。
 鑑定と錬金を使って確認していくと、使われている金属はオリハルコン、ミスリル、鉄が使われていた。純粋にオリハルコンの部分、ミスリルの部分、ミスリルと鉄の合金の部分となっている。やはりすべての部分を希少な金属で作ることは出来なかったと言うことだろう。

 錬金での解体が出来ないのでおそらくどこかに付与魔法が施されているのだろう。いったん解体してから付与魔法を取り除かないと無理だろうな。そうは言ってもどうやって解体していけばいいのかもよく分からないからなあ。
 完全には分からないけど、足などの主要部分は外骨格という感じで表層部分がオリハルコンで覆われているようだ。この厚さだったらオリハルコンの合金でもなんとかなるかもしれない。まあある程度の腕がいるだろうけどね。
 上半身の刃はオリハルコンで出来ているみたいで、かなり堅そうだ。これは今の武器だと破壊することは出来ないだろうし、まともに受けたらこっちの装備が壊れてしまうだろう。この部分をどう押さえるかがネックになりそうだ。

 あとは本命の核の部分だけど・・・ここかな?わかりにくくなっているけど、背中の突起の脇の部分に四角く線が入っているのを見つけた。どうやらハッチのようになっているみたいで、その隙間に金属が埋め込まれているようだ。
 本体はミスリルだけど、埋め込まれていたのはミスリルと銅の合金で少しさびがでているのでまだわかりやすかったよ。もともとは塗装とかもあったと思うのでどこにあるのかはぱっと見では分からなかったんじゃないだろうか?
 今回現れた古代兵器はどんな状態なんだろうか?若干形が異なるとは言え、基幹システムは同じようなものであれば位置がそこまでは違わないと思う。というかそうでないと見つけるのはかなり厳しくないか?

 取り除ける金属部分を錬金で取り除くと手で開けられるように引っかけるところが出てきたのでそこを引っ張るとハッチが開いた。埋め込んでいる金属は特に加工を阻害するようにはなっていないようだ。わざわざ開けるようになっているんだから、それが取り除けなかったら意味が無いからな。
 ただ研究資料を見るとこの金属が個体によって異なるというのが問題なんだよね。鑑定が出来ればいいけど、今の人たちだと何の金属か分からないから錬金でも取り除くことが出来ないんじゃないだろうか?錬金の金属を集める方法が手に持った金属と同じものを集めるという形だからね。

 ハッチの中は玉がセットされていた。今回現れた古代兵器が同じか分からないけど、古代遺跡の調査にも書かれていたのでおそらくどの兵器にもある程度共通すると考えていいだろう。
 ただ問題はこの核となる部分を取り外すことが出来るかどうかだな。資料を見る限り、起動中は簡単には取り外すことが出来ないので破壊するしかないとなっていたんだよね。玉はしっかりとオリハルコンの台座に固定されているしね。
 玉を鑑定してみると詳細を見ることが出来た。

名称:古代兵器の核
詳細:魔素を貯めた玉。魔獣石を加工して作成されたもので、魔素を貯めることができる。壊れているため魔素の合成は出来ない。
品質:良
耐久性:高
効果:高
効力:魔素合成、魔素放出

 遺跡の資料にあったとおりだな。魔獣石を加工して魔獣石の性質を持ったままの玉だ。これは運悪くて壊れてしまったせいで兵器が動かなかったと言うことだろうか?

 そして魔獣石から加工されたと言うことは・・・普通では破壊できないと言うことだ。それ以前に魔獣石を加工できたのか。
 魔獣石は変形させることも、壊すことも出来ない。分解していくと1ドール以下には分解されない。そこから魔素を消費するとなくなってしまうだけで、魔獣石自体を破壊することは出来ない。これはこの世界の常識となっている。
 前にジョニーファン様とも話をしたときに出来ないといっていたので、今の世界ではおそらく出来ないのだろう。
 そう考えると現在ではこの兵器の核を破壊することが出来ないと言うことになる。倒すとしたら核を壊すのではなく、普通に倒すしかないと言うことになるが、出来るのだろうか?

 とりあえずジェンと意見をまとめてから遺跡から出る。後の処理はクリスさん達がやってくれるようなので自分たちは早急にサクラに戻ることにした。


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