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105. 異世界2341日目 アウトラス国へ
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105. 異世界2341日目 アウトラス国へ
サクラに到着してから専用の門から町中へと入る。今回は至急の用事があるので特別許可証を出してもらっていたのですぐに入ることが出来た。そのまま王宮へと向かい、国王陛下の謁見をお願いすると、すぐに会うことが出来た。
「王家の遺跡の古代兵器について調査を行ってきました。」
「まっておったぞ。前置きはいいので要点の報告を頼む。」
挨拶もそこそこにすぐに今回の調査結果の報告に入る。王家の遺跡に古代兵器と思われるものがあったこと、今回現れた古代兵器に似た感じであること、稼働するための核が壊れていたこと、古代兵器の構造、そして古代兵器の停止方法について話す。
「それでは古代兵器を動かしている核になる部分を破壊すれば止まると考えて良いのだな?」
「もちろん実践したわけではありませんが、古代遺跡に書かれていた内容から考えてもそれで止まると思われます。
それ以外にも物理的に倒していくことも出来るかと思いますが、古代兵器の材質は表面のみとはいえ100%オリハルコンからなっています。かなりの技量と装備があればできるのでは無いかと思いますが、古代兵器の強さがわからないのでなんとも・・・。
あと先に説明した核の破壊についてですが、これについても簡単にはいきません。核は魔獣石と同じと考えてもらえればその困難さが分かると思います。」
「魔獣石と同じだと?」
さすがに意味が分かったようで、参加していた人たち全員が無言となる。
「それでですね・・・一応見てもらった方が良いかと思います。」
10ドールの魔獣石を手に載せて、分解すると1ドールの魔獣石2つになった。
「通常言われる分解とはこのような感じです。」
今度は10ドールの魔獣石を普通の分解ではなく、粉々にするイメージで魔力を込めてみる。すると魔獣石は手の上から消える。
「!!!そ、それは魔獣石の魔素を消費したわけではないのか?」
「ええ、魔素の消費ではありません。小さな粒子に分解するように破壊した感じです。」
「魔獣石を破壊・・・。」
「古代遺跡に書かれていたことなどを参考に、いろいろとイメージして破壊することができました。ただ他の方達がこれと同じ事が出来るかどうかが分かりません。」
しばらく考え込んだ後、宰相と思われる人が声を上げた。
「わかった。
現在各国と同時進行で、今後のことを話しておるのだ。その結果、古代兵器に詳しい人物に集まってもらい、会合をしようという話が進んでいる。各国からの知識を集めて対応しようとしているのだが、その使節に参加してもらうことはできるか?」
ジェンを見ると、賛同の意思が見える。
「わかりました。微力ながら協力させていただきます。」
「急な話ですまないが、2日後には出立予定なのだ。準備は大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。」
「今回は飛行艇での移動となるので人数もかなり限られてしまう。至急準備を進めてくれ。」
特に必要なものはないが、しばらく町を離れることになるので、クリスさん達も含めて知り合いに挨拶していく。
出発の朝に王宮へ向かうと、すでに飛行艇の準備がされていた。今回同行する中に王家の剣のメンバーも入っていたので心強い。他にも古代文明を研究している学者が数名という感じだ。全部で20名しか乗ることが出来ないのでかなり絞ったようだ。あくまで外交使節団と言うことなので団長には大臣の一人が対応するようだ。名前はマスカさんというらしい。
前に見かけたことはあるが、まともに話したことはない人だったけど、思ったよりも人当たりが良い人で良かったよ。まあ自分たちは国王陛下にもある程度認められているので変なことは出来ないだろうけどね。
移動は基本的に24時間飛び続けるようだ。飛ぶと言っても飛行機のように高いところを飛ぶわけではなく、地面よりも少し高いところを移動するという感じだ。あまり高く飛ぶと魔獣に襲われるのだろう。
それでもかなりの大きさのものを浮かせているので消費する魔獣石は半端ないみたい。まあ古代文明の魔符核を使用しているからそれでもまだ消費は少ないようだけどね。
早速出発となるが、世間的には外交の使節団と言うことになっている。今回は専門的な話があるために学者が多く同行すると言うことになっており、まだ古代兵器のことについては公表されていない。出来ればすべて終わった後に公表したいと考えているのだろう。
飛行艇はバスのような感じで車とかにしてみれば広いことは広いんだが、寝室用のベッドがあるわけではない。ただリクライニングする座席でそのまま寝られるようになっているのでまだいい方だろう。
ジェンが言うには飛行機のファーストクラスまではいかないけど、ビジネスシートくらいの感じらしい。自分はエコノミーしか乗ったことがないから分からないけど、足は伸ばせるのでまだいいな。
簡易のシャワーやトイレはあるし、食事もちゃんと提供してくれるようだ。残念ながら食事はお弁当のようなもので、簡単に温めてくれている程度のものだけどこれはしょうが無いだろう。ここで電子レンジとかを出すわけにもいかないからね。
移動が早いとは言え、飛行機ほどではないので数日で到着というわけではない。身体をあまり動かせないのがちょっとつらいところだ。
サクラからルイサレムまで4日、海を渡るのに7日、そこから対策本部の設置されている帝都のアクアまで5日で到着した。普通は車で14日、船で25日、さらに車で17日かかる日程だ。三分の一くらいの日程で付くというのだからかなり早いのだろう。ここまでの強行軍というのはそれだけ切羽詰まっているのだろうな。
陸上の移動中は途中の町に寄ることが数回あっただけで、あとはずっと移動だったのでかなり疲れてしまった。眠りも浅い感じだったからね。海の上を飛ぶのは最初は感激だったんだけど、しばらくすると何もないので飽きてしまったもんなあ。
帝都も特別な門から町中に入り、かなり高級そうな宿にチェックインする。今回は外交使節としてきているので宿泊などの費用は国持ちなので助かる。部屋はジェンと二人部屋を用意してくれていた。
他の国からの到着も待っているようなので、会議は4日後に行われるようだ。それまでは自由にしていていいらしいけど、移動の際には護衛が付くらしい。護衛を兼ねた監視なんだろうな。
古代兵器のことはあるけど、折角こっちの国に来たので観光を楽しむことにした。あとはどこかで転移先も記録しておきたいところだな。道しるべの玉はずっと身につけているのでここからでもサクラにはすぐに帰ることができる。
帝都のアクアはかなり歴史のある町らしいけど、もともとのエリアが手狭になったため、近くの山を崩して一気に町の規模を拡張したらしく、旧市街地と新市街地で印象がだいぶ異なっていた。
旧市街はやはり建物が入り組んでいて道も狭いところが多い。中心になる道路は広いが脇道は車が入れないところが結構ある。
新市街は車社会になってから計画されたのか道はかなり広めに作られており、車道も2車線作られているところが結構ある。狭いところでも車が離合できるくらいの広さになっているし、歩道も結構広く作られている。
建物は木造建築はなく、ほぼ石造りといった感じで、木材は飾り付けに使っているくらいのようだ。人口が多くなっているせいか、高い建物も多くて一軒家は貴族エリアくらいしかない。まあ貴族エリアの建物が一軒家と言っていいのか微妙なくらい大きいんだけどね。
王宮は新市街にあり、昔ながらの象徴的な城という感じではなく、機能的な大きな建物といった感じだ。国会議事堂に近い印象だね。
こっちの国はハクセンと同じくらいの貴族社会みたいで、貴族エリアは自由に立ち入ることが出来ないようだ。今回の宿は貴族エリアにあるので、外国の使節団はある程度身分が保障されているようだ。身分証明証のようなものを渡されたしね。
言語はアウトラス語なんだが、もちろん打ち合わせは共通語が用いられるので問題は無い。ジェンはアウトラス語をかなり話せるようになっていたけど、自分はまだ片言という感じだ。本格的に始めたのはサクラに戻ってきてからだもんなあ。それでもジェンはレベル4まで上がっているのでなかなかすごいよな。自分はまだ2だし・・・。
護衛は付くけど町の見学は自由と言うことなのでいろいろと店を回っていく。装備関係はそこまでレベルの差が無い感じだった。ただ食材についてはかなり変わっているのでいろいろと買い足していく。ジェンは予想通りお酒を買い込んでいた。護衛の人に聞いていろいろとおすすめを聞いて見て回る。
こっちにもカサス商会があったので顔を出しておいた。こっちでも重量軽減の魔道具はかなり需要が高いらしいのでここでも納品していく。他にも店についていろいろと話をしておく。
あとは役場に行って冒険者登録を行い、訓練もやってみた。護衛の方にも相手してほしかったがさすがに断られてしまったよ。でもこっちの冒険者の人たちと手合わせ出てきたので良かった。さすがに帝都と言うだけあって優階位の人とかも結構多かったからね。
優階位の人相手でも結構いい勝負が出来るのはちょっとうれしかった。まあ最初の方だけだけどね。結局は徐々に押されていくけど、最初の踏み込みはかなり驚かれた。うまく意表を突ければ優階位の人でも倒せるかもしれないな。
いろいろと見て回るとあっという間に予定の日数が経っていた。なんか完全に観光してしまったなあ。といっても事前に用意する物なんてないもんなあ。
打ち合わせの当日、朝早く迎えに来た車に乗って移動する。打ち合わせは王宮ではなく、王宮の近くにある迎賓館のようなところで行われるらしい。
少し走ったあと、車は両開きの鉄の扉の中へ入り、並木道を進むと建物が見えてきた。この国の伝統的な建築らしく、王宮と同じような石造りの立派な建物だ。海外から偉い人が来たときに招待される建物なんだろうな。
建物の前で車から降りると、係の人が建物の方へと案内してくれた。建物の入口の受付でマスカさんから受付をして、渡された名札のようなものを胸に付ける。どこの国の代表なのかが分かるようにこれを着けるようだ。
自分たちの名札の色は茶色なんだけど、褒章などに使われる色は避けて用意されるのが一般的らしい。ホスト国だけが最下位の赤を使うことが多いようだ。どっちが上だともめたりするんだろうな。
やって来ている国を聞いたところ、ホクサイ大陸からはヤーマン、アルモニア、ハクセン、ナンホウ大陸からはモクニク、トウセイ大陸からはここアウトラスとルトラ、キクライ大陸からはハクアイと結構な数となっている。
今回これなかったのは日程的に難しいというところや参加しても力になれないと断ったところらしい。まあサビオニアとかはそれどころではないかもしれないしね。
会議が始まる前に簡単に挨拶をする場所なのか、飲み物を用意されたロビーに案内される。すでに何カ国かの人たちが来ていたんだけど、その中で見たことのある顔があった。マスカさんがそっちに向かったので折角だからと自分たちも付いていく。
「すみません。自分たちの知っている方もいるのでご一緒させてもらってかまいませんか?」
「そういえば他の国にも知り合いがいると言っていたな。今から挨拶をするのはハクセンでもかなり実力のある人物だから粗相の無いようにな。」
「分かりました。」
『初めまして、ヤーマン国の使節団団長のマスカといいます。』
こういうところではライハンドリア公用語を使うのが普通らしい。少し挨拶した後、こっちにも気がついたようだ。
「ジュンイチとジェニファーじゃないか。久しぶりだな。元気にしていたか。」
「ラザニア様、お久しぶりです。元気にしていますよ。今回はラザニア様が団長だったんですね。」
ラザニアさんがハクセン語で話しかけてきたのでハクセン語で答える。
「ああ、父とラクマニア様から指名されてな。おそらくジュンイチ達もやってくると思うから会ったときにはよろしく言っておいてくれと言われたよ。」
マスカさんに簡単に関係の説明すると、さすがに驚いていた。
しばらく話をしていると、他の国の使節団もやって来たようだが、その中の一人がこっちにやって来た。
「やはりおぬし達もやって来たのだな。」
ジョニーファン様だ。他にもアルモニアの使節団の中には前にいろいろと話をした人たちの顔があった。
「どこまで力になれるかは分かりませんよ。」
「おぬし達が無理なら今回来ている大半のもの達も無理なんじゃないか?」
ジョニーファン様がかなり持ち上げてくる。雑談していると周りから注目を集めてしまった。ここでマスカさんとラザニアさんを簡単に紹介する。
「ヤーマン国もこの二人を選出してくると言うことはちゃんと人選をしているようじゃな。」とか言っている。持ち上げすぎだよ。
そのあとしばらく会話した後、また後でと離れていったが、マスカさんからどういうことだと詰め寄られた。ラザニアさんはジョニーファン様との関係は知っていたようで驚いていなかったけどね。
「ハクセンとアルモニアでいろいろとお世話になった方の一人なんですよ。今回アルモニアから参加された方の多くは一緒に魔法などについて討論した人たちでした。古代遺跡などにも造詣がある人たちだったから選ばれたのだと思います。」
「そ、そうなのか・・・。」
他にもモクニク国の使節団にデリアンさんとカルアさんがいて驚いた。あのあといろいろと論文が認められて国では結構な地位を与えてもらっているようだ。今回も遺跡について調査した中に古代兵器についての資料もあったために使節団に入ったらしい。
二人は最近結婚したらしく、ちょっとのろけられてしまった。カルアさんはジェンと何かしら話していた。
会場に入り、しばらくすると今回の古代兵器についての説明が始まった。
「最初に、今回出現した古代兵器と思われる魔獣は特階位に指定されましたことをお伝えします。以後は個体名『アムダ』と呼ぶことになります。」
特階位の魔獣は種類ではなく、主に優階位の魔獣の中で特に強い個体を区別するために設けられた階位だ。個体名が付けられており、その討伐にはかなりの実績と報酬が支払われる。普通は「名付き」と簡単に言われているが、出会ったら死を覚悟しなければならないレベルだ。
そのあとこれまでの経緯について説明があった。
アムダが最初に現れたのは地方の小さな町だった。帰ってこない冒険者が複数出てきたため、強い魔獣が現れたのかもしれないと調査依頼が出された。あとで調査したところ、その町以外の小さな町が襲われて全滅したところもあったようだ。
調査にでた良階位のパーティーがアムダに遭遇。その地域には珍しく良階位レベルの強さだったが、金属系の魔獣で攻撃がほとんど通じず、撤退することになった。ただ、移動速度はそれほどなかったこともあり、森の中を突っ切ることでアムダを引き離すことができた。
すぐに報告が行われて優階位の冒険者が討伐に向かうことになったが、通達が間に合わず、襲われる人もいたようだ。
ただ、これで倒せるだろうというもくろみだったが、結果から言うと倒せずに撤退することになった。経験を積んだのか、聞いていたよりも強くなっており、さらに優階位のメンバーが持っていたミスリルの武器では歯が立たなかったらしい。
なんとか撤退することは出来たが、移動速度が速くなっていたために撤退するのも大変だったようだ。
そこで一気に始末してしまおうと優階位のパーティーを集めている間に問題が生じた。勝手に討伐に向かったパーティーがいたようだ。言葉を選んでいたけど、要は実力は良レベルだけどお金に物を言わせて装備にいい物を使っているパーティーが討伐に向かってしまったらしい。
アムダの監視役はいたのだが、かなり遠くからの監視しか出来ないため、気がついたときには遅かったらしく、パーティーは全滅してしまい、その装備から身体の修復を行っていたようだ。また大量の魔獣石を持っていた可能性があり、それも吸収されたようである。あとで壊れた収納バッグが発見されたらしい。
そして5組の優階位冒険者パーティーが討伐に向かったが、実力が格段に上がっており、再度討伐に失敗してしまった。
聞いていたときよりも格段に速度が上がっており、強さが上がってしまったことがその原因だが、最も悩ませたのは広範囲にダメージを与える光魔法だ。これは魔法防御も貫通してくるらしく、致命傷まではならないがかなりのダメージを負ってしまうようだ。連射は出来ないようだが、一定おきにこの攻撃を行ってくるようだ。
交代で攻撃を続けたが、オリハルコンの武器でもほとんど傷つけることが出来ず、先に体力がなくなったのは冒険者の方だった。撤退するのもかなり厳しかったみたいで、数名の犠牲の上で撤退できたようだ。
この時点で討伐について国が動くこととなり、その姿から古代兵器ではないかという報告があがってきて、他の国に情報が配信されたようだ。
現在も監視を継続しており、近隣の町の住民は前もって避難しているようだ。まっすぐどこかを目指しているというわけではないようだが、徐々にこの王都に向かってきているらしい。
一通りの説明があったあと、少し休憩に入った。10分ほどしてから再開されるようなので休憩の間ジェンと話をする。
「だけど、5組の優階位の冒険者パーティーが倒せないってかなり厳しいよね?」
「そうね。ただ問題は強さと言うより堅さの方かもしれないわ。オリハルコン100%だと今の武器だとかなわないわよね。」
「傷つけられなければずっと強さが変わらないと言うことになるし、結局体力負けしてしまうよなあ。」
「倒すとしたら、オリハルコンの武器を使うか、あとは動力源を絶つしかないのか・・・」
打ち合わせが再開されて、アムダと古代兵器を結びつける説明が行われた。
「遺跡で発見された資料からアムダは古代兵器で間違いないだろうと数カ国から報告がありました。かなり具体的な資料が提示されたものもありましたので、その資料を写します。」
プロジェクターのような感じで壁に投影されたのは自分が提供した資料だった。
「今回撮影したアムダと遺跡から発見された資料を比較して古代兵器の可能性は非常に高いと思われます。また、今回の討伐に向かった人たちからの意見やその強さから古代兵器を模倣して作られたとは考えにくいと判断しています。
古代兵器についてさらに詳しい説明が提出されていますが、内容の説明については本人にしていただこうかと思います。ジュンイチ様お願いします。」
一応事前に話は振られていたけど、さすがに緊張するなあ。
「ヤーマンの冒険者のジュンイチと言います。僭越ながら自分たちが行った調査結果を簡単に説明させていただきます。」
ヤーマンでも説明したような内容に加えて、先ほどの冒険者の装備からオリハルコンが抽出されて修復された可能性があること、魔獣石から魔素を取り込んでエネルギーとしている可能性が高いことを説明する。
「現在のオリハルコンとミスリルの合金ではなく、古代遺跡から発見されるオリハルコン100%の素材が使われていると言うことで間違いないのか?」
「それについては過去に発表された古代兵器の調査結果にも書かれていますし、自分が確認した遺跡の資料でも同じ事を確認しました。ただし古代兵器のすべての装甲ではなく、部分的な使用だと思われます。
ただ武器となる部分はすべてオリハルコンで出来ている可能性が高く、討伐のときにも現在のオリハルコン装備では刃が立たなかったと報告が出ていましたので間違いないと思います。」
このあともいろいろと意見交換がされるが、人数も多いのでなかなか話が進まない。一番の問題は研究者が多いので話が脱線しすぎることだ。途中で議長を務める人から修正が入るが、何度も話がそれてしまう。
昼食の休憩の時もあちこちで議論がされており、結構遅くまで議論したところでこの日はいったん終了となった。
翌日も朝から議論となり、やっと古代兵器を止める方法についての話となった。
「核があるという場所の特定はまた話すとして、核の破壊が問題となるというのはそれだけ堅いと言うことなのか?」
「いえ、普通だと壊せないようになっているといった方が良いです。取り外すことが出来れば良いのですが、簡単にはとれない構造となっているようです。オリハルコンで固定された台座にはめ込まれていますので・・・。」
「普通だと壊せないと言うことは一応壊す方法があるということか?」
「古代文明の資料に兵器を止める方法の一つに核を破壊すると書かれていました。ただそれをどれだけの人が出来るか・・・。」
「どういうことだ?」
「お伺いします。魔獣石を魔素を消費するわけでなく、破壊することは出来ますか?」
「まさか・・・。」
「はい、資料によると古代兵器の核は魔獣石と同じものと考えていいようです。なのですべての魔素を消費させてしまえば動かなくなると言うことも考えられますが、冒険者が持っていた魔獣石がどの程度だったかと言うことと、今現在でも魔獣から魔素を吸収しているようですので、かなり難しいのでは無いかと思います。」
この時点でみんなが沈黙してしまった。それはそうだろう。
「つまり、優階位レベルの魔獣の攻撃をかいくぐってとりついた後、どのような金属で固定されているか分からないハッチを錬金術で開け、魔獣石と同じ性質の核を破壊する必要があると言うことなのか?」
「無理だ。優階位の実力を持つ錬金術師はいるのか?」
「それ以前に核が破壊できないのであれば意味が無いだろう。」
「古代文明では魔獣石を破壊できたと考えてもいいと言うことなのか?それならばなんとかその方法を見つけられないのか?」
「それについては過去何十年、何百年と検討されて無理という結論が出ていることだろう。」
「それでは普通に倒すしかないと言うことになるが、はたしてそれが出来るのか?」
ジェンの方を見るとうなずいてくれた。
「よろしいですか?」
自分の発言に辺りが静かになる。
「これを見てください。」
手のひらに魔獣石を載せて分解するイメージで魔力を込める。すると魔獣石が割れて霧散した。
「「「「・・・・・」」」」
それを見ていた人たちは静かになった。
「ど、どういうことだ!!」
しばらくいろいろな言葉が飛び交った後、やっと落ち着いてきた。
「いろいろと試した結果、魔獣石を壊すことが出来ました。一応方法はお教えしますが、イメージがどこまで出来るか分かりません。」
そもそも魔素というものがなんなのかと考えたんだけど、結局分からなかった。もともと目に見えるものではないし、気体のようなものかと考えたが、うまくいかなかった。そこで光のようなイメージで考えたのだ。
ただそれが固体化すると言うことがどういう原理か分からないが、魔獣石が通常の物質ではないものと考えられる。つまり波長というか波が収束して形に見えているだけではないのかと言うことだ。光も波と粒子の二つの性質を持っていると言われているからね。
そこで魔素を波長という形でとらえ、破壊するわけではなく、波が広がるイメージをすると分解できた。
ただこれを細かく教えていったとしてもまずい気がするので小さなものの集まりとしか言うことが出来ない。
ジョニーファン様もかなり驚いて挑戦しているがやはり出来ないようだ。自分たちも明確な原理が分かっていないので正直教えるのにも無理がある。おおざっぱなイメージだからこそ出来る可能性もあるからね。あまり理論的に考えると出来なくなってしまいそうだ。
魔獣石の破壊についてみんながある程度落ち着いてきたところで発言する。
「今の段階では他に破壊できる人がいないと思いますし、正面から戦っても倒すのはかなり難しいと思います。そこで自分たちも戦いに参加して核の破壊の役割を果たしたいと思っています。
一応ある程度の戦闘能力はありますし、ハッチを開けるための錬金術も使えます。ですので、動きを止めてもらうことが出来れば、兵器にとりついて核の破壊が出来るのではないかと思っています。」
自分の発言に驚いた表情になっていたが、一人の研究者が質問してきた。
「戦闘能力と言っても良階位の冒険者と聞いているが大丈夫なのか?最低限の実力が無ければ近づくことも難しいと思うのだが・・・。」
「それについては我が国の騎士隊から話を聞いている。冒険者の階位としては良階位ではあるが、優階位の実力があるものとも十分に渡り合えたし、優階位の魔獣も倒したいう話だ。また隠密や索敵能力は非常に優れているとも聞いているので、実力的には討伐に参加することは出来ると思っている。」
ラザニアさんが発言してくれた。
「魔法の能力に関してもわしが保証できるぞ。わしと同レベルと考えてもらってかまわないくらいじゃからな。まあ今回の古代兵器にどこまで通用するのかは分からんがな。」
ジョニーファン様からも発言があり、周りの人たちがかなり驚いていた。
結局他に案も見つからないこともあり、帝国の皇帝への説明があったあとで古代兵器の討伐が決定した。
~マスカSide~
今回古代兵器への対応について緊急会議が行われることになり、私が使節団の団長となった。古代兵器への対応であるが、多くの国から使節団が参加すると言うことでかなり重要な役目を担っている。とくに一緒に行くメンバーがかなり癖のあるものが多いのが気になるところだ。
その中でも異質なのはジュンイチとジェニファーという二人だ。長年の実績があるわけではないが、多くの革新的アイデアの導入やクリストフ王爵の救出、そして公開はされていないが王家の遺跡に関しても多くの活動をしてきたらしい。ヤーマンでの会議でもその知識の深さに驚いた。最も驚いたのは魔獣石の破壊だったがな。
国王陛下からも一目置かれており、王族のメンバーからも慕われていると聞いている。特にクリストフ王爵とは家族でのつきあいがあるらしく、親友と呼べる間柄とも言われている。また正確には分かっていないがハクセンとサビオニアからも褒賞を受けており、他国の重鎮ともコネクションがあると言われている。
このような関係を持っているのだが、特に問題となる言動も行動もなく、かなり控えめな対応をしており、団長としての私の立場もちゃんとたててくれているのはありがたかった。この年齢でそのような立場だと、高慢になるものもいるからな。
現地に着いてからは自由行動となったが、監視の目が付くのは仕方が無いところだろう。参加メンバーは思い思いの行動をとっていた。
そして会合の日になり、会場に着くとすでに何カ国かの使節団がやって来ていた。最初に目に付いたのはハクセンの使節団だ。たしかハックツベルト家のラザニア中位爵だったはずだ。胸の名札を見ると今回の使節団の団長のようだ。
挨拶に行こうとすると例の二人が同行すると言ってきた。どうやら知り合いがいるらしい。ラザニア爵と挨拶をすると、二人の方を見てハクセン語で声をかけていた。どういうことだ?ハクセン語は少しわかるが、どうも知り合いのようだ。かなり親しげに話している上、彼の父の名前だけでなく、ルイドルフ爵の名前まで出ている。
会話が一段落したところで改めて紹介されるが、ハクセンで彼の父だけで無く、ルイドルフ・ラクマニア爵とも交友があったらしい。ハクセンのトップの二人と言われる二人と交友があるだと?
そう思っていると他から二人を呼ぶ声が上がった。見てみるとなんとジョニーファン様だった。今回はこの方も参加しているのか?そう思っているとまたもや二人と会話を始めた。そのあと紹介を受けたが、ちゃんと人物を選んだと言われて驚いた。
あとで二人に話を聞くとアルモニアにいたときにジョニーファン様を含めて今回の使節団に参加した人たちといろいろと議論をしていたらしい。ジョニーファン様には他の使節団も遠慮して声をかけられない状態なのに、私たちが普通に話をしているのでかなり注目を浴びてしまったぞ。
出発前に国王陛下から言われたことを改めて思い出す。
「ジュンイチとジェニファーの交友関係には驚くかもしれないが、二人にとっては利害関係ではなく、親しくしてもらっている人達と考えているので、余計なことは考えない方がいい。」
国王陛下が言われていたのはこういうことだったのか。二人は特にかしこまるわけでもなく、礼節は守っているが、普通に話をしているのだからな。これだけでも二人がこの使節団にいる価値があるというものだ。
サクラに到着してから専用の門から町中へと入る。今回は至急の用事があるので特別許可証を出してもらっていたのですぐに入ることが出来た。そのまま王宮へと向かい、国王陛下の謁見をお願いすると、すぐに会うことが出来た。
「王家の遺跡の古代兵器について調査を行ってきました。」
「まっておったぞ。前置きはいいので要点の報告を頼む。」
挨拶もそこそこにすぐに今回の調査結果の報告に入る。王家の遺跡に古代兵器と思われるものがあったこと、今回現れた古代兵器に似た感じであること、稼働するための核が壊れていたこと、古代兵器の構造、そして古代兵器の停止方法について話す。
「それでは古代兵器を動かしている核になる部分を破壊すれば止まると考えて良いのだな?」
「もちろん実践したわけではありませんが、古代遺跡に書かれていた内容から考えてもそれで止まると思われます。
それ以外にも物理的に倒していくことも出来るかと思いますが、古代兵器の材質は表面のみとはいえ100%オリハルコンからなっています。かなりの技量と装備があればできるのでは無いかと思いますが、古代兵器の強さがわからないのでなんとも・・・。
あと先に説明した核の破壊についてですが、これについても簡単にはいきません。核は魔獣石と同じと考えてもらえればその困難さが分かると思います。」
「魔獣石と同じだと?」
さすがに意味が分かったようで、参加していた人たち全員が無言となる。
「それでですね・・・一応見てもらった方が良いかと思います。」
10ドールの魔獣石を手に載せて、分解すると1ドールの魔獣石2つになった。
「通常言われる分解とはこのような感じです。」
今度は10ドールの魔獣石を普通の分解ではなく、粉々にするイメージで魔力を込めてみる。すると魔獣石は手の上から消える。
「!!!そ、それは魔獣石の魔素を消費したわけではないのか?」
「ええ、魔素の消費ではありません。小さな粒子に分解するように破壊した感じです。」
「魔獣石を破壊・・・。」
「古代遺跡に書かれていたことなどを参考に、いろいろとイメージして破壊することができました。ただ他の方達がこれと同じ事が出来るかどうかが分かりません。」
しばらく考え込んだ後、宰相と思われる人が声を上げた。
「わかった。
現在各国と同時進行で、今後のことを話しておるのだ。その結果、古代兵器に詳しい人物に集まってもらい、会合をしようという話が進んでいる。各国からの知識を集めて対応しようとしているのだが、その使節に参加してもらうことはできるか?」
ジェンを見ると、賛同の意思が見える。
「わかりました。微力ながら協力させていただきます。」
「急な話ですまないが、2日後には出立予定なのだ。準備は大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。」
「今回は飛行艇での移動となるので人数もかなり限られてしまう。至急準備を進めてくれ。」
特に必要なものはないが、しばらく町を離れることになるので、クリスさん達も含めて知り合いに挨拶していく。
出発の朝に王宮へ向かうと、すでに飛行艇の準備がされていた。今回同行する中に王家の剣のメンバーも入っていたので心強い。他にも古代文明を研究している学者が数名という感じだ。全部で20名しか乗ることが出来ないのでかなり絞ったようだ。あくまで外交使節団と言うことなので団長には大臣の一人が対応するようだ。名前はマスカさんというらしい。
前に見かけたことはあるが、まともに話したことはない人だったけど、思ったよりも人当たりが良い人で良かったよ。まあ自分たちは国王陛下にもある程度認められているので変なことは出来ないだろうけどね。
移動は基本的に24時間飛び続けるようだ。飛ぶと言っても飛行機のように高いところを飛ぶわけではなく、地面よりも少し高いところを移動するという感じだ。あまり高く飛ぶと魔獣に襲われるのだろう。
それでもかなりの大きさのものを浮かせているので消費する魔獣石は半端ないみたい。まあ古代文明の魔符核を使用しているからそれでもまだ消費は少ないようだけどね。
早速出発となるが、世間的には外交の使節団と言うことになっている。今回は専門的な話があるために学者が多く同行すると言うことになっており、まだ古代兵器のことについては公表されていない。出来ればすべて終わった後に公表したいと考えているのだろう。
飛行艇はバスのような感じで車とかにしてみれば広いことは広いんだが、寝室用のベッドがあるわけではない。ただリクライニングする座席でそのまま寝られるようになっているのでまだいい方だろう。
ジェンが言うには飛行機のファーストクラスまではいかないけど、ビジネスシートくらいの感じらしい。自分はエコノミーしか乗ったことがないから分からないけど、足は伸ばせるのでまだいいな。
簡易のシャワーやトイレはあるし、食事もちゃんと提供してくれるようだ。残念ながら食事はお弁当のようなもので、簡単に温めてくれている程度のものだけどこれはしょうが無いだろう。ここで電子レンジとかを出すわけにもいかないからね。
移動が早いとは言え、飛行機ほどではないので数日で到着というわけではない。身体をあまり動かせないのがちょっとつらいところだ。
サクラからルイサレムまで4日、海を渡るのに7日、そこから対策本部の設置されている帝都のアクアまで5日で到着した。普通は車で14日、船で25日、さらに車で17日かかる日程だ。三分の一くらいの日程で付くというのだからかなり早いのだろう。ここまでの強行軍というのはそれだけ切羽詰まっているのだろうな。
陸上の移動中は途中の町に寄ることが数回あっただけで、あとはずっと移動だったのでかなり疲れてしまった。眠りも浅い感じだったからね。海の上を飛ぶのは最初は感激だったんだけど、しばらくすると何もないので飽きてしまったもんなあ。
帝都も特別な門から町中に入り、かなり高級そうな宿にチェックインする。今回は外交使節としてきているので宿泊などの費用は国持ちなので助かる。部屋はジェンと二人部屋を用意してくれていた。
他の国からの到着も待っているようなので、会議は4日後に行われるようだ。それまでは自由にしていていいらしいけど、移動の際には護衛が付くらしい。護衛を兼ねた監視なんだろうな。
古代兵器のことはあるけど、折角こっちの国に来たので観光を楽しむことにした。あとはどこかで転移先も記録しておきたいところだな。道しるべの玉はずっと身につけているのでここからでもサクラにはすぐに帰ることができる。
帝都のアクアはかなり歴史のある町らしいけど、もともとのエリアが手狭になったため、近くの山を崩して一気に町の規模を拡張したらしく、旧市街地と新市街地で印象がだいぶ異なっていた。
旧市街はやはり建物が入り組んでいて道も狭いところが多い。中心になる道路は広いが脇道は車が入れないところが結構ある。
新市街は車社会になってから計画されたのか道はかなり広めに作られており、車道も2車線作られているところが結構ある。狭いところでも車が離合できるくらいの広さになっているし、歩道も結構広く作られている。
建物は木造建築はなく、ほぼ石造りといった感じで、木材は飾り付けに使っているくらいのようだ。人口が多くなっているせいか、高い建物も多くて一軒家は貴族エリアくらいしかない。まあ貴族エリアの建物が一軒家と言っていいのか微妙なくらい大きいんだけどね。
王宮は新市街にあり、昔ながらの象徴的な城という感じではなく、機能的な大きな建物といった感じだ。国会議事堂に近い印象だね。
こっちの国はハクセンと同じくらいの貴族社会みたいで、貴族エリアは自由に立ち入ることが出来ないようだ。今回の宿は貴族エリアにあるので、外国の使節団はある程度身分が保障されているようだ。身分証明証のようなものを渡されたしね。
言語はアウトラス語なんだが、もちろん打ち合わせは共通語が用いられるので問題は無い。ジェンはアウトラス語をかなり話せるようになっていたけど、自分はまだ片言という感じだ。本格的に始めたのはサクラに戻ってきてからだもんなあ。それでもジェンはレベル4まで上がっているのでなかなかすごいよな。自分はまだ2だし・・・。
護衛は付くけど町の見学は自由と言うことなのでいろいろと店を回っていく。装備関係はそこまでレベルの差が無い感じだった。ただ食材についてはかなり変わっているのでいろいろと買い足していく。ジェンは予想通りお酒を買い込んでいた。護衛の人に聞いていろいろとおすすめを聞いて見て回る。
こっちにもカサス商会があったので顔を出しておいた。こっちでも重量軽減の魔道具はかなり需要が高いらしいのでここでも納品していく。他にも店についていろいろと話をしておく。
あとは役場に行って冒険者登録を行い、訓練もやってみた。護衛の方にも相手してほしかったがさすがに断られてしまったよ。でもこっちの冒険者の人たちと手合わせ出てきたので良かった。さすがに帝都と言うだけあって優階位の人とかも結構多かったからね。
優階位の人相手でも結構いい勝負が出来るのはちょっとうれしかった。まあ最初の方だけだけどね。結局は徐々に押されていくけど、最初の踏み込みはかなり驚かれた。うまく意表を突ければ優階位の人でも倒せるかもしれないな。
いろいろと見て回るとあっという間に予定の日数が経っていた。なんか完全に観光してしまったなあ。といっても事前に用意する物なんてないもんなあ。
打ち合わせの当日、朝早く迎えに来た車に乗って移動する。打ち合わせは王宮ではなく、王宮の近くにある迎賓館のようなところで行われるらしい。
少し走ったあと、車は両開きの鉄の扉の中へ入り、並木道を進むと建物が見えてきた。この国の伝統的な建築らしく、王宮と同じような石造りの立派な建物だ。海外から偉い人が来たときに招待される建物なんだろうな。
建物の前で車から降りると、係の人が建物の方へと案内してくれた。建物の入口の受付でマスカさんから受付をして、渡された名札のようなものを胸に付ける。どこの国の代表なのかが分かるようにこれを着けるようだ。
自分たちの名札の色は茶色なんだけど、褒章などに使われる色は避けて用意されるのが一般的らしい。ホスト国だけが最下位の赤を使うことが多いようだ。どっちが上だともめたりするんだろうな。
やって来ている国を聞いたところ、ホクサイ大陸からはヤーマン、アルモニア、ハクセン、ナンホウ大陸からはモクニク、トウセイ大陸からはここアウトラスとルトラ、キクライ大陸からはハクアイと結構な数となっている。
今回これなかったのは日程的に難しいというところや参加しても力になれないと断ったところらしい。まあサビオニアとかはそれどころではないかもしれないしね。
会議が始まる前に簡単に挨拶をする場所なのか、飲み物を用意されたロビーに案内される。すでに何カ国かの人たちが来ていたんだけど、その中で見たことのある顔があった。マスカさんがそっちに向かったので折角だからと自分たちも付いていく。
「すみません。自分たちの知っている方もいるのでご一緒させてもらってかまいませんか?」
「そういえば他の国にも知り合いがいると言っていたな。今から挨拶をするのはハクセンでもかなり実力のある人物だから粗相の無いようにな。」
「分かりました。」
『初めまして、ヤーマン国の使節団団長のマスカといいます。』
こういうところではライハンドリア公用語を使うのが普通らしい。少し挨拶した後、こっちにも気がついたようだ。
「ジュンイチとジェニファーじゃないか。久しぶりだな。元気にしていたか。」
「ラザニア様、お久しぶりです。元気にしていますよ。今回はラザニア様が団長だったんですね。」
ラザニアさんがハクセン語で話しかけてきたのでハクセン語で答える。
「ああ、父とラクマニア様から指名されてな。おそらくジュンイチ達もやってくると思うから会ったときにはよろしく言っておいてくれと言われたよ。」
マスカさんに簡単に関係の説明すると、さすがに驚いていた。
しばらく話をしていると、他の国の使節団もやって来たようだが、その中の一人がこっちにやって来た。
「やはりおぬし達もやって来たのだな。」
ジョニーファン様だ。他にもアルモニアの使節団の中には前にいろいろと話をした人たちの顔があった。
「どこまで力になれるかは分かりませんよ。」
「おぬし達が無理なら今回来ている大半のもの達も無理なんじゃないか?」
ジョニーファン様がかなり持ち上げてくる。雑談していると周りから注目を集めてしまった。ここでマスカさんとラザニアさんを簡単に紹介する。
「ヤーマン国もこの二人を選出してくると言うことはちゃんと人選をしているようじゃな。」とか言っている。持ち上げすぎだよ。
そのあとしばらく会話した後、また後でと離れていったが、マスカさんからどういうことだと詰め寄られた。ラザニアさんはジョニーファン様との関係は知っていたようで驚いていなかったけどね。
「ハクセンとアルモニアでいろいろとお世話になった方の一人なんですよ。今回アルモニアから参加された方の多くは一緒に魔法などについて討論した人たちでした。古代遺跡などにも造詣がある人たちだったから選ばれたのだと思います。」
「そ、そうなのか・・・。」
他にもモクニク国の使節団にデリアンさんとカルアさんがいて驚いた。あのあといろいろと論文が認められて国では結構な地位を与えてもらっているようだ。今回も遺跡について調査した中に古代兵器についての資料もあったために使節団に入ったらしい。
二人は最近結婚したらしく、ちょっとのろけられてしまった。カルアさんはジェンと何かしら話していた。
会場に入り、しばらくすると今回の古代兵器についての説明が始まった。
「最初に、今回出現した古代兵器と思われる魔獣は特階位に指定されましたことをお伝えします。以後は個体名『アムダ』と呼ぶことになります。」
特階位の魔獣は種類ではなく、主に優階位の魔獣の中で特に強い個体を区別するために設けられた階位だ。個体名が付けられており、その討伐にはかなりの実績と報酬が支払われる。普通は「名付き」と簡単に言われているが、出会ったら死を覚悟しなければならないレベルだ。
そのあとこれまでの経緯について説明があった。
アムダが最初に現れたのは地方の小さな町だった。帰ってこない冒険者が複数出てきたため、強い魔獣が現れたのかもしれないと調査依頼が出された。あとで調査したところ、その町以外の小さな町が襲われて全滅したところもあったようだ。
調査にでた良階位のパーティーがアムダに遭遇。その地域には珍しく良階位レベルの強さだったが、金属系の魔獣で攻撃がほとんど通じず、撤退することになった。ただ、移動速度はそれほどなかったこともあり、森の中を突っ切ることでアムダを引き離すことができた。
すぐに報告が行われて優階位の冒険者が討伐に向かうことになったが、通達が間に合わず、襲われる人もいたようだ。
ただ、これで倒せるだろうというもくろみだったが、結果から言うと倒せずに撤退することになった。経験を積んだのか、聞いていたよりも強くなっており、さらに優階位のメンバーが持っていたミスリルの武器では歯が立たなかったらしい。
なんとか撤退することは出来たが、移動速度が速くなっていたために撤退するのも大変だったようだ。
そこで一気に始末してしまおうと優階位のパーティーを集めている間に問題が生じた。勝手に討伐に向かったパーティーがいたようだ。言葉を選んでいたけど、要は実力は良レベルだけどお金に物を言わせて装備にいい物を使っているパーティーが討伐に向かってしまったらしい。
アムダの監視役はいたのだが、かなり遠くからの監視しか出来ないため、気がついたときには遅かったらしく、パーティーは全滅してしまい、その装備から身体の修復を行っていたようだ。また大量の魔獣石を持っていた可能性があり、それも吸収されたようである。あとで壊れた収納バッグが発見されたらしい。
そして5組の優階位冒険者パーティーが討伐に向かったが、実力が格段に上がっており、再度討伐に失敗してしまった。
聞いていたときよりも格段に速度が上がっており、強さが上がってしまったことがその原因だが、最も悩ませたのは広範囲にダメージを与える光魔法だ。これは魔法防御も貫通してくるらしく、致命傷まではならないがかなりのダメージを負ってしまうようだ。連射は出来ないようだが、一定おきにこの攻撃を行ってくるようだ。
交代で攻撃を続けたが、オリハルコンの武器でもほとんど傷つけることが出来ず、先に体力がなくなったのは冒険者の方だった。撤退するのもかなり厳しかったみたいで、数名の犠牲の上で撤退できたようだ。
この時点で討伐について国が動くこととなり、その姿から古代兵器ではないかという報告があがってきて、他の国に情報が配信されたようだ。
現在も監視を継続しており、近隣の町の住民は前もって避難しているようだ。まっすぐどこかを目指しているというわけではないようだが、徐々にこの王都に向かってきているらしい。
一通りの説明があったあと、少し休憩に入った。10分ほどしてから再開されるようなので休憩の間ジェンと話をする。
「だけど、5組の優階位の冒険者パーティーが倒せないってかなり厳しいよね?」
「そうね。ただ問題は強さと言うより堅さの方かもしれないわ。オリハルコン100%だと今の武器だとかなわないわよね。」
「傷つけられなければずっと強さが変わらないと言うことになるし、結局体力負けしてしまうよなあ。」
「倒すとしたら、オリハルコンの武器を使うか、あとは動力源を絶つしかないのか・・・」
打ち合わせが再開されて、アムダと古代兵器を結びつける説明が行われた。
「遺跡で発見された資料からアムダは古代兵器で間違いないだろうと数カ国から報告がありました。かなり具体的な資料が提示されたものもありましたので、その資料を写します。」
プロジェクターのような感じで壁に投影されたのは自分が提供した資料だった。
「今回撮影したアムダと遺跡から発見された資料を比較して古代兵器の可能性は非常に高いと思われます。また、今回の討伐に向かった人たちからの意見やその強さから古代兵器を模倣して作られたとは考えにくいと判断しています。
古代兵器についてさらに詳しい説明が提出されていますが、内容の説明については本人にしていただこうかと思います。ジュンイチ様お願いします。」
一応事前に話は振られていたけど、さすがに緊張するなあ。
「ヤーマンの冒険者のジュンイチと言います。僭越ながら自分たちが行った調査結果を簡単に説明させていただきます。」
ヤーマンでも説明したような内容に加えて、先ほどの冒険者の装備からオリハルコンが抽出されて修復された可能性があること、魔獣石から魔素を取り込んでエネルギーとしている可能性が高いことを説明する。
「現在のオリハルコンとミスリルの合金ではなく、古代遺跡から発見されるオリハルコン100%の素材が使われていると言うことで間違いないのか?」
「それについては過去に発表された古代兵器の調査結果にも書かれていますし、自分が確認した遺跡の資料でも同じ事を確認しました。ただし古代兵器のすべての装甲ではなく、部分的な使用だと思われます。
ただ武器となる部分はすべてオリハルコンで出来ている可能性が高く、討伐のときにも現在のオリハルコン装備では刃が立たなかったと報告が出ていましたので間違いないと思います。」
このあともいろいろと意見交換がされるが、人数も多いのでなかなか話が進まない。一番の問題は研究者が多いので話が脱線しすぎることだ。途中で議長を務める人から修正が入るが、何度も話がそれてしまう。
昼食の休憩の時もあちこちで議論がされており、結構遅くまで議論したところでこの日はいったん終了となった。
翌日も朝から議論となり、やっと古代兵器を止める方法についての話となった。
「核があるという場所の特定はまた話すとして、核の破壊が問題となるというのはそれだけ堅いと言うことなのか?」
「いえ、普通だと壊せないようになっているといった方が良いです。取り外すことが出来れば良いのですが、簡単にはとれない構造となっているようです。オリハルコンで固定された台座にはめ込まれていますので・・・。」
「普通だと壊せないと言うことは一応壊す方法があるということか?」
「古代文明の資料に兵器を止める方法の一つに核を破壊すると書かれていました。ただそれをどれだけの人が出来るか・・・。」
「どういうことだ?」
「お伺いします。魔獣石を魔素を消費するわけでなく、破壊することは出来ますか?」
「まさか・・・。」
「はい、資料によると古代兵器の核は魔獣石と同じものと考えていいようです。なのですべての魔素を消費させてしまえば動かなくなると言うことも考えられますが、冒険者が持っていた魔獣石がどの程度だったかと言うことと、今現在でも魔獣から魔素を吸収しているようですので、かなり難しいのでは無いかと思います。」
この時点でみんなが沈黙してしまった。それはそうだろう。
「つまり、優階位レベルの魔獣の攻撃をかいくぐってとりついた後、どのような金属で固定されているか分からないハッチを錬金術で開け、魔獣石と同じ性質の核を破壊する必要があると言うことなのか?」
「無理だ。優階位の実力を持つ錬金術師はいるのか?」
「それ以前に核が破壊できないのであれば意味が無いだろう。」
「古代文明では魔獣石を破壊できたと考えてもいいと言うことなのか?それならばなんとかその方法を見つけられないのか?」
「それについては過去何十年、何百年と検討されて無理という結論が出ていることだろう。」
「それでは普通に倒すしかないと言うことになるが、はたしてそれが出来るのか?」
ジェンの方を見るとうなずいてくれた。
「よろしいですか?」
自分の発言に辺りが静かになる。
「これを見てください。」
手のひらに魔獣石を載せて分解するイメージで魔力を込める。すると魔獣石が割れて霧散した。
「「「「・・・・・」」」」
それを見ていた人たちは静かになった。
「ど、どういうことだ!!」
しばらくいろいろな言葉が飛び交った後、やっと落ち着いてきた。
「いろいろと試した結果、魔獣石を壊すことが出来ました。一応方法はお教えしますが、イメージがどこまで出来るか分かりません。」
そもそも魔素というものがなんなのかと考えたんだけど、結局分からなかった。もともと目に見えるものではないし、気体のようなものかと考えたが、うまくいかなかった。そこで光のようなイメージで考えたのだ。
ただそれが固体化すると言うことがどういう原理か分からないが、魔獣石が通常の物質ではないものと考えられる。つまり波長というか波が収束して形に見えているだけではないのかと言うことだ。光も波と粒子の二つの性質を持っていると言われているからね。
そこで魔素を波長という形でとらえ、破壊するわけではなく、波が広がるイメージをすると分解できた。
ただこれを細かく教えていったとしてもまずい気がするので小さなものの集まりとしか言うことが出来ない。
ジョニーファン様もかなり驚いて挑戦しているがやはり出来ないようだ。自分たちも明確な原理が分かっていないので正直教えるのにも無理がある。おおざっぱなイメージだからこそ出来る可能性もあるからね。あまり理論的に考えると出来なくなってしまいそうだ。
魔獣石の破壊についてみんながある程度落ち着いてきたところで発言する。
「今の段階では他に破壊できる人がいないと思いますし、正面から戦っても倒すのはかなり難しいと思います。そこで自分たちも戦いに参加して核の破壊の役割を果たしたいと思っています。
一応ある程度の戦闘能力はありますし、ハッチを開けるための錬金術も使えます。ですので、動きを止めてもらうことが出来れば、兵器にとりついて核の破壊が出来るのではないかと思っています。」
自分の発言に驚いた表情になっていたが、一人の研究者が質問してきた。
「戦闘能力と言っても良階位の冒険者と聞いているが大丈夫なのか?最低限の実力が無ければ近づくことも難しいと思うのだが・・・。」
「それについては我が国の騎士隊から話を聞いている。冒険者の階位としては良階位ではあるが、優階位の実力があるものとも十分に渡り合えたし、優階位の魔獣も倒したいう話だ。また隠密や索敵能力は非常に優れているとも聞いているので、実力的には討伐に参加することは出来ると思っている。」
ラザニアさんが発言してくれた。
「魔法の能力に関してもわしが保証できるぞ。わしと同レベルと考えてもらってかまわないくらいじゃからな。まあ今回の古代兵器にどこまで通用するのかは分からんがな。」
ジョニーファン様からも発言があり、周りの人たちがかなり驚いていた。
結局他に案も見つからないこともあり、帝国の皇帝への説明があったあとで古代兵器の討伐が決定した。
~マスカSide~
今回古代兵器への対応について緊急会議が行われることになり、私が使節団の団長となった。古代兵器への対応であるが、多くの国から使節団が参加すると言うことでかなり重要な役目を担っている。とくに一緒に行くメンバーがかなり癖のあるものが多いのが気になるところだ。
その中でも異質なのはジュンイチとジェニファーという二人だ。長年の実績があるわけではないが、多くの革新的アイデアの導入やクリストフ王爵の救出、そして公開はされていないが王家の遺跡に関しても多くの活動をしてきたらしい。ヤーマンでの会議でもその知識の深さに驚いた。最も驚いたのは魔獣石の破壊だったがな。
国王陛下からも一目置かれており、王族のメンバーからも慕われていると聞いている。特にクリストフ王爵とは家族でのつきあいがあるらしく、親友と呼べる間柄とも言われている。また正確には分かっていないがハクセンとサビオニアからも褒賞を受けており、他国の重鎮ともコネクションがあると言われている。
このような関係を持っているのだが、特に問題となる言動も行動もなく、かなり控えめな対応をしており、団長としての私の立場もちゃんとたててくれているのはありがたかった。この年齢でそのような立場だと、高慢になるものもいるからな。
現地に着いてからは自由行動となったが、監視の目が付くのは仕方が無いところだろう。参加メンバーは思い思いの行動をとっていた。
そして会合の日になり、会場に着くとすでに何カ国かの使節団がやって来ていた。最初に目に付いたのはハクセンの使節団だ。たしかハックツベルト家のラザニア中位爵だったはずだ。胸の名札を見ると今回の使節団の団長のようだ。
挨拶に行こうとすると例の二人が同行すると言ってきた。どうやら知り合いがいるらしい。ラザニア爵と挨拶をすると、二人の方を見てハクセン語で声をかけていた。どういうことだ?ハクセン語は少しわかるが、どうも知り合いのようだ。かなり親しげに話している上、彼の父の名前だけでなく、ルイドルフ爵の名前まで出ている。
会話が一段落したところで改めて紹介されるが、ハクセンで彼の父だけで無く、ルイドルフ・ラクマニア爵とも交友があったらしい。ハクセンのトップの二人と言われる二人と交友があるだと?
そう思っていると他から二人を呼ぶ声が上がった。見てみるとなんとジョニーファン様だった。今回はこの方も参加しているのか?そう思っているとまたもや二人と会話を始めた。そのあと紹介を受けたが、ちゃんと人物を選んだと言われて驚いた。
あとで二人に話を聞くとアルモニアにいたときにジョニーファン様を含めて今回の使節団に参加した人たちといろいろと議論をしていたらしい。ジョニーファン様には他の使節団も遠慮して声をかけられない状態なのに、私たちが普通に話をしているのでかなり注目を浴びてしまったぞ。
出発前に国王陛下から言われたことを改めて思い出す。
「ジュンイチとジェニファーの交友関係には驚くかもしれないが、二人にとっては利害関係ではなく、親しくしてもらっている人達と考えているので、余計なことは考えない方がいい。」
国王陛下が言われていたのはこういうことだったのか。二人は特にかしこまるわけでもなく、礼節は守っているが、普通に話をしているのだからな。これだけでも二人がこの使節団にいる価値があるというものだ。
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