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106. 異世界2365日目 古代兵器との戦い
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106. 異世界2365日目 古代兵器との戦い
「ジュンイチ様とジェニファー様にはアムダのハッチの開放と核の破壊の役割を担ってもらいます。」
最終決定された作戦に自分たちも参戦することとなった。このため、選抜された討伐隊の人たちと一緒にしばらく訓練を行うことになる。
討伐隊は自分たち以外はアウトラス帝国の精鋭で編成されている。他国からの協力要請もあったみたいだけど、やはり連携などのことを考えて普段から一緒に行動しているメンバーの方がいいだろうと言うことになった。言葉の問題もあるからね。
ちなみにジェンはかなり普通に話せているが、自分は片言なので戦闘に関わる言葉を優先して覚えている状態だ。
最初に自分たちの能力を確認してもらうため相手をしてもらったんだけど、やはり全力でかかっても相手になるものではない。相手をしてもらっているのは騎士団の団長なんだから当たり前だけどね。
「突撃の能力については目を見張るものがある。これを使えば最後のとどめを刺す際には使えるだろう。あと隠密の能力についてもかなり高いな。魔道具を使えばまず悟られることはないだろう。」
隠密の魔道具について説明したところ、魔道具に使う魔獣石についてはある程度提供してくれることになったので助かった。さすがに最高出力の性能については見せられなかったけどね。それでも普通の魔道具よりも性能はいいようだった。
ちなみに最高出力で使えば気がつかれずに使えるのではないかという話もあるが、魔力を貯めたところで察知されることを考えると危険すぎるんだよね。古代兵器の索敵能力は不明のままだし。
討伐隊に参加する兵士は全部で32名。いずれも優階位以上の実力を持っている人たちで、兵士の中でも精鋭と言っていい。この人達が4人ずつの6チームとなり、2チームずつが3交代で波状攻撃をかけていくようだ。そして離れたところに治癒魔法の担当4名が待機して治療に当たる。
あと2名ずつが自分たちの護衛として一緒に突撃することになる。自分たちは少し離れたところから状況を確認し、行けるタイミングで兵器にとりつくという手はずとなっている。
もちろん兵士の攻撃だけで倒すことが出来れば一番いい。動かなくなった後に核を破壊すればいいだけだからだ。
ただ核を破壊するチャンスがなければ他の兵士のことはかまわず撤退するようにいわれる。おそらく今回の陣容で倒せななくても、次の機会のために核を破壊する手立てを残さなければならないと考えているのだろう。
戦いの日程は今から15日後と決まった。もちろん訓練の状況と、天候によりずれる可能性はあるが、それまでに動きについて何度も確認することとなった。
前に古代兵器と戦った冒険者達から意見を聞きながら戦い方を確認しているようだ。そのときよりも強くなっている可能性もあるが、戦い方には大きな差が無いだろうと言うことで戦い方の調整を行っていた。自分たちも連携についての確認を行うが、それ以外にも基礎的な訓練も行う。
この訓練とは別に古代兵器が放つ光魔法についても議論を行った。光魔法を受けた跡を確認してみたところ、熱で焼け焦げたような感じだった。試しに威力は弱いがレーザー光線の光魔法を使ってみたところ似た感じにはなったけど、魔法防御で全く防げなかったと聞いているので魔法ではないのかもしれない。
光を凝集しているのか、波動を出しているのかというところか?地球でもレーザー光線は実用化されていないので正直なところ原理が分からない。魔法ではイメージだけでやっているから使えるのであって、原理まで考えると無理だろうな。
今のところ魔法防御ではなく、普通に物理的な防御として考えるべきだと言うことと、目を攻撃されないように注意することくらいかな。
相手の動きや、動きを封じたときの状況によっていくつかのパターンが決められ、それによって自分たちの動きも変わってくる。まあどっちにしろ攻撃するのは最後になるのは間違いないけどね。
先に護衛の人たちに突撃してもらい、そのあと、自分たちが突撃のスキルを使って一気に接近するというのが基本だ。そのときに攻撃を受けた場合、護衛の二人が身体を張ってでも防御するので核の破壊に集中するように言われている。
問題は核を破壊した後がどうなるかだ。よくあるように爆発してしまう可能性も否定できない。とりあえず転移で逃げるようにはしておくつもりだけど、一緒に戦う兵士達はどこまで逃げることが出来るかは不明だ。最悪、全員亡くなってしまうかもしれないな。
このことについてはすでに情報共有しており、核の破壊を出来たところで、飛翔の魔道具で出来るだけ遠くに逃げることになっている。
~ジェンSide~
今回の遠征に行く前に、どこまで話をするかイチと話し合った。特に魔獣石の破壊についてはね。島の遺跡で核の破壊について書かれているのを見てからいろいろと試してみたところ、破壊できるようになっていたからだ。
ただこれが今のこの世界の人たちに可能かと言われると無理だろう。もしそれを出来るようになるとすればかなりの科学の知識が必要となってくるからだ。そもそも説明しても理解できない可能性もあるし、教えていいのかも分からない。それ以前に私たちもちゃんと理解していないことだから難しいのよね。
そして核の破壊が出来ることを伝えてしまったら、おそらく古代兵器の討伐に私たちはかり出されるだろう。もちろんそのまま倒すことが出来れば問題は無いけれど、わざわざ他の国に助言を求めてくるという時点で難しいと考えられるわ。
「古代兵器の討伐に参加してって言われたらどうするの?」
「うーん、そのまま倒すことが出来るなら問題は無いんだけど、倒せないと判断されたら核の破壊をする方向に考えるよね。そうなったら参加せざるを得ないかなあ・・・。」
「死ぬ可能性があっても?」
「自分が死んでもみんなが助かるのならと言う自己犠牲の考えはないけどね。申し訳ないけど、もし無理と思ったら逃げようと考えているよ。転移魔法を使えばぎりぎりでも逃げることが出来ると思うんだ。」
「たしかにその手はあるわね。」
「もちろんそれでも絶対に死なないという保証はないけど、下手したらまたこの世界が滅んでしまう可能性もあるわけだからね。こっちの世界に来てからいろいろ助けてもらった人たちへの恩返しをしたいと思っているんだ。
当然ぎりぎりまで戦うし、みんなを見捨てるという訳じゃないよ。でもいざというときには逃げるという選択肢は先に考えておくべきだと思うんだ。特に討伐で倒せなかった場合、古代兵器を倒すと言うことはかなり厳しいと言うことになるし、もし自分たちがいなくなれば核を破壊する手段がなくなってしまうと言うことになるからね。
もし転移してしまったとしても、道しるべの玉を持っていたと説明すればどうにかなると思うんだよ。転移先はサクラにしておけばいいと思うからね。」
「申し訳ないけど、そうした方がいいかもしれないわね。」
「ああ。だからもし核の破壊と言うことになれば協力はしようと思っているからね。」
「わかったわ。そのときはもちろん私も参加するわよ。いくら言ってもこれは譲れないわ。」
もしかしたらイチは自分だけ参加するつもりだったかもしれないけど、そんなつもりはないからね。
「わ、わかったよ。」
このあとヤーマン国王陛下に説明した後、アウトラス帝国に行くことになったのよね。まさかこんな形でアウトラス帝国に行くことになるとは思わなかったわ。
飛行艇は思ったよりは快適だったわ。ちゃんとカーテンで仕切ってくれるし、シートもいい物だったからね。スペースが狭いのはしょうが無いけど、防音魔法とかもあるから、ある意味地球の飛行機よりは快適なのかも。
アウトラス帝国の王都はさすがに栄えていたわ。サクラよりも大きいという感じがするわね。護衛が付いたけど、折角だからとイチとのデートを楽しんだわ。なんとなく故郷と雰囲気が似ているのも良かったわね。
会議にはデリアンとカルアがやって来ていたのには驚いたのよね。しかも二人は結婚したことを聞いて驚いたわ。カルアに聞くと、ちょっとだまし討ちみたいな感じで結婚することになったようだけど、お互いに好きだったことが再確認できたみたいで幸せそうだった。
打ち合わせでは古代兵器の驚異についての説明を受けた。このままだと誰も倒せなくなってしまう可能性もありそうなのよね。今はこの大陸だけだけど、他の大陸に移動しないという保証はないわ。飛行能力が無いとも言い切れないからね。
予想通り核の破壊についての話になったのだけど、やっぱり他の誰にも破壊することは出来ないようだった。イチが目線を送ってきたのでうなずいて同意したわ。やっぱりこの世界を見殺しにすることは出来ないからね。
~~~~~
明日は晴れと言うことなので予定通り討伐に向かうことになった。今日は一日自由にしていいと言われたんだが、特に出かける気もおきなかった。折角なので宿の部屋で二人でのんびりと過ごす。
「ジェン、大丈夫?」
「イチこそ大丈夫なの?」
「まあ不安がないと言えば嘘になるけど、今更逃げるわけにもいかないよね。」
「まあそうね。核を破壊できなくても普通に討伐してくれれば問題ないけど、もしこれで倒せないと言うことになったら下手したらこの世界の人には倒せないと言うことになってしまうわよね。」
「ああ、そうなったらどのくらいの犠牲が出るか分からないことになるよ。今まででも少なくない村や町で被害が出ているみたいだしね。どうやってターゲットを決めているのか分からないけど、徐々に王都に向かってきているようだからなあ。」
「今回の戦いでけりを付けたいところよね。」
やはり気持ちが高ぶっているのか、明日のことを考えると不安になるのか、明日は戦いというのにジェンを求めてしまった。ジェンも必死に自分を求めてきたので気持ちは同じなのかもしれない。やはり心配なのだろう。結局お昼も食べずに求め合い、気がついたら夕方になっていた。
治癒魔法で回復してから部屋に食事を運んでもらって早めの夕食をとる。こっちの食文化はパンと肉が中心のようで、イメージだけだとアメリカという感じだ。ジェンに聞いたらそこまで間違っていないようだった。
かなり大きなステーキを食べたんだけど、良階位の巨角牛の肉だったようだ。食事代は国が持ってくれているので気にしなかったけど、結構な値段だろうな。メニューに値段の記載が無いから分からないんだよな。
食事の後はお茶を飲みながらのんびりと過ごし、早めに眠りに就いた。さすがに興奮しているのでそのままでは眠れないと思い、魔法を使って眠りにつく。
翌朝早めに起きてから準備をしてロビーに行くと、すでに車が到着していた。車に乗って王宮に移動すると、他の兵士達も集まっていた。
少ししたところで整列するように言われたので他の兵士に倣って並んで待つ。少し離れたところには各国からの使節団の人たちも並んでいた。しばらくしてこの国の皇帝であるアウトラス・クリアサトスがやって来た。激励にやって来たのだろうか?
「兵士達よ、そして冒険者達よ。今回の討伐に志願してくれたことに感謝する。
君たちの肩にこの国、いやこの世界の命運がかかっている。そのような・・・・
・・・
必ずややり遂げてくれるものと信じている。」
思ったよりも長い激励の言葉があったが、兵士達は皇帝からの直接の言葉に感激しているようだ。まあ普通は簡単に会うことが出来ないみたいだからね。
「ジュンイチさん、ジェニファーさん。がんばってくれ。」
謁見の後、マスカさんやジョニーファン様達から激励を受けて飛行艇に乗り込む。他にも兵士達の家族達が見送りに来ているようだ。もう戻ってこれない可能性もあるので、見ていてかなり心に来るものがある。小さな子供を抱えている奥さんもいるしね。
志願兵と言いつつもやはり命令を断ることは出来なかった人もいるだろうな。まあもし倒せればそれだけの栄誉を手に入れることが出来るだろうけど・・・。
現地に到着するまで飛行艇で2時間ほどかかるようなのでそれまでは仮眠をとっておくことにした。他の人たちは瞑想している人や話をしている人や黙って外を眺めている人などいろいろだ。
到着したのは森の近くにある平原だ。どうやらアムダはこの森の中で狩りをしているみたい。森にいるのは高階位までの魔獣らしいのでそれほど強いわけではないようだ。
最終的な布陣の確認をしてから配置についてからしばらくすると見張りに出ていた兵士が戻ってきた。そのあと少ししてからアムダの姿が現れた。どうやら魔獣石をえさにおびき寄せているみたい。やはり魔獣石に反応するのか?
「あれか、思ったよりも大きいな。」
遠いのではっきりとは言えないけど、高さは自分の身長よりも遙かに高そうだ。上から振り下ろされる攻撃はかなり危なそうだな。
アムダが所定のところまでやって来たところで突撃隊が突っ込んでいった。ちなみに落とし穴などの罠は何度か試したようだけど、無駄だったらしい。
まずは2チームが攻撃に加わり、2チームはすぐに変われるように少し離れたところで待機、もう2チームは治癒班の護衛を兼ねて待機している。交代した後は治癒班の治療を受けながら護衛をする形となるようだ。
自分たちは一定距離をとって隠密を使って潜伏する。自分たちの実力では混ざっても足手まといになるだけだからね。
アムダの動きもかなり速いけど、スピードだけなら兵士の方が上回っているようだ。頭上にある4つの剣が振り下ろされるけど、うまく躱している。受けてしまうと防具の方がやられるから、基本的に躱すしかない。
ただ攻撃してもはじかれてしまう感じでダメージが入っているようには見えない。攻撃する人たちもそれは分かっているので、焦ったそぶりもなく、着実に攻撃を加えている。
今回の討伐に際して古代遺跡から発見されたオリハルコンの武器の強度について調査が行われた。オリハルコンの剣については現在のオリハルコン合金ではほとんど効果が得られなかった。まったく歯がたたないわけでは無かったけど、実際の戦闘を考えると剣の破壊は無理という結論となった。
それではオリハルコンでコーティングされたところについてどうかと検討した結果、こちらであればまだ対応出来るだろうと言うことだった。もちろんどのくらいの装甲かにもよるが、剣のたたきつける角度などを考慮して同じ場所を攻撃していけば少しずつであるが内部の金属の方にダメージを与えられるだろうと言うことだった。
4人が同じタイミングで攻撃を仕掛け、攻撃できる人が攻撃を加えていく。アムダが4つの剣を持っているとは言え、4人を同時に攻撃できるわけではないからね。
事前によける方向もある程度決めているようなのでぶつかってしまうようなこともないみたいで、うまい具合にアムダを翻弄している。
武器はオリハルコンとミスリルの合金だけど、これを収納バッグや収納魔法でかなりの数持ち込んでいる。このため刃がだめになった場合はすぐに取り替えて攻撃するようになっている。とにかく回数で攻撃するしか無いため、今回のような交代制の攻撃となった。
あとは時間的に5分に1回くらいの間隔で例のレーザーのような攻撃を受けている。威力はそこまで強くはないけど、攻撃範囲が広いのが問題だ。さすがによけられないので攻撃を受けてしまい、このタイミングでチームが交代しているようだ。
自分たちは隠密のスキルを使ってできる限り近いところで見ているんだが、手を出せないのがちょっともどかしい。
何度も交代して攻撃を加えていったあと、やっと足の一本を断ち切ることが出来たようだ。足が1本無くなっても動きは特に遅くなった感じはしないけど、徐々に足を切り落としていく。これだったらこのまま討伐できるか?
そう思っていたんだけど、足の数が残り4本になったところでレーザー攻撃の後、形態が少し変化した。切られた脚6本の残った部分は少し収納されて、まるでもともとその形だったように4足歩行の形態になった。切られた6本は予備の足だったのか?たしかに足の作りが若干違うようにも感じていたけど・・・。
上の剣の振り下ろす有効半径にすべて入ってしまったせいか、足への攻撃がほとんど出来なくなってしまった。かといって振り下ろされる剣とまともに打ち合うとすぐに剣がだめになってしまう。何度も攻撃を繰り返すが、なかなか決定打を与えられない状態になってしまった。
まさかどこかの漫画やゲームのように真の姿を現したというような事があるとは・・・。まだまだ変身の余地を残しているとか言うのはやめてよね。
ここで作戦が変更になったようで、自分たちにも緊張が走る。やはりこのままでは倒せないと思ったのだろう。
6組のチーム全員が一斉に飛びかかり、剣を押さえ込みに行った。身体を貫かれている人もいるが、そのまま抱きついて動きを止めている。そのままだと切り裂かれてしまうので、古代遺跡で見つかったオリハルコンの武具で剣の部分を押さえ込むようにしている。ただふりほどかれてしまうのも時間の問題だろう。
ここで自分たちの護衛の4人が先に突撃し、兵器に近づいたところで自分たちも突撃で一気に間合いを詰めてから、兵器の背中に飛び乗る。先に移動していた護衛の人たちはアムダの足で吹き飛ばされていたが、その隙を突いて飛び乗ることが出来た。
ハッチの場所を確認し、鑑定で埋め込まれた金属を判別して錬金術で取り除く。すぐにハッチを開けようとしたがなぜか開かない。
「なぜだ?」
金属は取り除いたはずなんだが、ハッチが動かない。
「勘弁してくれ!!」
さらに力を込めるとやっとハッチが開いた。金属の封印とは別にフックのようなもので固定されたみたいだった。
「ジェン!!」
ジェンと二人で中にあった核に魔力を込める。
まだか?
まだか?
しばらくすると核にひびが入り、ついに霧散した。
「よし!!核の消失を確認!!離散!!!」
大声で他の人たちに伝える。
アムダの動きが少し鈍くなったようだ。怪我をした人も含めて飛翔魔法でアムダから離れ出す。自分たちもと思ったところでアムダの身体から光攻撃が放たれた。
「そんなに時間が経っていた!?」
威力は弱かったみたいだけど、まともに攻撃を受けてしまった。地面にたたきつけられたところで、上から何かが降ってきた。
「ぐぁっ!!」
何かと思ったらアムダの身体が倒れかかってきたようだった。押しつぶされはしなかったが、足が挟まれてしまっている。
「嘘だろ!!」
さらに兵器からいやな光があふれ始めた。
「これって・・・。」
この光って絶対にいいものじゃないよな。
「ジェン、転移するよ!!」
「ええ!!」
転移をしたつもりだったが、視界が変わらない。なにか妨害が出ているのか?くそ!!
「ジェン!!逃げて!!」
重量軽減魔法も妨害されているのか全く効かなくて持ち上げることが出来ない。ふと見るとなぜかジェンが逃げずにそばにいた。
「ジェン、なんで?」
「一人じゃ、いやだよ・・・。」
ジェンが抱きついてきた。
だめか・・・。自己犠牲なんて絶対いやだと思っていたけど、それでもこの世界を救えたのは良かったのかなあ。ごめん、父さん、母さん、ジェン・・・。
~~別視点~~
ドォォォォォォ~~~~~~~ン!!!!!!
アムダとの戦いが行われていたところで大きな爆発が起きた。冒険者の二人が古代兵器に飛びついたあと、しばらくして振り落とされたと思ったところで古代兵器から閃光が発せられた。
例の光魔法かと思ったがそうではなかったようで、爆音とともに辺りは土煙で覆われてしまった。爆発の直前に兵士達は逃げ出したが、冒険者を含めて何人かは逃げられずにその爆発に巻き込まれてしまったように見えた。
今回、我々は戦いの監視のためにやって来ていた。アムダの討伐の結果如何にかかわらず、戦闘内容を克明に記録し、失敗した場合には次に生かすための報告をするのが我々の仕事だ。
どのような結果になろうとも手出しをせず、ただ見守るだけであり、そしてその結果を報告することが最重要の任務だ。
突撃隊の戦闘は当初からかなり激しいものとなった。ただ事前にアムダの動きについて報告があったとおりだったため、多少の能力アップにもかかわらずどちらかと言えば圧倒していた。
予定通り足の部分への攻撃に集中し、少しずつではあるが、足にダメージを与えていった。とりあえず動きさえ止めてしまえばどうにかなるという考えからだ。
しかし、順調に見えたのは途中までだった。確かに足は切られていたのだが、アムダの動きを見るとそこまで気にしていないような感じだったのだ。防御できそうな場合でも特に気にせずに攻撃を加えていたように見えた。
もともと4本の足だけがあれば問題なかったのだろう。残りの足は移動するときの補助の役目であり、実際は無くても困らないものだったのかもしれない。
4本足になった後、いくら攻撃してもほとんど身体に傷を付けることが出来なくなったしまった。しかも前よりも間違いなく剣の交換頻度が上がっていた。残った足の強度は他のものよりも上だったのかもしれない。
戦闘による討伐は無理と判断したのか、合図とともに突撃隊全員がアムダに突撃した。その中の4名が切られないように剣を身体に受けてオリハルコンの道具で剣の動きを固定し、他のメンバー達も身体を張ってなんとかアムダの動きを止めることができた。
この瞬間を例の二人の護衛がアムダにとりつき、すぐ後にジュンイチとジェニファーの二人がアムダの身体にとりついた。このあとしばらくしてハッチを開けることが出来たらしく、核の破壊に成功したように見えた。
兵士達は飛翔の魔道具を使ってアムダから離れだしたが、すでに動かなくなっていた兵士達もいた。冒険者の二人も逃げだそうとしたようだが、兵器からの攻撃を受けてしまったようだ。
このあとジュンイチがアムダの下敷きになってしまったようで、なぜか無事だったジェニファーも逃げずにジュンイチに寄り添っていた。そのあと光と爆音に包まれたのだ。
アムダを倒すことが出来たのか?それとも失敗してしまったのか?索敵をしてみるが、古代兵器に索敵は効かないため分からないが、突撃隊のメンバーの気配はいくつか感じる。
しばらくすると土埃がはれてきた。先ほど兵器がいた場所には兵器の姿はない。倒したのか?
監視者の中から二人に指示を出して一緒に爆心地に近づいもらう。付近にはいろいろな破片が飛び散っているが、兵士達の者ではなく、兵器の破片のように思われる。爆心地は大きな穴になっていてその中心に古代兵器のばらばらになった残骸も転がっているようだ。
おそるおそる近づいてみると、残っているのはオリハルコンの部分だろうか?骨のようなところが残っているが、もう動きそうにはない。
「倒したのか?」
誰かが声をあげる。
「倒したぞ。やってくれたぞ!!!」
大きな歓声が上がった。私も古代兵器の残骸を見て確信した。
しばらく歓声に包まれた後、ふと我に返って突撃していった人たちのことを思い出した。
「突撃隊の人たちは?」
その言葉で先ほどの歓声が静まった。みんな分かってしまったのだろう。この討伐を成し遂げた犠牲のことを・・・。
連絡を受けた人たちも一緒になって辺りの捜索を行った。討伐隊のうちの多くは吹き飛ばされていたが、息がある者も多かった。すぐに簡易テントの中に運び込まれ、駆けつけた治癒士達により治療が行われた。
すでに遺体として見つかったものもいたが、遺体の見つからない人もいた。あの爆発で完全に吹き飛んでしまったのだろうか?
このあと捜索はしばらく続けることになったが、今回のことを通信で先に報告をする。
「突撃隊兵士32名と冒険者2名は目的を遂行。無事にアムダを破壊。現在負傷者の治療をしつつ、捜索を続けています。」
あとの捜索は残るもの達に任せて、私は王都へと向かった。王都に到着して王宮へ向かうとすぐに謁見することとなった。ここで改めて報告を行う。
「監視隊隊長のライハンと申します。アムダの討伐についてご報告いたします。
03000に予定通り討伐作戦を開始。突撃隊がアムダに突入。
激しい攻防が行われ、当初の予定通り足への攻撃を中心に戦闘を継続。
03024にアムダの足1本目を破壊。
03035にアムダの足2本目を破壊。
03048にアムダの足3本目を破壊。
03053にアムダの足4本目を破壊。
03066にアムダの足5本目を破壊。
03072にアムダの足6本目を破壊。
03073にアムダが形態を変化。
形態変化によりアムダの戦力アップ。
03078にプランBにて突撃を敢行。
03079に冒険者2名が兵器にとりつき、核の破壊開始。
03081に核の破壊に成功。兵器から閃光が見られ爆発を確認。
爆発後、爆心地でアムダの残骸を目視。破壊されたことを確認。
現在も引き続き周辺の操作は続けていますが、現在のところ負傷者が26名、遺体回収が6名、行方不明2名です。爆心地に近かったと思われる遺体はかなり損傷がひどく、判別が難しいですが、遺体はすべて兵士のものと推測されます。
行方不明と判断されているのは冒険者の2名です。はっきりとは分かりませんが、倒した兵器に挟まれて身動きが出来なかったと思われます。爆発の中心付近にいたため、回収不能な状態まで吹き飛んでしまった可能性は否定できません。」
「ご苦労。」
このあと皇帝は高らかに宣言された。
「大きな脅威は去った。これでもう古代兵器を恐れることはないだろう。
しかしこの脅威のためになくなった者達のことを忘れてはならない。そしてこの脅威を取り去ってもらった者達のことを忘れてはならない。兵器を倒すために尽力してくれた我が国の兵士、そして二人の冒険者を忘れてはならない。
そしてこのような同じ過ちは絶対に起こしてはならない。
古代兵器の脅威を今一度確認しなければならない。再び古代兵器が稼働しないようにしなければならない。今回のことは世界に伝えるべきであろう。」
各国からの使節団を見送った後も、古代兵器に関する調査は続けられた。そしてアムダが出現したと思われる付近で古代遺跡が発見された。
すでにかなり破壊されていたが、残っていた資料からここで古代兵器が復活したと結論づけられた。今回稼働した古代兵器はアウトラス帝国に50年前に滅ぼされた国の一族が秘密裏に起動したものだったと推測された。
遺跡に残された文献からその遺跡はその国の王族に代々伝わっていた遺跡らしく、再び国を興すために古代兵器の力を借りようとしたようだ。
過ぎた力は身を滅ぼすと言うことだろう。遺跡はすべて破壊されており、古代兵器の起動に関わる資料もほとんどが焼け落ちていたのはある意味良かったのかもしれないと個人的には思っている。
というのも古代兵器が小型の兵器を生み出すことが出来るという記述があったからだ。もしあの兵器より劣るとはいえ、眷属のような兵器が生み出されていたとしたらと考えると恐ろしくなってしまう。再び世界が滅びていた可能性もあるのだ。
今回古代兵器の核を破壊できるという冒険者がいたからこそ倒すことが出来たが、もし彼らがいなかったらどうなっていたことか・・・。我々は古代兵器におびえながら生きていかなければならなくなっていたかもしれないのだ。
~クリストフSide~
アウトラス国から今回の顛末が世界に発信された。今回の古代兵器の復活した経緯、古代兵器による被害、そして今回の討伐が無かった場合の予想される世界の未来の姿。予想された未来はかなり衝撃を与える内容だった。アウトラス国だけにとどまらず、世界中の国がその被害を受ける可能性もあったのだ。
本当かどうかは今となっては分からないが、以前滅んだ国の末裔が隠されていた古代兵器を復活させてしまったと説明があった。ヤーマンにもあったものなのであながち間違いでも無いのかもしれない。ジュンイチ達が言うにはあそこの古代兵器の復活は無理だと言うことだったがな。
今回の討伐に尽力した英雄達のことも同時に伝えられた。アウトラス帝国の兵士の中にヤーマンの冒険者二人の名前があることに多くの人が驚いていた。
アウトラス帝国は今回の犠牲者に黄玉章を送ることを発表した。そして彼らを知る人たちは彼らの業績をたたえながらも悲しんだ。
今回おそらくあの二人がいなかったら倒すことが出来なかったのではないだろうか?二人の過去のことはよく分かっていないが、いきなりこの世界に現れたような二人だった。もしかして神が今回のために使わしてくれた人物だったのだろうか?
ただかすかな希望も残っていた。回収された残骸からは二人の装備と思われる残骸が見つかっていなかったのだ。装備はオリハルコンとミスリルの合金であることは分かっていたため、古代兵器の残骸が残っているのであればそちらも残っていてもおかしくないと言われているからだ。
ヤーマン国では二人の英雄のために国を挙げての追悼の儀が行われた。二人の多くの知り合いも駆けつけてきたようだ。彼らを招待して一緒に二人のことを語り合った。
~~~~~
目を覚ますと真っ白い世界にいた。死後の世界だろうか?やっぱりあのまま死んでしまったのだろうか?
ふと見ると、ジェンが抱きついたままだった。一緒に死んだからあのときのまま死後の世界にやって来たのかな?でも前にこっちの世界にやって来たときと同じような感じだな?
そう考えているとジェンも目を覚ました。
「おはよう?」
「イチーーーーっ!
生きていたの!?
アムダはどうなったの?」
ジェンは泣きながら胸にすがりついてきた。
「ごめん、正直なところどうなったのか分からないんだ。それ以前になんか変な世界にいるんだよね。死後の世界なのかな?」
少し落ち着いたのか、ジェンは辺りを見回している。
「なんか前に転移したときと同じような感じね。このあとスイサイさん達がいたところに行くのかしらね?」
そう思っていると目の前に人の姿が現れた。女性みたいだが、どこかで見たような感じもする。ライハンドリアの教会の正装のような衣装を着ていた。ただなぜか霞がかかったような感じではっきりと見ることが出来ない。
「姿を見せるのは初めてですね。このライハンドリアの神の1柱のアミナです。」
「「アミナ神ですか?」」
どこかで見たような気がするのは教会などの像で見ていたからだろう。
「はい。
驚いているかもしれませんが、今回のことについて説明させていただきます。
まず最初に言っておきますが、あなた方は死んだわけではありません。こちらの世界に来るときにきたところと同じような空間にいます。」
「そ、そうなのですね。ということはちょうどもとの世界に戻るタイミングだったと言うことですか?」
「そういうわけではないのですが、まずはお礼が先ですね。
この世界を救ってくれてありがとうございます。あの古代兵器は無事に破壊されました。」
「よかった。倒すことが出来たのですね。」
「あの古代兵器はもう二度と動くことはなかったはずなのです。あくまで古代を滅ぼした恐ろしいものがあったということを知らせるために存在していました。世界のいくつかの遺跡に残っていますが、すべて稼働しないようになっていたはずなのです。
もしあなた方がいなければこの世界は再び滅びていたかもしれません。今の人類にはたとえ1体の古代兵器でも倒すことが出来なかったでしょう。もしあの兵器の機能がすべて回復してしまったら眷属を作り出してさらに被害は広がっていたことでしょう。
実は2年ほど前にあなた方がもとの世界に戻る話が来ていたのです。ただ古代兵器が復活してしまう危険性があるとわかり、元の世界に戻ることを遅らせてもらいました。
もしもの場合、あなた方だけは元の世界に戻せるということでぎりぎりまでがんばってもらおうと考えたのです。
残念ながら私たちが直接地上世界に手を出すわけにはいかなかったのです。そのために利用させてもらい、申し訳ありません。」
「ま、まあ死ななかったからいいけどね。兵器も倒せたみたいだったから良かったし。」
「もし言われるように、古代兵器によってこの世界が滅びてしまっていたら悲しすぎるわ。」
ジェンも倒せたことにほっとしているようだ。
「転移できなかったのはそのせいだったのですか?」
「いえ・・・、あまり詳しくは話せませんが、古代兵器に施された魔法の使用を抑制する付与魔法のためです。」
「そうなんですね。」
たしかに当時のことを考えると転移魔法とか使えないようにしておかないと戦闘中に簡単に逃げられてしまうよな。魔法がほとんど効かなかったのもそのあたりの影響があるのかもしれないな。
「それでは改めて転移の話をさせていただきます。
このあと元の世界に帰る手続きを進めさせていただきます。このため今まで出会った人達にもう会えなくなってしまいますが、夢という形で簡単な伝言だけは伝えることが出来ます。何か伝えたいことがあれば言ってください。
そしてこれははじめに説明されていたことだとは思いますが、もとの世界に戻ったらこの世界での記憶はなくなってしまいます。」
「どのくらいの記憶がなくなるのでしょうか?」
「それは正直わからないのです。通常はこのような説明もなく、元の世界に戻されるものなのです。
ただ元の世界に関わる知識は残り、この世界に関する知識は無くなることになっていますが、どこまでなるかはわかりません。」
「ジェンとの思い出もすべて消えてしまうのですか?」
「なんとなくは記憶に残ると思いますが、確約は出来ません。」
「少しでも記憶を残すことはできないでしょうか?このまま忘れてしまうなんて悲しすぎます。」
「そのことは確認をとりましたが、やはり無理という返答でした。詳細はあのときの担当者が説明するようですのでこのあとで確認してください。ここでこの世界とはお別れとなりますので先ほどの件を先に考えていただきたいと思います。」
アミナ様に伝える内容と伝える相手をお願いする。
「ライハンドリアの神はあなたたちの行動に感謝します。向こうの世界でもがんばってください。」
「いえ、こちらこそいろいろとありがとうございました。」
「ええ、ほんとうにありがとうございました。」
視界が変わり、前に来た役所の受付のようなところに転移した。
「お久しぶりです。」
そこにはスイサイさんが立っていた。
「今回はいろいろとご迷惑をおかけしました。お二人に簡単な状況を説明したいと思いますのでこちらにどうぞ。」
ジェンと一緒にテーブル席に案内され、今回のことについて状況を説明してもらった。書類の確認ミスによる遅延が主な理由らしいが、あまりにもお粗末だなあ。
「まあ年をとるわけでもなかったし、その点についてはいいんだけど・・・。」
「ええ、イチと出会うことが出来てある意味よかったと思っているくらいだからね。」
「ただ記憶がなくなると言うことはどうにかならないですか?」
「残念ですが記憶を残すと言うことはそう簡単に認められない理由があるのですよ。
詳細は話せませんが、他の世界の知識を変に持ち込まれると世界のバランスが壊れてしまう可能性があるのです。このため記憶を封印するというわけではなく、削除することが決まっているのです。」
「それではその情報を他に漏らさない、もしもの場合は記憶を削除すると言うことでもだめなのでしょうか?」
「申し訳ありません。」
「今回そちらのミスでこんな事になったわけでしょう?それについての補償はなにもないということなんですか?」
「普通であれば賠償責任と言うことでこちらの要求を少しは認めてくれるものじゃないかしら?今回のミスのことを考えるとあなたの上司の管理責任が問われることになりますよね?それなのに一担当者が説明に来るというのも納得できないことですよね?」
「そ、そう言われましても・・・。」
このあといろいろと話をしたが首を縦に振ってくれることはなかった。ジェンからの責任追及の内容がかなり厳しくてスイサイさんもかなり困っている。
「それでは記憶を削除するわけではなく、封印すると言うことで対応してもらうことは出来ませんか?もし、自分たちが再び出会うことができたときに記憶が戻ると言うことはどうでしょうか?住んでいる場所を考えたらてもほぼ可能性ゼロですが、そのくらいはチャンスをくれてもいいのではないですか?」
「・・・わかりました。一応上に問い合わせてみます。」
なんとか可能性だけは残すことが出来るかな?しばらくしてかなり疲れた顔をしてスイサイさんが戻ってきた。
「それでは二人が出会うことが出来たらという条件で受けることは認められました。ただお互いが同じ空間にいると言うだけではだめですよ。このあたりについては条件を決めさせてもらいます。
今回はライハンドリアの神達からの要望もあり、さらに今までの行動から地球でもし記憶が戻っても悪用しないだろうということを考えての特別処置です。ただしその知識を悪用したり広めようとした場合にはすべて消えてしまうと考えてください。」
「「わかりました。」」
もしもの事を考えてお互いの住んでいたところについて知識として記憶をしていたのが生きてくるかもしれない。そのことを考えていろいろと情報を交換していたのだから。
もし会えなかったら・・・いや、それは考えないことにしよう。せっかくだから最後は笑顔で別れたい。
「そろそろ元の世界に戻る時間となります。最後にお別れを言う時間くらいはありますよ。」
ジェンと抱き合って口づけを交わす。徐々に目の前の視界がなくなっていく。
「「またね!!」」
ジェンも同じ事を考えていたのだろう。さようならじゃないからね。
~クリストフ王爵Side~
二人の夢を見た。古代兵器との戦いで亡くなったと聞いた二人の夢だ。夢の中で彼らは私に話しかけてきた。
「これが最後の挨拶になるかもしれません。
自分たちは死んだわけではないので悲しまなくていいですよ。ただおそらくもう会うことは出来ないと思います。
ただ、離れてしまっても自分がクリスさんの親友であることは変わらないですからね。もしまた会えることがあれば・・・また一緒に楽しみましょう。」
目を覚ますと、夢にしてはかなりはっきりと記憶に残っていた。ほんとうに夢だったのか?
スレイン達に話したところ、同じような夢を見たらしい。もう会えないと思うけど、いろいろとお世話になったことを感謝されたようだ。
この内容については気になっていたのだが、追悼の儀の時に二人の知り合いに集まってもらった際に他にも同じような夢を見たという人が多数いたことが分かった。
きっとこれは夢じゃない。本当に二人からのメッセージで、きっとどこかで生きているのだろう。いつかまた会えるのかもしれない。
~スイサイSide~
宇宙は広い。この広い宇宙には多くの生物が、多くの知的生命体がいる。そう考えているだろう。しかしそうではない。この宇宙は地球という天体の為に作られた世界であり、知的生命体はこの星にしか生まれていないのだ。
数多くの存在する世界はすべてこの星の別の姿なのだ。どのような進化を遂げさせるのか、どのような力を与えるのか、それはその世界を任せられた神と言われる立場のものに委ねられている。
地球という世界では科学の発展を主とし、知的生命体も猿から進化させた種族だった。ライハンドリアは魔法と科学で発展させたが、失敗してしまったのだ。ただまだやり直しのきくレベルだったので、新しい神の意向に沿って、知識を作り替えることで生きながらえたのだ。
そのために龍という神獣を置いたのが功を奏したのだろう。そうでなければこの世界は終わっていただろう。ただし責任をとってそれまでの神は引退してもらい、終わりに近い世界の下働きから初めてもらうことになった。
今回の転移については完全にこちらのミスだ。下手をすればまたあの世界は同じ運命をたどることになっていたかもしれないが、二人が自制してくれたおかげで助かったと言っている。あくまで自然発生的な科学知識のみであり、文明の進歩に大きな問題は無い内容だったようだ。
もし元の世界に戻って魔法の知識が使われてしまったら、今度はあっちの世界が同じことになってしまうかもしれない。
ただライハンドリアの神々からの要望もあり、わずかな可能性ながら記憶を取り戻すチャンスを与えることになった。本当に思い出せると思っているのだろうか?いくら交通が発達した世界とは言え、わずかな記憶を頼りに再び出会うなんて事はほぼないだろう。
期限はこちらに滞在した期間であり、その時間を超えると永遠に記憶は失われてしまうということになった。もし好きな人が出来た後に記憶が戻っても困らないように、どちらかが別の人間を好きになって関係を持った場合も同じだ。
ライハンドリアでの二人の行動について地球の神にも説明したところ、制約はかけられたが許可をもらうことが出来た。
ただこんな事を言ってはだめだが、記憶が戻ってほしいと思っている自分がいる。簡単に記憶を読ませてもらったが、あまりにも純真な二人だったからだ。
「ジュンイチ様とジェニファー様にはアムダのハッチの開放と核の破壊の役割を担ってもらいます。」
最終決定された作戦に自分たちも参戦することとなった。このため、選抜された討伐隊の人たちと一緒にしばらく訓練を行うことになる。
討伐隊は自分たち以外はアウトラス帝国の精鋭で編成されている。他国からの協力要請もあったみたいだけど、やはり連携などのことを考えて普段から一緒に行動しているメンバーの方がいいだろうと言うことになった。言葉の問題もあるからね。
ちなみにジェンはかなり普通に話せているが、自分は片言なので戦闘に関わる言葉を優先して覚えている状態だ。
最初に自分たちの能力を確認してもらうため相手をしてもらったんだけど、やはり全力でかかっても相手になるものではない。相手をしてもらっているのは騎士団の団長なんだから当たり前だけどね。
「突撃の能力については目を見張るものがある。これを使えば最後のとどめを刺す際には使えるだろう。あと隠密の能力についてもかなり高いな。魔道具を使えばまず悟られることはないだろう。」
隠密の魔道具について説明したところ、魔道具に使う魔獣石についてはある程度提供してくれることになったので助かった。さすがに最高出力の性能については見せられなかったけどね。それでも普通の魔道具よりも性能はいいようだった。
ちなみに最高出力で使えば気がつかれずに使えるのではないかという話もあるが、魔力を貯めたところで察知されることを考えると危険すぎるんだよね。古代兵器の索敵能力は不明のままだし。
討伐隊に参加する兵士は全部で32名。いずれも優階位以上の実力を持っている人たちで、兵士の中でも精鋭と言っていい。この人達が4人ずつの6チームとなり、2チームずつが3交代で波状攻撃をかけていくようだ。そして離れたところに治癒魔法の担当4名が待機して治療に当たる。
あと2名ずつが自分たちの護衛として一緒に突撃することになる。自分たちは少し離れたところから状況を確認し、行けるタイミングで兵器にとりつくという手はずとなっている。
もちろん兵士の攻撃だけで倒すことが出来れば一番いい。動かなくなった後に核を破壊すればいいだけだからだ。
ただ核を破壊するチャンスがなければ他の兵士のことはかまわず撤退するようにいわれる。おそらく今回の陣容で倒せななくても、次の機会のために核を破壊する手立てを残さなければならないと考えているのだろう。
戦いの日程は今から15日後と決まった。もちろん訓練の状況と、天候によりずれる可能性はあるが、それまでに動きについて何度も確認することとなった。
前に古代兵器と戦った冒険者達から意見を聞きながら戦い方を確認しているようだ。そのときよりも強くなっている可能性もあるが、戦い方には大きな差が無いだろうと言うことで戦い方の調整を行っていた。自分たちも連携についての確認を行うが、それ以外にも基礎的な訓練も行う。
この訓練とは別に古代兵器が放つ光魔法についても議論を行った。光魔法を受けた跡を確認してみたところ、熱で焼け焦げたような感じだった。試しに威力は弱いがレーザー光線の光魔法を使ってみたところ似た感じにはなったけど、魔法防御で全く防げなかったと聞いているので魔法ではないのかもしれない。
光を凝集しているのか、波動を出しているのかというところか?地球でもレーザー光線は実用化されていないので正直なところ原理が分からない。魔法ではイメージだけでやっているから使えるのであって、原理まで考えると無理だろうな。
今のところ魔法防御ではなく、普通に物理的な防御として考えるべきだと言うことと、目を攻撃されないように注意することくらいかな。
相手の動きや、動きを封じたときの状況によっていくつかのパターンが決められ、それによって自分たちの動きも変わってくる。まあどっちにしろ攻撃するのは最後になるのは間違いないけどね。
先に護衛の人たちに突撃してもらい、そのあと、自分たちが突撃のスキルを使って一気に接近するというのが基本だ。そのときに攻撃を受けた場合、護衛の二人が身体を張ってでも防御するので核の破壊に集中するように言われている。
問題は核を破壊した後がどうなるかだ。よくあるように爆発してしまう可能性も否定できない。とりあえず転移で逃げるようにはしておくつもりだけど、一緒に戦う兵士達はどこまで逃げることが出来るかは不明だ。最悪、全員亡くなってしまうかもしれないな。
このことについてはすでに情報共有しており、核の破壊を出来たところで、飛翔の魔道具で出来るだけ遠くに逃げることになっている。
~ジェンSide~
今回の遠征に行く前に、どこまで話をするかイチと話し合った。特に魔獣石の破壊についてはね。島の遺跡で核の破壊について書かれているのを見てからいろいろと試してみたところ、破壊できるようになっていたからだ。
ただこれが今のこの世界の人たちに可能かと言われると無理だろう。もしそれを出来るようになるとすればかなりの科学の知識が必要となってくるからだ。そもそも説明しても理解できない可能性もあるし、教えていいのかも分からない。それ以前に私たちもちゃんと理解していないことだから難しいのよね。
そして核の破壊が出来ることを伝えてしまったら、おそらく古代兵器の討伐に私たちはかり出されるだろう。もちろんそのまま倒すことが出来れば問題は無いけれど、わざわざ他の国に助言を求めてくるという時点で難しいと考えられるわ。
「古代兵器の討伐に参加してって言われたらどうするの?」
「うーん、そのまま倒すことが出来るなら問題は無いんだけど、倒せないと判断されたら核の破壊をする方向に考えるよね。そうなったら参加せざるを得ないかなあ・・・。」
「死ぬ可能性があっても?」
「自分が死んでもみんなが助かるのならと言う自己犠牲の考えはないけどね。申し訳ないけど、もし無理と思ったら逃げようと考えているよ。転移魔法を使えばぎりぎりでも逃げることが出来ると思うんだ。」
「たしかにその手はあるわね。」
「もちろんそれでも絶対に死なないという保証はないけど、下手したらまたこの世界が滅んでしまう可能性もあるわけだからね。こっちの世界に来てからいろいろ助けてもらった人たちへの恩返しをしたいと思っているんだ。
当然ぎりぎりまで戦うし、みんなを見捨てるという訳じゃないよ。でもいざというときには逃げるという選択肢は先に考えておくべきだと思うんだ。特に討伐で倒せなかった場合、古代兵器を倒すと言うことはかなり厳しいと言うことになるし、もし自分たちがいなくなれば核を破壊する手段がなくなってしまうと言うことになるからね。
もし転移してしまったとしても、道しるべの玉を持っていたと説明すればどうにかなると思うんだよ。転移先はサクラにしておけばいいと思うからね。」
「申し訳ないけど、そうした方がいいかもしれないわね。」
「ああ。だからもし核の破壊と言うことになれば協力はしようと思っているからね。」
「わかったわ。そのときはもちろん私も参加するわよ。いくら言ってもこれは譲れないわ。」
もしかしたらイチは自分だけ参加するつもりだったかもしれないけど、そんなつもりはないからね。
「わ、わかったよ。」
このあとヤーマン国王陛下に説明した後、アウトラス帝国に行くことになったのよね。まさかこんな形でアウトラス帝国に行くことになるとは思わなかったわ。
飛行艇は思ったよりは快適だったわ。ちゃんとカーテンで仕切ってくれるし、シートもいい物だったからね。スペースが狭いのはしょうが無いけど、防音魔法とかもあるから、ある意味地球の飛行機よりは快適なのかも。
アウトラス帝国の王都はさすがに栄えていたわ。サクラよりも大きいという感じがするわね。護衛が付いたけど、折角だからとイチとのデートを楽しんだわ。なんとなく故郷と雰囲気が似ているのも良かったわね。
会議にはデリアンとカルアがやって来ていたのには驚いたのよね。しかも二人は結婚したことを聞いて驚いたわ。カルアに聞くと、ちょっとだまし討ちみたいな感じで結婚することになったようだけど、お互いに好きだったことが再確認できたみたいで幸せそうだった。
打ち合わせでは古代兵器の驚異についての説明を受けた。このままだと誰も倒せなくなってしまう可能性もありそうなのよね。今はこの大陸だけだけど、他の大陸に移動しないという保証はないわ。飛行能力が無いとも言い切れないからね。
予想通り核の破壊についての話になったのだけど、やっぱり他の誰にも破壊することは出来ないようだった。イチが目線を送ってきたのでうなずいて同意したわ。やっぱりこの世界を見殺しにすることは出来ないからね。
~~~~~
明日は晴れと言うことなので予定通り討伐に向かうことになった。今日は一日自由にしていいと言われたんだが、特に出かける気もおきなかった。折角なので宿の部屋で二人でのんびりと過ごす。
「ジェン、大丈夫?」
「イチこそ大丈夫なの?」
「まあ不安がないと言えば嘘になるけど、今更逃げるわけにもいかないよね。」
「まあそうね。核を破壊できなくても普通に討伐してくれれば問題ないけど、もしこれで倒せないと言うことになったら下手したらこの世界の人には倒せないと言うことになってしまうわよね。」
「ああ、そうなったらどのくらいの犠牲が出るか分からないことになるよ。今まででも少なくない村や町で被害が出ているみたいだしね。どうやってターゲットを決めているのか分からないけど、徐々に王都に向かってきているようだからなあ。」
「今回の戦いでけりを付けたいところよね。」
やはり気持ちが高ぶっているのか、明日のことを考えると不安になるのか、明日は戦いというのにジェンを求めてしまった。ジェンも必死に自分を求めてきたので気持ちは同じなのかもしれない。やはり心配なのだろう。結局お昼も食べずに求め合い、気がついたら夕方になっていた。
治癒魔法で回復してから部屋に食事を運んでもらって早めの夕食をとる。こっちの食文化はパンと肉が中心のようで、イメージだけだとアメリカという感じだ。ジェンに聞いたらそこまで間違っていないようだった。
かなり大きなステーキを食べたんだけど、良階位の巨角牛の肉だったようだ。食事代は国が持ってくれているので気にしなかったけど、結構な値段だろうな。メニューに値段の記載が無いから分からないんだよな。
食事の後はお茶を飲みながらのんびりと過ごし、早めに眠りに就いた。さすがに興奮しているのでそのままでは眠れないと思い、魔法を使って眠りにつく。
翌朝早めに起きてから準備をしてロビーに行くと、すでに車が到着していた。車に乗って王宮に移動すると、他の兵士達も集まっていた。
少ししたところで整列するように言われたので他の兵士に倣って並んで待つ。少し離れたところには各国からの使節団の人たちも並んでいた。しばらくしてこの国の皇帝であるアウトラス・クリアサトスがやって来た。激励にやって来たのだろうか?
「兵士達よ、そして冒険者達よ。今回の討伐に志願してくれたことに感謝する。
君たちの肩にこの国、いやこの世界の命運がかかっている。そのような・・・・
・・・
必ずややり遂げてくれるものと信じている。」
思ったよりも長い激励の言葉があったが、兵士達は皇帝からの直接の言葉に感激しているようだ。まあ普通は簡単に会うことが出来ないみたいだからね。
「ジュンイチさん、ジェニファーさん。がんばってくれ。」
謁見の後、マスカさんやジョニーファン様達から激励を受けて飛行艇に乗り込む。他にも兵士達の家族達が見送りに来ているようだ。もう戻ってこれない可能性もあるので、見ていてかなり心に来るものがある。小さな子供を抱えている奥さんもいるしね。
志願兵と言いつつもやはり命令を断ることは出来なかった人もいるだろうな。まあもし倒せればそれだけの栄誉を手に入れることが出来るだろうけど・・・。
現地に到着するまで飛行艇で2時間ほどかかるようなのでそれまでは仮眠をとっておくことにした。他の人たちは瞑想している人や話をしている人や黙って外を眺めている人などいろいろだ。
到着したのは森の近くにある平原だ。どうやらアムダはこの森の中で狩りをしているみたい。森にいるのは高階位までの魔獣らしいのでそれほど強いわけではないようだ。
最終的な布陣の確認をしてから配置についてからしばらくすると見張りに出ていた兵士が戻ってきた。そのあと少ししてからアムダの姿が現れた。どうやら魔獣石をえさにおびき寄せているみたい。やはり魔獣石に反応するのか?
「あれか、思ったよりも大きいな。」
遠いのではっきりとは言えないけど、高さは自分の身長よりも遙かに高そうだ。上から振り下ろされる攻撃はかなり危なそうだな。
アムダが所定のところまでやって来たところで突撃隊が突っ込んでいった。ちなみに落とし穴などの罠は何度か試したようだけど、無駄だったらしい。
まずは2チームが攻撃に加わり、2チームはすぐに変われるように少し離れたところで待機、もう2チームは治癒班の護衛を兼ねて待機している。交代した後は治癒班の治療を受けながら護衛をする形となるようだ。
自分たちは一定距離をとって隠密を使って潜伏する。自分たちの実力では混ざっても足手まといになるだけだからね。
アムダの動きもかなり速いけど、スピードだけなら兵士の方が上回っているようだ。頭上にある4つの剣が振り下ろされるけど、うまく躱している。受けてしまうと防具の方がやられるから、基本的に躱すしかない。
ただ攻撃してもはじかれてしまう感じでダメージが入っているようには見えない。攻撃する人たちもそれは分かっているので、焦ったそぶりもなく、着実に攻撃を加えている。
今回の討伐に際して古代遺跡から発見されたオリハルコンの武器の強度について調査が行われた。オリハルコンの剣については現在のオリハルコン合金ではほとんど効果が得られなかった。まったく歯がたたないわけでは無かったけど、実際の戦闘を考えると剣の破壊は無理という結論となった。
それではオリハルコンでコーティングされたところについてどうかと検討した結果、こちらであればまだ対応出来るだろうと言うことだった。もちろんどのくらいの装甲かにもよるが、剣のたたきつける角度などを考慮して同じ場所を攻撃していけば少しずつであるが内部の金属の方にダメージを与えられるだろうと言うことだった。
4人が同じタイミングで攻撃を仕掛け、攻撃できる人が攻撃を加えていく。アムダが4つの剣を持っているとは言え、4人を同時に攻撃できるわけではないからね。
事前によける方向もある程度決めているようなのでぶつかってしまうようなこともないみたいで、うまい具合にアムダを翻弄している。
武器はオリハルコンとミスリルの合金だけど、これを収納バッグや収納魔法でかなりの数持ち込んでいる。このため刃がだめになった場合はすぐに取り替えて攻撃するようになっている。とにかく回数で攻撃するしか無いため、今回のような交代制の攻撃となった。
あとは時間的に5分に1回くらいの間隔で例のレーザーのような攻撃を受けている。威力はそこまで強くはないけど、攻撃範囲が広いのが問題だ。さすがによけられないので攻撃を受けてしまい、このタイミングでチームが交代しているようだ。
自分たちは隠密のスキルを使ってできる限り近いところで見ているんだが、手を出せないのがちょっともどかしい。
何度も交代して攻撃を加えていったあと、やっと足の一本を断ち切ることが出来たようだ。足が1本無くなっても動きは特に遅くなった感じはしないけど、徐々に足を切り落としていく。これだったらこのまま討伐できるか?
そう思っていたんだけど、足の数が残り4本になったところでレーザー攻撃の後、形態が少し変化した。切られた脚6本の残った部分は少し収納されて、まるでもともとその形だったように4足歩行の形態になった。切られた6本は予備の足だったのか?たしかに足の作りが若干違うようにも感じていたけど・・・。
上の剣の振り下ろす有効半径にすべて入ってしまったせいか、足への攻撃がほとんど出来なくなってしまった。かといって振り下ろされる剣とまともに打ち合うとすぐに剣がだめになってしまう。何度も攻撃を繰り返すが、なかなか決定打を与えられない状態になってしまった。
まさかどこかの漫画やゲームのように真の姿を現したというような事があるとは・・・。まだまだ変身の余地を残しているとか言うのはやめてよね。
ここで作戦が変更になったようで、自分たちにも緊張が走る。やはりこのままでは倒せないと思ったのだろう。
6組のチーム全員が一斉に飛びかかり、剣を押さえ込みに行った。身体を貫かれている人もいるが、そのまま抱きついて動きを止めている。そのままだと切り裂かれてしまうので、古代遺跡で見つかったオリハルコンの武具で剣の部分を押さえ込むようにしている。ただふりほどかれてしまうのも時間の問題だろう。
ここで自分たちの護衛の4人が先に突撃し、兵器に近づいたところで自分たちも突撃で一気に間合いを詰めてから、兵器の背中に飛び乗る。先に移動していた護衛の人たちはアムダの足で吹き飛ばされていたが、その隙を突いて飛び乗ることが出来た。
ハッチの場所を確認し、鑑定で埋め込まれた金属を判別して錬金術で取り除く。すぐにハッチを開けようとしたがなぜか開かない。
「なぜだ?」
金属は取り除いたはずなんだが、ハッチが動かない。
「勘弁してくれ!!」
さらに力を込めるとやっとハッチが開いた。金属の封印とは別にフックのようなもので固定されたみたいだった。
「ジェン!!」
ジェンと二人で中にあった核に魔力を込める。
まだか?
まだか?
しばらくすると核にひびが入り、ついに霧散した。
「よし!!核の消失を確認!!離散!!!」
大声で他の人たちに伝える。
アムダの動きが少し鈍くなったようだ。怪我をした人も含めて飛翔魔法でアムダから離れ出す。自分たちもと思ったところでアムダの身体から光攻撃が放たれた。
「そんなに時間が経っていた!?」
威力は弱かったみたいだけど、まともに攻撃を受けてしまった。地面にたたきつけられたところで、上から何かが降ってきた。
「ぐぁっ!!」
何かと思ったらアムダの身体が倒れかかってきたようだった。押しつぶされはしなかったが、足が挟まれてしまっている。
「嘘だろ!!」
さらに兵器からいやな光があふれ始めた。
「これって・・・。」
この光って絶対にいいものじゃないよな。
「ジェン、転移するよ!!」
「ええ!!」
転移をしたつもりだったが、視界が変わらない。なにか妨害が出ているのか?くそ!!
「ジェン!!逃げて!!」
重量軽減魔法も妨害されているのか全く効かなくて持ち上げることが出来ない。ふと見るとなぜかジェンが逃げずにそばにいた。
「ジェン、なんで?」
「一人じゃ、いやだよ・・・。」
ジェンが抱きついてきた。
だめか・・・。自己犠牲なんて絶対いやだと思っていたけど、それでもこの世界を救えたのは良かったのかなあ。ごめん、父さん、母さん、ジェン・・・。
~~別視点~~
ドォォォォォォ~~~~~~~ン!!!!!!
アムダとの戦いが行われていたところで大きな爆発が起きた。冒険者の二人が古代兵器に飛びついたあと、しばらくして振り落とされたと思ったところで古代兵器から閃光が発せられた。
例の光魔法かと思ったがそうではなかったようで、爆音とともに辺りは土煙で覆われてしまった。爆発の直前に兵士達は逃げ出したが、冒険者を含めて何人かは逃げられずにその爆発に巻き込まれてしまったように見えた。
今回、我々は戦いの監視のためにやって来ていた。アムダの討伐の結果如何にかかわらず、戦闘内容を克明に記録し、失敗した場合には次に生かすための報告をするのが我々の仕事だ。
どのような結果になろうとも手出しをせず、ただ見守るだけであり、そしてその結果を報告することが最重要の任務だ。
突撃隊の戦闘は当初からかなり激しいものとなった。ただ事前にアムダの動きについて報告があったとおりだったため、多少の能力アップにもかかわらずどちらかと言えば圧倒していた。
予定通り足の部分への攻撃に集中し、少しずつではあるが、足にダメージを与えていった。とりあえず動きさえ止めてしまえばどうにかなるという考えからだ。
しかし、順調に見えたのは途中までだった。確かに足は切られていたのだが、アムダの動きを見るとそこまで気にしていないような感じだったのだ。防御できそうな場合でも特に気にせずに攻撃を加えていたように見えた。
もともと4本の足だけがあれば問題なかったのだろう。残りの足は移動するときの補助の役目であり、実際は無くても困らないものだったのかもしれない。
4本足になった後、いくら攻撃してもほとんど身体に傷を付けることが出来なくなったしまった。しかも前よりも間違いなく剣の交換頻度が上がっていた。残った足の強度は他のものよりも上だったのかもしれない。
戦闘による討伐は無理と判断したのか、合図とともに突撃隊全員がアムダに突撃した。その中の4名が切られないように剣を身体に受けてオリハルコンの道具で剣の動きを固定し、他のメンバー達も身体を張ってなんとかアムダの動きを止めることができた。
この瞬間を例の二人の護衛がアムダにとりつき、すぐ後にジュンイチとジェニファーの二人がアムダの身体にとりついた。このあとしばらくしてハッチを開けることが出来たらしく、核の破壊に成功したように見えた。
兵士達は飛翔の魔道具を使ってアムダから離れだしたが、すでに動かなくなっていた兵士達もいた。冒険者の二人も逃げだそうとしたようだが、兵器からの攻撃を受けてしまったようだ。
このあとジュンイチがアムダの下敷きになってしまったようで、なぜか無事だったジェニファーも逃げずにジュンイチに寄り添っていた。そのあと光と爆音に包まれたのだ。
アムダを倒すことが出来たのか?それとも失敗してしまったのか?索敵をしてみるが、古代兵器に索敵は効かないため分からないが、突撃隊のメンバーの気配はいくつか感じる。
しばらくすると土埃がはれてきた。先ほど兵器がいた場所には兵器の姿はない。倒したのか?
監視者の中から二人に指示を出して一緒に爆心地に近づいもらう。付近にはいろいろな破片が飛び散っているが、兵士達の者ではなく、兵器の破片のように思われる。爆心地は大きな穴になっていてその中心に古代兵器のばらばらになった残骸も転がっているようだ。
おそるおそる近づいてみると、残っているのはオリハルコンの部分だろうか?骨のようなところが残っているが、もう動きそうにはない。
「倒したのか?」
誰かが声をあげる。
「倒したぞ。やってくれたぞ!!!」
大きな歓声が上がった。私も古代兵器の残骸を見て確信した。
しばらく歓声に包まれた後、ふと我に返って突撃していった人たちのことを思い出した。
「突撃隊の人たちは?」
その言葉で先ほどの歓声が静まった。みんな分かってしまったのだろう。この討伐を成し遂げた犠牲のことを・・・。
連絡を受けた人たちも一緒になって辺りの捜索を行った。討伐隊のうちの多くは吹き飛ばされていたが、息がある者も多かった。すぐに簡易テントの中に運び込まれ、駆けつけた治癒士達により治療が行われた。
すでに遺体として見つかったものもいたが、遺体の見つからない人もいた。あの爆発で完全に吹き飛んでしまったのだろうか?
このあと捜索はしばらく続けることになったが、今回のことを通信で先に報告をする。
「突撃隊兵士32名と冒険者2名は目的を遂行。無事にアムダを破壊。現在負傷者の治療をしつつ、捜索を続けています。」
あとの捜索は残るもの達に任せて、私は王都へと向かった。王都に到着して王宮へ向かうとすぐに謁見することとなった。ここで改めて報告を行う。
「監視隊隊長のライハンと申します。アムダの討伐についてご報告いたします。
03000に予定通り討伐作戦を開始。突撃隊がアムダに突入。
激しい攻防が行われ、当初の予定通り足への攻撃を中心に戦闘を継続。
03024にアムダの足1本目を破壊。
03035にアムダの足2本目を破壊。
03048にアムダの足3本目を破壊。
03053にアムダの足4本目を破壊。
03066にアムダの足5本目を破壊。
03072にアムダの足6本目を破壊。
03073にアムダが形態を変化。
形態変化によりアムダの戦力アップ。
03078にプランBにて突撃を敢行。
03079に冒険者2名が兵器にとりつき、核の破壊開始。
03081に核の破壊に成功。兵器から閃光が見られ爆発を確認。
爆発後、爆心地でアムダの残骸を目視。破壊されたことを確認。
現在も引き続き周辺の操作は続けていますが、現在のところ負傷者が26名、遺体回収が6名、行方不明2名です。爆心地に近かったと思われる遺体はかなり損傷がひどく、判別が難しいですが、遺体はすべて兵士のものと推測されます。
行方不明と判断されているのは冒険者の2名です。はっきりとは分かりませんが、倒した兵器に挟まれて身動きが出来なかったと思われます。爆発の中心付近にいたため、回収不能な状態まで吹き飛んでしまった可能性は否定できません。」
「ご苦労。」
このあと皇帝は高らかに宣言された。
「大きな脅威は去った。これでもう古代兵器を恐れることはないだろう。
しかしこの脅威のためになくなった者達のことを忘れてはならない。そしてこの脅威を取り去ってもらった者達のことを忘れてはならない。兵器を倒すために尽力してくれた我が国の兵士、そして二人の冒険者を忘れてはならない。
そしてこのような同じ過ちは絶対に起こしてはならない。
古代兵器の脅威を今一度確認しなければならない。再び古代兵器が稼働しないようにしなければならない。今回のことは世界に伝えるべきであろう。」
各国からの使節団を見送った後も、古代兵器に関する調査は続けられた。そしてアムダが出現したと思われる付近で古代遺跡が発見された。
すでにかなり破壊されていたが、残っていた資料からここで古代兵器が復活したと結論づけられた。今回稼働した古代兵器はアウトラス帝国に50年前に滅ぼされた国の一族が秘密裏に起動したものだったと推測された。
遺跡に残された文献からその遺跡はその国の王族に代々伝わっていた遺跡らしく、再び国を興すために古代兵器の力を借りようとしたようだ。
過ぎた力は身を滅ぼすと言うことだろう。遺跡はすべて破壊されており、古代兵器の起動に関わる資料もほとんどが焼け落ちていたのはある意味良かったのかもしれないと個人的には思っている。
というのも古代兵器が小型の兵器を生み出すことが出来るという記述があったからだ。もしあの兵器より劣るとはいえ、眷属のような兵器が生み出されていたとしたらと考えると恐ろしくなってしまう。再び世界が滅びていた可能性もあるのだ。
今回古代兵器の核を破壊できるという冒険者がいたからこそ倒すことが出来たが、もし彼らがいなかったらどうなっていたことか・・・。我々は古代兵器におびえながら生きていかなければならなくなっていたかもしれないのだ。
~クリストフSide~
アウトラス国から今回の顛末が世界に発信された。今回の古代兵器の復活した経緯、古代兵器による被害、そして今回の討伐が無かった場合の予想される世界の未来の姿。予想された未来はかなり衝撃を与える内容だった。アウトラス国だけにとどまらず、世界中の国がその被害を受ける可能性もあったのだ。
本当かどうかは今となっては分からないが、以前滅んだ国の末裔が隠されていた古代兵器を復活させてしまったと説明があった。ヤーマンにもあったものなのであながち間違いでも無いのかもしれない。ジュンイチ達が言うにはあそこの古代兵器の復活は無理だと言うことだったがな。
今回の討伐に尽力した英雄達のことも同時に伝えられた。アウトラス帝国の兵士の中にヤーマンの冒険者二人の名前があることに多くの人が驚いていた。
アウトラス帝国は今回の犠牲者に黄玉章を送ることを発表した。そして彼らを知る人たちは彼らの業績をたたえながらも悲しんだ。
今回おそらくあの二人がいなかったら倒すことが出来なかったのではないだろうか?二人の過去のことはよく分かっていないが、いきなりこの世界に現れたような二人だった。もしかして神が今回のために使わしてくれた人物だったのだろうか?
ただかすかな希望も残っていた。回収された残骸からは二人の装備と思われる残骸が見つかっていなかったのだ。装備はオリハルコンとミスリルの合金であることは分かっていたため、古代兵器の残骸が残っているのであればそちらも残っていてもおかしくないと言われているからだ。
ヤーマン国では二人の英雄のために国を挙げての追悼の儀が行われた。二人の多くの知り合いも駆けつけてきたようだ。彼らを招待して一緒に二人のことを語り合った。
~~~~~
目を覚ますと真っ白い世界にいた。死後の世界だろうか?やっぱりあのまま死んでしまったのだろうか?
ふと見ると、ジェンが抱きついたままだった。一緒に死んだからあのときのまま死後の世界にやって来たのかな?でも前にこっちの世界にやって来たときと同じような感じだな?
そう考えているとジェンも目を覚ました。
「おはよう?」
「イチーーーーっ!
生きていたの!?
アムダはどうなったの?」
ジェンは泣きながら胸にすがりついてきた。
「ごめん、正直なところどうなったのか分からないんだ。それ以前になんか変な世界にいるんだよね。死後の世界なのかな?」
少し落ち着いたのか、ジェンは辺りを見回している。
「なんか前に転移したときと同じような感じね。このあとスイサイさん達がいたところに行くのかしらね?」
そう思っていると目の前に人の姿が現れた。女性みたいだが、どこかで見たような感じもする。ライハンドリアの教会の正装のような衣装を着ていた。ただなぜか霞がかかったような感じではっきりと見ることが出来ない。
「姿を見せるのは初めてですね。このライハンドリアの神の1柱のアミナです。」
「「アミナ神ですか?」」
どこかで見たような気がするのは教会などの像で見ていたからだろう。
「はい。
驚いているかもしれませんが、今回のことについて説明させていただきます。
まず最初に言っておきますが、あなた方は死んだわけではありません。こちらの世界に来るときにきたところと同じような空間にいます。」
「そ、そうなのですね。ということはちょうどもとの世界に戻るタイミングだったと言うことですか?」
「そういうわけではないのですが、まずはお礼が先ですね。
この世界を救ってくれてありがとうございます。あの古代兵器は無事に破壊されました。」
「よかった。倒すことが出来たのですね。」
「あの古代兵器はもう二度と動くことはなかったはずなのです。あくまで古代を滅ぼした恐ろしいものがあったということを知らせるために存在していました。世界のいくつかの遺跡に残っていますが、すべて稼働しないようになっていたはずなのです。
もしあなた方がいなければこの世界は再び滅びていたかもしれません。今の人類にはたとえ1体の古代兵器でも倒すことが出来なかったでしょう。もしあの兵器の機能がすべて回復してしまったら眷属を作り出してさらに被害は広がっていたことでしょう。
実は2年ほど前にあなた方がもとの世界に戻る話が来ていたのです。ただ古代兵器が復活してしまう危険性があるとわかり、元の世界に戻ることを遅らせてもらいました。
もしもの場合、あなた方だけは元の世界に戻せるということでぎりぎりまでがんばってもらおうと考えたのです。
残念ながら私たちが直接地上世界に手を出すわけにはいかなかったのです。そのために利用させてもらい、申し訳ありません。」
「ま、まあ死ななかったからいいけどね。兵器も倒せたみたいだったから良かったし。」
「もし言われるように、古代兵器によってこの世界が滅びてしまっていたら悲しすぎるわ。」
ジェンも倒せたことにほっとしているようだ。
「転移できなかったのはそのせいだったのですか?」
「いえ・・・、あまり詳しくは話せませんが、古代兵器に施された魔法の使用を抑制する付与魔法のためです。」
「そうなんですね。」
たしかに当時のことを考えると転移魔法とか使えないようにしておかないと戦闘中に簡単に逃げられてしまうよな。魔法がほとんど効かなかったのもそのあたりの影響があるのかもしれないな。
「それでは改めて転移の話をさせていただきます。
このあと元の世界に帰る手続きを進めさせていただきます。このため今まで出会った人達にもう会えなくなってしまいますが、夢という形で簡単な伝言だけは伝えることが出来ます。何か伝えたいことがあれば言ってください。
そしてこれははじめに説明されていたことだとは思いますが、もとの世界に戻ったらこの世界での記憶はなくなってしまいます。」
「どのくらいの記憶がなくなるのでしょうか?」
「それは正直わからないのです。通常はこのような説明もなく、元の世界に戻されるものなのです。
ただ元の世界に関わる知識は残り、この世界に関する知識は無くなることになっていますが、どこまでなるかはわかりません。」
「ジェンとの思い出もすべて消えてしまうのですか?」
「なんとなくは記憶に残ると思いますが、確約は出来ません。」
「少しでも記憶を残すことはできないでしょうか?このまま忘れてしまうなんて悲しすぎます。」
「そのことは確認をとりましたが、やはり無理という返答でした。詳細はあのときの担当者が説明するようですのでこのあとで確認してください。ここでこの世界とはお別れとなりますので先ほどの件を先に考えていただきたいと思います。」
アミナ様に伝える内容と伝える相手をお願いする。
「ライハンドリアの神はあなたたちの行動に感謝します。向こうの世界でもがんばってください。」
「いえ、こちらこそいろいろとありがとうございました。」
「ええ、ほんとうにありがとうございました。」
視界が変わり、前に来た役所の受付のようなところに転移した。
「お久しぶりです。」
そこにはスイサイさんが立っていた。
「今回はいろいろとご迷惑をおかけしました。お二人に簡単な状況を説明したいと思いますのでこちらにどうぞ。」
ジェンと一緒にテーブル席に案内され、今回のことについて状況を説明してもらった。書類の確認ミスによる遅延が主な理由らしいが、あまりにもお粗末だなあ。
「まあ年をとるわけでもなかったし、その点についてはいいんだけど・・・。」
「ええ、イチと出会うことが出来てある意味よかったと思っているくらいだからね。」
「ただ記憶がなくなると言うことはどうにかならないですか?」
「残念ですが記憶を残すと言うことはそう簡単に認められない理由があるのですよ。
詳細は話せませんが、他の世界の知識を変に持ち込まれると世界のバランスが壊れてしまう可能性があるのです。このため記憶を封印するというわけではなく、削除することが決まっているのです。」
「それではその情報を他に漏らさない、もしもの場合は記憶を削除すると言うことでもだめなのでしょうか?」
「申し訳ありません。」
「今回そちらのミスでこんな事になったわけでしょう?それについての補償はなにもないということなんですか?」
「普通であれば賠償責任と言うことでこちらの要求を少しは認めてくれるものじゃないかしら?今回のミスのことを考えるとあなたの上司の管理責任が問われることになりますよね?それなのに一担当者が説明に来るというのも納得できないことですよね?」
「そ、そう言われましても・・・。」
このあといろいろと話をしたが首を縦に振ってくれることはなかった。ジェンからの責任追及の内容がかなり厳しくてスイサイさんもかなり困っている。
「それでは記憶を削除するわけではなく、封印すると言うことで対応してもらうことは出来ませんか?もし、自分たちが再び出会うことができたときに記憶が戻ると言うことはどうでしょうか?住んでいる場所を考えたらてもほぼ可能性ゼロですが、そのくらいはチャンスをくれてもいいのではないですか?」
「・・・わかりました。一応上に問い合わせてみます。」
なんとか可能性だけは残すことが出来るかな?しばらくしてかなり疲れた顔をしてスイサイさんが戻ってきた。
「それでは二人が出会うことが出来たらという条件で受けることは認められました。ただお互いが同じ空間にいると言うだけではだめですよ。このあたりについては条件を決めさせてもらいます。
今回はライハンドリアの神達からの要望もあり、さらに今までの行動から地球でもし記憶が戻っても悪用しないだろうということを考えての特別処置です。ただしその知識を悪用したり広めようとした場合にはすべて消えてしまうと考えてください。」
「「わかりました。」」
もしもの事を考えてお互いの住んでいたところについて知識として記憶をしていたのが生きてくるかもしれない。そのことを考えていろいろと情報を交換していたのだから。
もし会えなかったら・・・いや、それは考えないことにしよう。せっかくだから最後は笑顔で別れたい。
「そろそろ元の世界に戻る時間となります。最後にお別れを言う時間くらいはありますよ。」
ジェンと抱き合って口づけを交わす。徐々に目の前の視界がなくなっていく。
「「またね!!」」
ジェンも同じ事を考えていたのだろう。さようならじゃないからね。
~クリストフ王爵Side~
二人の夢を見た。古代兵器との戦いで亡くなったと聞いた二人の夢だ。夢の中で彼らは私に話しかけてきた。
「これが最後の挨拶になるかもしれません。
自分たちは死んだわけではないので悲しまなくていいですよ。ただおそらくもう会うことは出来ないと思います。
ただ、離れてしまっても自分がクリスさんの親友であることは変わらないですからね。もしまた会えることがあれば・・・また一緒に楽しみましょう。」
目を覚ますと、夢にしてはかなりはっきりと記憶に残っていた。ほんとうに夢だったのか?
スレイン達に話したところ、同じような夢を見たらしい。もう会えないと思うけど、いろいろとお世話になったことを感謝されたようだ。
この内容については気になっていたのだが、追悼の儀の時に二人の知り合いに集まってもらった際に他にも同じような夢を見たという人が多数いたことが分かった。
きっとこれは夢じゃない。本当に二人からのメッセージで、きっとどこかで生きているのだろう。いつかまた会えるのかもしれない。
~スイサイSide~
宇宙は広い。この広い宇宙には多くの生物が、多くの知的生命体がいる。そう考えているだろう。しかしそうではない。この宇宙は地球という天体の為に作られた世界であり、知的生命体はこの星にしか生まれていないのだ。
数多くの存在する世界はすべてこの星の別の姿なのだ。どのような進化を遂げさせるのか、どのような力を与えるのか、それはその世界を任せられた神と言われる立場のものに委ねられている。
地球という世界では科学の発展を主とし、知的生命体も猿から進化させた種族だった。ライハンドリアは魔法と科学で発展させたが、失敗してしまったのだ。ただまだやり直しのきくレベルだったので、新しい神の意向に沿って、知識を作り替えることで生きながらえたのだ。
そのために龍という神獣を置いたのが功を奏したのだろう。そうでなければこの世界は終わっていただろう。ただし責任をとってそれまでの神は引退してもらい、終わりに近い世界の下働きから初めてもらうことになった。
今回の転移については完全にこちらのミスだ。下手をすればまたあの世界は同じ運命をたどることになっていたかもしれないが、二人が自制してくれたおかげで助かったと言っている。あくまで自然発生的な科学知識のみであり、文明の進歩に大きな問題は無い内容だったようだ。
もし元の世界に戻って魔法の知識が使われてしまったら、今度はあっちの世界が同じことになってしまうかもしれない。
ただライハンドリアの神々からの要望もあり、わずかな可能性ながら記憶を取り戻すチャンスを与えることになった。本当に思い出せると思っているのだろうか?いくら交通が発達した世界とは言え、わずかな記憶を頼りに再び出会うなんて事はほぼないだろう。
期限はこちらに滞在した期間であり、その時間を超えると永遠に記憶は失われてしまうということになった。もし好きな人が出来た後に記憶が戻っても困らないように、どちらかが別の人間を好きになって関係を持った場合も同じだ。
ライハンドリアでの二人の行動について地球の神にも説明したところ、制約はかけられたが許可をもらうことが出来た。
ただこんな事を言ってはだめだが、記憶が戻ってほしいと思っている自分がいる。簡単に記憶を読ませてもらったが、あまりにも純真な二人だったからだ。
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