【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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108. 後日談 懐かしい景色

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108. 後日談 懐かしい景色
 地球に戻るときの転移登録場所はかなり慎重に選んだ。もちろん転移先に何かあれば転移は出来ないことは確認しているけど、そこに建物などが建ってしまうとずっと転移できなくなってしまうからだ。

 もしものことを考えて日本とアメリカに一つずつ転移先を登録した。アメリカは荒野を広範囲で購入し、その中にコンクリートで固めた台座を作った。雨もほとんど降らないので木が育つこともないだろう。少し地面から離れた場所を登録しているから少々の変動があっても大丈夫なはずだ。
 購入の手続きは面倒だったけど、専門家を雇ったので特に問題は無かった。土地開発は行わないという前提なので大丈夫だろう。

 日本も同じように木が育たないところがいいだろうと言うことで砂丘をその地点に選んだ。一般人は入ることが出来ない場所なのである意味安全だと考えた場所だ。こっちは無許可で行ったので非常の場合に使う前提だ。

 子供達にはしばらく長い旅に出るとだけ伝えているが、いつものことなので特に気にはしていないようだった。もし何かあった場合の対応もちゃんと伝えているので大丈夫だろう。信頼できる弁護士にも依頼をしているしね。

 両親や玲奈も・・・まあ大丈夫だろう。ちなみに両親は4人とも健在だ。自分の両親はまだ元気なこともあり、二人で日本中を放浪している。さすがにバイクでの長期旅行はあきらめたようで、小さなバンにいろいろと荷物を積み込んで回っているようだ。時々メールで連絡が入るので大丈夫なのだろう。
 ジェンの両親は一線から退いているが、未だにいろいろと相談を受けることが多いようで大変らしい。二人もいろいろと旅行に行っているが、範囲が世界中なので規模が違う。時々うちの両親とも交流しているようだ。

 転移先で不測の事態が起きても困るのでライハンドリアで身につけていた装備に着替えてから転移した。フル装備を付けるのは久しぶりだな。



 周りの景色が変わったところで辺りの索敵をしてみるが、特に魔獣などの気配は感じないので大丈夫かな。

「ジェン、特に変な気配は感じないし、危ない感じもないと思う。」

「そうみたいね。良かったわ。」

 落ち着いたところで改めて周りを見る。

「懐かしいな・・・。」

「ほんとにね。もう20年以上経つのよね・・・。」

 転移先に選んだのは遺跡の島だ。こっちではどのくらいの時間が経過しているかわからないため、1000年以上変わらなかったと思われる遺跡を転移場所にした。

 壁の途中に作られたスペースから眼下に港のようなところが見渡せる。こっちではどのくらい時間が経っているかわからないけど、とりあえずこの遺跡には問題が無いようだ。

「季節とか状況はよく分からないけど、空気がよどんでいないようだからまだ機能はあるみたいね。」

「ああ、そうみたいだな。特にこの遺跡を発見されているわけでもなさそうだ。」

 まあ、そうそう見つかるような遺跡でもないし、入り口もちゃんと塞いでいたからな。


 階段を下りてから以前生活エリアに使っていたところに入ってみる。扉のカードキーはちゃんと稼働していたので魔素の供給も大丈夫なのだろう。ほこりは積もっていたけど、特に傷んでいる感じはない。早速浄化魔法で部屋を綺麗にしていく。

 一通り生活エリアを確保してから港の出入り口を開けてみるとちゃんと稼働した。外に出てみるとすでに夜だった。気温は結構高くて、汗ばむ感じだ。

「転移前は昼だったけど、夜になっているのは時差なのかな?それとも時間軸のずれなのかな?」

「時間軸のずれもあると思うし、時差もあるかもね。私たちが転移したときも時間が違っていたでしょう?」

「そうだな。あと、星の位置を考えると今は夏くらいかな?」

 こっちにも星座というものがあり、移動時の目印に使われることもあるのだ。

「そう思うわ。正確な日付や時間は町に行ってみないと分からないわね。」



 部屋に戻ってから身分証明証を出してみる。

「こっちではちゃんと出すことが出来るね。」

 地球では自分を鑑定することは出来たけど、身分証明証を出すことが出来なかった。あくまでこの世界限定の機能なのだろう。ちなみに鑑定だと年齢が更新されていなかった。まあ世界が違うから表記ができなかったのかもしれないけどね。

名前:ジュンイチ
生年月日:998年10月30日
年齢:44歳
職業:冒険者(良階位・アース) ハクセン下位爵 ヤーマン下位爵
賞罰:ハクセン緑玉章 ヤーマン緑玉章 サビオニア黄玉章
資格:車運転
クラス:戦士、魔道士、聖者、賢者、芸術家、技術者、神の祝福
婚姻:ジェニファー

 44歳か・・・って地球と同じ年齢じゃないか。

「どういうことだろう?地球に戻る前は23歳だったから、実年齢で行くと、こっちの世界では50歳になっているはずだ。地球では27年生活していたはずだぞ。」

「まって・・・・。
私たちこっちの世界で6年近く生活したけど、向こうの世界には17歳の同じ時間に戻ったわよね?
時間軸が同じとしたら、こっちの世界ではあれから21年しか経っていないという事じゃない?」

「・・・ああ、そういうことか。それだったら納得できるな。そう考えると時間の経過速度とかは地球と同じと考えていいのかもしれないな。

 ただそうすると、知り合いで亡くなっている人も結構いそうだな。たしかこっちの世界での寿命は40~60歳とかだったよな。長生きする人は80歳くらいと言っていたように思うけど。」

「そうね。でも、最近は食料事情もよくなってきて、魔獣に襲われる可能性も下がってきているから伸びてきているという話だったと思うわ。まあ、そうは言ってもこればかりは実際に会ってみないと分からないわ。」

「まあな。戦争とか疫病とかも起きていないことを祈るしかないな。」


 作り置きしておいた食事を食べながら今後のことを話す。ちなみに今回は発電機やバッテリー関係も持ってきているので、収納している電化製品も使おうと思えば使うことが出来る。持ち込んでいると言うよりはいろいろと入れたままにしているといった方が正しい。スマホも持ってきているけど、もちろん繋がらない。当たり前なんだけどね。


 転移魔法のレベルを上げるには魔法関係のレベルを上げるしか無かったけど、結果的に次元魔法のレベルも上がることになった。
 そしてレベル5の収納量が半端ないレベルでかなり驚いた。結局測定はできなかったんだけど、レベル4の1000m3の10倍以上はあったので、普通の生活であればほぼ無制限と言っていいくらいだろう。

 流石に何があるかわからなくなってしまうので、かなり細かく整理した。収納の時はある程度認識したもので自動で分類されるようにしたのでまだ楽だったよ。
 ジェンは相変わらずこういうことは苦手みたいで、収納の時に分類をイメージしておいて検索みたいなことができるようにしたらしい。ある意味すごいな。

 とりあえず時差のようなものを解消するまではこの島で過ごした方がいいだろう。こっちの世界に来たらやろうと思っていたこともいろいろあるからね。


 すでにこっちの世界では夜なんだけど、時差の調整のため寝ないで過ごすことにした。その間にこっちの世界に来たら最初にしようと思っていたことからやるとしよう。

「このままだと行動するのも制約がかかるかもしれないからこの薬を使ってみるか?」

「そうね。こっちでならかまわないし、やっぱり能力は高めておきたいわ。」

 用意した薬を飲むと全身の活力が戻ってきた。鏡を取り出して自分の姿を確認してみる。

「よし、全盛時代の身体に戻るというのは本当だったな。20歳くらいか?ジェン?」

「私はもう少し若いみたいね。」

「うん、そうだなあ。これはこのあと大変なことになりそうだぞ。」

「もう、今はそれどころじゃないでしょ?」

 もともと自分も見た目は実年齢よりも若く、30歳前半に見られていたけど、薬を飲むと間違いなく見た目も変わった。あと、鑑定結果にも載っていたけど、身体の筋力というか、能力が大幅に改善された感覚を受けた。
 ジェンは異世界転移した頃とあまり変わらないような感じになっていた。十分若くて綺麗だと思っていたけど、やっぱり全く違っていたんだなあ・・・。

「なあ・・・、ジェン・・・」

「も、もう・・・仕方が無いわね・・・。」

・・・
・・



 久しぶりにかなり楽しんでしまったよ。どうも体力だけでなく、精力まで若返っているような気がするのは気のせいだろうか?まあ治癒魔法もあったけどね。


 今回使用した薬は以前古代遺跡で見つけたレシピを元に作ったものだ。どこまで正確なのか分からないが、材料や手順が一応載っていたので、こっちの世界にいるときにお店やオークションなどで材料を集めていた。
 ただし、材料の抽出がかなりシビアで、こっちの世界では器具を作るところから始めなければならなかったため、なかなか手が出せなかった。

 元の世界に戻ってからある程度生活が落ち着いたところで薬の製作に取りかかった。抽出には魔素も必要となってくるので、誰かに依頼することも出来ず、自分たちでやるしかなかったのは仕方が無い。抽出や蒸留などの器具は市販されていたものを利用できたので器具の準備は楽だったけどね。

 何度も失敗を繰り返し、かなりの材料を使ってやっと完成にこぎ着けたものは「若返りの薬」で、鑑定では寿命は延びないが、肉体を全盛時代に戻すという効果が書かれていた。規定の数量が無ければ効果は出ないみたいで、指定された材料から作られるのは1回分のみだった。
 やり方が分かったのでいくつでも作れると思ったんだけど、実際には魔力などの調整がかなり微妙みたいで、何度も失敗して、材料が無くなるまでに作れたのは全部で4回分だけだった。

 今回もできれば材料を手に入れてみたいけど、材料のキノコなどいくつかはかなり入手が厳しいのが問題だ。運良くオークションとかで手に入ればいいけどなあ。もし製作するならこっちの世界の方が魔素を集めやすいのでやりやすいと思っているのだけどね。道具関係は持ってきているしね。

 まあ、そうは言っても寿命は延びるわけではないから使える回数には限度があると思うし、保険みたいなものかな。本当に見た目まで変わるか分からなかったけど、間違いなく若返ったな。



 今回いろいろと道具を持ってきたけど、こっちの世界に来たときに材質が変わってしまうのがちょっと心配だった。材質が変わってしまうとおそらく使えなくなってしまうものも多いと思っていたからだ。

 前の転移で元の世界に戻ったときに、収納魔法に入れていたものを取り出して確認をしたところ、そのままの状態で取り出すことが出来た。

 ミスリルやオリハルコンはだめかと思っていたんだけど、元の世界でも存在している物質だったのかもしれない。魔素が融合した金属という感じだったからね。ちなみに元素を調べてみると、ミスリルは銀、オリハルコンは銅だった。構造解析まで行ったが、正直解明するまでに至らなかった。おそらく魔素というものが科学では解明できないのかもしれない。
 元素から考えるとオリハルコンはもっとあってもいいのでは無いかと思ったんだけど、おそらく魔素の量が半端なく必要なんだろう。人工的に合成できるのかは分からないけど、古代文明では合成していた可能性もあるな。

 今回は転移魔法での転移なので持っている物質が変わることはないのではないかと思っていたんだけど、予想通り身につけていたプラスチックなどもそのままだったので安心した。以前の転移ではプラスチックが別の材質に変換されていたからね。
 ただ、基本的にはこの世界で使うのはやめておいた方がいいかもしれないね。もしもの時にはこの世界の構成を壊すことになってしまう。


 結局この日はだらだらと過ごして眠りについた後、翌日から身体の動きの確認を行った。

「それじゃあ、少しやり合ってみようか?」

「ええ。」

 練習用の装備で打ち合いをするが、とてもではないが練習にならない。

「これ、無理だね。」

「ええ、しばらくは自主鍛錬した方がよさそうだわ。」

 全体的に能力が戻っているので、感覚と身体の動きにずれがでていた。思った以上に身体が早く動くせいでかなり動きがぎこちなくなってしまう。とても打ち合いをできるレベルではないので、しばらくは一人で感覚を戻すしかなさそうだ。さすがにこの辺りの感覚をある程度戻しておかないと、いざというときに対応できなくなるからなあ。

 魔法についても魔素のたまりが早いため、威力が強くなりすぎてしまう。こっちは貯める時間などの調整なのでまだよかったが、思ったよりも速度も威力も上がっていて驚いてしまった。


 1週間ほどするとだいぶ身体の動きも良くなってきて、ジェンと打ち合いをしてもいい感じに対応できる。

「まだ完全というわけでは無いけど、あとは途中で調整していけば何とかなるかな?」

「魔法の方は感覚が戻ったし、思った以上に威力も強いから、よほど強い魔獣じゃ無ければ大丈夫だと思うわ。」

 実戦経験をするために島の上に行ってみる。島の形は前とほとんど変わっておらず、いる魔獣もあまり差が無い。やはり強くても上階位までだな。しかも上階位下位までなので実力の確認は出来ないが、慣れるにはいいだろう。

 魔獣の狩りは20年ぶりとなるんだけど、元の世界で熊とか狼とかは倒したりしていたのでそこまで感覚のずれは無かった。交代で魔獣を狩ったり、索敵で魔獣の位置を確認したりして感覚を取り戻していく。
 解体も解体魔法が使えたから良かったけどね。これはスキルと同じでしばらくやっていなくても問題なかった。

 他にも向こうの世界では使っていなかった魔道具の状態の確認も行ったけど、特に問題はなさそうだった。ただ20年くらい経つと、この車だとかなり目立つかもしれないよなあ。当時の最先端だったけど、いまではどうなっていることか・・・。

 あと、どこかである程度まとまって魔獣を狩るなり、依頼を受けるなりして魔獣石を手に入れないとまずいよな・・・。まだ結構あるから大丈夫だと思うけど、物価とかがどうなっているかも分からないし、こっちでは魔獣石を使った道具も多いからね。早めに対応を考えた方がいいかもしれない。向こうではやっぱりそれなりに使っていたからね。

 カサス商会に何かを売り込むか?でももう自分たちレベルの魔符核だと売り物にならなくなっている可能性もあるよな。自分たちが伝えた知識も普及しているだろうから、知識チートも厳しいだろうからねえ。
 元の世界のコンピューター関係の進歩は早かったけど、こっちの世界で使える知識や技術の進歩はないからなあ。あと、こっちの世界の技術基準がどうなっているのかも分からないからね。



 身体の調整や荷物の確認も終えていよいよ出発することにした。

「とりあえずいったん町に行ってみないと何も情報が入らないよな。」

「そうね。転移魔法はさすがに怖いからやっぱりルイサレムの町に行くのが一番いいかな?」

「そうだね。飛翔魔法もあるけど状況も分からないからやっぱり船かな。」

 港に船を浮かべてから早速乗り込んで船の確認を行う。元の世界では取り出してはいなかったけど、問題はなさそうだ。
 港の中の水路を進み、港の扉を開けてから海に出る。もちろん扉を閉めておくのは忘れない。これで忘れてしまったらまた誰かが流れ着いて発見される可能性もあるからな。天気は良いので数時間も走らせればルイサレムの港に到着できるだろう。

 船の運転は地球にいたときと大きな差が無いので問題は無い。収納していたから当時から劣化しているわけでもないからね。地球で使っていたクルーザーもあるけど、燃料が無くなってしまうからちょっと使えないんだよなあ。予備の燃料も持ってきているけど、無理して使う必要も無いしね。


 今回はガイド本がないので書き写した地図とコンパスを頼りに進むしかない。元の世界に戻る前に写真に撮ったり、書き写したりしておいて良かったよ。

 コンパスの魔道具はちゃんと機能しているようなので町が無くなっていると言うことはなさそうだ。もし町が無くなっていたら方向を示さないだろうからね。
 このあたりの魔道具なども今のものと取り替えていかないとまずいだろうな。下手に古いものを使っていると変に思われてしまう。

 水の中なので魔獣の気配は感じにくいけど、特に強い気配は感じないので大丈夫だろう。海の魔獣の強さは当時とそんなに変わっている感じはなさそうだ。

 途中で何艘かの漁船を見かけたので何か異変があったとかはなさそうだな。見た感じ船の形状も変わってないみたいだし。


 徐々に町までの距離が近づいてきたんだけど、港に直接はいるのはやめておいた方がいいだろう。当時の港にはチェックするようなものはなかったけど、今は分からないしね。まあもしもの時のいいわけは考えているけどね。
 町から少し離れた断崖の方へと移動し、ある程度海岸が近くなったところで飛翔魔法で浮かんでから船を収納。ここから飛んで行って上陸を果たす。

 植生は以前と特に変わった感じは無いんだけど、索敵してみても魔獣の気配をほとんど感じない。前はこの辺りには並階位くらいの魔獣がいたように思うんだけどね。まあ動物はいるので生物が滅びているというわけではないみたいだけど・・・。

「なんか魔獣の気配をほとんど感じないけど、いないよな?」

「そうね。初階位の魔獣が少しいるくらいね。魔素の濃度が薄まったのかしら?」

 ここから少し走ると大きな道路に出ることが出来た。道路は以前よりも整備が進んでいて、表面もかなりしっかり固められている。前は整備されているとは言え、簡素な感じだったからね。
 走っている車のスピードも速くなっている印象をうける。前は車の性能のだけじゃなく、魔獣が出てくるのでスピードはかなり抑えられていたはずだけど、走っている車は60km/hくらいは出ているんじゃないだろうか?

「走っているスピードも速くなっているけど、それ以前に車の数が多くなってるな。」

「確かにそうね。道路も広くなっているから車の所有者が増えているという事かしら。」

 前は走っていても車とすれ違うのはまれな感じだったけど、今は結構頻繁に車がやってくる。

「前は魔獣がでるからスピードをあまり出せないということがあったけど、魔獣もほとんど出なくなったと言うことなんだろうか?」

「道路脇の魔物除けの魔道具が変わっているみたいだから前のものよりも効果が大きいのかもしれないわよ。」

「ああ、その可能性もあるね。今は護衛依頼とか少なくなっていそうだなあ。」

 走っている車は以前のような馬車の進化したようなものでは無く、地球の車に近い感じになっていた。自分たちが最後にデザインした車が大分革新的だったからそれに追随していった感じかな?車の性能的にはどう考えてもこっちの方がいいだろうしね。

「さすがに自分たちの持っている車は目立つかなあ?」

「まだ同じくらいのデザインのものも走っているから大丈夫じゃないかな?」

「まあそこまで距離もないからルイサレムまでは歩いて行くか。」

 道路の脇には人が歩くための通路も作られているけど、他に歩いている人は見当たらない。まあ弱いとは言え、魔獣もでるのに気軽には歩けないよな。もう少し遅い時間だったら冒険者の人たちもいるかもしれないけどね。
 って、それ以前に冒険者という職業はまだあるのかな?魔獣もあまりいなくなっているし、どうなっているか分からないな。

 しばらく歩いて行くと、ルイサレムと思われる町の城壁が見えてきた。周りの畑も前よりも少し広がっている。
 城壁は若干高くなっているけど、それ以前に町のエリアが広くなっている感じがする。城壁の上にはわずかだけど町の中の丘が見えていた。

「海側の城壁は古いままだけど、内陸側の城壁を拡張したみたいだなあ。」

「少なくとも町の大きさは2倍くらいにはなっていそうね。それだけ人口も増えたって事なのかしら。」

 時間は4時くらいなので人の数は少ないとは言え、特に行列は見当たらない。町の間の人の往来が少なくなっているのか?

「とりあえず町に入ってみるか?」

「前の身分証明証で大丈夫かしらね?」

「こればっかりは何とも言えないよなあ。年齢とか確認されるとまずいかな?まあ40歳くらいまで見た目があまり変わらないという人たちもいるみたいだから大丈夫かなあ?」


 門は新しく作り替えられたみたいで、人が通り抜けるような小さな門が増えている。門の近くにはバス乗り場があり、結構な人数がバスの到着を待っていた。以前よりもバスの運行頻度が増えているのかもしれないな。
 前はバス乗り場は町の中だったけど、外になったと言うことは安全になったと言うことなのかな?時刻表のようなものを見てみると結構な頻度でバスが出ているみたいだった。

 入口では身分証明証の確認作業をしていると思ったけど、町に入るための行列は無かった。門の前にある屋根の下に電車の改札のような感じで5つのゲートが並んでいる。入る人たちはそのゲートのようなものを通り抜けているようだ。
 車は別のゲートがあるけど、そっちもなにやら大きな機械を当てて確認はすぐに終わっているみたい。なんなんだろうな?まあもともと収納魔法や収納バッグがあるので荷物の中身の確認は建前だけどね。

 ゲートを通っている人を見てみると、身分証明証を出してゲートの横の機械に当てているようだ。するとバーが開くようになっているようだ。特に係の人がいるわけではないので確認作業が自動化されたのだろうか?

 自分も身分証明証を取り出し、同じように機械の読み取りのところにカードを当ててみるが、機械から警告が表示されてバーが開かなかった。

「あれ?やっぱりまずかったか?」

 後ろにいるジェンも不安そうに顔になり、その後ろで通ろうとしていた人はにらみながら隣のゲートに移った。申し訳ない。

 どうすればいいのかと思っていると、すぐに係の人がやって来て声をかけてきた。

「どうしました?」

「いや、警告が出たので・・・。」

「ちょっと待ってください。

 えっと、職業がないという認識になっているせいで警告が出たようです。冒険者に登録されていたようですが、期限が切れているみたいですね。」

 登録の時に職業は冒険者にしていたので期限切れで引っかかったのかもしれない。

「ああ、そういうことなんですね。すみません、冒険者登録の更新忘れのようです。」

「たまにあることですよ。特に階位が低い方は移動の途中で切れてしまったと言うこともありますからね。」

「それでは町には入れないのですか?」

「いえ、職業で引っかかっただけで犯罪歴があるわけでもありませんので入ることは出来ます。ただ、このままだと毎回この警告が出ますので、出来ればこの町で冒険者の更新をするなりしていただければと思います。」

「分かりました。」

 ジェンについても確認してもらい、なんとか町に入ることが出来た。

 門を入るとすぐに駐車場スペースのようなところがあり、かなりの数の車が並んでいた。むき出しの立体駐車場のような感じで、縦に5台の車が止められるようになっていて、見える範囲では全部で100台くらいのスペースがあるけど、そのうちの半分くらいが埋まっている。地下にもスペースがあるみたいなので結構な台数なのかな?

 案内を見ると、町中を走るにはその町の発行している許可証が必要みたいなので、許可されていない車はここに止めていかないといけないようだ。やっぱり車が増えたので町に入るのは規制をかけているのかな?それとも駐車スペースの問題なのだろうか?


 町の通りは以前より拡張されて広くなっていた。平日にもかかわらず人通りは結構多い。いくつか記憶にあるお店もあるんだけど、さすがに年月が経っているせいか新しいお店が多い。道路拡張でお店の場所が変わっているのかもしれないけどね。

「とりあえず状況が分かるまではあまりおおっぴらに動かない方がいいだろうな。」

「私たちのことがどういう扱いになっているかが問題なのよね。」

「身分証明証を見ると前の時から変わっていないけど、どこかで更新とかできるのかな?」

 役場に行って手続き関係の案内を見てみると、身分証明証の更新は自動で出来るようだ。更新機械に更新手数料の50ドールを入れて身分証明証をかざすとすぐに更新できた。

名前:ジュンイチ
生年月日:998年10月30日
年齢:44歳
職業:冒険者(良階位・アース 停止中) ハクセン下位爵 ヤーマン中位爵 アウトラス中位爵
賞罰:ハクセン緑玉章 ヤーマン緑玉章、サビオニア黄玉章、アウトラス黄玉章、アルモニア紫玉章
資格:車運転(大型・中型・小型)(停止中)
クラス:戦士、魔道士、聖者、賢者、芸術家、技術者、神の祝福
婚姻:ジェニファー

 更新前と大きく変わっていないけど、職業の冒険者と資格の車運転が停止中になっている。しかも車運転は大型、中型、小型という分類が付いていた。

 他にはアウトラスの褒章が追加されているんだけど、アムダの討伐で褒賞がもらえたのだろうか?しかも黄玉賞なので中位爵の肩書きが付いている。
 あとアルモニアも褒賞をもらえているな。アムダ討伐では無いと思うんだけど、理由が不明だ。それにヤーマンの爵位が中位爵になっているのも理由が分からない。

 褒章がそのまま残っていると言うことは褒章を出した国がまだあるということでいいのかな?あと爵位というものもなくなっていないと言うことか。
 ただ5つの国から褒賞をもらっているというのはちょっと見られるとまずいかもしれないな。爵位も3つあるし・・・。

「なんかいろいろ褒章が増えているし、爵位も増えているんだけど、何でだろ?」

「私の方もだわ。理由は分からないけど、これは見られないようにしておいた方がいいわよね。」

「ああ、犯罪ではないから非表示には出来るからまだいいけど、変なトラブルに巻き込まれたくはないからね。」

「あと車運転だけど、前に講習を受けたときは免許の期限とかなかったよね?しかも種別まで出来ているみたいだけど。」

「ほんとだわ。乗る人が増えてきたのでいろいろ変わっているのかもしれないわね。」

 そういえばうちの祖父が免許を取ったころはあまり種別がなかったとか言っていたな。徐々に厳しくなっていったとか言っていたように思う。

「とりあえず、先に冒険者登録の更新をやっておくか?」

「そうね。そのあとで調べ物をしましょう。」


 役場に行って案内を見てみると、冒険者の手続きは前と同じく治安・警備の窓口となるようだ。簡単な案内があったので読んでみると、仕事内容やおおよその収入などが解説されていた。
 魔獣の討伐記録などは自動で認証されるようになっているようだけど、冒険者登録の期限や再登録については自動では出来ないみたいで窓口に行かないといけないようだ。

「すみません。冒険者の再登録をお願いします。」

 まだ時間が早いせいか窓口は空いているので良かった。身分証明証を提示すると、身分証明証を見たあと何度もこちらの顔を伺ってきた。少し笑っているように見えたのは気のせいかな?

「えっと、どうかされましたか?」

「あ、いえ、すみません。

 えっと・・・おふたりとも休止申請は行われていませんね。えっと、この場合はどうなるんだったかしら・・・。えっと、ああ、再登録にお一人1万・・・じゃなかった3万ドールかかりますがどうなさいますか?」

 どうやら新人みたいでマニュアルを見ながら対応しているようだ。しかし良階位の再開手続きはひとり3万ドールもするのか・・・。まあ仕方が無いな。そのくらいのお金はあるので大丈夫だろう。

「お願いします。」

「分かりました。支払いはの説明の後でお願いしますね。
 えっと、あ、すみません。休止期間が5年を超えていますので、更新されたとしても以前の階位より1つ下の階位からの開始となるようです。」

「えっ、前の階位のままにはならないんですか?」

「そうですね・・・。あ、もし前と同じ階位を希望するのであれば、実技試験を受けて合格すれば大丈夫みたいです。どうなさいますか?」

 5年以上になると実力も落ちているという判断か。まあ試験を受けられるなら受けて良階位のままの方がいいかな。また昇格試験を受けるのも面倒だしね。

「その試験はすぐに受けることが出来るのですか?」

「そうですね。良階位の方ですので、ちょっとすぐには厳しいかもしれません。

 あ・・・、ちょっと待ってください。

 確認しなければなりませんが、ちょうど優階位の冒険者の方がこの町に滞在していますので確認をしてみます。たしかしばらくは町に滞在すると言っていたはずです。
 申し訳ありませんが、確認をとりますので明日のお昼前にもう一度来てもらうことは出来ますか?了承が得られたら数日中には試験を受けることが出来るはずです。都合はいかがでしょうか?」

「わかりました。
 受けるか受けないかについては明日日程を確認したあとでもいいですか?」

「ええ、日程を確認してから受けるかどうか決めてもらってかまいません。
 ただ、再登録の確認試験は申請から1ヶ月以内に行わなければなりませんが、手続きを進めてかまいませんか?」

 まあ特に急ぐ理由もないから遅くても数日以内に試験を受けられると考えたら大丈夫だろう。もし良階位の実力が無いと判断されたのなら素直にあきらめるしかないしね。

「ジェン、数日くらいはかまわないよね?」

「ええ、別に急ぐ旅でもないから大丈夫よ。」

「手続きを進めてもらってかまいません。よろしくお願いします。」

 支払いをすませると手続きはすぐに完了した。前は数日かかると言われていたんだが、かなり自動化されたのかもしれないな。とりあえず上階位ではあるが、冒険者としての身分証明証はできたので大丈夫だな。

 登録が出来たので支払いのためにカードにお金の入金をすることにした。やはり現金での支払いは大変な場合があるからな。たぶん以前よりもさらにカード支払いが進んでいると思うし。少しお金が残っていたと思うけど、20年も経っているのでおそらく残金は精算されているはずだ。

 今は自動で入出金が出来るようになっているみたいなので大分楽になった。もちろん金額が大きいと窓口でないとだめみたいだけど、1日1万ドールまでなら普通に下ろせるようだ。
 残金を確認してみると、まだお金が残っていた。ただ残金というにはあまりに金額が多すぎるんだが・・・。

「え?どういうこと?」

 横の機械で操作していたジェンからも驚きの声が聞こえた。

「10年でお金は精算されるという話じゃなかった?しかもあのときお金はほとんど全部下ろしていったよね?」

「えっと・・・、履歴を見るとアムダの討伐の後にまとめて振り込まれているわね。討伐報酬って事なのかしら?そのあともアウトラス国とカサス商会から定期的にお金が振り込まれているわね。」

「振り込みされているから精算されていなかったのかな?」

「アウトラス国は貴族の報酬か何かなのかな?カサス商会も律儀に振り込みをしてくれているのか?まあ、おかげで当面の金銭の心配は無いと考えていいな。」

「カサス商会にはどのみち顔を出さないといけないからそのときに確認しましょう。」


 このあと車の免許についての資料を見てみると、免許の更新についての記載があった。どうやら8年ほど前に免許が更新制になったみたいで、5年おきに更新しないと免許が取り消しになってしまうようだ。ただしその前に取得していた人に限り10年の猶予が設けられていた。

「8年前ということはぎりぎり間に合うと言うことかな。危なかった。」

 交通課の受付に行くと猶予期間は認められるが、更新するには半日の講習を受けなければならないようだ。すぐに受けることが出来るようなので翌日の昼から予約をとっておく。


~受付の担当者~
 今日やってきた冒険者の再登録の人には驚いた。44歳なのにどう見ても20歳以下にしか見えなかったからね。もちろん年齢を重ねてもあまり変わらない人たちもいるけどそれでももう少し年齢は上に見えるはずなのよね。
 私の家系は標準的なので44歳と言えばかなり老けてしまうだろうな。老化の遅い人たちが少しうらやましいと思うのはしょうが無いわ。

 名前の確認をしたときにはちょっと笑ってしまった。アムダの英雄の二人と同じ名前だったからね。あの年齢でジュンイチとジェニファーって言うことは改名したのかしらね。手続きは結構大変らしいけど。
 パーティー名まであの英雄にあわせるなんてよほどあの二人のことが好きなんでしょうね。名前が同じ人は時々見かけるけど、二人組で同じ名前でさらにパーティー名まで同じというのは初めて聞くわ。

 ジェニファーさんはかなりいい線行っていると思うわ。自分の持っているイメージとはちょっと違うけど、美人には違いないからね。でもジュンイチさんはちょっと残念なところね。悪くはないけど、やっぱりイメージからはかなり外れているわね。

 確認試験をお願いしてみるけど、あの方達はどう思うかしら。アムダの英雄を直接知っている人たちだから気分を害するかしら?でもあこがれている人たちに対しては大丈夫かしらね。とりあえず連絡を取ってみるしかないわよね。


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 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
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手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
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命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

レベルアップは異世界がおすすめ!

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レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

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