【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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110. 後日談 サクラにやってきた

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110. 後日談 サクラにやってきた
 王都のサクラも以前よりエリアが拡張しているみたいだった。建物の高さも若干高くなっているようだけど、それよりも横方向へ広がりが大きい。
 ただ町の周りの農園はそこまで広がっていない印象を受ける。まあ広がりすぎると魔獣の対応が出来なくなりそうだしね。

 さすがにやって来ている人が多く、以前に比べると格段に短いけど行列が出来ていた。とはいえ、流れが速いのでそこまで時間はかかりそうにはない。車を収納してから列に並んでゲートを抜ける。
 ルイサレムやオーマトと同じように入口付近にはバス乗り場があって、ゲートをくぐったあとには大きな駐車場があった。バス停にはかなりのバスが止まっていて、飛行艇も止まっている。かなり混雑しているのは発着数を考えると仕方がないのだろう。

 門から入ったところは拡張されたエリアみたいで、入口近くにあった案内板を見ると南自由区画となっていた。もともとあったエリアの外周に4つのブロックが拡張されていて、縮尺が正しいのなら面積は3倍くらいになっているみたい。元々あったエリアは制限区画となっていて、入場者は制限されているようだ。


 まずは自由区画にある役場の出張所に行っていろいろと確認をしてみる。制限区画に入る項目にはサクラでの滞在期間なども必要みたいだけど、良階位以上の冒険者であれば入ることが出来るようだった。良階位で申請していて良かった。

「とりあえず制限区画には入れそうなので最初にクリスさんのところに行ってみるか?」

「まあすぐには会えないかもしれないけど、いったん行ってみてもいいかもしれないわね。」

 一通りの案内を見終わって役場を出ようとしたところで前からやって来た団体に目がとまる。

「えっ!?クリスさん!!?」

 って、そんなわけはないな。どうやら冒険者のようなんだけど、記憶にあるクリスさんの姿が重なる。格好も似ているので余計にそう思ってしまったのだろう。

 思ったよりも声が出ていたみたいで、にらまれてしまった。

「たしかに記憶にある姿だけど、いくらなんでもあの若さは無いと思うわよ。」

「それは分かっているけど、あまりに似ていたからとっさに声が出てしまったんだよ。しかも装備も同じような感じだっただろ?」

「たしかに似ていたわね。まさかお子さんって事は・・・年齢的に可能性はあるわね?」

「まあ、もしそうだったらまた会うこともあるだろう。」


 制限区画のゲートでは少し質問を受けたけど、問題なく通り抜けることが出来たのでほっとする。昔の知り合いに会いに来たと説明したんだけど、身分証明証の年齢を見てちょっと驚いていたようだ。

 先に宿を取ろうと以前よく使っていたシルバーフローへとやってきた。まだあるのか心配だったけど、改装されたのかかなり綺麗になっている。

「今日宿泊したいんですが、部屋は開いていますか?」

 身分証明証を確認してから少しすると返答があった。

「はい、大丈夫ですよ。ダブルの部屋は一泊3500ドールとなりますが、よろしいでしょうか?」

 さすがに前よりもかなり値段が上がっているな。

「それでお願いします。」

 特に預ける荷物もないのでチェックインの時間を聞いてからすぐに宿を出る。


 記憶を頼りにクリスさんの家に行ってみると、以前と同じ場所に建物があった。多分住む場所は変わってないと思うんだけど、大丈夫だよね?

 入口には門番が二人立っているけど、知っている人ではない。以前は形だけの門番という感じだったけど、警備が厳しくなっているような気もするなあ。治安が悪くなっているのだろうか?ちょっと怖いけど、とりあえず聞いてみるしかないよな。

「あの、すみません。クリストフ王爵に面会を希望する場合はどのようにすれば良いのでしょうか?」

 門番はじろりとこちらを見てきたが、そのあとちゃんと答えてくれた。

「ん?ああ。直接ここにそんなことを聞きに来るのは珍しいな。
 基本的に面会をするにはクリストフ王爵に伝のある人からの紹介しか受け付けていないな。あとはクリストフ王爵との関係を証明できるものを持っている場合くらいだ。すまんがそれ以上のことは私から説明は出来ない。」

 うーん、紹介と言っても今は誰かに紹介してもらうのは難しいよな。最初にクリスさんに連絡を取ろうというのはハードルが高すぎたか?

「たしかにそうですよね。ありがとうございます。」

 前は門番が自分たちのことを知っていたから普通に入っていたんだけど、正式な手続きなんてよく分からないもんなあ。

 あ、そういえばアムダの戦いの前にクリスさんに渡されたものがあったな。あれを使ったら大丈夫だろうか?

「あの、すみません。クリストフ王爵との関係を証明できるかわかりませんが、以前クリストフ王爵にいただいたものがあるのですが、これは証明にはなりませんか?」

 そう言って見せたのはミスリルで装飾された中心に赤い宝石のようなものが付いている装飾品だ。かなり特殊な加工がされているので簡単には作ることが出来ないらしく、さらにクリスさんの魔力を封印しているので複製は出来ないものと聞いている。装飾の中にはクリスさんの紋章も入っているからクリスさんと関係するものと分かるはずだ。

「こ、これは・・・。」

 最初はちょっと面倒くさそうにしていたんだけど、それを見ると慌て出した。そのあと、「ちょっと待ってください!!」と言って、なにやら門の横にある控え室のようなところで書類をあさっている。しばらくすると戻ってきた。

「申し訳ありませんが、私では正式に確認できません。確認が出来るものを呼びますので少しお待ちください。」

 そういってなにやら電話みたいなものでどこかに確認をとると、すぐに執事のような正装をした男性がやって来た。なにやらこっちをじっと見ているが、やっぱり疑われているのだろうか?

「初めまして、執事をしているカルデリアと申します。今回クリストフ王爵より授かったと言われるものをお持ちだと聞きましたが、見せていただくことは出来ますか?」

「ええ、これなんですけど・・・。」

 まあとられることは無いと思うので素直に渡すと、なにやらいろいろと確認している。執事と言っているけど、前にもいたのかな?あまり見た記憶が無いんだよなあ・・・。

「たしかにご主人との関係を証明するものになります。ただ・・・。
 いえ、すみません。

 申し訳ありませんが、ご主人はただいま外出していまして、後で連絡するということでもよろしいでしょうか?お泊まりの場所を教えていただければありがたいのですが、いかがでしょうか?」

「急にやってきて申し訳なかったです。えっと、シルバーフローというところに宿をとっていますので、そちらに連絡をいただければ大丈夫です。」

「承知いたしました。またあとでご連絡させていただきます。」



 このままここにいてもしょうがないのでいったん屋敷を後にする。

「時間もあるのでカサス商会に行ってみるか?この名刺ってまだ有効なのかな?」

「流石にそれは無理なんじゃない?」

「でも、普通だったらコーランさんとかには簡単に会えないと思うよ。ダメ元で聞いてみよう。ダメな時はクリスさん経由で聞く方法もあるからね。」


 サクラのカサス商会の場所は変わっていなかったんだけど、半端なく立派になっていた。建物の案内を見ると、5階までは商店となっていて、それから上はオフィスのようになっているみたい。いるとしたらこの建物でいいみたいだけど・・・。

「すみません。コーランさんかカルニアさんに面会したいのですが、可能でしょうか?」

 総合受付のようなところに行って聞いてみる。

「予約はされているのでしょうか?」

「いえ、特に予約は取っていないのですが、以前はこれを見せれば面会できていたので・・・。」

 そういって名刺を見せる。名刺にはアドバイザーの肩書きと、カサス商会内で使われていた名前が記載されている。

「えっ?カサス商会のアドバイザー?これは・・・。
 ・・・
 申し訳ありませんが、少し見させていただいてもよろしいでしょうか?」

 渡した名刺をなにやら機械にかけてなにやら確認していたが、しばらくすると返してくれた。

「担当の者を呼びますので、しばらくこちらでお待ちください。」

 近くにある商談スペースのようなところに案内されたので、そこでしばらく待っているとなにやら見たことのあるような印象の男性がやって来た。

「はじめまして、ここの人事部長をやっているカーランと言います。
 今回、持ってこられた名刺なのですが、これをどこで手に入れたのでしょうか?」

 やっぱりそうなるよね。

「すみませんが、コーランさんからいただいたものとしか説明できません。」

「名刺本人ということでしょうか?申し訳ありませんが、以前当商会でやっていただいていた事をいくつか説明していただけますか?」

「えっと、インスタント食品やいろいろとお店のアドバイスや結婚式のアドバイスを行いましたが、おそらくこれが一番確認できることだと思います。」

 そういって魔符核をカーランさんに見せる。

「以前のものよりも性能は上がっていると思います。補助の術式はもしかしたらもっと効率がいい物があるのかもしれませんが、自分たちの知っている範囲で作成しています。」

 カーランさんは慎重に魔符核を受け取り、そこに書かれている付与魔法を確認している。「これは・・・」とかなにやら小さな声でぶつぶつと言っていたが、おもむろに顔を上げた。

「ありがとうございます。いったんこちらの部屋へお願いします。」

 そういって案内されたところはかなり立派な応接室だった。一応認めてくれたということだろうか?

 しばらくするとカーランさんが年配の男性をつれてやって来た。カルニアさんかな?護衛と思われる人も一緒にやって来ているのは仕方が無いだろうな。

「カルニアさんですよね。お久しぶりというべきでしょうか?」

「あっ、あっ・・・お、お久しぶりです・・・。」

 いったん落ち着いた後、護衛の二人とカーランさんを退席させる。どうやら信用してくれたみたいだ。ちなみにカーランさんはカルニアさんの息子らしい。

 自分たちが亡くなったという話は聞いていたんだけど、例の戦いの後に自分たちの装備がなかったこと、自分の交友関係の人からの話で亡くなったのではないと思ったらしい。それで直接自分たちを知っているカルニアさんが現役の間は契約料の支払いを続けることにしていたようだ。
 そしてもしもの時のために受付に名刺を持った二人がやって来た場合の対処方法は伝えていたらしく、今回もスムーズに対応できたようだ。

 しばらく話をしていると、ドアがノックされた。

「ああ、父にも連絡が付いたようです。」

 そういうとドアが開いて、コーランさんが入ってきた。もう60歳を超えているはずなんだけど、まだまだ元気そうだ。

「コーランさん、お久しぶりです。」

「ジュンイチさん、今までどこで・・・」

 コーランさんの後ろに入ってきた人も目に入る。年はとっているが、間違いないだろう。

「えっ?まさか・・・、クリスさん?」


~カサス商会受付Side~
 私はカサス商会で受付の仕事をしている。カサス商会で働くにはかなりの倍率の競争を勝ち抜かなければならない。ここで働けるというのはかなりのステータスになるからだ。もちろん待遇もいいし、給料もいいからね。

 カサス商会は先代のコーラン現相談役の時に一気に事業を拡大し、世界的な商会となった。そのきっかけになったのはインスタントラーメンや重量軽減バッグなどの商品と、画期的な販売戦略だ。コーラン相談役と当時親交のあった人物が中心となって考え出したものらしい。
 今では他の商会もまねをしているが、常に漸進的な戦略、そして多くの人脈から今も世界的な規模の商会としてその地位を守っている。

 私は本店の受付担当で、面会を求めてやってくる人も多く、事前に人物の選別を行うことをしなければならない。単に取り次ぐだけではないので大変だ。

 今日も飛び込みで面談を求めてきた人物がいた。コーラン相談役とカルニア会長への取り次ぎとはとんでもないことだ。しかもかなり二人のことをなれなれしく呼んでいることに少し怒りを感じてしまった。

 これはここで断らないといけないと思っていたところ、名刺を出してきた。何の名刺かと思ったのだけど、そこに書かれていたのはカサス商会アドバイザーの名刺だった。

 受付業務をやることになったとき、いくつかの特例について説明を受けていた。その中の一つがこの名刺だ。商会内でもこの存在を知っている人は限定されることであり、各支店の受付業務を行うものには周知されていることだ。
 本物なのかどうかは確認方法がマニュアル化されており、確認してみると本物であることが分かった。特殊な加工をしたものなので、ある道具を使うと指定された色が見えるのだ。
 そのときに初めて指定されている封のされた封筒を開けて確認することが出来るように指示されていて、もちろんこれをあけるのは初めてのことだ。

 確認できた色は青であり、開封した中にある青色の場合の封を開けて中を確認した。すぐにカーラン人事部長に連絡を取り、こちらに来ていただくことになった。

 部屋に案内してしばらくしたところで別の応接室に移動することになったようだ。案内された応接室は最上級の応接室だ。

 噂レベルであるが、コーラン相談役に助言を行っていた人物が持っていたと言われるアドバイザーの名刺。でもそれだったらもっと歳を召されていてもおかしくないはずだけど・・・。

 あとで今回のことは箝口令が敷かれた。口外することは許されないが、今回ちゃんとマニュアルに沿った対応をしたと言うことで特別ボーナスをいただくことになった。とてもうれしいことではあるんだけど、あの方達が誰なのか気になってしまう。


~~~~~

 コーランさんに続いて入った来た人物を見て驚いた。少し老けてはいるが、間違いなくクリスさんだろう。

「ほ、本当に、本当にジュンイチなのか?」

 おもむろに近づいてくると、自分の両肩をつかんで話しかけてきた。

「え、ええ。お、お久しぶりです。

 あ・・・、こ、これ!!」

 まさかこんなところでクリスさんに会うとは思っていなくて気が動転していたけど、クリスさんにもらった装飾品を取り出す。それを受け取ったクリスさんは装飾品に手を当てて確認しているようだ。

「た、確かに私の渡したもので間違いない!!」

 装飾品を手に持ったまま少しうつむいて少し嗚咽を漏らしている。

「無事だったんだな。ほんとうに・・・。」

 しばらくして顔を上げたと思ったらすごい勢いでいろいろと聞いてきた。

「いったい今までどこにいたんだ?それにその姿はいったいどういうことだ!?」

 とりあえずいったん落ち着いてもらってから席に着く。コーランさんもかなり驚いていたが、クリスさんが先に声を上げたのでタイミングを失ってしまっていたようだ。


 まずはカルニアさんから自分たちが本人で間違いないだろうという話をしてもらったが、クリスさんは装飾品で間違いないと確認していたようだ。どうやら自分が渡した本人であることもあの装飾品で分かったらしい。

 そのあとユータ達にしたのと同じ話をする。かなり驚いていたようだが、今の状況を考えると信じるしかないみたいだ。

「二人が亡くなったと聞いた後で二人の夢を見たんだ。夢の中では亡くなったわけではないので、またいつか会おうと言っていた。
 きっとあれはジュンイチからのメッセージだと思っていつか戻ってくると信じていたんだが、まさか20年以上も待たされるとはな。しかも時間を超えてくるとは思っていなかったぞ。」

「自分たちもまさかこんな事になるとは思わなかったですよ。それでルイサレムで冒険者登録をしてからサクラまでやって来たというところなんです。
 ルイサレムでは知り合いだったユータとカナという二人に会って少し話を聞くことが出来ました。最初は黙っていたのですが、どうも見た目や動きで気がつかれたみたいで同じような話をしたんです。」

「あの二人か。たしか優階位の冒険者だったな。二人と親交があったと言うことで、何度か会ったことがある。」

 どうやらクリスさんは面識があるようだ。

「まずはクリスさんに連絡するのが一番かと思ってここまでやって来たんですよ。サクラに着いてからクリスさんの家に行ってみたんですが、クリスさんが不在で確認できる人がいないので連絡先だけを伝えておきました。そのあとここに来たんですが、まさかクリスさんにも会うとは思っていませんでしたよ。」

「私を頼ろうとしてくれてうれしいよ。もしもの時のために家の者にも連絡しておいたんだが、それを見せてもだめだったのか?」

「いえ、門番もこれを見てすぐに連絡を取ってくれて、執事のカルデリアさんと言う方がこられたんですが、確認できるものがいないのであとで連絡するように言われました。」

「・・・ああっ、そうだった。スレイン達は今朝から近くの町に行くと言っていたな。それで確認できないと言うことになったんだろう。」


 クリスさんは王家から出たんだけど、外交官に随行して他の国に行ったりしているらしく、主にナンホウ大陸を担当しているようだ。最初は自分たちの知り合いがいると言うことで親交を深めるために随行しただけだったんだけど、結局そのままずるずると続けることになり、年に数回は出かけているようだ。

「我々カサス商会もジュンイチさん達のおかげでうまくいっていますよ。今ではナンホウ大陸ではサビオニアが経済の中心になっていますからね。そこの大臣とコネがあるというのはやはり強いですよ。」

「大臣って言うのはハクさんですか?ロンさんもかな?」

「ハクさんは今ではあの国の首相となっていますよ。ロンさんは外交大臣として活躍しています。もしお二人に会ったらかなり驚かれると思いますよ。」

「そうなんですね。」

 懐かしいなあ。まあこの世界ではアムダの戦いの後にすぐに転移してきたと言っているので変な言動はしないようにしないといけないけどね。


 クリスさんは今回はカサス商会と共同で行っている事業についての相談にやって来ていたらしい。外交関係をやっているのに特定の商会と事業をやっていいのかと思ったが、こっちの世界では特に問題にはならないみたい。もちろんあまりにも露骨にひいきをするとまずいみたいだけどね。

 クリスさんはこのあとどうしても外せない用事が入っているらしく、スレインさん達が戻ってきた後に会う約束をして帰っていった。


 夕食はコーランさん達と食べることになり、クリスさんの経営するレストランの個室での食事となった。その前にいろいろと商売の話をすり事になったけどね。

 ちなみに先に渡していた魔符核については前のものよりもさらに性能アップが確認できたようだ。すぐに売り出しをすすめたいと言うことだったので、事前に作っていたものを、かなりの金額で買い取ってくれた。これでこっちの世界でのお金は気にしなくていいかもしれないな。

 前の重量軽減バッグはさすがに年月が経ってだめになって来ているものも多いらしいけど、今も中古品が結構な値段で取引されているらしい。
 ユータとカナに渡したものは試作で作ったものだったので錆びにくい加工をしていたのでまだ普通に使っていたけど、普通に下ろしていたものはさすがに錆でやられてしまったものも多いようだ。

 食事の間は当時の話やその後の商売の話、今後の商売についての話などしていると、あっという間に夜更けになってしまった。宿に戻ったときにはすでに9時を回っていたからね。


~コーランSide~
 最近は長距離の移動が辛くなってきて以前のようにあちこち行けなくなってきている。流石にもう年かな。
 大半の業務は息子に渡し、今はやりたいことだけに取り組んでいるので仕事としては楽ではあるのだがな。もうとっくに引退していい年なのだが、やはり私は仕事をしなければ生きていけない身体らしい。

 ジュンイチさん達が亡くなったと聞いた時は驚いたものだ。突然にやって来て、突然にいなくなったような不思議な感覚だった。彼らに会っていなかったら私の人生はまた違ったものになっていただろう。
 カサス商会の目玉だった重量軽減バッグは納入されていた分で無くなってしまったが、それまでに培った商売の方法と、いろいろと聞いていた今後の戦略を思い出しながら対処していった。あの当時聞いていた将来の経済状況を予想しての販売戦略の的確さには驚いたものだ。



 今日は久しぶりにクリストフ様と打ち合わせだ。クリストフ様とはもう20年以上も一緒にやってきた仲だ。これもジュンイチさんのおかげだな。クリストフ様はナンホウ大陸での情報に詳しいため、かなり有益な情報を提供してもらっている。

 大方の打ち合わせを終了したころに部屋をノックする音が聞こえた。よほどのことが無い限り打ち合わせの最中に入ってくることは禁止しているので何事かと思ってしまった。やって来た社員もかなり恐縮している。

「緊急の内容と言うことで失礼します。カルニア会長からの伝言です。
 『ジュエニさんとジェルさんが来訪された』
 以上となります。」

「ジュエニさんとジェルさんだと!!」

 聞き間違えかと思ってしまった。あの二人がやって来ただと?これはアドバイザーとしてジュンイチさんとジェニファーさんの社内での偽名だ。
 伝言はカルニアからということは、あやつが対応したのだろう。ということは二人に間違いないという確信があるのだろう。

「クリストフ様。打ち合わせの途中ですが、緊急の案件が発生しました。これはあなた様にも関わることですので、よろしければご同伴願えますか?」

「よくわからないが、わざわざそういうということはよほどのことなのだろう。」

「ええ、ジュンイチさんとジェニファーさんがやってこられたようです。」

「!!!」

 案内された部屋に入ると、二人の姿を見つけた。たしかにジュンイチさんとジェニファーさんだ。ただどう考えても亡くなったときのままの姿だ。
 声をかけようかとしたところで、後ろから着いてきたクリストフ様が声を上げてタイミングを失ってしまった。王爵は涙を流しながら喜んでいた。たしかに親友と言っていたくらいだからな。

 このあと聞かされた話はかなりの衝撃だった。ただ二人の容姿を見る限り本当の話としか思えない。少し記憶が混乱しているところがあると言っていたが、まさか時間を超えてやってくるとは・・・。
 クリストフ様はもっと話したいことがあったようだが、このあと外せない用事があったらしくお帰りになった。私たちも予定は入っていたが二人との会食を優先したのは当然のことだ。

 今回は久しぶりにおいしいお酒だった。商売のことだけで無く、いろいろな話をした。このあと自分たちが守った世界をいろいろ見ていきたいと言っている。出来るだけサポートできればいいと思っている。
 しかし商売の戦略に関する知識についてはまだまだ及ばない印象を受けた。前よりもより高度になっているのは、今まで私に合わせてくれていたのだろうか?


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