【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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112. 後日談 意外な人物との再会

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112. 後日談 意外な人物との再会
 クリスさんの家に泊まっている間に是非会ってほしい人がいると言われて会食をすることになった。どうやら自分たちが知っている人みたいなんだけど、驚かせたいのか誰なのかは教えてくれない。

 クリスさんと待ち合わせの店に行って部屋に通されると、一人の男性が待っていた。髪は剃っているのか無くなったのか分からないが、頭はつるつるで、かなりたくましい体格をしている。結構歳は行っているようだけど、歳を感じさせない覇気があった。

 どこかで見たような顔なんだけど・・・どこで会ったかな? 

『お久しぶりということでいいですか?ジュンイチさん、ジェニファーさん。あのときとは大分見た目が変わってしまいましたが、覚えていらっしゃいますか?』

 話してきたのはサビオニア語だった。ということはサビオニアで会った人?

 ジェンと顔を合わせるが、やはり首をひねっている。

『すみません。申し訳ありませんが、どなたなのでしょうか?』

『まあ仕方が無いかな。ロンと言えば分かりますか?』

『ロン?ロンさん!?サビオニアのときに遺跡に案内したロンさんですか?』

『はい、その通りです。まあ分からないのも仕方が無いかな。』

 そう言いながら頭をなでている。あのときは長髪だったよな。しかもあのときよりも体格も違うし、見た印象も違っている。

『ここ数日予定が入っていたというのがサビオニアからの使節団を迎えるためだったんだ。ロン外交大臣がいらっしゃったので、内密と言うことで二人のことを話したんだが、是非会いたいと言われてな。』

 クリスさんが説明してくれた。クリスさんも外交をしているせいかサビオニア語を流暢に話していた。

『話を聞いたときは本当に驚きましたよ。クリストフ王爵とは何度も二人のことで話していたことがありまして、今回二人のことを聞いて是非にとお願いしたのです。
 あのときは本当にありがとうございました。二人のおかげで国が安定することが出来たと言っても過言ではありません。』

『いえいえ、ロンさんやハクさん達みんなががんばったからこその結果だと思いますよ。自分たちはほんの少し手助けしただけですから。』

 挨拶がすんだ後は席について食事をしながら、当時のことやサビオニアの現状について話をする。クリスさんは当時のことを聞いてかなり驚いていた。

 現在ナンホウ大陸は4つの国に別れており、もともとあったタイカン国、サビオニア国、東半分の領土となったモクニク国、そしてモクニク国から独立した西半分のランタク国だ。モクニク以外は民主化が進んでおり、人や物の行き来が活発に行われているけど、モクニクは現在鎖国のような状況になっているようだ。あのときに見つかったタイカンとモクニクの間の古代通路は現在封鎖されてしまっているらしい。
 サビオニアはモクニクを経由しての流通がなくなったことにより、タイカンからランタク経由で資源を出荷することになったせいで、さすがにホクセイ大陸との取引量がかなり下がってしまったらしい。そこで現在は海路を利用してヤーマン国と直接取引が行われているようだ。

『そこでご相談なんですが・・・。』

 ロンさんがなにやら深刻な表情でお願いがあると言ってきた今の話の流れから考えると、おそらくあれのことだろうな。

『以前の遺跡調査で古代通路がまだあるという話をされていましたよね?その通路がどのようになっているのか調査をお願いしたいのです。』

『現在の勢力図をみると、おそらくタイカンの北東部からランタクの南東部につながる通路になると思います。わざわざタイカンの西側の通路を経由せずにランタクの東エリアとの流通が出来るようになりますのでかなりの行程短縮になることが考えられますね。ただもし見つかったとしてもサビオニアの恩恵はかなり小さいと思いますがいいのですか?』

『古代通路の存在についてはタイカン国と以前から話しており、現在はランタク国を含めて協議を行っているのです。この存在については事前に契約を交わしていまして、この通路を利用する際の関税を免除してもらうことで話が付いています。このため、我が国にも大きなメリットが出てくるのです。
 各国と共同で何度か冒険者に遺跡の調査をお願いしているのですが、手がかりすら見つからない状況なんですよ。』

『自分たちでも見つかるかどうかは正直断言は出来ませんよ。それでもかまわないのですか?』

『ええ、他の冒険者に頼むよりは可能性は高いと思っています。もちろん、それ相応の報酬もお出ししますし、もし見つかったら追加で報酬を用意させていただきます。』

 通路の場所については道しるべの玉を使えば確認出来るので、おそらく見つけることは出来るだろう。今なら優階位の魔獣であれば倒せるだろうから大丈夫だと思う。

「どうする?サビオニアでもあの村とか気になるところはあるんだよな。」

「そうね。それ以前にあの国がどう変わったのかやっぱり見てみたい気もするわ。」

「分かりました。
 クリスさん、急な話で申し訳ありませんが、あの国がどうなっているかを見に行くことを含めて一度サビオニアに行ってみようと思います。」

「ああ、ジュンイチ達を縛る権利もないし、それはかまわないぞ。まあ出発まではうちにいてくれるんだよな。」

「お邪魔させていただけるのであれば喜んで。」

『ロンさん。本当に発見できるのか、発見できたものが使えるのかどうかは分かりませんが、がんばってみようと思います。ただ調査の前に少しサビオニアの町で見てみたいところがありますので、少し時間をいただくことは出来ますか?』

『それは大丈夫です!!ありがとうございます。
 我々と一緒に移動していただければサビオニアまで最短で到着できるはずです。二人の席はすぐに確保しますのでよろしくお願いします。』

 どうやら外交使節として飛行艇でやって来ていたらしく、席を準備してくれるらしい。出発は3日後になるようなので、それまでに準備をするように言われる。移動中の食事などについては準備してくれるようなので特にこれといった物はないようだけどね。


 ロンさんを見送った後、クリスさんから身分証明証について話をしてくれた。国内の移動については現在は完全に自動化されているので問題ないけど、国の移動時には身分証明証を確認されるらしい。
 そこで問題になってくるのが自分達のパーティー名のようだ。どうやらアースというパーティー名はアムダの英雄のための名前と言うことになって現在登録することが出来なくなっているみたい。自分たちの再登録の時には気がつかれなかったようでそのまま処理されたようだけど、おそらく今後国を移動する際には問題となるだろうと言うことだった。
 そこでクリスさんが準備してくれたのがヤーマン国が発行する許可証だった。どうやら自分たちに会ったあと、すぐに準備を進めていてくれていたらしい。
 これがあれば身分証明証は自動認識させた後、その許可証を見せるだけでいいようだ。以前の貴族専用の通路のような感じなので専用の窓口で簡単に通ることが出来るようだ。通常は外交官など特別な人にしか発行されないようだけど、現在の国王に相談の上で発行してもらったらしい。

「そんな特別扱いしてもらっていいんですか?」

「現場の混乱などを考えると、どう考えてもそっちの方がいいだろうという判断だ。
 ちなみに二人のことを知っているのはまだかなり限定されている。もしもの時は緊急連絡先が書かれているのでこれを見せてくれれば大丈夫だろう。

 出来るだけ身分証明証を他のものには見せないようにしておいてくれ。依頼の受領についても今では自動処理になっているからわざわざ確認されることは無いと思うが、余計なトラブりになりかねないからな。」

「ありがとうございます。」

 思った以上に自分たちの名前は有名になっているらしい。

~ロンSide~
 まさかあの二人に再び会うことが出来るとは思わなかった。クリストフ王爵から話を聞いたときは半分冗談だと思ってしまったがな。記憶に焼き付いている二人の姿そのままだったし、クリストフ王爵が確認をとっていないわけはないからな。

 サビオニアの今があるのはあの二人のおかげと言っても言い過ぎではないだろう。まあモクニク国の内乱の特需のおかげもあるんだが、彼らの協力がなかったら、そもそもその戦争特需を受けることも出来なかっただろう。

 古代遺跡発見のための協力まで受けてもらえるのは今回の外交はこれだけでもかなりの成果だと言っていいだろう。見つかるかどうか分からないと言っていたが、おそらく大丈夫と考えていいだろう。どういう方法かまで言及するつもりはないが、彼らには不思議な力があるようだからな。


 ハクにも会わせようと思うが、どうやって会わせるのが一番効果的かな?最近は昔のような表情を見ることはほとんど無くなってしまったから、少しでも昔を思い出してほしいものだ。

 そういえば今回の同行者の中にあの村の出身者がいたな。あまり口外は出来ないが、少し話が出来るように気を遣ってみるか。


~~~~~

 クリスさんの家に世話になりながらサクラの町の散策を楽しんだ。折角なので自分たちが作った料理を食べてもらったんだけど、やはり珍しいみたいでかなり驚いていた。向こうで作ってきたものを温めただけなんだけどね。
 いくつかレシピを教えておいたのでいずれはクリスさんのお店で提供されるようになるかもしれない。まあもしかしたら他の国では同じような物はあるのかもしれないけど、珍しいには変わりないしね。

 いろいろと果物も出したところ、ナンホウ大陸で仕入れた果物にかなり驚いていた。向こうの大陸に行けばまだちょっと高いくらいで手に入っていたものなんだけど、今はほとんど手に入らないものらしい。
 モクニク国の東の地域で栽培されているものだったけど、モクニク国との国交が断絶したせいでほとんど入ってこなくなってしまったらしい。ランタク国で栽培が一部始まっているようだけど、まだまだ流通するには時間がかかるようだ。
 訓練場の冒険者達にかなり配ったというとあきれられてしまったんだけど、知らなかったから仕方が無いよ。



 3日後に大使館のようなところに行き、入口で事前にもらって置いた招待状を見せるとすぐに中に入れてくれた。建物に入るとロンさんが出迎えてくれたんだが、さすがに場違いな感じがする。

「お越しくださってありがとうございます。」

 事前に聞いていたんだけど、かなり丁寧な対応をしてくるのに違和感を受ける。というのも外交官の使節団に随行するとなると、それなりの理由や立場が必要となるらしいので、わざと大業にやっているみたい。

「いえ、いえ、ご招待ありがとうございます。準備は終わっていますのでいつでも出発は出来ますよ。」

 簡単な挨拶の後、同行する人たちに紹介されることになった。

「こちらの二人が先に説明した二人だ。容姿に驚いているとは思うが、ハク主席とも親交のある方で、我が国からも特別勲章を受けている。さらに今回重大な任務を受けてくれることとなったので、その当たりを十分に理解して対応してほしい。」

「初めまして、イチといいます。隣が妻のジェンです。いろいろと縁があり、今回同行させていただくことになりました。ロン外交官があのようにおっしゃいましたが、出来れば気さくに接してくれると助かります。」

 挨拶の後、さっそく飛行艇に乗り込んで出発することになった。名前はジュンイチとジェニファーだとさすがにまずいかもしれないと言うことでイチとジェンにしている。
 移動中の世話係になったのはダツランという30歳くらいの男性だ。もちろん外交官の一人として随行してきているだけど、何かあったときの連絡係をやってくれるらしい。

 飛行艇とは言え、どのようなルートで行くのかと思ったんだけど、サクラから南下したムライの町の南に新しくできた港町のムイーラまで走り、そこからサビオニアに向けた海上のルートとなるようだ。日程は12日ほどで到着できるみたい。

 モクニク国との国交が断絶した後、どうにか直接ホクサイ大陸への交易ルートがないかと海路の調査が行われたようだ。地球だったら普通に船で行けばいいと思うが、こっちでは魔獣が多く発生するところが多く、航路の確立にはかなりの手間と時間がかかるらしい。
 船に穴を開けてくるような魔獣が一番の問題らしく、それが大量に発生するところはまず航路としては使えないみたい。討伐してもすぐに沸いてくるエリアがあるのでそこを含めて調査を行うようだ。

 10年以上かかってしまう事業かもしれないと思われたが、革命前の貴族の一部が密売のために秘密裏に調査を行っていた資料が見つかったことで時間が短縮できたようだ。


 出発してから3日ほどでムイーラの町に到着し、そこで一泊した後は24時間体制で飛び続けることになるようだ。
 ムイーラの町は山間に作られた港町で港もそれほど大きくはない。もともとは小さな漁村だったけど大きな船を着けるには十分な水深があったことと、サビオニアからの航路と国内の流通の関係からこの場所が選ばれたらしい。
 人が集まるのでそれなりには発展しているようだけど、土地もそこまで広くないのでこれ以上の発展は厳しいような印象だ。荷物を置く大きな倉庫が建ち並んでおり、宿や食堂が多い印象だ。基本的に船員や労働者が多いという印象だな。

 飛行艇なのでそこまで大きなスペースはないけど、一応食事は交代でテーブル席で食べるようになっている。食事をするのはダツランさんとロンさんの4人で食べることが多い。海上に出てからしばらくしてやっとダツランさんとも打ち解けてきた。

「私はサビオニアの南の町の出身でして、あのアムダの英雄が救ったと言われるタニアの出身なんです。私自身、あの英雄から救っていただいたんですよ。」

 サビオニアの国の話になったときに、ダツランさんが言ってきた。

「え?アムダの英雄って・・・。」

「実際にあの二人という確証はないのですが、伝え聞いている二人の話からそのように言われています。二人の伝記の多くにその話は書かれていますよ。
 まあ正直なところ、今のサビオニアの国の正当性をアピールするのに使われたという側面は否定できませんけどね。」

 あのときの子供の一人かな?

「そうなのですね。」

「ええ。今でもはっきりと覚えています。必死に励ましてくれながら治療してくれたことを・・・。そのあとに再会できてほんとに良かったです。あのとき治療をしてくれた足は今でも全く問題ないんですよ。」

「ああ、あのときの足を治療した・・・。あ、え、治療を受けた人の一人なんですね。本で読んだことがありますよ。」

 あぶない、あぶない。またつい言ってしまうところだった。でもよかった。治療はうまくいったんだな。
 なぜかロンさんが苦笑いしながらこっちを見ている。そういえば遺跡の調査の時にあの村のことを話したような気がするな。

「ご存知でしたか。おかげで普通に生活を送ることが出来るようになりました。もしあの二人がアムダの英雄ではなかったとしてもあのとき救われた人たちにとっては英雄には変わりないのです。」

「そうなのですね・・・。」

「そのあと国の役に立ちたいと必死に勉強してなんとかこのような職に就くことが出来たんです。」

 あのとき救うことが出来て本当に良かったな。

「今もその村の人たちは元気にしているんですか?」

「ええ、今はそのときよりも大分発展してますよ。アムダの英雄が救った村と言うことで観光地にもなりましたからね。
 そのときに集まった資金で近くに鉱山も開発することが出来て、多くの人が集まって町も大きくなっています。国の改革のおかげもありますが、以前よりもかなり良い生活が出来るようになっています。これもあの二人のおかげだと思っていますよ。」

 そうか、よかった・・・。ジェンもかなりうれしそうにしていた。


 途中特に魔獣に襲われたりすることもなく、無事にサビオニアの港町アカルニアに到着した。ここでいったん飛行艇の整備をしてから王都サビオニアへ。

 昼過ぎに到着すると、すぐにハクさんに会うことになった。隣の部屋で待機していると、話し声が聞こえてきた。

「首相、事前に話しました通りヤーマンとの契約をまとめて参りました。」

「ご苦労。事前に話は聞いているが、例の古代通路の調査をする人間を見つけたというのは本当なのか?」

「ええ、若い冒険者なんですが、古代遺跡の造詣が深く、調査には最適だと思います。多くの遺跡を発見した実績もありますので彼ら以上の人材はいないと思います。」

「そこまでの人材なのか?まるであの二人のようなことを言うな。」

「ええ、あの二人以上の能力があると思っていますよ。」

「あの二人以上だと?アムダの英雄を超える二人とはよっぽど自信があるんだな?」

「それは保証しますよ。もし自分の言葉に嘘があったらなんでもおごってあげますよ。」

「すごい自信だな。まあお前がこういう賭け事を言ってくるというのも久しぶりだな。」

「ええ、私もちょっと昔に戻った気持ちになったので・・・。入ってきてください。」

 なにやら口調がだんだん昔の言い方になってきているような気がする。声がかかったので部屋に入ると、大分年をとっているが、ハクさんがそこにいた。かなり驚いた顔をしているように見える。

「え?・・・」

 ハクさんは気がついたのかな?

「ジュンイチさんとジェニファーさん?え?・・・ロン、どういうことだ?いくらなんでもあの二人にそっくりだからといって二人の能力以上という冗談はやめろよな。」

「いえ、そっくりでなのではありません。アースの二人のジュンイチさんとジェニファーさんです。時を超えてやってこられました。本人だと言うことはヤーマンのクリストフ王爵も認めておられます。」

「お、おまえっ!!ふざけるなよ!
なんでそんな重要なことを全く報告書に入れてなかったんだ!!そのくらいの報告は出来たはずだろうが!!」

「それはもちろん驚かせるために決まっているでしょう。まああまり口外できる話でもないので直接話すべきことだとは思いますけどね。それより、口調が昔に戻ってますよ。」

「おま、っく・・・。」

 ロンさんの胸ぐらをつかもうとするのを押しとどめてこちらに向かってきた。

「ロンがこういうと言うことは間違いなく本人と言うことなんでしょう。ジュンイチさん、ジェニファーさんお久しぶりです。」

「お久しぶりです。元気そうで何よりです。」

「ロン、ちゃんと順番に説明してもらうぞ!!」

 とりあえずアムダの討伐の後の話をしたあと、いろいろと当時の話をするとハクさんも納得してくれたようだ。
 自分たちの英雄譚にはサビオニアの革命のことがかなり入っており、サビオニアでは二人のことはかなり英雄視されているらしい。もちろんもと貴族の関係者には恨まれているらしいけどね。まあ半分くらいは事実だけど、半分くらいは誇張されている感じだった。


 この日はハクさんとロンさんの他にカルバトスさんも一緒に会食をすることになった。かなり高級な店の個室で秘密裏での会食という感じになったけど、3人の役職を考えると仕方が無いのかもしれないね。
 宿泊は海外からの賓客のために用意されている宿を提供してもらえたんだけど、結局宿に戻ったのは明け方だったので結構きつかったよ。


~ジェンSide~
 こっちの世界にやって来てから毎日が本当に充実している。向こうの世界でもイチとは仲良くやっていたけど、なかなか一緒にいることも少なかったからね。こっちではずっと一緒だけど、ずっといてもお互いに負担にならない関係というのはとてもいいわね。

 クリストフ殿下にコーランさんと懐かしい人に会ったのだけど、スレインさん達にも会えて本当に良かった。最初に二人が亡くなったと聞いたときはかなり悲しかったものね。
 だけどのあのときの子供達がもうあんなに大きくなっているとはね。私達の子供達と同じくらいだからどうもかわいく思えてしまうのよねえ。しかも子供達には剣の使い方とか教える機会が無かったから余計にね。

 コーランさんは相変わらず元気にやっていて良かったわ。身体が言うことを聞かなくなってきていると言っていたけど、あの年齢であの元気があれば十分よね。私達の話を食い入るように聞いていたものね。まだまだ本格的な引退はしそうにないわ。
 後継者も十分に立派だけど大変かもしれないわね。私達も地球であとは任せてきたけどきっと大丈夫よね。まあそれなりに教育はしてきたと思うから子供達もなんとかやるでしょ。

 話の流れでサビオニアに行くことになったけど、あのとき助けた子供が立派になっていて驚いたわ。私達のことを書いた伝記は読んだけど、基本めでたしめでたしで終わる感じだったから、そのあと本当に幸せになれたかは分からないのよね。
 ハクセンやアルモニアにしても国の思惑も入っているような感じもするんだけどね。サビオニアもそうなんだろうな。まあそこまでの悪意は無いと思うけど、亡くなっているからということで英雄視している一面もあるからね。
 今まであった人たちは本当に喜んでくれているけど、その当たりは注意しておかないといけないわよね。


~~~~~

 結局ハクさんの用意してくれたところで二日間お世話になり、食事を一緒にしながらいろいろとサビオニアの国のことを聞くことが出来た。人の不幸を喜ぶわけではないが、やはりモクニク国の内乱のおかげでかなり経済が潤ったらしい。特に鉱石関係の需要が大きかったようだ。
 ただ、それも鉱山の権利をタイカン国に渡さずにすんだ古代通路の発見がかなり大きかったみたいで、改めてお礼を言われてしまったよ。

 そうは言ってもやはりまだ貧困層もいるので今後はどのように対策していけばいいのか考えているようだけど、以前よりも生活のレベルは間違いなく向上していると言っていた。
 貴族の特権はなくなったが、善政を敷いていた領地についてはそのまま代官としてその地を治めてもらっているみたいで、それがうまく機能しているようだ。やはり統治者としての人材不足はどうしようもないからね。

 この後の予定は、タイカン国へ向かう古代通路の入口となるオカロニアで待ち合わせをすることにしていったん自分たちはタニアの町へ行ってみることにした。オカロニアではロンさんが来てくれるみたいなので、日程については余裕を持って調整しておいた。



 移動は車で走っていったんだけど、ヤーマンほどではないが車の走っている数は大分増えていた。以前はかなり少なかったからなあ。それだけ車が普及してきているのだろう。ただちょっと古い車が多いのは中古車がメインで流通しているせいだろうな。
 途中の町にも寄っていったんだけど、以前よりも大分発展しているし、住んでいる人たちの生活レベルも大分上がっているように思えた。着ている服とかが違うからね。お店に置いている商品もかなり充実しているので流通関係もきちんと出来ているのだろう。

 タニアの町にやってくると、入口に「アムダの英雄に救われた町タニア」とか書かれた看板が目に入った。なんか気恥ずかしい・・・。
 アムダの英雄とは確定していないはずなんだけど、もう事実として受け入れられているみたいだな。まあハクさんとかには話したからなあ。

 観光案内所のようなところがあったので話を聞いてみる。いくつかアムダの英雄に関連するところが名所になっていて、見学コースが紹介されていた。さすがに一時期ほど観光客は多くないようだけど、それでも一定数の観光客がやって来て名所巡りをしているらしい。

「折角だから見ていくか?」

「ええ、そうね。ちょっと恥ずかしい気もするけどね。」

 コースで自分たちが治療した教会や使った井戸は分かるんだけど、食事をした場所や宿泊した場所などが書かれている。

「なあ、自分たちってここでは食事も宿泊もしてないよな?」

「ええ。でも冒険譚を読んだ感じでは救ってくれたお礼にパーティーが行われて何泊かしていったという話になっていたわよ。」

「まあいろいろと話は作られていくものだから仕方が無いのかな・・・。」


 案内に従って見て回ると、教会は新しいものが建てられていたけど、昔の教会はそのまま残っていた。内部は公開されていて、治療をした場所や食事をした場所などの説明が書かれていた。
 井戸には町の住人とのやりとりが書いてあり、そこはオブラートに包まれていたがかなり真実に近い説明が書かれていた。
 他にも食事や宿泊した場所と書かれているところがあったけど、もちろん記憶には無い。まあ治療の後すぐに出て行ったし、その後の話も入口付近でやったからなあ。打ち合わせ場所については石碑のようなものがあったけどね。
 観光客に町の中をある程度見て回るように配置したんだろうか?昔の町のエリア全体を回るようになっているからね。

 ちょうど講演のようなことが行われていたのでちょっと見ていくことにした。他にも10名ほどの人が講演を聴いているようだ。「アムダの英雄について」と書かれている。

「・・・・
 あのとき、私は他の友人達と町の広場で遊んでいました。楽しかったその場に突然悲劇が訪れたのです。
 魔獣の咆吼と悲鳴が聞こえてきて、気がついたときには目の前に大きな魔獣がやって来ていました。逃げなきゃと思いながらも足がすくんで動けませんでした。そして私はいったんそこで記憶が途絶えました。

 目を覚ましたときには顔にひどい痛みを感じました。ほほからあごにかけて肉がえぐり取られていたのです。鏡で自分の顔をみて絶望しました。
 簡単治療をしていただけましたが、あくまで止血だけでした。もう私は一生その姿で生きていくのだとかなり落ち込みました。

 そのときあの二人が現れたのです。多くの方を順番に治療し、私も治療をしてくださいました。そのときの言葉は今でも耳に残っています。

『必ず助ける。絶対に傷跡もなく治してみせる。だからがんばれ!!』

 そして徐々に顔の痛みが消え、次に目を覚ましたときには顔の傷は綺麗になくなっていたのです。二人から分けていただいた食事は今でも忘れられません。
 そのあと・・・・。」

 しばらく話をされた後、講演は終了となった。あのとき顔を怪我した女の子だったのか。特に後遺症もなかったようで良かったなあ。


 来た道を引き返してオカロニアへと向かい、ロンさんと合流してこのあとの対応について話をする。タイカンとランタクの担当者にはすでに話を伝えているらしく、遺跡の発見如何に関わらず連絡方法を確認する。一応おおよその場所は伝えておいたので、担当者は近くの町に滞在してくれているらしい。他にもいろいろと細かく説明を受けてから古代通路の調査へ。

 以前と違ってすでに通路は公開されているので連絡通路までの道は綺麗に整備されていた。通路の入口にはゲートがあり、身分証明証のチェックがされている。自動認識で犯罪歴などの確認を行ったあと、身分証明証の確認となるんだけど、ロンさんが説明してくれて何事もなく通過することができた。

 ここからは車に乗って通路をぬけてタイカンへと入ったけど、こちらのゲートはほぼノーチェックで通過できた。車に通行許可証のようなものを掲示していたせいだろうね。

 通路の出口側にあるロニアの町から北上し、モクニクとの連絡通路で大きく発展したムニアの町へ。今は連絡通路が封鎖されているので以前ほどではないらしいけど、まだサビオニアとランタクの流通のルートになっているので活気はそこそこあった。

 街道から外れて北上していくと、徐々に森が深くなってきた。ここからは車を収納して走って行くことにしたけど、あまり速度は上げられない。さすがにこの辺りは魔素が濃くなってきているのか、魔獣の気配を感じるからね。

 前は索敵でどのような魔獣かある程度分かったんだけど、時間が経っているので魔獣の種類まではっきりとは分からなくなっていた。ただかなりの大型の魔獣なので上階位と思われる魔獣は牙猪や大角牛、良階位と思われる魔獣は巨猪や巨角牛あたりだろう。小さな魔獣はこっちにきて狩っていたんだけど、大型の魔獣を狩るのは前の転生の時以来だな。

 索敵で魔獣の位置を確認しながら、目視できたところで魔法で攻撃していく。こっちに来てから魔法の威力が格段に上がっていたので風弾や水弾の魔法だけでほとんどを仕留めることが出来た。やっぱり魔素の絶対量が違うんだろうなあ。解体は後回しにして倒した魔獣はすべて収納していく。

 森の中を進んでいくと、徐々に優階位の魔獣の気配を感じるようになってきた。大きなもので突猪や突牛、隠密系では魔山猫などがいた。
 さすがに良階位や優階位だと魔法だけでは仕留められず、しかも遠くからの攻撃だと気配を察知してよけられてしまう。ある程度近距離まで引き寄せて土魔法で足止めしたところに風弾を撃ち込む。このあとは防御に徹しながら風弾と風斬と剣で攻撃していくと無事に倒すことが出来た。

「いい感じだね。」

「ええ、魔法の威力が地球にいたときよりも段違いにいいわね。ちょっと魔力が大きくて操作が慣れていないせいで精度がいまいちだけど、まあこれは剣と一緒で徐々に慣れていくしかないわ。」

「今の感じだと、優階位上位でもなんとか倒すことが出来そうだなあ。まあ後のことを考えてもここの辺りの魔獣は出来るだけ倒しておいた方がいいからね。」

「連絡通路が見つかっても優階位の魔獣がうろうろしていたらさすがに使えないからね。そのあたりは課題になるかもしれないわね。」

 さすがに優階位の出るところでは見張りを置かないわけにはいかないので、夜は小さい方の拠点を出してから交代で見張りをする。


 森に入って4日目にやっと遺跡のあると思われる場所までやって来た。このあたりは魔素が若干薄くなってきており、魔獣の階位も下がってきた。やはり古代遺跡に何か秘密があるんだろうな。

 道しるべの玉で位置を確認すると、遺跡の入口は完全に土に覆われているようだった。土が覆い被さっていてかなり大きな木が植わっている。これは普通は見つけられないよなあ・・・。

 土魔法を使って土砂を取り除いていくとやっと遺跡らしきものが見えてきた。中にも魔獣の気配があるのでしばらく待って出てきたところを仕留める。中に入ると魔獣石が結構落ちていた。おそらくここで沸いて死んでいったものだろう。結構な量になっていたけど、階位は並~上階位レベルの魔獣のようだった。


 ここも内部の空気はよどんでいないのでどこかに空気孔があるのかもしれない。中に入った後は入口は埋め戻しておく。魔獣に入ってこられるとやっかいだからね。

 広さは他の連絡通路よりも少し狭い感じだけど、十分車が離合できるレベルだ。途中数カ所土砂が落ちて埋もれているところがあったけど、補強すれば何とかなりそうだ。途中少し広いペースが作られていて休むことが出来るようになっていた。前の二つの古代通路よりも長いために休憩所を作っているのかもしれない。
 途中の土を収納しながら進んでいき、かなり歩いた先で土砂を除くと外から明かりが見えた。やっと出口か?

 外の気配を探ってみたけど、いるのは初~並階位の魔獣で強い魔獣の気配はない。少し歩くと道が見つかり、地図と位置からだいたいの場所を把握する。すぐ近くにランタクのニルクの町があるようなのでそこに行ってみることにした。


 ニルクの町はランタク側での待ち合わせの町だったのでちょうど良かった。町に入るのに特に問題なく、そのまま役場へと顔を出す。受付に行ってからロンさんから預かった紹介状を出した。

「すみません。この紹介状を出せば担当者に連絡が行くときいているのですが大丈夫でしょうか?」

「えっと・・・はい、大丈夫です。すぐに担当の者に連絡します。」

 すると待ち構えたようにすぐに担当者という人がやって来た。あれ?この人達は・・・。

「わざわざお越しくださってありがとうございます。今回の連絡通路について担当を任命されましたデリアンといいます。こっちは助手のカルアです。
 内密の話になりますので、別の建物に案内いたしますのでご同行願います。」

 そういうと、すぐに役場を出てから3軒ほど隣の建物に案内される。建物は宿を改造したようなところで、説明では役場の仮の建物として使用していると言うことだった。部屋に通されるとすぐにカルアさんがお茶を用意してくれていたんだが、デリアンさんが待てないとばかりに話しかけてきた。

「さっそく本題となりますが、今回こちらの国に来られたと言うことは、古代の連絡通路を発見したということでよろしいのでしょうか?」

「ええ、そのように理解していただいて問題ありません。」

「古代の連絡通路ですか・・・。私達も自分たちで発見したかったものです。
 古代の連絡通路はやはり現在見つかっているものと同じ感じでしたか?地下空洞もあったんですかね?連絡通路に何か古代文字などは残っていませんでしたか?ああ、あと・・・。」

「はいはい、デル、そこまでよ。相手もかなり不審に思っているでしょう?

 申し訳ありません。デリアンは遺跡のこととなるとどうしても歯止めがきかなくなるのです。」

 お茶の準備を終えたカルアさんがデリアンさんの暴走を止めてくれた。

「いえ、それはかまいませんよ。
ところでお二人は遺跡にかなり詳しいようですが、古代遺跡の調査が専門なのですか?」

「ええ、古代遺跡に人生を捧げられるくらいにはまっていますよ。若い頃はなかなか調査も出来なくてもんもんとしていたのですが、あることをきっかけに好転しましてね。
 アムダの英雄をご存知ですよね。あのお二人に遺跡調査の依頼を受けてもらったところからいろいろと運がよくなったんですよ。

 今は子供達も成人したので二人であちこちに飛び回っていますよ。あ、すみません。助手のカルラは私の妻なんです。彼女も古代文明についてはかなり造詣が深いんですよ。

 今回も古代の連絡通路の話を聞いていたのですが、自分たちにも声がかかったのですぐに立候補したんです。」

 そういえばアムダの討伐の時にも国の代表としてきていたからなあ。ちゃんと認められて良かったよなあ。ジェンを見ると同じようにほほえんでいる。

 連絡通路について一通りの話をした後、サビオニア、タイカンの担当者に連絡を取る。連絡通路の発見と、簡単な状況について連絡したので、細かいところは三国の担当者で話を進めてくれるだろう。

 さすがに強行軍でやって来たのと、すでに日も暮れかけていたのでこの日は用意してくれた宿に泊まることになった。デリアンさんはすぐにも出発したいようなことを言っていたけどね。


 翌朝朝食を取ってからそうそうに二人を連れて通路の入口へと向かう。

「え、こんなところにあったんですか?」

 やはり町からかなり近かったことに驚いているようだ。

「ええ、完全に土に埋まっていたのでわからなかったのだと思いますよ。もしもの事を考えて入口は土砂でふさいでいます。
とりあえずタイカンの担当者にも案内してきますが、タイカン側は町から距離があるうえ、優階位の魔獣も出てくるので戻ってくるには時間がかかると思います。」

「分かりました。私達もいろいろとやらなければならないことも多いので戻ってくるまではこの付近に滞在していると思いますよ。その際はまた声をかけてください。」


 二人に別れを告げてから連絡通路を引き返し、タイカンへと戻る。ルートが分かっているので行きよりはスムーズだったけど、それでも森を抜けるまでに4日もかかってしまった。

 ここから近くにある小さな村のトルクというところに顔を出す。まだかなり小さな村なんだけど、連絡通路が本格始動したら中継の町として発展するかもしれない。それとももっと近くに町を作るのかなあ?まあ魔獣の討伐次第だろうな。
 タイカンの担当者がここに来ているはずだなので、入口の門番に紹介状を出すとすぐに担当者がやって来た。

「イチ様とジェン様ですね。すでに話は聞いております。担当のトニアと言います。
 遺跡へ案内をしていただけると言うことですが、本日は予約している宿でゆっくり休んでいただいて、出発の日程についてはまた明日に打ち合わせると言うことでよろしいでしょうか?」

「いえ、早く取りかかりたいと思いますので、明日の朝に出発と言うことで良いですよ。ただ優階位の魔獣が出てきますので、その辺りの護衛は問題ないでしょうか?」

「はい。事前に連絡は受けていますので、兵士の中から実力を持つもの達を集めています。野営にも慣れているもの達なので問題ないはずです。」

「分かりました。それでは明日よろしくお願いします。」


 一晩休んだ後、朝食を取ってからトニアさんと合流してすぐに出発する。今回同行するのは調査員が4名と護衛の兵士が10名だ。車4台で移動するみたい。

 ある程度街道を北上してから森の中へと入っていく。車は収納バッグに入れていくようだ。思ったよりも大きな収納バッグを準備しているみたい。
 途中で魔獣を発見しても、さすがに戦い慣れた兵士だけあって、良階位の魔獣だけでなく、優階位の魔獣が出ても余裕で倒していた。途中の野営の時には夜の見張りはやってくれたのでゆっくり休むことが出来て助かった。

 さすがに二人で行ったときよりも移動時間がかかり、6日後に連絡通路の入口に到着する。彼らはここに拠点を造り、しばらく調査を行ってから大々的に開発を進めていくようだ。その間、兵士達は近くの魔獣の退治をすすめるみたい。
 ここの場所は途中で目印を付けながらやって来たのであとから大規模な討伐隊と調査隊がやって来るらしい。ただ周りの状況を考えると、安全になるのはまだ大分かかるんだろうな。それまでは定期的な魔獣の討伐や護衛などが必要になりそうだ。


 ここから調査員2人と護衛3人と一緒に連絡通路を進む。途中の状況を確認しながらだったので思ったよりも時間がかかってしまうのはしょうが無いだろう。
 ランタク側にでると、すでに拠点が築かれていた。内部の調査は自分たちの到着を待っていたのでまだ行っていないようだ。ここでお互いの担当者に引き合わせて依頼は完了した。


 デリアンさん達もいたので挨拶をしていく。

「お二人ともお世話になりました。あと、これ良かったら古代文明の研究に使ってください。自分たちがまとめた古代遺跡の資料です。
 残念ながらここ最近見つかった遺跡については分かっていないのでもしかしたらすでに調査の終わったことが書かれているかもしれませんが、なにかの参考にしていただけでがと思います。お二人が担当で本当に良かったです。」

 ニルクの町に戻ってから役場に顔を出して依頼の完了させると思ったより多くの報奨金のもらうことが出来た。ありがたいものだ。折角なのでロンさんとハクさんにもお礼のメッセージを送っておいた。


~ハクSide~
 サビオニアの改革が成功してからもう20年以上経つのか・・・。革命は大変だったが、長年の夢が叶って良かった。
 革命が成功して国の運営も軌道に乗った。革命の同志も半分はすでに亡くなってしまったが、その意志を継ぐもの達も育ってきているのできっと大丈夫だろう。私もそろそろ引退を考える歳だからな。

 ヤーマンに外交に行っていたロンが戻ってくることになったのだが、えらく慌てて戻ってきているようだ。いつもなら交渉が終わった後も、「現地調査だ」と言って帰りはもっと遅くなっているんだが、何か急ぎの用事でもあったのだろうか?
 まあ古代遺跡の調査が出来る人物が見つかったと言っていたからそのせいか?もし本当に見つけることが出来たら助かるのだがな。

 ジュンイチさんとジェニファーさんの二人の能力までとは言わないが、今回の候補のものがそれに近い能力を持ってくれているとありがたいんだがな。


 ロンが戻ってきたというのですぐに会うことにした。例の調査の二人も紹介してくれるようだ。一通りの説明を聞いた後、遺跡調査の話になったが、あの二人を超える能力を持っていると豪語している。あの二人を超えるだと?ロンも言うようになったものだな。

 入ってきた二人を見て驚いた。俺の記憶にあるあの二人の姿だった。ロンにそっくりだから同じ能力というのはおかしいだろうと言うと、あの二人で間違いないと言ってきた。

 クリストフ王爵が言うのなら本当なのだろうが・・・それならなぜ先にそう報告しない!!怒鳴ったら驚かせるためだったといけしゃあしゃあといいやがった。くそっ!!

 そのあと二人と話をして驚いた。まさか時間を超えてこの時代にやって来たという事だったからだ。しかし本人というのは確かに間違いないだろう。本人でなければ当時の話をここまで明確に説明できるわけがない。二人の話はいろいろと書かれているが、かなり創作されたものが多いし、公開できない話も結構あるからな。

 折角なのでカルバトスも呼んで一緒に食事をとることにした。いろいろと予定は入っていたが最重要事項だと言って強引に予定を空けさせた。あの二人と話すのが最優先に決まっている。


 古代連絡通路の詳細はロンに任せたが、あの二人ならきっと見つけてくれるだろう。遺跡の状態にもよるが発見してもらえるだけで十分だ。修理できるレベルならその価値は半端ないからな。
 しかし相変わらず欲のない二人だ。最近は裏のある人間ばかりに会っていたのでつい疑ってしまったが、あの二人のことだ。きっとそのようなことは考えていないんだろうな。

 しばらくした後、無事に発見したと言う連絡が入ったようだ。タイカン、ランタクの担当者とも無事に連絡を付けてくれたらしく、調査がすでに始まっているようだ。うちの国からも調査員が行っているのでしばらくすれば報告があるだろう。

 二人からメッセージが届いていたんだが、報酬についてお礼を言われてしまった。確かにかなりの額ではあるのは間違いないが、連絡通路の発見によって得られるものと比べたら、微々たるものだ。連絡通路の利益は分かっているはずだからもっと求めてもおかしくないんだがな。

 まああの二人のことだ、またふらっとやってくるかもしれないな。しかし発見した二人のためにも何か残してあげたいものだ。


~デリアンSide~
 古代調査に人生をかけて研究を続けてきた。若い頃はかなり大変だったが、アムダの英雄と呼ばれる二人に会ってから人生が好転した。
 地道に研究を続け、アムダ討伐の時に国の代表にも選ばれた。無事に討伐が出来たこともあり、国から褒賞をもらい、貴族に準ずる扱いとなった。おかげで遺跡の調査はさらに進むことになった。

 モクニク国の内乱の時には私達はランタク側に移ることにした。多くの人間も逃げ出したが、逃げることが出来なかった人たちも多い。早めに情報をつかんでいたのが幸いした。

 内乱の間はさすがに遺跡の調査は出来なかったが、さすがに国を出るのもためらわれたので、それまでの蓄えと、日雇いの仕事で食いつないだ。
 内乱が終わり、新たな国が誕生すると、国も大分落ち着いていった。もともと戦闘も大規模になったわけではなく、局地的な戦闘だけだったのがよかったのだろう。

 古代遺跡の調査である程度名が売れていたこともあり、ランタク国でも無事に職に就くことが出来た。今では古代遺跡調査員として国に雇われて好きなように研究できる身分となった。昔からは考えられない待遇だ。


 最近は新たな遺跡の発見がなく、心躍ることが少なくなってきたんだが、新しい古代の連絡通路調査の話を聞いた。過去に何度も調査が行われ、発見されていない事案だ。私達も調査を行ったことがあるのだが、手がかりすら見つけることが出来なかった。
 今回は遺跡調査でかなりの実績がある人間が行うと言うことだったのだが、私の知らない人間なのだろうか?そんな人間がまだ埋もれているとは驚きだ。今回はサビオニアのロン氏が主導しているらしい。
 調査はタイカン側から行われるようだが、今回はかなり可能性が高いということで、調査メンバーに立候補した。


 調査結果が待ちきれずに予定よりも早くニルクの町について待っていると紹介状を持った人物が来たと連絡が入った。こっちの町にやって来たと言うことは通路を発見したと言うことなのだろうか? 

 二人に会いに行くと、いたのは若い冒険者二人だった。なぜかアムダの英雄の二人を彷彿させる姿をしていた。いや、二人そのものといった感じだった。名前もイチとジェンと二人の愛称を使っている。まあ英雄にあこがれて付ける人たちも多いからな。

 タイカンの遺跡の調査員と面談をして、例の二人の仕事は終了となった。別れの際に古代遺跡の調査結果という資料を渡された。彼らが行った調査結果をまとめたものらしい。

 家に帰ってデルと二人で読んでみたが、あまりの内容に驚きを禁じ得なかった。たしかにここ20年ほどの間に見つかった遺跡についての調査は行われていないが、それでもかなり十分な内容だ。そしてまだ見つかっていないナンホウ大陸の遺跡調査結果についても書かれていた。

 そして資料の最後に一枚の紙が挟まっていた。

「デリアンさん、カルアさん、お二人が幸せそうで良かったです。」

 それを見たとき、やはりあの二人だったのではないかと思った。名乗らなかったのはおそらく何か事情があるのだろう。まああの二人が生きていると分かったら大騒ぎになってしまうしな。


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