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七
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夕餉の席に少し遅れて来た白藤と子は手を繋ぎ、一見仲良さ気に猿田彦の目には映った。しかし、微笑ましく見えるその光景をさっき見た記憶が本当なのかと問いかけてくる。不在にしていた間に何が起き、幽世之神から話を聞くまでは様子を伺うしかないか、と猿田彦は眼前に並べられた夕餉の品々を見て黙する。
子は懐疑的な思いを抱いている猿田彦から見ても留守中には既に皆に溶け込んでいる様だった。やたらと世話を焼きたがる香染をそれとなく窘める白藤と笑って見守っている幽世之神から不穏な気配は感じ取れ無い。だが、それは目に見えるだけで果たして真実かを決めるには弱いと感じてしまった。何も気にしていない顔を作り、食事を摂りつつ子の表情や場の空気を探る。探るが、黄泉比良坂では馴染みの後ろめたさに似た気配は感じられない和やかな食卓でしかない。
「猿田彦様、お疲れの様ですね?」
「あ、あぁ、まあ……そうは言ってもいつもと大差無いけれどね」
つき合いの長い白藤に労いの言葉をかけられ、まさか疑っているとも言えずに猿田彦は涼しい顔で味噌汁に手を伸ばした。
子は随分と慣れた匙使いで夕餉を口へと運びつつ、拙い口調で猿田彦に体験したあれこれを懸命に伝えている。その横に香染が張りつき、匙では食べにくい魚の煮つけを解したりと甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「おねぇしゃん、ありがとです」
「はい、どう致しまして」
嬉しそうに世話を焼く香染に温い視線を送っている白藤と幽世之神の存在が更に場を和ませていた。
「んでね、おにぃちゃん!」
「何かな? おチビさん? はしゃぎ回って池に落ちたのかな?」
「はぅ!?」
揶揄う様に言いつつも、猿田彦の視線は白藤に注がれていた。目は泳いではいないか、箸を持つ手は震えてはいないか、彼女を取り巻く雰囲気に濁りはないか。黄泉比良坂で自己弁護に齷齪する輩を相手にしている時と同じ心境で口にする食事はいつもと同じはずなのに猿田彦にはただ空腹を満たすだけの物と化していた。
「猿。今夜も一献、な」
懐疑的な目で白藤と子を見ていた猿田彦は慌てて幽世之神に同意を示し、気持ちを切り替える為に熱い茶を口に含んだ。その間も子は池に飛び込んでしまったのかを一生懸命に説明しており、猿田彦は苦笑いしながら頷き答えている。子は実に楽しそうで、あんなに執着をみせていた食事が疎かになっている事にすら気づいていない様であった。
ーー気を回しすぎたかーー
猿田彦はまだ温かさの残る炒め物に箸を伸ばした。歯応えの良い葉野菜と少しばかりとろみがつけられた醤油餡の絡み合った旨みが口内を満たす。いつもの優しい味が黄泉比良坂に傾きかけていた心を引き戻した。
明るく穏やかで笑いの絶え無い真逆の日常に戻ったのだと猿田彦は再認識する。子の話は時系列も関係なく思いつくまま話し続けられていた。
「そんでね、オイラ、鳥さんこあくなくなったの。んでね、おやついーっぱいでね」
「……楽しかった、で良いのかな?」
「いっぱい楽しかった! 神様とお夕寝もしたんだよ」
「それは良かった良かった」
相槌を打ちながら幽世之神に目を遣ると、幽世之神は肩を竦めて猿田彦に自分は寝ていない、と伝え様としている様子が映った。その行動と表情から、幽世之神も寝たなと思うと思わず猿田彦は吹き出しそうになった。元気が溢れんばかりの子供に一日を費やしたのならば転寝くらいしても仕方がなかろうに、と思うのだが幽世之神はそうではないらしい。
幽世之神とて黄泉比良坂の重く冷たい光景を知っているのだ。だからこそあの場所で大半を過ごす猿田彦には仕事だったとしても一抹の申し訳なさを抱えているのも事実。呑気に夕寝をしていたなんてとんでもなくお気楽な奴だと思われるのは不本意なのだが、子の前で寝つくまで添い寝をしていただけだよと否定するのも子を拒絶している様でそれはそれで宜しく無い気がする。
「うん、やはり今夜は是が非でも一献、だな」
「御館様ったら毎晩の事でございましょうに」
幽世之神と猿田彦の間の空気に気づいていない香染が可笑しそうに笑う。
毎夜猿田彦は幽世之神の誘いに乗りつつも、その日黄泉比良坂で体験した報告すべき事を伝えている。幽世之神からすれば、一日の終わりに酒で身体に纏わりつく穢れを落とし心地良く眠り、また明日を迎えて欲しいという気遣いもあった。
「何か摘める物をお願いしても良いかな?」
「ふふっ、御館様ったら! それも毎晩の事でございますよ? 今宵は何がよろしいでしょうか」
「そうだねぇ……食事中に食べ物を考えるのは難しいものだねぇ……猿、何か希望はあるかい?」
「いきなりそう言われましても」
藪から棒に話を振られた猿田彦は困惑しながら答えようとした途端、魚の煮つけに悪戦苦闘していた子がぱっと顔を上げた。
「おだんごとおまんじゅう! おいしーの!」
それが今日の昼の甘味だったのかと笑いを堪えながら猿田彦は目を細めて子を見た。団子の食感や餡の旨味とを熱弁する子は興奮が止まらず、横に座った香染が上手い具合いにさくさくと皿を動かして食器が当たったり子の着物の袖が汚れない様にと見事に子の動きの先を読んでいる。まるで何年も共に過ごした姉弟だと猿田彦は微笑ましく思った。ちらりと白藤を見れば、半ば呆れながらそれでいて二人が可愛くて仕方が無いという目で見て、くすくすと笑いながら自分の食事を丁寧に進めていた。
「坊やは夕方にもう湯浴みは済ませたんだから、ご飯を食べ終わったらちょっとだけお手伝いしてちょうだいな。そしたら休憩してお布団だよ?」
少し考えてから子は元気良く返事をし、香染を見上げお手伝いとは何かを聞いている。話を聞く内に子の目は輝き、匙を握る手に力がこもるのが誰の目にもはっきりと見えた。
「ん! オイラがんばる!」
「そうね、坊やにはがんばってもらうけれど……あっ待って、違う、坊や、ちゃんと噛んで食べないと!」
気合いの入り過ぎた子に白藤の静止は届かず、子は初めて食べたであろう煮つけの解し身を口いっぱいに頬張り……盛大に噎せた。
げぎゃふん、けほきゃふん、と繰り返される子の苦し気な声が食卓に響き、幽世之神と白藤は言い合わせたわけでも無いのに同時に視線を天井に向けた。隣にいる香染はおろおろし、落ち着かせようと湯呑みを持ちどうにか飲ませようとしていた。
「失敬」
一言詫びを告げると猿田彦は立ち上がり、子を抱え上げると香染の手から湯呑みを受け取り縁側へと向かった。その間も子からは悲痛な声が絶え無い。
「もう少し辛抱な、おチビさん」
短い掛け声と共に子の身体を前傾にすると、肩甲骨の間を少しだけ強めの力でぽんと叩いた。
「けほんっ」
叩かれると同時に子の口から小さな透明な魚の鱗が子の口から飛び出し、宙を舞った。
「さ、おチビさん、お茶飲んで」
縁側に座らせて湯呑みを渡すと子は素直に受け取り、胸の辺りを撫でている。
「んぅ? 苦しくない……?」
こくこくと茶を飲みながら不思議そうに呟く子に猿田彦は月の光に薄く照らされた小さな鱗を指差して、あれが貼りついていたんだよ、と答えた。
「おにぃちゃん! すごいや! あんなにちっちゃいのにすっごく苦しくてびっくりしたぁ!」
「おチビさんが慣れたらもっと上手に食べられる様になるから苦しい事にはならないさ」
「おねぇしゃんの言う事待てないでいっぱい食べたから、だよね?」
「それもあるかもね? さぁ、お姉さん達が心配してるだろうから戻ろうか」
猿田彦と子が手を繋いで食卓に戻ると、一気に空気が和らいだ。
子は白藤の側に寄って立ったままぺこりと頭を下げて素直にごめんなさい、としゅんとした声音で伝えた。子の行為に驚いた様子を見せた白藤は箸を止めて、目の前にある子の頭を撫でた。
「慌てて良い事なんて無いからねぇ。坊や、明日からも慌てちゃだめだよ」
「あい……ごめんなしゃい」
「謝らなくて良いんだよぉ。坊やが無事で良かった。猿田彦様、ありがとうございます」
白藤に礼を言われた猿田彦は照れ臭そうに頭を掻いて、軽く頷くと再び箸を取り食事の続きを始めた。
「ほら、坊や、まだお腹いっぱいじゃ無いんでしょ? 早くお食べ?」
「あい! あのね……」
魚はもう食べたく無いと言い出すのだろうかと思った白藤と香染は続く子の言葉に安堵の息をついた。
「おふりょは、おにぃちゃんと入りたいの!」
「は?」
「坊や、ご飯の前に掛け湯したでしょう?」
一番驚いたのは猿田彦ではなく幽世之神だった。
「おチビさん、私とじゃ嫌なのかい?」
「んーとね、かみしゃまとおふりょはいやじゃないけど、今日はおにぃちゃんとなの」
そうかい、と大袈裟に寂しそうな表情をした幽世之神を全く気にせず、子はにぱっと笑って座に戻ると再び匙を取った。
「しかし猿、よく喉だと解ったね?」
感心した様に言う幽世之神に猿田彦は
「咳の音がおかしかったので」
とにべもなく答えたのだった。
猿、もてもてだねと幽世之神に揶揄われた猿田彦は眉を顰めて、やっかみはやめてくださいよとしれっと流してまだ残っている皿に手を伸ばす。
「おにぃちゃんと寝ても良い?」
「あらあら……どうです? 猿田彦様?」
「先に寝てなさいな、おチビさん。約束できるなら同じ部屋で構わないよ」
「あい!」
先に寝ておかなくてはいけない理由は子にはよくわからなかったが、あのぬくぬくの中で起きたら猿田彦がいるというのは子にとっては飛び上がりたい程に気持ちを高揚させた。
今朝は確かに暖かくて柔らかくて気持ち良かったけれど、ぽやぽやした頭で一人の目覚めで夢現からの覚醒は正直、寂しかったのだ。
「おにぃちゃんとおふりょして、ねんねする!」
鼻息荒くも大きく口を開けて猿田彦を始めとした大人達に追いつこうと匙に山盛りの白米を乗せた。子の頭の中は猿田彦と過ごす時間への期待に占められている。
「懐かれたねぇ、猿」
「解せまんがね」
猿田彦の返事に幽世之神は堪え切れずに吹き出した。
「何でしょう?」
「ん? まあ、それも後で話そう」
心痛止まない道案内の中、心配だからと一日肩に担いで此方まで連れて来たのに無自覚なのかと幽世之神は猿田彦を一瞬疑ったが、への字に曲がった口を見て自覚はあるのだなと思うと可笑しくて堪らない。それはそうだろうと幽世之神は思ったーー香染を連れて来た時でさえ鳥居の陰に隠す様に座らせた後、手すら引かずに此方まで連れて来た。
それに比べると度を超えた関心を寄せているのは明白だが、恥ずかしいのか肩入れし過ぎだと自身を戒め様としているのか猿田彦の態度は時に甘く時に突き放す様な曖昧さが幽世之神には気になっていた。そこも含めて、もっと素直に接してやれば良いのにと今夜伝えられたらとも考えている。
「素直な子と素直になれない子が揃うとおもしろいねぇ」
幽世之神の呟きは誰の耳にも届く事は無かった。
白藤は空いた皿を片づけ始め、香染は子の腹を撫でながらまだ食べると主張する子を止めるべきかに頭を悩ませている。猿田彦は目の前に残った料理を次々に口に放り込み、潰えた体力を取り戻そうとしていた。
「ごちしょーしゃまでしたぁあああ!」
香染が止めるより先に子が大きな声で告げ、何故か匙を持った手を突き上げている。慌てて香染が手を降ろさせると、それはだめな事だと早速礼儀作法の躾に入った。やり切ったぞ感で満ちていた子の顔色が変わり、素直に手を下げるとその場にいた皆に謝罪をした。
「ごめんさいでした。もっとおべんきょするです」
しっかりとした声で謝意を伝えた子に、今日一日でどれだけの体験をしてどれだけの事を覚えたのかと猿田彦は無表情を装いながら内心驚いていた。
「おねぇしゃん、おてつだい、なぁに?」
箸置きにきちんと匙を伏せて置いた子は香染を見上げて、きらきらと輝く瞳で問う。猿田彦の食事が終わっていない事を目の端で捉えた香染は子に新しい茶を渡すと子の顔をしっかりと捉えて
「お手伝いは、皆んなが食べ終わってから。そしておチビちゃんはすぐ動こうとしないで、お茶を飲んで落ち着くの。解った?」
上手く諭し、子はこれまた素直にこくりと頷き結露の浮いた湯呑みを落とさない様にしっかりと両手で掴む。
小さく鳴る子の麦茶を飲む音が猿田彦には何故だか愛おしく聞こえた。
「おーふーりょー!」
手伝いを終えて一息ついた途端に子に急かされて猿田彦はまだ重い腹を抱えながら脱衣場へと足を踏み入れる。湿気と石鹸の良い匂いが仄かに香り、子は一生懸命に帯を解こうと焦っている。
猿田彦はしゃがみ込むと子の身体に巻きついている兵児帯の結び目を探すと解こうと手を伸ばす。決して硬くは無いのだが、解け無い程度となればそれなりの強さで結んであり、まだ人間の身体に慣れぬ子では解くのは難しかろうと思うと、子のもどかしさが解る気がした。
「じっとしておいで」
「おにぃちゃん、おふりょ、好き?」
あまり得意ではなさそうな声音に猿田彦は首を傾げる。あんなに一緒に入りたがっていたではないか? と訝しむ。
「好きだよ。温かいし一日の疲れも取れるしね。おチビさんは苦手かい?」
「うぅん、こあいって思っちゃう……のかな……」
なんでかなぁ、とぼやく子の尻尾は垂れていた。やはり心の底に染みついた獣としての本能だろうか。
「風呂は怖いかい?」
「おふりょはこあくないよ……でも、お空からのお水は冷たくて嫌い。お水……? わかんない、すんごくちべたいのとすんごくあっちゅいのは怖い……」
着物の袖を握り締めた子は微かに震えながら猿田彦に伝える。
「でも此方のお風呂は大丈夫だろう? 熱いなら少し温くしよう」
「あ、ここのはあったかくて好き! でもね、あのね、一人でどっぽんするのは怖いの」
「大丈夫。楽しいぞ、湯船の中はふわふわするしね。俺がいるんだから怖くは無いだろ? おチビさん」
「あい!」
子の返事は浴室に耳が痛いくらいに響いた。猿田彦はわしゃわしゃと子の頭を撫でると、子の体が冷える前に急いで自分の装束を脱ぎ去った。
「まずは掛け湯だよ。ついでに身体と頭を洗ってしまおうか。その方が湯が長く楽しめるんだ」
「そなの? あらう? あ! おねぇしゃんたちがしてくれたみたいにざぱーだけじゃだめ?」
「そう、だめだめ。ごしごしして、頭も洗おう。汗を流して、汚れを落として、身体を温めて……ああ、そうだ、水を持って来てもらっておこう」
そう言うと猿田彦は大声で香染に麦茶を二つ頼むと、子の手を引いて洗い場へ入り戸を閉めた。
「さ、おチビさん。座って目を閉じて。頭からざっぱーんするよ」
「う、うん……」
「大丈夫、ゆっくりお湯を掛けるからね」
宣言通り、猿田彦はちょろちょろと子に頭から湯をかける。子はぎゅっと目を瞑って全身に力を込めていた。
湯を掛けた瞬間、猿田彦は出掛けた声を飲み込んだ。恐らく藤白達も抑えたのだろうと子の無反応から理解できた。湯を掛けた途端に、子の身体に火傷の様な異様な模様が浮かんだのだ。火傷の様な傷に混じり裂けた様な、縛られていた傷も見受けられた。これを見てよく香染が失神しなかったものだと関心すらしてしまう無残極まりない傷痕が浮かぶ。これだけの姿を見て幽世之神が何もしなかったとは考えられない、と猿田彦は思った。これらは幽世之神の力を以てしても消せなかった魂の奥底に刻みつけられた蹂躙の傷だ。
猿田彦は何も言わずに石鹸を手に取ると数回掌で擦り、この頭に手を置いた。
柔らかい髪をゆっくりと円を描く様に汗と脂を落としてゆく。どうやらたくさん遊んでたくさん興奮したのだろう、泡立ちは悪く、猿田彦はもう一度同じ行為を繰り返して子の頭を泡だらけにしたのだった。
「さ、次は身体を洗うよ? 痛かったら言うんだよ?」
手拭いを桶に汲んだ湯にしっかり湿らせると再び石鹸を手に取り今度は手ではなく手拭いに擦り付けると手拭いを擦り合わせて良く泡を立てた。子の柔肌を傷つけない為に最初は撫でる様に優しく手拭いを滑らせる。子はくすぐったそうにけらけらと笑った。その様子に猿田彦は少し力を込めて背中を擦る。
「痛く無いかい?」
「うん! ごしゅごしゅ気持ちいぃ! 後でおにぃちゃんと交代ね!」
「それは楽しみだなぁ」
猿田彦は子の背中を擦りながら笑って応えた。
今は素性も解らぬ子の楽し気な声に乗ってあげるのが最良だと思った猿田彦は努めて明るく声を上げる。
「力加減は頼むよ?」
「あいです!」
ふふ、と洩らした猿田彦の笑い声と子の返事が湯気に満たされた浴室に反響する。子は不思議そうに声を出したり手を叩いたりしている。
「おチビさん? 湯を掛けるよ」
驚かせない様に一応声を掛ける。子は何故か両手を真上に挙げてぎゅっと目を瞑った。
「息止めてー、せーの!」
笑いながら勢い良く桶を子の頭の上で逆さにすると、目を固く閉じたままへぶぶっと子が奇妙な声をあげる。その声に猿田彦は更に笑い、もう一度湯を掛けてやった。
「あはは! びっくりしたかい? おチビさん」
「おはないたい……おにぃちゃんひどいよぅ」
ごめんごめん、と濡れた髪を撫でて猿田彦は自分の手拭いを濡らして子に渡した。
「頼むよ、おチビさん?」
「あい! ごしごしがんばる!」
猿田彦に渡された手拭いには既に石鹸がつけてあり、子は猿田彦の真似をして数回擦り合わせて泡立てると歓声を上げた。真っ白のもこもこの泡は今日幽世之神との散歩で見た空に浮かんでいた雲に似ていた。
「ふわふわすいーって動くんだよ!」
「ん?」
「神様が、くもって言ってた。お空をすいーって動くの。オイラ、見た事ある気がするんだぁ……いつ見たのかなぁ?」
「……いつだろうね。思い出したら教えてね」
「あい!」
生きていた頃だろうね、とは猿田彦の口からは言え無い。子が自分自身で生前を思い出した上で、何故この神域に運ばれたかを理解せねばならない。自分でもう一度掛け湯をすると、猿田彦は子に背中を向けると声を掛けた。
「頼むよ、おチビさん」
「あいです!」
気合満点の子は泡塗れの手拭いを猿田彦の背に当てる。目の前の広い背中に子は感動すら覚えた。こくりと喉を鳴らすと、目の前に立ちはだかる綺麗な肌色の背中を持ち得る力の限り上下に擦り始めた。この力は猿田彦からすればくすぐったいくらいの弱さだったが、猿田彦は何一つ文句を口にしなかった。力加減なぞその内に覚えてゆくものだろうし、今現時点で伝えたところで無意味であろうと判断した結果だった。
「おにぃちゃん、おっきいね」
「そうかい? そのうちおチびさんも似た背格好になるかもね?」
「ほんと?」
背中を擦る子の手からうきうきとした感覚が伝わり、思わず口の端が上がる。神域の中でもゆっくりとではあるが成長はする。片言の子の成長した姿は想像が難しく、猿田彦の頭の中は子の面影を残した様々な容姿の少年から青年で埋まってしまい吹き出しそうになってしまった。
「どしたの? おにぃちゃん?」
「ぷっくくく……いや、何でも無いよ。ちょっとね……」
誤魔化して石鹸を手に取ると、両手を髪に突っ込むと豪快に猿田彦は頭を洗った。ふわりと優しい香りに包まれて、頭の先から染みついた穢れが浮いて流れてゆく感覚が何とも心地良い。子の手が届かない頭を洗っている間、子はわっせわっせと背中や手の届く範囲を懸命に撫で洗っている。
「さ、おチビさんお湯掛けてくれるかい?」
「おにぃちゃん、かみのけ、とどかないよ……」
ああ、と納得してぐっと上半身を傾けると子の手の届く範囲にその身を置いた。桶に半分程度の湯を汲むと一気に猿田彦の泡塗れの身体に掛けた……が、一回で全ての泡を流すには至らなかった。しょぼくれる子と笑う猿田彦の表情の対比は見事で、この場に幽世之神がいたならば一句詠んだかもしれない程だった。
「さあ、おチビさん。どぽんするよ?」
「こあい?」
「うーん、じゃあ俺の膝に乗るかい?」
「それなら……こあくないよね!」
浴室に反響する子の歓喜の声が猿田彦の頬を更に緩ませた。それは声が届く範囲にいた白藤や香染も同じだった。
「お姉様、聞こえまして?」
「うふふ、楽しそうで何よりねぇ……猿田彦様にもあんな時間が必要よね」
「猿田彦様は……私を闇の中から此方へ連れてくて下さった神。おつらい日々の中であんなに声を出して笑って下さると、どうしてでしょう? 涙が零れそうに、な、なり、ま、ずっ」
「香染、泣いても良いけれど……涙と鼻水は浅漬けに落としちゃだめよ」
箸を止めずに白藤が言えば香染は慌てて懐紙で鼻を抑え袖で両目を抑えた。白藤は優しい溜め息をつくと、無言で明日の朝餉の簡単な支度を続ける。
これが終わり、幽世之神と猿田彦の晩酌の用意が彼女達の一日の仕事の締めだったが、今夜から一つ責務が増えそうだと互いに口にはしなくとも感じていた。猿田彦でなければ嫌だと駄々を捏ねられたらどうしようかとも思うが、やってみなくては解らない。悩むのはやってみてからだ、と二人して覚悟を決める。
「さぁて、坊やは素直に寝てくれるかしらね?」
「上手に寝かしつけられたら、おやつです、お姉様」
自分達へのご褒美だと言わんばかりの香染の口ぶりに思わず白藤は声を出して笑った。
猿田彦が幽世之神の所へ行くと言うと子は眉を下げて心細さを見せた。
「お姉さん達が来るまでは一緒にいるから大丈夫だよ。そして朝も一緒におはよう、だ」
しっかりと目を見て言い聞かせると、子は素直にこくんと頷いて布団の上にちょこんと座った。
「今日もふわふわだぁ!」
「お姉さん達に感謝だね」
「かんしゃ……?」
小首を傾げた子に、猿田彦は少し悩み
「ありがとう、だよ。お布団ふかふかなのもお風呂が気持ち良いのも、ご飯が美味しいのも、お姉さん達が頑張ってくれているからだよ」
「おねぇしゃんにありがと言うね」
強い口調の子の優しい覚悟を猿田彦は小さな丸い頭に手を置く事で受け取る。反射的に目を閉じた子は大きくて温かい重みに応援されている気がして急に照れ臭くなり、へへっと笑った。満足気に子を見下ろしていた猿田彦は更に力を加えて子の頭をぐっと押す。
「おチビさんなら言えるさ」
猿田彦が言うと同時に襖の向こうから声が掛かり、間をおいてすっと開く。
「猿田彦様、ご準備整いましてございます。さ、坊や、おねむするよ?」
「あい! おにぃちゃん、いてらさい」
「おやすみなさい、も言おうね?」
「おやすんさい!」
舌足らずな挨拶に猿田彦は笑いを堪えながら部屋を後にした。一歩踏み出した背中へ子の元気一杯な声を受けながら香染の歓喜の聞き取れ無い早口言葉と白藤の包む様な笑い声が押す。
奥の間を閉ざしている襖はどの部屋よりも手の込んだ装飾が施され、特別な部屋である事は一目瞭然である。猿田彦が声を掛けようとした瞬間、中から幽世之神が名を呼んで早く入る様に促した。
これ程せっつかれるまで待たせてしまっただろうかと内心慌てながら、襖を開けた猿田彦が詫びを口にする前に幽世之神が口を開いた。
「今日もお疲れだったね、猿。今日は乾物も少し贅沢にしてもらったんだ。何せ私も頑張ったからねっ!」
ふふんと鼻を鳴らしてどこか誇らし気な幽世之神は左腕を揉みほぐしながら、猿田彦に座る様に促した。
「子が重かったみたいですね」
笑いを堪えて猿田彦が断言すると幽世之神は子供っぽく唇を尖らせる。珍しくいつも以上にふざけた様子で接してくる姿からは不満とは遠い感情で満ちていた。
「散歩以外は執務ばかりだから……あれだよ、運動不足!」
「あの子の興味につき合っていてはそれは……記憶が無い分、あれこれ気になって仕方が無いでしょうし」
そうなんだよ! と膝を打った幽世之神は自分の膳に置かれた徳利を右手で掴むと身体を傾け、向かいに据えてある猿田彦の膳の上の猪口にとくとくと注いだ。
「御館様、私が……」
「良いから、良いから。猿は毎回最初だけは堅っ苦しいんだから」
にやりと笑う幽世之神はそのまま自分の猪口にも手酌で酒を注ぎ、白藤に強請って炙ってもらった一夜干しに目をつけた。夕餉に出したかったと言う程に美味いのならば、今夜くらいは晩酌で一足先に口にするのを許されたいと真剣に願って白藤にどうにか首を縦に振らせたのだ。
「今度高天原に書簡を送る時にはおチビさんの必要品と白藤達にも追加で着物や趣向品を頼もう」
「彼女達には装飾品があっても良いかもしれませんよ? 簪の一つでもよろしいのでは?」
良いね、と膝を打って何が良いだろうねぇ、と呟く。猿田彦は悩む幽世之神を少しばかりおもしろく感じながら猪口を傾けた。
「ところで今日は朝の予感通りだったかい?」
猪口を空けて問う幽世之神は顔色の変化に注視した。猿田彦は静かに息を吐きながら手酌で酒を注ぐ。
「……いつもと変わらず、ではありますな。人間は愚か」
「獣は素直?」
「まぁ、そうですね。好いた腫れたも行き過ぎれば愚の骨頂。ああ、変わった獣が来ましたな。人への恨みが強すぎて私にさえ噛みつこうとする始末……怨念が強すぎて地獄へと投げ込みましたが、冷静になるにも怨念を捨て去るにも恐ろしい程の時間がかかりましょうよ」
咆哮に込められた怨嗟の強さと掴んだ首の粘ついた感触を思い出し、猿田彦は溜め息をついた。
「猿が溜め息とは、相当な獣だったわけだ。私も気に留めて置いたほうが良さそうだね」
「人間滅ぶべし、ですからね。かなり強い殺意でございました」
「うん、解ったよ。影響が来るとは思わないけれど、瘴気が神域を穢さ無い様に気をつけておこう。さ、他に報告はあるかい?」
「それ以上は……まぁ、申し上げた様に他は常と変わらず、ですね」
「ならば、今日は毒気を抜く為にもたくさん飲みなさいな」
空いた猿田彦の猪口に酒を注ぐ幽世之神に
「御館様が飲みたいだけでしょう?」
そう返すと、目を丸くして一言。
「ばれた?」
幽世之神は茶目っ気たっぷりに笑いながら答えた。猿田彦の気を少しでも軽くしてやろうという魂胆だというのは見抜かれていたが、気遣いに感謝してそこに触れる事は無かった。
子は懐疑的な思いを抱いている猿田彦から見ても留守中には既に皆に溶け込んでいる様だった。やたらと世話を焼きたがる香染をそれとなく窘める白藤と笑って見守っている幽世之神から不穏な気配は感じ取れ無い。だが、それは目に見えるだけで果たして真実かを決めるには弱いと感じてしまった。何も気にしていない顔を作り、食事を摂りつつ子の表情や場の空気を探る。探るが、黄泉比良坂では馴染みの後ろめたさに似た気配は感じられない和やかな食卓でしかない。
「猿田彦様、お疲れの様ですね?」
「あ、あぁ、まあ……そうは言ってもいつもと大差無いけれどね」
つき合いの長い白藤に労いの言葉をかけられ、まさか疑っているとも言えずに猿田彦は涼しい顔で味噌汁に手を伸ばした。
子は随分と慣れた匙使いで夕餉を口へと運びつつ、拙い口調で猿田彦に体験したあれこれを懸命に伝えている。その横に香染が張りつき、匙では食べにくい魚の煮つけを解したりと甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「おねぇしゃん、ありがとです」
「はい、どう致しまして」
嬉しそうに世話を焼く香染に温い視線を送っている白藤と幽世之神の存在が更に場を和ませていた。
「んでね、おにぃちゃん!」
「何かな? おチビさん? はしゃぎ回って池に落ちたのかな?」
「はぅ!?」
揶揄う様に言いつつも、猿田彦の視線は白藤に注がれていた。目は泳いではいないか、箸を持つ手は震えてはいないか、彼女を取り巻く雰囲気に濁りはないか。黄泉比良坂で自己弁護に齷齪する輩を相手にしている時と同じ心境で口にする食事はいつもと同じはずなのに猿田彦にはただ空腹を満たすだけの物と化していた。
「猿。今夜も一献、な」
懐疑的な目で白藤と子を見ていた猿田彦は慌てて幽世之神に同意を示し、気持ちを切り替える為に熱い茶を口に含んだ。その間も子は池に飛び込んでしまったのかを一生懸命に説明しており、猿田彦は苦笑いしながら頷き答えている。子は実に楽しそうで、あんなに執着をみせていた食事が疎かになっている事にすら気づいていない様であった。
ーー気を回しすぎたかーー
猿田彦はまだ温かさの残る炒め物に箸を伸ばした。歯応えの良い葉野菜と少しばかりとろみがつけられた醤油餡の絡み合った旨みが口内を満たす。いつもの優しい味が黄泉比良坂に傾きかけていた心を引き戻した。
明るく穏やかで笑いの絶え無い真逆の日常に戻ったのだと猿田彦は再認識する。子の話は時系列も関係なく思いつくまま話し続けられていた。
「そんでね、オイラ、鳥さんこあくなくなったの。んでね、おやついーっぱいでね」
「……楽しかった、で良いのかな?」
「いっぱい楽しかった! 神様とお夕寝もしたんだよ」
「それは良かった良かった」
相槌を打ちながら幽世之神に目を遣ると、幽世之神は肩を竦めて猿田彦に自分は寝ていない、と伝え様としている様子が映った。その行動と表情から、幽世之神も寝たなと思うと思わず猿田彦は吹き出しそうになった。元気が溢れんばかりの子供に一日を費やしたのならば転寝くらいしても仕方がなかろうに、と思うのだが幽世之神はそうではないらしい。
幽世之神とて黄泉比良坂の重く冷たい光景を知っているのだ。だからこそあの場所で大半を過ごす猿田彦には仕事だったとしても一抹の申し訳なさを抱えているのも事実。呑気に夕寝をしていたなんてとんでもなくお気楽な奴だと思われるのは不本意なのだが、子の前で寝つくまで添い寝をしていただけだよと否定するのも子を拒絶している様でそれはそれで宜しく無い気がする。
「うん、やはり今夜は是が非でも一献、だな」
「御館様ったら毎晩の事でございましょうに」
幽世之神と猿田彦の間の空気に気づいていない香染が可笑しそうに笑う。
毎夜猿田彦は幽世之神の誘いに乗りつつも、その日黄泉比良坂で体験した報告すべき事を伝えている。幽世之神からすれば、一日の終わりに酒で身体に纏わりつく穢れを落とし心地良く眠り、また明日を迎えて欲しいという気遣いもあった。
「何か摘める物をお願いしても良いかな?」
「ふふっ、御館様ったら! それも毎晩の事でございますよ? 今宵は何がよろしいでしょうか」
「そうだねぇ……食事中に食べ物を考えるのは難しいものだねぇ……猿、何か希望はあるかい?」
「いきなりそう言われましても」
藪から棒に話を振られた猿田彦は困惑しながら答えようとした途端、魚の煮つけに悪戦苦闘していた子がぱっと顔を上げた。
「おだんごとおまんじゅう! おいしーの!」
それが今日の昼の甘味だったのかと笑いを堪えながら猿田彦は目を細めて子を見た。団子の食感や餡の旨味とを熱弁する子は興奮が止まらず、横に座った香染が上手い具合いにさくさくと皿を動かして食器が当たったり子の着物の袖が汚れない様にと見事に子の動きの先を読んでいる。まるで何年も共に過ごした姉弟だと猿田彦は微笑ましく思った。ちらりと白藤を見れば、半ば呆れながらそれでいて二人が可愛くて仕方が無いという目で見て、くすくすと笑いながら自分の食事を丁寧に進めていた。
「坊やは夕方にもう湯浴みは済ませたんだから、ご飯を食べ終わったらちょっとだけお手伝いしてちょうだいな。そしたら休憩してお布団だよ?」
少し考えてから子は元気良く返事をし、香染を見上げお手伝いとは何かを聞いている。話を聞く内に子の目は輝き、匙を握る手に力がこもるのが誰の目にもはっきりと見えた。
「ん! オイラがんばる!」
「そうね、坊やにはがんばってもらうけれど……あっ待って、違う、坊や、ちゃんと噛んで食べないと!」
気合いの入り過ぎた子に白藤の静止は届かず、子は初めて食べたであろう煮つけの解し身を口いっぱいに頬張り……盛大に噎せた。
げぎゃふん、けほきゃふん、と繰り返される子の苦し気な声が食卓に響き、幽世之神と白藤は言い合わせたわけでも無いのに同時に視線を天井に向けた。隣にいる香染はおろおろし、落ち着かせようと湯呑みを持ちどうにか飲ませようとしていた。
「失敬」
一言詫びを告げると猿田彦は立ち上がり、子を抱え上げると香染の手から湯呑みを受け取り縁側へと向かった。その間も子からは悲痛な声が絶え無い。
「もう少し辛抱な、おチビさん」
短い掛け声と共に子の身体を前傾にすると、肩甲骨の間を少しだけ強めの力でぽんと叩いた。
「けほんっ」
叩かれると同時に子の口から小さな透明な魚の鱗が子の口から飛び出し、宙を舞った。
「さ、おチビさん、お茶飲んで」
縁側に座らせて湯呑みを渡すと子は素直に受け取り、胸の辺りを撫でている。
「んぅ? 苦しくない……?」
こくこくと茶を飲みながら不思議そうに呟く子に猿田彦は月の光に薄く照らされた小さな鱗を指差して、あれが貼りついていたんだよ、と答えた。
「おにぃちゃん! すごいや! あんなにちっちゃいのにすっごく苦しくてびっくりしたぁ!」
「おチビさんが慣れたらもっと上手に食べられる様になるから苦しい事にはならないさ」
「おねぇしゃんの言う事待てないでいっぱい食べたから、だよね?」
「それもあるかもね? さぁ、お姉さん達が心配してるだろうから戻ろうか」
猿田彦と子が手を繋いで食卓に戻ると、一気に空気が和らいだ。
子は白藤の側に寄って立ったままぺこりと頭を下げて素直にごめんなさい、としゅんとした声音で伝えた。子の行為に驚いた様子を見せた白藤は箸を止めて、目の前にある子の頭を撫でた。
「慌てて良い事なんて無いからねぇ。坊や、明日からも慌てちゃだめだよ」
「あい……ごめんなしゃい」
「謝らなくて良いんだよぉ。坊やが無事で良かった。猿田彦様、ありがとうございます」
白藤に礼を言われた猿田彦は照れ臭そうに頭を掻いて、軽く頷くと再び箸を取り食事の続きを始めた。
「ほら、坊や、まだお腹いっぱいじゃ無いんでしょ? 早くお食べ?」
「あい! あのね……」
魚はもう食べたく無いと言い出すのだろうかと思った白藤と香染は続く子の言葉に安堵の息をついた。
「おふりょは、おにぃちゃんと入りたいの!」
「は?」
「坊や、ご飯の前に掛け湯したでしょう?」
一番驚いたのは猿田彦ではなく幽世之神だった。
「おチビさん、私とじゃ嫌なのかい?」
「んーとね、かみしゃまとおふりょはいやじゃないけど、今日はおにぃちゃんとなの」
そうかい、と大袈裟に寂しそうな表情をした幽世之神を全く気にせず、子はにぱっと笑って座に戻ると再び匙を取った。
「しかし猿、よく喉だと解ったね?」
感心した様に言う幽世之神に猿田彦は
「咳の音がおかしかったので」
とにべもなく答えたのだった。
猿、もてもてだねと幽世之神に揶揄われた猿田彦は眉を顰めて、やっかみはやめてくださいよとしれっと流してまだ残っている皿に手を伸ばす。
「おにぃちゃんと寝ても良い?」
「あらあら……どうです? 猿田彦様?」
「先に寝てなさいな、おチビさん。約束できるなら同じ部屋で構わないよ」
「あい!」
先に寝ておかなくてはいけない理由は子にはよくわからなかったが、あのぬくぬくの中で起きたら猿田彦がいるというのは子にとっては飛び上がりたい程に気持ちを高揚させた。
今朝は確かに暖かくて柔らかくて気持ち良かったけれど、ぽやぽやした頭で一人の目覚めで夢現からの覚醒は正直、寂しかったのだ。
「おにぃちゃんとおふりょして、ねんねする!」
鼻息荒くも大きく口を開けて猿田彦を始めとした大人達に追いつこうと匙に山盛りの白米を乗せた。子の頭の中は猿田彦と過ごす時間への期待に占められている。
「懐かれたねぇ、猿」
「解せまんがね」
猿田彦の返事に幽世之神は堪え切れずに吹き出した。
「何でしょう?」
「ん? まあ、それも後で話そう」
心痛止まない道案内の中、心配だからと一日肩に担いで此方まで連れて来たのに無自覚なのかと幽世之神は猿田彦を一瞬疑ったが、への字に曲がった口を見て自覚はあるのだなと思うと可笑しくて堪らない。それはそうだろうと幽世之神は思ったーー香染を連れて来た時でさえ鳥居の陰に隠す様に座らせた後、手すら引かずに此方まで連れて来た。
それに比べると度を超えた関心を寄せているのは明白だが、恥ずかしいのか肩入れし過ぎだと自身を戒め様としているのか猿田彦の態度は時に甘く時に突き放す様な曖昧さが幽世之神には気になっていた。そこも含めて、もっと素直に接してやれば良いのにと今夜伝えられたらとも考えている。
「素直な子と素直になれない子が揃うとおもしろいねぇ」
幽世之神の呟きは誰の耳にも届く事は無かった。
白藤は空いた皿を片づけ始め、香染は子の腹を撫でながらまだ食べると主張する子を止めるべきかに頭を悩ませている。猿田彦は目の前に残った料理を次々に口に放り込み、潰えた体力を取り戻そうとしていた。
「ごちしょーしゃまでしたぁあああ!」
香染が止めるより先に子が大きな声で告げ、何故か匙を持った手を突き上げている。慌てて香染が手を降ろさせると、それはだめな事だと早速礼儀作法の躾に入った。やり切ったぞ感で満ちていた子の顔色が変わり、素直に手を下げるとその場にいた皆に謝罪をした。
「ごめんさいでした。もっとおべんきょするです」
しっかりとした声で謝意を伝えた子に、今日一日でどれだけの体験をしてどれだけの事を覚えたのかと猿田彦は無表情を装いながら内心驚いていた。
「おねぇしゃん、おてつだい、なぁに?」
箸置きにきちんと匙を伏せて置いた子は香染を見上げて、きらきらと輝く瞳で問う。猿田彦の食事が終わっていない事を目の端で捉えた香染は子に新しい茶を渡すと子の顔をしっかりと捉えて
「お手伝いは、皆んなが食べ終わってから。そしておチビちゃんはすぐ動こうとしないで、お茶を飲んで落ち着くの。解った?」
上手く諭し、子はこれまた素直にこくりと頷き結露の浮いた湯呑みを落とさない様にしっかりと両手で掴む。
小さく鳴る子の麦茶を飲む音が猿田彦には何故だか愛おしく聞こえた。
「おーふーりょー!」
手伝いを終えて一息ついた途端に子に急かされて猿田彦はまだ重い腹を抱えながら脱衣場へと足を踏み入れる。湿気と石鹸の良い匂いが仄かに香り、子は一生懸命に帯を解こうと焦っている。
猿田彦はしゃがみ込むと子の身体に巻きついている兵児帯の結び目を探すと解こうと手を伸ばす。決して硬くは無いのだが、解け無い程度となればそれなりの強さで結んであり、まだ人間の身体に慣れぬ子では解くのは難しかろうと思うと、子のもどかしさが解る気がした。
「じっとしておいで」
「おにぃちゃん、おふりょ、好き?」
あまり得意ではなさそうな声音に猿田彦は首を傾げる。あんなに一緒に入りたがっていたではないか? と訝しむ。
「好きだよ。温かいし一日の疲れも取れるしね。おチビさんは苦手かい?」
「うぅん、こあいって思っちゃう……のかな……」
なんでかなぁ、とぼやく子の尻尾は垂れていた。やはり心の底に染みついた獣としての本能だろうか。
「風呂は怖いかい?」
「おふりょはこあくないよ……でも、お空からのお水は冷たくて嫌い。お水……? わかんない、すんごくちべたいのとすんごくあっちゅいのは怖い……」
着物の袖を握り締めた子は微かに震えながら猿田彦に伝える。
「でも此方のお風呂は大丈夫だろう? 熱いなら少し温くしよう」
「あ、ここのはあったかくて好き! でもね、あのね、一人でどっぽんするのは怖いの」
「大丈夫。楽しいぞ、湯船の中はふわふわするしね。俺がいるんだから怖くは無いだろ? おチビさん」
「あい!」
子の返事は浴室に耳が痛いくらいに響いた。猿田彦はわしゃわしゃと子の頭を撫でると、子の体が冷える前に急いで自分の装束を脱ぎ去った。
「まずは掛け湯だよ。ついでに身体と頭を洗ってしまおうか。その方が湯が長く楽しめるんだ」
「そなの? あらう? あ! おねぇしゃんたちがしてくれたみたいにざぱーだけじゃだめ?」
「そう、だめだめ。ごしごしして、頭も洗おう。汗を流して、汚れを落として、身体を温めて……ああ、そうだ、水を持って来てもらっておこう」
そう言うと猿田彦は大声で香染に麦茶を二つ頼むと、子の手を引いて洗い場へ入り戸を閉めた。
「さ、おチビさん。座って目を閉じて。頭からざっぱーんするよ」
「う、うん……」
「大丈夫、ゆっくりお湯を掛けるからね」
宣言通り、猿田彦はちょろちょろと子に頭から湯をかける。子はぎゅっと目を瞑って全身に力を込めていた。
湯を掛けた瞬間、猿田彦は出掛けた声を飲み込んだ。恐らく藤白達も抑えたのだろうと子の無反応から理解できた。湯を掛けた途端に、子の身体に火傷の様な異様な模様が浮かんだのだ。火傷の様な傷に混じり裂けた様な、縛られていた傷も見受けられた。これを見てよく香染が失神しなかったものだと関心すらしてしまう無残極まりない傷痕が浮かぶ。これだけの姿を見て幽世之神が何もしなかったとは考えられない、と猿田彦は思った。これらは幽世之神の力を以てしても消せなかった魂の奥底に刻みつけられた蹂躙の傷だ。
猿田彦は何も言わずに石鹸を手に取ると数回掌で擦り、この頭に手を置いた。
柔らかい髪をゆっくりと円を描く様に汗と脂を落としてゆく。どうやらたくさん遊んでたくさん興奮したのだろう、泡立ちは悪く、猿田彦はもう一度同じ行為を繰り返して子の頭を泡だらけにしたのだった。
「さ、次は身体を洗うよ? 痛かったら言うんだよ?」
手拭いを桶に汲んだ湯にしっかり湿らせると再び石鹸を手に取り今度は手ではなく手拭いに擦り付けると手拭いを擦り合わせて良く泡を立てた。子の柔肌を傷つけない為に最初は撫でる様に優しく手拭いを滑らせる。子はくすぐったそうにけらけらと笑った。その様子に猿田彦は少し力を込めて背中を擦る。
「痛く無いかい?」
「うん! ごしゅごしゅ気持ちいぃ! 後でおにぃちゃんと交代ね!」
「それは楽しみだなぁ」
猿田彦は子の背中を擦りながら笑って応えた。
今は素性も解らぬ子の楽し気な声に乗ってあげるのが最良だと思った猿田彦は努めて明るく声を上げる。
「力加減は頼むよ?」
「あいです!」
ふふ、と洩らした猿田彦の笑い声と子の返事が湯気に満たされた浴室に反響する。子は不思議そうに声を出したり手を叩いたりしている。
「おチビさん? 湯を掛けるよ」
驚かせない様に一応声を掛ける。子は何故か両手を真上に挙げてぎゅっと目を瞑った。
「息止めてー、せーの!」
笑いながら勢い良く桶を子の頭の上で逆さにすると、目を固く閉じたままへぶぶっと子が奇妙な声をあげる。その声に猿田彦は更に笑い、もう一度湯を掛けてやった。
「あはは! びっくりしたかい? おチビさん」
「おはないたい……おにぃちゃんひどいよぅ」
ごめんごめん、と濡れた髪を撫でて猿田彦は自分の手拭いを濡らして子に渡した。
「頼むよ、おチビさん?」
「あい! ごしごしがんばる!」
猿田彦に渡された手拭いには既に石鹸がつけてあり、子は猿田彦の真似をして数回擦り合わせて泡立てると歓声を上げた。真っ白のもこもこの泡は今日幽世之神との散歩で見た空に浮かんでいた雲に似ていた。
「ふわふわすいーって動くんだよ!」
「ん?」
「神様が、くもって言ってた。お空をすいーって動くの。オイラ、見た事ある気がするんだぁ……いつ見たのかなぁ?」
「……いつだろうね。思い出したら教えてね」
「あい!」
生きていた頃だろうね、とは猿田彦の口からは言え無い。子が自分自身で生前を思い出した上で、何故この神域に運ばれたかを理解せねばならない。自分でもう一度掛け湯をすると、猿田彦は子に背中を向けると声を掛けた。
「頼むよ、おチビさん」
「あいです!」
気合満点の子は泡塗れの手拭いを猿田彦の背に当てる。目の前の広い背中に子は感動すら覚えた。こくりと喉を鳴らすと、目の前に立ちはだかる綺麗な肌色の背中を持ち得る力の限り上下に擦り始めた。この力は猿田彦からすればくすぐったいくらいの弱さだったが、猿田彦は何一つ文句を口にしなかった。力加減なぞその内に覚えてゆくものだろうし、今現時点で伝えたところで無意味であろうと判断した結果だった。
「おにぃちゃん、おっきいね」
「そうかい? そのうちおチびさんも似た背格好になるかもね?」
「ほんと?」
背中を擦る子の手からうきうきとした感覚が伝わり、思わず口の端が上がる。神域の中でもゆっくりとではあるが成長はする。片言の子の成長した姿は想像が難しく、猿田彦の頭の中は子の面影を残した様々な容姿の少年から青年で埋まってしまい吹き出しそうになってしまった。
「どしたの? おにぃちゃん?」
「ぷっくくく……いや、何でも無いよ。ちょっとね……」
誤魔化して石鹸を手に取ると、両手を髪に突っ込むと豪快に猿田彦は頭を洗った。ふわりと優しい香りに包まれて、頭の先から染みついた穢れが浮いて流れてゆく感覚が何とも心地良い。子の手が届かない頭を洗っている間、子はわっせわっせと背中や手の届く範囲を懸命に撫で洗っている。
「さ、おチビさんお湯掛けてくれるかい?」
「おにぃちゃん、かみのけ、とどかないよ……」
ああ、と納得してぐっと上半身を傾けると子の手の届く範囲にその身を置いた。桶に半分程度の湯を汲むと一気に猿田彦の泡塗れの身体に掛けた……が、一回で全ての泡を流すには至らなかった。しょぼくれる子と笑う猿田彦の表情の対比は見事で、この場に幽世之神がいたならば一句詠んだかもしれない程だった。
「さあ、おチビさん。どぽんするよ?」
「こあい?」
「うーん、じゃあ俺の膝に乗るかい?」
「それなら……こあくないよね!」
浴室に反響する子の歓喜の声が猿田彦の頬を更に緩ませた。それは声が届く範囲にいた白藤や香染も同じだった。
「お姉様、聞こえまして?」
「うふふ、楽しそうで何よりねぇ……猿田彦様にもあんな時間が必要よね」
「猿田彦様は……私を闇の中から此方へ連れてくて下さった神。おつらい日々の中であんなに声を出して笑って下さると、どうしてでしょう? 涙が零れそうに、な、なり、ま、ずっ」
「香染、泣いても良いけれど……涙と鼻水は浅漬けに落としちゃだめよ」
箸を止めずに白藤が言えば香染は慌てて懐紙で鼻を抑え袖で両目を抑えた。白藤は優しい溜め息をつくと、無言で明日の朝餉の簡単な支度を続ける。
これが終わり、幽世之神と猿田彦の晩酌の用意が彼女達の一日の仕事の締めだったが、今夜から一つ責務が増えそうだと互いに口にはしなくとも感じていた。猿田彦でなければ嫌だと駄々を捏ねられたらどうしようかとも思うが、やってみなくては解らない。悩むのはやってみてからだ、と二人して覚悟を決める。
「さぁて、坊やは素直に寝てくれるかしらね?」
「上手に寝かしつけられたら、おやつです、お姉様」
自分達へのご褒美だと言わんばかりの香染の口ぶりに思わず白藤は声を出して笑った。
猿田彦が幽世之神の所へ行くと言うと子は眉を下げて心細さを見せた。
「お姉さん達が来るまでは一緒にいるから大丈夫だよ。そして朝も一緒におはよう、だ」
しっかりと目を見て言い聞かせると、子は素直にこくんと頷いて布団の上にちょこんと座った。
「今日もふわふわだぁ!」
「お姉さん達に感謝だね」
「かんしゃ……?」
小首を傾げた子に、猿田彦は少し悩み
「ありがとう、だよ。お布団ふかふかなのもお風呂が気持ち良いのも、ご飯が美味しいのも、お姉さん達が頑張ってくれているからだよ」
「おねぇしゃんにありがと言うね」
強い口調の子の優しい覚悟を猿田彦は小さな丸い頭に手を置く事で受け取る。反射的に目を閉じた子は大きくて温かい重みに応援されている気がして急に照れ臭くなり、へへっと笑った。満足気に子を見下ろしていた猿田彦は更に力を加えて子の頭をぐっと押す。
「おチビさんなら言えるさ」
猿田彦が言うと同時に襖の向こうから声が掛かり、間をおいてすっと開く。
「猿田彦様、ご準備整いましてございます。さ、坊や、おねむするよ?」
「あい! おにぃちゃん、いてらさい」
「おやすみなさい、も言おうね?」
「おやすんさい!」
舌足らずな挨拶に猿田彦は笑いを堪えながら部屋を後にした。一歩踏み出した背中へ子の元気一杯な声を受けながら香染の歓喜の聞き取れ無い早口言葉と白藤の包む様な笑い声が押す。
奥の間を閉ざしている襖はどの部屋よりも手の込んだ装飾が施され、特別な部屋である事は一目瞭然である。猿田彦が声を掛けようとした瞬間、中から幽世之神が名を呼んで早く入る様に促した。
これ程せっつかれるまで待たせてしまっただろうかと内心慌てながら、襖を開けた猿田彦が詫びを口にする前に幽世之神が口を開いた。
「今日もお疲れだったね、猿。今日は乾物も少し贅沢にしてもらったんだ。何せ私も頑張ったからねっ!」
ふふんと鼻を鳴らしてどこか誇らし気な幽世之神は左腕を揉みほぐしながら、猿田彦に座る様に促した。
「子が重かったみたいですね」
笑いを堪えて猿田彦が断言すると幽世之神は子供っぽく唇を尖らせる。珍しくいつも以上にふざけた様子で接してくる姿からは不満とは遠い感情で満ちていた。
「散歩以外は執務ばかりだから……あれだよ、運動不足!」
「あの子の興味につき合っていてはそれは……記憶が無い分、あれこれ気になって仕方が無いでしょうし」
そうなんだよ! と膝を打った幽世之神は自分の膳に置かれた徳利を右手で掴むと身体を傾け、向かいに据えてある猿田彦の膳の上の猪口にとくとくと注いだ。
「御館様、私が……」
「良いから、良いから。猿は毎回最初だけは堅っ苦しいんだから」
にやりと笑う幽世之神はそのまま自分の猪口にも手酌で酒を注ぎ、白藤に強請って炙ってもらった一夜干しに目をつけた。夕餉に出したかったと言う程に美味いのならば、今夜くらいは晩酌で一足先に口にするのを許されたいと真剣に願って白藤にどうにか首を縦に振らせたのだ。
「今度高天原に書簡を送る時にはおチビさんの必要品と白藤達にも追加で着物や趣向品を頼もう」
「彼女達には装飾品があっても良いかもしれませんよ? 簪の一つでもよろしいのでは?」
良いね、と膝を打って何が良いだろうねぇ、と呟く。猿田彦は悩む幽世之神を少しばかりおもしろく感じながら猪口を傾けた。
「ところで今日は朝の予感通りだったかい?」
猪口を空けて問う幽世之神は顔色の変化に注視した。猿田彦は静かに息を吐きながら手酌で酒を注ぐ。
「……いつもと変わらず、ではありますな。人間は愚か」
「獣は素直?」
「まぁ、そうですね。好いた腫れたも行き過ぎれば愚の骨頂。ああ、変わった獣が来ましたな。人への恨みが強すぎて私にさえ噛みつこうとする始末……怨念が強すぎて地獄へと投げ込みましたが、冷静になるにも怨念を捨て去るにも恐ろしい程の時間がかかりましょうよ」
咆哮に込められた怨嗟の強さと掴んだ首の粘ついた感触を思い出し、猿田彦は溜め息をついた。
「猿が溜め息とは、相当な獣だったわけだ。私も気に留めて置いたほうが良さそうだね」
「人間滅ぶべし、ですからね。かなり強い殺意でございました」
「うん、解ったよ。影響が来るとは思わないけれど、瘴気が神域を穢さ無い様に気をつけておこう。さ、他に報告はあるかい?」
「それ以上は……まぁ、申し上げた様に他は常と変わらず、ですね」
「ならば、今日は毒気を抜く為にもたくさん飲みなさいな」
空いた猿田彦の猪口に酒を注ぐ幽世之神に
「御館様が飲みたいだけでしょう?」
そう返すと、目を丸くして一言。
「ばれた?」
幽世之神は茶目っ気たっぷりに笑いながら答えた。猿田彦の気を少しでも軽くしてやろうという魂胆だというのは見抜かれていたが、気遣いに感謝してそこに触れる事は無かった。
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