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十一
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幽世之神は自室で静かに目を閉じると、踏み台の上に乗りそっと襖の図柄と揃いの天袋をそっと開けた。手前の茶器や掛け軸などが入った木箱をそっと退かすと踏み台の上で爪先立ちになり、最奥に仕舞い込んだ縦長の箱を取り出すと、長く息を吐いた。
両手に持った箱は外見の小ささとは裏腹に、しっかりとした重みがある。幽世之神は独り哀しそうな目で箱を見つめ、そっと撫でた。
そのまま座卓に就くと、普段は使いもしない鈴を鳴らした。透き通った音が館中に広がり、まもなく白藤の声が襖の向こうから幽世之神を呼ぶ。襖を開けずに、子を連れてくる様に伝えると、卓の上に置いた箱をじっと見つめた。
二人分の足音が部屋の前で止まると、白藤を下がらせて子だけを招き入れた。そして卓を挟んで目の前に座る様に促した。子はきょとんとしたまま従い、行儀良く膝の上に両手を乗せて見つめ返した。
一人で戻った白藤に駆け寄った香染は、不安そうに何事かと問うが何も聞いていない彼女には答える事ができなかった。
幽世之神は黄泉を任せられた神とは思えぬ程気さくで、自分達の様な精霊に動きやすい身体や役割も与え、慣れるまで気長に構えて決して急く神では無い。寿命を過ぎても死ねず、迷い込んだ黄泉比良坂で猿田彦と出会い、館に連れて来られた時も白藤を見て、嬉しそうに笑いながら綺麗な白蛇だね、と言うのみだった。それから数日して名を与えられ、今に至る。
香染も連れて来られた時には、ぽつりと 山楝蛇かな? と零したのみで嫌がる素振りも面倒そうな表情も気配も無く、化け物と忌み嫌われ追い立てられていた心を心底安心させたのだった。白藤と同じく動きやすい身体を与えられても気を抜いてしまうと元の身体に戻ってしまっても動じずに
「ひんやりと心地よいねぇ……美しい色と紋様は素晴らしいとしか言えないねぇ。あ、貴女の名前は香染にしよう。意味は後で教えてあげよう」
穏やかな口調を崩す事なく、山楝蛇特有の地味な色味を気に病んでいた鱗をひと撫でして名をくれた。それが心を軽くさせてくれた事を今でも感謝していた。慈悲や友愛を持ち合わせた幽世之神にとってそれは普通の事で、黄泉比良坂の神であってふんぞり返って部屋から出ないという事はない。ふらふらと館を彷徨いては誰某かと言葉を交わすのを好む幽世之神が呼び鈴を使うのは初めての事だった。
「……この鈴の音が聞こえたら来ておくれねって鳴らしてくださった事があったけれど、ねぇ? お姉様……あの鈴の音はあんなに哀し気だったかしら……?」
「そうね、澄んだ音だと思っていたけれど……」
声を窄めた白藤は、両手で自分の顔をぱんっと挟むと、香染に向き直り
「御館様にはお館様のお考えがあってのはず! 坊やの名前が決まったのかも知れないしね……さ! 解らない事はどうしようもないわ。私達は私達に任された事をきちんと今日もやり切りましょう? お夕飯は何にする? その前にこっそりおやつも素敵ね。香染はどう思う?」
「……うぅ、おやつ、です」
「そうね! 今日は蕨餅に黒蜜と黄粉よ」
二人は其々の胸に渦巻く不安を掻き消す様に無理矢理笑って立ち上がった。
幽世之神は目の前で行儀良く座っている子の前にすっと布に包まれた箱を差し出した。子は美しい布に目を奪われ、我知らずうっとりとした溜め息をついた。
「なぁ、おチビさん。私に言う事はないかな?」
「あっ……えと」
顔を上げた子が見上げた幽世之神はいつもと変わらず穏やかで、微笑みを湛えて子を見つめている。子はこくりと喉を鳴らすと、意を決して頷いた。何から話せば良いのか、どう伝えれば良いのか、子は頷くのが精一杯でそのまま俯いた。
「うん、簡単に言おうか。おチビさん、本当はもう思い出しているね?」
優しい問い掛けながら、強い確信を含んだ幽世之神の言葉に子は涙が溢れそうになるのを感じた。
「ご、ごめんなしゃ……い、言えなくて……どんどん言えなくなって……」
「どうして?」
「おこられるの、こわかた。あと……あと……」
膝の上の手の甲にぽたりと涙が落ちる。それでも無言で子の言葉の続きを待った。
「みんなといっしょにいたかったの」
「ん。解ったよ。で、いつ思い出したんだい?」
「かみしゃまがおふりょしてくれたときから、ちょっとずつ……あと、卵焼きしっぱいした時」
「ああ、おチビさんの身体があまりに熱くてね。呼ばれて行ってみれば全身……」
浮き上がった大火傷の生々しい痕跡と引き攣れ捻れた皮膚を見れば、何が理由で生命を失ったかは簡単に推察できた。
「きちゃなかった? ごめんなしゃい」
「もう消してしまったからね、大丈夫だよ。そうそう、名前も考えたんだ。おチビさんも可愛くて良いけれどね、それはそれとしてやはり必要だろうかと思ってね……銀朱、なんてどうだろう?」
「かみしゃま、ありがと! ぎんしゅ、オイラ、ぎんしゅ? かこいい! あいがとでしゅ!」
嬉しそうに笑う子に幽世之神は胸の奥が軋む。与えられた名前を繰り返す子に声を掛けて更に話を続けた。
「おチビさ……銀朱は元々は赤毛の様だからね。白藤達もそうだけれど、私は皆の生前も大切にしたいと思っているんだよ。どんなにつらい過去であったとしても生き抜いて私の前に現れてくれた事に感謝している……まぁ、私の我儘さ」
「かみしゃま?」
いつもと変わらぬ穏やかな口調なのに、その声は苦しそうな雰囲気を含み、子は心臓が走ってもいないのに速くなっていくのを感じていた。
「おチビさん、その箱を開けてごらん」
「え、あい」
慎重に伸ばした小さな手が美しい布を剥がすと、黒檀の箱が姿を現した。箱には紫の組紐で封がしてあり、それをどう解いて良いのか解らず手を止めて幽世之神を見た。正面から伸びて来た手は器用に片手で紐を解くと、箱の下方にもう片方の手を添えて蓋を外した。木の擦れ合う微かな音の後、卓の上にことりと蓋が置かれ、子は身を乗り出して箱の中身を見た。
「うわぁ……きれいだぁ」
無邪気な感想にいよいよ胸の痛みをやり過ごせなくなっていたが、努めて平素を装い子に語り掛けた。
「破魂之剣という。刺さればその者の魂はその場で消えて次の世界もない。本当に終わらせる為だけに存在している剣。そしておチビさん。この剣をおチビさんに貸すから、間違っても自分を刺してはいけないよ?」
「いたいの、やだからしないけど、なんで?」
ほんの一瞬、秒にも満たない時間、幽世之神は逡巡した。
「手を切らない様に帯の背に挟んでおこうか……今からおチビさんを少し怖いところへ術で飛ばすけれど、記憶が戻っているなら私はおチビさんの判断を信じようと思う。行って、助けたいと思うものを助けておくれ」
「んと、わるいのやっつける?」
「……うん、そう、なる、かな。自分を騙さなくて良い。本心から助けたいものを助けて欲しいんだ。結果がどうあれ怒ったりはしないから……頼んだよ、銀朱」
「あい!」
この時ばかりは元気の良い返事が幽世之神の心中を抉った。それもひた隠し、子の額に右手の人差し指と中指を揃えて当てると子には意味の解らない長い長い呪文を唱え始めた。徐々に瞼が重くなった子は低く耳に心地良い声を聞きながら柔らかな物に全身が包まれていく感覚の中、意識が遠退いていった。
「私は……残酷極まりない、ね……」
呟きを聞く者は誰もいなかった。子は意識を失った時には術によってこの場からは姿を消して別の場所に現れている。部屋には幽世之神一人。しんと静まり返った部屋で中身のない黒檀の箱を見て自嘲するしかなかった。
子がふっと意識を戻すと、噎せ返る程の血のが立ち込める闇の中に一人で立っていた。幽世之神の言葉を思い出し、言い合う声が聞こえる方へと足を進めた。歩く度に裸足の足の裏にちくりと痛みを感じるが、血を流す事は無かった。微かだった声がはっきりと耳に届く頃には周囲は仄暗く、闇に慣れた目でもはっきりと見える様になっていた。
見えてしまったが故に、子は足を止めてしまった。
充満する恐怖、憤怒そして怨嗟の念が子の肌を刺したが、何よりも目に映った光景に足が震えた。
見た事もない悍ましい獣が猿田彦に食いつこうとした。それを彼は左腕で受け止めているせいで獣の牙は腕に食い込み血が溢れていた。しかし右腕は獣の鳩尾辺りに肘まで埋まっていてだくだくと獣の血が肘に伝い音を立てて地面に垂れていた。双方血塗れの睨み合いが行われていた。
止まっていた呼吸を再開させ、早足で向かった。近づく程はっきりと見える猿田彦の腕が痛々しく、叫んでしまいたい衝動をどうにか堪える。今はまだ声を掛ける時ではない、と本能で感じていた。声を掛けるのは彼の背に手が届く程近づくまで、と心を決めて歩き続けた。
空気に貼りついた恐怖と血の匂いに息を詰まらせ思わず顔を伏せながらも懸命に歩く。吐き気を催す黒い血の匂いに混ざって、嗅ぎ慣れた猿田彦の匂いを鼻が捕らえてしっかりと顔を上げた。もうすぐそこに大きな背中が見える程、距離は縮まっていた。薄闇の中で、大きな化け物に腕を喰らいつかれている猿田彦の背中は、砂と硝子に汚れ身体の至る所から出血している。朝見た着物はどす黒く染め上げられていた。
湿気った風が吹く。子の鼻には変わらず恐怖と怨嗟と困惑の匂いが渦巻く中、やはり猿田彦の匂いが届いた。その中で記憶の底の微かな、微かな記憶が揺らめいた。
「……かぁちゃの匂いがする」
生命の遣り取りで周りに気を配れていなかった猿田彦は、突然の声に一瞬だけ背後を確認し内心ではひどく動揺した。安全な場所に移してやろうにも、左腕はがっしりと牙が突き刺さり押しても引いてもどうにもならない。肉を切らせて骨を断つ、を選んだ結果が双方身動き取れず呼吸の読み合いとなってしまった事を心底後悔した。
「……おチビさん、どうして来ちゃうかなぁ? 優しい鬼さんに館に連れて帰ってもらいなさいな」
獣を見据えたまま、背後の子に声を掛けるが返事はなかった。獣の視線も猿田彦を警戒しつつ背後の子に注がれた。まずい、と思った時には激痛を伴い獣の牙が抜かれ、腹に食い込んだ腕すら気にも止めずに獣は血腥い口を開いた。
「母ちゃんだよ、坊や。この男に此処に堕とされてこんな体になったけれど、母ちゃんだよ!」
一言発する度に風の様な息を吐きながら、獣は背後に立った子に訴えかける。それに子は獣と目を合わせたまま、動く気配はなかった。
「こいつのせいなんだ! ああ、私達を殺した人間にも仇は討ったからね、坊や、坊や? 母ちゃんだよ? おいで? お前は喰らわない、約束するから」
「来るな! 戻れ!」
獣は子を喰らうだろうと直感した。それというのも、腹の中の手から臓腑の動きが活発化したのを感じたからだ。
人間の形をとっているからか、獣の憎悪は止まる事を知らないのか、喰ろうてやらねばならないという奥底の衝動を感じていた。
「おチビさん、早く館に戻りな。俺はもう少し時間がかかるけど……」
地面を踏む音で、猿田彦は言葉を切った。獣が子に向かって動いた瞬間に左腕を捨てる覚悟を決め、腹の底に力を溜めていつ事が起こってもそれぞれの動きに即対応できる様に意識の糸を張り巡らせた。
「坊やって呼んで良いのは、しらふじのおねぇちゃんだけだよ」
「は? お前、何を……」
また一歩子が近づく音がする。猿田彦は足音に呼応して呼吸を整えた。
「オイラのかぁちゃんは優しかったよ? おいしい乳をくれて、カラスからも他のこあいものからもまもってくれた。食べられるのも一緒にさがしてくれて、ご飯もわけてくれた」
「そうだ、そうやって守って守って、お前の仇も討ってやったとーー」
「それはオイラの為? オイラのかぁちゃんは優しかった……おにぃちゃんについたオイラの匂いもわからないんだね」
猿田彦の横で言い切る子の顔にも声にも嘘は見受けられなかった。揺らぐ事なく子の視線は強く化け物と化した母犬を見据えていた。
「育ててやっただろうが! 胎を痛めて産んでやっただろうが! 鴉に喰われた子を見捨てても、犬攫いから咥えて逃げて、そうやって最後まで生き残ったお前を! 産んでやったお前を! 最後まで育ててやっただろうが! この男に何を吹き込まれた? 何故お前だけがのほほんと笑って暮らす? 母を救え、この恩知らずがあぁああ!」
「……うん、もう一回、言うね? オイラの母ちゃんは、すっごく優しかったよ? そしてすっごくあったかかったよ?」
更に一歩踏み出した子を見て、顔を引き攣らせた。止まれ、と叫んでも子は真っ直ぐに獣に向かって進んでゆく。
「おチビさん! 待て、行くな!」
獣の腹から腕を抜こうと焦る横を子はまた一歩獣に近づく。
「オイラのかぁちゃんは、オイラをなでてくれる人に噛みついたりしない……今のかぁちゃんはもうオイラのかぁちゃんじゃないよ」
さよなら。
鮮明に聞こえた子の声。そして下半身から脆々と崩れ落ちてゆく獣。獣は訳が解らないと言った目で子を見た。強い意志を孕んだ目で化け物と化した母を見上げると、無言で背を向け猿田彦に駆け寄り、血と埃と汚れに塗れた身体に抱きついた。
「おにぃちゃ! だいじょぶ? 痛い?」
抱きついてくる子の身体を受け止め、脆くなった獣の腹から腕を引き抜くと形振り構わず強く抱き締めた。
「どうして来ちゃったかなぁ……こんな、こんな所、見せたくなんてなかったよ……こんな事、させたくなかったよ」
溢れてくる涙を拭う事もせず、猿田彦は子の肩に顔を寄せ、何度も謝罪を繰り返した。彼の視線の先には驚きを隠せず赤い目を見開いた獣が身動き一つせず地面に前脚の爪を立てていた。
「怪我は? 痛い所はないかい? おチビさん」
「だいじょぶ。けがしてるのは、おにぃちゃんの方だよ? おねぇちゃんにおこられちゃうんだからね? なみださん、とぉまれっ」
ぽんぽんと頭についた砂や硝子の欠片を払われると安堵の笑いが洩れた。
「お前の様な人間に……生きているうちに会えたなら……私はこんな憎しみに身を焦がす事はなかったであろうか?」
「……俺には解らん。お前達が生命を削り過ごす世界の事は解らん」
「そうか……それもそうか……ただ、お前の様に我が子を抱き締めてくれる存在に死期とて出会えたのは幸せなのだろう、な……ふふ、悔いは山程あるが、もうどうでも良いわ……」
消えゆく最期の一瞬、本来の姿が見えたが無言で見送った。微かな音を立てて地面に落ちた剣を鋭く一瞥すると、再び力一杯に子を抱きしめた。
「つらい思いをさせたね……」
「そんなことないよ? ちゃんとオイラが決めたんだ。おにぃちゃんといたいって……かぁちゃんは、しずかなとこでおねむ……そのほうが良いよ、うん。へへ、おにぃちゃん、くるしいよぅ」
「あ、ああ、ごめん」
慌てて腕を緩めると子は地に落ちた剣を手に取りに走った。
「おチビさん、それは俺から幽世之神に返しておこう。おチビさんが怪我なんてしたら意味がないからね」
「あい!」
笑う笑顔の奥には哀しみが見える。猿田彦は刀を帯に差し、子の頭を撫でると怪我をしていない右手を差し出した。
「帰ろうか……こんな姿で鳥居の前に出ても更に怯えさせるだけだろうし」
「おふりょ?」
「うん」
伸ばされた右手を握る小さな手に力がこもる。ぶくぶくだねと笑う子を抱えて、亀裂を見上げた。
「ちょっとおチビさんは目を閉じておいで」
猿田彦は血の滴る棘塗れの壁の一つも子には見せたくなかった。どんな思いで隣まで歩いて来たのだろうか、どんな思いで……それを思うとこれ以上、血腥さの記憶を残したくないと思うのだった。
素直に猿田彦の肩の傷の付近にそっと顔を寄せた子の後頭部を片手で包むと、亀裂をゆっくりと浮き上がり暗闇の地上を目指す。
肩から匂う血の匂いは新しく、子は思わず舐めそうになったが生前の母犬がしてくれた事だったと思い出して止めた。今の身体は猿田彦達と同じく人の体……生前は怪我を舐めて癒す事しかできなかったが今は違う。一緒に帰って、白藤に伝えればきっと正しい手当をしてくれると信じていた。あの美味しい麦茶を出してくれて、自分にはできない手当をしてくれるだろうと思うと安心して、またしても抱えられたまま深い眠りに落ちてしまった。
「ん? ああ、寝たのか。その方が良い」
規則正しい寝息に低い呟きを零し、足早に館へと向かった。
両手に持った箱は外見の小ささとは裏腹に、しっかりとした重みがある。幽世之神は独り哀しそうな目で箱を見つめ、そっと撫でた。
そのまま座卓に就くと、普段は使いもしない鈴を鳴らした。透き通った音が館中に広がり、まもなく白藤の声が襖の向こうから幽世之神を呼ぶ。襖を開けずに、子を連れてくる様に伝えると、卓の上に置いた箱をじっと見つめた。
二人分の足音が部屋の前で止まると、白藤を下がらせて子だけを招き入れた。そして卓を挟んで目の前に座る様に促した。子はきょとんとしたまま従い、行儀良く膝の上に両手を乗せて見つめ返した。
一人で戻った白藤に駆け寄った香染は、不安そうに何事かと問うが何も聞いていない彼女には答える事ができなかった。
幽世之神は黄泉を任せられた神とは思えぬ程気さくで、自分達の様な精霊に動きやすい身体や役割も与え、慣れるまで気長に構えて決して急く神では無い。寿命を過ぎても死ねず、迷い込んだ黄泉比良坂で猿田彦と出会い、館に連れて来られた時も白藤を見て、嬉しそうに笑いながら綺麗な白蛇だね、と言うのみだった。それから数日して名を与えられ、今に至る。
香染も連れて来られた時には、ぽつりと 山楝蛇かな? と零したのみで嫌がる素振りも面倒そうな表情も気配も無く、化け物と忌み嫌われ追い立てられていた心を心底安心させたのだった。白藤と同じく動きやすい身体を与えられても気を抜いてしまうと元の身体に戻ってしまっても動じずに
「ひんやりと心地よいねぇ……美しい色と紋様は素晴らしいとしか言えないねぇ。あ、貴女の名前は香染にしよう。意味は後で教えてあげよう」
穏やかな口調を崩す事なく、山楝蛇特有の地味な色味を気に病んでいた鱗をひと撫でして名をくれた。それが心を軽くさせてくれた事を今でも感謝していた。慈悲や友愛を持ち合わせた幽世之神にとってそれは普通の事で、黄泉比良坂の神であってふんぞり返って部屋から出ないという事はない。ふらふらと館を彷徨いては誰某かと言葉を交わすのを好む幽世之神が呼び鈴を使うのは初めての事だった。
「……この鈴の音が聞こえたら来ておくれねって鳴らしてくださった事があったけれど、ねぇ? お姉様……あの鈴の音はあんなに哀し気だったかしら……?」
「そうね、澄んだ音だと思っていたけれど……」
声を窄めた白藤は、両手で自分の顔をぱんっと挟むと、香染に向き直り
「御館様にはお館様のお考えがあってのはず! 坊やの名前が決まったのかも知れないしね……さ! 解らない事はどうしようもないわ。私達は私達に任された事をきちんと今日もやり切りましょう? お夕飯は何にする? その前にこっそりおやつも素敵ね。香染はどう思う?」
「……うぅ、おやつ、です」
「そうね! 今日は蕨餅に黒蜜と黄粉よ」
二人は其々の胸に渦巻く不安を掻き消す様に無理矢理笑って立ち上がった。
幽世之神は目の前で行儀良く座っている子の前にすっと布に包まれた箱を差し出した。子は美しい布に目を奪われ、我知らずうっとりとした溜め息をついた。
「なぁ、おチビさん。私に言う事はないかな?」
「あっ……えと」
顔を上げた子が見上げた幽世之神はいつもと変わらず穏やかで、微笑みを湛えて子を見つめている。子はこくりと喉を鳴らすと、意を決して頷いた。何から話せば良いのか、どう伝えれば良いのか、子は頷くのが精一杯でそのまま俯いた。
「うん、簡単に言おうか。おチビさん、本当はもう思い出しているね?」
優しい問い掛けながら、強い確信を含んだ幽世之神の言葉に子は涙が溢れそうになるのを感じた。
「ご、ごめんなしゃ……い、言えなくて……どんどん言えなくなって……」
「どうして?」
「おこられるの、こわかた。あと……あと……」
膝の上の手の甲にぽたりと涙が落ちる。それでも無言で子の言葉の続きを待った。
「みんなといっしょにいたかったの」
「ん。解ったよ。で、いつ思い出したんだい?」
「かみしゃまがおふりょしてくれたときから、ちょっとずつ……あと、卵焼きしっぱいした時」
「ああ、おチビさんの身体があまりに熱くてね。呼ばれて行ってみれば全身……」
浮き上がった大火傷の生々しい痕跡と引き攣れ捻れた皮膚を見れば、何が理由で生命を失ったかは簡単に推察できた。
「きちゃなかった? ごめんなしゃい」
「もう消してしまったからね、大丈夫だよ。そうそう、名前も考えたんだ。おチビさんも可愛くて良いけれどね、それはそれとしてやはり必要だろうかと思ってね……銀朱、なんてどうだろう?」
「かみしゃま、ありがと! ぎんしゅ、オイラ、ぎんしゅ? かこいい! あいがとでしゅ!」
嬉しそうに笑う子に幽世之神は胸の奥が軋む。与えられた名前を繰り返す子に声を掛けて更に話を続けた。
「おチビさ……銀朱は元々は赤毛の様だからね。白藤達もそうだけれど、私は皆の生前も大切にしたいと思っているんだよ。どんなにつらい過去であったとしても生き抜いて私の前に現れてくれた事に感謝している……まぁ、私の我儘さ」
「かみしゃま?」
いつもと変わらぬ穏やかな口調なのに、その声は苦しそうな雰囲気を含み、子は心臓が走ってもいないのに速くなっていくのを感じていた。
「おチビさん、その箱を開けてごらん」
「え、あい」
慎重に伸ばした小さな手が美しい布を剥がすと、黒檀の箱が姿を現した。箱には紫の組紐で封がしてあり、それをどう解いて良いのか解らず手を止めて幽世之神を見た。正面から伸びて来た手は器用に片手で紐を解くと、箱の下方にもう片方の手を添えて蓋を外した。木の擦れ合う微かな音の後、卓の上にことりと蓋が置かれ、子は身を乗り出して箱の中身を見た。
「うわぁ……きれいだぁ」
無邪気な感想にいよいよ胸の痛みをやり過ごせなくなっていたが、努めて平素を装い子に語り掛けた。
「破魂之剣という。刺さればその者の魂はその場で消えて次の世界もない。本当に終わらせる為だけに存在している剣。そしておチビさん。この剣をおチビさんに貸すから、間違っても自分を刺してはいけないよ?」
「いたいの、やだからしないけど、なんで?」
ほんの一瞬、秒にも満たない時間、幽世之神は逡巡した。
「手を切らない様に帯の背に挟んでおこうか……今からおチビさんを少し怖いところへ術で飛ばすけれど、記憶が戻っているなら私はおチビさんの判断を信じようと思う。行って、助けたいと思うものを助けておくれ」
「んと、わるいのやっつける?」
「……うん、そう、なる、かな。自分を騙さなくて良い。本心から助けたいものを助けて欲しいんだ。結果がどうあれ怒ったりはしないから……頼んだよ、銀朱」
「あい!」
この時ばかりは元気の良い返事が幽世之神の心中を抉った。それもひた隠し、子の額に右手の人差し指と中指を揃えて当てると子には意味の解らない長い長い呪文を唱え始めた。徐々に瞼が重くなった子は低く耳に心地良い声を聞きながら柔らかな物に全身が包まれていく感覚の中、意識が遠退いていった。
「私は……残酷極まりない、ね……」
呟きを聞く者は誰もいなかった。子は意識を失った時には術によってこの場からは姿を消して別の場所に現れている。部屋には幽世之神一人。しんと静まり返った部屋で中身のない黒檀の箱を見て自嘲するしかなかった。
子がふっと意識を戻すと、噎せ返る程の血のが立ち込める闇の中に一人で立っていた。幽世之神の言葉を思い出し、言い合う声が聞こえる方へと足を進めた。歩く度に裸足の足の裏にちくりと痛みを感じるが、血を流す事は無かった。微かだった声がはっきりと耳に届く頃には周囲は仄暗く、闇に慣れた目でもはっきりと見える様になっていた。
見えてしまったが故に、子は足を止めてしまった。
充満する恐怖、憤怒そして怨嗟の念が子の肌を刺したが、何よりも目に映った光景に足が震えた。
見た事もない悍ましい獣が猿田彦に食いつこうとした。それを彼は左腕で受け止めているせいで獣の牙は腕に食い込み血が溢れていた。しかし右腕は獣の鳩尾辺りに肘まで埋まっていてだくだくと獣の血が肘に伝い音を立てて地面に垂れていた。双方血塗れの睨み合いが行われていた。
止まっていた呼吸を再開させ、早足で向かった。近づく程はっきりと見える猿田彦の腕が痛々しく、叫んでしまいたい衝動をどうにか堪える。今はまだ声を掛ける時ではない、と本能で感じていた。声を掛けるのは彼の背に手が届く程近づくまで、と心を決めて歩き続けた。
空気に貼りついた恐怖と血の匂いに息を詰まらせ思わず顔を伏せながらも懸命に歩く。吐き気を催す黒い血の匂いに混ざって、嗅ぎ慣れた猿田彦の匂いを鼻が捕らえてしっかりと顔を上げた。もうすぐそこに大きな背中が見える程、距離は縮まっていた。薄闇の中で、大きな化け物に腕を喰らいつかれている猿田彦の背中は、砂と硝子に汚れ身体の至る所から出血している。朝見た着物はどす黒く染め上げられていた。
湿気った風が吹く。子の鼻には変わらず恐怖と怨嗟と困惑の匂いが渦巻く中、やはり猿田彦の匂いが届いた。その中で記憶の底の微かな、微かな記憶が揺らめいた。
「……かぁちゃの匂いがする」
生命の遣り取りで周りに気を配れていなかった猿田彦は、突然の声に一瞬だけ背後を確認し内心ではひどく動揺した。安全な場所に移してやろうにも、左腕はがっしりと牙が突き刺さり押しても引いてもどうにもならない。肉を切らせて骨を断つ、を選んだ結果が双方身動き取れず呼吸の読み合いとなってしまった事を心底後悔した。
「……おチビさん、どうして来ちゃうかなぁ? 優しい鬼さんに館に連れて帰ってもらいなさいな」
獣を見据えたまま、背後の子に声を掛けるが返事はなかった。獣の視線も猿田彦を警戒しつつ背後の子に注がれた。まずい、と思った時には激痛を伴い獣の牙が抜かれ、腹に食い込んだ腕すら気にも止めずに獣は血腥い口を開いた。
「母ちゃんだよ、坊や。この男に此処に堕とされてこんな体になったけれど、母ちゃんだよ!」
一言発する度に風の様な息を吐きながら、獣は背後に立った子に訴えかける。それに子は獣と目を合わせたまま、動く気配はなかった。
「こいつのせいなんだ! ああ、私達を殺した人間にも仇は討ったからね、坊や、坊や? 母ちゃんだよ? おいで? お前は喰らわない、約束するから」
「来るな! 戻れ!」
獣は子を喰らうだろうと直感した。それというのも、腹の中の手から臓腑の動きが活発化したのを感じたからだ。
人間の形をとっているからか、獣の憎悪は止まる事を知らないのか、喰ろうてやらねばならないという奥底の衝動を感じていた。
「おチビさん、早く館に戻りな。俺はもう少し時間がかかるけど……」
地面を踏む音で、猿田彦は言葉を切った。獣が子に向かって動いた瞬間に左腕を捨てる覚悟を決め、腹の底に力を溜めていつ事が起こってもそれぞれの動きに即対応できる様に意識の糸を張り巡らせた。
「坊やって呼んで良いのは、しらふじのおねぇちゃんだけだよ」
「は? お前、何を……」
また一歩子が近づく音がする。猿田彦は足音に呼応して呼吸を整えた。
「オイラのかぁちゃんは優しかったよ? おいしい乳をくれて、カラスからも他のこあいものからもまもってくれた。食べられるのも一緒にさがしてくれて、ご飯もわけてくれた」
「そうだ、そうやって守って守って、お前の仇も討ってやったとーー」
「それはオイラの為? オイラのかぁちゃんは優しかった……おにぃちゃんについたオイラの匂いもわからないんだね」
猿田彦の横で言い切る子の顔にも声にも嘘は見受けられなかった。揺らぐ事なく子の視線は強く化け物と化した母犬を見据えていた。
「育ててやっただろうが! 胎を痛めて産んでやっただろうが! 鴉に喰われた子を見捨てても、犬攫いから咥えて逃げて、そうやって最後まで生き残ったお前を! 産んでやったお前を! 最後まで育ててやっただろうが! この男に何を吹き込まれた? 何故お前だけがのほほんと笑って暮らす? 母を救え、この恩知らずがあぁああ!」
「……うん、もう一回、言うね? オイラの母ちゃんは、すっごく優しかったよ? そしてすっごくあったかかったよ?」
更に一歩踏み出した子を見て、顔を引き攣らせた。止まれ、と叫んでも子は真っ直ぐに獣に向かって進んでゆく。
「おチビさん! 待て、行くな!」
獣の腹から腕を抜こうと焦る横を子はまた一歩獣に近づく。
「オイラのかぁちゃんは、オイラをなでてくれる人に噛みついたりしない……今のかぁちゃんはもうオイラのかぁちゃんじゃないよ」
さよなら。
鮮明に聞こえた子の声。そして下半身から脆々と崩れ落ちてゆく獣。獣は訳が解らないと言った目で子を見た。強い意志を孕んだ目で化け物と化した母を見上げると、無言で背を向け猿田彦に駆け寄り、血と埃と汚れに塗れた身体に抱きついた。
「おにぃちゃ! だいじょぶ? 痛い?」
抱きついてくる子の身体を受け止め、脆くなった獣の腹から腕を引き抜くと形振り構わず強く抱き締めた。
「どうして来ちゃったかなぁ……こんな、こんな所、見せたくなんてなかったよ……こんな事、させたくなかったよ」
溢れてくる涙を拭う事もせず、猿田彦は子の肩に顔を寄せ、何度も謝罪を繰り返した。彼の視線の先には驚きを隠せず赤い目を見開いた獣が身動き一つせず地面に前脚の爪を立てていた。
「怪我は? 痛い所はないかい? おチビさん」
「だいじょぶ。けがしてるのは、おにぃちゃんの方だよ? おねぇちゃんにおこられちゃうんだからね? なみださん、とぉまれっ」
ぽんぽんと頭についた砂や硝子の欠片を払われると安堵の笑いが洩れた。
「お前の様な人間に……生きているうちに会えたなら……私はこんな憎しみに身を焦がす事はなかったであろうか?」
「……俺には解らん。お前達が生命を削り過ごす世界の事は解らん」
「そうか……それもそうか……ただ、お前の様に我が子を抱き締めてくれる存在に死期とて出会えたのは幸せなのだろう、な……ふふ、悔いは山程あるが、もうどうでも良いわ……」
消えゆく最期の一瞬、本来の姿が見えたが無言で見送った。微かな音を立てて地面に落ちた剣を鋭く一瞥すると、再び力一杯に子を抱きしめた。
「つらい思いをさせたね……」
「そんなことないよ? ちゃんとオイラが決めたんだ。おにぃちゃんといたいって……かぁちゃんは、しずかなとこでおねむ……そのほうが良いよ、うん。へへ、おにぃちゃん、くるしいよぅ」
「あ、ああ、ごめん」
慌てて腕を緩めると子は地に落ちた剣を手に取りに走った。
「おチビさん、それは俺から幽世之神に返しておこう。おチビさんが怪我なんてしたら意味がないからね」
「あい!」
笑う笑顔の奥には哀しみが見える。猿田彦は刀を帯に差し、子の頭を撫でると怪我をしていない右手を差し出した。
「帰ろうか……こんな姿で鳥居の前に出ても更に怯えさせるだけだろうし」
「おふりょ?」
「うん」
伸ばされた右手を握る小さな手に力がこもる。ぶくぶくだねと笑う子を抱えて、亀裂を見上げた。
「ちょっとおチビさんは目を閉じておいで」
猿田彦は血の滴る棘塗れの壁の一つも子には見せたくなかった。どんな思いで隣まで歩いて来たのだろうか、どんな思いで……それを思うとこれ以上、血腥さの記憶を残したくないと思うのだった。
素直に猿田彦の肩の傷の付近にそっと顔を寄せた子の後頭部を片手で包むと、亀裂をゆっくりと浮き上がり暗闇の地上を目指す。
肩から匂う血の匂いは新しく、子は思わず舐めそうになったが生前の母犬がしてくれた事だったと思い出して止めた。今の身体は猿田彦達と同じく人の体……生前は怪我を舐めて癒す事しかできなかったが今は違う。一緒に帰って、白藤に伝えればきっと正しい手当をしてくれると信じていた。あの美味しい麦茶を出してくれて、自分にはできない手当をしてくれるだろうと思うと安心して、またしても抱えられたまま深い眠りに落ちてしまった。
「ん? ああ、寝たのか。その方が良い」
規則正しい寝息に低い呟きを零し、足早に館へと向かった。
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