3 / 3
第3話
しおりを挟む
そう答えた彼は振り返らない。
「人間やめたら、少しは近くなるかもね?」
悪戯っ子の囁きは独り残された私の鼓膜に響き続けた。
去り際にたった一度だけ振り返った青年の、無言のままの微笑みの意味を、私は考えねばならない。
答えがあるならいつか辿り着けるだろうかと考えながら、すっかり吸い尽くされ変形したアイスの包装の残骸を小さなビニール袋に押し込んで私も小さな社に背を向けて帰路に着いた。
「明日はおでんにしようかな……笑ってくれるかな? 菓子じゃないからびっくりするかな?」
私は掌の中で微かな音を立てるゴミ袋を足を止めて見つめ直した。
彼は確かに存在するのだ。今まではカラスや誰かの胃袋に収まっていたと思っていた菓子の数々を、彼が食べていた証がこのひしゃげたアイスの包装なのだ。
私の目の前で食べ、言葉を交わしたのだから、他の誰に見えていなくても彼は存在するのだ。
ああ、確かに彼の言うことは正しかった。
師走間近にアイスはさすがに冷える……彼は大丈夫だろうか? 人間をやめたら、平気なのだろうか?
もっと彼の話が聞きたいと思う私は、おそらくとても疲れていて、同僚にこんな話をしたら間違いなく病院を勧められてしまうだろう、そんなモノはいないよ、と。
それを否定してまでも、彼の声が聞きたいと思う私は……。
木の枝の上に座った青年は、口に残る甘さに目を閉じながら足をぶらぶらと揺らした。
「トモダチ、かぁ」
嬉しそうな、照れ臭そうな声音は森が全て飲み込む。
──だって貴方、僕と同じでしょう? 明日もまた、来てしまうんでしょう? 楽しさを知ってしまったから……。でもいつか貴方が人間をやめる日が来たら、お菓子が食べられなくなるね。それはちょっと嬉しいけれど、残念だなぁ……残念だけど、待ってるね──
崩れかけた社がひとつ。
その存在の成り立ちを知るのは、祀られたとされる当人から聞かされた人間が、唯独り。
「人間やめたら、少しは近くなるかもね?」
悪戯っ子の囁きは独り残された私の鼓膜に響き続けた。
去り際にたった一度だけ振り返った青年の、無言のままの微笑みの意味を、私は考えねばならない。
答えがあるならいつか辿り着けるだろうかと考えながら、すっかり吸い尽くされ変形したアイスの包装の残骸を小さなビニール袋に押し込んで私も小さな社に背を向けて帰路に着いた。
「明日はおでんにしようかな……笑ってくれるかな? 菓子じゃないからびっくりするかな?」
私は掌の中で微かな音を立てるゴミ袋を足を止めて見つめ直した。
彼は確かに存在するのだ。今まではカラスや誰かの胃袋に収まっていたと思っていた菓子の数々を、彼が食べていた証がこのひしゃげたアイスの包装なのだ。
私の目の前で食べ、言葉を交わしたのだから、他の誰に見えていなくても彼は存在するのだ。
ああ、確かに彼の言うことは正しかった。
師走間近にアイスはさすがに冷える……彼は大丈夫だろうか? 人間をやめたら、平気なのだろうか?
もっと彼の話が聞きたいと思う私は、おそらくとても疲れていて、同僚にこんな話をしたら間違いなく病院を勧められてしまうだろう、そんなモノはいないよ、と。
それを否定してまでも、彼の声が聞きたいと思う私は……。
木の枝の上に座った青年は、口に残る甘さに目を閉じながら足をぶらぶらと揺らした。
「トモダチ、かぁ」
嬉しそうな、照れ臭そうな声音は森が全て飲み込む。
──だって貴方、僕と同じでしょう? 明日もまた、来てしまうんでしょう? 楽しさを知ってしまったから……。でもいつか貴方が人間をやめる日が来たら、お菓子が食べられなくなるね。それはちょっと嬉しいけれど、残念だなぁ……残念だけど、待ってるね──
崩れかけた社がひとつ。
その存在の成り立ちを知るのは、祀られたとされる当人から聞かされた人間が、唯独り。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
好きな世界観でした。
青年の生きていた背景も気になります。
お読みいただきありがとうございます!
明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願い致しますm(_ _)m
退会済ユーザのコメントです
zakoさま
お楽しみいただけたようで安心いたしました。お読みいただきありがとうございました。
深緋莉楓