魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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5章 氷民族

#25 だったらこれからも

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 ジュリは遠くを見つめるような目をした。自分の持っている武器を磨きながら、ゆっくりと語りだした。室内にはジュリの声しか聞こえなかった。

 「組織に居る時、私は人を殺しまくった。ただただ上から言われたターゲットを殺した。ターゲットが男か女か。老人なのか幼い子どもか。そんなことは興味も無かったし知ろうとも思わなかったよ。無心に任務を遂行することだけを考えていた」
 「何でジュリは……その組織に入ったの?」
 「さぁね。気づいた時にはその組織にいたよ。家は暗殺家族でさ、親も兄弟も皆でその組織に入って、私や兄弟は昔から殺し方を教わってきたから。……あんたは違うね?グレイの家族も十人十色さ、家によって全然違う」
 「そうなんだ……」
 「でもね、私の家族は徐々に居なくなっていった。サングスターのグループに殺られたんだ。遂には親も兄弟も皆居なくなって、私は独りになった。組織の仲間は居たけれど、私の心に空いた穴は全く埋められなかった。それで逃げ出したんだ。"どこか別の世界へ"って願いながらワープの扉を完成させて、着いたところは氷原だった。そこで私はタンポポとカノンに保護されて今に至るってわけだ」

  ジュリは最後まで話し合えると、満足そうに笑った。同じグレイの一族のジュリはとても幸せそうに生きている気がした。ジュリもレンと同じアサシンではあったが、レンとは全く違うタイプのアサシンだった。言われるがままに人を殺した。それはサングスターの殺し屋グループの人間とは限らない。サングスターと名字がつく者は全員殺したのだ。

 「ジュリは一族のことに関してどこまで知ってる?……俺は……小さい時からサングスターの支配下に遭って、牢獄に入れられてた。だけど脱獄してからは母さんとアースで暮らした。でも、母さんは何にも俺に教えてくれなかったんだ、一族のことを。もしかしたらいつか話そうとしていたのかもしれない。でもその前に、母さんはグループの奴らに殺された」
 「レン。私は話した通り、周りに言われるままにサングスターの奴らを殺してきた。私もあまり詳細は聞いていないけれど……。私が明確に知っていることは、黒の女王って呼ばれる女悪魔が私達の一番上に居るってことだ」
 「黒の女王、か……」

  レンはいつか夢で見たことを思い出した。あの夢の中にはジュリも居た。悪魔達に讃えられる中、何かを警告してきた少年も居た記憶がある。

 「前に夢を見たんだ。黒の女王や、悪魔達が出てきた夢だ。その中にはジュリも居た。見たことがある?こういう夢を」
 「ああ……あるよ。ここに来てからはあまり見なくなったけどね。それでも月に1回くらいは見る。……私達グレイの一族は、その女悪魔の血を引いているらしい」
 「じゃあ俺達って……悪魔の血が流れているってこと?」
 「その通り。グレイっていうのは、その黒の女王と結ばれた魔術士の名前さ。本来、人間には流れてはいけない血だ。この血があるせいで、魔術も邪悪なものになったり、性格が豹変する時がある。だから、自然と周りの人間は私達を避けていく」
 「じゃあ何で……何であいつらは……俺を避けなかったんだ……」
 「あいつらって?」

  ジュリが首をかしげて尋ねた。レンはなんと答えれば良いのか分からなくなった。それでもジュリはじっとレンのことを見つめ、その答えをゆっくり待った。レンは視線を逸らし、そして答えた。

 「俺の……チームメンバーだよ。アルルも……そうだ」
 「……仲間だからじゃないのか?」
 「俺のチームの1人は、サングスターの奴なんだ。それを知ったのは最近だけど……何でだ?俺のことを避けないし……それに、あいつから近づいてきたんだ。何か企んでるのか、あいつは!!……俺、怖いんだ。怖くて、ここに来たんだよ。裏切られたような、そんな気分になって、1人で逃げようって思った。でも、アルルをもう1人にさせたくなくて……だから……!」
 「レン」

  ジュリはしっかりとした声でそう名前を呼ぶと、新しくお茶を入れた。湯気が立ったお茶をレンの前にそっと滑らせ、飲むように促した。お茶は身体を温めてくれた。レンはゆっくりため息をついた。

 「気が立ってしまうのも、グレイ一族には有りがちなことなんだ。その辺がきっと悪魔の血を受け継いでいるんだ……。レン、そんなに怖いんだったら、ここに連れてきな。そのサングスターの奴を」
 「で、でもジュリ、そしたら君だって危険な目に……」
 「ここの世界では一族なんて何も関係無いんだ。大事なのは中身だけ。サングスターの奴は確かに名字はサングスターだけど、仮にもレンの仲間だ。そうでしょ?レンが疑い始めれば、向こうも疑い始めてくる。じゃあ、レンが信頼したら?」
 「ツバサも、信頼してくれる?」
 「これは別に一族に限ったことじゃないよ。チームにおいての絶対的な関係だ。レンは名字を知る前までは、彼のことを信頼していたんだ。だったらこれからも、信頼し続けていけば良い。それだけの事だよ……でも特別事項としてあるのが、一族の問題だ。レンがサングスターとチームを組んでいることが分かったら、黒の女王はもちろん、他にも気に入らなく思う奴は出てくる。そこで彼らはレンを狙うか、それともその仲間を狙うかは分からない。だけどどっちみち戦うことにはなるだろうね。……レン?」
 「……え?」

  レンが右頬に手をやった時、自分が涙を流していることに気づいた。 自分が泣いていることに全く気づかなかった。ジュリはにやりと笑った。自分が泣かせたことを得意に思ったのだろう。

 「あとそれから、アルルの事だけど」
 「うん」
 「あの子は光の道を行く子だね、今までもこれからも。私達はずっと闇の道を歩いてきた。だけど、レンには光の道に行ける可能性があると私は思うよ。この先きっと辛いことに直面するかもしれない。でもあの子が居れば、レンはレンで居られるんでしょう?だったら、守ってあげないとね。……しばらくここでゆっくりして、気持ちが落ち着いたら、彼女を連れて別世界に帰りな。もしかしたらここに住みたい……なんて考えて来たのかもしれないけどさ。あんたはチームメンバーと一緒に居た方がずっと良いよ」
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